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子の看護・介護休暇~改正法令和3年1月施行~

(質問)
  子の看護・介護休暇の制度が新しくなると聞きました。どのような点が変わり、会社として何をしなければならないのでしょうか。

(回答)

1 子の看護・介護休暇とは?
育児介護休業法は、従前より、育児休業や介護休業に加えて、子の看護や介護の必要がある労働者について、申出により休暇を取得することのできる「子の看護・介護休暇」の制度を定めてきました。
 このうち、子の看護休暇は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者について、1年度において5労働日を限度として、傷病にかかった子の世話または疾病の予防を図るために必要な子の世話をするために休暇を取得することができるとするものです。
 他方、介護休暇は、要介護状態の家族をもつ労働者について、同じく1年度において5労働日を限度として、家族の世話を行うために休暇を取得することができるとするものです。
労働者からこれらの休暇の申出があった場合、事業主は、一定の労働者について労使協定を結んだ場合を除いて、その申出を拒むことはできません。もっとも、休暇中の給与については、無給とすることができるものとされています。

2 法改正で何が変わる?
この子の看護・介護休暇の制度について、この度、法改正がされ、令和3年1月1日から改正法が施行されることとなりました。
 今回の法改正の最大のポイントは、事業主に対し、子の看護・介護休暇を、時間単位で取得させる義務が定められたことです。これまで、平成28年の法改正により、これらの休暇を半日単位で取得させなければならない義務が課せられてきたところ、労働者が更に小刻みに休暇を取得できるよう、より柔軟な制度に改められた形です。
 また、それと併せて、これまで、1日の所定労働時間が短い労働者については半日単位で休暇を取得することはできないとされていたところ、この度の法改正により、すべての労働者が時間単位で休暇を取得できることとなりました。

3 企業としてなすべきこと
このような法改正を受け、事業主としては、就業規則の内容を改正法に即したものへと改める必要があります。仮に子の看護・介護休暇の定め自体を置いていない場合には、この機会に定めを置くようにしましょう。これらの休暇も就業規則の絶対的記載事項である「休暇」にあたるものですから、その付与要件、取得に必要な手続及び期間について、就業規則に記載しなければなりません。
 これに加え、今回、時間単位での休暇の取得が可能となったことから、休暇の残日数・時間を正確に把握することができるよう、適切に管理していく体制を整えることも求められているといえます。
 そして、なにより、労働者がこの制度を実際に利用することができるよう、労働者に対し制度の周知をしていくことが大切です。

4 持続可能な企業をめざして
新型コロナウイルスの流行により、社会や経済のあり方が大きく揺らいでいる今、あらゆる局面で「持続可能性(サステナビリティ)」という考え方がより注目を集めるようになってきています。
 少子高齢化が進み、人手不足が深刻な状況となってきている現代社会において、介護などの理由による従業員のキャリアロスへの不安を払しょくし、従業員が安心して働き続け、十分に能力を発揮することのできる環境づくりをすることは、企業としての持続可能性を高めるための重要な取組みの一つといえます。
 そのような観点から、法令で課された義務の履行をすることはもちろんのこと、企業としての経済性と両立する範囲内で、より柔軟な制度構築をすることも検討されてもよいかもしれません。
 労働者の育児や介護にまつわる制度の構築や規定の定め方にお悩みの場合は、ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めします。

同一労働同一賃金~最新最高裁判例によせて~

(質問)
 当社には、無期労働契約で働いている正社員と、有期雇用契約であるものの正社員と同様にフルタイムで働いているアルバイト職員がいます。最近、「アルバイト職員に賞与を支給しないことは違法ではない」という判決が出たことをニュースで知りました。当社でもアルバイト職員に賞与を支給していませんが、この取扱いは適法だと考えてよいでしょうか。

(回答)

1 2つの最高裁判例
近年、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金格差が問題となっていたことから、働き方改革の柱の一つとして「同一労働同一賃金」の法制度が整えられ、大企業にはすでに適用されているところです。そして、来る令和3年4月1日、いよいよ中小企業にもこの制度が適用されることとなります。
 この同一労働同一賃金をめぐる問題について、令和2年10月13日、注目すべき2つの最高裁判決が出されました。いずれも、企業が非正規雇用労働者に対し、賞与や退職金を支給しない取扱いをしていたことについて、違法とはいえない旨判断したものです。
もっとも、このような判決が出されたからといって、同様の取扱いをすることがただちに適法となるわけではないことに注意が必要です。

2 同一労働同一賃金って?
そもそも、同一労働同一賃金の制度は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金について、どのような取扱いをすることを企業に求めているのでしょうか。
 この点について、いわゆるパート有期法8条は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との待遇に「不合理と認められる相違を設けてはならない」と規定しています。すなわち、同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との「不合理」な待遇差をなくすことを企業に求めるものであり、一切の待遇差を許さないとするものではありません。その差が「不合理でない」といえるかぎりにおいて、待遇差を設けることも許容されるのです。
 それでは、どのような場合が「不合理」であり、どのような場合が「不合理でない」待遇差となるのでしょうか。この点について、条文の文言やこれまでの裁判例上、3つの考慮要素をもとに判断すべきものとされてきました。

3 「不合理」性の考慮要素
3つの考慮要素とは、すなわち、①労働者の業務内容及びその業務に伴う責任の程度の差異、②職務の内容及び配置の変更の範囲の差異、そして③その他の事情です。今回出された2つの最高裁判例も、この3つの要素から不合理性の判断を行ったものです。
 そして、基本給、各種手当、賞与や退職金など、具体的な賃金制度がそれぞれ不合理であるかどうかということは、当該企業においてその賃金制度が設けられている趣旨・目的ごとに、問題となる賃金制度の企業内の賃金体系全体における位置付けをも加味して、個別具体的に判断がされます。
 たとえば、今回、大阪医科薬科大学の事件においては、賞与が支給される趣旨について「正職員の人材確保やその定着」にあるなどとした上で、①アルバイトの職務が軽易であることや、②正社員と異なり配置転換がないこと、③アルバイトから正社員への登用制度があることなどを総合的に考慮し、待遇差が「不合理でない」旨の判断がされました。

4 個別具体的な検討が必須!
このように、同一労働同一賃金の「不合理性」の判断は、個別的な事情を具体的に検討して行われるものであり、ご相談の企業においてアルバイトに賞与を支給しないことが適法といえるかどうかについても、賞与の趣旨目的や社内の賃金体系における賞与の位置づけなどを加味し、前記の3つの考慮要素を総合的にみて判断しなければなりません。また、新たに賃金制度を構築したり、既存の賃金制度を見直す際にも、それが「不合理」というべきものとならないよう、同様のことを考慮し検討する必要があります。
従業員間の待遇差が「不合理」であるなどとして思わぬ損害の賠償請求をされてしまうことは、それ自体が企業にとって大きなリスクです。同一労働同一賃金の問題などを踏まえた賃金制度の構築や見直しにお悩みの場合には、弁護士にぜひご相談されることをお勧めします。

飛行機でのマスク着用について

(質問)
 先日、飛行機でのマスク着用が問題となった事件がありました。
 マスクを付けなければ飛行機に乗れないのでしょうか?

(回答)

1 安全阻害行為
この事件は,マスクを着用しなかったので飛行機から降ろされた,と思っている方もいるかもしれませんが,そういうわけではありません。
 マスクを着用するよう要請されて,それを拒否した男性が,客室乗務員やほかの乗客に対して大声をあげたりしたことが原因のようです。
 つまり,航空法による,航空機内の秩序を乱すなどの安全阻害行為があったので,乗客を降ろしたことになります。
 飛行機でマスクを付けることはあくまでも要請であり,乗客にお願いしてもマスクを付けなければそれ以上の措置をとることはできません。フェイスシールドなどの代替物を用意するということはあり得るとは思いますが。
 海外では,公共交通機関を利用するときに,マスク着用を義務化したり罰金をとったりしているところもありますが,日本ではマスク着用は義務ではないです。
 それから,航空会社の約款によっては,他の旅客に不快感を与え,又は迷惑を及ぼすおそれのある場合や,会社係員の業務の遂行を妨げ,又はその指示に従わない場合には,旅客の搭乗を拒否したりできる,と定められている場合もあります。
 しかし,約款を根拠としても,マスクを付けていないだけで,搭乗を拒否できるとまではいえないのではないでしょうか。
 乗客が大声をあげるなどしたことは,航空の安全を阻害するので,乗客を降ろした措置としては問題なかったと思います。
 しかし,航空会社としても,マスク着用を拒否している相手に対して,何度も要請を繰り返したことも,少し疑問に思います。
 マスク着用を求めるのであれば,マスク着用が義務であることを明確にして,搭乗前にマスクを着用しているか確認すべきです。着用できない理由があれば,その理由をあらかじめ聞いておくなどしておく必要があったのではないかと思います。
 そうでないにもかかわらず,飛行機内でいきなり着用を求めて,拒否しているにもかかわらず何度も要請するのは,トラブルの種にもなりかねません。
 乗客の側にも問題はあったと思いますが,航空会社の対応も完璧だったとはいえないと思います。

2 今回の緊急着陸で,飛行機を降ろされることになった人の責任
ところで,今回の緊急着陸で,飛行機を降ろされることになった人は,どのような責任を負うのでしょうか?
 刑事上の責任だと,威力業務妨害罪にあたりえます。
 それから,民事上では,損害賠償責任が発生します。
 飛行機が遅延したことによる損害,それから,他の空港に緊急着陸しているので,燃料費や人件費なども余計にかかっているのではないでしょうか。
 場合によっては,飛行機が遅れたことで大事な予定に影響が出てしまった他の乗客から,損害賠償を請求される可能性も否定できません。
 これらを航空会社が実際に請求するかどうかは,航空会社の判断次第によりますが。
 航空会社の請求は認められるか否かですが,機長の判断が不適切だったと言われることはないとは思います。
 ただ少し気になるのが,マスク着用が義務ではないにもかかわらず何度もマスク着用を求めたことがきっかけでトラブルが生じたことを考慮すると,乗客側に一方的に非があったとまではいえないとも思われるので,いくらか減額される余地はあるのではないかと思います。

クラスターが発生した場合の店名公表について

(質問)
 飲食店でクラスターが発生した場合に公表する事項について基準はあるのでしょうか。

(回答)

1 公表基準
令和2年2月に、厚生労働省が公表基準を示しています。
 厚生労働省の公表基準によると、「感染者に接触した可能性のある者を把握できていない場合」には、店名を公表することとなっています。
 しかし、不特定多数の者が出入りして足取りが把握できていなくとも、公表していない例はあるのではないかと思います。なぜかというと、自治体によっては、店名を公表するにあたって、店からの同意を得ることも基準に加えている場合があるからです。
 同意をしてくれる店もあるかもしれませんが、風評被害を恐れる店側としては、同意をしない可能性もあります。同意がないとすると、実際は感染者に接触した可能性のある者を追えていないにもかかわらず、店名を公表できないことになります。
 その店に行ったことがある人がいたとしても、自分がコロナウイルスに感染している可能性があることに気づいていない人もいるかもしれません。
 それから、店名を公表しない理由としては、ほかにも、「店に来るのは常連客が多く、足取りが追えているので、公表しなくても感染拡大のリスクが低い」からという場合もあります。
 でも、このようなお店だって、全ての客を把握しているわけではなく、追えていない人もいるのではないかと思います。その場合に店名が公表されないと、感染の可能性に気づかないまま他者と接触してしまうことになります。
 なので、令和2年7月に、追加で厚生労働省から通達が出されました。これは、感染者に接触した可能性のある者を把握できていない場合には、店の同意がなくとも店名公表ができると明確にしたものです。
 でも、さきほどと同じように、感染者に接触した可能性のある者をどの程度把握できなければ公表するのかとか、店の同意を得ることにするのかなど、自治体の裁量に任せられているのが現状であり、自治体によって判断が異なります。
 同じ自治体でも、この場合には公表しないのに、うちの店は公表するということで、不公平感は出るのではないかと思います。
 公表されることで風評被害が生じるので、できるだけ公表をとどめようという自治体の意図も分かりますが、再び感染が広まっている状況では、個人のプライバシーや営業権よりも、国民の生命を守ることがより重要視されるべきだと思います。
 不特定多数の人が出入りする場所でクラスターが発生した場合には、同意の有無にかかわらず原則として公表することにするなど政府が明確な基準を出すべきではないでしょうか。

コロナウイルスの影響による解雇の有効性

(質問)
 コロナウイルスの影響で売上げが落ちたら、会社としては経営することが困難になりますので,解雇されたとしても仕方がないということになるのでしょうか?

(回答)

1 労働者の解雇
実は,労働者を解雇するということは,それほど簡単なことではありません。
 懲戒解雇などは,違反行為を理由として解雇するものですが,整理解雇ということになれば,経営上の理由から余剰人員を削減するということになるので,解雇が有効かどうかはより厳格に判断されることになります。
 解雇された労働者が,解雇が無効であると主張して,会社に復帰させるよう求めたり,損害賠償を請求したりして訴訟になっているケースもあります。

2 解雇が違法になるケース
一般的には、⑴人員削減をする必要性があるか、⑵できる限り解雇を回避するための措置が尽くされているか、⑶解雇対象者の人選基準が合理的であるか、⑷労働者への説明など手続が妥当であるか、によって解雇の有効性が判断されます。
たとえば、今回のコロナウイルスに関していうと、雇用調整助成金といって、従業員への休業手当の支払の助成を受けることができる制度もありますよね。そのような支援策を利用していない場合などは、⑵できる限り解雇を回避するために措置が尽くされていない、ということになり、解雇は無効と判断される可能性があります。

3 契約社員の場合
期間の定めのある契約社員などは、基本的に期間満了で雇止めできることになります。
 しかし、期間満了による雇止めだとしても違法と判断される場合があります。
 たとえば、①有期労働契約が過去に反復して更新され、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態である場合や、②長期にわたる更新がなかったとしても、これまでのお互いの言動や認識からして長期間の雇用を前提としていたなど、労働者において有期労働契約が更新されるものと期待する合理的な理由がある場合です(労契法19条)。
 この場合には、単に期間満了だから雇い止めができるというわけではなく、雇止めが適法かどうかは、先ほど話した整理解雇の要件に従って判断されることになります。
 期間満了を待たずに、契約を終了することになった場合はどうかといいますと、期間の定めのある契約では、その期間は雇用することが約束されています。そうすると、整理解雇が有効かどうかは、期間の定めのない労働契約を結んでいる場合の解雇よりも、より厳しく判断されることになります(労契法17条1項)。

4 内定取り消し問題について
採用内定の場合も、一般的には労働契約が成立していることになります。
 そうすると、コロナウイルスによる経営の悪化を理由として採用内定の取消しをする場合でも、整理解雇の要件にしたがって判断されることになり、採用内定の取消しが無効となる可能性もあります。

5 まとめ
コロナウイルス収束の兆しが見えない中、経営者、労働者双方にとって厳しい状況は続きそうです。
 労働者としては、解雇を伝えられたとしても、助成金などを利用して雇用をつなぎ止めるよう求める必要があります。
 経営者としても、経営が回復したときに人材が流出しないように、従業員の雇用を維持していく必要がありますし、これまで述べたように解雇は簡単にできないことを念頭において、助成金などの方法をまずは検討することが必要になってくると思います。

SNS上の誹謗中傷

(質問)
 SNS上の誹謗中傷が問題となっていますが、発信者の特定についてどのように法整備が議論されているのですか。
 

(回答)

1 問題視されているSNS上の誹謗中傷
先日、ある民放番組の出演者が、SNS上での多数の誹謗中傷の書き込みに追い詰められて自殺するという事件がおきました。この事件を受けて、政府が、「インターネット上の発信者の特定を容易にするための方策を検討する」という方針を明らかにしたことが話題となりました。
 これまでも芸能人がネット上で執拗に誹謗中傷されることは問題視されていました。ネットでは匿名で簡単に書き込みができることもあり、「指殺人」という言葉もできました。

2 発信者の特定についての法整備
被害者が採る手段としては、発信者を特定して、名誉毀損などによる損害賠償を請求することが考えられます。これによって、安易な書き込みについての抑止力となったり、被害者の救済につながったりします。
 これまで、書き込みの発信者を特定する方法として、プロバイダ責任制限法という法律があります。「権利侵害の明白性」などの要件を満たした場合に、発信者情報開示請求ができると定められています。この制度により、まずは書き込みをした人物を特定します。具体的には、SNSの運営会社など(コンテンツプロバイダという)に対して、IPアドレスを開示するよう訴訟を提起します。そうすると、どの会社のインターネットサービスプロバイダを利用したか(たとえばKDDIなど)が分かるので、この会社に対して、発信者情報の開示請求訴訟をすることになります。
 しかし、これらの会社が任意で情報を開示してくれればいいのですが、任意で開示してくれることはあまりないです。その理由としては、たとえば、「権利侵害の明白性」がないのに開示してしまうと、逆に、発信者から会社に対して責任追求されかねないからです。
 そこで、通常は訴訟をすることになり、書き込みをした人物を特定するまでに2回訴訟をすることになるので、時間とお金がかかります。
 さらに、「権利侵害の明白性」も主張しなければならなりません。たとえば、「早く消えてよ」などの書き込みが、名誉毀損にあたるとは言い切れません。
 このように、多くの人は、書き込みの人物を特定することができずに、損害賠償請求を断念することになります。
 今回の法整備の議論はまだ始まったばかりで、いろいろな案があるところですが、たとえば、会社が権利侵害の明白性について検討したことを疎明すれば免責されるような制度を作ることで、会社が任意開示に応じやすくなるという案もあります。このように、人物の特定方法がより迅速になれば、書き込みの抑止と被害者救済が厚くなるといえます。

裁判もIT化する?

(質問)
 裁判がIT化されると聞いたのですが、詳しく教えてください。
 

(回答)

1 裁判のIT化とは?
書面が電子化され、裁判もウェブ会議でできるようになるというものです。
もともとIT化は進められていましたが、今回のコロナウイルスの流行で裁判が中止になったりして、よりIT化の必要性が高まりました。
裁判といえばテレビでよく見る法廷での尋問のイメージが強いと思いますが、実際に法廷で行われることは少なく、裁判所の非公開の部屋で、お互いに提出した書面をもとに、主張を整理していくことがほとんどです。
それから、大阪に住んでいる人と岡山に住んでいる人が岡山の裁判所で裁判をするときは、岡山の弁護士だけが裁判所に行き、大阪の弁護士は電話で対応するという方法もありますね。

2 裁判のIT化の方法とは?
全てがIT化されるのはまだ数年先の話ですが、最終的には初めから終わりまで全てオンラインでできるようになることを目指しています。
まずはオンラインで訴訟を提起して、その後も電子化された書面をオンラインで提出します。それから、弁護士が事務所にいたままウェブ会議で話し合いができるようになります。
テレビで見るような尋問の場面も、最終的には、ウェブ上で行われることも考えられています。

3 IT化のメリットは?
これまで裁判は平均して1年近くかかっていましたが、IT化によってより早く終わらせることができます。
遠くに住んでいる人も、ウェブで参加できるので、時間やコストを削減できます。また、書面も電子化されるのでコストを削減できます。

4 IT化のデメリットは?
裁判の書面は機密文書ですから、セキュリティの問題があります。
それから、IT化に対応できない人がいる場合に、裁判を受ける権利を保障するためにどう対応していくのかという問題もあります。

5 今後について
今年の2月から、東京、大阪、広島などの一部の地域で導入が始まっています。
ただ、先ほど説明した全面的なIT化は、法律を改正しないとできないものです。現時点では、今の法律を使ってできる範囲でのIT化ということになっています。
具体的には、書面の提出はまだ紙媒体でやる必要がありますし、尋問も裁判所に行ってやる必要があります。
ウェブ会議でできることとしては、書面をやり取りしてお互いの主張を整理することです。
今回の新型コロナウイルス流行で、多くの裁判が中止となり、裁判所になるべく出頭しない方針になりましたので、ウェブ会議の導入が広がっています。
今後は裁判の方法が大きく変わっていくかもしれません。

緊急事態宣言から法律を考える

(質問)
 4月7日に緊急事態宣言が出され、外出自粛や休業要請という言葉をよく聞くようになりましたが、緊急事態宣言とはどういうものでしょうか?
 

(回答)

1 緊急事態宣言とは
緊急事態宣言の根拠となる法律は、新型インフルエンザ等対策特別措置法で、略して特措法と呼ばれています。2012年に公布されていたものですが、この3月に、新型コロナウイルスにも適用できるよう改正されました。
今回の新型コロナウイルスは、政府が、指定感染症としました。既に制定されていた特措法は、「新感染症」に対しては緊急事態宣言を出せますが、指定感染症に対しては、緊急事態宣言を出すことができない仕組みになっていました。特措法を改正して、今回の新型コロナウイルスを対象にするのに時間がかかったのです。
私権が制限されるとよく言われますが、外出自粛や、施設の使用制限は、国民の行動を、政府の指示によって制限するというものですよね。そういった法律を制定するので、審議にも時間がかかるということになります。
それから、緊急事態宣言を出すにも、法律に要件が定められています。
全国的にまん延している場合に、緊急事態宣言を出すことができるとされていますが、全国的にまん延しているといえるのが、急激に感染者が増え始めた4月7日の段階であったと判断されたのです。
もっと早い段階で宣言することもできたと思います。

2 緊急事態宣言で何ができるか。
内閣総理大臣が、緊急事態を宣言します。
そうすると、対象地域の都道府県知事が、感染防止に必要な協力を要請・指示できる、というものです。
具体的には、要請できることとして、住民に対して外出自粛の要請、民間企業に対して休業の要請、学校などに対して休校の要請、イベントの主催者に対して開催しないよう要請などです。
そして、強制的にできることとして、臨時の医療施設をつくるために、土地や建物を収用する、医薬品や食料品など、必要な物資の売渡しを業者に要請し、収用することが挙げられます。
ヨーロッパなどでは、ロックダウンといって、強制的に都市封鎖がされましたよね。出歩いている人から罰金をとったりしていました。
しかし、日本の法律による緊急事態宣言では、外出禁止命令などの、強制力をもった都市封鎖をすることはできません。あくまでも、自粛要請、施設の使用制限の要請にとどまります。要請に応じなかったとしても罰則はありません。

3 休業補償について
強制的に収用されたものについては、政府から損失が補償されますが、休業要請については、特措法では補償がされるという法律の仕組みにはなっていません。
しかし、休業要請がされれば、形としては自主判断とはいえ、実質的には休業せざるをえませんよね。
4月17日現在では、持続化給付金というものが検討されています。売上げが前年同月比で50%以上減少していることを要件として、法人へ200万円、個人事業主へ100万円が支給されるものです。
地方自治体も休業補償を検討しています。たとえば大阪府は、一律に、個人事業主に50万円、中小企業に100万円を支給することを検討しています。
しかし、国の制度にしても、地方自治体の制度にしても、議会を開いて決議されてから支給されるものなので、補償は遅れることになります。

従業員に関する新型コロナウイルスの法的対応

(質問)
 従業員に関する新型コロナウイルスの法的対応について教えてください。
 

(回答)

1 従業員の1人に新型コロナウイルス感染が確認された場合に、保健所の手続きや、企業の対応はどのような流れになりますか?
① 保健所から発生の通達、もしくは従業員からの連絡を受けます。
  感染者が確認された場合、医師から保健所へ連絡することになっています。
② 保健所による積極的疫学調査が行われます。
  ・企業の現地調査、感染者の勤務状況・行動履歴の確認 →濃厚接触者の特定
  ・消毒場所や消毒剤などについての指導、まん延防止の指導
  ・濃厚接触者に対する自宅待機の要請などを指示
③ 消毒除菌作業を業者に要請します(消毒の実施は企業が行います)。
④ 業者による消毒除菌作業/10日~14日程度の営業停止
※その他に企業が対応すること(例)
  濃厚接触者の調査(氏名、生年月日、年齢、住所、電話番号など)
  自宅待機となった濃厚接触者について、毎日の検温をし、保健所へ連絡します。

2 従業員の1人が新型コロナウイルスに感染し、他の従業員を休業させる場合、休業手当を支払う必要はあるでしょうか?
他の従業員が濃厚接触者にあたり、保健所の要請によって他の従業員を休業させる場合は、休業手当を支払う必要はありません。
 濃厚接触者にはあたらない人を、保健所からの要請ではなく会社の自主的判断によって休業させる場合は、休業手当を支払う必要があります。

3 従業員の1人が、咳や熱などの新型コロナウイルスと疑われる症状があるものの就労できる状態であるため出勤しています。自宅待機や受診を命令できるのでしょうか? 
就業規則上に、休業命令や受診命令が定められていることが望ましいですが、就業規則に休業命令や受診命令の規定がなかったとしても、使用者は業務命令権を有しており、他の従業員への感染拡大を防止する必要性・合理性が認められるから、業務命令として有効になります。

4 従業員に咳や発熱などの症状があるため、使用者が自宅待機を指示した場合、休業手当を支払う必要はあるでしょうか?また、従業員の家族に発熱などの症状があるため、使用者が自宅待機を指示した場合、休業手当を支払う必要はあるでしょうか?
従業員に咳や熱などの症状があることをもって、使用者の指示により休業させる場合には、休業手当を支払わなければなりません。
また、家族に発熱などの症状があることをもって、使用者の指示により休業させる場合にも、休業手当を支払わなければなりません。
 一方で、家族に新型コロナウイルス感染が確認され、当該従業員も濃厚接触者にあたる場合は、保健所からの要請によって休業することになるので、休業手当を支払う必要はありません。

5 学校の一斉休業に伴い、子どもの面倒を見るために仕事を休まなければならない従業員に対して、休業手当の支払義務はあるでしょうか?
「使用者の責めに帰すべき事由」による休業ではないため、休業手当の支払義務はありません。
 もっとも、使用者としては、小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援制度(※)を利用して、従業員に賃金全額支給の休暇を取得させることも検討に値します。
 ※休校による子どもの世話や感染を疑われる症状のある子どもの世話のため、保護者が仕事を休むとき、賃金全額支給の休暇を取得させた使用者に、日額8,330円を上限としてその全額を助成する制度

6 社内において従業員Aが他の従業員Bに新型コロナウイルスを感染させました。使用者は、他の従業員Bに損害賠償責任を負うでしょうか?
使用者は、安全配慮義務違反があれば損害賠償責任を負います。
 咳や熱の症状がある従業員Aに対して、休業命令や受診命令を出すことなく就労させていた場合には、安全配慮義務違反となり、他の従業員Bに対して損害賠償責任を負う可能性があります。
 一方で、従業員Aに何らの症状がなく、使用者としても休業命令や受診命令をとることができなかったときには、安全配慮義務違反にはあたりません。

7 会社でクラスター感染を引き起こし、会社を閉鎖せざるを得なくなりました。従業員Aが、濃厚接触者であることを隠して出勤していた場合は、会社は、Aに損害賠償を請求できるでしょうか? 
従業員Aが、濃厚接触者として自宅待機を要請されていたなど、新型コロナウイルスに感染している可能性が高いことを認識しながら勤務をし、当社でクラスター感染を引き起こした場合は、従業員Aに対して損害賠償を請求できます。
 従業員Aが、高熱などの典型症状があるのに出勤した場合には、損害賠償を請求できる可能性がありますが、単なる咳などの症状だけであった場合は、損害賠償は請求できません。

8 ビルの同じフロアに入っている別の会社Cの従業員Dが新型コロナウイルスに感染したことにより、当社も消毒をして一斉休業することになった。従業員Dや、別の会社Cに対して損害賠償を請求できるでしょうか?
従業員Dが、濃厚接触者として自宅待機を要請されていたなど、新型コロナウイルスに感染している可能性が高いことを認識しながら勤務をし、その後、従業員Dが新型コロナウイルスに感染していることが確認され、当社も消毒作業などにより休業を余儀なくされた場合は、その従業員に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
 別の会社Cに対しては、従業員Dについて新型コロナウイルス感染の疑いが高いことを認識してにもかかわらず、休業命令などを出さずに勤務させていた場合は、損害賠償を請求できる可能性があります。
 従業員Dに自覚症状が無く、使用者Cとしても従業員Dの新型コロナウイルス感染を認識することができなかった状態で営業を続けた場合には、別の会社Cは、損害賠償責任を負いません。

保証契約(民法改正)について

(質問)
 新居の賃貸借契約を締結しようとすると,保証人が必要と言われました。
 保証契約について教えてください。

(回答)

1 保証契約とは?
保証契約とは,借金の返済などの債務を負う主たる債務者が,その債務を返済しないときに,主たる債務者に代わって債務を支払うとの約束をする契約です。
 保証契約は,主たる債務者から頼まれて締結することが多いため,保証人になって欲しいと頼んできた主たる債務者と保証人との間の契約だと勘違いされる方も多いのですが,実際は,債権者と保証人との契約です。債権者は,主たる債務者が債務を支払わない場合に備えて,担保として,保証人と保証契約を締結するのです。

2 連帯保証契約とは?
保証契約とは別の契約として,連帯保証契約があります。一般的に締結されているのは,保証契約よりも,連帯保証契約の方が多いのではないでしょうか。
 連帯保証契約は,保証契約と類似の契約ではありますが,保証契約とは大きく異なる点があります。
 1つは,連帯保証人は,保証人と異なり,①催告の抗弁権と②検索の抗弁権がないという点です。
 ①債権者が保証人に対して債務の支払いを求めたとき,保証契約では,まずは主たる債務者に催告するようにということができますが(催告の抗弁権),連帯保証契約では,これができません。つまり,連帯保証人は,債権者から債務の支払いを求められれば,その求めに応じなければならないのです。これは,連帯保証人にとっては,かなりの痛手になります。
 次に,②主たる債務者が債務の支払いを拒んだため,債権者が保証人に対して債務の支払いを求めたときであっても,保証契約では,主たる債務者に支払能力があること等を証明することで,主たる債務者の財産を差し押さえること等を求めることができますが(検索の抗弁権),連帯保証契約ではこれができません。
 もう1つは,保証人が数人いるときの違いです。
 保証人が数人いるとき,保証人は主債務額を人数で按分した金額だけを保証すればよいのですが,連帯保証人は,各自が主債務額全額を保証しなければなりません。例えば,主たる債務者が1000万円の借金を負っていたとして,保証人が4人いれば,原則として,各自が250万円ずつ返済する義務を負いますが,連帯保証人が4人いたとすると,各自が1000万円ずつを返済する義務を負うのです。
 このように,保証人と連帯保証人とでは,責任の重さに大きな違いがあります。この違いには,十分にお気を付け下さい。

3 情報提供義務
保証人としては,主たる債務者がきちんと債務の支払いをしてくれているうちはいいのですが,主たる債務者が債務の支払いを怠ると,債権者から保証債務の履行(債務の支払い)を求められますので,窮地に陥ります。
 そして,主たる債務者は,往々にして,保証人に対し,支払いが滞っていることを隠します。そのため,債権者が保証人に対して債務の支払いを求めるときには,債務額が大きく膨れ上がっているということはよくある話です。
 そこで,主たる債務者から委託を受けて保証人となったときは,債権者に対し,主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供するよう請求することができ,かかる請求を受けた債権者は,遅滞なく,情報提供をしなければならないとされています(改正民法458条の2)。
 民法改正前は,このような規定はなく,債権者としては,主たる債務者の経済的信用に関わる情報を保証人に提供して良いかどうか迷うことが多くありました。しかしながら,民法改正により,債権者に情報提供義務が課されたため,保証人が請求すれば,債権者は,債務の履行状況等につき,保証人に開示します。
 保証人としては,主たる債務者が必ずしも正直に自らの債務の支払い状況を教えるわけでないという現実を踏まえ,必要に応じて,債権者に情報提供を求め,自らが置かれている状況を把握すべきです。そして,主たる債務者による債務の支払いが滞っているときは,保証人は,主たる債務者に支払いを促したり,早めに債権者との交渉を開始したりすることで,自らが支払うべき債務額を減らす努力をすると良いでしょう。

4 期限の利益喪失
債務者は,支払期限が到来するまでは,債務を支払う必要がないとされることが多くあります。
 しかしながら,契約書等では,債務者の経済状況が悪化したときなど,その一定の事由が発生したときは,支払期限前であっても,債務を一括して返済しなければならないとされています。これを,期限の利益の喪失といいます。
 さて,民法改正では,保証人が個人である場合において,主たる債務者が期限の利益を喪失したときは,債権者は,保証人に対し,期限の利益の喪失を知ったときから2ヶ月以内に,その旨を通知しなければならず,その通知をしなかったときは,保証人に対し,期限の利益を喪失したときから通知をするまでに生じた遅延損害金を請求することができないとしました(改正民法458条の3)。保証人としては,主たる債務者が期限の利益を喪失した事実を知れば,直ちに債務を支払うことによって,遅延損害金等の発生を防ぐことができたかもしれないからです。
 このように,民法改正によって,保証人の保護が図られるようになりました。親族や友人に頼まれることで,やむなく保証契約を締結することがあり得ますので,そのときは,少しでも,自らが負う責任を軽減できるよう,十分な対策を講じると良いでしょう。