当社では、出張の際の旅費や備品の購入については従業員が立て替えて支払い、後で会社が実費を支給する形で清算しています。先日、社内で、会社の経費の支払いを個人がクレジットカードで決済してポイントを貯めることについて問題提起がありました。役員の中には、役得であると言う者もいれば、経費で得たポイントを私的に使うのは横領だと言う者もいます。法的には問題があるのでしょうか。
(回答)
1 原則として会社の定めたルールによる
今回のケースのように、会社の業務に関する経費の支払いによって従業員が個人的な利益を得るのは、不公平感があることは否めません。
そのため、法人カードで決済するようにしたり、会社の経費で付与されたポイントは次回以降の出張の際に使用する等の規定を設けている会社もあります。
このような規定を設けているにもかかわらず、会社に帰属すべき(会社のために利用すべき)ポイント等を従業員が私的に利用した場合には、懲戒処分の対象になり得るだけでなく、(業務上)横領罪に該当する可能性もあります。
では、特別なルールを定めていない場合には、法的な問題は生じるのでしょうか。
2 事後精算の場合
まず、会社の経費を従業員が立て替えて会社が事後的に清算する場合に、従業員個人がポイント等の経済的利益を得ることは、不当利得ではないかという問題があります。
しかしながら、法的には、クレジットカードでの支払いによってポイントが付与されるのは、当該カードの名義人個人とカード会社との契約に基づくものであるため、法律上の原因がないとはいえません。あくまでもポイント等が帰属するのは当該カードの名義人個人ですので、会社にポイントが帰属するわけではないのです。
そのため、経費の支払いによって取得したポイントを従業員が私的に使っても、不当利得や横領等の問題は生じません。
3 経費前払いの場合
では、経費を会社が事前に支払っている場合はどうでしょうか。
この場合、経費の支払いに充てるべき資金を事前に支給しているのですから、あえてクレジットカード等の他の決済手段を用いる必要はありません。
個人のクレジットカードを使用したことによって付与されたポイントは当該従業員個人に帰属しますが、事前に支払いを受けたお金を経費の支払いに充てないことが問題です。使途を定めて支給したお金を私的に利用するのですから、理論的には(業務上)横領罪に当たり得ます。
もっとも、金額や当該会社での従前の取扱い等にもよりますが、現実的には、横領罪として立件したり、懲戒処分の対象とすることは難しい場合が多いといえます。クレジットカードによる支払いの禁止を明確に定めていない以上、会社は、前払いされた資金を経費の支払いに充てずにクレジットカードで支払いをすることについて許容する趣旨であると考えることもできるからです。
経費に関するルールについては、やはり、社内規定を設けて明確にしておくことが肝要といえるでしょう。