当社は、毎年3月に、全従業員を対象として定期健康診断を実施しています。しかし、毎回放射線の影響を心配しているとのことで、胸部X線検査の受診を拒否する者がいます。
当社が受診を強制することはできますか。
(回答)
1 会社の定期健康診断実施義務
中小企業において、従業員の健康管理は、労災の防止にもつながり、会社の安全配慮義務の履行にもなります。
労働安全衛生法の規定によると、会社には、常時使用するすべての労働者に対し、雇い入れ時と年に1回の定期健康診断を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条第1項、労働安全衛生規則第44条第1項)。
この「常時使用する労働者」とは、行政通達によると、期間の定めのない労働契約により使用され(期間の定めがある場合は、1年以上使用されることが予定されている者及び更新により1年以上使用されている者)、かつ、1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上とされている者です。
ただし、健康診断の受診に要した時間の賃金については、事業者が支払うことが「望ましい」とされており、支払義務まではありません。
2 従業員の健康診断受診義務
一方で、従業員にも、健康診断を受診する義務があります(同法第66条第5項)。それでは、受診を拒否した従業員に対して、会社は、受診を命じたり、懲戒処分を行ったりすることができるでしょうか。
この点に関して、病気治療によるX線暴露が多く、これ以上のX線暴露を避けたいとの理由でX線検査を拒否した教職員に対し、校長が職務命令としてX線検査受診命令を出したがこれに従わなかったため、懲戒処分を行ったという事案で、最高裁は、この懲戒処分を適法として判断しました。つまり、会社は、受診を拒否した者に対して、受診を命じたり、懲戒処分を行ったりすることができるのです。
しかし、従業員の医師選択の自由まで奪うことはできません(同条同項ただし書)。会社が指定する医師の受診を拒否し、従業員が選択する医師に診断してもらうことは可能です。ただ、この場合にも、従業員には、診断結果を会社に提出する義務があります。
3 回答
ご質問にあるように、時々放射線とか電磁波等に過敏になる方がいらっしゃるようです。
しかし、貴社には、従業員に対して定期健康診断実施義務があり、従業員には受診義務があるので、貴社は従業員に受診を命じることができますし、従業員がそれを拒絶した場合は懲戒処分を行うことができます。
健康診断受診を拒否する従業員については、これを放置せず、受診義務があることを十分に説明した上で、受診を促すことが、結局のところ会社と従業員双方の利益に資するといえます。