月別アーカイブ: 2017年3月

リスクマネジメントとは?

(質問)
リスクマネジメントとは何ですか?

(回答)

1 リスクマネジメントとは 
 リスクマネジメントとは,簡単に言えば,①自己の会社内に存在する様々なリスクを洗い出し,②そのリスクの発生を事前に予防する,③リスクが発生した場合の対策を練ることにより,会社の損失を抑えようとするものです。
 今回は,リスクマネジメントの考え方のうち,リスクの事前予防(②)について,説明したいと思います。

2 不正発生のメカニズム 
 一般的に,⑴動機,⑵機会,⑶正当化という3つの要素が存在する場合に,組織内において不正が発生するリスクが高まると言われています。この3要素を「不正のトライアングル」といいます。
 ⑴動機・・・組織内の他者と共有されない個人的なものであることが多く,かつ経済的な性格を帯びていることが多いです。
 ⑵機会・・・不正に対して不十分な内部統制,脆弱な経営監視,組織内の地位・権威といったものにより,不正の「機会」を与えてしまいます。
 ⑶正当化・・・不正を行う人自身が,自身の不正行為を積極的に是認しようとすることで良心の呵責を乗り越えようとするものです。
 典型的な例としては,多額の借金を抱えている(⑴不正の動機がある)経理担当者が,1人でその経理事務を担当しており上司の監督が不十分である場合(⑵不正の機会がある)に,その経理担当者が「盗るわけではなく一時的に借りるだけだ」などという⑶正当化をすると,横領という不正行為が発生することになります。

3 リスクを事前に予防するには? 
 事前にリスクを予防するには,基本的に,不正のトライアングルにいう3つの要素のうち1つでも排除する対策を取ることが肝要です。
 このうち,⑴動機,⑶正当化については,組織風土の緩みなど組織の問題という側面と個人の問題という側面があるため,会社だけではどうしようもない場合もあります。他方,⑵機会については,基本的に会社に問題の所在がありますので,会社としては,対策を取りやすく,⑵機会を排除する対策を取ることが最も効率的です。
上記の例でいえば,経理担当者を複数にする,上司のチェックが及ぶ体制を作る,監視カメラを設置するなどが考えられます。
 また,リスクは,社内の不正に限られません。労務管理,ハラスメント,クレーム等において様々なリスクが考えられます。この機会に一度,自社のリスクについて検討されてはいかがでしょうか。

録画したドラマをインターネット上にアップロードしても問題ないの?

(質問)
 録画したドラマをインターネット上で流れているのをよく見るのですが,問題ないのですか?

(回答)

1 著作物とは
 著作権の対象は,著作物です。
 著作物とは,法律によれば,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものと定義されています。このように定義をしてもわかりにくいかと思いますので,ここでクイズを出しましょう。
 次の内,著作物と認められるものは何でしょうか。
 ①子供の描いた絵
 ②キャッチフレーズ
 ③新聞の死亡記事
 いかがでしょうか? ①から③の内,一般的に著作物と認められるものは,実は,①だけです。
 子供の絵も著作物といえるの?と意外に思われる方もいらっしゃるかと思いますが,実は,子供の絵も立派な著作物なんです。著作物とは,最初に述べましたように,思想や感情を創作的に表現したものです。思想や感情というのは,つまり人間の精神活動の所産であることいい,創作的というのは,著作者自身個性の表出と認められるものであれば足りるとされています。子供の絵というのは,子供の精神活動の所産ですし,子供の個性が表れていますから,立派に著作物といえるんです。
 これに対し,②のキャッチフレーズは,ケースバイケースなのですが,一般的に保護の対象にはなりにくいとされています。キャッチフレーズは,短い言葉で表現されていて,法律で保護されるほどの創作性が認められないことが多いからです。
 また,③については,単なる事実の伝達に過ぎないため,思想又は感情の表現とはいえませんし,創作的ともいえませんから,著作物には当たりません。
 ちなみに,著作権は,登録等の特別な手続なしに発生しますので,この点もご注意下さい。

2著作権とは
 では,著作権とは何でしょうか。実は,著作権は,権利の束と言われており,様々な権利の集まりなんです。大きく言えば,著作物の排他的利用を決めることができる権利なのですが,その中には,複製権,上映権,上演権,展示権等・・・様々な権利が含まれています。なので,冒頭の著作権とはどのような権利かという質問に一言で答えるのは,実は,法律家でも難しいんです。
 著作権を詳しく説明することは困難なので,まずは,著作権のうち,もっとも一般的な複製権について考えてみましょう。
 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により,有形的に再製することをいいます。著作権者は,他人に無断で著作物を複製されない権利を持っているということです。
 では,自宅で,大好きなドラマを録画することは,著作権法違反にならないのでしょうか。
 ドラマには,当然著作権が及んでいますよね。では,これを録画し,複製する行為は,著作権法違反になるとも思えます。
 しかし,著作権法で,「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」,つまり私的な使用については,複製することが許されているのです。そのため,自宅でドラマを録画しても,著作権法違反にはならないのですね。
 では,録画したドラマを,インターネット上にアップロードしたとすれば,どうでしょうか。インターネット上にアップロードすると,不特定多数人がアクセスしますよね。そうなると,もはや私的な使用とはいえなくなるので,著作権法違反となります。
 違法にインターネット上にアップロードされたドラマ等を,そうと知りながら私的使用目的でダウンロード(複製)する行為は,どうでしょうか。実は,このような行為も著作権法違反となり,しかも刑事罰(2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金)まで設けられているんです。
 最近は,インターネット上に著作権法違反と思われる画像等が多くアップロードされていますので,十分気をつけて下さい。

負けた人のおごり~これって,違法?

(質問)
 賭博が違法なのは知っていますが,例えばじゃんけんで負けた人が食事をおごるといったゲーム等も違法になるのでしょうか。

(回答)

1 賭博罪とは
 最近は,賭博が世間を騒がせていますね。某球団の野球選手が,プロ野球の試合の勝敗に対して金銭を賭けていたとして,無期失格等の処分となり,選手生命がおおいに脅かされています。また,某バドミントン選手も,違法な裏カジノで賭博をしていたとして,無期限の競技会出場停止等の処分が下されました。
 野球賭博や裏カジノなどは,我々にはなじみのない世界ですが,例えば,じゃんけんで負けた人が食事をおごるといったゲーム等は,一般的かもしれません。このようなゲームも,違法になるのでしょうか。今日は,賭博について,考えてみましょう。
 刑法第185条に賭博罪の規定があります。そこには,「賭博をした者は,50万円以下の罰金又は過料に処する。」とあります。賭博とは,偶然の事情に関して財物を賭け,勝敗を争うことをいいます。例えば,野球賭博でいえば,報道された事実が真実なら,プロ野球の試合の勝ち負けという偶然の事情に対し金銭を賭けていたことになるので,刑法第185条の賭博罪に該当する可能性が高いといえます。

2 賭博罪に該当する場合・しない場合とは
 これからすると,じゃんけんに負けた人が食事をおごるというゲームも,じゃんけんの勝敗という偶然の事情に食事を賭けているわけですから,賭博罪が成立するのではないかという疑問が生じます。
 実は,刑法第185条には続きがあって,「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは,この限りでない。」とされています。「一時の享楽に供する物」とは,価値の僅少性や消費の即時性等を考慮して決定されます。そして,一般的に食事は「一時の享楽に供する物」に当たるとされています。ですので,じゃんけんに負けた人が食事をおごったとしても,刑法上の賭博罪には該当しない可能性が高いのです。
 一般的に遭遇しがちな出来事で気をつけて頂きたいのが,会社のゴルフコンペなどのイベントにおいて,高額な会費を集めて賞金や高額賞品を出すという場合です。これは,当事者がコンペの結果という偶然の事情に対して財物を賭けているとして賭博罪に問われかねませんので,注意が必要です。
 また,昔からありがちなのが,賭け麻雀です。平成25年の話ですが,警察官が交番で賭け麻雀をしていたとして,罰金10万円の略式命令が出されています。皆が陥りやすい罠といえるかもしれません。賭け麻雀が違法であるのは当然のこととして,賭け麻雀で勝った人が掛け金の請求権を有し,負けた人がその支払義務を負う,ということになるのでしょうか。いいえ,そうはなりません。賭け麻雀は違法な行為ですので,公序良俗に違反するとして,契約は無効になります(民法90条)。

身元保証人の責任について

(質問)
 今般、就職活動をしていた甥から、就職に際して身元保証人になってくれないかと頼まれました。私としては力になってあげたいと考えています。
 もっとも、身元保証書には、甥が会社に損害を与えた場合には理由の如何を問わず一切の責任を負うと書かれており、不安もあります。
 法律的には、身元保証人はどのような責任を負うのでしょうか。

(回答)

1 身元保証法とは 
 今回の身元保証は、被用者が使用者に損害を与えた場合に、身元保証人がその損害を賠償する責任を負うことを約するもので、一種の契約です。
 通常、横領行為などの被用者の不正行為や、事故・病気などで使用者に損害を与えた場合が想定されます。
 これについては、「身元保証ニ関スル法律」(身元保証法)という古い法律があり、身元保証人が過大な責任を負わされることがないよう、その責任を制限しています。 

2 身元保証の期間
 身元保証法は、身元保証契約の存続期間を定めなかった場合、契約期間は、契約成立の時から3年間(商工業見習者の場合は5年間)とすると規定しています。
 これは、被用者が働いているかぎり身元保証が続くことになると、あまりに長期間になる可能性があるためです。
 また、契約期間を定める場合でも、5年を超えることができないとされています。契約の更新を定めることもできますが、その期間は更新の時から最長5年間とされています。
 身元保証法は強行規定ですから、たとえば、契約期間を10年間と定めても、5年を超える期間については無効となります。

3 身元保証契約の解除
 使用者は、①被用者が業務に不適任であったり、不誠実な事由があったため、身元保証人の責任が生じるおそれがあるとき、②被用者の仕事の内容や任地の変更のため、身元保証人の責任が重くなったり、従前のような監督が難しくなるときは、そのことを身元保証人に通知しなければならないこととなっています。
 そして、身元保証人は、このような通知を受けた場合(又は自らそのことを知った場合)には、身元保証人は、身元保証契約を解除することができます。
 一度身元保証人を引き受けたとしても、その後の状況の変化によっては、責任を免れることができるということです。

4 身元保証人の責任 
 身元保証人は、常に全損害を填補する責任を負うわけではありません。
 裁判所は、身元保証人の責任の有無や賠償額を決めるに際には、使用者の監督上の過失の有無、身元保証人が身元保証をした事情や身元保証をする上で用いた注意の程度、被用者の仕事の内容、身上の変化など一切の事情を斟酌することとなっています。
 今回のケースのように、「理由の如何を問わず、一切の責任を負う」との契約は、上記に反する限りで無効となるでしょう。
 最近でも、就職の際に身元保証人を立てることは珍しくありません。その内容については特別法に規律があるのですが、一般の方にはあまり知られていないので、不安があればぜひ弁護士にご相談ください。

 

相続財産とは

(質問)
相続財産についてわかりやすく教えてください。

(回答)

1 相続財産って,何?
 相続財産とは,被相続人(亡くなられた方)が,亡くなられたときに有していた一切の財産をいいます。この定義は,意外に重要ですので,よく覚えておいて下さい。
 なお,当然ながら,相続財産には,プラスの財産もマイナスの財産も含みます。その内訳を調査した上で,相続についてしなければならないことが変わってきますので,相続財産の調査は非常に重要です。

2 相続財産が借金だらけだった場合 
 さて,仮に,相続財産として,マイナスの財産の方が多かった場合に相続をすると,相続人はいきなり借金を背負うことになります。これを避けるには,相続放棄をすることが有用です。
 相続放棄とは,その言葉のとおり,相続を放棄することで,相続放棄をすると,相続人は,被相続人の権利も義務も一切引き継ぐことはありません。
 ここで注意が必要なのは,相続放棄は,自分が相続人となったことを知った時から3ヶ月以内にする必要があるという点です。3ヶ月など,あっという間に過ぎます。身近な人が亡くなった後に,すぐに相続について調査等しなければならないというのは大変なことですが,相続人にはこれからの人生がありますから,この点はしっかりと行動すべきです。
 あと1つ注意をしなければならないのは,相続人が,一定の行為をすると,単純承認,つまりプラスの財産もマイナスの財産も相続することを承認したとみなされるということです。この「一定の行為」とは,例えば,相続財産の一部を使ってしまった場合があげられます。相続財産の全てを調査する前に安易に相続財産に手を出し,その後に多額の借金が見つかったから相続放棄をする…等ということはできないのです。どうぞ,お気をつけ下さい。

3 多額の相続財産があった場合 
 今までの話とは逆に,親が沢山の相続財産を残してくれている場合もあります。非常にありがたい話ですね。しかし,ただ喜んでばかりはいられません。この場合は,相続税という問題が発生してくるからです。
相続税とは,個人が被相続人から相続などによって財産を取得した場合に,その取得した財産に課される税金のことをいいます。
 相続税には,基礎控除がありますので,それを上回る遺産がある場合にのみ,税金を支払わなければならないということになります。基礎控除額は,3000万円+600万円×法定相続人数となります。基礎控除額は,平成26年までは5000万円+1000万円×法定相続人数だったのですが,これが平成27年1月1日以降,先ほど述べた額に減額されました。そのため,相続税を払わなければならない人が一気に増えたわけです。
 そして,相続税は,相続があったことを知った日から,10ヶ月以内に確定申告をし,その申告期限までに納税をしなければならないと定められています。相続税を支払わなければならないのに,何もせず10ヶ月という期間を経過してしまうと,無申告加算税や延滞税を課される危険があります。
 また,10ヶ月の期限内に申告することで,小規模宅地特例や配偶者特例といった相続税の負担を軽減する特例の適用を受けられるというメリットもございます。小規模宅地特例とは,相続又は遺贈により取得した財産のうち,相続開始の直前において,被相続人等の事業や居住の用に供されていた宅地等につき,一定の要件で相続税の課税価格に算入すべき価格を減額することを認めてくれる特例です。例えば,被相続人等の居住の用に供されていた宅地等であれば,330㎡で80%の減額を認めてくれます。この場合,土地の価格が1億円であったとしても,2000万円で相続税の計算ができるわけです。また,配偶者特例とは,被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が,1億6000万円か,配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
 これらは,相続税の算定にとって重要な制度ですので,10ヶ月以内の相続税の納付は重要になってきます。

4 相続税対策とは 
 さて,相続税対策としては,その額を如何に減らすかという対策と,相続税納付の金銭を用意するという対策が考えられます。
 相続税対策としては,生前のうちにできる対策として,例えば,教育資金の贈与が考えられます。国は,教育資金を贈与した場合,贈与税を非課税にするという制度を設けました。通常は,金銭を贈与すると,例えば1500万円以下だと,45%という高率の税金がかかります。
 しかし,平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に,30歳未満の方が,教育資金に充てるために,金融機関等との一定の契約に基づき,受贈者の直系尊属から,①信託受益権を付与された場合,②書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預け入れをした場合,③書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合には,その価格の1500万円までの金額に相当する部分については,贈与税の課税価格に算入されないという制度が設けられました。
 教育資金には,例えば、入学資金の検定料,入学金や授業料,学用品の購入費,更には,学習塾やスポーツ,ピアノといった文化芸術に関する活動の対価等が含まれます。相続税のことを考え,有効なお金の使い方をしたいものですね。
 もう1つの相続税対策としては,相続税納付の金銭を用意するという点があります。相続財産が多くとも,その大半が不動産等容易に金銭に換価できないものであった場合,相続税の納付が難しくなることがあります。
 このようなときに有用なのが,生命保険です。ここで,冒頭の相続財産の定義を思い出して下さい。相続財産とは,被相続人が,亡くなられたときに有していた一切の財産をいいます。つまり,被相続人が亡くなって初めて保険料がおりるという生命保険は,相続財産を構成しないのです。そのため,生命保険金は,原則として受取人が自由に用いることができます。そして,生命保険金は,相続税の対象ではありますが,500万円×法定相続人の人数につき,非課税となりますので,これを有効活用すると良いでしょう。
 相続対策は,生きている内から始まります。相続は,感情の対立で容易に「争族」となってしまいますので,「争族」にならないための対策は非常に重要で,相続は誰しもが経験するものであるということを肝に銘じ,早めに対策をして下さい。

リハビリ勤務とは?

(質問)
 当社では、メンタルの不調のため3か月ほど休職している従業員がいます。
 症状に改善がみられるとのことで、復職に向けた協議をはじめたのですが、最初は、短時間での簡単な作業から慣らしていくということなどを検討しています。
 ただ、当社の就業規則ではこのような取扱いの定めはありません。
 給与の支払いはどうしたらいいでしょうか。

(回答)

1リハビリ勤務とは 
 心身の故障で休職していた従業員が復職するに際して、いきなり元の業務を行わせるのではなく、短時間の勤務や軽い作業から慣らしていく制度を設ける会社が増えています。
 このような形態を、リハビリ勤務等と呼ぶことがあります。
 労働基準法等にはリハビリ勤務の定めはなく、会社としてはこのような制度を導入する法的義務はありませんが、制度を設ける場合には就業規則に具体的な定めを置くことが望ましいといえます。
 もっとも、就業規則に定めがなくても、当該従業員との個別の合意によって、リハビリ勤務をすることは可能です。

2 リハビリ勤務の法的位置付け
 リハビリ勤務といっても、法律的な位置付けは一様ではありません。
 大きく分けると、①休職期間を継続させつつ、休職者が出社して一定の期間、簡単な作業等を行うものと、②復職として取り扱いつつ、最初は軽易な業務から段階的に従前の業務に戻していくものがあります。
 ①は復職に向けたリハビリをしたり、復職が可能かどうかを判断するための期間ですが、②は復職を認めることが前提となっています。
 今回のケースでどちらの取扱いをするのかは、従業員の回復の程度や、リハビリ勤務として行わせる作業(業務)の内容などを踏まえて検討する必要があります。

3 リハビリ勤務を導入する際の注意点 
 上記①の取扱いは、休職者が、休職期間中、自主的に出勤してリハビリすることを会社が認めるものです。そのため、従業員がした作業は労務の提供とはいえませんし、休職期間中ですから、就業規則に別段の定めがない限り、給与は発生しないのが原則です。
 また、リハビリ期間中に一定の作業を行っても、それは会社の業務とはいえませんから、作業中に災害が発生した場合でも労災保険は使えません。
 就業規則に定めがない場合には、これらの点を説明して当該従業員の承諾を得る必要があるでしょう。

4 制度を導入する場合の注意点 
 なお、形式的に上記①の取扱いを採用しても、実際にリハビリのための軽易な作業にとどまらず、使用者の指揮命令のもと、会社の業務を行わせているということになれば、給与の支払い義務が生じます。また、そもそも、会社は復職を認めていると判断されるおそれもあります。
 加えて、実際に危険を伴う作業に従事させる場合には、たとえそれが労務の提供とは認められないものであるとしても、会社として安全配慮義務を免れることはできないことにも注意が必要です。
 リハビリ勤務等の制度は,休職中の従業員のスムーズな復職には有用な制度です。ただし、制度を導入するにあたっては、その法的な位置付けとルールを明確にしておく必要があります。

職場内での不倫―プライベートの問題では済まされない?―

(質問)
 当社の男性部長が,部下の女性従業員と長期間に渡って不倫をしていることを職場で公言していました。さらに,当該男性部長は,職場で当該女性従業員と肉体関係をもったようです。このような状況が続いているため,職場の士気が低下してきています。
 この男性部長の行為は,あまりにも目に余ります。ので,当社としては,どのようにすべきでしょうか。男性部長に対して,不倫をやめるように業務命令を行う,または懲戒処分をしたいと考えています。このようなことが可能でしょうか。

(回答)

1 不倫によって生じる法的責任
 当然のことですが,不倫は,配偶者を裏切る行為であり,社会的にも道徳的にも非難される行為です。不倫をした者に道義的責任が生じるのは当然ですが,場合によっては,配偶者または不倫相手の配偶者に対して損害賠償責任を負うことにもなります。

2 不倫をやめるように業務命令を行うことはできる?
 不倫は,社会的にも道義的にも非難される行為です。しかし,不倫は,職場内とはいえプライベートの事柄であるといえます。そのため,注意を促す程度であればともかく,業務命令で不倫をやめさせることはできないこととなります。

3 不倫について懲戒処分をすることはできる?
 懲戒処分は,会社が企業秩序や職場規律を維持するために,これを乱した従業員に対して行う制裁になります。 そのため,従業員の不倫についても,それがプライベートの範疇の問題にとどまり,企業秩序や職場規律に影響しない限りは,懲戒処分の対象とすることが難しい可能性があります。
 もっとも,不倫というプライベートに関するものであっても,不倫それが企業秩序や職場規律を乱している場合や,企業の社会的評価を毀損している場合には,懲戒処分の対象となり得ます。その際には,両者の地位,職務内容,交際の態様,業態等に照らして,企業秩序や職場規律を乱したかどうかを判断することになります。例えば,業務時間内に不倫相手とデートに出かけた場合,自らの不倫が原因で,相手の配偶者が職場に現れて修羅場になったような場合には,企業秩序や職場規律を乱したとして,懲戒処分の対象になり得ると考えられます。
 御相談では,男性部長が部下の女性従業員と不倫をしていることを公言しいており,他の従業員の士気に影響することが強く予想されること,及び職場内で肉体関係をもったとのことであり,このこと自体が職場秩序を乱していると考えられることから,単なるプライベートの問題にとどまらず,企業秩序や職場規律を乱していると考えられます。そのため,懲戒処分を有効に行うことができると考えられます。
 なお,懲戒処分を行う際には,当該処分が懲戒の対象となる行為に照らして相当なものかを考える必要があります。

4 不倫をしている従業員がいたらどのようにすればいい?
 前述のように,職場内での不倫は,企業秩序や職場規律を乱しているといえない限り,懲戒処分の対象とすることが難しい場合がありますことになります。もっとも,そのような場合でも職場の士気が低下する可能性がないとはいえません。そこで,職場内での不倫が,懲戒処分の対象とまでならない程度の場合には,不倫をしている従業員を人事異動させて,両者を離すことを検討すべきです。
 ただし,人事異動の理由が,もっぱら職場内での不倫をやめさせるためのものであり,業務上の必要性が高くない場合には,当該人事異動は無効であるなどと主張されるリスクがありますので,慎重に行う必要があります。

5 ルールを守る職場づくりを!
 不倫に関してのみならず,社会には様々なルールがあります。ルールをしっかりと守ることは基本的なことですが,とても重要なことです。
 不倫に限らず,不祥事を防ぐためにはどのようにしていくべきかお悩みの方は,弁護士などの専門家に御相談することをお勧めします。

定年後再雇用の賃金カットのリスク

(質問)
 当社では、高年齢者雇用確保措置として、定年後再雇用を導入しています。
 当社の定年後再雇用では、1年ごとに更新する有期雇用契約にしており、勤務形態は、嘱託社員です。
 業務内容、業務内容及び配置の変更の範囲は、定年前と変わりありませんが、賃金は正社員の場合に比べて概ね3割減っています。
 このような運用で何かリスクはないでしょうか。

(回答)

1 定年後再雇用の労働条件
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づいて、さまざまな高年齢者雇用確保措置が採られていると思われますが、中小企業においては、定年後再雇用の方法を導入している企業が多いものと考えられます。
そして、定年後再雇用においては、一般的に定年前よりも賃金が低減するケースが多いのではないかと思います。

2 労働契約法第20条のリスク
 労働契約法第20条は、簡単に言うと、有期雇用労働者と無期雇用労働者との間で、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理な労働条件の相違を禁止するルールです。しかし、この規程は、あくまでも不合理な労働条件の相違を禁止するルールであって、有期雇用労働者と無期雇用労働者の同一労働同一賃金を規定するものではありません。
 企業にとっては定年後再雇用の従業員の給料低減が労働契約法第20条違反となるリスクがあることは認識する必要があります。

3 裁判例
この点に関して、定年後に有期雇用契約の嘱託社員として再雇用する場合において、業務内容及び配置の変更範囲が定年前と定年後で変わらない場合には、特段の事情がない限り、賃金を正社員と異なる条件にすることは不合理であり、変更後の賃金の定めは、労働契約法第20条に違反すると判断した裁判例があります(東京地方裁判所平成28年5月13日判決)。
 これに対し、控訴審判決は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは社会一般に広く行われていること、②年収ベースで賃金の差は2割程度であること、③企業の収支が大幅な赤字であったこと、④各種手当について工夫をしていたこと、⑤労働組合との団体交渉を行って、一定の労働条件の改善を行っていたことから、不合理な差異とはいえないと判示しています(東京高等裁判所平成28年11月2日判決)。
 簡単に言えば、地裁判決は、定年前と定年後の職務の内容等が同じであれば、特段の事情がない限り違法とするのに対し、高裁判決は、職務の内容等とその他の事情を総合的に考慮して違法かどうかを判断しており、判断の手法に相違点があると思われます。

4 回答
 貴社において、定年後再雇用の職員が定年前のときと、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲が全く同じであれば、その他の事情にもよりますが、労働契約法第20条に違反すると判断されて、定年前の賃金との差額を請求されるリスクがあります。
 貴社がかかるリスクを避けるためには、定年後に再雇用する従業員の職務内容等が定年前のものと異なるようにすることを工夫することなどが考えられます。
 他には、定年後の人材確保や従業員のモチベーションアップも考慮して、定年後再雇用ではなく、65歳定年制を採用するとか、定年後も含めた賃金制度を再設計することも考えられます。

競業制限リスク

(質問)
 当社は、退職した従業員が、当社のノウハウなどを使って競業を営んだり、ライバル会社に転職したりすると、当社の利益が侵害されるおそれがあると考えています。
 そこで、退職後、当社の事業と競業する会社への転職や事業を営むことを制限する合意書を締結したいと考えていますが、これはどのような場合に有効になるのでしょうか。
 また、この競業を制限する合意に違反した元従業員に対して、どのような措置が考えられますか。

(回答)

1 競業を制限できる範囲
 従業員には職業選択の自由がありますから、貴社がその従業員の退職後、貴社と事業が競合する会社に就職したり、事業を営まないとの誓約書や合意書さえ作成すれば良いということにはなりません。仮に、同業他社への就職等を今後一切禁止するという内容の誓約書や合意書を作っても、無効となるリスクが高いといえます。
 では、どの程度なら、退職従業員の競業会社への転職等を制限できるのでしょうか。
 この点が争われた裁判例では、一般的に、①競業避止義務を課す目的(必要性)、②従業員の退職前の地位、③競業が禁止される期間、職種、地域の範囲、④代替措置の有無や程度等の諸事情を考慮して、競業避止の合意の有効性を判断しています。
 あるケースでは、当該従業員が、店舗での販売方法や人事管理の在り方を熟知する重要な地位にあること、競業禁止期間が1年間であること等から、競業避止を定めた誓約書は有効であると判断されています。
 逆に、競業禁止期間が1年間であっても、地域や業務に限定がないこと、当該従業員の地位・職務、代替措置がないこと等から、競業禁止規定を無効と判断されたものもあります。 

2 競業行為の差止請求
 競業避止義務違反に対するもっとも直接的な対応としては、競業行為そのものをやめるよう請求することです。
 これについては、退職従業員が、競業関係にある新会社の取締役に就任した事案で、競業行為の差止めを認めた裁判例があります。
 もっとも、競業行為の差止請求は、退職者の職業選択の自由を直接制限するので、競業避止の合意がなされていることが前提で、かつ、その期間や範囲は相当程度限定されている必要があります。
 上記の裁判例も、競業避止期間が2年間という期間で、制限される業種も特殊な分野である事例であったことに留意する必要があります。

3 損害賠償請求
 競業行為をした元従業員や、競業会社に対して、損害賠償を請求することはできるでしょうか。
 法的な根拠としては、競業避止合意違反による債務不履行責任のほか、不法行為による損害賠償請求も考えられるところです。
 ただし、損害賠償請求といっても、元従業員の競業行為によって、具体的にいくらの損害が生じたのかという点は大きな問題です。
 理論的には、元従業員が競業行為をしていなければ得られたはずの利益と、現実に得られた利益の差額が損害ということになりますが、これを裁判で立証するのは一般的に極めて難しいといえます。

4 退職金の減額又は没収 
 退職従業員に対する競業避止義務違反への対応としては、退職金の減額や不支給も考えられます。これについては、就業規則か退職金規定に事前に定めを設けておく必要があります。
 もっとも、実際に減額や不支給が認められるかについては、当該退職金の性質、従業員の契約違反の程度、使用者が被った不利益等の個別具体的事情により、無制限に認められるわけではないことに留意すべきです。

5 回答 
 貴社は、就業規則等において、競業制限に係る一般的な規定を設けることで、競業に対する一般的な警告を行うことになります。
 次に、個別の誓約書において、当該従業員の地位、職務内容等を踏まえ、競業禁止期間や地域が相当程度限定された合理的な競業制限の合意を定めておけば、それに違反した元従業員に対し、競業行為の差止め、損害賠償が可能になる場合があります。
 また、退職金の減額又は不支給を、あらかじめ就業規則や退職金規程で定めておけば、それも可能になる場合があります。
 なお、個別の誓約書の例は、次のとおりです。

 誓約書
(例)
 私は、次の行為を行わないことを誓約します。
 ⑴ 退職後1年間、私が在職中に担当した○○市内における貴社の顧客に対して、貴社の行う事業と同一若し  くは類似のサービス又は商品の勧誘、受注等を行い、又は、第三者にかかるサービス又は商品の勧誘、受注  等を行わせること。
 ⑵ 退職後、1年間、○○市内において、貴社の事業と競合する事業につき、私が貴社で担当した事業と同一  若しくは類似の事業を自ら直接又は間接に行い、又は貴社の事業と競業する事業を行う法人又は個人事業と  の間で労働契約、委任契約若しくはこれに準ずる契約を締結すること。

従業員の退職と競業避止義務について

(質問)
 昨年、当社に長年勤務してきた従業員Aが退職したのですが、先日、取引先からの情報で、Aが当社のライバル会社に転職したことがわかりました。
 当社での経験を利用して、当社の利益に反する行為をするのは、恩を仇で返すようなもので許せません。
 Aの行為は違法ではないのでしょうか。

(回答)

1 退職従業員の競業避止義務 
 就業規則には、従業員の在職中の競業を禁止する規定があるのが通常ですが、仮に就業規則に規定がなくても、従業員には競業避止義務があると考えられています。労働者には、労働契約から生じる信義則上の付随義務として、使用者と利益相反する行為を差し控える義務があると解されるからです。
 もっとも、退職後は、使用者との契約関係がなくなり、逆に、元従業員には職業選択の自由があるわけですから、当然には競業避止義務は生じません。今回のケースでは、ライバル会社に就職しないこと等を内容とした誓約書や合意書を作っておく必要があったといえます。

2 競業を制限できる範囲
 元従業員には職業選択の自由がありますから、誓約書や合意書さえ作ればそれでよい、ということにはなりません。仮に、同業他社への就職を今後一切禁止するという内容の誓約書や合意書を作っても、無効となる可能性が非常に高いといえます。
 では、どの程度なら、退職従業員の競業を制限できるのでしょうか。
 この点が争われた裁判例では、一般的に、①競業避止義務を課す目的(必要性)、②従業員の退職前の地位、③競業が禁止される期間、職種、地域の範囲、④代替措置の有無や程度等の諸事情を考慮して、競業避止の合意の有効性を判断しています。
 大手家電量販店のケースでは、当該従業員が、店舗での販売方法や人事管理の在り方を熟知する重要な地位にあること、競業禁止期間が1年間であること等から、競業避止を定めた誓約書は有効であると判断されています。
 逆に、競業禁止期間が1年間であっても、地域や業務に限定がないこと、当該従業員の地位・職務、代替措置がないこと等から、競業禁止規定を無効と判断したものもあります。 

3 競業避止を定める際のポイント 
 様々な事例をみる限り、「競業禁止の期間が1年程度であれば有効」などといった単純な基準はなく、事案に応じて総合的に判断するしかありません。
 ポイントは、客観的にみて、元従業員の職業選択の自由を制限してまで競業を禁止する必要性が会社にあるか、制限の度合いが職業選択の自由との兼ね合いでバランスが取れているか、ということです。
 たとえば、ある程度重要な地位を有する従業員であっても、会社の市場が岡山県内に限定されていて、他府県への進出する具体的な計画もないのであれば、他府県を市場とする同業他社への転職を禁止する合理性は、通常、認められないでしょう。 
 今回のケースのように、有効な競業避止条項を事前に定めていない場合、退職後に競業行為が発覚しても対抗措置を取ることは困難です。お困りの際は弁護士にご相談ください。