月別アーカイブ: 2018年3月

顧客への説明不足による損害賠償リスク

(質問)
 当社は住宅会社ですが、隣家との距離が近く、日照時間の説明について説明が十分でなかったとして、顧客から契約の解除と損害賠償を要求されています。
 担当者は口頭できちんと説明したと言っていますが、当社としてはどのように対応すればいいでしょうか。

(回答)

1 説明義務違反の裁判例
 宅建業者であるA社及びB社が、土地の売買契約において、当該土地のみでは接道義務を満たしておらず将来的に建て替えが不可能であったことを買主に何ら説明していなかったことをもって説明義務違反を認定して、約1,700万円の損害賠償を認めたものがあります(千葉地方裁判所平成23年2月17日判決)。
 また、宅地建物取引業者が専有部分内に設置された防火扉の操作方法等について買主に対して説明を行っていなかったという説明義務違反により、当該業者に約900万円の損害賠償を認めたものもあります(東京高裁平成18年8月30日判決)。
 このように、企業は、説明義務違反をもって多額の損害賠償が認められるリスクがあることに注意する必要があります。

2 対応策
 契約締結段階において、どのような事実について説明すべきかを検討し、必要十分な説明を行った後、説明を行った旨の書面に相手方に署名・押印してもらうことが必要です。
 企業の従業員は、顧客に対する説明はもとより、クレーム対応等も含め、さまざまな面で交渉を行うものと考えられます。
 そこで、後々、言った、言わないのトラブルになりそうなケースについては、書面を交付するとか、メールでやり取りをするとか、ケースによっては、録音しておくといった交渉の記録化が必要になります。
 ちなみに、録音は相手に無断で行っても差し支えありませんし、民事裁判でそのような録音の反訳文を証拠として提出することもあります。
 貴社は、担当者が顧客に日照時間について説明したかどうかという点について争われること自体が大きなリスクとなってしまいます。 
 仮に、顧客の言い分が認められて、訴訟において解除等が認められてしまうと大きな財産的損害と信用の低下につながるからです。
 貴社とすると、顧客に対して、重要な点を説明するときは、文書にして手交するなどのリスクヘッジを行うべきです。

就業規則における退職届の規定

(質問)
 当社では、就業規則において、従業員が退職する場合には、遅くとも1か月前までに退職届を提出するように規定しています。
 しかし、先日、従業員Yから、退職する場合は2週間前までに言えば良いから2週間後に退職すると言われました。
 当社はどう対応すれば良いのでしょうか。

(回答)

1 退職に関する民法のルール
 期間の定めのない雇用契約の場合、労働者はいつでも雇用契約の解約の申入れをすることができ、申入れから2週間で雇用契約が終了するものとされています(民法第627条第1項)。
 しかし、一定の期間によって賃金を定めた場合には、雇用契約の解約は次期以後にすることができ、解約の申入れは当期の前半にしなければならないとされています(同条第2項)。例えば、月給制で、給与の締日が月末の場合には、当月の15日までに退職の申し出があれば当月末に契約が終了し、16日以降の申出であれば翌月末に契約が終了することになります。
 ちなみに、有期雇用契約については、期間途中の労働者からの雇用契約の解除は原則として認められないことになります。

2 退職の予告期間についての特約の有効性
 就業規則には、必要的記載事項として、退職に関する事項を定めなければなりません。
 では、就業規則によって上記のような民法の規定を修正することはできるでしょうか。
 この点、民法第627条第1項は使用者にとっては強行法規であり、退職の猶予期間の延長はできないとの見解が有力です。下級審の裁判例ですが、退職の予告期間を1か月前とする就業規則の変更は無効であると判示した事例もあります。
 一方で、就業規則で民法と異なる定めをした場合には就業規則が原則として優先され、予告期間の延長が極端に長いときは公序良俗違反で無効となるとの考え方もあり、見解が分かれているところです。

3 合意退職に関する定め
 貴社は、退職とは別の合意退職の手続として、退職希望日の1か月以上前に退職届を提出し、会社がこれを承諾した場合に退職が認められることなどを就業規則に定め、これを原則的な取扱いとすることも考えられます。
 しかし、この場合も、従業員は2週間前の予告をもって退職を強行してくるリスクがあります。

4 対策
 ご質問のケースのように、退職の予告期間を1か月としている就業規則の例はよく見られるのですが、法的には無効と判断されるリスクがあります。
 貴社は、1か月の退職の予告期間に対して、貴社の説得にもかかわらず、あえて異を唱えるようなYには、あまり円滑な業務引継の期待を抱かない方が良いかもしれません。
 Yには、せめて2週間の間にできるだけ業務引継を行ってもらい、会社としての被害を最小限に食い止める方法を検討すべきです。