投稿者「kobayashi」のアーカイブ

卒業論文の引用に注意ー著作権法とはー

(質問)
 卒業論文を書くに当たって、インターネットや他人の論文を全く引用しないことは無理だと思うのですが、どこまで引用していいのでしょうか?

(回答)

1 著作権法に規定がある 
 論文等の引用は,著作権法に規定があります。この著作権法の要件を満たせば,論文等の引用をすることは何ら問題となりません。
 引用の要件は著作権法32条1項に定められています(「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」)。
 これを要件ごとに分かりやすく分けると,①公表された著作物であること,②引用であること,③公正な慣行に合致すること,④引用の目的上正当な範囲内で行われていることの4つです。
 この4つの要件を順番に検討していけばいいのですが,その前に対象物が「著作物」に該当するかについても確認しないといけません。
 そもそも,著作物に該当しなければ,それを引用しても全く問題にならないからです。

2 著作権に該当するかの判断 
 これは著作権法2条1項で定義がありまして,著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定されています。
 この定義を聞いても分かりづらいと思いますから,部分ごとに分けたうえで,具体例を挙げて説明しましょう。
 まず「思想又は感情」という部分ですが,これは人間の考えや気持ちといった広い範囲を含むものですが,反対に単なる事実の伝達や,時事の報道はこれに該当しません。
 例えば,レストランのメニューで料理の代金という事実を伝達することや,5月の平均気温が何度であったとの時事の報道等は,「思想又は感情」に該当しないので著作物には当たりません。
 次に,「創作性」という要件があります。創作性とは,作成者の独創性までは要求されていませんが,その作成者の何らかの個性が表現されたものであることが必要とされています。自分の言葉で書いた論文や,オリジナルの構図の写真等は,作成者の個性が表現されているので創作性があります。
 そして,このように作成された物が,「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」であり,かつ外部に「表現」されることによって,著作物としての保護を受けることになります。

3 引用の4つの要件 
 さきほどまでは著作物の説明をしましたが,この著作物が公表されたものであることが1つ目の要件です。
 公表はその名のとおり,世間に発表することです。  
 引用の要件の2つ目は,引用部分が分かるようにするということです。このためには,引用部分にかぎかっこをつけたり,ポイントを変えたりしたうえで,注で引用した著作物を明示する方法等があります。
 そして③の公正な慣行に合致することと,④の引用の目的上正当な範囲内で行われていることですが,これは抽象的な文言なので具体例を挙げにくいところですが,引用にあたっては,その文言通り,引用の「慣行」を踏まえるとともに,一般常識に照らして「正当」と思われる範囲内で利用すれば要件に合致するものと思います。
 最後の2つの要件は引用の慣行や,一般常識が判断のベースになります。
 自分の判断に自信が持てないときは,専門の弁護士に相談することをお勧めします。

インターネット上に個人情報が流出した場合の法的対応

(質問)
 インターネット掲示板に自分の個人情報や名誉を毀損する書き込みがなされた場合の対応として,サイトの管理者や経由プロバイダに対して書き込みの削除や発信者情報の開示の請求の手続きについて教えてください。

(回答)

1 書き込みの削除の手続きについて 
 書き込みの削除請求を受けたプロバイダは,①当該情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があると判断したとき,②当該侵害情報の発信者に対し削除に同意するかを照会し,7日以内に削除に同意しない旨の申出がなかったときに書き込みの削除をすることになります。
 もし任意での削除に答えてもらえない場合には,裁判によることになります。
 これについては本案訴訟によることも考えられますが,迅速な被害救済の方法としては,侵害情報の削除の仮処分を申し立てることになります。

2 IPアドレスとタイムスタンプの開示請求 
 掲示板への書き込みの場合は,まず,管理者からIPアドレスとタイムスタンプ(送信時刻)の開示を求めることになります。
 これについても,任意での開示に応じてもらえない場合の方法として,発信者情報開示の仮処分の申立てが有効です。

3 発信者の氏名等の開示請求 
 次に,開示を受けたIPアドレス,タイムスタンプを基に,プロバイダに対して発信者の氏名・住所等の開示を請求することになります。
 開示請求を受けたプロバイダは,発信者に対して,氏名等の情報を開示することについて意見を聴くことになりますが,通常,任意での情報開示には応じてもらえないので,裁判によるしかありません。
 また,発信者の氏名等の情報については開示の仮処分は認められていませんので,本案訴訟が必要となります。

4 ログ保存(削除禁止)の仮処分 
 しかしながら,プロバイダにはアクセスログ(通信記録)の保存期間が法律で定められておらず,通常3~6カ月しかログは保存されていません。
 そうすると,本案訴訟で発信者情報開示の勝訴判決を得ても,ログが消去されていれば事実上開示は不可能となってしまいます。
 そこで,本案訴訟の提起の前に,ログ保存(削除禁止)の仮処分を申し立てておくことも必要になります。

5 レピュテーションリスク増大の可能性 
 インターネット掲示板への誹謗中傷の書き込みを題材としましたが,インターネット上に公開された情報の削除や発信者の特定は,個人に対する名誉毀損やプライバシー侵害だけでなく,会社や事業者に関する信用毀損のケースでも同様に問題になります。
今後も,この種の相談は増加していくと考えられます。

土地建物の賃貸借契約を締結する際の注意事項とは

(質問)
 土地建物の賃貸借契約を締結する際の注意事項等を教えてください。

(回答)

1 借地借家法の適用のある賃貸借契約 
 土地建物の賃貸借契約を締結する際、借地借家法の適用があるか否かは、契約期間や法定更新の有無、解約に「正当な理由」が必要となるか否か等、貸主借主双方にとって重大な影響を及ぼすことから、慎重に判断する必要があります。 
 それでは、借地借家法の適用のある賃貸借契約とそれ以外の賃貸借契約の区別はどのようにされるのでしょうか。
 この区別については建物の場合と土地の場合で異なり、建物の場合は「建物賃貸借」といえるか、土地の場合は「建物所有目的」の土地賃貸借といえるかがポイントとなります(借地借家法第1条)。

2 建物の場合 
 「建物賃貸借」では、区分所有の対象となるマンション等のように建物の一部であっても独立性が明確である場合は問題がありません。
 しかし、木造家屋一棟の数室を間借りする場合や建物の一画を賃借して営業活動を行うような場合、それが「建物賃貸借」といえるか否かは一義的に明確に判断できるものではありません。
 一般的には「障壁その他によって他の部分と区画され、独占的排他的支配が可能な構造・規模を有する」(最高裁昭和46年6月2日判決)場合は「建物」にあたるとされていますが、具体的には契約締結の趣旨や出店形態、賃貸人の管理監督の有無・程度等の事情を総合的に考慮した上で構造上利用上の独立性の有無を判断することになるでしょう。
 裁判例では、デパートでの出店契約について、売り場として区割りされているにすぎないこと、デパート側指示監督で売場の変更等は余儀なくされること等から店舗を支配的に使用してるとは言えないとして借地借家法の適用はないと判断しています。

3 土地の場合 
 他方、土地の賃貸借の場合は、「建物所有目的」といえるか否かがポイントとなります。
 なぜ「建物所有目的」に限られるのかというと、建物所有を目的として土地を賃借した場合、投下資本の回収には長時間を要することから、建物所有目的を有している賃借人は特に保護の必要性が高いと考えられているからです。
 そして、建物所有目的か否かは、主に当事者がどのような目的を有して契約を締結していたのかが基準となりますが、土地に工作物が存在していれば、工作物の物理的形状も当事者の意思を推認する事情として用いられることになります。
 裁判例では、バッティング練習場として使用することを目的としてなされた土地賃貸借について、仮設建物として管理人事務所を建築していたとしても、それだけでは「建物所有目的」とは言えないと判断したものがあります。

4 賃貸借契約書といえども慎重に 
 このように、賃貸借契約締結の際には「建物賃貸借」及び「建物所有目的」の有無について十分に現状を確認の上、検討して、その上で賃貸借契約書の作成を行うとともに、当事者にその効果を説明しておく必要があることに注意する必要があります。

自己所有の土地に放置された他人の自動車を勝手に撤去してもいいの?

(質問)
 私は、自宅の近くに土地を所有しており、これまで何年も空き地にしていましたが、この度、息子夫婦の家を建てることになりました。
 ところが、その空き地に、1年ほど前から誰のものか分からない自動車が勝手に停められています。
 自動車を撤去したいのですが、私はどうすればよいのでしょうか?

(回答)

1 自力救済の禁止 
 たとえ自己所有の土地上に放置された他人の自動車であっても、原則として、これを勝手に移動させたり、廃棄したりすることはできません。
 禁止された自力救済にあたりますし、後に所有者から損害賠償請求などをされるリスクもあります。
 自動車の持ち主に任意に撤去してもらえない場合は、訴訟をして判決を得た上で、強制執行の手続をとる必要があります。

2 どのような請求をするのか 
 相談のような事例で訴訟を提起する場合、どのような請求になるでしょうか。
 これについては、基本的には、「土地所有権に基づく土地の明渡請求」ということになります。すなわち、自動車の放置(=土地の占有)によって、土地所有権が侵害されているので、占有を解いて土地を明け渡せ、という請求です。

3 明渡請求を誰にするか 
 さて、所有権に基づく明渡請求をするにあたっては、不法占有をしている人、すなわち自動車の所有者を調べる必要があります。
 調査の結果、自動車の所有者が、信販会社等になっている場合があります。ローンで購入された自動車で、債務が完済されていないような場合です。
 この場合、明渡しの請求は、誰にすればよいでしょうか。
 この点について、平成21年に最高判例があります。判決は、「留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨げているとしても、特段の事情がない限り当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはできない」として、残債務全額の弁済期が経過したときは、留保所有権者が責任を負うとしています。
 これは、信販会社等は、債務の弁済期が経過するまでは、所有権があるといっても自動車を使用する権原はないものの、弁済期が経過すれば留保所有権に基づいて自動車を処分等することができるためです。
 したがって、ローン未完済の自動車については、弁済期経過前であれば自動車の使用者に明渡しを請求することになりますが、弁済期経過後であれば留保所有権者である信販会社等にも請求することができます。

4 損害賠償請求交渉 
 なお、弁済期が経過した後も、信販会社等が不法占有の事実を知らなければ不法行為責任を負いませんから、信販会社等に通知して不法占有の事実を告知する必要があります。

住宅の壁にひびが入った場合ー品確法の対象になるかー

(質問)
 「住宅」の壁にひびが入り一部が剝がれてきた場合、買主としてどのような手段で訴えることができるでしょうか。

(回答)

1 注文住宅と建売住宅 
 私達が購入する一戸建てには「注文住宅」と「建売住宅」があります。「注文住宅」は建物を建築士に設計してもらい、施工会社と建築工事請負契約を結んで建ててもらうことをいい、「建売住宅」は住宅の売主と売買契約を結んで土地付き建物を買うことをいいます。
 「建売住宅」は、前回まで説明した「瑕疵担保責任(民法570条、566条、商法526条)」が適用されます。
 これに対し、「注文住宅」は請負契約にあたるので、民法634条以下が適用されます。

2 請負契約の瑕疵担保責任について 
 請負契約の瑕疵担保責任の特徴は、以下の3点です。
 ①請負契約の注文者は請負人に対し、瑕疵の「補修」を請求することができます(民法634条)。
 ②売買契約では、瑕疵の事実を知った時から1年以内に請求しなければならないですが、請負契約では原則として目的物の「引渡し」から1年です(民法637条)。例外として、建物や土地の工作物は5年です(民法638条参照)。
 ③売買契約の瑕疵は「隠れた瑕疵」が対象ですが、仕事を完成させる義務を負う請負契約では「隠れた瑕疵に」限定されません。

3 「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の瑕疵担保責任について 
 同じ住宅を購入したにも関わらず、建物か注文かで瑕疵の責任内容が異なるのは、購入者にとっては納得がいかないものです。
 そこで、住宅購入者等の利益の保護等を目的に制定された法律が「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(以下「品確法」といいます)です。これは、瑕疵担保責任について、「新築住宅」を対象とし、瑕疵の対象となる部分を、「構造耐力上重要な部分」「雨水の浸入を防止する部分」として政令で定めるものに限定しています。
 しかし、請求できる期間を目的物の引き渡しから10年とし、当事者の合意による特約で排除することはできないとする強行規定であり、保護が図られています(品確法94条1項2項、95条1項2項)。

4 品確法の対象 
 品確法が保障する「構造耐力上主要な部分」「雨水の浸入を防止する部分」以外の「瑕疵」については、民法が適用されます。
 例えば、住宅の内装にひびが入った場合は、内装は一般的に「構造耐力上主要な部分」「雨水の浸入を防止する部分」に該当せず、品確法の瑕疵担保責任の対象外となります。
 もっとも、住宅の内装のひびが「構造耐力上主要な部分」を起因とする場合には品確法の対象となりうる場合もありますので、判断に困るような場合は、弁護士にご相談ください。

ペットに関する飼い主の責任とは

(質問)
 私は犬を飼っています。散歩の途中に犬が一声吠えてしまい,通りすがりの方が驚きのあまり転倒して怪我をしてしまいました。
 この場合,飼い主である私に責任があるのでしょうか?

(回答)

1 ペットに関する飼い主の責任とは 
 飼い主はペットについて重い危険責任を負っていて,法律上も,相当の注意を払ったことを立証しなければ,責任を免れません。
 民法第718条第1項では次のとおり規定されています。
 「動物の占有者は、その動物が他人に与えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りではない。」
 この相当の注意というのは,動物の種類や性質に従って,通常払うべき程度の注意義務のことです。
 なので,①犬の種類,雄雌,年齢,②犬の性質,性癖,病気,③犬の加害前歴,④飼い主の管理の熟練度,⑤加害時の措置態度,⑥被害者の警戒心の有無,被害誘発の有無などを考慮に入れて,相当の注意を払っていたことを証明しない限り,責任を免れません。

2 今回の相談のケースでは 
 今回の相談のケースでは,犬に首輪をさせ,綱もしっかり握っていました。
 そして,犬は被害者を噛んだわけでもなく,単に一声吠えただけであっても,相当の注意を払ったことにはならないのでしょうか。
 裁判例ですが,同様のケースについて,「犬の飼い主には,犬がみだりに吠えないように調教すべき注意義務」があり,「特に,犬を散歩に連れ出す場合は,飼い主は,公道を歩行し,あるいは佇立している人に対し,犬がみだりに吠えることがないように,飼い犬を調教すべき義務を負っている。」として,飼い主の責任を認めています。
 被害者側に何らかの落ち度があった場合,例えば,犬が吠えるのを誘発するような行為をとったであるとか,履きにくいサンダルを履いていたとか,自転車に乗っていての転倒であれば,前籠にたくさん荷物を入れていてハンドル操作が難しい状況であった場合には,過失相殺され,賠償額が減額されるのが通常です。

裁判員裁判とは

(質問)
 裁判員裁判について教えてください。

(回答)

1 裁判員裁判とは 
 裁判員制度は、それまで検察官や弁護士、裁判官という法律の専門家が中心となって行ってきた裁判について、判の進め方や内容に、国民の視点、感覚を取り入れることによって、裁判全体に対する国民の理解が深め、国民にとって司法をより身近なものとして信頼を高めることを目的とし、2009年5月から実施されました。
 裁判員の選出方法は、衆議院議員の選挙権を有する方の中からくじで選任されます。70歳以上の方は裁判員となることについて辞退の申立てをすることができますが、辞退の申立てをされない限り、年齢の上限はありません。
 また、裁判員裁判の対象となる事件は一定の重大な犯罪です。
 例えば、殺人罪、傷害致死、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪、危険運転致死罪、覚せい剤取締法違反、保護責任者遺棄致死などといったものです。
 地方裁判所で行われる刑事事件のみが対象になり、刑事裁判の控訴審・上告審や民事事件、少年審判等は裁判員裁判の対象にはなりません。
 対象となる事件の件数は、地方裁判所が扱う刑事裁判のうち、2.5%~3.5%で件数では年間2,500件~4000件ほどです。
 平成25年の統計を前提によると、実際に裁判員又は補充裁判員として刑事裁判に参加する確率は、約9,500人に1人程度(0.01%)です。

2 求刑よりも重い判決 
 以前,傷害致死事件の裁判員裁判で,検察官の求刑より1.5倍の懲役刑を言い渡した事件について,最高裁は第1審と第2審の判決を破棄した事件があります。
 検察官の求刑は懲役10年だったのに対し,裁判員裁判では懲役15年の判決となり,第2審でもその判断が維持されたものが,最高裁で覆されたという事件です。  
 最高裁はまず,裁判員制度について,刑事裁判に国民の視点を入れるために導入されたもので,したがって,量刑に関しても,裁判員裁判導入前の先例の集積結果に相応の変容を与えることがあり得ることは当然に想定されていたと述べています。
 もっとも,その後で,裁判員裁判といえども,他の裁判の結果との公平性が保持された適正なものでなければならず,評議に当たっては,これまでのおおまかな量刑の傾向を裁判体の共通認識とした上で,これを出発点として当該事案にふさわしい評議を深めていくことが求められているとも述べています。 
 要するに,裁判員裁判で量刑に影響があることは当然だけれども,これまでの量刑の傾向を踏まえて,個々の事案に応じた評議をすることを求めているということです。
 最高裁は,このような枠組みを示したうえで,これまでの傾向を変容させる意図を持って量刑を行うことも,裁判員裁判の役割として直ちに否定されるものではないが,そうした量刑判断が公平性の観点からも是認できるものであるためには,従来の量刑の傾向を前提とすべきではない事情の存在について,裁判体の判断が具体的,説得的に判示されるべきと述べています。
 つまり,最高裁は,従来の量刑以上の判断を否定しているのではなく,きちんと具体的,説得的に説明されればよいと判断しています。
 ところが,この裁判の第1審判決では,公益の代表者である検察官がこれまでの量刑の傾向から懲役10年という求刑をし,それを大幅に超える懲役15年という量刑判断をしたことについて,具体的,説得的な根拠が示されているとはいい難いとして,最高裁が破棄自判をしたというものです。

3 量刑相場は裁判官を拘束するか 
 この最高裁判決に対しては,私は懐疑的です。
 そもそも憲法76条3項では,裁判官は良心に従い独立して職権を行い,憲法と法律にのみ拘束されると規定されています。
 そして量刑相場は「懲役何年以下」というように,ある程度幅のある規定がなされている刑罰法規の中で,具体的な刑を決める参考となるものに過ぎません。
 すなわち,憲法上,量刑相場は裁判官を拘束するものとはなっていないのです。
 この最高裁判決は,従来の量刑の傾向を前提とすべきではない事情を具体的,説得的に説明しなさいと言っているのですが,従来の量刑の傾向を重視しすぎているように思います。
 裁判員制度は国民の声を反映させるために導入したものであり,過去の量刑相場に固執していては裁判員制度が無意味なものとなってしまいます。
 また,裁判官も先ほど述べたように過去の量刑相場に拘束される必要はないので,裁判員の意見を広く取り入れればよいと思います。
 そして,刑事裁判において,この世で全く同じ事実関係であるということはありえないので,個別の事情のもとに,柔軟な裁判員の意見を踏まえて,量刑を決めるべきでしょう。
 裁判員裁判もまだ過渡期にあると思います。これまでの量刑の傾向はあくまでも「過去」のもので,世論が厳罰化に動いているのであれば,裁判所はその声をしっかり聴く必要があります。
 この度の最高裁による判断も,「将来」において十分に検討し,変更の必要があれば見直すべきときが来るかもしれません。

隣人トラブルに要注意ー隣地の使用権とはー

(質問)
 先日,風の強い日に瓦が飛ばされて,私の隣の家の外壁が一部壊れてしまいました。
 そこで,外壁の修理工事をしようと思ったのですが,足場を隣の家の敷地に組まないと工事ができないと大工さんに言われ,隣の家の方に敷地の使用をお願いしたら断られてしまいました。
 このような場合どうしたらいいのでしょうか?

(回答)

1 隣地の使用権 
 最近,住人間の人間関係が希薄になってきているせいか,近隣所とのトラブルに関する相談が増えています。
 まず,隣の家の敷地を使用することに関して,民法第209条で次のとおり規定があります。
 「第209条
 1 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使 用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
 2 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。」
 つまり,今回の質問のように隣人が承諾していないと勝手に隣人の敷地に入って工事することはできないのです。

2 承諾に代わる裁判 
 ではどうしたらいいのかと申しますと,訴訟によって承諾に変わる裁判を求めることになります。
 通常,裁判で相手方に求めるものと言えば,お金であったり物であったりするのですが,承諾を求めることもできます。
 そして,今回の場合,訴える相手は,弦に隣の家の敷地を使っている土地の所有者や借地人になります。
 また,緊急に工事をしなければならない場合には,仮処分命令を得て使用することになります。

3 隣人にお金を支払う義務はあるか 
 前述の民法第209条の2のとおり,隣人が損害を受けたときはその償金を請求することができます。
 この償金には,隣人の被った損害を補償するという性格と,工事をスムーズに進めることができた利益を補還するという性格があります。
 例えば工事に屋根を使わせてもらった場合,屋根を使わせてもらったことで工事をすることができ,利益を得た以上,隣人から請求されればいくらかは支払わないといけないでしょう。

4 隣人トラブルは要注意 
 前述のとおり,相手が拒否した場合は,裁判を起こして,必要な範囲などの承諾(判決)をしてもらえます。
 しかし,仮に調停や判決で立ち入りが許されても,感情的なしこりがついて回り,隣人との関係がますます悪化してしまうリスクもあります。
 いくら民法上認められた権利とはいえ,出来れば自分の敷地内で工事が出来たり,いざというときのための良好な人間関係の形成が必要だと思います。
 また,法律を全く知らない工事人によっては,断りも無しに,平気で他人の家の屋根に上がって作業し始める人がいますが,これもトラブルの元ですので,注意してください。

店舗内での事故

(質問)
 当社の店舗内に気付きにくい段差があり、これまでもお客様の何名かが転倒しています。
 もしも転倒等によりお客様に大きな負傷が生じた場合、当社に損害賠償義務は生じるのでしょうか。
 また、どのような対策をしたら良いのでしょうか。

(回答)

1 工作物責任
 工作物責任とは、建物の崩壊など工作物に起因する事故につき、工作物の設置または保存に瑕疵がある場合に成立する特別の賠償責任です(民法717条)。建物の占有者は建物の設置の瑕疵によって生じた損害を賠償する義務があるとされています。見えにくい段差で過去に何人も転倒している以上、工作物が安全性を欠いた状態で、安全面に欠陥があることは明らかなので、仮に、来客が転倒等により負傷した場合は、工作物責任が認められる可能性は高いといえます。

2 事故リスクの把握
 施設内での事故防止策を検討するためには、現状を的確に把握する必要があり、そのためには施設内で起こった事故を把握するほか、事故につながりそうになった事例(ヒヤリ・ハット事例)を収集して活用することが有効です。
 収集した事例は「分析」⇒「要因の検証と改善策の立案」⇒「改善策の実践と結果の評価」⇒「必要に応じた取り組みの改善」といったいわゆるPDCAサイクルによって活用していくこととなります。

3 対策
 貴社においては、単に危険注意といった貼り紙だけで十分か、顧客の動線も意識した店舗全体としての対応が必要か、幼児や高齢者の施設内への進入の頻度等を検討することになります。
 組織全体としての対策は、次のとおりです。
 ①事故背景を明確にし、それを公表する(情報の共有)。
 ②事故要因をなくす。
 ③理にかなった事故防止対策マニュアルを作成し改正を繰り返す。
 ④事故防止の教育システムを構築する。
 そのほか、施設の安全管理については、屋外の看板落下や遊戯具の損壊、倒壊等のリスクもあるので、施設全体としての安全性にも注意を払うべきです。
 貴社とすれば、転倒防止のための段差の解消といった抜本的な対応が必要となります。

空き家のリスクとは?

(質問)
 最近空き家が増えているとよく聞きます。
 空き家のリスクはどのようなものですか?

(回答)

1 空き家対策特別措置法 
 2015年5月から空き家対策特別措置法が施行されました。
 これは市町村の調査で1年以上人が住んでいないということで特定空き家と認定されれば,指導,勧告,撤去命令を出せることになっている法です。
 2013年10月の調査では,全国に820万戸の空き家があって,空き家率は何と13.5%なのです。
 つまり,7軒か8軒に1軒は空き家ということになります。

2 空き家のリスク 
 空き家のリスクは,①防犯上の問題,②衛生面の問題,③景観を損ねる,④家が劣化するなどが挙げられます。
 防犯上の問題もありますが,倒壊等により保安上危険,ゴミが捨てられたり,ネズミとかが入ったりとかして衛生上有害,景観を損ねるといった問題もあります。
 場合によっては,空き家があることによって,近隣の地価が下がることもあり得るのかもしれません。
 それから何よりも家が劣化して価値が下がります。

3 空き家を減らすには 
 空き家を減らすには,①税制面での誘導,②リスクの啓発,③自宅をどうするかについての家族の話し合い,④中古住宅の流通の促進,⑤リフォームや取壊しに対しての補助金などが挙げられます。 
 最終的には,一人一人の意識ですが,例えば,特定空き家に認定されれば土地の固定資産税が上がったり,空き家を売買した場合に3,000万円までの控除が認められるのですが,こういった税務面での誘導のほかに,空き家にはリスクが伴う,特に火事とかになれば近隣から損害賠償が起こされるリスクがあることを啓発することが大切ですね。
 また,自分の家が将来空き家にならないように,家族で将来よく話し合っておくことも必要だと思います。
 それから,我々専門家も空き家の解消に向けて,地方自治体や町内会と協力して空き家を含めた中古住宅の流通を促進していくとか,自治体が空き家リフォームや再築を前提に取壊しに補助金を出すとか,あるいは,将来の取壊の際の積立金制度も必要なのかもしれません。