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有価証券の取得を勧誘する際の規制について

(質問)
 当社は、資金調達のために、株式を新たに発行することを考えています。そこで、当社は、少しでも多数の方に取得していただくため、少なくとも50名以上の方に当該株式の取得について勧誘を行うことにしました。
 この場合、どのようなことに注意する必要があるでしょうか。

(回答)

1 有価証券の募集とは?
金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)における有価証券の募集とは、新たに発行される株式等の有価証券の取得の申込みの勧誘行為(以下「取得勧誘」といいます。)のうち、一定の要件を満たすものをいいます。50名以上の方を対象として取得勧誘を行う場合には、一定の例外はあるものの、原則として、有価証券の募集に該当すると考えられます。
このように、有価証券の募集は、取得勧誘を前提とするものですが、どのような行為が取得勧誘に該当するかについては、金商法において明確に定義されていません。もっとも、一般的には、投資を考えている方に対し、特定の有価証券の存在を示して関心を持たせ、その有価証券に対して投資する意欲が湧くように導く行為のことをいうと考えられます。
ご相談の場合も、勧誘の態様次第にはなりますが、貴社の行為が有価証券の募集に該当することになる可能性は十分に考えられます。

2 有価証券の募集を行う際にはどのようなことに注意すればいい?
有価証券の募集を行うにあたっては、有価証券の発行者が、事前に有価証券届出書を内閣総理大臣に提出している必要があります(金商法第4条第1項)。そのため、有価証券の募集を行う際には、このような規制を考慮し、いつ有価証券届出書を提出することができるかのスケジュールを考慮する必要があります。

3 有価証券届出書を提出しないで有価証券の募集を行うとどうなる?
有価証券届出書を提出する前に有価証券の募集を行ってしまった場合には、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せされ、又はこれが併科されることになります(金商法第197条の2第1号)。このように、有価証券届出書を提出する前に有価証券の募集を行ってしまうと、刑罰が科されるリスクがあります。
また、有価証券届出書を提出する前に有価証券の募集を行ったことで投資者が有価証券を取得した場合、その態様にもよりますが、当該取得が無効であると判断されるリスクも考えられます。
そして、金商法に違反したということが新聞等で報道された場合、会社の信用に悪影響が出るリスクが考えられます。

4 金商法等の法律を意識する必要性
会社を経営していくにあたっては資金調達も必要になるところ、規制に違反しないで行っていくためには、金商法等の法律の内容を意識する必要があります。
今日の社会ではコンプライアンスが強く求められる以上、法律に違反した場合には、会社の経営に重大な支障が生じることにつながりかねません。そして、法律は、金商法のみならず、民法、会社法、労働基準法など様々なものが存在しています。
これから行おうとする行為が何らかの法律に違反していないか、どのように行えば法律に違反しないで行うことができるかなどについてお悩みの場合には、弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。

電子契約書は法的に問題ないの?

(質問)
 契約書を紙ではなく電子文書で作ることができると聞きました。電子文書で契約することは、法律的には問題ないのでしょうか。また、そうすることで、具体的にどのようなメリットがあるかを教えてください。 

(回答)

1 ペーパーレス化が再注目されている!
本年5月、衆院規則改正による国会のペーパーレス化が話題となりました。国会における議員への印刷物の配布を減らすことにより、年間で約4600万円もの国の経費が削減されると言われています。
この「ペーパーレス」という考え方は、1970年代から主に環境問題や経費削減の文脈で使われてきたものですが、実は近年、経費の削減はもちろんのこと、働き方改革との関連においても、従業員の業務を削減し企業の生産性を向上させるものとして、再注目されているのです。
「電子契約」とは、紙の文書を使用せず電子文書で契約を締結することをいい、上記のようなペーパーレス化の一環として注目を集め、大企業を中心に、中小企業にまでも普及し始めています。

2 電子契約の法的有効性
電子契約は、契約をする当事者が、契約内容の書かれた電子文書に、署名押印の代わりとなる「電子署名」と、「タイムスタンプ」とを埋め込んだものをインターネット上で取り交すことにより締結されます。
このような電子文書を用いて行う契約も、ごく一部の例外を除き、法律的には有効です。というのも、法律上、ほとんどの契約は口頭での約束のみによって締結することができるものであり、契約書は、契約をしたという事実や契約内容について後に争いが生じた場合に、その証拠としての役割を担うに過ぎないものだからです。
そして、電子契約書も、その作成の仕方次第では、紙の契約書に劣らない証拠力を持った証拠とすることができるものと考えられています。

3 メリットとデメリット
契約を電子文書で行うことの最大のメリットは、経費削減効果です。具体的には、まず、契約がコンピュータ上で完結するため、契約書の印刷や郵送にかかる費用が不要となります。また、紙の契約書の場合、収入印紙の貼付が必要ですが、電子文書で契約を締結する場合にはこれを不要とする運用がされており、印紙代についても削減することが可能です。これに加え、契約締結までの工数を削減できることにより作業効率が上がり、生産性の向上に繋がる点や、文書の管理・調査が容易になることによるコンプライアンスの向上の点などにもメリットがあるといえます。
他方、取引先への理解を得ることが難しい場合がある点や、社内においても契約業務の変更について説明や研修を行う必要がある点で、デメリットも存在します。

4 今後は電子契約が増えていく?
2018年に行われたとある調査によると、当時既に電子契約を採用していると回答した企業は約43%あり、導入の検討をしていると答えた企業を含めると、電子契約の導入に前向きな企業の割合は63%にも上るとされています。
 それと同時に、民間会社が、簡易な手続で電子契約を締結することを可能とする多様な「電子契約サービス」の提供を始めるなど、企業が電子契約を導入するハードルは年々低下しています。
 このような状況からすれば、契約書の電子化は、今後、ますます広がりをみせていくものと考えられます。取引先から「電子契約に変えませんか?」などと持ち掛けられることもあるかもしれません。
 契約書は、取引上のトラブルが生じた際、重要な証拠となるものですから、実際に電子契約を導入する際には、その仕組みや作成にかかる業務フローについて、しっかりと理解し検討することが必要です。契約書の電子化についてお悩みの方は、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

裁判員制度って何?

(質問)
第1審の裁判員裁判の結果が,第2審で破棄されたというニュースを耳にしました。
そもそも裁判員制度って何ですか?

(回答)

1 裁判員制度とは
裁判員裁判は,平成21年5月21日から開始されましたが,裁判員に選ばれた市民らが審理した第1審の死刑判決が第2審で破棄されたケースは,現在7件で,いずれも第2審判決で無期懲役となり,5件は既に最高裁で確定しています。
 このように,裁判員裁判の結果が,いわゆる職業裁判官によって破棄されるケースが相次ぐことに対しては,疑問が呈されています。
 そもそも裁判員制度とは,刑事裁判に,国民から選ばれた裁判員が参加する制度です。裁判員は,刑事裁判の審理に出席して,証拠に基づき,被告人が有罪か無罪か,有罪の場合は,どのような刑罰を宣告するかを決めます。
 裁判員制度によって,国民が刑事裁判に参加することにより,裁判が身近で分かりやすいものとなり,司法に対する国民の信頼が向上することに繋がると期待されています。
 ちなみに,国民が裁判に参加する制度は,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア等でも行われています。

2 裁判員制度の概要
 裁判員制度の対象となる事件は,法定刑に死刑又は無期刑を含む事件など,重大な事件に限定されています。具体的には,殺人罪,強盗致死傷罪,傷害致死罪,現住建造物等放火罪,身代金目的誘拐罪などがあります。
 裁判員裁判は,原則として,裁判官3人と裁判員6人で審理されます。そして,裁判員は,冒頭に述べたとおり,裁判官と共に,事実を認定し,かかる事実に法令を当てはめ,有罪と判断したときには,刑の量定,つまり刑罰の内容を定めます。
 刑罰の内容を定めるときには,全ての裁判員,裁判官の意見が一致しないことがあります。そのときは,多数決で決めることになりますが,裁判員だけによる意見では,被告人に不利な判断(被告人が有罪か無罪かの評決の場面では,有罪の判断)をすることはできず,裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要です。
 一例を挙げると,被告人が犯人かどうかについて,裁判員5人が「犯人である」という意見を述べたのに対し,裁判員1人と裁判官3人が「犯人ではない」という意見を述べた場合には,「犯人である」というのが多数意見ですが,この意見には裁判官が1人も賛成していませんので,裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要という要件を満たしていないことになります。したがって,この場合は,被告人が「犯人である」とすることはできず,無罪ということになります。

3 裁判員の選任手続
まず,裁判所が,前年秋頃に,翌年の裁判員候補者名簿を作成します。そして,前年11月頃に,裁判員候補者に対し,裁判員候補者名簿に登録されたことを通知します。
 その後,裁判員裁判対象事件が発生すると,裁判員候補者の中からさらに抽選してその事件の裁判員候補者が選定され,同候補者は,裁判員の選任手続期日に呼び出されます。選任手続期日では,裁判長が,候補者に対し,不公平な裁判をするおそれの有無,辞退希望の有無・理由などについて質問をします。候補者のプライバシーを保護するため,この手続は非公開となっています。
 かかる選任手続期日を経て,最終的に,6人の裁判員が選任されます。
 裁判員制度が開始して10年を迎えますが,裁判員裁判を経験された国民は8万人を超えています。年齢は,40代が最も多く(23.5%),次いで30代(20.8%),50代(19.8%)となっています。また,裁判員のご職業は,お勤めの方が最も多く(56%),次いでパート・アルバイト(15.3%),専業主婦(夫)(9.4%)となっています。

4 裁判員の保護
裁判手続に参加するには,仕事を休まねばならず,これは,国民にとって負担となります。そのため,できる限り,裁判に参加する日数を減らす努力はされていますが,今のところ,裁判手続に参加する日数の平均は,約5.7日となっています。具体的には,最も多い日数が,4日(24.7%)であり,次いで5日(20.6%),8日以上(16.5日)となっています。
 そして,法律は,労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得した場合に,解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止し,裁判員を保護しています。ちなみに,裁判員になった方には,旅費(交通費)に加えて,1日あたり1万円以内の日当が支払われます。但し,裁判が午前中で終了した場合には減額されることがあります。
 また,裁判員として裁判手続に参加することで,脅されるなどの不利益を受けるのではないかとの心配をされる方もいらっしゃいますが,法律により,事件に関して裁判員に接触することは禁止されていますし,裁判員に頼み事をしたり,裁判員やその家族を脅したりした者には,刑罰が科せられることになっています。また,事件関係者から危害を加えられるおそれのある例外的な事件については,裁判官のみで審理することになっています。
 
 以上が,裁判員裁判の概要になります。
 裁判員裁判による判決が,第2審(裁判員は関与しない)で破棄されることは,裁判員制度を形骸化させるものだとの批判もありますが,皆様はいかがお考えでしょうか。裁判員制度が始まって10年を迎えたこともあり,今一度,裁判員制度の在り方というものを考えるべき時期に来ているのかもしれません。

災害と法律①

(質問)
近年,豪雨災害による甚大な災害が立て続けに発生しておりますが,災害時に役立つ法律はあるのでしょうか?

(回答)

1 罹災証明書
罹災証明書とは,市町村が被災者の申請により,住家の被害状況の調査を行い,その結果発行する被害の程度を証明する書面のことをいいます(災害対策基本法90条の2)。
 罹災証明書は,各種被災者支援対策適用の判断材料として活用されるものですので,とても重要な書面となります。
 さて,罹災証明書は,冒頭でもご説明したとおり,被災者からの「申請」によって発行されます。申請先は,市町村(岡山市では,各区役所や支所で受け付けているようです。)になります(火災の場合は,所管の消防署)。申請には,所定の申請書や添付書類が必要となりますので,予め,市町村に確認をするとよいでしょう。
 罹災証明書の申請がなされると,市町村は,被災した家屋の被害を調査し,被害の程度を認定します(被害認定)。被害認定は,一般的に,4区分でなされます。すなわち,全壊(50%以上),大規模半壊(40%以上50%未満),半壊(20%以上40%未満),半壊に至らないのいずれに該当するかを判断します。かかる調査を終えた後,罹災証明書が発行されます。
 罹災証明書は,今後の支援策を受ける上での重要な書類ですので,仮に,被害認定結果に納得ができなければ,再調査を依頼するとよいでしょう。また,被災から時間が経過すると,どこまでが災害によってもたらされた結果が分かりにくくなりますので,被災直後の家屋の写真等を撮影しておくと良いと思われます(なお,罹災証明書の添付書類として,被災した家屋の写真を要求されることが多いと思われます。)。

2 被災者生活再生支援制度
被災者生活再建支援法という法律があり,自然災害により,その生活基盤に著しい被害を受けた世帯に対し,支援金を支給することにより,被災者の生活再建を支援するとされています。
 同法の対象となる自然災害は,同法施行令により詳細に定められていますが(10世帯以上の住宅全壊被害が発生した市町村等),同法が適用されれば,一定の支援金が支給されます。具体的には,次のとおりとなります。
【対象となる被災世帯】
①自然災害により,住宅が全壊した世帯
②自然災害により,住宅が半壊し,又は住宅の敷地に被害が生じ,その住宅をやむを得ず解体した世帯
③自然災害により,災害による危険な状態が継続し,住宅に居住不能な状態が長期間継続している世帯
④自然災害により,住宅が半壊し,大規模な修補を行わなければ居住することが困難な世帯(大規模半壊世帯)
【支援金の支給額】
 以下の2つの支援金の合計額が支給されます。
①基礎支援金
全壊(要件①)-100万円
解体(要件②)-100万円
長期避難(要件③)-100万円
大規模半壊(要件④)-50万円
②加算支援金(住宅の再建方法に応じて支給される支援金)
建設・購入-200万円
補修-100万円
賃貸(公営住宅以外)-50万円
【申請方法等】
 支援金の申請は,市町村に対して行う必要があります。申請書やこれに添付する資料(罹災証明書,住民票等)の詳細については,市町村にお問い合わせ下さい。
 添付資料として,住民票が必要なのは,支援金が「世帯」に対して交付されるからです。原則として,世帯は住民票を基準に認定されますが,他の資料により認定されることもありますので,必要とあらば,行政に相談されると良いでしょう。
 また,支援金の支給の有無や支給金額は,原則として,罹災証明書の被害認定によって決まりますので,ここにおいても,罹災証明書の重要性をご理解頂けると思います。
 そして,ご注意を頂きたいのが,支援金の申請には期限があるということです。支援金のうち,基礎支援金については,災害発生日から13ヶ月以内,加算支援金については,災害発生日から37ヶ月以内に申請をする必要があります。大規模な災害の場合,申請期間が延長されることもありますが,申請期限が延長される保証はありませんので,先に述べた申請期限内に申請をすべきです。

3 義援金
災害が発生すると,日本赤十字社などを通じて寄せられた義援金が被災者に配分されます。そのときも,罹災証明書の被害区分に応じて,一定の金額が支払われます。

業務委託契約とは?

(質問)
 ある日,甲社の社長乙は,丙との契約を解消するために法的にどのような手段が採れるかを相談しに法律事務所を訪れました。乙が丁弁護士に対し「甲社と丙は業務委託契約を締結しているので,丙は雇用契約を締結している従業員ではありません。」といったところ,事情をきいた丁弁護士からは「甲社と丙の関係は雇用契約ですので,契約の解消は解雇の問題になりますよ。」いわれました。業務委託契約とは一体どのような契約なのでしょうか?

(回答)

1 業務委託契約の法的性質
自己の業務の一部を外部委託することを一般に業務委託といいます。そうした契約について業務委託契約という標題をつけている契約書を頻繁に目にします。しかし,契約の法的性質は,契約書のタイトルや形式で決まるわけではありません。契約内容に照らして,客観的に判断されることになります。
業務委託契約の法的性質として考えられる契約類型は,委任契約や請負契約があります。また,相談事例のように,あくまで外部に業務を委託しているつもりでも,たとえば,従業員と同一の場所・時間業務に従事しており,業務内容の一部が異なるのみといった場合には,法的性質は雇用契約であると判断される場合があります。

2 契約類型による違い
契約類型によっては,適用される法令などに違いが生じます。たとえば,契約関係を解消する場面において違いがあります。当事者が契約を中途解除したい場合,請負では注文者からの解除はできますが,請負人からの解除は認められていません。これに対して,委任では,原則として当事者はいつでも契約を解除することができます。雇用では,使用者からの契約の解除は,解雇にあたり,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は無効となります。
その他受託者の義務の内容や報酬請求権の有無などあらゆる点で違いが生じます。雇用では労働基準法その他の労働関係法令に基づくあらゆる規制に服することになるとともに,社会保険,雇用保険及び労災保険等の各種保険の加入義務が課されることにもなります。

3 契約書によるリスク管理
契約書の役割は,合意の内容を書面に記載して客観的証拠とすることで後の紛争を防止するとともに,紛争が生じた際の解決方法を定めておくことで紛争が生じた際のリスクを最小化する点にあります。しかし,契約類型を誤った契約書を作成してしまっては意味がありません。実際の契約がどの法的性質を有するかは判断が難しい場合がありますので,専門的な判断が必要となることに注意が必要です。

あおり運転にご注意を

(質問)
 最近、あおり運転の報道が多くされていますが、あおり運転はどのような罪に問われるのでしょうか。

(回答)

1 あおり運転とは?
 あおり運転とは,一般的に,道路を走行する自動車等に対し,周囲の運転者が何らかの原因や目的で運転中にあおる(嫌がらせ)ことによって,道路における交通の危険を生じさせる行為のことをいいます。
 具体的には,車間距離を極端につめる,急ブレーキをかける,必要のないパッシング・ハイビーム・クラクションによる威嚇,急な進路変更,蛇行運転,幅寄せを行うことなどの行為を指します。
 ただ,「あおり運転罪」という罪があるわけではないので,法律上,あおり運転の明確な定義はございません。

2 あおり運転罪?
既に述べたとおり,現在,「あおり運転罪」という罪はありません。そのため,あおり運転は,既存の法律を適用して罰せられることになります。
 では,あおり運転は,どのような罪になるのでしょうか。
 まず,道路交通法違反により,罰せられる可能性があります。例えば,あおり運転の一種である車間距離を詰める行為は,道路交通法26条に違反する可能性があり,これを高速自動車国道等で行った場合は三月以下の懲役又は五万円以下の罰金,それ以外の場合は,五万円以下の罰金に処せられる可能性があります。また,急ブレーキをかける行為は,道路交通法24条に違反する可能性があり,三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処せられる可能性があります。このように,あおり運転の態様によっては,それが道路交通法違反に該当し,罰せられる可能性があるのです。
 次に,あおり行為に,暴行罪(刑法208条)が適用される可能性があります。暴行罪とは,人に暴行を加えることによって成立する犯罪です。暴行罪の「暴行」とは,人の身体に対する不法な有形力の行使をいい,典型的には,人を殴る,蹴る,たたく等の行為がこれに該当します。ただ,暴行罪の暴行の範囲は広く,人の身体に直接接触しなくとも,被害者の身体に向けて不法に有形力を行使すれば暴行に該当します。そのため,あおり行為が,人の身体に向けられた不法な有形力の行使とみなされれば,暴行罪で処罰され得るのです。例えば,加害車両が,被害車両を追跡し,後方からパッシングを浴びせたりクラクションを鳴らしたりしたほか,加害車両を被害車両に急接近させたり,加害車両を並進させたりした行為につき,暴行罪を適用した裁判例があります。
 さらに,危険なあおり運転によって交通事故が起こり,被害者が死傷した場合には,危険運転致死傷罪が成立する可能性があります。危険運転にはいくつかの類型があるのですが,あおり運転で問題となるのは,「人又は車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」(自動車運転死傷行為処罰法2条4号)が多いと思われます。仮に,あおり運転が危険運転に該当すると判断された場合は,これにより人を負傷させた場合は15年以下の懲役,人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処せられる可能性があります。
 このように,あおり運転を行うと,既存の法律であっても,重い罪に処せられる可能性があるのです。

3 行政処分
日本では,交通事故や交通違反の種類に応じて所定の点数を付けて,その点数が一定の基準に達すると免許の停止や免許の取消しといった行政処分を行うという制度(点数制度)が取られています。例えば,過去3年以内に行政処分を受けたことがない場合,6点から14点までは免許停止処分に,15点以上は免許取消処分に該当します。行政処分歴が1回の場合,4点から9点で停止処分,10点以上は取消処分に該当します。行政処分歴が3回以上の場合は,2点又は3点で停止処分,4点以上は取消処分に該当します。
 あおり運転が道路交通法違反に該当すると,当然ながら,点数が加算されます。例えば,高速自動車国道等車間距離不保持は2点,それ以外の車間距離不保持は1点,急ブレーキ禁止違反は2点等です。
 ただ,あおり運転の場合,点数が低くとも,危険性帯有による運転免許の停止等の行政処分がなされる可能性があります(道路交通法103条1項8号)。危険性帯有とは,「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」には,危険性帯有者として,点数制度による処分に至らない場合であっても運転免許の停止処分(最長180日間)が行われるというものです。
 このように,あおり運転は,行政処分においても厳しく取り締まられているのです。

4 あおり運転への対処方法
では,あおり運転の被害にあった場合は,どうすればよいでしょうか。まず,自動車の窓やドアを閉めて鍵をかけ,路肩やサービスエリアなどの安全な場所に避難することで,身の安全を確保します。そして,加害者が追いかけてきたり脅したりして身の危険を感じるようなら,ためらわずに警察に通報しましょう。
 その上で,可能であれば,ドライブレコーダーを作動させるなどして,加害者の行為を記録に残すようにしましょう。これにより,加害者を処罰しやすくなりますし,損害賠償請求もしやすくなるからです。
 政府は,あおり運転の厳罰化への検討を進めているようです。また,自治体によっては,ドライブレコーダーの購入費を補助しています。
 このように,あおり運転に対する世間の目は厳しくなりつつあります。とはいえ,あおり運転が直ちになくなるわけではありません。そのため,あおり運転にあったときにはどのように行動すべきかを事前に検討しておいた方がよいでしょう。

「闇営業」問題と法的問題について

(質問)
 連日,某芸能人のいわゆる「闇営業」問題が報道されていますが,法律上何か問題があるのでしょうか?

(回答)

1 「闇営業」とは?
「闇営業」は,芸能事務所に所属している芸能人が,事務所を通さずに行う営業という意味で用いられているようです。
 では,闇営業は,違法行為なのでしょうか。
 これは,芸能事務所と芸能人との契約内容の問題です。すなわち,芸能事務所と芸能人との契約において,芸能事務所を通さない営業活動が禁止されていたとすれば,闇営業は契約違反となりますし,逆に,禁止されていなければ,何の問題もありません。
 なお,芸能事務所と芸能人との間で,契約書が取り交わされていないことが問題視されていますが,法律上は,契約書を取り交わさないことが直ちに違法とはなりません。契約は,原則として,口頭で成立するからです。芸能事務所と芸能人の契約は,請負契約や業務委託契約になるのではないかと思われますが,これらの契約は,法律上,契約書を取り交わすことが要求されていませんので,契約書がなくとも法律上特に問題はありません。ただ,芸能事務所と芸能人の契約に,下請法(下請代金支払遅延等防止法)が適用されると,芸能事務所が芸能人に書面を交付しなければならなくなります。すなわち,親事業者の資本金が1000万円を超えて5000万円以下である場合であって,下請事業者の資本金が1000万円以下の場合は,下請事業者を保護する観点から,「下請事業者の給付の内容,下請代金の額,支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされています(3条)。いずれにしろ,契約書がないと,何らかの問題が発生したとき,言った言わないの水掛け論になり,紛争に発展しやすいので,契約書があるに越したことはありません。

2 「闇営業」の相手方が反社会的勢力だったときは?
では,闇営業の相手方が反社会的勢力であったとしても,法律上,何の問題もないのでしょうか。
 この点,芸能人が,反社会的勢力から,金銭を受け取っていたとなると,組織犯罪処罰法違反になる可能性があります。
 組織犯罪処罰法では,「情を知って,犯罪収益等を収受した者は,三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。」と定められています(11条)。
 今回,芸能人は,特殊詐欺グループの会合へ出席し,何らかの芸を披露して金銭を得ています。そして,その金銭は,詐欺(刑法246条)によって得た金銭と思われますので,そうであれば,かかる金銭は「犯罪収益等」に該当します。
 また,「情を知って」とは,前提となる犯罪の行為状況及び収受に係る財産がその前提となる犯罪に由来することの認識を意味すると考えられており,その行為が違法であることの認識までも求めているものとは解されていません。問題となっている芸能人は,特殊詐欺グループの会合であることを知らなかった等と述べており,他方,特殊詐欺グループ側は,芸能人が特殊詐欺グループの会合だと気付いていたはずだ等と述べており,見解が対立しています。いずれが真実かは分かりませんが,仮に,芸能人が,会合で芸を披露した対価が詐欺によって違法に獲得されたものであることを知っていた,又は知り得たのであれば,組織犯罪処罰法違反になると考えられます。
 もっとも,組織犯罪処罰法11条違反は,3年で時効になりますので,芸能人が特殊詐欺グループから対価を得てから3年が経過していれば,法律上,罪に問われることはありません。

3 暴力団排除条例
闇営業の相手方が反社会的勢力であった場合,反社会的勢力から対価を受け取っていたことが,暴力団排除条例に違反する可能性があります。
 暴力団排除条例は,都道府県事に内容が異なりますので,岡山県の暴力団排除条例を例にとって考えてみたいと思います。
 岡山県暴力団排除条例15条では,「事業者は,その行う事業に関し,暴力団の活動を助長し,又は運営に資する目的で,暴力団員等又は暴力団員等が指定する者に対し,金品その他の財産上の利益を供与してはならない。」と定めています。
 仮に,特殊詐欺グループが暴力団によるものであったとすると,芸能人が芸を披露したことが,暴力団への利益供与に当たる可能性があり,芸能人の認識によっては,暴排条例違反となる可能性があります。

4 脱税
 芸能人が,特殊詐欺グループの会合に参加して金銭を受け取っていたとすると,それは,芸能人の売上げになります。これを申告していなければ,いわゆる脱税にあたり,重加算税や延滞税を課される可能性があります。
 このように,闇営業問題は,闇営業の相手方が反社会的勢力であるとすると多くの法的問題が発生します。
 そして,反社会的勢力との関係に配慮すべきは,私たちも同じことです。相手方が反社会的勢力であるとの疑いを覚えたときは,暴力団追放運動推進センターなどの助力を求めることもできます。
 今回の一連問題を機に,反社会的勢力との関係については,今一度,注意を払いたいものです。

離婚と法律

(質問)
 妻との離婚を考えているのですが、どのような法的問題があるのでしょうか?

(回答)

1 財産の問題
民法では,夫婦別産制を定めています。すなわち,婚姻前に夫婦の一方が取得した財産及び婚姻中に夫婦の一方が自己の名義で取得した財産(例:相続で取得した財産,以下「特有財産」といいます。)は,あくまでその人の財産であり,他方がその財産について権利を有するということはありません。ただ,婚姻後,夫婦で共同生活を営んでいると,夫婦のいずれに属するのかが明らかでない財産というものがどうしても出てきてしまいます。これについては,夫婦の共有財産であると推定されます。
 さて,日本では,夫が外で稼働し,妻が専業主婦として家事労働に従事するという形態が多く見られます。この場合,夫が稼働して得た給与やこれを蓄えた預貯金等(以下「給与等」といいます。)は,夫が会社との雇用契約に基づき得た財産であるとして,夫の特有財産になるのでしょうか。これについては,家庭裁判所の実務上,原則として,夫婦が協力して給与等の財産を形成したのであり,財産形成に対する貢献の程度は,夫婦平等であるとされています。そのため,夫の給与等は,実質的には夫婦の共有財産とされます。
 このように,夫婦の婚姻中に形成された財産は,原則として,夫婦が協力して形成したとして,夫婦の共有財産とされます。そのため,離婚時は,夫婦共有財産をどのようにすべきかを決めなければなりません。これが,「財産分与」の問題(夫婦財産の清算の問題)です。
 財産分与では,夫婦共有財産の清算のほか,離婚後の扶養という要素も加味されます。
 まず,夫婦共有財産の清算ですが,先に述べた考え方により,夫婦は,婚姻後に形成した財産に対して,原則として,相互に2分の1の権利を有します(家庭裁判所の実務)。そのため,財産分与では,夫婦共有財産を等分に分けることで解決を図るケースが多いといえます。このように申しますと,ずいぶんと簡単なことだと思われるかもしれませんが,実際は,夫婦の一方が夫婦共有財産を管理しており,もう一方はそれがどこに,どの程度存在しているかが全く分からないため,適正な財産分与ができない(財産を隠しているとの疑いがある),不動産や自動車などが夫婦共有財産である場合,これらをどのように評価すべきかが難しいなど,様々な問題が発生します。
 次に,離婚後の扶養ですが,婚姻中,夫婦の一方が家事に専念する等の理由で仕事をしていない場合,離婚後,かかる配偶者が,就職するなどして経済的に自立できるまでには時間を要します。そこで,仕事等をしている配偶者は,そうでない配偶者が経済的に自立するまでの間の生活費を負担すべきである(財産分与)と考えられています。もっとも,実務では,夫婦共有財産の2分の1の額で,仕事等をしていなかった配偶者が生活できるのであれば,扶養を考慮した財産分与をする必要がないと判断されることも多くあります。
 このような財産分与につき,離婚時(後)に,夫婦で話し合うことになるのですが,話し合いがまとまらない場合,家庭裁判所に調停又は審判を申立て,第三者を交えた話し合いがなされます。
 なお,財産分与は,離婚後,2年以内にしなければならないという制約があります。

2 慰謝料
夫婦が円満に離婚するのであればよいのですが,夫婦の一方が婚姻の破綻原因を作って離婚する場合は,その離婚原因がなければ離婚しないですんだ他方に対し,離婚することに対する慰謝料を支払う必要があります。
 慰謝料が発生する典型的なものは,不貞行為です。ほかにも,暴力や暴言等があります。
 ただ,夫婦の一方が他方に対して離婚に伴う慰謝料を請求したとき,相手方が素直に応じれば良いのですが,そうでなければ,裁判を起こすしか方法がなくなります。ただ,離婚原因がいずれにあるのかを判断するのは難しく,また,不貞行為等の離婚原因があったとしても,その証拠を取得するのが難しいときもあります。
 そこで,慰謝料に関して話し合いの場を持ち,お互いに譲り合いながら,一定の金額で折り合いを付ける(和解する)ことも多く見られます。

3 公正証書
離婚に関する諸条件につき,当事者間で合意が整った場合,その内容を書面で明らかにすることが非常に重要です。そうしなければ,当事者の一方が合意を反故にしたとき,他方当事者がこれに対抗する手段がない等しいからです。
 そして,書面を作成する場合は,これを公正証書にすることをお勧めいたします。公正証書を作成するには手数料が必要ですが,公証人が書面に記載すべき内容をある程度を整理してくれますし,何より,公正証書の中に強制執行を受諾した旨を記載すると,裁判を経ずとも強制執行が可能になるという大きなメリットがあるからです。

未成年者による契約の取消について

(質問)
未成年の息子が、久々に旧友に会い、いい儲け話があると言われ、学生ローンを組んで勝手に契約し、高額な商品を購入してしまいました。契約を取り消すことは可能でしょうか。

(回答)

1 未成年者は契約を取り消せる?
民法では,未成年者,つまり20歳未満の者は,判断能力が未熟だと考えられて,行為能力,つまり法律行為を自分1人で確定的に有効に行うことができる資格が制限されています。
 具体的には,未成年者が契約などの法律行為をするには,原則として,保護者である法定代理人の同意が必要とされています。そして,未成年者が法定代理人の同意を得ずに法律行為をした場合,当該未成年者とその法定代理人(以下「未成年者等」といいます。)は,法律行為を取り消すことができます。
 法律行為の取消しは,未成年者等が,相手方に対して法律行為を取り消すとの意思表示をすることによって行います。取消しの意思表示は口頭でも有効ですが,意思表示の有無をめぐって後々争いになるのを防止すべく,書面で行った方が安全でしょう。書面を郵送する際は,内容証明郵便で郵送するのが一番確実ですが,多少費用がかさみますので,費用を抑えようと思えば,送付した書面の写しをとった上で,特定記録か書留で郵送することをお勧めいたします。

2 未成年者取消権の効果
法律行為を取り消すと,法律行為が初めから無効であったものとみなされます。そのため,例えば,未成年者が売買契約を取り消したとすると(買主が未成年者),未成年者は,相手方から支払い済みの売買代金の返還を受けることができます。他方,未成年者は,相手方に対し,商品を返還する必要があります。
 なお,未成年者保護の観点から,未成年者は,受け取った商品を「現に利益を受けている限度」で返還すれば足りるとされています。そのため,未成年者が商品の一部使用していたとしても,使用済みの商品を返還すればよいことになります。

3 未成年者であれば誰でも契約を取り消せる?
では,未成年者であれば,無条件でどんな契約でも取り消せるのでしょうか。実は,未成年者が行った契約のうち,いくつか取り消せない場合があります。
① 未成年者が権利を取得するだけか,義務を免れるだけの契約は取り消すことができません。例えば,未成年者が債務免除を受ける場合などです。この場合は,未成年者にとって有利になることはあっても,不利益になることはないからです。
② 法定代理人から処分を許された財産の処分です。例えば,教材を購入するようにと渡された金銭で教材を購入した場合や,お小遣いのように,未成年者が自由に使用することを許された金銭で商品を購入したような場合です。
③ 未成年者が,法定代理人から営業を許された場合は,その営業に関する法律行為は単独で有効に行うことができます。営業を許されたとしても,営業に関する法律行為を単独で有効にできなければ,営業を許された意味がないからです。
④ 未成年者が結婚をしている場合は,成年とみなされますので,未成年を理由とした法律行為の取消しはできません。
⑤ 未成年者が,自己に行為能力がある(成年に達している)と信じさせるために詐術を用いた場合には,契約を取り消すことはできません。このような未成年者は,保護に値しないからです。

4 いつまで取消権を行使できる?
取消権には,行使期間の制限が設けられています。すなわち,未成年者による取消権は,「追認をすることができる時」,すなわち成年に達したときから5年間行使しないと時効によって消滅するとされています。また,「行為の時」から20年を経過したときも同様とされています。
 取消権行使に期間制限があることには注意が必要です。

5 成年年齢の引き下げ
皆様もご存じのことと思いますが,成年年齢を20歳から18歳に引き下げるとの法律は既に成立しており,2022年4月1日から施行されることになっています。そのため,2022年4月1日の時点で,18歳以上20歳未満の方は,その日に成年に達することになります。
 これにより,18歳,19歳の方であっても,親の同意を得ずに,様々な法律行為をすることができるようになります。
 なお,2022年4月1日より前に18歳,19歳の方が親の同意を得ずに締結した契約は,施行後も引き続き,取り消すことができます。

成年後見制度とは

(質問)
私の父親は最近、認知症の症状が出始めてきました。成年後見制度を利用したいのですが、どのような制度ですか?

(回答)

1 認知症の方が行った契約も有効?
 高齢者が,認知機能の低下により,不必要な契約を締結してしまうというケースはよく見られます。後になってご家族が契約に気付き,これを取り消そうとしても,業者が応じてくれず,結局,代金を支払わざるを得なくなったということもよくある話です。
 認知症の方が行った契約は,法的に有効といえるのでしょうか。
契約が有効に成立するには,「意思能力」が必要とされています。意思能力とは,自らの行為の利害得失を判断する能力のことです。一般的に,7歳から10歳程度の者の知力とされています。
そのため,認知症であっても,その方に意思能力があれば,契約は有効になります。逆に,意思能力がなければ,契約は無効となります。
仮に,認知症の方が締結した契約を無効にしたい場合,認知症の方に意思能力がなかったことを証明しなければなりません。この証明は,医師の診断書や締結した契約の内容,契約締結時の状況等,様々な資料を用いて行うことになりますが,過去のある時点において,意思能力がなかったことを証明するのは,非常に難しいと言わざるを得ません。
そこで,このような事態を避けるべく用いられるのが,成年後見制度です。

2 (法定)成年後見制度
 成年後見制度とは,精神上の障害等により,判断能力が十分でない者を保護すべく,その者の行為能力(法律行為を1人で確定的に有効に行うことができる資格)を制限し,これらの者が単独で法律行為をした場合にこれを取り消しうるものとした制度です。
成年後見制度には,次のような種類がございます。
①成年被後見人
成年被後見人とは,精神上の障害によって判断能力を欠くことが普通の状態である者をいいます。
後見が開始すると,成年後見人は,被後見人の財産行為全般について代理権を有します。被後見人が常時判断能力を欠く状態にある以上,財産行為全般において後見人の援助が必要と考えられるためです。
もっとも,被後見人の自己決定権に対する配慮から,被後見人は,日用品の購入その他日常生活に関する事項(以下「日常生活に関する事項」といいます。)については自由に行うことができます。
後見人は,日常生活に関する事項以外で被後見人が行った法律行為につき,取消権を有します。そのため,例えば,被後見人が,高額な貴金属等を購入したとしても,後見人はかかる売買契約を取り消すことができるのです。
②被保佐人
被保佐人とは,精神上の障害によって判断能力が著しく不十分である者をいいます。
保佐が開始すると,保佐人は,法律上定められた重要な財産に関する行為(以下「重要な財産行為」といいます。)につき,同意権を与えられます。つまり,重要な財産行為を被保佐人が有効に行うためには保佐人の同意が必要となり,保佐人の同意なくして当該行為を行った場合は,保佐人及び被保佐人はこれを取り消すことができます。
重要な財産行為は,全部で9個ありますが,主立ったものをあげますと,借財又は保証をすること,不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること(不動産の売買に限らず,不動産に抵当権を設定すること等も含まれる。),相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること,新築,改築,増築又は大修繕をすること等があります。
また,保佐人は,当然には被保佐人の代理権を有するものではありませんが,被保佐人の保護の必要性に応じて,保佐人に代理権を付与することもできます。
③被補助人
被補助人とは,精神上の障害によって判断能力が不十分である者をいいます。
補助は,後見や保佐の場合とは異なり,補助人に付与される同意権や代理権の範囲が法律で定められていません。そのため,補助の申立てを行う際に,補助人に付与してほしい同意権や代理権の範囲を具体的に示す必要があります。

3 成年後見制度の利用の仕方
成年後見制度を利用するには,本人(被後見人,被保佐人,被補助人となるべき者)の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをすることが必要です。申立ができるのは,本人,配偶者,四親等内の親族等です。
申立をするにあたっては,裁判所備付けの申立書に必要事項を記入するほか,戸籍やご本人の診断書等,いくつかの資料を添付する必要があります。
費用は,家庭裁判所に納める収入印紙や切手代等(1万円弱)のほか,精神鑑定の鑑定料が必要です。鑑定料は,ケースによって異なります。
後見等の開始を申し立てるときは,申立書に,後見人等の候補者を記載することができます。裁判所は,候補者が後見人等になることに問題がないと判断すれば,その者を後見人等に選任します。ただし,候補者が被後見人等のご家族である場合において,その者が後見人になることに反対する親族がいらっしゃったり,管理すべき財産が多額であったりすると,裁判所は,専門家を後見人に選任することが多いといえます。
後見人は,本人の意思を尊重し,かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら,財産を適正に管理し,例えば施設への入所契約等,必要な代理行為を行います。そして,それら代理行為の内容を記録すると共に,定期的に家庭裁判所に報告しなければなりません。これらの仕事は,ご家族も行うことができますが,事務の繁雑さや不正防止等の観点から,弁護士等の専門家に依頼されることをおすすめします。