従業員に関する新型コロナウイルスの法的対応について教えてください。
(回答)
1 従業員の1人に新型コロナウイルス感染が確認された場合に、保健所の手続きや、企業の対応はどのような流れになりますか?
① 保健所から発生の通達、もしくは従業員からの連絡を受けます。
感染者が確認された場合、医師から保健所へ連絡することになっています。
② 保健所による積極的疫学調査が行われます。
・企業の現地調査、感染者の勤務状況・行動履歴の確認 →濃厚接触者の特定
・消毒場所や消毒剤などについての指導、まん延防止の指導
・濃厚接触者に対する自宅待機の要請などを指示
③ 消毒除菌作業を業者に要請します(消毒の実施は企業が行います)。
④ 業者による消毒除菌作業/10日~14日程度の営業停止
※その他に企業が対応すること(例)
濃厚接触者の調査(氏名、生年月日、年齢、住所、電話番号など)
自宅待機となった濃厚接触者について、毎日の検温をし、保健所へ連絡します。
2 従業員の1人が新型コロナウイルスに感染し、他の従業員を休業させる場合、休業手当を支払う必要はあるでしょうか?
他の従業員が濃厚接触者にあたり、保健所の要請によって他の従業員を休業させる場合は、休業手当を支払う必要はありません。
濃厚接触者にはあたらない人を、保健所からの要請ではなく会社の自主的判断によって休業させる場合は、休業手当を支払う必要があります。
3 従業員の1人が、咳や熱などの新型コロナウイルスと疑われる症状があるものの就労できる状態であるため出勤しています。自宅待機や受診を命令できるのでしょうか?
就業規則上に、休業命令や受診命令が定められていることが望ましいですが、就業規則に休業命令や受診命令の規定がなかったとしても、使用者は業務命令権を有しており、他の従業員への感染拡大を防止する必要性・合理性が認められるから、業務命令として有効になります。
4 従業員に咳や発熱などの症状があるため、使用者が自宅待機を指示した場合、休業手当を支払う必要はあるでしょうか?また、従業員の家族に発熱などの症状があるため、使用者が自宅待機を指示した場合、休業手当を支払う必要はあるでしょうか?
従業員に咳や熱などの症状があることをもって、使用者の指示により休業させる場合には、休業手当を支払わなければなりません。
また、家族に発熱などの症状があることをもって、使用者の指示により休業させる場合にも、休業手当を支払わなければなりません。
一方で、家族に新型コロナウイルス感染が確認され、当該従業員も濃厚接触者にあたる場合は、保健所からの要請によって休業することになるので、休業手当を支払う必要はありません。
5 学校の一斉休業に伴い、子どもの面倒を見るために仕事を休まなければならない従業員に対して、休業手当の支払義務はあるでしょうか?
「使用者の責めに帰すべき事由」による休業ではないため、休業手当の支払義務はありません。
もっとも、使用者としては、小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援制度(※)を利用して、従業員に賃金全額支給の休暇を取得させることも検討に値します。
※休校による子どもの世話や感染を疑われる症状のある子どもの世話のため、保護者が仕事を休むとき、賃金全額支給の休暇を取得させた使用者に、日額8,330円を上限としてその全額を助成する制度
6 社内において従業員Aが他の従業員Bに新型コロナウイルスを感染させました。使用者は、他の従業員Bに損害賠償責任を負うでしょうか?
使用者は、安全配慮義務違反があれば損害賠償責任を負います。
咳や熱の症状がある従業員Aに対して、休業命令や受診命令を出すことなく就労させていた場合には、安全配慮義務違反となり、他の従業員Bに対して損害賠償責任を負う可能性があります。
一方で、従業員Aに何らの症状がなく、使用者としても休業命令や受診命令をとることができなかったときには、安全配慮義務違反にはあたりません。
7 会社でクラスター感染を引き起こし、会社を閉鎖せざるを得なくなりました。従業員Aが、濃厚接触者であることを隠して出勤していた場合は、会社は、Aに損害賠償を請求できるでしょうか?
従業員Aが、濃厚接触者として自宅待機を要請されていたなど、新型コロナウイルスに感染している可能性が高いことを認識しながら勤務をし、当社でクラスター感染を引き起こした場合は、従業員Aに対して損害賠償を請求できます。
従業員Aが、高熱などの典型症状があるのに出勤した場合には、損害賠償を請求できる可能性がありますが、単なる咳などの症状だけであった場合は、損害賠償は請求できません。
8 ビルの同じフロアに入っている別の会社Cの従業員Dが新型コロナウイルスに感染したことにより、当社も消毒をして一斉休業することになった。従業員Dや、別の会社Cに対して損害賠償を請求できるでしょうか?
従業員Dが、濃厚接触者として自宅待機を要請されていたなど、新型コロナウイルスに感染している可能性が高いことを認識しながら勤務をし、その後、従業員Dが新型コロナウイルスに感染していることが確認され、当社も消毒作業などにより休業を余儀なくされた場合は、その従業員に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
別の会社Cに対しては、従業員Dについて新型コロナウイルス感染の疑いが高いことを認識してにもかかわらず、休業命令などを出さずに勤務させていた場合は、損害賠償を請求できる可能性があります。
従業員Dに自覚症状が無く、使用者Cとしても従業員Dの新型コロナウイルス感染を認識することができなかった状態で営業を続けた場合には、別の会社Cは、損害賠償責任を負いません。