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下請法とは

(質問)
 当社は製造業を営む会社ですが、順調に業績を伸ばして規模を拡大してきた反面、社内規定や契約書などの整備が追いついておらず、コンプライアンス面に弱みがあります。先日、他社との取引の際は下請法に注意しなければならないと耳にしたのですが、これはどのような法律でしょうか。

(回答)

1 下請法とは
 下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者の下請事業者に対する優越的地位の濫用を規制し、下請事業者の利益を保護するのための法律です。
下請法が適用されるのは、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4種類の取引です。
下請法という言葉のイメージからは建設業に適用される法律のようにも思いますが、業種ではなく取引の種類に着目した法律で、建設工事自体は対象としていません(建設業は建設業法によって規律されています)。

2 下請法が適用される事業者
 下請法は、取引の種類のほか、資本金額によって適用の有無が決まります。
まず、製造委託、修理委託、政令で定める情報成果物(プログラム)作成委託、政令で定める役務(運送、物品の倉庫保管、情報処理)提供委託に関しては、①資本金3億円超の法人と個人又は資本金3億円以下の法人が取引する場合、②資本金1000万円超3億円以下の法人と個人又は資本金1000万円以下の法人が取引する場合に適用されます。
 また、上記以外の情報成果物作成委託、役務提供委託については、①資本金5000万円超の法人と個人又は資本金5000万円以下の法人が取引する場合、②資本金1000万円超5000万円以下の法人と個人又は資本金1000万円以下の法人が取引する場合に適用されます。

3 親事業者の義務
 下請法では、親事業者の義務の義務として、①発注書面の交付義務、②取引記録書類の作成・保存義務、③下請代金の支払期日を定める義務、④遅延利息を支払う義務が規定されています。
下請法が適用される取引についてはきちんと書面に残しておく必要があり、口約束のみで処理することは違法になります。なお、下請代金の支払期日は、物の受領や役務の提供を受けてから60日以内としなければなりません。

4 親事業者の禁止行為
 親事業者の禁止事項として、①受領拒否、②下請代金の支払遅延、③下請代金の減額、④返品、⑤買いたたき、⑥物の購入強制・役務の利用強制、⑦報復措置、⑧有償支給原材料等の対価の早期決済、⑨割引困難な手形の交付、⑩不当な経済上の利益の提供要請、⑪不当なやり直しが定められています。
 典型的な違反は、支払遅延のほか、買いたたきや下請代金の減額があります。
 下請法は、下請事業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、発注後の下請代金減額を禁止しています。そのため、たとえば、代金を支払うときに振込手数料を差し引いて送金することも、下請事業者の同意がない限り違法になります。
 下請法は意外と見落としがちな法律で、知らず知らずのうちに違反状態になってしまうことがあります。適用の有無については、取引の種類と資本関係に注意する必要があります。

隣地使用権とは

(質問)
 私は、この度、老朽化した自宅の修繕工事をしようと考えています。しかしながら、敷地が狭いため、工事をする上でどうしても隣の土地に立ち入る必要があります。
 隣人が立ち入りを承諾してくれない場合には工事ができないのですが、どうすればいいのでしょうか。

(回答)

1 隣地使用権とは
 所有権は物に対する絶対的な権利ですので、原則としてその物をどのように使用するかは所有権者が自由に決めることができます。
 そのため、他人の土地を無断で使用することは、その土地の所有者の所有権を侵害することになりますし、不法占有による損害賠償義務も生じます。
 もっとも、この原則を貫くと、今回の事例のように不都合が生じることから、民法は、一定の場合に隣地の使用請求権を認めています。
 具体的には、民法第209条第1項が、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。」と規定しています。
 本件でも、自分の敷地に余裕がない場合には、工事に必要な範囲で、敷地に立ち入ったり、足場を設置すること、材料や機械を隣地に一時置くこと等が認められます。

2 隣人が承諾してくれない場合
 上記のとおり、民法上の隣地使用権が認められる場合に、これを隣地所有者が拒否した場合はどうなるのでしょうか。
 民法第209条第1項の場合には、一方的に隣地所有者に通知することで使用が認められるのか、あくまでも隣地所有者の承諾が必要なのかが問題になります。
 この点について、一般的には、使用について隣地所有者の承諾が必要と解されています。
 そのため、隣地の所有者が承諾をしてくれない場合には、裁判所に、「承諾に代わる判決」を求めて訴えを提起し、勝訴判決を取得する必要があります。
 隣地使用が認められる場合であるからといって、相手の承諾がないのに使用を強行することは、違法な自力救済にあたりますし、場合によっては住居侵入罪等に問われる恐れもあります。
 もし、判決を待っていては壁が崩壊して修復不可能となる等、緊急を要する場合であれば、隣地使用に関する保全処分として、仮処分決定を得て隣地に立入ることになります。
 以上のように、一定の場合には隣地の使用請求権が認められますが、無断での使用が認められているわけではありません。
 また、承諾を得て隣地を使用する場合でも、使用によって隣地所有者に損害を与えた場合には、これを賠償する義務があることにも注意が必要です。

健康食品と食品表示法について

(質問)
 最近、健康のため、体にいい成分が入った食品を意識的に買うようになりました。
 CM等では、「トクホ」の商品をよく見かけますし、その他にも「機能性表示食品」というのもあるようです。
 これらの健康食品は、どのような違いがあるのでしょうか。

(回答)

1 特定保健用食品とは
 現行の健康食品に関する制度としては、食品表示法・食品表基準において、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品が制度化されており、これら三つが、「保健機能食品」と位置付けられています。
 保健機能食品のうち、特定保健用食品は、「トクホ」の通称でおなじみですが、これは、健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ、「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可されている食品です。
表示されている効果や安全性については国が審査を行い、個別の食品ごとに消費者庁が表示を許可しています。

2 栄養機能食品とは
 栄養機能食品は、ビタミンやミネラルなどの既に科学的根拠が確認されている栄養成分を一定の基準量含む食品であれば、届出などをしなくても、国が定めた表現によって機能性を表示することができる制度です。

3 機能性表示食品とは
 機能性表示食品は、科学的根拠を基に、「おなかの調子を整えます」、「脂肪の吸収をおだやかにします」などの機能性を表示することができる食品のことです。事前の届出によって、事業者の責任において食品の機能性表示ができる制度で、平成27年4月に始まりました。
 トクホの場合は、表示の許可を得るためにランダム化比較試験(RCT)という信頼性の高い研究で有効性が立証する必要があり、許可までの時間と多額の費用がかかるという問題がありました。そのため、申請できる企業はコストをかけて厳しい審査をクリアできる大企業ばかりで、中小企業にはなかなか手が届かない制度であるとの指摘もありました。
 これに対して機能性表示食品は、届出によって製造・販売が可能であること、機能性評価の科学的根拠となる資料についても、論文などの報告を取りまとめて評価した研究レビューでよく、臨床試験を実施しなくても食品の機能性表示が可能であることに違いがあります。
 もっとも、トクホのように国の個別審査を受けたものではなく、機能性表示は届出事業者の責任においてなされていることに注意が必要です。

4 まとめ
 上記の保健機能食品以外の食品については、保健機能食品と紛らわしい名称や栄養成分の機能・特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語を表示することができません。
 その他、健康食品に関する表示には、景品表示法や健康増進法による虚偽誇大表示等の禁止や薬機法によっても規制がなされています。
 健康食品の中には誇大な健康増進効果を謳うものがあり、機能性表示食品についても、景品表示法に違反することを理由に、消費者庁が事業者に対して措置命令や課徴金納付命令が出したケースがあります。食品を購入する際には、どのような根拠でどのような効果を謳っているのか、表示の内容をよく確認することが大切です。

職場におけるセクハラのリスク

(質問)
 当社では、従業員の間でセクハラの相談等を聞いたことがなく、セクハラに関する指針を特に明確にしておりません。何か問題があるでしょうか。
 そもそもセクハラは何が基準となるのでしょうか。

(回答)

1 「セクハラ」の定義
 実は,日本において,法律上明確にセクハラという言葉を用いて,その定義をしている規定はありません。
 ただ,セクハラの定義を知る手がかりとなるものはいくつかございます。男女雇用機会均等法に基づき,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(以下「セクハラ指針」といいます。)が定められているのですが,この指針の中では,「事業主が職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」を職場におけるセクハラとしています。
 また,国家公務員を対象とした人事院規則では,セクハラを「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」と定義しています。

2 セクハラに当たるかどうかの基準
 セクハラに当たるかどうかの明確な基準はありませんが,先に述べた人事院規則の運用に関する行政の通知では,「性に関する言動に対する受け止め方には個人間で差があり,セクシュアル・ハラスメントに当たるか否かについては,相手の判断が重要」であるとされており,相手方の受け止めが重要視されています。

3 セクハラに該当する言動
 簡単にセクハラの具体例を示させて頂きます。
 「性的な言動」とは,性的な内容の発言及び性的な行動を指し,「発言」としては,性的な事実関係を尋ねること,性的な内容の情報を意図的に流布すること,性的な冗談やからかい,食事やデートに執拗に誘うこと等,「行動」としては,性的な関係を強要すること,必要なく身体に触れること,わいせつな図画を配布すること等が含まれます。
 そして,セクハラ指針においては,職場におけるセクハラには,①対価型セクハラと②環境型セクハラがあるとされています。①対価型セクハラとは,職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により,当該労働者が解雇,降格,減給等の不利益を受けることであり,例えば,職場において,上司が労働者の腰等に触れたが,部下がそれを拒否したため,当該労働者について不利益な配置転換をすること等です。また,②環境型セクハラとは,職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため,能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることであり,例えば,労働者が抗議をしているにもかかわらず,会社内にヌードポスターを掲示しているため,当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと等です。

4 セクハラのリスク 
 仮に,職場でセクハラがなされた場合,どのようなリスクがあるでしょうか。
 まず,セクハラ行為の加害者は,被害者から不法行為に基づく損害賠償請求をされる可能性があります。損害賠償額は,セクハラ行為の態様によってまちまちであり,数万円から数百万円と幅があります。
 また,現在は,大抵の会社でセクハラが懲戒事由とされていますので,加害者には懲戒処分がなされる可能性が高いといえます。セクハラの態様によっては,懲戒解雇がなされる可能性も多分にあります。余談ですが,福岡高等検察庁の前刑事部長が,部下の女性職員にセクハラをしたとして,減給の懲戒処分を受けたという事件がありました。この刑事部長は,結局,依願退職されたようです。同じく法に携わる者として,非常に残念な報道ではありましたが,このように,セクハラの加害者が懲戒処分を受けるというのは当然のことかもしれません。
 次に,セクハラが,「事業の執行につき」行われた場合には,加害者の使用者(会社)が責任を問われることがあります。そして,被用者の職務執行行為そのものには属しないとしても,その行為の外形から観察して,あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる行為は,「事業の執行につき」行われた行為と評されます。例えば,加害者が,新入社員の歓迎会でセクハラを行った場合,新入社員の歓迎会は会社の行事といえるため,「事業の執行につき」なされたセクハラとして,会社が責任を問われる可能性が多分にあります。
 また,会社は,職場においてセクハラがなされないように配慮する義務を負っているため,これを怠ったがためにセクハラが発生したような場合は,会社が被害者に対して損害賠償責任を負うことになります。
 セクハラは,企業イメージを悪化させますので,これによる悪影響は計り知れません。
 会社は,職場におけるセクハラに関する指針を明確にし,その周知・啓発を行う必要があります。そして,セクハラに関する相談・苦情に対応するための体制を整えなければなりません。セクハラに関する相談があった場合には,会社は迅速かつ適切に対応しなければなりません。事実関係を迅速かつ正確に調査し,仮にセクハラの事実が認定できれば,速やかに被害者に対する配慮のための措置をとり,また加害者に対する措置も行わなければなりません。
 セクハラへの対応は,会社のリスクマネジメントとして,また被害者の権利を守るためにも,非常に重要なことです。

資格取得費用と損害賠償予定の禁止

(質問)
 当社では、従業員に対して、各種資格を取得するための受験料等を支給しています。
 しかしながら、せっかく資格を取得しても、すぐにその従業員が会社を辞めてしまったのでは、受験料等を支給したことが無駄になってしまいます。
 そこで、資格取得後一定期間以内に会社を辞めた場合には、会社が支給した資格取得費用を返還してもらうようにすることを考えているのですが、法律上問題はあるでしょうか。

(回答)

1 損害賠償の予定の禁止
 労基法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めています。これは、退職に対して違約金や損害賠償を支払わせることによって労働を強制することを禁止する規定です。
 そして、従業員が一定の期間を経ずに退職した場合に、一旦会社が支給した資格取得費用の返還を義務付けることは、結局、退職に対する金銭的なペナルティを設けて労働者を労働契約に縛ることになりますので、労基法16条に抵触することになります。

2 消費貸借の形式を取ると適法か
 これに対して、資格取得費用を会社が労働者に貸し付け、一定期間就労した場合にその返還義務を免除する場合には、直ちに労基法16条との抵触は生じません。
本来であれば会社に返済しなければならない借入債務が、一定の条件(一定期間の就労)を満たした場合に免除されるというものであり、違約金や損害賠償を定めて労働者の退職を制限しているわけではないからです。
 しかしながら、貸付けの形式を取れば常に労基法に違反しないというわけではありません。

3 資格の取得が自由意思に委ねられているのか
 そもそも、資格取得費用は、労働者が自己負担すべきものなのでしょうか。
 この点、業務との関連性が薄く個人の利益性が強い資格・自己啓発として取得する資格については、労働者が自己負担するのが原則です。
 これに対して、会社の業務上の必要性から資格を取得させる場合には、その費用は会社負担であると解されています。会社が労働者に資格を取得させることで利益を得るわけですから、そのための経費も会社が負担すべきということです。
 そのため、業務との関連性が強い資格・業務命令として取得させる資格の取得費用については、たとえ貸付けと返還免除の形式をとったとしても、それは、本来労働者が負担する必要のない金銭的負担を課すことで就労継続を強制することになりますので、やはり、労基法16条に抵触することになります。
 以上のような観点からすると、今回のケースでも、当該資格の種類や業務との関連性、取得が従業員の自由意思に委ねられているのか等によって取扱いを整理する必要があります。 
 

災害と賃貸借契約・履行遅滞について

(質問)
 先日の大雨と土砂災害で会社の事務所が一部損壊してしまいました。事務所は賃貸物件なのですが、修繕は当社がしなければならないのでしょうか、大家さんがするのでしょうか。
 また、倉庫が浸水して商品の材料等がだめになったため、取引先への納期が守れなくなってしまったのですが、このような場合でも納期遅れの違約金を支払わなければならないのでしょうか。

(回答)

1 賃貸物の修繕
 賃貸人には、賃貸物を賃借人に使用収益させる責任があり、そのために必要な修繕は賃貸人の義務です。そのため、賃借人の過失によって物件が損壊した場合でなれば、原則として賃貸人が修繕費を負担することになります。
 もっとも、賃貸借契約書の中に、天災による損壊等の修繕の責任を賃借人が負担するという条項が入っている場合があります。このような条項があるからといって常にその法的効力が認められるわけではありませんが、注意が必要です。

2 賃貸物の損壊と賃料減額
 災害などで賃貸物自体が滅失した場合、賃貸借契約は履行不能によって消滅します。
 これに対して、賃貸物の一部が滅失した場合には、賃借人は、滅失した割合に応じて賃料の減額を請求することができます。また、残存する部分のみでは賃貸借の目的が達成できないときは、賃借人は契約を解除することができます。
賃借人は、賃貸人に賃貸物の修繕請求をしつつ、修繕が終了するまでの間の賃料の減額を求めることもできます。
 なお、賃貸人には賃貸物を修繕する義務がありますが、これは賃貸人自身の権利でもあります。賃貸物を修繕するために賃借人が一時退去する必要がある場合、賃借人はこれを拒絶することはできません。 

3 災害と履行遅滞
 債務者が契約期限までに債務を履行できなかった場合、履行遅滞に基づく損害賠償責任が生じたり、契約の解除事由になることがあります。
 ただし、履行遅滞として債務不履行責任が生じるのは、あくまでも債務者に帰責事由がある場合です。
 災害によって材料が滅失したことで納期に間に合わないことは、材料の保管方法が不適切であったような場合を除き、不可抗力であるといえます。そのため、今回のケースでも、原則として、債務者には過失がなく、履行遅滞の責任は生じないと考えられます。
 もっとも、契約書において、債務者が期限までの履行を保証している等、天災等の不可抗力の責任を債務者が負っていると解される場合には、損害賠償責任が生じることもあります。その意味で、災害のような事態で契約通りの債務を履行できなくなった場合の責任について、普段から契約書の条項がどのようになっているか注意を払う必要があります。

 

土砂災害と法律問題について

(質問)
 先日、数十年に一度の豪雨で、近所の山が崩れて私の所有する土地に土砂が流入してしまいました。土砂の撤去は自分の費用でしなければならないのでしょうか。自治体に撤去を求めることはできるでしょうか。
 また、土砂によって農機具が破損し、農作物にも被害が出たのですが、誰かに責任をとってもらうことはできないのでしょうか。

(回答)

1 所有権に基づく妨害排除請求
 土地の所有者は、自分の敷地に入り込んだ他人の所有物をその所有者の費用で撤去することを求めることができます。これは、所有権に基づく物権的な請求権の一種で、妨害排除請求といわれるものです。
 台風などで土砂や瓦礫が流入した場合も、その所有者が特定できる場合には、その者に撤去を求めることができます。

2 不法行為による損害賠償請求
 物権的妨害排除請求権とは別に、不法行為や土地工作物責任に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。
 不法行為が成立するのは、土砂崩れ等を起こした土地の所有者に過失が認められる場合です。客観的に大雨や台風により土砂崩れを起こす危険があり、それを何度も指摘されていたにもかかわらず、何らの措置も取らなかったような場合がこれに当たります。
 一方で、通常想定されないような豪雨のために土砂崩れ等が発生した場合には、結果を予見できたとはいい難いため、不法行為による損害賠償請求は難しいことが多いでしょう。
 また、土地の工作物の設置・保存に瑕疵があったために土砂が隣地に流入してしまったような場合には、通常の不法行為とは別に、土地工作物責任として損害賠償義務が生じます。ここでいう瑕疵とは、その工作物が通常備えているべき安全性を欠いていることをいいます。
 建物だけでなく、道路や擁壁等も土地の工作物にあたります。これらの施工に不備があったり、老朽化していたのに修繕を怠っていたような場合には土地工作物責任に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。

3 災害救助法による救助
 たとえ災害が原因であっても、原則として、私有地から私有地に流入した土砂や瓦礫等を自治体が撤去してくれることはありません。
 もっとも、災害によって住居又はその周辺に運ばれた土石、竹木等で、日常生活に著しい支障を及ぼしているような場合には、自治体が撤去してくれることがあります。
 これは、災害救助法に基づく制度で、災害によって一定数以上の住家の滅失がある場合等の大規模災害時に、都道府県が適用し、自衛隊や日本赤十字社に対して応急的な救助の要請、調整、費用負担を行うものです。
 土砂等の撤去だけでなく、避難所や仮設住宅の設置、炊き出し、住宅等の応急修理等も災害救助法の救助に含まれます。

4 公的な支援制度等
 災害救助法の他にも、被災者生活再建支援法による支援金や、住宅が半壊や全壊等した場合の災害援護貸付制度等、様々な公的支援制度があります。
 今回のケースのように事業活動に損害が生じた場合でも、市町村の天災貸付制度、農協や日本政策金融公庫等の災害復旧貸付制度によって、事業資金を低金利で融資してもらうことも考えられます。

会社の経費の立替えとクレジットカードのポイント

(質問)
当社では、出張の際の旅費や備品の購入については従業員が立て替えて支払い、後で会社が実費を支給する形で清算しています。先日、社内で、会社の経費の支払いを個人がクレジットカードで決済してポイントを貯めることについて問題提起がありました。役員の中には、役得であると言う者もいれば、経費で得たポイントを私的に使うのは横領だと言う者もいます。法的には問題があるのでしょうか。

(回答)

1 原則として会社の定めたルールによる
 今回のケースのように、会社の業務に関する経費の支払いによって従業員が個人的な利益を得るのは、不公平感があることは否めません。
 そのため、法人カードで決済するようにしたり、会社の経費で付与されたポイントは次回以降の出張の際に使用する等の規定を設けている会社もあります。
 このような規定を設けているにもかかわらず、会社に帰属すべき(会社のために利用すべき)ポイント等を従業員が私的に利用した場合には、懲戒処分の対象になり得るだけでなく、(業務上)横領罪に該当する可能性もあります。
 では、特別なルールを定めていない場合には、法的な問題は生じるのでしょうか。

2 事後精算の場合
 まず、会社の経費を従業員が立て替えて会社が事後的に清算する場合に、従業員個人がポイント等の経済的利益を得ることは、不当利得ではないかという問題があります。
 しかしながら、法的には、クレジットカードでの支払いによってポイントが付与されるのは、当該カードの名義人個人とカード会社との契約に基づくものであるため、法律上の原因がないとはいえません。あくまでもポイント等が帰属するのは当該カードの名義人個人ですので、会社にポイントが帰属するわけではないのです。
 そのため、経費の支払いによって取得したポイントを従業員が私的に使っても、不当利得や横領等の問題は生じません。

3 経費前払いの場合
 では、経費を会社が事前に支払っている場合はどうでしょうか。
 この場合、経費の支払いに充てるべき資金を事前に支給しているのですから、あえてクレジットカード等の他の決済手段を用いる必要はありません。
 個人のクレジットカードを使用したことによって付与されたポイントは当該従業員個人に帰属しますが、事前に支払いを受けたお金を経費の支払いに充てないことが問題です。使途を定めて支給したお金を私的に利用するのですから、理論的には(業務上)横領罪に当たり得ます。
 もっとも、金額や当該会社での従前の取扱い等にもよりますが、現実的には、横領罪として立件したり、懲戒処分の対象とすることは難しい場合が多いといえます。クレジットカードによる支払いの禁止を明確に定めていない以上、会社は、前払いされた資金を経費の支払いに充てずにクレジットカードで支払いをすることについて許容する趣旨であると考えることもできるからです。
 経費に関するルールについては、やはり、社内規定を設けて明確にしておくことが肝要といえるでしょう。

死後事務委任契約とは

(質問)
 私は長年独り暮らしで、親族とは疎遠で付き合いがありません。年齢と健康上の問題があり、自分が死んだ後のことを考えているのですが、葬式などを頼めるのは親しい友人だけです。友人に死後の手続を任せるためには、死後事務委任契約を締結しておけばよいと聞いたのですが、これはどのような契約なのでしょうか。

(回答)

1 死後事務委任契約とは
 死後事務委任契約とは、文字どおり、死亡した後の事務的な手続を委任する契約です。主に、役所への届出や親族・知人への連絡、葬儀・埋葬の手続や支払い、生前の医療費の清算等の事務を委任するものとされています。
 通常は親族がこのような事務を行いますが、相続人がいない場合や遠方に住んでいる等の場合には問題となります。死後の事務手続について遺言の内容に盛り込むことも考えられますが、遺言は一方的な意思表示ですので、付言事項として死後の事務を誰かに任せも法的拘束力はありません。
 そこで、予め、自分が死んだ後に必要となる諸手続を誰かに委任しておくことが有用です。
 ここで、民法第653条が、委任契約は委任者の死亡によって終了する旨規定していることとの関係が問題となりますが、委任者が死亡しても契約を終了させないという合意も有効であるとする最高裁判例があり、実務上、死後の行為を委任する契約も有効であると考えられています。

2 死後事務委任契約の有効性
 さて、死後の委任契約が一般的に有効であるとしても、どのような委任内容であっても常に有効というわけではありません。死後の委任契約は、内容によっては、遺言等の他の民法上の制度と矛盾・衝突しうるからです。
 もっとも問題となるのは、遺言制度との関係です。
 民法は、遺言の方式を厳格に定めており、形式要件を満たさない遺言の法律的な効果を認めていません。これに対して、死後事務委任契約は方式が定められておらず、口頭でも有効に成立します。
 そうすると、死後事務委任の内容として財産の処分を委任するのは、民法が厳格に定めた遺言制度を潜脱することになるのではないかという問題があります。
 この点について、実は、判例も学説もそれほど議論が煮詰まっておらず、どのような範囲で死後事務の委任が有効なのかについては、明確な基準がないのが現状です。
 死後事務委任契約の内容として、遺品整理などの名目で、単なる事務手続にとどまらない財産の処分行為が含まれる場合もありますので、その有効性について注意する必要があります。
 また、相続人がいる場合には、死後事務委任契約の委任者の地位も相続人が承継することになります。委任者はいつでも委任契約を解除できますので、相続人は死後事務委任契約を解除できるのかという論点もあります。
 最近は、任意後見契約とともに死後事務委任契約が結ばれることが多くなっているようですが、ケースに応じて、その内容と有効性を具体的に検討する必要があります。 

団体交渉の準備について

(質問)
 当社は、近々労働組合との団体交渉に臨みますが、団体交渉の準備等について教えてください。

(回答)

1 誠実交渉義務
 団体交渉において、使用者には「誠実交渉義務」が課せられています。
 すなわち、使用者には、労働組合の要求や主張に対して、回答や反論を行い、必要に応じてその根拠を提示する必要があります。
 しかし、労働組合と議論を尽くしても合意できない場合は、団体交渉を打ち切ることも可能です。議論を尽くさないまま、一方的に団体交渉を打ち切ると、不当労働行為になる可能性があるので注意が必要です。交渉事項にもよりますが、最低3回から4回の団体交渉は覚悟するべきです。

2 団体交渉の日時
 団体交渉は、準備作業が大切です。労働組合は自分の都合で日時を指定しているだけですので、準備が間に合わなければ「当社業務繁忙のため、○月○日○時を希望する。」などと回答することも問題ありません。
 ただし、あまりに先の期日を指定するのは、不当労働行為になる可能性があるので注意が必要です。
 また、労働組合は、団体交渉の開始時刻を就業時間内に指定してくることが多いのですが、これは明確に拒否するべきです。団体交渉は業務ではありませんから、就業時間外に行うべきであり、これを認めると、以後も就業時間内の団体交渉を認めざるを得なくなってしまう可能性があります。交渉時間については、2時間程度とするのが良いでしょう。

3 団体交渉の場所
 労働組合側は、会社内の会議室等を指定してくることが一般的ですが、会社の近くの貸会議室等で行う方が無難です。会社内で団体交渉を実施するリスクとして、大人数で大挙して来ることや、大声を出されるなどで会社業務に支障をきたす可能性があることのほか、要求が通るまで帰らないなどして、会社に長時間居座られるおそれがある等がその理由です。

4 団体交渉の出席者及び人数
 団体交渉に交渉権限のある者を1人も出席させないことは、団体交渉を無意味なものにしかねず、不当労働行為となる可能性があります。  
 よって、人事担当役員や人事部長の出席は必要になるでしょう。
 労働組合側は大人数を主張するかもしれませんが、不規則発言が増えるなど冷静な協議ができませんので、人数制限を求めるのが賢明です。

5 労働協約
 合同労組が一方的に労働協約を送り付け、労働協約の締結を求めてくることがありますが、決して拙速に締結してはなりません。労働協約は就業規則よりも効力が強く(労働組合法第16条)、締結には十分な検討が必要です。

6 その他の注意事項
 まず、団体交渉における双方の発言は、ICレコーダー等で必ず録音することが必要です。
 労働組合側が録音するのであれば、貴社も録音して良いですし、特に労働組合側が録音することを明示しなくても、貴社は労働組合側に無断で録音しても差し支えありません。
 次に、労働組合に資料を渡す場合には注意する必要があります。給与等に関する交渉の場合、経営に関する資料を説明の際に用いることがありますが、安易に内部資料を手渡すと情報流出のリスクがあります。資料の内容によっては、後で回収することを宣言して閲覧させるだけにするとか、交付する場合には第三者に開示しない旨の誓約書をもらう等の対応が考えられます。