投稿者「kobayashi」のアーカイブ

休職命令を出すことの可否

(質問)
 当社は従業員から,発熱,咳,関節痛の症状があるとの連絡を受けました。もしかするとインフルエンザかもしれません。
 社内で流行しては困るので,就業規則上の規定はありませんが,休業命令を出したいと思っています。その場合,従業員に賃金を支払う必要はあるのでしょうか。

(回答)

1 インフルエンザの恐れのある従業員への休職命令
 労働者が伝ぱの可能性のある疾病等にかかった場合などの場合は、当該労働者及び他の労働者の健康・安全を確保するため、使用者の判断によって就業を禁止しなければならないとされています(労働安全衛生法第68条、安全衛生規則第61条)。

2 業務命令権の濫用 
 しかし、必要性・合理性を欠いた業務命令、不当な動機・目的をもってなされた業務命令、業務上の必要性と比較して労働者の職業上・生活上の不利益が著しく大きい業務命令は、権利の濫用として無効になるとされています。
 インフルエンザの強い感染力、流行性、症状等からすると、職場における安全配慮義務を負う使用者としては、インフルエンザの可能性がある労働者の職場への立入りを制限し、自宅で静養させる必要性は高いといえます。
 したがって、休業又は自宅待機の業務命令が無効となる可能性は低いと考えられます。

3 休業手当支払の要否
 使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合、使用者は、休業手当として賃金の6割以上を支払わなければなりません。
 労働者がインフルエンザに感染したことによる休業は、使用者の責めに帰すべき事由による休業には当たらないため、休業手当を支払う必要はないと考えられます。 
 ただし、医師の診断よりも長期にわたる休業や、インフルエンザかどうか分からないのに、一定の症状があることだけを理由に休業させるという場合は、使用者の自主的判断に基づく休業なので、休業手当の支払は必要であると考えられます。

4 回答 
 ご質問の状況では、未だインフルエンザの診断書は提出されていないと考えられますが、貴社は業務命令権に基づき、休業命令を出すことができます。
 その上で、貴社はなるべく早期に従業員からインフルエンザの診断書を提出してもらうべきです。
 インフルエンザの診断書の提出後は、貴社は休業手当を支払う必要はなくなると考えられます。

退職日までの有給休暇の請求について

(質問)
 この度,当社の従業員が退職を申し出てきたうえ,退職日まで有給休暇を請求してきました。
 会社としては,業務の引継ぎをしてもらわなくては困るので,引継ぎに必要な期間については出勤してもらいたいと考えています。どのような方法をとればよいですか?

(回答)

1 有給休暇の請求を認めないことができればベストだが・・・ 
 労働者が有給休暇を請求してきた場合に,使用者としてこれを適法に拒否できる根拠としては,時季変更権(労働基準法39条5項)を行使することが考えられます。
 この時季変更権とは,労働者が請求するとおりに有給休暇を認めると,会社の正常な事業運営が妨げられてしまう場合に,労働者の有給休暇取得日を別の日に変更することができるものです。
 しかし,この時季変更権は,別の日に有給休暇を取得させることができることができることを前提としています。そのため,ご相談の事案のように従業員が退職してしまう場合,別の日に有給休暇を与えることはできませんので,結論として,時季変権は行使できません。

2 有給休暇の買取り? 
 そうすると,会社としては,有給休暇を買い取ることによって,従業員の有給休暇の請求を認めないという主張をしたいところですが,結論として,有給休暇の買取りは認められません。
 というのも,有給休暇は,現実に労働者を休ませることを目的として認められたものであるにもかかわらず,有給休暇の買取りを認めてしまうと,この目的を達成することができなくなるからです。

3 結局,任意に協力を求めることしかできない 
 こうしてみると,会社としては,結局従業員に事情を説明したうえで,引継ぎの協力をお願いすることしかできないと思われます。
 ただし,単に引継ぎの協力をお願いしても,従業員からすると,協力することによる利益が何もないのであれば,まず協力することはないでしょう。
 そのため,会社としては,従業員が引継ぎに協力することによるメリットを提示する必要があります。
 このメリットとしては,経済的な利益を与えることが考えられます。すなわち,従業員が有給休暇の請求をやめてくれるのであれば,給料だけではなく,謝礼も支払うと提案するのです。どの程度の経済的利益を与えるかは,その引継ぎの内容の重要性(労働者の協力を必要としている程度)によって異なってきます。
 会社としては,このような予定外の出費を余儀なくされてしまいますが,法律上やむを得ない面がありますので,そもそもこのような事態を避けるために,日ごろから従業員に有給休暇を取得させておくことや会社に対する忠誠心を醸成しておくことが大切だろうと思われます。

営業所長に残業代を支払わなければならない基準

(質問)
 当社には何人か営業所長がいますが、その内の営業所長Yは、「自分は営業所長だが、自分に残業代が支払われていないのは納得できない。過去の分も含めて適正な残業代や深夜労働手当を支払ってもらいたい」と訴えてきました。
 この請求は正当ですか。

(回答)

1 管理監督者とは
 労働基準法では、原則として1日8時間、週40時間以上は労働させてはならないことが規定されています(同法第32条)。そして、これを超える部分については、使用者は残業代を支払う必要があります。
 この例外が「管理監督者」に該当する場合です(同法第41条第2号)。管理監督者については、「名ばかり管理監督者」と言われるように、企業にとって有利な制度をついつい濫用してしまうリスクがあることを認識すべきです。
 特に、中小企業においては、営業を広範囲に展開するため、営業拠点を設け、営業所長といった肩書を付けることがよく行われ、その営業所長に使命感と責任を持たせるため、一定額の営業所長手当だけ支払うという運用がなされることがあります。
 ご質問のケースでは、営業所長Yが管理監督者に該当するかが問題となります。

2 管理監督者の判断基準
 この「管理監督者」に該当するか否かの判断基準は、①事業主の経営に関する決定に参画し労務管理に関する指揮監督権限を認められているか、②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有しているか、③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)の処遇を与えられているかという点です。
裁判例では銀行の支店長代理について、通常の就業時間に拘束され出退勤の自由がなく、銀行の機密事項に関することもなく、経営者と一体となって銀行経営を左右する仕事に携わってもいないとして、管理監督者に該当しないと判断されたものがあります。
この裁判例を例にとってもお分かりのように、実務において「管理監督者」の判断基準は非常に厳しいものになっています。なお、出退勤の自由の点については特に重視されるポイントですので御留意ください。

3 年次有給休暇と深夜労働手当は
 管理監督者に該当することにより適用除外になるのは、労働時間、休憩、休日の規定だけであり、年次有給休暇(同法第39条)、深夜業(同法第37条第4項)などは適用除外になりません。
 したがって、会社は、Yが管理監督者に該当したとしても、深夜労働手当を支払わなければなりません。

4 回答
 貴社の場合、Yが経営に関する決定に参画して、出退勤が自由であり、営業所長手当がある程度高額であるなどといった条件が満たされていない限り、名ばかり営業所長ということになってしまい、Yの請求が認められるリスクは高いといえます。
 貴社が訴訟で敗訴するリスクと、そのことが他の営業所長に飛び火するリスクを避けるため、Yとの間で他には口外しないことを条件に一定額を支払って和解すべきです。
 また、今後、貴社は、管理監督者とは認められない営業所長に対しては、時間外手当等を支払うように制度と運用を改めるべきです。 

犯罪被害に遭ったときの法的対応

(質問)
 万が一、犯罪被害に遭ったときどのように対処したらいいですか?

(回答)

1 犯罪被害者とは 
 池袋駅西口近くの路上で,歩道にRV車が突っ込み歩行者をはねるという事故(事件)がありました。この事故により20代~30代の7名が巻き込まれ,うち20代の女性が死亡しました。
 この事故で運転者は,自動車運転処罰法違反(過失傷害)の被疑事実で逮捕されたようですが,被疑者は脱法ハーブを吸っていた旨供述しているようですので,危険運転致死傷罪(故意犯)で起訴される可能性があると考えます。
 このような事件に巻き込まれた場合には,巻き込まれた人は「犯罪被害者」と呼ばれます。今回は,犯罪(故意犯)被害者やその家族に対する経済的支援の制度についてお話しします。

2 犯罪被害給付制度 
 通り魔殺人等の故意の犯罪行為によって家族を亡くした遺族,重大な負傷又は疾病を負ったり後遺障害が残った被害者に対して国が給付金を支給する制度があり,これを犯罪被害給付制度といいます。
 この制度は,社会の連帯共助の精神に基づき国が犯罪被害者等給付金を支給し,その精神的・経済的打撃の緩和を図り,再び平穏な生活を営むことができるよう支援することにその趣旨があり,人の生命又は身体を害する罪に当たる行為(過失犯を除きます。)による死亡,又は障害が主に給付の対象となります。
 給付金は,遺族給付金・重傷病給付金・障害給付金に分かれますが,最大でも4千万円弱の支給額となっています。
 また,犯罪行為による死亡・重傷病又は障害の発生を知った日から2年間を経過した時,又は当該死亡,重傷病又は障害が発生した日から7年を経過した時は,申請ができませんので注意が必要です。
 具体的な手続きとしては,住所地を管轄する警察署(申請する人の地元の警察署)又は警察本部に申請書と必要書類を提出することになりますので,(故意の)犯罪被害に遭った場合には,最寄りの警察・警察本部にまず相談して下さい。

3 損害賠償命令制度 
 犯罪被害者となった場合,上記のような給付金を支給されてもなお填補されない損害が生じている場合も多くあります。
 そのような場合,被疑者・被告人と金額面等で話し合いがつかない場合には,民事訴訟を提起するという方法があります。また,当該事件が刑事手続に付されているような場合には,刑事手続きに付随して被害者や遺族による損害賠償に係る民事訴訟手続の特例として,損害賠償命令制度という制度があります。
 この損害賠償命令制度は,刑事裁判の起訴状に記載された犯罪事実に基づいて,その犯罪によって生じた損害の賠償を請求するものです。
 申し立てを受けた刑事裁判所は,刑事事件について有罪の判決があった後,刑事裁判の訴訟記録を証拠として取調べ,原則として4回以内の審理期日で審理を終わらせて申立てについて決定をします。
 この制度は被害者や遺族の損害賠償請求に関する労力を通常の民事訴訟より軽減する仕組みとなっています。
 この制度を利用するには刑事事件を担当している裁判所に対して損害賠償命令の申立書を提出する必要があります。
 なお,損害賠償命令制度を利用する際に,その手続きについて弁護士にお問い合わせください。

土地の売買契約トラブルー瑕疵担保責任とはー

(質問)
 土地の売買契約において、契約時には両当事者が認識していなかった土壌汚染が発覚した場合、買主としては、どのような手段に訴えることが考えられるでしょうか?

(回答)

1 瑕疵担保責任とは 
 まず、土地のような特定物の売買契約の場合、売主としては「現状でその物を引き渡さなければならない」(民法483条)ため、土地を現状のまま引き渡せば足ります。  
 しかし、買主としては、利用できることを期待して土地の購入代金を支払っているわけですし、売主としても汚染のない土地を前提とした代金を入手しています。
 そこで、このような売買契約の不公平を是正するために、民法では瑕疵担保責任が規定されます。
 これによると、売買契約の目的物について、「隠れた瑕疵」あった場合、買主は一定の要件のもと当該契約を解除し、又は損害賠償請求をすることができます(民法570条、566条)。
 ここで、「瑕疵」とは、目的物について売買の当事者が契約当時に合意していた性質・品質を満たさないことをいい、「隠れた」とは買主が性質等を満たさないことを知らなかったことについて過失がない場合をいいます。
 債務不履行とは異なり、売主に過失がない場合でも請求できる点に特徴があります。   
 このように、瑕疵担保責任は買主保護としての機能を有するものです。

2 瑕疵担保責任の免除と例外 
 しかしながら、上記規定は任意規定であり、売買当事者間で上記規定を排除する特約を締結することも可能です。
 例えば、契約書に「売主の瑕疵担保責任を免除する。」などと記載がある場合が典型的です。
 もっとも、例外的に上記条項の効力が認められない場合があるので注意する必要があります。
 民法572条は、売主が売買の目的物に瑕疵があることを知りながら告げなかった場合等については、売主は上記条項により瑕疵担保責任を免れることはできないと規定しています。

3 売主の重過失の場合 
 また、売主が知らなくとも同条の規定が類推適用される可能性もあります。
 裁判例では、土地の売買契約締結後に地中に埋蔵物が存在していたことが発覚した事例につき、売主が埋蔵物を把握することは極めて容易だったこと等の事情から売主の重過失を認め、これは悪意と同視できるとして民法572条を類推適用し、売主の瑕疵担保責任を認めています(平成15年5月16日付け東京地裁判決)。
 ただし、条文どおり、悪意の場合に限定されるとして、重過失の場合には同条の適用はないとした裁判例(平成20年11月19日付け東京地裁判決)もあり、見解が分かれていますので、ご注意ください。

インターネットで誹謗中傷をされた場合の法的対応

(質問)
 インターネット上の掲示板で,私の個人情報や,私を誹謗中傷する書き込みがされているのを見つけてしまいました。
 法的に対処できますか?

(回答)

1 書き込みの削除について 
 法的な対処方法としては, ①当該掲示板の管理者に書き込みの削除を求める,②当該掲示板のサーバーを管理していうプロバイダに対して削除を求めるという方法が考えられます。
 プロバイダ責任制限法(特定電機通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)は,サイトの管理者やプロバイダが,他人の権利を侵害する情報を削除しても,情報の発信者に対して損害賠償責任を負わないことを定めています。
 逆に,削除依頼を受けたのに対応せず,権利を侵害する情報であることを知りながらこれを放置するような場合は,管理者やプロバイダが不法行為責任を負う可能性があります。

2 発信者の特定について 
 情報の発信者に対して不法行為による損害賠償請求をする前提として,発信者を特定する必要があります。
 これについても,プロバイダ責任制限法は,サイトの管理者やプロバイダに対して,発信者について保有する情報の開示を請求できることが定められています。開示の対象となっているのは,発信者の氏名・住所・メールアドレス,侵害情報にかかるIPアドレス,侵害情報の送信時刻などです。
 掲示板への書き込みの場合には,管理者からIPアドレスと送信時刻などの開示を受けた上で,それらの情報をもとに経由プロバイダに対して発信者(該当時刻に該当IPアドレスを利用した契約者)の氏名,住所等の開示を求めることになります。
 なお,開示請求を受けたプロバイダは,発信者に対して,氏名等の情報を開示することについて意見を聞くことになります。プロバイダが発信者情報の開示を行わないと判断した場合には裁判手続きによることになります。

3 名誉毀損罪の成立 
 掲示板への書き込みが,個人を特定できるような形で,その人の社会的評価を低下させる事実を摘示するものであれば,原則として名誉棄損罪が成立しますし,事実の摘示がなくても侮辱罪が成立する場合があります。
 書き込みの内容が非常に悪質であったり,一度削除しても繰り返し書き込みがなされるおそれがあるような場合には,警察への相談も検討すべきでしょう。
 インターネット上に書き込まれた情報は,瞬時に世界中に拡散するため,精神的にも経済的にも甚大な被害が生じるおそれがあります。
 被害を最小限に抑えるためには何よりも迅速かつ的確な対処が重要です。

アルハラ等のリスク

(質問)
 当社では、会社の飲み会で盛り上がり、上司が部下にイッキ飲みさせることがよく行われていました。
 すると、ある日、飲み会の従業員Yが翌日に急性アルコール中毒になったが、それは当社に責任があると言ってきました。
 こういった場合、当社には責任があるのでしょうか。

(回答)

1 「イッキ」飲みの強要は犯罪の可能性
 中小企業に限らず、企業には一人くらい酒豪がいて、昔ながらのイッキ飲みで酒席を盛り上げる人がいるようです。
 しかし、会社の懇親会の飲み会には大きなリスクがあります。
 というのは、上司からのイッキ飲みを断れない雰囲気を作った上で「さぁ、飲め」といったような事実に断れない雰囲気により、イッキ飲みをして、その結果、従業員に急性アルコール中毒を起こさせた場合には、上司などに、傷害罪(刑法第204条、法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が成立する可能性が高いのです。
 なお、「飲め」などといった言葉に出さなくても、飲まなければいけないような雰囲気を作り出すことも強要に当たると考えられます。
 また、「イッキ」飲みをさせられた人が死亡した場合には、傷害致死罪(同法第205条、法定刑は3年以上の懲役)もしくは過失致死罪(同法第210条、法定刑は50万円以下の罰金)が成立する可能性もあります。
 イッキ飲みは、実は、中小企業にとっては、大きなリスクといわざるを得ません。

2 「イッキ」を止めなかった人は
 楽しい飲み会にもかかわらず、上司がイッキ飲みをさせて、部下が急性アルコール中毒になった場合、イッキ飲みを止めなかった人には、傷害罪の共犯(刑法第60条・第204条、法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)もしくは傷害罪の幇助犯(同法第62条、第204条、法定刑は7年6月以下の懲役又は25万円以下の罰金)が成立する可能性があります。
 なお、酔いつぶれた人を放置して死亡させたようなケースでは、保護責任者遺棄致死罪(同法第219条、法定刑は3年以上20年以下の懲役)が成立する可能性もあります。

3 社内でのいわゆる「押付け」について 
 これに限らず、会社内では、職務上、上司と部下という職務上の命令、服従の関係があるため、つい職務上の範囲を超えて、イッキ飲みのほか、政治的イデオロギーとか、宗教上の信仰の押付けのリスクもあり得ます。
社内で、そのようなことがまかり通っていれば、中小企業にとっては、大切な人財の流出や従業員のモチベーションの低下、さらには生産性の低下といったことにもつながりかねません。
 中小企業は、社長以下、人にはそれぞれ個性と価値観があるという当然の事実を踏まえて、職務上も職務外も良い人間関係を築いていく必要があると私は考えています。

4 回答
 貴社において、上司が部下にイッキ飲みをさせていて、急性アルコール中毒の診断書が提出されている以上は、いわゆるアルコールハラスメントに当たりますので、会社は上司とともに部下に聴取を行うとともに、上司に対する懲戒処分を検討することになります。
 そして、何よりも重要なことは、イッキ飲みをしなくても、楽しい「飲みにケーション」の場を作って、従業員同士の親睦を図り、企業の人的な足腰の強さを実現すべきです。 

養子縁組が無効になる場合とは?

(質問)
 養子縁組が無効になる場合があると聞きましたが,それはどのような場合ですか?

(回答)

1 養子縁組届出の仕組み 
 ある人が養子となろうとする場合,養子縁組届出を市役所等に提出する必要があります(民法700条、739条)。
 もっとも,養子縁組の成立には社会通念上親子と認められる関係を成立させる意思が必要となり,これを欠く場合は,養子縁組が無効となります。
 ただし,養子縁組自体は形式的な書類さえ整っていれば受理されることから,本来無効であるはずの養子縁組も届出により形式的に有効とされる可能性もあるのです。

2 養子縁組が無効となる場合 
 ここで,養子縁組の有効性と関連して,相続税の計算における基礎控除額の算定の考えも参考になるので御紹介いたします。すなわち,相続税の基礎控除額等は法定相続人の数により算定されますが,算定の際に考慮できる養子の数には一定の制限があり,かつ,養子を相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となる場合は,上記基礎控除額等の算定の基礎に含めることはできないとされているのです。
 仮に上記の縁組意思もなく専ら相続税負担回避のためだけに養子縁組を行っている場合には当該養子縁組自体が無効とされる可能性もあるでしょう。

3 養子縁組無効の判断の参考となる事例 
 名古屋家裁平成22年9月3日判決によると,養子縁組に否定的な発言を行っていたこと(当事者の言動),当時84歳であり認知証、糖尿病等と診断され,寝たきり,胃瘻からの経腸栄養,失語の症状を呈していたこと(被相続人の年齢や心身状態),被相続人の夫に対してしか縁組意思の確認をおこなっていないこと(被相続人に対する縁組意思の確認の程度),縁組届に実際に署名押印したのは被相続人の夫であったこと(縁組届出提出の経緯)などから被相続人は縁組意思を有していなかったとされています。
 もちろん最終的には個別的な判断が必要となりますが,これらの点を意識することが有益であると考えられます。 

遺言無効確認訴訟の争点とは?

(質問)
 以前,資産家女性が家政婦に全遺産を渡すとした遺言があったにも関わらず,実娘が遺産の大半を自分の口座に勝手に移したため,遺言無効確認訴訟となった相続問題がありましたよね。
 あの事件の争点は何だったのですか?

(回答)

1 事件の概要 
 この事件は,ある資産家女性の「遺産は全て家政婦に渡す」とした遺言があったにも関わらず,この遺言が有効なら権利がないはずの実娘が遺産の大半を自分の口座に移したため,家政婦女性と実娘がこの遺言は有効か無効なのかを争った事件です。 
 実娘側は,母の生前に家政婦女性がお金を着服していた,遺言は無効であると主張し,家政婦女性側は,着服はしておらず,遺言は有効であり,勝手に口座に移したお金を返還するよう主張しました。
 判決は家政婦女性の全面勝訴で,実娘は遺産の返還を求められました。
 報道によると,家政婦女性は50年近くこの資産家宅で住み込みの家政婦をしており,旦那さんが亡くなられてからは無給で続けられていたそうです。

2 遺言能力の有無 
 遺言能力とは,「遺言は法律行為であり,合理的な判断能力がなければなし得ない。この遺言を有効になし得る能力」をいいます。
 争点となったのは遺言能力の有無と,家政婦女性が着服していたかどうかという点です。
 双方の主張で,遺言作成時に資産家女性の合理的な判断能力があったかどうかが大きな争点となっていました。資産家女性の年齢は当時約90歳で判断能力が減退していた可能性はあります。
 しかし,裁判所は実娘が長年に渡り,資産家女性に金の無心を続けていたと事実認定し,資産家女性は「資産を奪われるのが怖くて外出できない」と第三者に話していたことも指摘し,家政婦女性に感謝して遺言を作成したとして,家政婦女性の主張を全面的に認めました。

3 着服の点は 
 次に,着服の点ですが,実娘側が長年にわたり資産家女性に無心を続け,多額の援助をしてきたことや,資産家女性の死後に家政婦女性が帰郷した際,着の身着のままで現金も5千円しか持っておらず,大金を着服した人物ならば不自然だったことから,裁判所は,「使途不明金はカネ遣いの荒い実娘側に渡るなどしたと考えられる。 
 女性による着服は認められず,推認すらできない」と判断しました。

4 遺留分のリスク 
 法定相続人には遺留分という権利がありますので,今後実娘2人から遺留分減殺請求訴訟が起こされることになるかもしれません。
 相続トラブルは年々増加しています。簡単なようで複雑な問題も多々存在します。
 少しでも疑問,不安なことがございましたら,まずは弁護士にご相談ください。

非嫡出子の相続分について

(質問)
 遺産相続が発生し,非嫡出子の存在が明らかになりました。
 非嫡出子の相続分はどれくらいなのでしょうか?

(回答)

1 嫡出子と非嫡出子の違い 
 「嫡出子」とは法律上の婚姻関係にある夫、妻の間で生まれた子どもをいいます。 
 具体的には次のとおり。
 ・婚姻中に妊娠をした子ども
 ・婚姻後201日目以後に生まれた子ども
 ・父親の死亡後、もしくは離婚後300日以内に生まれたこども
 ・未婚時に生まれて認知をされ、その後に父母が婚姻した子ども
 ・未婚時に生まれてから、父母が婚姻し、父親が認知をした子ども
 ・養子縁組の子ども

 以上の条件に当てはまる子どもを「嫡出子」といい、非嫡出子は、法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれたこどもであり、且つ上記の「嫡出子」の具体的な条件に当てはまらない子どもをいいます。

2 非嫡出子と嫡出子の相続分は同じ 
 平成25年12月5日に、民法の一部が改正する法律が成立し、それまで非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分を改正し、非嫡出嫡子も嫡出子で違いのあった法定相続分が同等になりました。
 同等になった理由は、同じ母親から生まれたにも関わらず、不公平が生じている事実に法の下の平等に反するのではないかという指摘が従前からなされており、平成25年9月4日の最高裁判所の判決において、今までの法律が「非嫡出子」に対して不公平であり、違憲であるという判断が下されたからです。

3 非嫡出子の相続分が改正後の相続分にならないケース 
 改正された新しい法において、最高裁判所の判決日以降に開始した相続に関して適用することを定めています。相続は被相続人の死亡によって開始されますので、平成25年9月5日以降に亡くなった場合が適用されます。
 したがって、平成13年7月1日(今回の最高裁判所の決定の事案における相続開始日)~平成25年9月4日(決定日)の期間中に相続開始をした場合であれば、「非嫡出子」であっても「嫡出子」と同じ法定相続の割合になります。
 適用されないケースで考えますと、この期間中に遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった際は法律関係には影響ありません。
 つまり、遺産分割協議で審判が確定している場合や、協議が成立している場合は「非嫡出子」の相続の割合は「嫡出子」の2分の1のままになります。

4 非嫡出子がいる場合の相続における争いを回避するには
 非嫡出子(婚外子)がいるというだけ、普段から顔を合わせているような相続人にとっては、非嫡出子にも相続分を分け与えることは苦痛かもしれませんが、相続人であれば非嫡出子にも遺産をもらう権利があります。
 こういったトラブルを避けるために、何ができるのかを確認しておく必要があります。

5 認知をしておく
 例えば、男性が結婚後に配偶者以外の女性との間で子どもが生まれた場合などです。不倫や浮気でできてしまった子どもでも、父親が認知をすれば「非嫡出子」として相続人となり得ます。
 そのために、いざ相続する際に遺産分割協議(相続人全員で話し合いをする)を行うのが難しくなり、揉める可能性が高いことが容易に想像できます。

6 遺言書を作成しておく
 話し合いだけで解決をすれば良いのですが、相続手続きを進めている中、被相続人が亡くなられた後で「非嫡出子」の存在が発覚することもあります。急に出てきた法定相続人に、遺産を渡したくない人もいるのではないでしょうか。
 その争いを避けるためには、被相続人が亡くなる前に「遺言書」を書き残してもらうのが一つの方法です。遺産の分割の方法を指定していれば、余計な話し合いをする必要はなくなります。
 被相続人が生きている間に話し合いをして、法定相続人が誰であり、遺産に、どんなものが、どれだけ残っているのか確認をしておくことが重要です。
 誰が法定相続人になるか確認をしておくことで、「非嫡出子」の急な出現による混乱を回避できます。
 例え話し合いをしていくうちに、「非嫡出子」がいることが発覚しても、被相続人が生きていれば建設的な協議が可能です。