コロナウイルスの影響による解雇の有効性

(質問)
 コロナウイルスの影響で売上げが落ちたら、会社としては経営することが困難になりますので,解雇されたとしても仕方がないということになるのでしょうか?

(回答)

1 労働者の解雇
実は,労働者を解雇するということは,それほど簡単なことではありません。
 懲戒解雇などは,違反行為を理由として解雇するものですが,整理解雇ということになれば,経営上の理由から余剰人員を削減するということになるので,解雇が有効かどうかはより厳格に判断されることになります。
 解雇された労働者が,解雇が無効であると主張して,会社に復帰させるよう求めたり,損害賠償を請求したりして訴訟になっているケースもあります。

2 解雇が違法になるケース
一般的には、⑴人員削減をする必要性があるか、⑵できる限り解雇を回避するための措置が尽くされているか、⑶解雇対象者の人選基準が合理的であるか、⑷労働者への説明など手続が妥当であるか、によって解雇の有効性が判断されます。
たとえば、今回のコロナウイルスに関していうと、雇用調整助成金といって、従業員への休業手当の支払の助成を受けることができる制度もありますよね。そのような支援策を利用していない場合などは、⑵できる限り解雇を回避するために措置が尽くされていない、ということになり、解雇は無効と判断される可能性があります。

3 契約社員の場合
期間の定めのある契約社員などは、基本的に期間満了で雇止めできることになります。
 しかし、期間満了による雇止めだとしても違法と判断される場合があります。
 たとえば、①有期労働契約が過去に反復して更新され、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態である場合や、②長期にわたる更新がなかったとしても、これまでのお互いの言動や認識からして長期間の雇用を前提としていたなど、労働者において有期労働契約が更新されるものと期待する合理的な理由がある場合です(労契法19条)。
 この場合には、単に期間満了だから雇い止めができるというわけではなく、雇止めが適法かどうかは、先ほど話した整理解雇の要件に従って判断されることになります。
 期間満了を待たずに、契約を終了することになった場合はどうかといいますと、期間の定めのある契約では、その期間は雇用することが約束されています。そうすると、整理解雇が有効かどうかは、期間の定めのない労働契約を結んでいる場合の解雇よりも、より厳しく判断されることになります(労契法17条1項)。

4 内定取り消し問題について
採用内定の場合も、一般的には労働契約が成立していることになります。
 そうすると、コロナウイルスによる経営の悪化を理由として採用内定の取消しをする場合でも、整理解雇の要件にしたがって判断されることになり、採用内定の取消しが無効となる可能性もあります。

5 まとめ
コロナウイルス収束の兆しが見えない中、経営者、労働者双方にとって厳しい状況は続きそうです。
 労働者としては、解雇を伝えられたとしても、助成金などを利用して雇用をつなぎ止めるよう求める必要があります。
 経営者としても、経営が回復したときに人材が流出しないように、従業員の雇用を維持していく必要がありますし、これまで述べたように解雇は簡単にできないことを念頭において、助成金などの方法をまずは検討することが必要になってくると思います。

SNS上の誹謗中傷

(質問)
 SNS上の誹謗中傷が問題となっていますが、発信者の特定についてどのように法整備が議論されているのですか。
 

(回答)

1 問題視されているSNS上の誹謗中傷
先日、ある民放番組の出演者が、SNS上での多数の誹謗中傷の書き込みに追い詰められて自殺するという事件がおきました。この事件を受けて、政府が、「インターネット上の発信者の特定を容易にするための方策を検討する」という方針を明らかにしたことが話題となりました。
 これまでも芸能人がネット上で執拗に誹謗中傷されることは問題視されていました。ネットでは匿名で簡単に書き込みができることもあり、「指殺人」という言葉もできました。

2 発信者の特定についての法整備
被害者が採る手段としては、発信者を特定して、名誉毀損などによる損害賠償を請求することが考えられます。これによって、安易な書き込みについての抑止力となったり、被害者の救済につながったりします。
 これまで、書き込みの発信者を特定する方法として、プロバイダ責任制限法という法律があります。「権利侵害の明白性」などの要件を満たした場合に、発信者情報開示請求ができると定められています。この制度により、まずは書き込みをした人物を特定します。具体的には、SNSの運営会社など(コンテンツプロバイダという)に対して、IPアドレスを開示するよう訴訟を提起します。そうすると、どの会社のインターネットサービスプロバイダを利用したか(たとえばKDDIなど)が分かるので、この会社に対して、発信者情報の開示請求訴訟をすることになります。
 しかし、これらの会社が任意で情報を開示してくれればいいのですが、任意で開示してくれることはあまりないです。その理由としては、たとえば、「権利侵害の明白性」がないのに開示してしまうと、逆に、発信者から会社に対して責任追求されかねないからです。
 そこで、通常は訴訟をすることになり、書き込みをした人物を特定するまでに2回訴訟をすることになるので、時間とお金がかかります。
 さらに、「権利侵害の明白性」も主張しなければならなりません。たとえば、「早く消えてよ」などの書き込みが、名誉毀損にあたるとは言い切れません。
 このように、多くの人は、書き込みの人物を特定することができずに、損害賠償請求を断念することになります。
 今回の法整備の議論はまだ始まったばかりで、いろいろな案があるところですが、たとえば、会社が権利侵害の明白性について検討したことを疎明すれば免責されるような制度を作ることで、会社が任意開示に応じやすくなるという案もあります。このように、人物の特定方法がより迅速になれば、書き込みの抑止と被害者救済が厚くなるといえます。

裁判もIT化する?

(質問)
 裁判がIT化されると聞いたのですが、詳しく教えてください。
 

(回答)

1 裁判のIT化とは?
書面が電子化され、裁判もウェブ会議でできるようになるというものです。
もともとIT化は進められていましたが、今回のコロナウイルスの流行で裁判が中止になったりして、よりIT化の必要性が高まりました。
裁判といえばテレビでよく見る法廷での尋問のイメージが強いと思いますが、実際に法廷で行われることは少なく、裁判所の非公開の部屋で、お互いに提出した書面をもとに、主張を整理していくことがほとんどです。
それから、大阪に住んでいる人と岡山に住んでいる人が岡山の裁判所で裁判をするときは、岡山の弁護士だけが裁判所に行き、大阪の弁護士は電話で対応するという方法もありますね。

2 裁判のIT化の方法とは?
全てがIT化されるのはまだ数年先の話ですが、最終的には初めから終わりまで全てオンラインでできるようになることを目指しています。
まずはオンラインで訴訟を提起して、その後も電子化された書面をオンラインで提出します。それから、弁護士が事務所にいたままウェブ会議で話し合いができるようになります。
テレビで見るような尋問の場面も、最終的には、ウェブ上で行われることも考えられています。

3 IT化のメリットは?
これまで裁判は平均して1年近くかかっていましたが、IT化によってより早く終わらせることができます。
遠くに住んでいる人も、ウェブで参加できるので、時間やコストを削減できます。また、書面も電子化されるのでコストを削減できます。

4 IT化のデメリットは?
裁判の書面は機密文書ですから、セキュリティの問題があります。
それから、IT化に対応できない人がいる場合に、裁判を受ける権利を保障するためにどう対応していくのかという問題もあります。

5 今後について
今年の2月から、東京、大阪、広島などの一部の地域で導入が始まっています。
ただ、先ほど説明した全面的なIT化は、法律を改正しないとできないものです。現時点では、今の法律を使ってできる範囲でのIT化ということになっています。
具体的には、書面の提出はまだ紙媒体でやる必要がありますし、尋問も裁判所に行ってやる必要があります。
ウェブ会議でできることとしては、書面をやり取りしてお互いの主張を整理することです。
今回の新型コロナウイルス流行で、多くの裁判が中止となり、裁判所になるべく出頭しない方針になりましたので、ウェブ会議の導入が広がっています。
今後は裁判の方法が大きく変わっていくかもしれません。

緊急事態宣言から法律を考える

(質問)
 4月7日に緊急事態宣言が出され、外出自粛や休業要請という言葉をよく聞くようになりましたが、緊急事態宣言とはどういうものでしょうか?
 

(回答)

1 緊急事態宣言とは
緊急事態宣言の根拠となる法律は、新型インフルエンザ等対策特別措置法で、略して特措法と呼ばれています。2012年に公布されていたものですが、この3月に、新型コロナウイルスにも適用できるよう改正されました。
今回の新型コロナウイルスは、政府が、指定感染症としました。既に制定されていた特措法は、「新感染症」に対しては緊急事態宣言を出せますが、指定感染症に対しては、緊急事態宣言を出すことができない仕組みになっていました。特措法を改正して、今回の新型コロナウイルスを対象にするのに時間がかかったのです。
私権が制限されるとよく言われますが、外出自粛や、施設の使用制限は、国民の行動を、政府の指示によって制限するというものですよね。そういった法律を制定するので、審議にも時間がかかるということになります。
それから、緊急事態宣言を出すにも、法律に要件が定められています。
全国的にまん延している場合に、緊急事態宣言を出すことができるとされていますが、全国的にまん延しているといえるのが、急激に感染者が増え始めた4月7日の段階であったと判断されたのです。
もっと早い段階で宣言することもできたと思います。

2 緊急事態宣言で何ができるか。
内閣総理大臣が、緊急事態を宣言します。
そうすると、対象地域の都道府県知事が、感染防止に必要な協力を要請・指示できる、というものです。
具体的には、要請できることとして、住民に対して外出自粛の要請、民間企業に対して休業の要請、学校などに対して休校の要請、イベントの主催者に対して開催しないよう要請などです。
そして、強制的にできることとして、臨時の医療施設をつくるために、土地や建物を収用する、医薬品や食料品など、必要な物資の売渡しを業者に要請し、収用することが挙げられます。
ヨーロッパなどでは、ロックダウンといって、強制的に都市封鎖がされましたよね。出歩いている人から罰金をとったりしていました。
しかし、日本の法律による緊急事態宣言では、外出禁止命令などの、強制力をもった都市封鎖をすることはできません。あくまでも、自粛要請、施設の使用制限の要請にとどまります。要請に応じなかったとしても罰則はありません。

3 休業補償について
強制的に収用されたものについては、政府から損失が補償されますが、休業要請については、特措法では補償がされるという法律の仕組みにはなっていません。
しかし、休業要請がされれば、形としては自主判断とはいえ、実質的には休業せざるをえませんよね。
4月17日現在では、持続化給付金というものが検討されています。売上げが前年同月比で50%以上減少していることを要件として、法人へ200万円、個人事業主へ100万円が支給されるものです。
地方自治体も休業補償を検討しています。たとえば大阪府は、一律に、個人事業主に50万円、中小企業に100万円を支給することを検討しています。
しかし、国の制度にしても、地方自治体の制度にしても、議会を開いて決議されてから支給されるものなので、補償は遅れることになります。

従業員に関する新型コロナウイルスの法的対応

(質問)
 従業員に関する新型コロナウイルスの法的対応について教えてください。
 

(回答)

1 従業員の1人に新型コロナウイルス感染が確認された場合に、保健所の手続きや、企業の対応はどのような流れになりますか?
① 保健所から発生の通達、もしくは従業員からの連絡を受けます。
  感染者が確認された場合、医師から保健所へ連絡することになっています。
② 保健所による積極的疫学調査が行われます。
  ・企業の現地調査、感染者の勤務状況・行動履歴の確認 →濃厚接触者の特定
  ・消毒場所や消毒剤などについての指導、まん延防止の指導
  ・濃厚接触者に対する自宅待機の要請などを指示
③ 消毒除菌作業を業者に要請します(消毒の実施は企業が行います)。
④ 業者による消毒除菌作業/10日~14日程度の営業停止
※その他に企業が対応すること(例)
  濃厚接触者の調査(氏名、生年月日、年齢、住所、電話番号など)
  自宅待機となった濃厚接触者について、毎日の検温をし、保健所へ連絡します。

2 従業員の1人が新型コロナウイルスに感染し、他の従業員を休業させる場合、休業手当を支払う必要はあるでしょうか?
他の従業員が濃厚接触者にあたり、保健所の要請によって他の従業員を休業させる場合は、休業手当を支払う必要はありません。
 濃厚接触者にはあたらない人を、保健所からの要請ではなく会社の自主的判断によって休業させる場合は、休業手当を支払う必要があります。

3 従業員の1人が、咳や熱などの新型コロナウイルスと疑われる症状があるものの就労できる状態であるため出勤しています。自宅待機や受診を命令できるのでしょうか? 
就業規則上に、休業命令や受診命令が定められていることが望ましいですが、就業規則に休業命令や受診命令の規定がなかったとしても、使用者は業務命令権を有しており、他の従業員への感染拡大を防止する必要性・合理性が認められるから、業務命令として有効になります。

4 従業員に咳や発熱などの症状があるため、使用者が自宅待機を指示した場合、休業手当を支払う必要はあるでしょうか?また、従業員の家族に発熱などの症状があるため、使用者が自宅待機を指示した場合、休業手当を支払う必要はあるでしょうか?
従業員に咳や熱などの症状があることをもって、使用者の指示により休業させる場合には、休業手当を支払わなければなりません。
また、家族に発熱などの症状があることをもって、使用者の指示により休業させる場合にも、休業手当を支払わなければなりません。
 一方で、家族に新型コロナウイルス感染が確認され、当該従業員も濃厚接触者にあたる場合は、保健所からの要請によって休業することになるので、休業手当を支払う必要はありません。

5 学校の一斉休業に伴い、子どもの面倒を見るために仕事を休まなければならない従業員に対して、休業手当の支払義務はあるでしょうか?
「使用者の責めに帰すべき事由」による休業ではないため、休業手当の支払義務はありません。
 もっとも、使用者としては、小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援制度(※)を利用して、従業員に賃金全額支給の休暇を取得させることも検討に値します。
 ※休校による子どもの世話や感染を疑われる症状のある子どもの世話のため、保護者が仕事を休むとき、賃金全額支給の休暇を取得させた使用者に、日額8,330円を上限としてその全額を助成する制度

6 社内において従業員Aが他の従業員Bに新型コロナウイルスを感染させました。使用者は、他の従業員Bに損害賠償責任を負うでしょうか?
使用者は、安全配慮義務違反があれば損害賠償責任を負います。
 咳や熱の症状がある従業員Aに対して、休業命令や受診命令を出すことなく就労させていた場合には、安全配慮義務違反となり、他の従業員Bに対して損害賠償責任を負う可能性があります。
 一方で、従業員Aに何らの症状がなく、使用者としても休業命令や受診命令をとることができなかったときには、安全配慮義務違反にはあたりません。

7 会社でクラスター感染を引き起こし、会社を閉鎖せざるを得なくなりました。従業員Aが、濃厚接触者であることを隠して出勤していた場合は、会社は、Aに損害賠償を請求できるでしょうか? 
従業員Aが、濃厚接触者として自宅待機を要請されていたなど、新型コロナウイルスに感染している可能性が高いことを認識しながら勤務をし、当社でクラスター感染を引き起こした場合は、従業員Aに対して損害賠償を請求できます。
 従業員Aが、高熱などの典型症状があるのに出勤した場合には、損害賠償を請求できる可能性がありますが、単なる咳などの症状だけであった場合は、損害賠償は請求できません。

8 ビルの同じフロアに入っている別の会社Cの従業員Dが新型コロナウイルスに感染したことにより、当社も消毒をして一斉休業することになった。従業員Dや、別の会社Cに対して損害賠償を請求できるでしょうか?
従業員Dが、濃厚接触者として自宅待機を要請されていたなど、新型コロナウイルスに感染している可能性が高いことを認識しながら勤務をし、その後、従業員Dが新型コロナウイルスに感染していることが確認され、当社も消毒作業などにより休業を余儀なくされた場合は、その従業員に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
 別の会社Cに対しては、従業員Dについて新型コロナウイルス感染の疑いが高いことを認識してにもかかわらず、休業命令などを出さずに勤務させていた場合は、損害賠償を請求できる可能性があります。
 従業員Dに自覚症状が無く、使用者Cとしても従業員Dの新型コロナウイルス感染を認識することができなかった状態で営業を続けた場合には、別の会社Cは、損害賠償責任を負いません。

保証契約(民法改正)について

(質問)
 新居の賃貸借契約を締結しようとすると,保証人が必要と言われました。
 保証契約について教えてください。

(回答)

1 保証契約とは?
保証契約とは,借金の返済などの債務を負う主たる債務者が,その債務を返済しないときに,主たる債務者に代わって債務を支払うとの約束をする契約です。
 保証契約は,主たる債務者から頼まれて締結することが多いため,保証人になって欲しいと頼んできた主たる債務者と保証人との間の契約だと勘違いされる方も多いのですが,実際は,債権者と保証人との契約です。債権者は,主たる債務者が債務を支払わない場合に備えて,担保として,保証人と保証契約を締結するのです。

2 連帯保証契約とは?
保証契約とは別の契約として,連帯保証契約があります。一般的に締結されているのは,保証契約よりも,連帯保証契約の方が多いのではないでしょうか。
 連帯保証契約は,保証契約と類似の契約ではありますが,保証契約とは大きく異なる点があります。
 1つは,連帯保証人は,保証人と異なり,①催告の抗弁権と②検索の抗弁権がないという点です。
 ①債権者が保証人に対して債務の支払いを求めたとき,保証契約では,まずは主たる債務者に催告するようにということができますが(催告の抗弁権),連帯保証契約では,これができません。つまり,連帯保証人は,債権者から債務の支払いを求められれば,その求めに応じなければならないのです。これは,連帯保証人にとっては,かなりの痛手になります。
 次に,②主たる債務者が債務の支払いを拒んだため,債権者が保証人に対して債務の支払いを求めたときであっても,保証契約では,主たる債務者に支払能力があること等を証明することで,主たる債務者の財産を差し押さえること等を求めることができますが(検索の抗弁権),連帯保証契約ではこれができません。
 もう1つは,保証人が数人いるときの違いです。
 保証人が数人いるとき,保証人は主債務額を人数で按分した金額だけを保証すればよいのですが,連帯保証人は,各自が主債務額全額を保証しなければなりません。例えば,主たる債務者が1000万円の借金を負っていたとして,保証人が4人いれば,原則として,各自が250万円ずつ返済する義務を負いますが,連帯保証人が4人いたとすると,各自が1000万円ずつを返済する義務を負うのです。
 このように,保証人と連帯保証人とでは,責任の重さに大きな違いがあります。この違いには,十分にお気を付け下さい。

3 情報提供義務
保証人としては,主たる債務者がきちんと債務の支払いをしてくれているうちはいいのですが,主たる債務者が債務の支払いを怠ると,債権者から保証債務の履行(債務の支払い)を求められますので,窮地に陥ります。
 そして,主たる債務者は,往々にして,保証人に対し,支払いが滞っていることを隠します。そのため,債権者が保証人に対して債務の支払いを求めるときには,債務額が大きく膨れ上がっているということはよくある話です。
 そこで,主たる債務者から委託を受けて保証人となったときは,債権者に対し,主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供するよう請求することができ,かかる請求を受けた債権者は,遅滞なく,情報提供をしなければならないとされています(改正民法458条の2)。
 民法改正前は,このような規定はなく,債権者としては,主たる債務者の経済的信用に関わる情報を保証人に提供して良いかどうか迷うことが多くありました。しかしながら,民法改正により,債権者に情報提供義務が課されたため,保証人が請求すれば,債権者は,債務の履行状況等につき,保証人に開示します。
 保証人としては,主たる債務者が必ずしも正直に自らの債務の支払い状況を教えるわけでないという現実を踏まえ,必要に応じて,債権者に情報提供を求め,自らが置かれている状況を把握すべきです。そして,主たる債務者による債務の支払いが滞っているときは,保証人は,主たる債務者に支払いを促したり,早めに債権者との交渉を開始したりすることで,自らが支払うべき債務額を減らす努力をすると良いでしょう。

4 期限の利益喪失
債務者は,支払期限が到来するまでは,債務を支払う必要がないとされることが多くあります。
 しかしながら,契約書等では,債務者の経済状況が悪化したときなど,その一定の事由が発生したときは,支払期限前であっても,債務を一括して返済しなければならないとされています。これを,期限の利益の喪失といいます。
 さて,民法改正では,保証人が個人である場合において,主たる債務者が期限の利益を喪失したときは,債権者は,保証人に対し,期限の利益の喪失を知ったときから2ヶ月以内に,その旨を通知しなければならず,その通知をしなかったときは,保証人に対し,期限の利益を喪失したときから通知をするまでに生じた遅延損害金を請求することができないとしました(改正民法458条の3)。保証人としては,主たる債務者が期限の利益を喪失した事実を知れば,直ちに債務を支払うことによって,遅延損害金等の発生を防ぐことができたかもしれないからです。
 このように,民法改正によって,保証人の保護が図られるようになりました。親族や友人に頼まれることで,やむなく保証契約を締結することがあり得ますので,そのときは,少しでも,自らが負う責任を軽減できるよう,十分な対策を講じると良いでしょう。

有価証券の取得を勧誘する際の規制について

(質問)
 当社は、資金調達のために、株式を新たに発行することを考えています。そこで、当社は、少しでも多数の方に取得していただくため、少なくとも50名以上の方に当該株式の取得について勧誘を行うことにしました。
 この場合、どのようなことに注意する必要があるでしょうか。

(回答)

1 有価証券の募集とは?
金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)における有価証券の募集とは、新たに発行される株式等の有価証券の取得の申込みの勧誘行為(以下「取得勧誘」といいます。)のうち、一定の要件を満たすものをいいます。50名以上の方を対象として取得勧誘を行う場合には、一定の例外はあるものの、原則として、有価証券の募集に該当すると考えられます。
このように、有価証券の募集は、取得勧誘を前提とするものですが、どのような行為が取得勧誘に該当するかについては、金商法において明確に定義されていません。もっとも、一般的には、投資を考えている方に対し、特定の有価証券の存在を示して関心を持たせ、その有価証券に対して投資する意欲が湧くように導く行為のことをいうと考えられます。
ご相談の場合も、勧誘の態様次第にはなりますが、貴社の行為が有価証券の募集に該当することになる可能性は十分に考えられます。

2 有価証券の募集を行う際にはどのようなことに注意すればいい?
有価証券の募集を行うにあたっては、有価証券の発行者が、事前に有価証券届出書を内閣総理大臣に提出している必要があります(金商法第4条第1項)。そのため、有価証券の募集を行う際には、このような規制を考慮し、いつ有価証券届出書を提出することができるかのスケジュールを考慮する必要があります。

3 有価証券届出書を提出しないで有価証券の募集を行うとどうなる?
有価証券届出書を提出する前に有価証券の募集を行ってしまった場合には、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せされ、又はこれが併科されることになります(金商法第197条の2第1号)。このように、有価証券届出書を提出する前に有価証券の募集を行ってしまうと、刑罰が科されるリスクがあります。
また、有価証券届出書を提出する前に有価証券の募集を行ったことで投資者が有価証券を取得した場合、その態様にもよりますが、当該取得が無効であると判断されるリスクも考えられます。
そして、金商法に違反したということが新聞等で報道された場合、会社の信用に悪影響が出るリスクが考えられます。

4 金商法等の法律を意識する必要性
会社を経営していくにあたっては資金調達も必要になるところ、規制に違反しないで行っていくためには、金商法等の法律の内容を意識する必要があります。
今日の社会ではコンプライアンスが強く求められる以上、法律に違反した場合には、会社の経営に重大な支障が生じることにつながりかねません。そして、法律は、金商法のみならず、民法、会社法、労働基準法など様々なものが存在しています。
これから行おうとする行為が何らかの法律に違反していないか、どのように行えば法律に違反しないで行うことができるかなどについてお悩みの場合には、弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。

電子契約書は法的に問題ないの?

(質問)
 契約書を紙ではなく電子文書で作ることができると聞きました。電子文書で契約することは、法律的には問題ないのでしょうか。また、そうすることで、具体的にどのようなメリットがあるかを教えてください。 

(回答)

1 ペーパーレス化が再注目されている!
本年5月、衆院規則改正による国会のペーパーレス化が話題となりました。国会における議員への印刷物の配布を減らすことにより、年間で約4600万円もの国の経費が削減されると言われています。
この「ペーパーレス」という考え方は、1970年代から主に環境問題や経費削減の文脈で使われてきたものですが、実は近年、経費の削減はもちろんのこと、働き方改革との関連においても、従業員の業務を削減し企業の生産性を向上させるものとして、再注目されているのです。
「電子契約」とは、紙の文書を使用せず電子文書で契約を締結することをいい、上記のようなペーパーレス化の一環として注目を集め、大企業を中心に、中小企業にまでも普及し始めています。

2 電子契約の法的有効性
電子契約は、契約をする当事者が、契約内容の書かれた電子文書に、署名押印の代わりとなる「電子署名」と、「タイムスタンプ」とを埋め込んだものをインターネット上で取り交すことにより締結されます。
このような電子文書を用いて行う契約も、ごく一部の例外を除き、法律的には有効です。というのも、法律上、ほとんどの契約は口頭での約束のみによって締結することができるものであり、契約書は、契約をしたという事実や契約内容について後に争いが生じた場合に、その証拠としての役割を担うに過ぎないものだからです。
そして、電子契約書も、その作成の仕方次第では、紙の契約書に劣らない証拠力を持った証拠とすることができるものと考えられています。

3 メリットとデメリット
契約を電子文書で行うことの最大のメリットは、経費削減効果です。具体的には、まず、契約がコンピュータ上で完結するため、契約書の印刷や郵送にかかる費用が不要となります。また、紙の契約書の場合、収入印紙の貼付が必要ですが、電子文書で契約を締結する場合にはこれを不要とする運用がされており、印紙代についても削減することが可能です。これに加え、契約締結までの工数を削減できることにより作業効率が上がり、生産性の向上に繋がる点や、文書の管理・調査が容易になることによるコンプライアンスの向上の点などにもメリットがあるといえます。
他方、取引先への理解を得ることが難しい場合がある点や、社内においても契約業務の変更について説明や研修を行う必要がある点で、デメリットも存在します。

4 今後は電子契約が増えていく?
2018年に行われたとある調査によると、当時既に電子契約を採用していると回答した企業は約43%あり、導入の検討をしていると答えた企業を含めると、電子契約の導入に前向きな企業の割合は63%にも上るとされています。
 それと同時に、民間会社が、簡易な手続で電子契約を締結することを可能とする多様な「電子契約サービス」の提供を始めるなど、企業が電子契約を導入するハードルは年々低下しています。
 このような状況からすれば、契約書の電子化は、今後、ますます広がりをみせていくものと考えられます。取引先から「電子契約に変えませんか?」などと持ち掛けられることもあるかもしれません。
 契約書は、取引上のトラブルが生じた際、重要な証拠となるものですから、実際に電子契約を導入する際には、その仕組みや作成にかかる業務フローについて、しっかりと理解し検討することが必要です。契約書の電子化についてお悩みの方は、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

裁判員制度って何?

(質問)
第1審の裁判員裁判の結果が,第2審で破棄されたというニュースを耳にしました。
そもそも裁判員制度って何ですか?

(回答)

1 裁判員制度とは
裁判員裁判は,平成21年5月21日から開始されましたが,裁判員に選ばれた市民らが審理した第1審の死刑判決が第2審で破棄されたケースは,現在7件で,いずれも第2審判決で無期懲役となり,5件は既に最高裁で確定しています。
 このように,裁判員裁判の結果が,いわゆる職業裁判官によって破棄されるケースが相次ぐことに対しては,疑問が呈されています。
 そもそも裁判員制度とは,刑事裁判に,国民から選ばれた裁判員が参加する制度です。裁判員は,刑事裁判の審理に出席して,証拠に基づき,被告人が有罪か無罪か,有罪の場合は,どのような刑罰を宣告するかを決めます。
 裁判員制度によって,国民が刑事裁判に参加することにより,裁判が身近で分かりやすいものとなり,司法に対する国民の信頼が向上することに繋がると期待されています。
 ちなみに,国民が裁判に参加する制度は,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア等でも行われています。

2 裁判員制度の概要
 裁判員制度の対象となる事件は,法定刑に死刑又は無期刑を含む事件など,重大な事件に限定されています。具体的には,殺人罪,強盗致死傷罪,傷害致死罪,現住建造物等放火罪,身代金目的誘拐罪などがあります。
 裁判員裁判は,原則として,裁判官3人と裁判員6人で審理されます。そして,裁判員は,冒頭に述べたとおり,裁判官と共に,事実を認定し,かかる事実に法令を当てはめ,有罪と判断したときには,刑の量定,つまり刑罰の内容を定めます。
 刑罰の内容を定めるときには,全ての裁判員,裁判官の意見が一致しないことがあります。そのときは,多数決で決めることになりますが,裁判員だけによる意見では,被告人に不利な判断(被告人が有罪か無罪かの評決の場面では,有罪の判断)をすることはできず,裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要です。
 一例を挙げると,被告人が犯人かどうかについて,裁判員5人が「犯人である」という意見を述べたのに対し,裁判員1人と裁判官3人が「犯人ではない」という意見を述べた場合には,「犯人である」というのが多数意見ですが,この意見には裁判官が1人も賛成していませんので,裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要という要件を満たしていないことになります。したがって,この場合は,被告人が「犯人である」とすることはできず,無罪ということになります。

3 裁判員の選任手続
まず,裁判所が,前年秋頃に,翌年の裁判員候補者名簿を作成します。そして,前年11月頃に,裁判員候補者に対し,裁判員候補者名簿に登録されたことを通知します。
 その後,裁判員裁判対象事件が発生すると,裁判員候補者の中からさらに抽選してその事件の裁判員候補者が選定され,同候補者は,裁判員の選任手続期日に呼び出されます。選任手続期日では,裁判長が,候補者に対し,不公平な裁判をするおそれの有無,辞退希望の有無・理由などについて質問をします。候補者のプライバシーを保護するため,この手続は非公開となっています。
 かかる選任手続期日を経て,最終的に,6人の裁判員が選任されます。
 裁判員制度が開始して10年を迎えますが,裁判員裁判を経験された国民は8万人を超えています。年齢は,40代が最も多く(23.5%),次いで30代(20.8%),50代(19.8%)となっています。また,裁判員のご職業は,お勤めの方が最も多く(56%),次いでパート・アルバイト(15.3%),専業主婦(夫)(9.4%)となっています。

4 裁判員の保護
裁判手続に参加するには,仕事を休まねばならず,これは,国民にとって負担となります。そのため,できる限り,裁判に参加する日数を減らす努力はされていますが,今のところ,裁判手続に参加する日数の平均は,約5.7日となっています。具体的には,最も多い日数が,4日(24.7%)であり,次いで5日(20.6%),8日以上(16.5日)となっています。
 そして,法律は,労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得した場合に,解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止し,裁判員を保護しています。ちなみに,裁判員になった方には,旅費(交通費)に加えて,1日あたり1万円以内の日当が支払われます。但し,裁判が午前中で終了した場合には減額されることがあります。
 また,裁判員として裁判手続に参加することで,脅されるなどの不利益を受けるのではないかとの心配をされる方もいらっしゃいますが,法律により,事件に関して裁判員に接触することは禁止されていますし,裁判員に頼み事をしたり,裁判員やその家族を脅したりした者には,刑罰が科せられることになっています。また,事件関係者から危害を加えられるおそれのある例外的な事件については,裁判官のみで審理することになっています。
 
 以上が,裁判員裁判の概要になります。
 裁判員裁判による判決が,第2審(裁判員は関与しない)で破棄されることは,裁判員制度を形骸化させるものだとの批判もありますが,皆様はいかがお考えでしょうか。裁判員制度が始まって10年を迎えたこともあり,今一度,裁判員制度の在り方というものを考えるべき時期に来ているのかもしれません。

災害と法律①

(質問)
近年,豪雨災害による甚大な災害が立て続けに発生しておりますが,災害時に役立つ法律はあるのでしょうか?

(回答)

1 罹災証明書
罹災証明書とは,市町村が被災者の申請により,住家の被害状況の調査を行い,その結果発行する被害の程度を証明する書面のことをいいます(災害対策基本法90条の2)。
 罹災証明書は,各種被災者支援対策適用の判断材料として活用されるものですので,とても重要な書面となります。
 さて,罹災証明書は,冒頭でもご説明したとおり,被災者からの「申請」によって発行されます。申請先は,市町村(岡山市では,各区役所や支所で受け付けているようです。)になります(火災の場合は,所管の消防署)。申請には,所定の申請書や添付書類が必要となりますので,予め,市町村に確認をするとよいでしょう。
 罹災証明書の申請がなされると,市町村は,被災した家屋の被害を調査し,被害の程度を認定します(被害認定)。被害認定は,一般的に,4区分でなされます。すなわち,全壊(50%以上),大規模半壊(40%以上50%未満),半壊(20%以上40%未満),半壊に至らないのいずれに該当するかを判断します。かかる調査を終えた後,罹災証明書が発行されます。
 罹災証明書は,今後の支援策を受ける上での重要な書類ですので,仮に,被害認定結果に納得ができなければ,再調査を依頼するとよいでしょう。また,被災から時間が経過すると,どこまでが災害によってもたらされた結果が分かりにくくなりますので,被災直後の家屋の写真等を撮影しておくと良いと思われます(なお,罹災証明書の添付書類として,被災した家屋の写真を要求されることが多いと思われます。)。

2 被災者生活再生支援制度
被災者生活再建支援法という法律があり,自然災害により,その生活基盤に著しい被害を受けた世帯に対し,支援金を支給することにより,被災者の生活再建を支援するとされています。
 同法の対象となる自然災害は,同法施行令により詳細に定められていますが(10世帯以上の住宅全壊被害が発生した市町村等),同法が適用されれば,一定の支援金が支給されます。具体的には,次のとおりとなります。
【対象となる被災世帯】
①自然災害により,住宅が全壊した世帯
②自然災害により,住宅が半壊し,又は住宅の敷地に被害が生じ,その住宅をやむを得ず解体した世帯
③自然災害により,災害による危険な状態が継続し,住宅に居住不能な状態が長期間継続している世帯
④自然災害により,住宅が半壊し,大規模な修補を行わなければ居住することが困難な世帯(大規模半壊世帯)
【支援金の支給額】
 以下の2つの支援金の合計額が支給されます。
①基礎支援金
全壊(要件①)-100万円
解体(要件②)-100万円
長期避難(要件③)-100万円
大規模半壊(要件④)-50万円
②加算支援金(住宅の再建方法に応じて支給される支援金)
建設・購入-200万円
補修-100万円
賃貸(公営住宅以外)-50万円
【申請方法等】
 支援金の申請は,市町村に対して行う必要があります。申請書やこれに添付する資料(罹災証明書,住民票等)の詳細については,市町村にお問い合わせ下さい。
 添付資料として,住民票が必要なのは,支援金が「世帯」に対して交付されるからです。原則として,世帯は住民票を基準に認定されますが,他の資料により認定されることもありますので,必要とあらば,行政に相談されると良いでしょう。
 また,支援金の支給の有無や支給金額は,原則として,罹災証明書の被害認定によって決まりますので,ここにおいても,罹災証明書の重要性をご理解頂けると思います。
 そして,ご注意を頂きたいのが,支援金の申請には期限があるということです。支援金のうち,基礎支援金については,災害発生日から13ヶ月以内,加算支援金については,災害発生日から37ヶ月以内に申請をする必要があります。大規模な災害の場合,申請期間が延長されることもありますが,申請期限が延長される保証はありませんので,先に述べた申請期限内に申請をすべきです。

3 義援金
災害が発生すると,日本赤十字社などを通じて寄せられた義援金が被災者に配分されます。そのときも,罹災証明書の被害区分に応じて,一定の金額が支払われます。