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離婚による財産分与の基準時

(質問)
 XはYとは婚姻して10年が経ちますが、約1年前からYの不倫が原因で別居をしており、現在は離婚協議中です。
 また、Xは別居後にYからの生活費は一切受け取っておらず、自分自身の経済力のみで生活をしています。
 Xは、毎年の年末に宝くじを購入していたところ、昨年の年末、運良く5000万円が当選しました。
 Xは、その当選金で3000万円の甲別荘を購入しました。
 Xが甲別荘を購入したことを知ったYは、婚姻中に甲別荘を購入したのだから、甲別荘も夫婦の共有財産となり、財産分与の対象になると主張してきています。
 甲別荘も財産分与の対象になるのでしょうか。

(回答)

1 財産分与とは
財産分与とは、夫婦が共同生活を送る中で形成した財産の公平な分配を行うという趣旨から、離婚をした者の一方が他方に対して、婚姻中に築いた財産の分与を請求することができる制度のことです(民法768条1項)。
 財産分与は、離婚をする当事者間で協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(同条2項)。
 もっとも、財産分与の請求ができる期間には制限があり、離婚成立から2年以内とされています(同条2項)。

2 財産分与対象の財産
財産分与の対象財産は、婚姻後、夫婦が共同生活を送る中で形成した財産を対象にしていることから、夫婦の一方の名義の財産であっても、実質的には夫婦の協力によって形成された財産である場合には、財産分与の対象となります。具体例としては、婚姻中に購入したマイホームや車、婚姻期間中に発生した預貯金などがあげられます。
 一方で、夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中に自己の名で得た財産である特有財産(民法762条1項)は、夫婦が共同生活を送る中で形成した財産とは言えないので、財産分与対象の財産には含まれません。
 特有財産の具体例としては、婚姻前の預貯金や婚姻中に自己の名義で相続した財産などがあげられます。

3 宝くじの当選金で購入した不動産
夫の小遣いで宝くじを購入し、当選金の約2億円を原資として購入した不動産の分与が問題となった事例において、裁判所は、「当選した宝くじの当選金約2億円の購入資金は夫婦の協力によって得られた収入の一部から拠出されたものであるから、本件当選金を原資とする資産は、夫婦の共有財産と認めるのが相当である」と判断しています(東京高決平29・3・2判タ1446号114頁)。
 この裁判例によると、婚姻中に宝くじの当選金で購入した不動産は、財産分与の対象財産になると言えます。

4 財産分与の基準時
 財産分与の基準時は、原則として離婚時ですが、「離婚前に夫婦が別居をしていた場合には、特段の事情がない限り、別居時の財産を基準にしてこれを行うべき」(名古屋高判平成21・5・28判時2069号50頁)とされています。この裁判例は、夫婦が共同生活を送る中で形成した財産の公平な分配を行うという財産分与の制度趣旨を前提として、別居後は夫婦としての共同生活が存在せず、夫婦間における経済的な協力関係が終了したことを考慮して判断されたものだと考えられます。
 相談事例は、上記3の事例と異なり、Xは宝くじが当選した当時はすでに別居をしており、生活費についてもYからは一切もらっていません。
 そして、Xは宝くじも自分のお金で購入しています。
 このことから、宝くじの購入資金は夫婦の協力によって得られた収入の一部から拠出されたものであるとは言えません。
 したがって、Xが宝くじの当選金で購入した甲別荘は財産分与の対象財産にはなりません。
 この事例のようなケースのほかにも、財産分与については様々な問題があります。
 財産分与に関する法的トラブルでお困りの際は、弁護士にご相談ください。