当社は、ある元従業員から未払残業代について労働審判が申し立てられました。どのように対応すべきでしょうか。
(回答)
1 労働審判とは
中小企業も当然のことながら労働審判を申し立てられるリスクはあります。
労働審判では、裁判所に設置された労働審判委員会が、期日における非公開の審理を経て(労働審判法第16条)、心証を形成します。
委員会を構成する労働審判官(裁判官)1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する市民から選ばれた労働審判員2名は、平等の議決権を有し、決議は過半数でなされます(同法第12条)。
労働審判は、申立てから原則として40日以内に第1回期日が指定されます(同法規則第13条)。労働審判委員会が心証を形成するのは、大体この第1回期日です。そして、原則として3回以内の期日で審理は終了し、長引く例外はほとんどありません。
大体のイメージですが、第1回目で事実審理、第2回目で調停の協議、第3回目で調停成立か審判というのが一般的です。
2 労働審判への対応
中小企業とすれば、もしも十分が準備ができないまま第1回期日を迎えてしまうと、労働審判委員会の心証は事実上第1回で決まってしまうことが多いため、いわば後はないのです。ここが、労働審判を申し立てられた場合の、中小企業にとって一番のリスクなのです。
というのは、中小企業においては、上場企業のように必ずしも顧問弁護士がいない、知り合いの弁護士がいてもその弁護士が労働審判の経験があるとは限らないし、迅速に対応してくれるかわからないからです。
このように労働審判は、中小企業にとっては早期決着という点ではメリットが大きいものの、複雑な案件では、短い期間に準備に追われ、場合によっては十分な防衛活動ができないといったリスクがあることに注意する必要があります。
労働審判期日には、申立書、答弁書、証拠書類等を踏まえ、労働審判委員会から会社側関係者に質問がなされ、さらには申立人やその代理人から直接質問がなされることもあります。この質問は、会社側にとって不利な点を突くようなものも多くあります。このため、どのような質問が来るか想定し、リハーサルをしておく必要があります。
なお、本ケースのような未払残業代が問題となっているケースにおいては、いわゆる生の証拠をそのまま提出するだけではなく、一覧表を作成するなど労働審判員にも分かりやすい説明を行うなどのテクニックも必要となります。
3 和解の可能性
労働審判では、第1回期日から調停が行われ、労働審判委員会から金銭解決の和解の可能性について意見を求められることもよくあります。
和解をする心づもりがあるかについては、事前に十分に検討の上、その場で答えられた方が良いですし、弁護士とよく相談の上、解決金の上限額の心づもりもある程度はつけておく必要があります。
4 異議申立
なお、労働審判告知から2週間以内に異議が申し立てられれば、労働審判はその効力を失い、自動的に訴訟手続に移行します(同法第21条第1項・第3項、第22条第1項)。
5 回答
貴社は、労働審判が申し立てられた以上、早急に顧問弁護士と打合せを行って、認否反論の準備を行うとともに、第1回期日に誰を同行して何を供述するかを、綿密かつ戦略的に決定する必要があります。
また、それと同時に、全く労働者の言い分に理由がない場合を除いて、いわゆる「落としどころ」も併せて検討するのが望ましいと考えます。