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休日に有給休暇を取得できるか?

(質問)
 当社の就業規則には,夏季休暇として,8月13日から15日までを休日とする旨の規定があります。
 ところで,この度,ある従業員が,この3日間の休日を有給休暇にしてほしいと申し出てきました。このような扱いは可能ですか。
 上述のような就業規則の規定がなかった場合はどうでしょうか?

(回答)

1 休日に有給休暇を取得できるか 
 有給休暇については,労働基準法39条に規定があります。同条では,有給休暇を「労働日」に与えるべき旨定めています。すなわち,有給休暇は,労働義務のある日の労働義務を免除するものなのです。
 したがって,就業規則等で休日と定められていて本来労働義務のない日に,有給休暇を充てる余地は,そもそもありません。
 ですから,お尋ねのようなケースで,8月13日から15日を有給休暇とすることは,できないことになります。

2 休日出勤の日に有給休暇を取得できるか 
 それでは,この従業員に対し,8月13日に休日出勤を命じた場合,従業員は,その日に有給休暇を充てることができるでしょうか。
 確かに,休日出勤を命じれば,その日に労働義務が発生します。 
 しかし,通達では,もともと労働義務のない休日に労働させた場合,その日は労働日に含まれないとされています。したがって,本来休日である8月13日に出勤を命じた場合でも,その日に有給休暇を充てることはできません。

3 就業規則がない場合 
 一方,上記のような就業規則がなかった場合,8月13日から15日は休日ではありませんから,有給休暇を使って夏季休暇を取得させることができます。
 ここで注意が必要なのは,有給休暇は,「事業の正常な運営を妨げる場合」でない限り,従業員が指定した日に与えなければならない点です。  
 つまり,本件で言うと,会社が上記3日間を指定して有給休暇を取得させることは,原則としてできません。
 会社が有給休暇の取得日を指定するには,例えば,「有給休暇の3日分について8月13日,14日,15日に与える」旨の労使協定の締結が必要になります。

副業している従業員を懲戒処分できる?

(質問)
 当社の従業員の中に,業務時間外に副業をしている者がいることが発覚しました。
 当社の就業規則では,従業員が副業を行うことを禁止しています。そこで,該当従業員に懲戒処分を科することを検討していますが,問題ありませんか?

(回答)

1 副業を行うサラリーマンが増加
 一時期に比べて景気が回復しつつあるとはいうものの,従業員の賃上げにまでは至っていない中小企業が多いと聞きます。
 そのような状況の中,生活のために副業を行うサラリーマンが,増えているようです。
 インターネットを利用した副業が比較的簡単に行えるようになったことも,副業を行うサラリーマン増加の一要因でしょう。

2 副業は禁止できる?
 さて,公務員は法律で兼業が禁止されていますが,私企業の従業員の兼業を禁止する法律の規定はありません。従業員が,契約で定められた就業時間外をどのように過ごすかについては,本来,従業員の自由なのです。
 従業員が副業を行うことを禁止する旨の就業規則の規定が直ちに無効となるわけではありませんが,副業を禁止できるのは,会社の信用や社会秩序を害したり,会社の秘密漏えいの恐れがあったり,従業員の労務提供上支障が生じたりする場合に限定されます。
 したがって,処分を行う場合に,これらについて具体的に検討する必要があります。

3 副業禁止の合理性?
 裁判例には,貨物運送会社に勤務する長距離トラック運転手が勤務時間外にアルバイトをすることを会社が認めなかったという事例で,副業終了後会社での勤務開始までが6時間を切る場合は副業を認めないことには,合理性があると判断したものがあります。
 疲労や寝不足での交通事故を起こせば,会社のみならず第三者に多大な迷惑を掛けるので,トラック運転手にとっては休息の確保が非常に重要であることが理由です。
 その一方で,同裁判例は,休日のアルバイトを禁止することについて,その休日が法定休日であるということのみを理由として禁止することはできず,労務提供に生じる支障を具体的に検討しなければならないと判断しています。

4 許可を採る場合の判断基準
 なお,同裁判例の事例では、副業について許可制を採用していました。
 このように許可制を採用する場合でも,会社が副業を許可するか否かは,会社の信用を害するおそれ,会社の秩序を害するおそれ,秘密漏えいのおそれ,労務提供上の支障が生ずるおそれ等が,具体的に,どの程度,生じるかを検討して判断すべきです。

元従業員の加盟した労働組合からの団交要求

(質問)
 当社は、Y労働組合から、「当社の元従業員が組合に加入した、元従業員は貴社を退職したが、これは退職を強要されたもので無効である、元従業員の未払残業代を請求する」などを内容とする団体交渉請求書を受領しました。
 このような退職した従業員が加盟したような労働組合との団体交渉に応じる必要はあるのでしょうか。
 また、当社は、団体交渉に向けてどのようなことに注意すべきでしょうか。

(回答)

1 団体交渉のリスク
 労働者側から利便性を考えた場合、司法制度を利用すると、時間と費用がかかり、敷居が高いイメージがあります。かといって、行政のあっせん等の制度を利用したとしても強制力が伴わないため、解決できるか不安があります。
 となってくると第3の選択として合同労組の団体交渉を選ぶ労働者もいて当然で、それは解雇された後等のいわゆる「駆け込み」などに顕著に現れており、今後も団体交渉は増加していくと考えられます。
 中小企業とすれば、団体交渉のリスクは、どこまで対応すれば誠実交渉義務を果たしたことになるのかの着地点が不明確であることや、度重なる団体交渉により経営者が疲弊したり、経営改善を思うように進めることができなくなってしまうなどといったリスクがあります。

2 不当労働行為
 労働組合が会社と交渉を行う際のルールは、労働組合法に定められています。
 その中で、特に会社側が団体交渉の際に行ってはならない行為が「不当労働行為」と定義されていて、具体的に、以下のものを指します(労働組合法第7条)。

 (1)組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱いの禁止
   これは、労働者が、労働組合の組合員であること、労働組合に加入しようとしたこと、労働組合を結成し  ようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことを理由に、労働者を解雇したり、その他の不利益な取扱  いをすることです。
   また、労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすること(いわゆる黄  犬契約)もこれに含まれます。

 (2)正当な理由のない団体交渉の拒否の禁止
   これは、使用者が、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒むことです。
   使用者が形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わないこと(不誠実団交)も、これに含  まれます。

 (3)労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助の禁止
   これは、労働者が労働組合を結成し、又は運営することを支配し、又はこれに介入することです。
   また、労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えることもこれに含まれます。

 (4)労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱いの禁止
   これは、労働者が労働委員会に対し、不当労働行為の申立てをし、若しくは中央労働委員会に対し再審査  の申立てをしたこと、又は労働委員会がこれらの申立てに関し調査若しくは審問をし、若しくは労働争議の  調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言したことを理由として労働者を解雇し、その他の不  利益な取扱いをすることです。

3 会社側の対応
 従業員が労働組合を結成すると、労働組合は会社に対して労働組合加入通知書、団体交渉申入書を送ってきます。
 この通知に驚いたり、焦ったりして、組合の言いなりになって団体交渉に応じて労働協約を締結すると、非常に不利な拘束を会社が受ける場合もあるため、冷静な判断が必要です。会社としては、毅然とした態度で、労働組合法などの法令や判例を踏まえて、会社側の意見をしっかり主張することが重要です。

4 回答
 貴社は、Y労働組合が、元従業員が退職を強要されたと言っていること、未払残業代を請求することなどを主張している以上、元従業員だからということのみをもって団体交渉を拒否できず、団体交渉義務はあると言わざるを得ません。

はじめに

これまでの諸団体の会報等を取りまとめたものです。
内容については個人的な意見であり,事実・不正を保障するものではありません。
あくまでも参考にしていただければ幸いです。