月別アーカイブ: 2017年5月

インターネットリテラシーー情報の発信者はどうやって探し出すのかー

(質問)
 インターネットでの書き込みの削除請求をしたいのですが、請求をする相手が誰か分かりません。
 どうやって特定したらいいのでしょうか?

(回答)
 

1 Who is 検索
 削除請求は、実際に問題となる書き込み等をした者のみならず、サイトの運営者や管理者に対しても行うことができます。
 ただ、ウェブサイトによっては、サイトの運営者や管理者等の情報が明記されていなかったり、明記されているとしてもわかりにくく、容易に探すことができない場合があります。このようなときに有用なのは、「Who is 検索」です。
 「Who is 検索」とは、IPアドレスやドメイン名の登録者等に関する情報を誰でも参照できるサービスのことです。「Who is 検索」のサイトには、以下のようなものがあります。

 ・aguse(アグス)
 ・株式会社日本レジストリサービスが運用する検索サイト
 ・一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が運用する検索サイト

 サイト運営者等が分からない場合は、上記サイト等を用い、検索をされることをお勧めします。
 

2 発信者の特定
 問題となる投稿等を発信した者に対して、損害賠償請求等をしようと考えると、発信者を特定する必要があります。
 この発信者の特定は、いわゆるプロバイダ責任制限法に基づき、開示の請求をすることになります。
 この請求は2段階の手順を踏まなければなりません。これは、インターネット上の通信を行うに当たって、多くは、発信者がプロバイダと契約をし、かかるプロバイダを経由してインターネットに接続し、その上でサイト運営者等のサーバと通信を行うことでウェブサイトや掲示板等にアクセスしているからです。
 そのため、サイト運営者等が把握している発信者情報は、当該投稿等がどのプロバイダを経由して行われたのかという情報にすぎず、プロバイダの先のどの契約者から通信が行われたかということまでは把握していません。
 そこで、まず、サイト運営者等に対する請求を行い、次に経由プロバイダに請求を行うという2段階の手続きを踏まなければならないのです。
 具体的には、1段階として、サイト運営者等に対し、問題となる投稿をした際に用いられたIPアドレス及びポート番号や投稿した時刻の開示を求めます。
 第2段階として、当該IPアドレスを割り当てられている経由プロバイダに対して、問題となる投稿がなされた時刻に、当該IPアドレス及びポート番号を使用していた当該経由プロバイダの利用者である契約書の氏名や住所等の情報の開示を求めることになります。
 以上の各段階の請求ですが、共に、裁判外の請求(ガイドラインに則った請求)と、裁判上の請求の両方を行えます。相手が、裁判外の請求に応じてくれればそれでよいのですが、応じてくれなければ、法的手段をとらざるを得ません。インターネットに投稿等を行った発信者の氏名や住所等は、「通信の秘密」の保護の対象となります。
 そのため、この情報を、正当な理由亡く、第三者に漏洩することは、法律で禁じられており、刑事罰を科される可能性がございます。そのため、開示請求を受けた者は、その開示にどうしても慎重になる可能性があるのです。
 

3 労力はかかるけど諦めては駄目
 以上のように、インターネット上で問題となる投稿がなされた場合に、問題となる投稿等を行った者に対して損害賠償等を請求するには、その請求をする相手を特定するのに、非常に労力がかかります。
 とはいえ、インターネット上の投稿等は、全世界に配信され、かつ半永久的にその内容が残ることになります。つまり、その投稿等の被害者が受けるその被害は、甚大なものとなります。単に、労力がかかるというだけで諦めきれるものではないでしょう。
 何か被害をお受けになった場合は、弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。 

職場内の犯罪ー悪気がなくても犯罪に?

(質問)
 職場で携帯電話を充電していたら上司に注意をされてしまいました。
 法律上何か問題があるんですか?

(回答)
 

1 社員の不正とは
 社員の不正とは、会社の金銭を着服する、自社の製品や商品を盗む・横流しする、企業秘密を外部に売り渡すなどがあります。刑法上、業務上横領罪(刑法253条)や事案によっては窃盗罪(同法235条)、背任罪(同法247条)等を構成する悪質な行為となります。そのほかにも、従業員の職務専念義務や誠実義務、職場規律遵守義務等に違反するともいえます。
 この場合、戒告、減給、出勤停止、解雇等の懲戒処分になる可能性があります。
 

2 会社で何気なく起こる犯罪行為 
 上記の例は明らかに犯罪ですが、会社で何気なく起こる犯罪行為もあります。例えば、会社のプロジェクトで経費が余ったから、仕事と関係なく皆でお酒を飲みに行き、後日、領収書を「接待」と称して会社に提出して会社から受け取った飲食代金をちゃっかり自分の財布にしまったら、会社からお金を騙し取っているので、詐欺罪になります。また、ボールペンやハサミなど会社の備品を家に持って帰った場合、会社に所有権のある動産を盗ってしまったということになるので、窃盗罪ですね。
 また、会社で他人のメール内容が気になっていけないとはわかっていても盗み見てしまった場合、場合によっては不正アクセス禁止法にあたり、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されることになります。許可なく他人のIDとパスワードを使って、インターネットからフェイスブックやメールシステムなどにアクセスすることは犯罪です。これは職場内だけでなく、夫婦でも恋人同士でも罪になりますので、「浮気をしているかどうかのチェック」という言い訳は通用しません。
 ご質問の回答ですが、会社のオフィスで、個人で利用している携帯電話やノートパソコンを無断で充電し、それを会社が禁止していれば、電気の「窃盗」として犯罪行為とみなされるので注意が必要です。
 普段何気なくしていることが実は犯罪行為にあたることもあります。お困りの際は弁護士にご相談ください。

盗まれた自分の自転車を持ち帰ったら犯罪?ー自力救済とはー

(質問)
 私の自転車が盗まれて探していたらたまたま駅で発見しました。
 乗って帰っても問題ないですか?
 

(回答)
 

1 勝手に持ち帰れば窃盗罪?
 盗まれた自分の自転車をたまたま発見したとしても、勝手に乗って帰ってはいけません。なぜなら、自転車の所有権は自分にありますが、一時的に他の誰かに占有されている(事実上、支配下に置かれている)状態にあるからです。他人が占有しているものは他人の財物とみなされるため、勝手に持ち帰れば窃盗罪になります。

 刑法第242条(他人の占有等に係る自己の財物)
 自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。

 

2 自力救済とは
 しかし、悪いのは自転車を盗んだ人ですし、盗まれた物を取り返すだけで犯罪になるのは納得いかないと考える人もいるかもしれません。しかし、侵害された所有権を守るためには、法的な手続きを踏まないといけないのです。自分で実力を行使して権利回復する行為は「自力救済」と言われ、原則的に禁止されています。
 禁止されている理由として、私力による権利の実現を認めてしまうと、権力・財力・腕力といった「力」のある者が正義ということになってしまい、場合によっては暴力的な権利行使がなされる可能性があり、社会秩序が混乱する恐れがあるからです。
 自力救済を行ってしまったら、民事上の不法行為責任を負うか、窃盗罪などの刑事責任を負う可能性もあります。
 

3 損害賠償責任を負った裁判例
 大阪高等裁判所昭和62年10月22日判決
 公団住宅から約定に反して無断転居し、賃料の不払いがあった賃借人の部屋に公団職員が立入り、残置物を搬出廃棄し、賃借人が損害賠償請求をした事件。
 処分された残置物のうちには、代替性がなく、特別の主観的価値を有する記念アルバムの無断廃棄が含まれ、かつ、自己のかつての居住場所であり、現に家財道具等を保管しその占有を保持しえいた建物を無断で開け放たれ、よつて、一種のプライバシーを侵される結果となったとみられることから、相応の精神上の苦痛を覚え、また人格ないし名誉毀損が損なわれたと解されるとして、2万円~5万円の慰謝料及び1~2万円の弁護士費用相当額の損害を肯定した。

 この事例では、慰謝料及び弁護士費用のみが許容された場合なので許容額は比較的低額にとどまっていますが、賃貸人が処分した残置物に高額な動産が含まれており、賃借人がその存在を立証したような場合には、当該動産の価値相当額の損害賠償責任が肯定される可能性があります。自力救済はなかなか認められにくいので注意が必要です。
 

4 自力救済が認められる場合
 なかなか認められにくい自力救済ですが、侵害が切迫していて、かつ、後で権利を実現することが困難となる事情ややむを得ない事情がある場合には、例外的に自力救済が許される場合があります。
 横浜地裁昭和63年2月4日判決
 マンションの目の前に自動車が3ヶ月間停めっぱなしの状態にあり、ある住人が再三にわたり督促したものの名義人は意図的に車を移動させなかった。故意に置きっぱなしにしてあると判断し、しびれを切らした住人が車を処分したところ、その所有者が損害賠償請求の訴えをおこした。裁判所は「やむを得ない特別の事情」があるとして損害賠償請求を認めなかった。
 

5 盗まれた自転車を発見した場合の対応
 警察に通報して現場に来てもらった方がいいですね。警察の立ち合いのもと持ち帰りが許される可能性や、盗品として届け出ることで後日返却が受けられる可能性があります。ちなみに、ちょっとコンビニで買い物をしている隙に自転車を盗まれて、いままさに犯人が立ち去ろうとしている現場を目撃し、その場で自転車を取り返す行為は正当防衛なのでOKですが、盗難から数日後、盗んだ自転車に乗った犯人を見かけても、勝手に取り押さえれば自力救済として違法になるので気をつけないといけません。