月別アーカイブ: 2017年7月

自宅待機と労働時間について

(質問)
 当社では、緊急の顧客対応などに備えて、従業員に対して対体制で休日の自宅待機を命じております。そして、呼出しにより出動があった場合にのみ賃金を支払うこととしております。
 しかしながら、この度、社内で、待機を命じている以上は出動がなかった場合でも賃金を支払う必要があるのではないかという議論が生じました。
 法律的には、自宅待機に対して賃金を支払う必要があるのでしょうか。

(回答)

1 自宅待機は労働時間ではない
 待機時間に対して賃金を支払う必要があるのか否かは、待機をしている時間が法的にみて労働時間といえるか否かという問題です。
 ここで、労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間をいうと解されています。そうすると、会社の指揮命令権に基づいて自宅待機を命じられている以上、待機時間は労働時間に該当するようにも思えます。
 しかしながら、急な呼出しに備えた待機時間といっても、自宅待機の場合には、実際に呼び出されない限り、基本的にどのような過ごし方をするかは労働者の自由です。
 そのため、基本的には自宅待機の時間は労働時間には当たらないと解されています。
 確かに、呼出しがある場合に出勤できる場所にいなければならないことや、外出する際は連絡用の携帯電話を持つ必要があること等の一定の制限はありますが、そのことのみでは、使用者の指揮命令が及んでいるとまでは評価されないのです。

2 待機時間が労働時間に該当する場合
 自宅待機の場合は基本的には労働時間には当たりませんが、緊急の場合の待機時間がすべて労働時間に該当しないというわけではありません。
 場所的拘束や行動の制限の程度、業務と待機時間との関連性等の事情を総合的に判断して、使用者の指揮命令が及んでいるといえれば、労働時間に該当することになります。
 裁判例では、24時間勤務でビルの警備・設備運転保全業務を行う会社における労働者の仮眠時間について、労働時間性が認められたものがあります。この事案では、事業所内での待機である上、警報が鳴った場合は設備の補修等の作業を要することから、実作業に従事していない時間も含め全体として従業員が使用者の指揮命令下に置かれていたと判断されています。

3 待機手当について
 自宅待機の時間が労働時間に当たらない以上、今回のケースでも賃金を支払う必要はありません。
 もっとも、従業員の休日の過ごし方について一定の制約を課すことになるため、自宅待機命令の実効性を担保する趣旨で、一定の手当を支給することは有益です。
 待機手当の額について決まりはありませんが、2,000円~3,000円程度が一つの目安でしょう。
 宿・日直の許可基準として、手当の額が1日の平均賃金の3分の1を下らないこととする行政通達があることから、1日の平均賃金の3分の1を上限にして待機手当の額を設定するもの一つの方法かと考えます。
 

改正個人情報保護法のポイント

(質問)
 個人情報保護法が改正されたそうですが、ポイントを教えてください。

(回答)

1 個人情報保護法とは
 個人情報保護法は、個人情報の適正な取扱い等を目的として制定されており、平成29年5月30日から改正法が施行されています。
 まず、個人情報とは、法律上、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により、特定の個人を識別することができるもの及び個人識別符号(その情報だけで特定の個人を識別できる文字、番号、記号、符号等であって、例えば、DNAや指紋、マイナンバー等があります。)をいいます。
 この個人情報の適正な取扱いをすべき者が、「個人情報取扱事業者」です。
 この個人情報取扱事業者については、旧法下では、いわゆる5,000人要件という例外が設けられていました。即ち、データベース化された個人情報を5,000人分以下しか扱っていない者は、個人情報取扱事業者の定義から外されていたのです。しかし、この度の法律改正により、この5,000人要件が撤廃されましたので、保有する個人情報の数に限らず、個人情報データベースを事業の用に供している者はすべて個人情報取扱事業者として、個人情報保護法上の義務を負うこととなりました。

2 個人情報の取得・利用
 まず、個人情報取扱事業者は、個人情報を取得する際は、その利用目的を特定し、その目的の範囲内で利用しなければなりません。また、その利用目的は、あらかじめ公表するか、又は事後的に利用目的を本人に通知しなければなりません。
 ところで、個人情報保護法の改正により、「要配慮個人情報」という概念が設けられました。要配慮個人情報とは、不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに配慮を要する情報として、法律、政令、規則に定められた情報をいい、例えば、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴等をいいます。この要配慮個人情報については、その取得に際して、利用目的の特定、通知又は公表をすることに加え、あらかじめ本人の同意を得ることが必要とされました。

3 個人情報の保管
 次に、個人情報取扱事業者は、取得した個人情報が漏洩等しないように必要かつ適切な措置を講じなければなりません。ただ、この安全措置は、小規模な事業者にとっては大きな負担となることがあります。そこで、従業員の数が100人以下の中小規模事業者については、特例的な対応方法が呈示されています。

4 個人情報の提供
 個人情報取扱事業者が、個人データ(個人情報データベース等を構成する個人情報)を第三者に提供をする場合には、あらかじめ本人の同意を得ることが原則として必要です。そして、個人情報取扱事業者が、個人データを第三者に提供した場合、逆に第三者から個人データの提供を受けた場合は、一定事項を記録することが必要です。これは、名簿業者等が介在し、違法に入手された個人データが社会に流通しているという実態を受け、個人データの適正な第三者提供を行うためです。

5 開示請求等への対応
 最後に、本人が、個人情報取扱事業者に対して、保有個人データ(個人情報取扱事業者が開示や内容の訂正、追加又は削除などを行う権限を有する個人データのうち、6か月を超えて継続利用するもの)の開示を請求した場合は、個人情報取扱事業者は、それに対応する義務が生じます。

家族信託を用いた社長の判断能力低下への対策

(質問)

(回答)

1 信託とは
 信託とは、委託者が信託契約によってその信頼できる人(受託者)に対して、金銭や土地などの財産を移転し、受託者は委託者が設定した信託目的に従って受益者のためにその財産(信託財産)の管理・処分などをする制度です。

2 信託の手続き
 株式を保有している社長に十分な判断能力があるうちに、後継者と信託契約を結び、自社株式を後継者に信託します。
 株式を託された後継者は受託者になり、株式の議決権は受託者が行使できます。
 そうすると、社長が認知症になって判断能力が無くなっても、受託者である後継者が株式の議決権を行使できるため、会社経営に支障を来たしません。
 また、信託契約を組んだときに、社長を受益者にして委託者と受益者を同一人物にしておけば、贈与税はかかりません。
 そして、将来、社長が亡くなったときは、信託を終了して残余財産である株式を後継者が取得する旨を定めておけば、遺言書の代わりにもなります(いわゆる遺言代用信託)。
 なお、経営者が亡くなっても信託を終了させないことにより、相続による議決権の分散化を防止するための活用方法もあります。

3 回答
 自社株式の家族信託は、経営者の認知症対策や相続による議決権の分散化防止などに活用できるといえます。