月別アーカイブ: 2017年2月

試用期間後の本採用拒否と試用期間延長のリスク

(質問)
当社は、3か月の試用期間中のYに対して、試用期間終了の1週間前に「期待していたより仕事ができない」ことを理由として本採用拒否を告げました。
 このような本採用拒否は、違法にはならないでしょうか。
 また、もう少しYの適正をみようとして、試用期間の延長はできるのでしょうか。

(回答)

1 試用期間の法的性質
 多くの企業では、従業員の入社後に、数か月の試用期間を置き、従業員としての適格性を評価して、本採用とするか否かを判断する制度を設けています。
 試用期間の法的性質について、判例は、通常の試用期間は解約権留保付労働契約であるとしています(最高裁判所昭和48年12月12日判決)。
 このように、試用期間は、企業からすると、単に試しに使用しているという意味ではないことに注意する必要があります。

2 本採用拒否が認められる場合
 上記判例によれば、試用期間中も期間の定めのない労働契約が成立しているため、本採用拒否は、留保された解約権行使の適法性の問題となります。
 そして、判例は、留保解約権の行使が適法とされるためには、通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められてしかるべきとはしてはいますが、基本的に、解雇権行使は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とするとされています(労働契約法第16条参照)。
この社会通念上相当として是認されうる場合と客観的に合理的な理由の判断においては、労務の提供が行われていない内定取消の場合より厳格に判断される傾向にあります。実際には、本採用前の暴力事件への関与の発覚や、欠勤・遅刻などの勤務不良の程度が平均的な労働者を上回り改善の可能性がないなどの理由が必要とされています。
 したがって、企業からすると、本採用拒否を行うのは、解雇と同様、その結果が予測しにくいというリスクがあります。

3 試用期間を延長するには就業規則の規定が必要
 従業員の立場から見れば、試用期間は働きぶり等によっては本採用を拒否されかねないという不安定な期間です。したがって、試用期間の延長は、就業規則等において、延長があり得る旨と、延長の理由及び延長期間等が定められていてはじめて、行うことができます。
 試用期間の延長を行うためには、例えば、「従業員としての適格性を判断するため必要と認めるときは、会社は、3か月を限度として試用期間を延長することができる。」などというような規定を就業規則に盛り込むことが必要です。
 このように就業規則は、仕方がないから作成するといった類のものではなく、企業が自らを守るための大変重要なツールです。

4 回答
 貴社は、Yが、「期待していたより仕事ができない」とのことですが、勤務成績不良・労働能力不足については、平均より低いだけでなく著しく不良であることを客観的に明らかにできない限り、会社内での教育・研修の不備の問題とされかねない点に注意が必要です。
 したがって、貴社のYに対する本採用拒否は、認められないリスクが高いといわざるを得ません。
貴社は、Yと十分協議の上、自主退職に持っていくか、Yを本採用にした上で、OJT等により職業能力を向上させていくという選択になります。

従業員が休日に逮捕された場合の懲戒解雇の可否

(質問)
当社の従業員Yは、休日にスマホでの女性のスカート内の撮影をした容  疑で迷惑防止条例違反で逮捕されて、新聞に載ってしまいました。
そして、当社の従業員が盗撮といった書き込みがSNSでなされるよう  になってしまいました。
当社は、Yを懲戒解雇できるのでしょうか。   

(回答)

1 従業員の犯罪が即懲戒解雇ではない。
 中小企業が注意する点は、就業規則の懲戒事由に「犯罪行為を犯したとき」というような規定を設けている場合でも、従業員が犯罪で逮捕されたからといって、必ずしも直ちにこれに該当するとして懲戒処分ができるわけではないということです。
 懲戒処分は、企業秩序を維持するために認められていますが、従業員の私生活上の言動は本来企業秩序とは無関係であるため、本来は懲戒処分の対象とはならないからです。
 もっとも、現実には、従業員の私生活上の非行であっても、会社の社会的評価が低下するということはよくあることです。そのため、裁判例においては、私生活上の行為についても、会社の社会的評価を低下させるおそれがあると客観的に認められる場合には、懲戒処分ができるとされています。

2 従業員の勤務時間外の犯罪による会社のリスク
 従業員の勤務時間外の犯罪は、会社の業務とは無関係な出来事ですが、会社は無関係という訳にはいきません。
 というのは、ご質問にあるように、SNSを通じての会社の信用低下が考えられるからです。
 また、会社にとっては、人員が欠けることによる業務の遅延、取引先に対するサービスの低下もリスクとなります。
 なお、インターネット上に半永久的に従業員の犯罪に関する情報が残存する可能性があり、影響が長期に及ぶ可能性もあります。例えば、大学生等が就職活動中に企業情報を得ようとした際に、意図せず過去のその会社の従業員の犯罪の事例も閲覧されるリスクがあります。

3 回答
 貴社は、Yの迷惑防止条例違反という犯罪が6月以下の懲役という比較的軽微な犯罪ではあるものの、極めて破廉恥な行為であること、社名がSNSでオープンになって会社の信用を著しく毀損されたことを理由に、Yに対する懲戒解雇の可否を検討することになります。
 ただし、懲戒解雇はリスクがあるので、普通解雇、さらには退職を促す方が無難かもしれません。