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インターネットで誹謗中傷をされた場合の法的対応

(質問)
 インターネット上の掲示板で,私の個人情報や,私を誹謗中傷する書き込みがされているのを見つけてしまいました。
 法的に対処できますか?

(回答)

1 書き込みの削除について 
 法的な対処方法としては, ①当該掲示板の管理者に書き込みの削除を求める,②当該掲示板のサーバーを管理していうプロバイダに対して削除を求めるという方法が考えられます。
 プロバイダ責任制限法(特定電機通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)は,サイトの管理者やプロバイダが,他人の権利を侵害する情報を削除しても,情報の発信者に対して損害賠償責任を負わないことを定めています。
 逆に,削除依頼を受けたのに対応せず,権利を侵害する情報であることを知りながらこれを放置するような場合は,管理者やプロバイダが不法行為責任を負う可能性があります。

2 発信者の特定について 
 情報の発信者に対して不法行為による損害賠償請求をする前提として,発信者を特定する必要があります。
 これについても,プロバイダ責任制限法は,サイトの管理者やプロバイダに対して,発信者について保有する情報の開示を請求できることが定められています。開示の対象となっているのは,発信者の氏名・住所・メールアドレス,侵害情報にかかるIPアドレス,侵害情報の送信時刻などです。
 掲示板への書き込みの場合には,管理者からIPアドレスと送信時刻などの開示を受けた上で,それらの情報をもとに経由プロバイダに対して発信者(該当時刻に該当IPアドレスを利用した契約者)の氏名,住所等の開示を求めることになります。
 なお,開示請求を受けたプロバイダは,発信者に対して,氏名等の情報を開示することについて意見を聞くことになります。プロバイダが発信者情報の開示を行わないと判断した場合には裁判手続きによることになります。

3 名誉毀損罪の成立 
 掲示板への書き込みが,個人を特定できるような形で,その人の社会的評価を低下させる事実を摘示するものであれば,原則として名誉棄損罪が成立しますし,事実の摘示がなくても侮辱罪が成立する場合があります。
 書き込みの内容が非常に悪質であったり,一度削除しても繰り返し書き込みがなされるおそれがあるような場合には,警察への相談も検討すべきでしょう。
 インターネット上に書き込まれた情報は,瞬時に世界中に拡散するため,精神的にも経済的にも甚大な被害が生じるおそれがあります。
 被害を最小限に抑えるためには何よりも迅速かつ的確な対処が重要です。

アルハラ等のリスク

(質問)
 当社では、会社の飲み会で盛り上がり、上司が部下にイッキ飲みさせることがよく行われていました。
 すると、ある日、飲み会の従業員Yが翌日に急性アルコール中毒になったが、それは当社に責任があると言ってきました。
 こういった場合、当社には責任があるのでしょうか。

(回答)

1 「イッキ」飲みの強要は犯罪の可能性
 中小企業に限らず、企業には一人くらい酒豪がいて、昔ながらのイッキ飲みで酒席を盛り上げる人がいるようです。
 しかし、会社の懇親会の飲み会には大きなリスクがあります。
 というのは、上司からのイッキ飲みを断れない雰囲気を作った上で「さぁ、飲め」といったような事実に断れない雰囲気により、イッキ飲みをして、その結果、従業員に急性アルコール中毒を起こさせた場合には、上司などに、傷害罪(刑法第204条、法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が成立する可能性が高いのです。
 なお、「飲め」などといった言葉に出さなくても、飲まなければいけないような雰囲気を作り出すことも強要に当たると考えられます。
 また、「イッキ」飲みをさせられた人が死亡した場合には、傷害致死罪(同法第205条、法定刑は3年以上の懲役)もしくは過失致死罪(同法第210条、法定刑は50万円以下の罰金)が成立する可能性もあります。
 イッキ飲みは、実は、中小企業にとっては、大きなリスクといわざるを得ません。

2 「イッキ」を止めなかった人は
 楽しい飲み会にもかかわらず、上司がイッキ飲みをさせて、部下が急性アルコール中毒になった場合、イッキ飲みを止めなかった人には、傷害罪の共犯(刑法第60条・第204条、法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)もしくは傷害罪の幇助犯(同法第62条、第204条、法定刑は7年6月以下の懲役又は25万円以下の罰金)が成立する可能性があります。
 なお、酔いつぶれた人を放置して死亡させたようなケースでは、保護責任者遺棄致死罪(同法第219条、法定刑は3年以上20年以下の懲役)が成立する可能性もあります。

3 社内でのいわゆる「押付け」について 
 これに限らず、会社内では、職務上、上司と部下という職務上の命令、服従の関係があるため、つい職務上の範囲を超えて、イッキ飲みのほか、政治的イデオロギーとか、宗教上の信仰の押付けのリスクもあり得ます。
社内で、そのようなことがまかり通っていれば、中小企業にとっては、大切な人財の流出や従業員のモチベーションの低下、さらには生産性の低下といったことにもつながりかねません。
 中小企業は、社長以下、人にはそれぞれ個性と価値観があるという当然の事実を踏まえて、職務上も職務外も良い人間関係を築いていく必要があると私は考えています。

4 回答
 貴社において、上司が部下にイッキ飲みをさせていて、急性アルコール中毒の診断書が提出されている以上は、いわゆるアルコールハラスメントに当たりますので、会社は上司とともに部下に聴取を行うとともに、上司に対する懲戒処分を検討することになります。
 そして、何よりも重要なことは、イッキ飲みをしなくても、楽しい「飲みにケーション」の場を作って、従業員同士の親睦を図り、企業の人的な足腰の強さを実現すべきです。 

養子縁組が無効になる場合とは?

(質問)
 養子縁組が無効になる場合があると聞きましたが,それはどのような場合ですか?

(回答)

1 養子縁組届出の仕組み 
 ある人が養子となろうとする場合,養子縁組届出を市役所等に提出する必要があります(民法700条、739条)。
 もっとも,養子縁組の成立には社会通念上親子と認められる関係を成立させる意思が必要となり,これを欠く場合は,養子縁組が無効となります。
 ただし,養子縁組自体は形式的な書類さえ整っていれば受理されることから,本来無効であるはずの養子縁組も届出により形式的に有効とされる可能性もあるのです。

2 養子縁組が無効となる場合 
 ここで,養子縁組の有効性と関連して,相続税の計算における基礎控除額の算定の考えも参考になるので御紹介いたします。すなわち,相続税の基礎控除額等は法定相続人の数により算定されますが,算定の際に考慮できる養子の数には一定の制限があり,かつ,養子を相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となる場合は,上記基礎控除額等の算定の基礎に含めることはできないとされているのです。
 仮に上記の縁組意思もなく専ら相続税負担回避のためだけに養子縁組を行っている場合には当該養子縁組自体が無効とされる可能性もあるでしょう。

3 養子縁組無効の判断の参考となる事例 
 名古屋家裁平成22年9月3日判決によると,養子縁組に否定的な発言を行っていたこと(当事者の言動),当時84歳であり認知証、糖尿病等と診断され,寝たきり,胃瘻からの経腸栄養,失語の症状を呈していたこと(被相続人の年齢や心身状態),被相続人の夫に対してしか縁組意思の確認をおこなっていないこと(被相続人に対する縁組意思の確認の程度),縁組届に実際に署名押印したのは被相続人の夫であったこと(縁組届出提出の経緯)などから被相続人は縁組意思を有していなかったとされています。
 もちろん最終的には個別的な判断が必要となりますが,これらの点を意識することが有益であると考えられます。 

遺言無効確認訴訟の争点とは?

(質問)
 以前,資産家女性が家政婦に全遺産を渡すとした遺言があったにも関わらず,実娘が遺産の大半を自分の口座に勝手に移したため,遺言無効確認訴訟となった相続問題がありましたよね。
 あの事件の争点は何だったのですか?

(回答)

1 事件の概要 
 この事件は,ある資産家女性の「遺産は全て家政婦に渡す」とした遺言があったにも関わらず,この遺言が有効なら権利がないはずの実娘が遺産の大半を自分の口座に移したため,家政婦女性と実娘がこの遺言は有効か無効なのかを争った事件です。 
 実娘側は,母の生前に家政婦女性がお金を着服していた,遺言は無効であると主張し,家政婦女性側は,着服はしておらず,遺言は有効であり,勝手に口座に移したお金を返還するよう主張しました。
 判決は家政婦女性の全面勝訴で,実娘は遺産の返還を求められました。
 報道によると,家政婦女性は50年近くこの資産家宅で住み込みの家政婦をしており,旦那さんが亡くなられてからは無給で続けられていたそうです。

2 遺言能力の有無 
 遺言能力とは,「遺言は法律行為であり,合理的な判断能力がなければなし得ない。この遺言を有効になし得る能力」をいいます。
 争点となったのは遺言能力の有無と,家政婦女性が着服していたかどうかという点です。
 双方の主張で,遺言作成時に資産家女性の合理的な判断能力があったかどうかが大きな争点となっていました。資産家女性の年齢は当時約90歳で判断能力が減退していた可能性はあります。
 しかし,裁判所は実娘が長年に渡り,資産家女性に金の無心を続けていたと事実認定し,資産家女性は「資産を奪われるのが怖くて外出できない」と第三者に話していたことも指摘し,家政婦女性に感謝して遺言を作成したとして,家政婦女性の主張を全面的に認めました。

3 着服の点は 
 次に,着服の点ですが,実娘側が長年にわたり資産家女性に無心を続け,多額の援助をしてきたことや,資産家女性の死後に家政婦女性が帰郷した際,着の身着のままで現金も5千円しか持っておらず,大金を着服した人物ならば不自然だったことから,裁判所は,「使途不明金はカネ遣いの荒い実娘側に渡るなどしたと考えられる。 
 女性による着服は認められず,推認すらできない」と判断しました。

4 遺留分のリスク 
 法定相続人には遺留分という権利がありますので,今後実娘2人から遺留分減殺請求訴訟が起こされることになるかもしれません。
 相続トラブルは年々増加しています。簡単なようで複雑な問題も多々存在します。
 少しでも疑問,不安なことがございましたら,まずは弁護士にご相談ください。

非嫡出子の相続分について

(質問)
 遺産相続が発生し,非嫡出子の存在が明らかになりました。
 非嫡出子の相続分はどれくらいなのでしょうか?

(回答)

1 嫡出子と非嫡出子の違い 
 「嫡出子」とは法律上の婚姻関係にある夫、妻の間で生まれた子どもをいいます。 
 具体的には次のとおり。
 ・婚姻中に妊娠をした子ども
 ・婚姻後201日目以後に生まれた子ども
 ・父親の死亡後、もしくは離婚後300日以内に生まれたこども
 ・未婚時に生まれて認知をされ、その後に父母が婚姻した子ども
 ・未婚時に生まれてから、父母が婚姻し、父親が認知をした子ども
 ・養子縁組の子ども

 以上の条件に当てはまる子どもを「嫡出子」といい、非嫡出子は、法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれたこどもであり、且つ上記の「嫡出子」の具体的な条件に当てはまらない子どもをいいます。

2 非嫡出子と嫡出子の相続分は同じ 
 平成25年12月5日に、民法の一部が改正する法律が成立し、それまで非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分を改正し、非嫡出嫡子も嫡出子で違いのあった法定相続分が同等になりました。
 同等になった理由は、同じ母親から生まれたにも関わらず、不公平が生じている事実に法の下の平等に反するのではないかという指摘が従前からなされており、平成25年9月4日の最高裁判所の判決において、今までの法律が「非嫡出子」に対して不公平であり、違憲であるという判断が下されたからです。

3 非嫡出子の相続分が改正後の相続分にならないケース 
 改正された新しい法において、最高裁判所の判決日以降に開始した相続に関して適用することを定めています。相続は被相続人の死亡によって開始されますので、平成25年9月5日以降に亡くなった場合が適用されます。
 したがって、平成13年7月1日(今回の最高裁判所の決定の事案における相続開始日)~平成25年9月4日(決定日)の期間中に相続開始をした場合であれば、「非嫡出子」であっても「嫡出子」と同じ法定相続の割合になります。
 適用されないケースで考えますと、この期間中に遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった際は法律関係には影響ありません。
 つまり、遺産分割協議で審判が確定している場合や、協議が成立している場合は「非嫡出子」の相続の割合は「嫡出子」の2分の1のままになります。

4 非嫡出子がいる場合の相続における争いを回避するには
 非嫡出子(婚外子)がいるというだけ、普段から顔を合わせているような相続人にとっては、非嫡出子にも相続分を分け与えることは苦痛かもしれませんが、相続人であれば非嫡出子にも遺産をもらう権利があります。
 こういったトラブルを避けるために、何ができるのかを確認しておく必要があります。

5 認知をしておく
 例えば、男性が結婚後に配偶者以外の女性との間で子どもが生まれた場合などです。不倫や浮気でできてしまった子どもでも、父親が認知をすれば「非嫡出子」として相続人となり得ます。
 そのために、いざ相続する際に遺産分割協議(相続人全員で話し合いをする)を行うのが難しくなり、揉める可能性が高いことが容易に想像できます。

6 遺言書を作成しておく
 話し合いだけで解決をすれば良いのですが、相続手続きを進めている中、被相続人が亡くなられた後で「非嫡出子」の存在が発覚することもあります。急に出てきた法定相続人に、遺産を渡したくない人もいるのではないでしょうか。
 その争いを避けるためには、被相続人が亡くなる前に「遺言書」を書き残してもらうのが一つの方法です。遺産の分割の方法を指定していれば、余計な話し合いをする必要はなくなります。
 被相続人が生きている間に話し合いをして、法定相続人が誰であり、遺産に、どんなものが、どれだけ残っているのか確認をしておくことが重要です。
 誰が法定相続人になるか確認をしておくことで、「非嫡出子」の急な出現による混乱を回避できます。
 例え話し合いをしていくうちに、「非嫡出子」がいることが発覚しても、被相続人が生きていれば建設的な協議が可能です。

賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除

(質問)
 当社は、賃貸マンション業を行っているところ、賃料の支払いが相当滞っている入居者に対し、賃貸借契約を解除する旨の配達証明付内容証明郵便を送ったのですが、賃借人の受領拒絶により返送されてきました。
 この場合、賃貸借契約は解除されているのでしょうか。

(回答)

1 相手方に届かないとき 
 ご質問のケースのように、相手方の受領拒絶等により配達証明付内容証明郵便が届かずに返送されてくることがあります。
 配達証明付内容証明郵便が相手方に届かずに返送されてくる場合としては、①相手方が受領を拒絶した場合のほか、②留守であった場合、③居所不明の場合があります。
 では、これらの場合、法律的に意思表示も相手方に到達していないかというと、そうではありません。
 実は、配達証明付内容証明郵便が①~③のどの理由で返送されてきたかによって異なるのです。

2 受領拒絶の場合 
 具体的には、②の留守の場合や③の居所不明の場合は、法律的にも到達したことになりませんが、①の受領拒絶の場合は、法律的には到達したものと扱われるのです。
 これは、「到達」とは、相手方が現実に通知した中身を見たときではなく、常識的にみて、相手方がその通知を知り得る状態になることをいうとされているからです。受取拒絶は、その通知を知ろうとすれば知ることができる状態になっているため、到達と扱われるのです。
 したがって、貴社の賃借人に対する賃貸借契約の解除の意思表示は、到達したものとされますので、賃貸借契約の解除が認められることになります。
 なお、この度の民法改正では、正当な理由なく、意思表示の通知が到達することを妨害したときには、その意思表示は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなすとする規定が新設されています。

3 居所不明と留守の場合 
 ③の居所不明の場合については、貴社は、公示送達(一定期間裁判所の掲示板に掲示することにより送達の効果を生じさせる方法)を用いることによって、解除の意思表示や催告を相手方に到達させることができます。
 また、②の留守の場合については、公示送達は使えませんので、留守でない可能性が高い休日などに届くようにするなど工夫が必要です。
 なお、契約書において、住所変更の届出を怠ったことにより通知等が相手方に届かない場合に、「最後に届け出た住所に通知すれば、意思表示が到達したものにみなす」旨を規定しておくと、相手方の居所不明や留守のリスクに対応できることになります。

4 回答 
 賃借人の受領拒絶の場合は解除の通知は送達したことになりますが、賃借人が留守の場合には、居所不明の場合、送達したことにならないので、公示送達などの方法を検討しなくてはなりません。
 そこで、居所不明の場合に備えて、最後に届け出た住所に通知すれば意思表示が到達したものとみなす旨を、契約書で合意をしておくことがリスク回避の一つの手です。

クーリング・オフ制度について

(質問)
 高級羽毛布団と言われてあまり深く考えず契約してしまい,高額な支払を求められています。
 返品したいのですができるのでしょうか?

(回答)

1 消費者被害の救済方法 
 マルチ被害に遭った等,消費者被害と呼ばれる事件は古今東西を問わず発生し続けています。
 まず,錯誤(民法95条),詐欺・強迫(民法96条),消費者契約法違反などを理由とした契約の取消や無効を主張することが考えられます。これらの主張が認められれば,商品代金等の支払を拒むことができますし,仮に支払済みであれば代金の返還を請求することが可能です。
 もっとも,裁判上において上記の主張が認められるためには証拠を集め,それぞれの要件を満たす必要がありますし,そもそも主張自体,容易に認められるものでもありません。そこで,消費者保護の観点から,特別法により被害の救済が図られています。

2 クーリング・オフ 
 その中でも代表的な規定が特定商取引に関する法律,いわゆる特商法のクーリング・オフ制度です。
 この制度は,基本的には,一定の期間内(法定の書面が交付された日から8日間)に相手方に書面で通知することによって,一度締結した契約を消費者の側から一方的に解除するものであり,消費者保護のために非常に強力な効果を有するものです。
 なお,この8日間という期間制限ですが,法律で定められた事項が書かれた契約書面(法定書面という)を受け取った日を1日目として数えます(連鎖販売取引は,法定書面を受け取った日,もしくは商品を受け取った日の,いずれか遅いほうを1日目とします)。
 例えば,「訪問販売でガスの契約を結んだが,契約書はもらっていない。契約から10日が経っているが,クーリング・オフはできるか?」という事例の場合,本来は訪問販売のクーリング・オフ期間は8日間ですが,法定書面を受け取らない限りいつでもクーリング・オフが可能です。
 「解約はできない」などと業者に脅されたり,「この取引にはクーリング・オフ制度はない」「商品を使用しているのでクーリング・オフはできない」などと虚偽の説明をされて,消費者がクーリング・オフを妨害された場合には,業者から改めてクーリング・オフができる旨を記載した書面を渡されてから所定の期間を超えるまでは,クーリング・オフができます。

3 押し買いとは 
 クーリング・オフが使われる典型例としては,訪問販売やマルチ商法があげられますが,最近新たな類型が追加されました。それは「押し買い」と呼ばれる行為(法律上は「訪問購入」と規定されます。)です。
 「押し買い」とは,突然自宅に押しかけ,貴金属等を売却するように執拗に勧誘し,相場よりかなり低い値段で買い取ってしまう行為です。
 このような行為は2008年頃から相談件数が増加しており,2011年度には4000件をこえる相談が寄せられていました。そこで,法改正により平成25年2月21日から規制の対象となったのです。
 これにより,上記のような「押し買い」行為についても契約から8日以内にクーリング・オフの通知を発送すれば契約を解除することが可能となりました。もっとも,自動車や家具,書籍等は適用除外となりますし,消費者から売買契約を持ちかけた上で訪問し売却した場合はクーリング・オフの対象外となりますので,注意が必要でしょう。

4 法改正に注意 
 このように消費者被害の分野は被害の実態に合わせて法改正が頻繁に行われる分野ですので,消費者被害に遭ったと疑われる場合には弁護士にご相談されることをお勧めします。

無期転換申込権が認められる労働者とは?

(質問)
 当社は,正社員だけでなく,アルバイトの方にも働きにきてもらっております。
 この度,労働契約法が改正され,アルバイトの方などの期間の定めのある有期労働契約者が期間の定めのない無期労働契約への転換を求めることができるようになったと聞きました。
 具体的にはどのような方が無期労働契約への転換を求めることができるのでしょうか?

(回答)

1 労働契約法改正の目的
 1年契約,6か月契約など有期労働契約で働く労働者は,全国で1200万人と推計されています。
 そして,有期労働契約で働く人の約3割が,通算5年を超えて有期労働契約を繰り返し更新している実態にあり、その下で生じる雇用止めの不安の解消が課題とされていました。
 そこで,この課題に対処し,労働者が安心して働き続けることができる社会を実現するという目的で労働契約法が改正され(平成24年8月10日公布),労働者に無期労働契約への転換を求める権利(無期転換申込権)が認められました。

2 無期転換申込権が認められる労働者とは? 
 無期転換申込権が認められる労働者とは,同一の使用者との間で,有期労働契約が通算で5年を超えて反復更新された労働者です。
 この場合,労働者は,その5年を超える契約期間の初日から末日までの間に,無期労働契約への転換の申込みをすることができます(労働契約法18条1項)。
 なお,通算契約期間のカウントは,平成25年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象となります。
 例えば,契約期間が3年の場合,平成25年4月1日から有期労働契約が開始し,一回契約を更新すると,更新した有期労働契約の期間は,平成28年4月1日から平成31年3月31日までとなります。
 この更新した有期労働契約の期間は,更新前の有期労働契約と合わせると契約期間が通算して6年となり,5年を超えます。
 したがって,労働者は,更新した有期労働契約期間中に(平成28年4月1日から平成31年3月31日まで),無期労働契約への変更の申込をすることができます。
 この申込みをすると,平成31年4月1日から,無期労働契約に転換します。
 また,平成24年4月1日から1年契約を反復更新する場合は,次のようになります。  
 すなわち,通算期間のカウントは,成25年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象となりますので,1回契約を更新した後の平成25年4月1日から始まる契約から5年のカウントが始まります。
 したがって,6回契約を更新して初めて通算契約期間が5年を超えますので,6回契約を更新して平成30年4月1日から始まる契約期間中に,労働者は,無期労働契約への変更の申込みをすることができます。

3 空白期間があった場合には 
 以上,無期転換申込権について基礎を説明しましたが,その他にも,通算契約期間の計算において空白期間があった場合に,どの程度の空白期間であれば連続したものと扱われるのか,また事前に無期転換申込権を放棄させることができるのかなどの法的問題もありますので,無期労働契約の転換については一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

自転車事故の加害者が未成年の場合について

(質問)
 先日,自転車で信号待ちをしていたら,交差点近くから猛スピードで出てきた大学生くらいの少年の自転車に衝突されました。幸いケガはありませんでしたが,自転車のフレームが曲がり,修理が必要となりました。
 衝突してきた人が未成年であったとしても損害賠償責任を負うのでしょうか?

(回答)

1 責任能力とは 
 まず,民法712条では,「未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負わない」と定めています。これは責任能力について定めたもので,判例では「加害行為の法律上の責任を弁識するに足りる能力」すなわち事理弁識能力の有無が損害賠償責任の境界となっています。
 この事理弁識能力の基準ですが,判例では,責任能力の有無の判断要素として,年齢・環境・生育度・行為の種類等を勘案して判断しているようで,平均すると12歳前後をひとつの基準としていると考えられます。

2 子の行為に対する親の責任とは 
 そして,未成年者に責任能力がない場合,親権者が被害者に対して,未成年者の加えた損害を賠償する責任を負うことになります(民法714条1項)。このように未成年者に責任能力がある場合,親権者は民法714条1項に基づく責任は負いません。
 しかしながら,判例では,親権者の監督義務違反と子の不法行為により生じた損害との間に相当因果関係が認められる場合は,民法第709条に基づき,親権者も損害賠償責任を負うとしています。
 民法の構造は難しいですが,簡単に言うと,(①)未成年者が責任を負わない場合は親権者が責任を負う。(②)未成年者が責任を負う場合は親権者は原則責任を負わない。ただし,監督義務違反と損害に因果関係があれば,親権者も責任を負う,ということです。

3 具体的事案 
 事故当時11歳だった少年Yが帰宅途中,住宅街の坂道を自転車で下っていた際,女性Xに気づかず正面衝突しました。Xは突き飛ばされる形で転倒し,頭を強打しました。Xは一命を取り留めたものの意識は戻らず,4年以上寝たきりの状態が続いているという事故がありました。
 この事故で,裁判所は少年が時速20~30キロで走行し,少年の前方不注視が事故の原因と認定しています。そして,事故時はヘルメット未着用だったことなどを挙げ,指導や注意が功を奏しておらず,監督義務を果たしていないとして,母親に計約9500万円の賠償を命じています。
 大まかな内訳は, (1)将来の介護費が約3940万円,(2)事故で得ることのできなかった逸失利益が約2190万円,(3)けがの後遺症に対する慰謝料が2800万円となっています。これは,被害を受けた方からすれば,失ったものを填補するものとして当然の金額といえます。
 前述したように,親権者が責任を負うのは,(①)未成年者に責任能力がない場合と,(②)責任能力があっても監督義務を果たしていない場合の2パターンがあります。上記の事案は未成年者に責任能力がなかった場合のものです。
 責任能力のある未成年者の自転車事故で,親権者に監督義務違反が認められた裁判例はまだないようですが,いじめの事案で14歳の子の親に監督義務違反を認めた例はあるので,今後自転車事故でも認容される可能性はあるといえます。

4 自転車事故の高額賠償リスク 
 このように,自転車事故は高額な損害賠償が認められる可能性があります。
 自転車保険に加入するとともに,事故が発生した場合には,被害者・加害者いずれの立場になったとしても専門家に一度相談することをお勧めします。

設計図面と建築物の著作物性について

(質問)
 当社は、住宅の建築設計、施工を主な事業としていますが、あるお客様が設計図面を持ちこまれ、そのとおりに住宅を建築してほしいと依頼されました。
よく話を聞いてみると、別の業者に依頼して設計してもらったが、建築費用の面で折り合わず、当社に持ち込んだということのようです。
 当社でも建築事態は可能ですが、著作権の関係で問題はありませんか?

(回答)

1 設計図面と建築物の著作物性 
 本件では、他人が作成した設計図面を複写したり、それをもとに建築物を建築したりすることが問題になると考えられます。
著作権法上、設計図面は「図面の著作物」として、建築物自体は「建築物の著作物」として保護されます。

2 著作権者としての権利 
 「保護される」ということは、次のことを意味します。
つまり、著作物を創作した者は、著作者となり、著作権を取得します。
そして、この著作権の一つに、複製権があります。
 複製権は、著作権者が占有しているため、他人が無断で複製することはできません。
 著作権者は、著作権を侵害された場合、侵害の停止や損害賠償の請求をすることができ、また、著作権を侵害されるおそれがある場合には、差止請求をすることもできるのです。
 では、本件で、これらの請求が認められる可能性があるのでしょうか。

3 設計図面の複写 
 複製とは、「印刷、複写等の方法により有形的に再製すること」をいいます。
 したがって、他人が作成した設計図面を複写すれば、「図形の著作物」の複製となり、損害賠償請求の対象になることは免れないでしょう。
 賠償額は、設計費用相当額が一つの目安となりそうです。

4 建築物の完成 
 また、著作権法上、他人が作成した設計図面に従って建築物を完成させることも、建築の著作物の複製になると定められています。これに該当すれば、損害賠償請求や、工事の差止め請求が認められる可能性があります。
 しかし、建築物がすべて「建築の著作物」となるわけではありません。建築美術といい得る建築物でない限り、「建築の著作物」となるわけではありません。
 建築美術といえるかは、機能性・実用性を追求した建築物ではないかどうか(実用本位ではない建築物か)という観点から検討されます。
 本件の建築物は、建築業者が一般の住宅として設計したものですから、実用本位の建築物ではないなどということは、あまり考えられません。
 したがって、本件では、別業者が作成した設計図面に従って住宅を完成させても、著作権法違反を根拠として損害賠償請求や工事の差止請求が認められる可能性は、ほとんどないといえます。