月別アーカイブ: 2017年2月

ネットを使った虚偽・誇大広告は違法?

(質問)
 ネットショッピングをしていて気になったのですが,「「このお茶を飲むだけで10キロやせます」といった表示をしてもいいのですか?

(回答)

1 ネットを使った虚偽・誇大広告 
 誇大広告等の禁止については,特定商取引法第12条の次のとおり規定されています。
 「事業者は、通信販売をする場合の商品・サービス等の提供条件について広告をするときは、サービスの性能・内容、クーリングオフ・契約解除についての特約や、その他の経済産業省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をしたり、実際のものよりも著しく優良であったり、有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。」
 今回の相談のケースは,「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり,もしくは有利であると人を誤認させるような表示」にあたる疑いが強いです。
 経済産業省が事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることがあります。これに答えることができなければ,「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり,もしくは有利であると人を誤認させるような表示」であるとみなされます。
 虚偽・誇大広告の表示をした販売業者は100万円以下の罰金や業務停止命令の対象となります(15条,72条3号)。

2 一般の消費者が基準 
 他にはどのような表示があるかというと,すでに新型ではなくなっているパソコンを最新機種と表示したり,実際に農林水水産省と関わりがないのに農林水産省認定と表示したり,偽物を有名ブランドの商品であるかのように誤審させるような表示が考えられます。
 ただし,このような表示が必ず違法であるというわけではありません。前述のとおり,「著しく」に該当するかがポイントです。
 商品を購入する方も多少の誇張がなされているかもしれないことは予想できると思いますが,「著しい」と定められているのは,そのような通常の場合を超えた「著しい」場合のみ違法となるという意味です。
 著しいか著しくないかという判断は,具体的には,個々の広告について判断されますが,例えば,一般の消費者が広告に書いてあることと事実とが違うことを知っていれば,当然,契約することはないような場合は,「著しい」といえます。
 つまり,特定商取引法は,訪問販売など消費者トラブルを生じやすい特定の取引類型を対象に,トラブル防止のルールを定めて,事業者による不公正な勧誘行為等を取り締まることにより,消費者取引の公正を確保するための法律ですので,消費者の目線が基準となります。
 同じように,「誤認するような表示」かどうかの判断も,一般消費者からみて誤認するかどうかを基準とします。

3 契約の解除や取消し 
 虚偽広告や誇大広告を信じて商品を買ってしまった場合,契約の解除や取消しはできるのでしょうか。
 販売業者が故意に虚偽の事実を表示して,消費者を騙して商品を購入させたような場合は,詐欺に当たりますので,取り消すことができます。
 また,ケースによっては,消費者契約法による取り消しも考えられます。
 具体的な事案によって異なりますので,弁護士にご相談ください。

作業効率の大変悪い従業員の解雇の際の注意事項

(質問)
 当社には、作業効率が大変悪く、業務のボトルネックになっている従業員Yがいます。
 他の従業員もYと一緒に仕事をしたがらないどころか、Yがいることで、他の従業員のモチベーションも下がっているようです。
 そこで、当社としては、Yを解雇したいのですが、注意すべき点は何でしょうか。

(回答)

1 退職勧奨が無難だが
 最近、中小企業の担当者から、採用した従業員の中に非常に業務遂行能力が著しく劣っているとか、指示されたことしかやれないといったぼやきを聞くことがあります。
 中小企業とすれば、限られた人員で業務をやりくりしていかなくてはいけないので、業務遂行能力が著しく劣っている従業員については、辞めてもらいたいというのが偽わらざる本音でしょう。そのような場合に最も無難な手段は、退職勧奨を行って本人から退職してもらうことです。
 しかし、一般的に、そのような従業員に限って、退職金の加算などを提案しても、退職勧奨に応じてもらえないことが多いようです。

2 無理な解雇は禁物
 この種の相談を受けていると、中小企業経営者の中には、こういう時のために普通解雇事由で「作業能率が不良のとき」と掲げているのだと、就業規則を持ち出して来られるケースがあります。
 しかし、就業規則で上記のように定められていても、すぐに解雇して良いわけではありません。解雇には客観的な合理的理由と社会通念上の相当性が必要ですから、作業能率が著しく悪いという抽象的な理由で解雇すると、解雇権を濫用したとして、解雇の無効を主張されてしまうリスクが高いことになります。

3 解雇回避努力が重要 
 会社が有効に解雇をするためには、その前に、解雇回避努力を講ずることが必要です。例えば、勤務成績不良を理由とした解雇が有効と判断された裁判例では、従業員を解雇するに当たり、事前に、作業内容がより単純な場所への配置転換や、作業指示、作業結果、作業態度の日誌への記録とそれを基にした指導監督、さらには、当該従業員のみ勤務時間をずらすなどの、さまざまな措置が講じられていました。
 このように、会社が解雇を有効に行うためには、そのプロセスにおいて、解雇を回避するために会社としてできるだけのことを行わなければならないのです。

4 回答 
 貴社は、Yの作業効率がどれくらい他の従業員と比較して悪いのかを数値的なデータで示せないかを検討すべきです。
 また、作業内容がより単純な業務はないか、作業効率向上のための教育、指導等の解雇回避努力を行った上で、それでも是正されない場合に解雇を検討すべきです。
 Yが解雇を無効だと主張し、いわゆる合同労組などに駆け込んでしまうと、争いは泥沼化していきます。
 貴社は、問題のある従業員への対応は、とりわけリスクが高いものとして取り扱い、慎重を期す必要があります。

採用内定の取消しのリスク

(質問)
当社は、Yに採用内定を出しました。
しかし、その後、Yの研修態度を見ていると、協調性がなく、態度も悪いので、内定を取り消したいと考えていますが、可能でしょうか。 

(回答)

1 採用内定の法的性格 
 中小企業においても、新卒者を採用する場合、在学中に採用内定を出しておいて、卒業後に採用するという方法を取ることが一般的です。 
ただ、企業からすれば、採用内定から実際の採用時まで時間が空くので、その間にさまざまな事情が生じ、採用内定を取り消したいと考えるようになることもあり得ます。
 採用内定の法的性質について、判例は、始期付解約権留保付の労働契約であるとしています(最高裁判所昭和54年7月20日判決)。この場合の始期とは、学校卒業後の就労開始時期のことです。また、解約権留保権付とは、会社と新卒者に解約権が留保されているということです。

2 採用内定の取消リスク 
 ここで重要なのは、採用内定によって、労働契約が既に成立しているという点です。そして、貴社の解約権の行使が適法と認められるのは、判例によれば、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合です。
 中小企業によっては、解雇とは異なり、内定取消を比較的安易に行ってしまうリスクがあるので、この点の注意が必要です。

3 採用内定を取り消せる場合 
 貴社は、Yが協調性がなく、態度が悪いので採用内定を取り消したいとのことですが、この理由はやや主観的、抽象的な理由であるように思われます。業務に支障が出る程度の具体性をもった理由でなければ、客観的に合理的で社会通念上相当な理由とはいい難いと考えます。
 例えば、履歴書に虚偽記載をしており、その内容や程度が重大であることから、従業員としての適格性に問題があることが判明した場合や、学校を卒業できなかったり、病気になったりして働くことができなくなった場合などはこれに当たるでしょう。
 中小企業とすれば、大企業にも増して、会社の将来を担う人材を早期に、そして確実に確保したいと考えるのは当然です。しかし、一方で、焦って採用内定を出してしまうと、それを後で取り消せないというリスクに陥ってしまいます。
 そのリスクを防ぐためには、景気予測や退職者数の予測と、次年度の貴社の事業計画の見通しを十分に行いつつ、的確な採用計画を立てて、過不足のない合理的な採用内定を出す必要があります。

4 回答 
 貴社としては、Yについて、抽象的に協調性がないとか、態度が悪いという理由だけでは、内定取消しが認められないといわざるを得ないので、Yと十分協議の上、内定辞退か内定取消しの合意に持っていくべきです。

免許取消処分の従業員を解雇の可否

(質問)
 当社の従業員は、勤務時間外に飲酒運転をして、第一種運転免許の取消処分を受けました。この従業員は営業職で、自動車を運転できなければ営業の業務ができません。 
 当社は、この従業員を解雇することはできるでしょうか。

(回答)

1 飲酒運転の厳罰化
 中小企業では、大企業と同様、営業に力を入れている会社が多いように思われます。卸売・販売業では、従業員の大半が営業職員である会社も珍しくありません。そこで、従業員が免許取消処分により、自動車での営業ができなくなると、会社にとっては、その従業員は不要ということになります。

2 ポイントは「格別高度の専門性」 
 職種を営業職に限定して採用した従業員が、免許取消処分によってもはや業務ができなくなった場合は、この従業員は、契約上の業務の履行ができないと言わざるをえません。
 しかし、タクシー運転手の職務に必要な普通自動車二種運転免許を喪失したとしてなされた普通解雇が争われた訴訟において、採用した職種が一定の資格を求めるようなものであっても、格別高度の専門性を有しないものであれば、解雇できないと判断した裁判所があります(東京地方裁判所平成20年9月30日判決)。そして、「格別高度の専門性」がある資格としてこの裁判例で例示されているのは、税理士、弁護士、医師等です。すると、普通自動車第一種免許は「格別高度の専門性」がある資格とまでは言えないでしょうから、ご質問のケースでは、貴社は免許取消処分を受けた従業員を解雇できないことになります。

3 就業規則に記載があった場合はどうか。
 会社において、たとえ、就業規則の懲戒解雇の事由として、「酒酔い運転又は酒気帯び運転をしたとき」と記載されていたとしても、プライベートでの飲酒運転で、会社の信用低下等の実害が生じていない場合には、やはり懲戒解雇は認められないと考えられます。

4 回答
 貴社の営業職従業員が自動車の運転を必要不可欠とするとしても、自動車の運転免許は格別高度の資格とはいえないので、解雇することは相当のリスクがあります。
 貴社としては、当該従業員に対し、自動車に乗らなくても営業ができる他の会社への転職を勧めることも検討すべきです。

懲戒処分にあたる事由

(質問)
 当社では、従業員が就業規則に反する行動を行ったため、懲戒処分を考えているのですが、具体的にどのような場合が懲戒処分に当たるのでしょうか。

(回答)

1 適切な懲戒処分を行わないリスク
 中小企業においても従業員が非違行為、すなわち、企業の規律、秩序に違反する行為を行うことは多々あります。
 中小企業は、従業員が非違行為を行った場合に、人間関係の悪化を恐れて、なあなあで済ませていることも多いと思われます。
 しかし、このやり方は、他の従業員もこれくらいのことをやっても許されると思ってしまい、職場の規律がなくなってしまうことや、非違行為を行った当該従業員がまた同じか、より重大な非違行為を行った場合に、解雇といった重大な懲戒処分を行いにくくなるという重大なリスクにつながります。

2 懲戒処分の根拠
 まず、懲戒処分を行うときは、就業規則の根拠の規定が必要となります。就業規則の懲戒事由の規定については、なるべく懲戒事由を具体的かつ網羅的に記載するとともに、労働者がいくら非違行為を行っても、それが懲戒事由に該当しない限り、懲戒処分を行うことはできないため、就業規則の懲戒事由として「その他前各号に準じる行為をした場合」といった一般条項を定めておくことが重要です。
 懲戒処分については、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権を濫用したものとして、当該懲戒を無効とする旨が労働契約法第15条に規定されています。
また、解雇についても同様の規定があります(同法第16条)。

3 懲戒処分の合理性 
 これは、従業員の非違行為が就業規則に規定された懲戒事由に該当することです。このとき、単に形式的に懲戒事由に該当するだけでは足りず、実質的に企業の規律、秩序に違反することが要求されます。

4 懲戒処分の合理性・相当性
 実務上よく問題となるのが、懲戒処分の合理性・相当性です。
 これは、当該非違行為等との関係で懲戒処分が重要でないことと、本人に弁明の機会を与えるなど適正な手続を採っていることが要求されます。
 中小企業の経営者の中には、「従業員がこんな問題行動をしたのだから、クビは当たり前だ」と考える方もいらっしゃいますが、懲戒処分の合理性・相当性については、裁判例においては厳しく判断されています。
 懲戒解雇においては、使用者側と労働者側の利害が著しく対立し、労働者側から解雇無効確認の訴訟や、労働契約上の地位保全の仮処分申立てなどを提起されるほか、行き場のなくなった労働者が労働組合に駆け込むといったリスクも考えられます。

5 懲戒解雇が認められる場合と裁判所の姿勢
 従業員の一回限りの非違行為で懲戒解雇が認められるのは、相当重大な非違行為(会社財産の着服など)に限られ、その程度に至らない行為については、始末書の提出、減給処分、出勤停止処分などの段階を踏んだ上で、ようやく懲戒解雇を検討できることになります。
 あくまでも私見ですが、裁判所の懲戒解雇の相当性の認定は使用者側に厳しい感じがします。従業員がある程度の非違行為を行っても、使用者側が指導教育を怠ったことが非であるかのような論理の判決もあります。 
 中小企業に限らず、企業は労働関係で訴訟等を提起されることは、判決の予測不可能性のリスクから、それ自体が失敗であることを認識すべきです。

6 回答
 どのような事由が懲戒事由に当たるかということですが、実務上よく問題になるものとして、例えば、横領等の犯罪行為、重大な経歴詐称、業務命令違反、職場規律違反等多岐にわたります。

有期契約職員との契約更新における注意事項について

(質問)
 当社では契約期間の定めがなくフルタイムで働く正規職員のほかに、一定の契約期間の定めがある契約職員やパートタイマーも雇用しています。
 契約職員等との契約の更新については、どのようなことに注意すればよいでしょうか。

(回答)

1 多様な雇用形態
 中小企業でも、1年とか2年といった契約期間の定めがある従業員を数多く雇用しています。御存じのとおり、このような有期契約従業員は、雇止め(契約更新拒絶)が認められる限り、契約期間の満了によって労働契約が終了しますので、中小企業にとっては必要に応じて労働力を調整することができる大変好都合な制度といえます。

2 無期雇用転換のリスク
 平成25年4月1日から施行された改正労働契約法第18条第1項では、このような有期契約従業員との契約を更新するに当たって、注意すべきルールが設けられました。
 それは、平成25年4月1日以降、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた場合、労働者の申込みにより、有期労働契約から無期労働契約に転換することができるというものです。
 企業にとっては、この5年ルールは重大なリスクと言わざるを得ず、それ故、慎重な準備と対応が必要になります。
 というのは、有期契約従業員が無期契約従業員となってしまうと、中小企業が事業の縮小等により当該従業員を辞めさせたいと考えた場合、正規従業員に対すると同様に厳格な解雇規制が適用されることになりますので、辞めさせることは大変困難になります。
 ただし、貴社がいったん雇止めをするなどして、契約が継続していない期間(空白期間)が6か月(直前の契約期間が1年未満ならその2分の1の期間)以上ある場合には、通算5年のカウントは一度リセットされ、それ以前の契約期間は通算されません(同法第18条第2項)。
 もっとも、一度有期契約従業員を雇止めした上で、6か後に再雇用するということは、あまり現実的な方法ではないように思われます。

3 5年ルールの言葉に惑わされてはいけない。
 もし、貴社が平成25年4月1日以降、契約期間を2年としてそれを更新していれば、3回目の更新中に通算5年を超えてしまうことになります。この場合は、2年の契約期間の更新を2回行った後、3回目の更新をすれば、無期労働契約に転換されてしまうリスクが生じます。

4 無期雇用転換後の労働条件
 有期労働契約が無期労働契約に転換された後の労働時間、賃金やその   他の労働条件については、別に合意がされていない限り、従前の有期労働契約における労働条件と同じになります。つまり、無期労働契約に転換されても、自動的に他の正規従業員と同じ労働条件になるわけではありません。
 しかし、貴社の就業規則において、有期労働契約から無期労働契約に転換になった従業員と無期雇用の正規従業員との間の賃金等の労働条件を就業規則で区別していないと、有期労働契約が無期労働契約に転換になった場合には、正規従業員と同一の労働条件になるというリスクが生じます。したがって、かかるリスクを踏まえた就業規則の整備は重要です。具体的には、有期雇用契約から無期雇用契約に転換になった従業員については、正規従業員と異なった就業規則を準備しておくことが必要です。
 このように、法律改正を踏まえた経営法務のリスクがある場合に、それに対応する規程の整備を行うことが経営法務リスクマネジメントの基本となります。

5 回答
 貴社が、有期契約従業員との契約更新で注意すべき点は、有期雇用が更新されて5年以上になった場合に、当該従業員に無期労働契約転換請求権が認められるということです。
 かかる有期雇用の従業員が貴社の今後の経営にとって必要な人材であればともかく、必ずしもそうでない場合には、5年ルールを踏まえて更新拒否をすることを検討すべきです。
また、有期労働契約が期間の定めのない労働契約と社会通念上同視できる場合や、当該従業員に有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる場合は、雇止めにいわゆる解雇権濫用法理が適用されることにも注意すべきです(同法第19条)。
とは言え、昨今のいわゆる人手不足の状況にかんがみると、有期契約従業員を無期の正規従業員にして、当該職員のスキルアップにより生産性の向上を図ることも経営的には必要なのかもしれません。

雨の日を休日にすることの可能性

(質問)
 当社の業務は,屋外での作業が多く,雨の日には仕事ができません。そこで,雨の日を休日とする扱いをしたいのですが,どのような点に注意すべきでしょうか。

(回答)

1 休日と休業の違いは
 屋外の業務で雨天時に仕事ができない場合には、仕事を休みにしたいという中小企業もあると思います。この場合、休業手当の支払は必要なのか、休日を雨の日に振り替えることができないか、できるとして必要な手続は何か等という点が、問題となります。   
 ここではまず、休日と休業の違いを押さえておく必要があります。
 休日とは、労働者が労働契約において労働義務を負わない日のことをいいます。一方、休業とは、労働者が労働契約において労働義務を負う時間につき、労働することができなくなることをいいます。つまり、休みの日が、もともと労働者が労働義務を負う日であるか否かで異なります。

2 休業手当の支払い義務があるか。
 休業については、それが使用者の責めに帰すべき事由による場合には労働者に対し、休業手当(平均賃金の6割以上)を支払わなければなりません(労働基準法第26条)。
 天候は自然現象であり、雨天は「使用者の責めに帰すべき事由」かどうかは難しい問題があります。これは、休業手当の支払義務を定める上記規定は、労働者の最低生活を補償する趣旨で規定されていますから、「使用者の責めに帰すべき事由」が広く解されているためです。
 したがって、雨によって仕事ができなくなったため、当日急遽休みにするという場合には、もともと労働日であった以上、企業は休業手当を支払わなければならないリスクがあります。

3 休日を振替えるには
 そこで、中小企業とすれば、休業手当の支払いを回避するため、雨の日に休日を振り替えるという方法が考えられます。休日にしてしまえばその日はもともと労働義務を負わない日になり、休業とはなりませんので、休業手当の支払いの必要がなくなります。
 ただ、注意しなければならないのは、原則として休日は、午前0時か   ら午後12時までの24時間与えなければならない点です。したがって、
 前日中に休日の振替をしなければなりません。
 また、労働契約上の休日を変更するわけですから、労働協約や就業規則で、雨の日には休日を振り替えることができる旨を規定しておくことが必要となります。

4 回答 
 貴社が、雨の日を休日にしたいというのであれば、就業規則に休日の振替の規定を設けた上で、休日の振替を行うこととなります。
 しかし、従業員からすれば、例えば、度々前日に休日の振替を行われると家族との休日の予定に支障が出ることもあるので、休日の振替は必要でやむを得ない場合に行うのが望ましいと考えます。

従業員の求めに応じて事業主都合退職にすることによるリスク

(質問)
 当社の従業員が自己都合退職を申し出てきましたが、雇用保険の資格喪失条項として「事業主都合による退職」にしてほしいと言ってきました。
 この従業員の言うとおりに、会社都合退職とすることに何か問題はありませんか。

(回答)

1 従業員が事業主都合退職を望む理由
 中小企業においては、上場企業とは異なり、退職に関するルールがやや曖昧なところもあるので、このように、従業員が事業主都合退職という形式での退職を求めてくることがあります。
 これは、従業員からすると、退職理由が自己都合よりも事業主都合である方が雇用保険の3か月の待機期間がないなど有利な扱いがなされるためです。

2 安易に応じるのはリスクが大きい。
 この場合、中小企業としては、従業員が退職すること自体に変わりはないので、あまり退職理由には注意を払わず、安易にこのような申し出を受け入れてしまうことも多いかもしれません。
 しかし、自己都合退職を事業主都合退職としてしまうと、後日退職した従業員から、会社都合による退職だから解雇と実質的に同じだとして「会社から解雇されたが、解雇は無効だ」と主張されるリスクがあります。

3 会社と従業員の「くい違い」のリスク 
 中小企業経営者の中には、退職した従業員がそのような不義理なことをするはずはないと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、経営法務においては、往々にしてそういうことがあります。というのは、従業員が必ずしも嘘つきという意味ではありませんが、会社が考えていることと従業員が考えていることは、双方の言葉のニュアンスや事実認識の相違から来る「くい違い」が生じ得るからです。 

4 回答
 貴社においては、後で解雇の有効性が争われるリスクを考えて、安易に自己都合退職を事業主都合退職とすることは慎むという対応が考えられます。
 しかし、そのようにすると、例えば、会社としては、退職してもらいたいと考えている従業員が退職の決意を翻すなどのリスクが生じます。
そこで、貴社は、会社都合退職という形式には応じるものの、退職する従業員から、「事業主都合により退職することにつき、その効力を争わない」旨の合意書を取って、後日の紛争のリスクをなくすという対応が望ましいと考えます。 

休職期間満了により退職とすることのリスク

(質問)
 当社では、従業員がうつ病により休職し、その後復帰を申し出てきましたが、休職前の業務には耐えられないと考えています。
 その場合、当社は、復帰不可能としてその従業員を休職期間満了により退職とすることができるでしょうか。

(回答)

1 休職とは
 中小企業においても、従業員がうつ病を患うなどとして一定期間休職することが増えています。
 休職制度は、これを定めた場合には、就業規則に明記しなければなりません(労働基準法第89条第10号)。
 業務外の傷病を理由とする休職(傷病休職)の場合には、長期欠勤が一定期間に及んだときに休職となり、休職期間中に治癒し就労可能となれば復職しますが、休職期間中に治癒しなければ労働契約を終了させることとなります。

2 従前の業務が提供できない場合は 
 問題は、従業員が復職時に従前の業務を提供できるほどには回復していない場合に、休職期間満了として当然に退職にできるかどうかです。
 この点に関し、労働契約締結の時点で職種や業務内容を特定していない場合には、たとえ従前の業務が提供できないとしても、労働者の能力・経験・地位、企業の規模、業種、労働者の配置、異動の実情及び難易等に照らして、労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつその業務の提供を申し出ているならば、債務の本旨に従った履行の提供があるといえるとして労働者の賃金請求を認めた判例があります(最高裁判所平成10年4月9日判決)。

3 休暇期間満了時の企業の対応 
 確かに、労働契約締結の時点で職種や業務内容を特定していないと、このような結論になるのかもしれません。中小企業とすれば、限られた人員で最大の業績を上げるためには、採用時に職種はともかく、業務内容を特定するのはなかなか難しいかもしれません。
 したがって、復職時に従業員が一定の業務について業務の提供を申し入れている状況下では、休職期間の満了をもって退職という処理は大きなリスクがあります。

4 出勤と欠勤を繰り返す場合 
 当該従業員が出勤と欠勤を繰り返すなど、欠勤が継続したといえるのかが問題になる場合もあります。
 この場合、就業規則において、出勤と欠勤を繰り返す場合であっても欠勤期間を通算する旨の定め(「欠勤通算条項」等と呼ばれます。)があれば、かかる定めに基づいて休職命令を発令することになります。
 就業規則は、会社のさまざまなリスクに対応するためのいわば魔法の杖です。

5 回答 
 休職を命じていた従業員の復職可能性の判断に当たっては、休職前の業務への復帰は不可能であっても、当該従業員が他の業務へ従事することは可能か、業務軽減措置を採って休職前の業務に従事させることができないかなどを総合的に検討の上、判断する必要があります。
 ご質問のケースの場合、休職前の仕事は耐えられないだろうという理由のみで、退職扱いにするのは避けるべきです。

7年前の非違行為を理由とする懲戒処分

(質問)
 当社は、従業員Yの7年前の横領を理由として、Yに対して懲戒処分をすることはできますか。
 また、もし、今回懲戒処分をした後に、Yが懲戒処分の不当性を訴えてきたような場合、処分後に判明したYの非違行為を懲戒理由に追加することは可能でしょうか。

(回答)

1 懲戒処分の時的限界
中小企業においては、横領などといった重大な非違行為があったにもかかわらず、そのときは、お目こぼしをして不問に付すといったことがあり得ます。
しかし、その後、当該従業員に反省の態度が見られないとか、業務命令に従わないといった理由で、過去の事実に基づき懲戒処分を行いたいと考えることはあり得る話です。
ご質問のケースでは、まず、懲戒処分の時的限界が問題となります。
 使用者が労働者の懲戒事由を明白に認識していたにもかかわらず、長期間放置していたような場合には、後日になされる懲戒処分は客観的な合理的理由・社会通念上の相当性を欠くと判断されるリスクがあります。

2 チャンスを逃すと駄目
このことに限らず、いったんは不問に付したことを後で蒸し返して問題にするのは、経営法務の観点からは、過去の出来事を他目的に利用するという理由で認められないリスクがあります。
 経営法務も経営の一環である以上は、経営と同様、一瞬のチャンスを逃すと駄目という点で共通だと考えます。

3 処分理由の追加
次に、処分理由の追加については、業務命令拒否と無断欠勤を理由に懲戒解雇した労働者との間で争われた解雇無効確認訴訟で、処分後に判明した経歴詐称の追加は許されないとされたものがあります(東京高等裁判所平成13年9月12日判決)。
したがって、会社とすれば、処分後の処分理由の追加ができないことを前提に、非違行為を十分に調査、検討した上で、非違行為をまとめて懲戒処分を検討することが必要となります。

4 回答
 貴社は、Yの7年前の非違行為について、その当時に処分内容を決定することが可能で、また、現時点で企業秩序維持の観点から7年前の非違行為につき、懲戒処分を行う必要性がないという状況であれば、7年前の非違行為を理由に懲戒処分を行うことは客観的な合理的理由、社会通念上の相当性を欠くとされるリスクが高いことになります。
また、懲戒処分が仮に訴訟等で争われた場合に、懲戒処分後に判明した非違事由を追加して主張することもできないと考えられます。