月別アーカイブ: 2018年6月

少数株主からの株式買取請求

(質問)
 当社は、少数株主A、B、C(各5株で、5%の株式を保有)から株式を買い取りたいと考えています。
 そこで、A、B、Cと任意の買取交渉を行いましたが、全く売ってくれる意思がありませんでした。
 強制的に買い取りたいのですが、そのようなことはできるのでしょうか。

(回答)

1 特別支配株主の株式等売渡請求
 特に中小企業からは、いわゆる「うるさ型」の株主を排除したり、将来のM&Aに備えて、少数株主から株式を強制的に買い取りたい(スクイーズ・アウト)という相談を受けることがあります。
 まず、特別支払株主の株式等売渡請求とは、株式会社の特別支配株主(総株主の議決権の10分の9以上を直接又は間接に保有する株主)が当該株式会社の株主の全員に対して、その有する株式の全部を売り渡すことを請求することができるという制度です。
 しかし、本件では、A、B、Cは合計で15%の株式を保有しているので、この制度は使えません。

2 株式併合
 そこで、次に、株式併合を検討することになります。
 株式併合とは、数株を1株などに統合する制度であり、株主総会の特別決議により行うことができます。
 例えば10株を1株に株式併合すると、A、B、Cはそれぞれ0.5株となり、端数部分は貴社が競売して代金を交付するか、A、B、Cの買取請求手続によりA、B、Cの持株をなくすことが可能になります。

3 全部取得条項付種類株式
 全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を会社が取得するという内容の種類株式です。
 貴社は既発行の株式を全部取得条項付種類株式にして取得の対価として、A、B、Cに対し、「1対0.1」の割合で他の種類株式を発行すれば、A、B、Cの株式は株式併合と同様の処理ができることになります。

4 まとめ
 株式併合も全部取得条項付種類株式も特別決議が必要である点は同様ですが、全部取得条項付種類株式は、通常の株主総会のほか、種類株主総会の決議が必要となるなど手続が煩雑なので、株式併合の方法により、スクイーズ・アウトを行うことをお勧めします。
 

商品の性能や品質の過大説明による契約締結のリスク

(質問)
 当社は物品の販売を行っていますが、販売実績を上げようとして商品の性能や品質を過大に説明して、大量の契約実績を上げている従業員がいます。また、その従業員はかなり強引に顧客に購入をすすめているようです。
 この場合、当社にはどのようなリスクがあるでしょうか。

(回答)

1 消費者契約法リスク
 消費者契約法は、消費者と事業者の情報力・交渉力の格差を前提とし、消費者の利益擁護を図ることを目的としています。
 事業者の不当な勧誘により消費者が契約を結んだ場合には、消費者はその契約を取り消すことができます。
 取消事由は、以下のとおりです。

 ア 不実告知(同法第4条第1項第1号)
   重要事項について事実と異なる内容の説明を受けたケースのことです。例えば、羽毛100%の布団であるとの説明を受け購入しましたが、実際には羽毛50%にも満たないものであったというような場合です。
   この場合、羽毛100%であることは消費者が契約を締結するかしないかの重要な判断材料であり、羽毛100%であるとの説明を信じて契約を締結したので、重要事項に不実の告知があったことになり、契約を取り消すことができます。

 イ 断定的判断の提供(同法第4条第1項第2号)
   例えば、必ず儲かりますなどというように将来の不確実な事柄について、事業者が断定的な判断に基づいたことを提供することです。

 ウ 不利益事実の不告知(同法第4条第2項)
   商品の欠点等の不利益をあえて言わないことですが、単に言わないだけではなく、その前に利益になることを告げたり、不利益の不告知が故意でなければなりません。

 エ 不退去(同法第4条第3項第1号)
   不退去とは、自宅に訪問した販売員に対して「要りません!」と断ったにもかかわらず、執拗に勧誘を繰り返すため、消費者が困ってしまいどうして良いか分からない状態で、結果的に契約を結んでしまったような場合が考えられます。
   この他、退去すべき旨の意思表示には直接的・間接的を問いませんので「帰ってください!」「結構です!」「今忙しいので」「時間がないので」以外にも、身振りや手振りであっても退去を求める意思表示をしたとみなされます。

 オ 退去妨害(同法第4条第3項第2号)
   具体的には、店舗や事務所等に出向いた消費者が「帰りたい!」との意思表示をしているのにもかかわらず、数人で取り囲むなど物理的な方法や心理的な方法により、契約をするまで返さないなどと妨害をすることです。
   不退去と同様に退去する旨の意思には直接的・間接的を問わず、身振り手振りも含まれます。

 カ 過量契約(同法第4条第4項)
   事業者が勧誘するに際し、契約の目的物の分量、回数又は期間が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合で、消費者がその勧誘により、この消費者契約の申込み、承諾の意思表示をしたことをいいます。

2 権利行使期間
 ただし、この取消しには権利行使期間があり、追認をすることができる時から1年間、当該消費者契約の締結の時から5年を経過したときは時効により消滅するとされています(同法第7条第1項)。

3 従業員の教育を
 貴社の従業員が商品の性能や品質を過大に説明して、大量の契約を締結していると、不実告知、不利益事実の不告知、過量取引に該当するリスクがあります。
 契約が取り消されると、商品が現状で返品され、代金を全額返還しないといけないので、貴社としては相当なリスクがあります。
 また、売り方に問題がある会社であるという評判が広まるレピュテーションリスクがあり、SNS等により問題会社といった書き込みによるイメージダウンのリスクも深刻であると考えられます。
 

株式譲渡承認請求の対応

(質問)
 当社では、譲渡制限株式について、株主Yから譲渡承認請求がなされました。
 当社は、どのように対応すれば良いでしょうか。

(回答)

1 譲渡承認請求の記載内容の確認
 特に中小企業においては、株式譲渡承認請求がなされたときに、会社にとって不都合な譲受人が登場するリスクを怖れて、慌てることがしばしばあります。
 まず、譲渡承認請求書には、以下の事項を記載することとされているため(会社法第138条第1号)、貴社としては、記載に漏れがないか、また、記載内容を確認することになります。
 ①譲り渡そうとする譲渡制限株式の種類、数
 ②譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名又は名称
 ③会社が承認をしない旨の決定をする場合において、会社又は指定買取人が譲渡制限株式を買い取るよう請求するときは、その旨

2 承認をするか否かの決定(2週間以内)
 次に、貴社は、株主からの譲渡承認請求に対して承認するか否かを決定することになりますが、この決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議により行います(同法第139条第1項)。
 貴社は、その決定の内容を株主に通知しなければならず(同法第139条第2項)、2週間以内に通知をしなかった場合には株式譲渡を承認したとみなされてしまいますので(同法第145条第1号)、注意が必要です。

3 会社による買取り(40日以内)
 貴社が譲渡承認をしない場合には、貴社又は指定買取人により株式の買取りを行う必要があります(同法第140条)。
 貴社が買い取る場合には、株主総会の特別決議が必要です(同法第140条第2項・同法第309条第2項第1号)。
 そして、貴社は株主に対して、貴社が買い取る旨及び貴社が買い取る株式数等を通知しなければならず、譲渡承認しない旨を通知した日から40日以内にこの通知をしなければ、譲渡を承認したものとみなされますので(同法第145条第2号)、この点についても注意が必要です。

4 指定買取人による買取り(10日以内)
 貴社は、指定買取人をあらかじめ定款で定めておくこともできますが(同法第140条第5項但書)、定めがない場合には、株主総会の特別決議(取締役会設置会社にあっては取締役会)で決定します(同法第140条第5項・第309条第2項第1号)。
 そして、指定買取人は⑶の場合と同様に通知を行うことになりますが、譲渡を承認したとみなされるまでの期間は、譲渡承認しない旨を通知した日から10日以内と短く設定されています(同法第145条第2号括弧書)。

5 売買価格の決定(20日以内)
 最後に、株式の売買価格を決定することになります。売買価格は当事者間の協議によって定めるのが原則ですが(同法第144条第1項・同条第7項)、協議が整わない場合は、裁判所に対して価格決定の申立てを行うことになります(同法第144条第2項・同条第7項)。
 この申立ては指定買取人からでも株主からでも行うことができますが、会社又は指定買取人が買い取る旨の通知をした日から20日以内に申立てをしなければ、供託額が譲渡代金となるため(同法第144条第5項・同条第7項)、注意が必要です。

6 まとめ
 貴社は、Yからの株式譲渡承認請求に対して、承認するかしないかの決定をして、それを2週間以内にYに通知しないといけませんが、譲渡承認しない場合は、最終的に裁判所が決定した価格で会社又は指定買取人が買取りをしないといけなくなるリスクも考慮する必要があります。

種類株式とは

(質問)
 当社は、事業を拡大するため、取引先から出資をしてもらうことになりました。しかし、そうすると、現在の株主の持株比率が下がってしまい、会社を支配できなくなるのではないかと不安です。
 何か良い方法はないでしょうか。

(回答)

1 種類株式とは
 株式会社では、株主が保有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならないとされています(会社法第109条第1項、株主平等の原則)。
 しかし、これには例外があり、定款の定めにより内容の異なる複数の種類の株式を発行することが認められており(同法第108条)、これが種類株式と呼ばれるものです。
 会社法では、①剰余金の配当の優先株式、②残余財産の分配の優先株式、③議決権制限の株式、④譲渡制限株式、⑤取得請求権付株式、⑥取得条項付株式、⑦全部取得条項付種類株式、⑧拒否権付種類株式、⑨取締役・監査役の選任に関する種類株式の9つの種類株式が認められています。

2 種類株式の活用
 企業にはさまざまな事情がありますが、それぞれの事情に応じ、種類株式を活用することは、経営法務リスクマネジメントの観点からは大変重要となります。
 例えば、拒否権付種類株式は、社長が後継者に株式の大半を譲渡した後、後継者が合併、会社分割等といった重要行為を行うリスクをヘッジしようとしてこれらの重要行為に対して、拒否権付株式を保有することなどが考えられます。

3 まとめ
 ご質問のケースでは、新たに出資した取引先に対しては、剰余金の配当について優先はするものの、議決権のない株式を発行することにより、現在の株主の会社支配権を引き続き維持できるものと考えられます。

M&Aにおける法務デューデリジェンスの重要性

(質問)
 当社では、ある運送会社YをM&Aで買収しようと考えています。
 当社はY社の財務上のデータは十分調査したつもりですが、Y社に隠れた法務上・財務上の問題点があるのではないかと不安を感じています。
 当社はY社とM&Aを行うに当たって、何をすべきでしょうか。

(回答)

1 デューデリジェンスの重要性
 デューデリジェンスとは、ターゲット企業の事業内容や経営実態の詳細な調査・検討を行うことをいいます。
 M&Aでは、適切なスキームを検討するとともに、財務、事業、法務の各場面において必要かつ十分なデューデリジェンスを行うことが重要です。
 例えば、財務デューデリジェンスだけ行って、M&Aによりある会社を引き継いだところ、知財侵害の事実があったとか、労働紛争がかなり深刻であったとかで後々多大な不利益を被ったという話は良く見受けられるところです。
 もとより、相手方の会社の株主から表明保証として、知財侵害のリスクはないとか、簿外債務はないといった契約上の最小限の手当は通常なされてはいますが、例えば簿外債務があったからといって、相手方の会社の株主に損害賠償請求を行ったとしても全額回収できるとは限らないし、そもそも問題のある会社を引き継いだ不利益はなかなか拭えません。

2 法務デューデリジェンスの重要性
 Y社の契約書に不利益な条項はないか、例えば、チェンジオブコントロール条項により、事業に必要な賃貸借契約等が解約されるリスク等にも留意する必要があります。
 また、Y社の就業規則等の社内ルール、株主総会議事録、取締役会議事録を調査することにより、Y社の経営法務リスクがより明確になります。

3 法務デューデリジェンスの実行手続
 ご質問のケースでは、Y社の契約書を検討することが必要です。
 例えば、Y社はいくつか駐車場を賃借していて、その契約には期限が設定されていない場合は、予告期間1年で賃貸借契約が解約されてしまうリスクがあります。    
 加えて、Y社が賃借している駐車場にコンクリートを埋設していたとすれば、原状回復費用が多額に上るリスクも考慮する必要があります。
 次に、Y社において、労働組合が存在したり、労働関係で過去に労働審判や訴訟を起こされている事実がないかどうかも重要です。労働関係で問題のある会社を買収すると、最悪の場合、本社にまで労働問題に係る紛争が飛び火するリスクが生じます。        
 さらに、Y社は株券発行会社であったにもかかわらず、過去に株券が発行されたかどうか不明であったり、過去のある時点で株主構成が変わっているにもかかわらず、株式売買の契約書が存在しないことなどのリスクもあります。

4 まとめ
 M&Aにおいては、財務デューデリジェンスと事業デューデリジェンスのみならず、必要に応じて、法務デューデリジェンスも行うべきです。
 ケースによっては、法務デューデリジェンスを行うことにより、未払残業代のリスク、賃貸借契約の解約リスク、原状回復リスク等のリスクが明らかになるとともに、就業規則等の社内ルールの分析、検討により、Y社の経営法務リスクも明らかになります。
 そして、貴社がY社を継承した後の経営法務改善の目標が明らかになるというメリットがあります。

簡易新設分割とは

(質問)
 当社は、一部の事業を新設分割により分割化して、Y社の子会社にしたいと考えています。
 そこで、簡単に新設分割をする方法について教えてください。

(回答)

1 組織再編の意義
 企業においては、M&Aのほか、効率的な事業運営や事業部門の拡大や、事業再生等を目的として組織再編を検討する必要が生じます。
 組織再編には、①合併(吸収合併、新設合併)、②会社分割(吸収分割、新設分割)、③株式交換(完全子会社の発行済株式全部を新会社に取得させること)、④株式移転(1又は2以上の株式会社がその発行済株式全部を新たに設立する持株会社に取得させることで、持株会社を創る場合に用いられます。)、⑤事業譲渡があります。

2 簡易新設分割とは
 新設分割会社は、本来、新設分割計画を株主総会の特別決議で承認を受ける必要があります(会社法第804条第1項)。
 しかし、簡易新設分割であれば、株主総会の承認決議が不要となります(同法第805条)。
 これは、小規模な組織再編であれば、株主への影響も軽微であることから、株主総会の決議の省略が決められたものです。

3 簡易新設分割の要件(いわゆる5分の1ルール)
 新設分割により新設分割設立会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が新設分割会社の総資産額の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めたときはその割合)以下という要件を満たす必要があります(同法第805条)。
 なお、簡易吸収分割の場合は、吸収分割会社側の資産の5分の1ルールに加えて、吸収分割承継会社が吸収分割会社の株主に対して支払う対価が、吸収分割承継会社の純資産額の5分の1以下となることも必要です(同法第796条第3項)。

4 反対株主の権利
 簡易新設分割に該当すれば、株主総会の承認決議が不要であるばかりか、反対株主の株式買取請求は認められず(同法第806条第1項第2号)、株主は新設分割の差止請求権もありません(同法第805条の2但書)。