最近、あおり運転の報道が多くされていますが、あおり運転はどのような罪に問われるのでしょうか。
(回答)
1 あおり運転とは?
あおり運転とは,一般的に,道路を走行する自動車等に対し,周囲の運転者が何らかの原因や目的で運転中にあおる(嫌がらせ)ことによって,道路における交通の危険を生じさせる行為のことをいいます。
具体的には,車間距離を極端につめる,急ブレーキをかける,必要のないパッシング・ハイビーム・クラクションによる威嚇,急な進路変更,蛇行運転,幅寄せを行うことなどの行為を指します。
ただ,「あおり運転罪」という罪があるわけではないので,法律上,あおり運転の明確な定義はございません。
2 あおり運転罪?
既に述べたとおり,現在,「あおり運転罪」という罪はありません。そのため,あおり運転は,既存の法律を適用して罰せられることになります。
では,あおり運転は,どのような罪になるのでしょうか。
まず,道路交通法違反により,罰せられる可能性があります。例えば,あおり運転の一種である車間距離を詰める行為は,道路交通法26条に違反する可能性があり,これを高速自動車国道等で行った場合は三月以下の懲役又は五万円以下の罰金,それ以外の場合は,五万円以下の罰金に処せられる可能性があります。また,急ブレーキをかける行為は,道路交通法24条に違反する可能性があり,三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処せられる可能性があります。このように,あおり運転の態様によっては,それが道路交通法違反に該当し,罰せられる可能性があるのです。
次に,あおり行為に,暴行罪(刑法208条)が適用される可能性があります。暴行罪とは,人に暴行を加えることによって成立する犯罪です。暴行罪の「暴行」とは,人の身体に対する不法な有形力の行使をいい,典型的には,人を殴る,蹴る,たたく等の行為がこれに該当します。ただ,暴行罪の暴行の範囲は広く,人の身体に直接接触しなくとも,被害者の身体に向けて不法に有形力を行使すれば暴行に該当します。そのため,あおり行為が,人の身体に向けられた不法な有形力の行使とみなされれば,暴行罪で処罰され得るのです。例えば,加害車両が,被害車両を追跡し,後方からパッシングを浴びせたりクラクションを鳴らしたりしたほか,加害車両を被害車両に急接近させたり,加害車両を並進させたりした行為につき,暴行罪を適用した裁判例があります。
さらに,危険なあおり運転によって交通事故が起こり,被害者が死傷した場合には,危険運転致死傷罪が成立する可能性があります。危険運転にはいくつかの類型があるのですが,あおり運転で問題となるのは,「人又は車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」(自動車運転死傷行為処罰法2条4号)が多いと思われます。仮に,あおり運転が危険運転に該当すると判断された場合は,これにより人を負傷させた場合は15年以下の懲役,人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処せられる可能性があります。
このように,あおり運転を行うと,既存の法律であっても,重い罪に処せられる可能性があるのです。
3 行政処分
日本では,交通事故や交通違反の種類に応じて所定の点数を付けて,その点数が一定の基準に達すると免許の停止や免許の取消しといった行政処分を行うという制度(点数制度)が取られています。例えば,過去3年以内に行政処分を受けたことがない場合,6点から14点までは免許停止処分に,15点以上は免許取消処分に該当します。行政処分歴が1回の場合,4点から9点で停止処分,10点以上は取消処分に該当します。行政処分歴が3回以上の場合は,2点又は3点で停止処分,4点以上は取消処分に該当します。
あおり運転が道路交通法違反に該当すると,当然ながら,点数が加算されます。例えば,高速自動車国道等車間距離不保持は2点,それ以外の車間距離不保持は1点,急ブレーキ禁止違反は2点等です。
ただ,あおり運転の場合,点数が低くとも,危険性帯有による運転免許の停止等の行政処分がなされる可能性があります(道路交通法103条1項8号)。危険性帯有とは,「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」には,危険性帯有者として,点数制度による処分に至らない場合であっても運転免許の停止処分(最長180日間)が行われるというものです。
このように,あおり運転は,行政処分においても厳しく取り締まられているのです。
4 あおり運転への対処方法
では,あおり運転の被害にあった場合は,どうすればよいでしょうか。まず,自動車の窓やドアを閉めて鍵をかけ,路肩やサービスエリアなどの安全な場所に避難することで,身の安全を確保します。そして,加害者が追いかけてきたり脅したりして身の危険を感じるようなら,ためらわずに警察に通報しましょう。
その上で,可能であれば,ドライブレコーダーを作動させるなどして,加害者の行為を記録に残すようにしましょう。これにより,加害者を処罰しやすくなりますし,損害賠償請求もしやすくなるからです。
政府は,あおり運転の厳罰化への検討を進めているようです。また,自治体によっては,ドライブレコーダーの購入費を補助しています。
このように,あおり運転に対する世間の目は厳しくなりつつあります。とはいえ,あおり運転が直ちになくなるわけではありません。そのため,あおり運転にあったときにはどのように行動すべきかを事前に検討しておいた方がよいでしょう。