月別アーカイブ: 2017年9月

過労死対策―健康管理の重要性―

(質問)
従業員の過労死に関するニュースを目にすることがありますが、従業員の過労死を防止するためにはどのようにすればいいでしょうか。

(回答)

1どのような責任等が生じるの?
 従業員の過労死に関する痛ましいニュースが後を絶ちません。
 このようなことが起きてしまった場合、会社には、次のような責任が生じることが考えられます。
 まず、会社は、従業員に対して、従業員の生命・健康を職場における危険から保護するように配慮する義務である安全配慮義務を負っています。そのため、会社が従業員を不法に長時間労働させた結果、従業員に健康上の障害が生じて死亡してしまった場合には、安全配慮義務違反を原因とする損害賠償義務を負う可能性が考えられます。また、従業員を不法に長時間労働させていたとして、不法行為に基づく損害賠償義務を負う可能性も考えられます。会社がこれらの損害賠償義務を負う場合、事案にもよりますが、1億円を超える支払義務を負うことになる可能性が考えられます。
 会社が、労働基準法第36条に基づく時間外労働に関する労使協定に違反する残業をさせていた場合には、同条違反として、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金となる可能性も考えられます(労働基準法第119条)(なお、場合によっては、労働基準法第36条以外の規定にも違反するとして、某広告会社のように、前述の刑罰よりも重い刑罰が科せられることも考えられます。)。
このようなことになったことがマスコミ等で報道された場合には、会社の信用、評判などが著しく低下することになることが考えられます。

2 従業員の過労死を防止するにはどうすればいい?
 従業員の過労死を防止するためには、まず何よりも、長時間労働の対策を実施することが重要になります。そのための方法としては、次のようなものが考えられます。
 まず、時間外労働を許可制にすることが考えられます。許可制にする場合には、単に制度を設けておくだけではなく、実際に機能させることが重要になります。
 また、従業員が有給休暇を適切に取得することのできる職場環境の整備を行うことが考えられます。仕事の内容などによっては、有給休暇の取得が難しい場合も考えられますが、その場合でも、例えば、年度当初に有給休暇の取得を調整して取得日を決めていく方法などによって有給休暇の適切な取得を実現すべきです。
 もっとも、このようなことを実施しても長時間労働が発生する可能性も考えられます。そのような場合には、従業員に対して、産業医による面接指導を受けることを勧めることが考えられます。なお、労働安全衛生法では、月100時間を超える時間外労働を行っており、かつ、疲労の蓄積が認められる従業員から申し出があった場合には、当該従業員に対して面接指導を実施すべき旨が定められていますが、このような要件に該当しない場合であっても、長時間労働が発生している場合には実施すべきであると考えられます。

3 従業員の健康管理をしっかりと行うことが重要!
 従業員に成果を出してもらうには、その前提として従業員に心身共に健康でいてもらう必要があります。また,働き方改革においても、時間外労働の上限が議論されているなど、今後ますます時間外労働について考えていく必要があるところです。
 従業員の健康管理体制をどのように構築していくかなどについてお悩みの方は,弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。
 

eラーニングによる社員研修と労働時間

(質問)
 当社はこれまで、従業員の教育はすべてOJTで行ってきましたが、新人教育や管理職のスキル向上のために社員研修の導入を検討しております。
 とはいえ、講師を招いて研修を実施するまでの余裕はありませんので、eラーニングによる社員研修サービスの導入を考えております。
 動画を視聴することで研修の受講ができますので、インターネット環境のある従業員には、帰宅後や休日に受講してもらうことを想定しております。この場合、自宅などで研修を受講する時間に対して、給与を支払う必要があるのでしょうか。
 

(回答)

1 社員研修と労働時間の考え方
 労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間をいいます。
 会社の業務とは直接関係のない社外研修であっても、研修への参加が任意ではない場合には、使用者の指揮命令による拘束があるといえますので、労働時間に該当します。
 また、明示的な指示や命令がなくても、事実上、研修を受けないと不利益を課されることになる場合は、実質的には参加が強制されている(労働時間に該当する)と判断される可能性が高いといえます。
 そして、今回のようなeラーニングの受講についても、通常の研修への参加の場合と同様に、受講が義務付けられているかどうかによって異なります。
 任意の受講であれば、従業員の自己啓発を会社が支援しているだけですから、労働時間に該当しないことは明らかです。
 これに対して、あくまでも社員研修としてeラーニングの受講を義務付ける場合には、たとえ自宅などで視聴する場合であっても労働時間に該当すると考えられます。インターネットに接続できる環境さえあればどこでも受講できるため、場所的な拘束はありませんが、受講中他の行動が制限されることに変わりはないからです。
 そのため、就業時間外や休日での受講には、割増賃金の問題も生じます。

2 会社外でのeラーニング研修受講の注意点
 eラーニングは、スマートフォンやタブレット端末でも視聴することがきるため、場所を選ばず、スキマ時間や通勤時間を利用した研修の受講ができる等というメリットがあります。
 その反面、会社外での研修の受講については、本当に(まじめに)研修を受講したのかを確認することは難しいという問題があります。
 そのため、労働時間に該当する社員研修として実施するのであれば、レポートを提出させたり、原則として会社内で就業時間中に受講させることなどが考えられます。自宅等での受講については一定の要件の下に事前の許可制にすべきでしょう。
 逆に、労働時間としない取扱いをする場合は、強制ではなく任意の形にしなければなりません。あくまでも受講を“推奨する”にとどめ、任意であることを明示すべきです。また、eラーニングの受講と人事評価を結びつけないようにする必要もあるでしょう。