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書面でする消費貸借契約

(質問)
 XはYに対して事業資金として100万円を貸付ける約束をしました。ただし,Xの資金調達の都合があったため,金銭の交付は1か月後とすることで合意して契約書を作成しました。ところが,1か月後,Xは100万円を交付しませんでした。この場合,YはXに対して,100万円の交付を求めることができるでしょうか。

(回答)

1 書面でする消費貸借契約
 民法は,従来,消費貸借契約を物の交付を要件として成立する要物契約としてのみ規定していました。しかし,現代では,借主が,融資受けられることを前提として,事業活動を営むケースが多々あり,当事者の合意のみで成立する諾成契約として貸主に貸す義務を認めなければ,借主に不測の損害を与える場合があります。そこで,民法改正では,書面による場合に限り,金銭その他の物の引渡しを約束し,その返還を約束すれば,物の交付を要せず,例外的に,諾成契約として消費貸借契約が成立するという規定が新設されました(民法587条の2第1項)。これを「書面でする消費貸借契約」といいます。この場合,契約に基づき,貸主には「貸す義務」が,借主には「借りる権利」が発生します。また,消費貸借契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは,その消費貸借は,書面によってされたものとみなされます(同条第4項)。
事例では,契約により,YはXに100万円の交付を求めることができます。また,Xの「貸す義務」の債務不履行を理由として,YはXに対し,履行遅滞となった時点の法定利率あるいは法定利率を超える約定利率による損害賠償請求ができます。

2 受け取り前の解除権
 では,金銭を受領する前に,Yに資金需要の必要がなくなった場合は,どうでしょうか。書面でする消費貸借契約では,借主は,貸主から金銭その他の物を受け取るまで,契約の解除をすることができます(民法587条の2第2項前段)。そのため,Yは理由を問わず,契約を解除できます。ただし,金銭その他の物を受け取る前の解除によって,貸主が損害を受けた時には,貸主は、借主に対し損害賠償を請求できます(同項後段)。

3 「書面でする消費貸借契約」のポイント
 民法改正で新設された「書面でする消費貸借契約」のポイントは,①諾成契約として,消費貸借契約を成立させるには,合意を書面にする必要があることが明文化されたこと,②書面でする消費貸借によれば,貸主に「貸す義務」が生じるため,借主は,貸付を義務付けることができることです。借主が,予め融資を確保しておきたい場合に,書面でする消費貸借契約が活用できるかもしれません。ただし,金銭等を受け取る前に解除する場合には,貸主の損害を賠償しなければならないリスクに注意しなければなりません。

 お困りのときは、弁護士にご相談されることをお勧めします。