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お金の貸し借りにはご注意を!

(質問)
個人間でのお金の貸し借りをめぐる問題点や注意事項について教えてください。

(回答)
1 お金の貸し借りをめぐるトラブル
当事務所も,お金の貸し借りをめぐる相談を受けることが多々ございます。その中で一番多い 相談が,「お金を貸したのに返してくれない」というものです。
このような場合,まずは,借主に対してお金を返すようにと連絡をとるのですが,もう少し待ってほしいなどと言われるのであればまだましな方で,そもそもお金を借りていない,あのお金は貰ったものだ等と反論されることもあります。こうなってしまっては,貸主と借主の人間関係は完全に破壊され,後は,泥沼の争いが待ち受けることになります。
皆様は金の貸し借りをめぐるトラブルの原因は,どこにあると思われますか?安易にお金を貸した方が悪い,借主の不誠実な態度が悪い等,様々なご回答が想定されますが,法律家としては,貸主と借主の合意内容が客観的に明らかになっていないということが,大きな問題だと思います。貸主と借主の合意内容が不明確であると,貸主はお金を貸したつもりだったが,借主は貰ったつもりだったなど,認識の相違が発生し,トラブルに発展しやすいからです。

2 重要なのは客観的な証拠!
お金の貸し借りをめぐるトラブルを未然に防ぐためには,まずは,相互に認識の相違,簡単に申し上げれば勘違いが生じないよう,合意内容を書面(契約書)で明らかにするべきです。契約書には,最低限,①貸付金額,②借主に金銭を交付したこと,③返済方法及び返済期日,④利息の有無及び利率について,定めるようにしましょう。そして,契約書には,契約書の作成日を記載し,また貸主及び借主の署名押印をします。加えて,お金を貸したときには,送金証明書や領収書など,お金を渡したという痕跡を残しておくとよいでしょう。
ただ,親しい者同士のお金の貸し借りの場合,なかなか契約書まで作成するのが難しいと仰る方もいます。そのような場合であれば,お金の貸し借りに関する約束事につき,メールやライン等でやりとりをしたり,口頭でのやりとりを録音したりして,客観的に約束の内容を明らかにできるようにしましょう。そのようにすれば,貸主と借主の間で,お金の貸し借りに関する認識の相違が発生するリスクを低減できるからです。
なお,当職としては,親しい者同士こそ,金銭の貸し借りで人間関係を壊さないよう,契約書を作成してほしいと思っています。

3 借主がお金を返してくれなかった場合は,どうすればいいの?
借主がいつまでたってもお金を返してくれない場合,どうすればいいのでしょうか。
この場合は,残念ながら,訴訟などの法的手続きをとらざるを得ません。
そ して,訴訟をする場合,訴訟を提起した人が,自らの主張を正しいと裏付ける証拠を提出する必要があります。その際,裁判所は,契約書等の客観的な証拠を重視しますので,口約束だけでお金を貸してしまうと,勝訴の確率はどうしても低くなってしまいます。この点からも,お金を貸す際は,契約書を作成することが重要といえます。
後で嫌な思いをしないためにも,トラブルを事前に防止することを心がけましょう!

相続法改正③(生前贈与・寄与分)

(質問)
相続法が約40年ぶりに改正されると聞きましたが、具体的にどのように変わるのでしょうか?

(回答)

1 遺留分制度とは?
遺留分制度とは,相続人の相続に対する期待を保護するという観点から,一定の範囲の法定相続人(配偶者,子,直系尊属)に対し,最低限の遺産の取得を保障するという制度のことです。
この遺留分は,遺言によっても侵害することはできません。そのため,遺言書で「長男にすべての財産を相続させる。」としていたとしても,次男が遺留分を請求すれば,これを渡さなければならないのです。
さて,遺留分の一般的な割合は,直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1,その他の場合は相続財産の2分の1です(以下「相対的遺留分」といいます。)。そして,相続人各自の個別的な遺留分は,相対的遺留分割合に各自の法定相続分の割合を乗じたものとなります。
具体例で考えてみましょう。例えば,相続人が,配偶者と子供2人(長男,次男)であったとします。この場合,相対的遺留分は,2分の1となります。次に,配偶者の遺留分は,2分の1に,配偶者の法定相続分2分の1を乗じた4分の1となります。また,長男及び次男の遺留分は,2分の1に子供の法定相続分4分の1(子供の法定相続分2分の1を,長男及び次男の間で等しく分けた割合)を乗じた8分の1となります。そのため,相続財産が1000万円であったとすると,配偶者の遺留分額は250万円,長男及び次男の遺留分額は125万円となります。

2 遺留分制度の改正
さて,実際に遺留分を算定するにあたっては,遺留分算定の基礎となる財産を確定しなければなりません。今回の相続法改正では,遺留分を算定するための財産の価格に算入される生前贈与に関する規定が改正されました。
遺留分算定の基礎となる財産額は,被相続人(亡くなった方)が相続開始時に有していた財産額+贈与財産の価格-相続債務の全額となります。この「贈与財産の価格」につき,現行法は「相続開始前の一年間にしたものに限」ると定めています。ただ,判例上,これは,相続人以外の第三者に対して贈与がなされた場合に適用されるものであり,相続人に対して生前贈与がされた場合には,その時期を問わずに遺留分を算定するための財産の価額に算入されると判断されています。そのため,被相続人が,相続開始(死亡)から何十年も前にした相続人に対する贈与によって,遺留分侵害額が変わるということになります。
しかし,被相続人が,相続開始から何十年も前にした相続人に対する贈与など,容易に証明できるものではありません。そこで,紛争が長期化する事案が多く見受けられました。
そこで,改正相続法では,遺留分を算定するための財産の価格に算入される生前贈与につき,これが相続人に対するものであれば,原則として相続開始前10年以内になされた特別受益に該当する生前贈与に限定することとしました。なお,第三者に対する生前贈与については,現行法と同じく,原則として,相続開始1年以内になされたものに限定されています。
これにより,紛争の早期解決がもたらされることが期待されています。

3 寄与分制度とは?
共同相続人中に,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がある場合に,他の相続人との実質的な衡平を図るため,その寄与相続人に対して相続分以上の財産を取得させる制度のことです。
例えば,被相続人に2人の子供がおり,そのうち1人は,家業を手伝い被相続人の財産の維持・増加に多大な貢献をしましたが,他方は,早くに家を出て生活し財産の維持・増加に何ら貢献しなかったとします。このように,被相続人の財産の維持・増加に対する貢献の度合いに差がある2人が,平等に被相続人の財産を相続するとしますと,両者の間に不公平が生じます。そこで,両者間の衡平を図るべく,寄与分という制度が設けられています。

4 寄与分制度の改正
先述べましたとおり,寄与分は,現行法では,相続人のみ認められています。そのため,例えば,相続人の妻が,被相続人(例:夫の父親)の療養看護に努め,被相続人の財産の維持又は増加に寄与した場合であっても,かかる妻が,寄与分を主張したり,何らかの財産の分配を請求したりすることはできませんでした。
しかし,これでは,被相続人の療養看護等を全く行わなかった相続人が遺産の分配を受ける一方,実際に療養看護等を務めた者が相続人でないという理由だけで遺産の分配を受けることができず,不公平だと感じる方が多くいらっしゃいました。
そこで,改正相続法では,「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族」は,相続の開始後,相続人に対し,特別寄与料の請求ができると定められました。このように,被相続人の「親族」,つまり6親等内の血族,配偶者及び3親等内の姻族に,特別寄与料の請求が認められるようになったのです。
なお,特別寄与料の請求は,まずは相続人に対して行いますが,そこで協議が整わなければ,家庭裁判所に対し,処分を求めることができます。ただし,かかる請求は,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月以内,かつ相続開始時から1年以内にしなければなりません。機関制限があるという点については,注意が必要です。

相続法改正②(凍結預金・自筆証書遺言)

(質問)
 相続法が約40年ぶりに改正されると聞きましたが、具体的にどのように変わるのでしょうか?

(回答)

1 預貯金の払戻し
 身近な人が亡くなると,お葬式の費用や生活費等として,すぐに金銭が必要となることが多いといえます。
 そして,このような費用は,お亡くなりになった方(以下「被相続人」といいます。)の預貯金から賄いたいと思われる方が多いことでしょう。
 しかし,相続人が,被相続人の預貯金を引き出そうとすると,既に口座が凍結されており,金融機関が払戻しに応じないという事態がよく見受けられます。相続人全員の同意があれば,預貯金を引き出すことは可能でしょうが,遺産分割について争いがある場合は,相続人全員の同意を得ることは困難です。このような事態は,被相続人の給与等で生活をしていた家族にとって,死活問題となり得ます。
 そこで,改正相続法は,遺産に属する預貯金債権のうち,相続開始時の預貯金債権額の3分の1に権利行使者の法定相続分を乗じた額については,金融機関ごとに法務省令で定める額を限度として,単独で金融機関に対して払戻しを求めることができるという制度を新設しました。
 具体例で考えてみましょう。被相続人の遺産として,6000万円の普通預金があるとします。相続人は,配偶者と子供2人です。この場合,配偶者が,本制度を用いて被相続人の預貯金を引き出そうとすると,遺産である普通預金6000万円の3分の1である2000万円に,権利行使者である配偶者の法定相続分2分の1を乗じた1000万円については,単独で払戻しを受けることができるのです(法務省令で定める限度額によっては,1000万円の払戻しを受けることができないこともあります。)。
 これにより,相続人が,被相続人の預貯金を引き出すことが容易になりました。

2 法定単純承認の危険
 相続人は,相続が開始した場合,相続放棄(被相続人の権利や義務を一切受け継がないこと),限定承認(被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐこと),単純承認(被相続人の権利や義務をすべて受け継ぐこと)のいずれかを選択できます。
 しかし,法律上,一定の事由がある場合は,当然に単純承認の効果が発生すると定められているのです。これが法定単純承認という制度です。
 単純承認とみなされる事由の中に,「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」というものがあります。相続財産の処分行為は,相続人が相続放棄や限定承認をしないことを前提とした行為であるため,単純承認をしたものとみなされるのです。
 そして,原則として,預貯金の解約は,法定単純承認事由である「処分」に該当します。そのため,相続放棄や限定承認を検討しているうちは,被相続人の預貯金の解約はしない方が安全といえます。もっとも,預貯金解約によって得た金銭の使途等によっては,法定単純承認である「処分」に該当しないと判断される可能性があります。例えば,被相続人の貯金を解約し,葬儀費用にした行為につき,単純承認とみなされる「処分」に該当しないと判断した裁判例もあります。被相続人の葬儀は,遺族として当然に営まなければならないものであり,葬儀費用に相続財産を支出したとしても信義則上やむを得ないと考えたためでしょう。ただ,これも,ケースバイケースの判断かと思われますので,葬儀費用であれば相続財産から支出しても単純承認をしたとみなされないと考えるのは危険です。
 いずれにしろ,相続財産を処分する場合は,相続放棄や限定承認ができなくなる危険があるということは,念頭に置いておいてください。

3 自筆証書遺言の方式の緩和
 現在,自筆証書遺言は,全文,日付及び氏名のすべてを自書しなければならないとされています。しかし,高齢者等にとって,全文を自書するのは骨が折れる作業であり,これが自筆証書遺言の利用を妨げる要因となっていると指摘されてきました。
 そこで,改正相続法は,自筆証書に添付する財産目録については,自書することを要しないと定めました。財産目録とは,例えば,相続財産が不動産である場合は,その地番,面積等,預貯金等債権である場合には,その金融機関名や口座番号等です。これらは,自書することが煩雑であると共に,形式的な記載事項であるため,自書する必要がないとしたものです。但し,遺言者は,財産目録の各ページに署名押印をすることが必要です。

4 自筆証書遺言の保管制度
 自筆証書遺言のデメリットとしては,作成後に遺言書を紛失したり,又は相続人によって隠匿,変造されたりする恐れがあるなど,トラブルが発生しやすいという点にあります。
 そこで,「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が制定され,自筆証書遺言を公的に保管する制度が創設されることとなりました。
 具体的には,遺言者は,遺言書保管官(遺言書保管所(法務省)に勤務する指定法務事務官)に対し,遺言書の申請をします。なお,かかる遺言書には,一定の形式が求められます。そして,申請を受けた遺言書保管官は,遺言者の本人確認を行い,保管日から,遺言者死亡日から政令で定める一定の期間が経過するまで,遺言書保管所の施設内において遺言書を保管します。
 これにより,自筆証書遺言の利用促進が望まれます。
 なお,遺言書保管法の施行期日は,平成32年7月10日と定められました。そのため,施行前には,法務局に対して遺言書の保管を申請することはできませんので,ご注意ください。

相続法改正①(配偶者居住権)

(質問)
 相続法が約40年ぶりに改正されると聞きましたが、具体的にどのように変わるのでしょうか?

(回答)

1 法律の公布? 施行?
 平成29年5月26日,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立しました(同年6月2日公布)。そして,一部の規定を除き,平成32年(2020年)4月1日から施行されます。
 さて,法律の「公布」や「施行」という言葉は聞き慣れない言葉かと思いますので,初めに,法律の成立から施行までの流れにつき,簡単にご説明をさせて頂きます。
 まず,法律は,原則として,衆議院及び参議院の両議院で可決したときに法律となります。そして,法律が成立したときは,後議院の議長から内閣を経由して天皇に同法律の公布が奏上されます。
 法律は,この奏上がなされた日から30日以内に,天皇によって公布されます。公布とは,成立した法令を広く一般に周知させる目的で当該法令を公示する行為をいいます。公布は,官報に掲載されることによって行われることがほとんどです。
 ただ,法律が効力を有するのは,公布日ではなく,法律が「施行」された日です。施行日は,法律で定められます。法律の施行については,一般的に国民への周知という観点から一定の期間を置くことが望ましいと考えられています。 
 ただ,法律を施行するための準備や周知のための期間が必要ないと考えられる場合や緊急を要する場合には,即日施行されることもあります。民法改正は,国民の社会生活に与える影響が大きく,準備のための期間が必要ですので,法律の公布から施行までの間に3年弱という長い期間が設けられています。

2 配偶者居住権とは
 今回の相続法改正においては,配偶者の権利が大きく拡大されています。
 その中の1つが,配偶者居住権です。例えば,夫が死亡し,妻と子供2人が相続人である場合,法定相続分は,妻が2分の1,子供がそれぞれ4分の1となります。このとき,相続財産を法定相続分どおりに分けようとすると,相続財産の中に現預金が少なければ,自宅を売却せざるを得なくなります(詳細は,後述します。)。しかし,妻にとって,住み慣れた建物から引っ越し,新たな生活を始めることは,肉体的にも精神的にも大きな負担となります。そこで,相続法の改正により,配偶者居住権という権利が創設され,配偶者が住み慣れた家に居住し続けることを容易にする改正がなされました。 

3 配偶者居住権が認められるための要件
 配偶者居住権とは,被相続人(お亡くなりになった人)の配偶者が,遺産である建物に相続開始時(死亡日)に居住していた場合であって,①遺産分割で配偶者居住権を取得すると決まったとき,又は②配偶者居住権が遺贈されたときは,その建物を無償で使用収益する権利(=配偶者居住権)を取得できるというものです。
 配偶者は,建物に「住む」ということを重視していると思われますので,建物を「所有」することに対するこだわりは大きくないと考えられます。そこで,建物の価値を,居住権部分とこれを除く部分とに分け,遺産分割の際に,配偶者が,建物の居住権部分(配偶者居住権)を取得することで,建物を取得する場合に比べて安価で居住権を確保できるようになりました。
 具体例で考えてみましょう。夫が亡くなり,妻と子供2人が相続人というケースです。遺産は,自宅の土地建物が5000万円,現金が3000万円です。この場合,妻が,建物に住み続けたいと考えれば,現行法では,妻は,4000万円,子供はそれぞれ2000万円を相続することになりますので,不動産の価値5000万円と妻の法定相続分4000万円との差額である1000万円を子供たちに支払わなければなりません。妻が,妻が現金を保有していれば1000万円を支払うことも可能でしょうが,そうでなければ,結局,建物を売却等し,その代金を法定相続分に従って分けるなどの方法をとるしかありません。
 しかし,改正法では,5000万円の不動産の価値を居住権部分とそれ以外の部分に分けて相続することが可能となりました。そのため,不動産の居住権の価値が仮に3000万円であったとすると,妻は,相続により,建物の居住権3000万円に加えて1000万円の現金を手にすることができます。そして,子供達は,建物所有権1000万円に加え,現金1000万円を取得します。
 このように,配偶者居住権が認められることによって,妻は,長年住み続けた家に無償で住み続けられるのみならず,老後の生活資金として,現金まで取得できるのです。
 また,配偶者居住権は,配偶者が亡くなるときまで存続します。配偶者居住権は,あくまで配偶者が住み慣れた家に住み続けるために認められたものですので,この権利を第三者に譲渡することはできません。そして,所有者の許可を得ず,建物を改築若しくは増築したり,第三者に使用収益させたりすることもできません。

下請法とは

(質問)
 当社は製造業を営む会社ですが、順調に業績を伸ばして規模を拡大してきた反面、社内規定や契約書などの整備が追いついておらず、コンプライアンス面に弱みがあります。先日、他社との取引の際は下請法に注意しなければならないと耳にしたのですが、これはどのような法律でしょうか。

(回答)

1 下請法とは
 下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者の下請事業者に対する優越的地位の濫用を規制し、下請事業者の利益を保護するのための法律です。
下請法が適用されるのは、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4種類の取引です。
下請法という言葉のイメージからは建設業に適用される法律のようにも思いますが、業種ではなく取引の種類に着目した法律で、建設工事自体は対象としていません(建設業は建設業法によって規律されています)。

2 下請法が適用される事業者
 下請法は、取引の種類のほか、資本金額によって適用の有無が決まります。
まず、製造委託、修理委託、政令で定める情報成果物(プログラム)作成委託、政令で定める役務(運送、物品の倉庫保管、情報処理)提供委託に関しては、①資本金3億円超の法人と個人又は資本金3億円以下の法人が取引する場合、②資本金1000万円超3億円以下の法人と個人又は資本金1000万円以下の法人が取引する場合に適用されます。
 また、上記以外の情報成果物作成委託、役務提供委託については、①資本金5000万円超の法人と個人又は資本金5000万円以下の法人が取引する場合、②資本金1000万円超5000万円以下の法人と個人又は資本金1000万円以下の法人が取引する場合に適用されます。

3 親事業者の義務
 下請法では、親事業者の義務の義務として、①発注書面の交付義務、②取引記録書類の作成・保存義務、③下請代金の支払期日を定める義務、④遅延利息を支払う義務が規定されています。
下請法が適用される取引についてはきちんと書面に残しておく必要があり、口約束のみで処理することは違法になります。なお、下請代金の支払期日は、物の受領や役務の提供を受けてから60日以内としなければなりません。

4 親事業者の禁止行為
 親事業者の禁止事項として、①受領拒否、②下請代金の支払遅延、③下請代金の減額、④返品、⑤買いたたき、⑥物の購入強制・役務の利用強制、⑦報復措置、⑧有償支給原材料等の対価の早期決済、⑨割引困難な手形の交付、⑩不当な経済上の利益の提供要請、⑪不当なやり直しが定められています。
 典型的な違反は、支払遅延のほか、買いたたきや下請代金の減額があります。
 下請法は、下請事業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、発注後の下請代金減額を禁止しています。そのため、たとえば、代金を支払うときに振込手数料を差し引いて送金することも、下請事業者の同意がない限り違法になります。
 下請法は意外と見落としがちな法律で、知らず知らずのうちに違反状態になってしまうことがあります。適用の有無については、取引の種類と資本関係に注意する必要があります。

隣地使用権とは

(質問)
 私は、この度、老朽化した自宅の修繕工事をしようと考えています。しかしながら、敷地が狭いため、工事をする上でどうしても隣の土地に立ち入る必要があります。
 隣人が立ち入りを承諾してくれない場合には工事ができないのですが、どうすればいいのでしょうか。

(回答)

1 隣地使用権とは
 所有権は物に対する絶対的な権利ですので、原則としてその物をどのように使用するかは所有権者が自由に決めることができます。
 そのため、他人の土地を無断で使用することは、その土地の所有者の所有権を侵害することになりますし、不法占有による損害賠償義務も生じます。
 もっとも、この原則を貫くと、今回の事例のように不都合が生じることから、民法は、一定の場合に隣地の使用請求権を認めています。
 具体的には、民法第209条第1項が、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。」と規定しています。
 本件でも、自分の敷地に余裕がない場合には、工事に必要な範囲で、敷地に立ち入ったり、足場を設置すること、材料や機械を隣地に一時置くこと等が認められます。

2 隣人が承諾してくれない場合
 上記のとおり、民法上の隣地使用権が認められる場合に、これを隣地所有者が拒否した場合はどうなるのでしょうか。
 民法第209条第1項の場合には、一方的に隣地所有者に通知することで使用が認められるのか、あくまでも隣地所有者の承諾が必要なのかが問題になります。
 この点について、一般的には、使用について隣地所有者の承諾が必要と解されています。
 そのため、隣地の所有者が承諾をしてくれない場合には、裁判所に、「承諾に代わる判決」を求めて訴えを提起し、勝訴判決を取得する必要があります。
 隣地使用が認められる場合であるからといって、相手の承諾がないのに使用を強行することは、違法な自力救済にあたりますし、場合によっては住居侵入罪等に問われる恐れもあります。
 もし、判決を待っていては壁が崩壊して修復不可能となる等、緊急を要する場合であれば、隣地使用に関する保全処分として、仮処分決定を得て隣地に立入ることになります。
 以上のように、一定の場合には隣地の使用請求権が認められますが、無断での使用が認められているわけではありません。
 また、承諾を得て隣地を使用する場合でも、使用によって隣地所有者に損害を与えた場合には、これを賠償する義務があることにも注意が必要です。

健康食品と食品表示法について

(質問)
 最近、健康のため、体にいい成分が入った食品を意識的に買うようになりました。
 CM等では、「トクホ」の商品をよく見かけますし、その他にも「機能性表示食品」というのもあるようです。
 これらの健康食品は、どのような違いがあるのでしょうか。

(回答)

1 特定保健用食品とは
 現行の健康食品に関する制度としては、食品表示法・食品表基準において、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品が制度化されており、これら三つが、「保健機能食品」と位置付けられています。
 保健機能食品のうち、特定保健用食品は、「トクホ」の通称でおなじみですが、これは、健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ、「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可されている食品です。
表示されている効果や安全性については国が審査を行い、個別の食品ごとに消費者庁が表示を許可しています。

2 栄養機能食品とは
 栄養機能食品は、ビタミンやミネラルなどの既に科学的根拠が確認されている栄養成分を一定の基準量含む食品であれば、届出などをしなくても、国が定めた表現によって機能性を表示することができる制度です。

3 機能性表示食品とは
 機能性表示食品は、科学的根拠を基に、「おなかの調子を整えます」、「脂肪の吸収をおだやかにします」などの機能性を表示することができる食品のことです。事前の届出によって、事業者の責任において食品の機能性表示ができる制度で、平成27年4月に始まりました。
 トクホの場合は、表示の許可を得るためにランダム化比較試験(RCT)という信頼性の高い研究で有効性が立証する必要があり、許可までの時間と多額の費用がかかるという問題がありました。そのため、申請できる企業はコストをかけて厳しい審査をクリアできる大企業ばかりで、中小企業にはなかなか手が届かない制度であるとの指摘もありました。
 これに対して機能性表示食品は、届出によって製造・販売が可能であること、機能性評価の科学的根拠となる資料についても、論文などの報告を取りまとめて評価した研究レビューでよく、臨床試験を実施しなくても食品の機能性表示が可能であることに違いがあります。
 もっとも、トクホのように国の個別審査を受けたものではなく、機能性表示は届出事業者の責任においてなされていることに注意が必要です。

4 まとめ
 上記の保健機能食品以外の食品については、保健機能食品と紛らわしい名称や栄養成分の機能・特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語を表示することができません。
 その他、健康食品に関する表示には、景品表示法や健康増進法による虚偽誇大表示等の禁止や薬機法によっても規制がなされています。
 健康食品の中には誇大な健康増進効果を謳うものがあり、機能性表示食品についても、景品表示法に違反することを理由に、消費者庁が事業者に対して措置命令や課徴金納付命令が出したケースがあります。食品を購入する際には、どのような根拠でどのような効果を謳っているのか、表示の内容をよく確認することが大切です。

職場におけるセクハラのリスク

(質問)
 当社では、従業員の間でセクハラの相談等を聞いたことがなく、セクハラに関する指針を特に明確にしておりません。何か問題があるでしょうか。
 そもそもセクハラは何が基準となるのでしょうか。

(回答)

1 「セクハラ」の定義
 実は,日本において,法律上明確にセクハラという言葉を用いて,その定義をしている規定はありません。
 ただ,セクハラの定義を知る手がかりとなるものはいくつかございます。男女雇用機会均等法に基づき,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(以下「セクハラ指針」といいます。)が定められているのですが,この指針の中では,「事業主が職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」を職場におけるセクハラとしています。
 また,国家公務員を対象とした人事院規則では,セクハラを「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」と定義しています。

2 セクハラに当たるかどうかの基準
 セクハラに当たるかどうかの明確な基準はありませんが,先に述べた人事院規則の運用に関する行政の通知では,「性に関する言動に対する受け止め方には個人間で差があり,セクシュアル・ハラスメントに当たるか否かについては,相手の判断が重要」であるとされており,相手方の受け止めが重要視されています。

3 セクハラに該当する言動
 簡単にセクハラの具体例を示させて頂きます。
 「性的な言動」とは,性的な内容の発言及び性的な行動を指し,「発言」としては,性的な事実関係を尋ねること,性的な内容の情報を意図的に流布すること,性的な冗談やからかい,食事やデートに執拗に誘うこと等,「行動」としては,性的な関係を強要すること,必要なく身体に触れること,わいせつな図画を配布すること等が含まれます。
 そして,セクハラ指針においては,職場におけるセクハラには,①対価型セクハラと②環境型セクハラがあるとされています。①対価型セクハラとは,職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により,当該労働者が解雇,降格,減給等の不利益を受けることであり,例えば,職場において,上司が労働者の腰等に触れたが,部下がそれを拒否したため,当該労働者について不利益な配置転換をすること等です。また,②環境型セクハラとは,職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため,能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることであり,例えば,労働者が抗議をしているにもかかわらず,会社内にヌードポスターを掲示しているため,当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと等です。

4 セクハラのリスク 
 仮に,職場でセクハラがなされた場合,どのようなリスクがあるでしょうか。
 まず,セクハラ行為の加害者は,被害者から不法行為に基づく損害賠償請求をされる可能性があります。損害賠償額は,セクハラ行為の態様によってまちまちであり,数万円から数百万円と幅があります。
 また,現在は,大抵の会社でセクハラが懲戒事由とされていますので,加害者には懲戒処分がなされる可能性が高いといえます。セクハラの態様によっては,懲戒解雇がなされる可能性も多分にあります。余談ですが,福岡高等検察庁の前刑事部長が,部下の女性職員にセクハラをしたとして,減給の懲戒処分を受けたという事件がありました。この刑事部長は,結局,依願退職されたようです。同じく法に携わる者として,非常に残念な報道ではありましたが,このように,セクハラの加害者が懲戒処分を受けるというのは当然のことかもしれません。
 次に,セクハラが,「事業の執行につき」行われた場合には,加害者の使用者(会社)が責任を問われることがあります。そして,被用者の職務執行行為そのものには属しないとしても,その行為の外形から観察して,あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる行為は,「事業の執行につき」行われた行為と評されます。例えば,加害者が,新入社員の歓迎会でセクハラを行った場合,新入社員の歓迎会は会社の行事といえるため,「事業の執行につき」なされたセクハラとして,会社が責任を問われる可能性が多分にあります。
 また,会社は,職場においてセクハラがなされないように配慮する義務を負っているため,これを怠ったがためにセクハラが発生したような場合は,会社が被害者に対して損害賠償責任を負うことになります。
 セクハラは,企業イメージを悪化させますので,これによる悪影響は計り知れません。
 会社は,職場におけるセクハラに関する指針を明確にし,その周知・啓発を行う必要があります。そして,セクハラに関する相談・苦情に対応するための体制を整えなければなりません。セクハラに関する相談があった場合には,会社は迅速かつ適切に対応しなければなりません。事実関係を迅速かつ正確に調査し,仮にセクハラの事実が認定できれば,速やかに被害者に対する配慮のための措置をとり,また加害者に対する措置も行わなければなりません。
 セクハラへの対応は,会社のリスクマネジメントとして,また被害者の権利を守るためにも,非常に重要なことです。

資格取得費用と損害賠償予定の禁止

(質問)
 当社では、従業員に対して、各種資格を取得するための受験料等を支給しています。
 しかしながら、せっかく資格を取得しても、すぐにその従業員が会社を辞めてしまったのでは、受験料等を支給したことが無駄になってしまいます。
 そこで、資格取得後一定期間以内に会社を辞めた場合には、会社が支給した資格取得費用を返還してもらうようにすることを考えているのですが、法律上問題はあるでしょうか。

(回答)

1 損害賠償の予定の禁止
 労基法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めています。これは、退職に対して違約金や損害賠償を支払わせることによって労働を強制することを禁止する規定です。
 そして、従業員が一定の期間を経ずに退職した場合に、一旦会社が支給した資格取得費用の返還を義務付けることは、結局、退職に対する金銭的なペナルティを設けて労働者を労働契約に縛ることになりますので、労基法16条に抵触することになります。

2 消費貸借の形式を取ると適法か
 これに対して、資格取得費用を会社が労働者に貸し付け、一定期間就労した場合にその返還義務を免除する場合には、直ちに労基法16条との抵触は生じません。
本来であれば会社に返済しなければならない借入債務が、一定の条件(一定期間の就労)を満たした場合に免除されるというものであり、違約金や損害賠償を定めて労働者の退職を制限しているわけではないからです。
 しかしながら、貸付けの形式を取れば常に労基法に違反しないというわけではありません。

3 資格の取得が自由意思に委ねられているのか
 そもそも、資格取得費用は、労働者が自己負担すべきものなのでしょうか。
 この点、業務との関連性が薄く個人の利益性が強い資格・自己啓発として取得する資格については、労働者が自己負担するのが原則です。
 これに対して、会社の業務上の必要性から資格を取得させる場合には、その費用は会社負担であると解されています。会社が労働者に資格を取得させることで利益を得るわけですから、そのための経費も会社が負担すべきということです。
 そのため、業務との関連性が強い資格・業務命令として取得させる資格の取得費用については、たとえ貸付けと返還免除の形式をとったとしても、それは、本来労働者が負担する必要のない金銭的負担を課すことで就労継続を強制することになりますので、やはり、労基法16条に抵触することになります。
 以上のような観点からすると、今回のケースでも、当該資格の種類や業務との関連性、取得が従業員の自由意思に委ねられているのか等によって取扱いを整理する必要があります。 
 

災害と賃貸借契約・履行遅滞について

(質問)
 先日の大雨と土砂災害で会社の事務所が一部損壊してしまいました。事務所は賃貸物件なのですが、修繕は当社がしなければならないのでしょうか、大家さんがするのでしょうか。
 また、倉庫が浸水して商品の材料等がだめになったため、取引先への納期が守れなくなってしまったのですが、このような場合でも納期遅れの違約金を支払わなければならないのでしょうか。

(回答)

1 賃貸物の修繕
 賃貸人には、賃貸物を賃借人に使用収益させる責任があり、そのために必要な修繕は賃貸人の義務です。そのため、賃借人の過失によって物件が損壊した場合でなれば、原則として賃貸人が修繕費を負担することになります。
 もっとも、賃貸借契約書の中に、天災による損壊等の修繕の責任を賃借人が負担するという条項が入っている場合があります。このような条項があるからといって常にその法的効力が認められるわけではありませんが、注意が必要です。

2 賃貸物の損壊と賃料減額
 災害などで賃貸物自体が滅失した場合、賃貸借契約は履行不能によって消滅します。
 これに対して、賃貸物の一部が滅失した場合には、賃借人は、滅失した割合に応じて賃料の減額を請求することができます。また、残存する部分のみでは賃貸借の目的が達成できないときは、賃借人は契約を解除することができます。
賃借人は、賃貸人に賃貸物の修繕請求をしつつ、修繕が終了するまでの間の賃料の減額を求めることもできます。
 なお、賃貸人には賃貸物を修繕する義務がありますが、これは賃貸人自身の権利でもあります。賃貸物を修繕するために賃借人が一時退去する必要がある場合、賃借人はこれを拒絶することはできません。 

3 災害と履行遅滞
 債務者が契約期限までに債務を履行できなかった場合、履行遅滞に基づく損害賠償責任が生じたり、契約の解除事由になることがあります。
 ただし、履行遅滞として債務不履行責任が生じるのは、あくまでも債務者に帰責事由がある場合です。
 災害によって材料が滅失したことで納期に間に合わないことは、材料の保管方法が不適切であったような場合を除き、不可抗力であるといえます。そのため、今回のケースでも、原則として、債務者には過失がなく、履行遅滞の責任は生じないと考えられます。
 もっとも、契約書において、債務者が期限までの履行を保証している等、天災等の不可抗力の責任を債務者が負っていると解される場合には、損害賠償責任が生じることもあります。その意味で、災害のような事態で契約通りの債務を履行できなくなった場合の責任について、普段から契約書の条項がどのようになっているか注意を払う必要があります。