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遺言書を隠匿したらどうなる?

(質問)
 父が亡くなり、遺言書が見つかりました。しかし、あまりにも私に有利な内容の遺言であったことから、兄や弟と揉めるのも嫌なので、遺言書を隠してしまいました。
 遺産分割は兄弟全員で協議して行ったのですが、後になって、遺言書があったことを知った兄が、私が遺言書を隠匿していたのだから相続欠格者であると言い出しました。
 私はどうすればよいでしょうか。

(回答)

1 相続人資格を失う場合 
 遺言がある場合でも、それと異なる遺産分割を禁止するものでない限り、相続人が協議によって分割することは自由です。
 今回の相談では、遺言書があるにも関わらず、一部の相続人がそれを隠したまま遺産分割をしようとしたことが問題となります。
 この点、民法では、一定の相続欠格事由がある場合には、相続人としての資格を認めないものとしており、被相続人らの生命を侵害する行為や、詐欺・脅迫によって遺言を作成させたり、これを妨害するなどの行為が定められています。
 また、被相続人の遺言書を偽造・変造、破棄、隠匿する行為も欠格事由と定められています。
 今回のケースでは、相談者は、遺言書を隠匿したといえますので、少なくとも形式的には、相続欠格事由に該当することになります。

2 相続欠格事由の二重の故意 
 ところで、相続欠格の要件として、民法の定める相続欠格事由に該当する行為のほかに、このような行為によって不当な利益を得ようとする動機ないし目的(いわゆる二重の故意)を要するか否かという議論があります。
 この点、判例は、自己に有利な遺言書を破棄又は隠匿した相続人について、相続に関して不当な利益を得ることを目的とするものでなかったときは、相続欠格者にはあたらないものと判断しています。
 これは、遺言書の破棄・隠匿を相続欠格事由とする趣旨は、遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して民事上の制裁を科すことにあるところ、遺言書の破棄・隠匿が不当な利益を得る目的でなかったときにまで相続人資格を失わせるという厳しい制裁を科すことは、相続欠格事由の趣旨に沿わないという理由です。
 そうすると、今回のケースでは、自己の不当な利益を得る目的で遺言書を隠匿したわけではありませんので、相続欠格者にはあたらないということになりそうです。

3 遺言書の偽造・変造の場合 
 押印がないため無効であった自筆証書遺言に相続人が押印して有効な外形を作出した事案でも、相続欠格が否定されたものがあります。
 形式的には遺言書の偽造・変造にあたるものの、相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現するためにその法形式を整える趣旨で押印行為をしたにすぎず、遺言に関し著しく不当な干渉行為をしたとはいえないことが理由です。
 以上のように、判例実務では、形式的な欠格事由だけでなく、不当な利益を得ようとする目的(二重の故意)が必要であると解されています。条文には書かれていない要件ですので、注意する必要があります。

親子は法律上縁を切ることができるか?

(質問)
 私の娘は,中学校に入学した頃から悪い友人と交際するようになり,頻繁に家出をしたり警察に補導されたりするようになりました。成人した後も仕事をせず,どこに住んでいるのかわかりませんが,暴力団関係者の男と同棲しているようです。
 また,色々なところからお金を借りているようで,一度は500万円の借金を私が肩代わりしたこともあります。
 将来,このような娘に先祖伝来の土地を相続させるわけにもいきませんし,娘とは親子の縁を切りたいと思っています。
 法律上縁を切ることはできるでしょうか?

(回答)

1 法律上,「勘当」という制度はない 
 日常では,親子の縁を切るという意味で,「勘当する」という言葉が使われることがあります。
 しかし,法律上は,このような制度を定めた法律はありません。
 養子縁組に基づく親子関係であれば,離縁することで解消することができますが,実親子については,法律上の親子関係を解消する方法はないのです。

2 親子関係の修復 
 今回の相談内容のようなケースでは事実上難しいかもしれませんが,親子関係の悪化に何か原因がある場合,冷静に話し合うことで親子関係が修復できる場合もあります。   
 そのための一つの方法として,家庭裁判所に対して,親子関係調整の調停を申し立てることが考えられます。
 調停委員や裁判官などの第三者に言い分を聞いてもらうことで,互いの誤解やわだかまりが解け,意外にすんなりと和解ができる場合もあるのです。

3 排除とは 
 今回のケースで,どうしても娘に遺産をやりたくないと考える場合,どうすればよいでしょうか。
 まず,「娘には遺産を相続させない」旨の遺言書を作成する方法が考えられます。 
 これは最も簡便な方法ですが,この場合,遺留分まで奪うことはできないので,遺留分減殺請求がなされると一定の遺産は娘のものになってしまします。
 そこで,「相続人の廃除」という方法があります。これは,将来相続人となる者が,被相続人を虐待・侮辱したり,著しい非行がある場合に,相続権を失わせる制度で,廃除された推定相続人には遺留分も認められません。
 もっとも,相続人の廃除をするためには家庭裁判所の一審が必要となります。今回のケースでは,「著しい非行」にあたると判断される可能性は十分ありますが,被相続人の意思だけで相続人の廃除が認められるものではない点に注意が必要です。

4 親子関係は厄介なことも 
 親子関係というのは,通常,強い絆で結ばれている分,一度悪化すると厄介なものです。  
 法律の専門家に事案に応じた適切な法的アドバイスを受けることをお勧めします。

遺言書と遺留分はどちらが優先される?

(質問)
 母の遺言書には私には一切相続させない旨の記載がありました。
 遺留分という言葉は知っているのですが,遺言書と遺留分はどちらが優先されるのですか?

(回答)

1 遺留分 
 遺留分とは,一定の相続人が法律上最低限取得することを保証されている相続財産の一定の割合をいいます。
 被相続人は自分の財産を遺言で自由に処分できるのが原則です。しかし他方で,相続人は被相続人の相続財産を取得できるという期待を抱くのももっともな部分があるので,遺留分という制度が民法上規定されています。
 遺言の内容よりも遺留分が優先されます。

2 遺留分減殺請求 
 遺留分は民法で保証されているものですが、だからといって自動的に相続人の元にやってくるわけではありません。
 遺留分を受け取るには、「遺留分減殺(げんさい)請求」をする必要があります。
 しかも、この遺留分減殺請求は「相続開始または減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った日から1年以内」に請求しないと、権利を失くしてしまいます。
 遺留分を侵害されていることを知らなかった場合は、相続開始から10年以内であれば請求できますが、10年を経過すると請求ができなくなります。

3 遺留分減殺請求は弁護士にご相談を 
 上記に述べたとおり、遺留分減殺請求は請求期限もありますので、お早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

遺言の方式とは?

(質問)
 遺言の方式とは具体的にどのようなものですか?

(回答)

1 遺言の作成形式 
 遺言の作成形式については、民法で厳格に規定されており、これらの規定に違反して作成された遺言は、原則として無効になります。
 この規制の趣旨は、遺言者の生前の意思を正確に反映させるためですが、無効となった際の影響が大きいため、作成形式について正確に理解しておく必要があります。

2 特別方式 
 遺言の方式には普通方式と特別方式があります。
 特別方式は、死亡直前の緊急時遺言を除き、伝染病による隔離や船舶遭難等一般的ではない事態を想定していますので、関与することも稀だと考えられます。

3 普通方式 
 他方、普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
 公証人が関与する公正証書遺言には相応の費用が必要となるというデメリットもあることから自筆証書遺言の利用も多く、平成23年度の司法統計によれば、裁判所で検認した自筆証書遺言の数は年間1万5676件であり、しかも年々増加する傾向にあります。そこで、今回は特に自筆証書遺言に注目して御説明します。

4 自筆証書遺言の自署とは 
 自筆証書遺言では、遺言者が本文、日付及び氏名を自書し、押印することが必要となります(民法968条第1項)。
 ここで、自書要件について興味深い判例を御紹介しましょう。
 それは、遺言書を複写式のカーボン紙を用いて作成した場合において、自書したと言えるかが問題となった事案ですが、裁判所は、カーボン複写も辞書の方法として許されないわけではないと判断しました(最高裁平成5年10月19日判決)。 
 もっとも、偽造することが容易であることや後の筆跡鑑定で真正な筆跡か否かの判断が困難であるなどの理由から、カーボン複写方式は辞書にあたらないとしてこの判例を批判する見解も多く存在します。
 したがって、判例上、カーボン複写方式が認められていますが、実務上は慎重を期して、自筆の遺言書を作成しておくことをお勧めします。

5 書き損じの遺言の効力 
 では、うっかり書き損じた場合はどう対処すべきでしょうか。民法上、加除・訂正についても厳格な方式が要求されており、注意が必要です。通常の取引文書等に見られるような、二重線の上訂正印を押印するという方法では足りないのです。
 具体的には、変更の場所を指示・変更した旨を付記・変更についての署名を行う・変更場所への押印の4点を全て満たす必要があります。
 これらの要件を満たさない場合、加除・訂正部分のみが無効となるとの見解が一般的ですが、遺言自体を無効とすべきとの考え方もあります。
 このように、遺言方法については数々の制約が存在することから、作成の際には慎重すぎると言われる方がいいのかもしれません。

認知症の母は遺言書作成できない?

(質問)
 認知症の母がいるのですが,母が遺言書を作成することはできないのでしょうか。

(回答)

1 遺言が有効に成立するための条件 
 高齢化社会の進行や遺言の有効性が認知されてきたことに伴い、遺言、特に公正証書遺言の数は年々増加する傾向にあります。そこで、今回から数回にわたり、遺言書作成上の留意点を御説明いたします。
 まず、遺言が有効に成立するためには、遺言者に遺言能力があること、遺言の内容が法的に認められていること、法廷の遺言方式に則っていることが必要となります。

2 遺言能力 
 遺言能力が認められるためには、遺言時に15歳以上で意思能力があればよいとされています(民法961条・963条)。
 そして、一般の法律行為と異なり、未成年者や成年被後見人等制限行為能力者の法律行為を制限する規定の適用はありません(同法962条)。
 制限行為能力者であっても遺言が有効とされているのは、遺言者の意思の尊重という観点や遺言が遺言者の死後に効力を生じるものであり、制限行為能力者制度をそのまま適用する必要がないことなどの理由からです。
 遺言能力の有無を巡って問題となる事例の多くは、高齢者の意思能力を巡るものとなります。例えば、認知症の症状が見受けられる高齢者が遺言者となって遺言書を作成した場合などが典型例として想定されます。
 遺言能力の有無の判断基準としては、一般的に、遺言時における遺言者の精神状態、遺言内容、遺言に至る経緯(遺言の動機、受遺者や相続人との関係も含む。)等といった事情を総合的に考慮することとなりますので、このような事情について個別に検討する必要があります。
 ここで、通常、遺言能力が疑わしい遺言者の場合には、医師の診断を参考にすると考えられます。しかし、先に述べたように、遺言能力の判断には遺言者の精神状態以外の要素も考慮されますし、遺言能力の有無は最終的には法的な判断となりますので、医師の判断が絶対的であるというわけではありません。

3 遺言能力の判断の困難さ 
 このように、遺言能力の判断は遺言者本人の状況以外にも様々な事情の総合判断にならざるを得ないため、判断が難しい場面にも多く遭遇すると思いますが、遺言の有効性に関わる非常に重要な要件であることから、遺言書作成の際には、医師の診断を受けさせることはもちろん、後で遺言が無効となる事態を避けるために、それ以外の判断要素についても特に慎重に検討した上で、遺言書作成を行う必要があります。

結婚の要件と効果とは?

(質問)
 結婚の要件と効果とは何ですか?

(回答)

1 結婚の要件 
 結婚するときは,婚姻届を出します。これは,形式的な要件ですね。
 民法では,「婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる」とされています(民法第739条1項)。
 婚姻届を出さなければ,法的に結婚したことにはなりません。
 他に実質的な要件として,①婚姻意思の合致と②婚姻障害事由の不存在が必要とされています。
 民法では,婚姻することができない場合を定めています。この婚姻することができない事由つまり,婚姻の有効な成立を障害する事由を「婚姻障害事由」といいます。
 具体的に,まず,婚姻できる年齢に達していなければなりません。男性は18歳,女性は16歳ですね。
 他には,既に結婚している人とは結婚できませんし,近親者との結婚も禁止されています。
 どのような範囲の近親者と結婚が禁止されているかというと,まず,直系の血族,つまり,血のつながりのある親,祖父母,子ども,孫ですね。
 そして,三親等内の傍系血族,兄弟,姉妹,甥,姪,叔母,叔父です。
 他には,配偶者の親や祖父母とも結婚できません。離婚や死別しても結婚できるようにはなりません。
 他には,再婚禁止期間を過ぎていることも結婚の要件になります。女性は前の結婚が解消されてから6か月経過した後でなければ,結婚できません。
 どうして女性にだけ再婚禁止期間があるのかというと,父親が誰であるかをはっきりさせるためと言われています。
 民法には,「婚姻の成立の日から200日後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定」するという規定があります(民法722条2項)。 
 つまり,離婚後300日以内に生まれた子供は,前の夫の子と推定され,再婚後200日経ってから生まれた子は再婚相手の子と推定されます。
 この推定を受ける期間が重ならないように,再婚までの期間を6か月開けておけば十分だろうということで,6か月間は,再婚が禁止されるわけです。
 しかし,最近は,離婚から300日以内に生まれた子を前の夫の子であると推定する規定自体も問題となっています。いわゆる離婚後300日問題ですね。
 法律的に離婚できないまま,新しい生活を始めて,別の男性の子供を産んだ場合に,前の夫の子と推定される問題です。前の夫の子となってしまうために,子どもの出生届が出せないケースが増えているようです。何の責任もない子どもが無戸籍となるのは問題ですね。

2 抜本的な解決が必要 
 子供を法律上,再婚相手の子とするためには,認知調停という手続もありますが,もっと抜本的な解決が必要です。
 まずは弁護士にご相談ください。

有責配偶者からの離婚請求は認められる?

(質問)
 私は20年前に現在の夫と結婚しました。子どもはいません。
 ところが,1ヶ月ほど前,夫が浮気をしていることがわかり,そのことを責めると,夫は不倫相手のところへ行くと言って家を出てしまいました。夫は,不倫相手と結婚するつもりだから私とは離婚する,離婚届にサインしないなら裁判をしてでも別れる,と言っています。
 私は離婚するつもりはないのですが,夫から裁判を起こされると離婚が認められるのでしょうか。

(回答)

1 踏んだり蹴ったり判決 
 今回は,不貞をした配偶者からの離婚請求で,いわゆる,「有責配偶者からの離婚請求」といわれる問題ですが,これについては,昭和27年に有名な最高裁判決があります。
 夫Xが妻Y以外の女性と性的関係を持ち,その後,Xは家を出て不倫相手の女性と暮らし,2年の別居の後,Xから離婚訴訟が提起されたという事案です。
 これに対して,裁判所は,「婚姻関係を継続し難いのはXが妻たるYを差し置いて他に情婦を有するからである。――結局Xが勝手に情婦を持ち,その為最早Yとは同棲出来ないから,これを追い出すということに帰着するのであって,もしかかる請求が是認されるならば,Yは全く俗にいう踏んだり蹴ったりである。法はかくの如き不徳義勝手気侭を許すものではない」と判示して,離婚請求を認めませんでした。
 これは,婚姻関係が破綻していると客観的に評価できるような場合に離婚請求を認めるという「破綻主義」を前提として,破綻について有責な者からの離婚請求を認めないという立場であり,「消極的破綻主義」と呼ばれています。

2 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合は? 
 昭和27年の判例は,有責配偶者からの離婚請求であるという一事をもって請求を認めないというものですが,現在もその考え方が厳格に貫かれているわけではありません。
 消極的破綻主義の考え方について判示したもう一つの有名な判例として,昭和62年の判決があります。
 この判決では,有責配偶者からされた離婚請求であっても,①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間の及び,②その間に未成熟の子が存在しない場合には,③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り,離婚が認められる場合があると判示されています。
 これは,どのような場合でも有責配偶者からの離婚請求を認めないとすると,既に破綻した形骸的な婚姻関係が残り続けるだけで,現実の夫婦関係と法律上の夫婦関係とがかけ離れたものとなってしまうという問題もあるためだと考えられます。

3 やはり結論はケースバイケース 
 今回のケースでは,未成熟子はいませんが,別居期間はわずか1か月であり,やはり,有責配偶者である夫からの離婚請求は認めらないでしょう。
 とはいえ,昭和62年判例のとおり,一定の場合には有責配偶者からの離婚請求も認められることがありますので,事案毎に具体的な事実に即して検討する必要があります。

再婚禁止期間違憲判決とは?

(質問)
 再婚禁止期間違憲判決とはどのようなものですか?

(回答)

1 再婚禁止時間の意味 
 民法733条第1項では「女は,前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ,再婚をすることができない。」旨規定されています。つまり,この規定は,女性については「前婚の解消又は取消し」から180日を経過しなければ次の結婚ができないとするものです。
 そもそも,なぜ女性にのみ再婚禁止期間が定められているのでしょうか。民法772条は,その1項で「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。」と規定しています。そして,2項では「婚姻成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。」と規定しています。
 大雑把にいえば,①妻が結婚中に妊娠した場合には,夫の子と推定される,②離婚した日から300日以内に生まれた子は,離婚した夫の子と推定される,③再婚した日から200日を経過した後に生まれた子は,再婚した夫の子と推定されるという規定です。
 では,ここで頭の体操。
 「女性が離婚した直後に再婚。再婚後200日を経過後に子どもが生まれた」というような事案では,上記の②と③の両方に該当します。
 これが意味するところは,生まれた子は,離婚した夫と再婚した夫の子どもであると推定されてしまうということです。
 つまり,上記②と③の両方に該当する場合には,推定が重複することになるのです。  
 このような推定の重複を防ぐために,再婚禁止期間(733条第1項に基づき六箇月)が設けられたのです。

2 6か月の期間は本当に必要? 
 再び,頭の体操。
 女性が離婚した当日に再婚した場合を考えてみましょう。離婚した夫の子と推定されるのは300日,再婚した夫の子どもと推定されるのは,再婚した日から200日経過後。ここで,推定の重なる期間が生じるのは何日でしょうか?
 答えは,100日です。

3 最高裁判所の判断 
 民法が定められた明治時代は,重複が生じる100日間に再婚禁止期間を限定しないことは,父子関係をめぐる紛争を未然に防止すると考えられており,当時はその考えは合理的なものとされていました。 
 しかし,医療技術等が発達した現代社会においては,このような考え方は不合理なのです。
 平成27年12月16日付の最判においては,多数意見は,父性の推定が重複することを回避するための期間である100日間は合理性,相当性が認められるとしても,それを超えて再婚を禁止することは正当化できない旨を判示しています。

4 最高裁判所の少数意見 
 多数意見以外に,「DNA検査技術の進歩により生物学上の父子関係を科学的かつ客観的に明らかにすることができるようになった段階においては,血統の混乱防止という立法目的を達成するための手段として,再婚禁止期間を設ける必要性は完全に失われている」とした裁判官も存在します。

5 今後の流れ 
 この判決を受け,国会が当該規定を改正するようです。
 しかし,判決に従い100日を超える部分に限定して改正するのか,個別の裁判官の意見も踏まえて全面的に再婚禁止期間を撤廃するのかでは異なります。
 このような改正の動きについても,今後注目に値すると思います。

認知症高齢者が起こした鉄道事故裁判の意義について

(質問)
 認知症高齢者が起こした鉄道事故裁判について,認知症の高齢者が起こした事故の賠償責任を,介護してきた家族が負うべきかについて,最高裁が否定するという判断を示したと聞きましたが,この裁判の意義を教えてください。

(回答)

1 事案の内容 
 2007年、認知症の91歳男性が徘徊中に列車にはねられて死亡しました。JR東海は列車の遅延などを理由に、男性の妻と長男に対して、約720万円の損害賠償を求めた裁判。
 一方、妻らは、駅係員の監視が不十分であったとし、JR東海に安全確保義務違反があったと主張しました。
 妻自身も93歳とご高齢で要介護1の認定を受けており、長男やその妻、妹など親族総出で男性の介護を行っていたとのことです。
 しかも死亡した男性が外出したのは、家族が目を離したほんの数分でした。

2 一審,二審,最高裁で判決がバラバラだった 
 一審…男性の妻と長男に対して全額の支払いを命じました。
 二審…妻にのみ半額(約360万円)の賠償責任を認めました。
 最高裁…一審、二審の判決が覆り、家族側が逆転勝訴しました。

3 判決が変わった理由 
 一審は「妻には709条,長男には714条の類推の責任がある」というものでした。つまり,妻は夫が線路内に迷い込むことを予想することが可能であったし,長男は事実上の監督義務者であったため,両名に責任があるとしました。
 次に,二審は「妻は監督義務者にあたるから714条の責任があるが,長男には責任はない」としました。
 そして最高裁では「妻も長男も714条の監督義務者にはあたらない。あたらなくても事実上,責任無能力者の監督を行っており,監督義務を引き受けたと考えられる事情があるなら714条が類推適用されるが,今回の場合,妻や長男には類推適用はされない」と判断しました。

4 責任能力 
 714条の1の前二条とは,民法第712条,第713条の責任能力のことを指します。
 そもそも712条,713条では,「未成年者で自分の行動の善悪の判断がつかない者」や,「認知症など,病気により自分の行動の善悪の判断がつかない者」による違法行為は,責任を問わないとしています。
 つまり,民法の扶助義務は家族相互に適用されるものであり,第三者に対する賠償責任を意味したものではないとし,家族に監督義務は生じないとの判断を最終的に下したわけです。

5 JR東海の安全確保義務違反 
 駅係員の監視の不十分さや男性が線路に下りたとされるホームのフェンス扉が施錠されていなかったことを主張していたのですが,二審で男性の行動が証拠上明らかではなかったこと,フェンス扉は施錠されていなかったとはいえ閉じられていたことから,JRに安全確保義務違反があったまでは認められないとしました。
 しかし,二審で妻への請求が半額になっていることから,事実上の過失相殺のような扱いをされていますね。

6 今後身近に起こりうる介護に関する問題 
 認知症の方は2012年に高齢者の7人に1人の割合だったのが,2025年には5人に1人になると言われています。
 本人の希望や金銭問題で簡単に施設に入ることも難しいかもしれません。
 そうなるとご家族が介護をせざるを得ないですが,今回の事件でも言われていたように一瞬のすきなく監視することは難しいですね。
 現在は個人ができる対策として民間の「個人賠償責任保険」がありますが,一定の条件でしかカバーできないので,今後は国が関わる公的な救済制度を考えるべきだと思います。

お店の予約をドタキャンしたら損害賠償請求される?

(質問)
 最近は,旅行会社やホテルの約款のように「5日前から前日までのキャンセルは,料理代金の50%をキャンセル料としていただきます。」とHPなどで明示されているお店も増えてきました。
 では,このような記載がない場合,ドタキャンをしても一切キャンセル料は発生しないのでしょうか。

(回答)

1 契約の成立 
 法律的には,お店との契約はお店に予約の電話を入れお店が「○日に○名,予算○円で承りました。」と言った時に,契約は成立しています。
 不思議に思う方もおられるかもしれませんが,このように口頭の合意であっても,契約の成立となります。
 契約が成立すれば,お店は,その日の料理提供に向けて仕入れやバイト増員などの準備を始めます。大人数の予約の場合には,店を貸切にし,他の予約を断っていることもあります。
 このようにお店は準備を始めますが,店を貸切にして他の予約を断っていたような場合にドタキャンがされると,食材費,人件費,他の客から得られたであろう売上の分が得られないという損害が発生する可能性があります。
 このような損害が実際に発生した場合で裁判が提起された場合,全額が損害賠償額として認められるかは難しい問題ではありますが,一定額が損害として認められる可能性は十分にあるので,注意が必要です。
 弁護士費用をかけてまでお店がドタキャンしたお客を訴えることは実際にはあまり多くはないとは思いますが,店に多大な迷惑をかけるという事実を認識し,皆さんには飲み会参加の可否について検討していただきたいと思います。

2 お酒に関するお話(余談) 
 今日は,紙面の余白がありますので,一つお酒に関連するお話をしようと思います。
 皆様は,「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」という法律があることを御存知でしょうか。
 この法律の第4条第1項は,「酩酊者が,公共の場所又は乗物において,公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは,拘留又は科料に処する。」と規定されています。
 いずれにせよ,お酒は自分のペースを守って飲まなければならないことを認識させる法律です。

3 些細なことと思われることでも大きなリスクあり 
 今日のドタキャンに関連して,お店から損害賠償請求を受けたり,「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」に基づき逮捕されたというようなことが起これば人生の一大事ですので,弁護士にすぐにご相談ください。