投稿者「kobayashi」のアーカイブ

結婚の要件と効果とは?

(質問)
 結婚の要件と効果とは何ですか?

(回答)

1 結婚の要件 
 結婚するときは,婚姻届を出します。これは,形式的な要件ですね。
 民法では,「婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる」とされています(民法第739条1項)。
 婚姻届を出さなければ,法的に結婚したことにはなりません。
 他に実質的な要件として,①婚姻意思の合致と②婚姻障害事由の不存在が必要とされています。
 民法では,婚姻することができない場合を定めています。この婚姻することができない事由つまり,婚姻の有効な成立を障害する事由を「婚姻障害事由」といいます。
 具体的に,まず,婚姻できる年齢に達していなければなりません。男性は18歳,女性は16歳ですね。
 他には,既に結婚している人とは結婚できませんし,近親者との結婚も禁止されています。
 どのような範囲の近親者と結婚が禁止されているかというと,まず,直系の血族,つまり,血のつながりのある親,祖父母,子ども,孫ですね。
 そして,三親等内の傍系血族,兄弟,姉妹,甥,姪,叔母,叔父です。
 他には,配偶者の親や祖父母とも結婚できません。離婚や死別しても結婚できるようにはなりません。
 他には,再婚禁止期間を過ぎていることも結婚の要件になります。女性は前の結婚が解消されてから6か月経過した後でなければ,結婚できません。
 どうして女性にだけ再婚禁止期間があるのかというと,父親が誰であるかをはっきりさせるためと言われています。
 民法には,「婚姻の成立の日から200日後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定」するという規定があります(民法722条2項)。 
 つまり,離婚後300日以内に生まれた子供は,前の夫の子と推定され,再婚後200日経ってから生まれた子は再婚相手の子と推定されます。
 この推定を受ける期間が重ならないように,再婚までの期間を6か月開けておけば十分だろうということで,6か月間は,再婚が禁止されるわけです。
 しかし,最近は,離婚から300日以内に生まれた子を前の夫の子であると推定する規定自体も問題となっています。いわゆる離婚後300日問題ですね。
 法律的に離婚できないまま,新しい生活を始めて,別の男性の子供を産んだ場合に,前の夫の子と推定される問題です。前の夫の子となってしまうために,子どもの出生届が出せないケースが増えているようです。何の責任もない子どもが無戸籍となるのは問題ですね。

2 抜本的な解決が必要 
 子供を法律上,再婚相手の子とするためには,認知調停という手続もありますが,もっと抜本的な解決が必要です。
 まずは弁護士にご相談ください。

有責配偶者からの離婚請求は認められる?

(質問)
 私は20年前に現在の夫と結婚しました。子どもはいません。
 ところが,1ヶ月ほど前,夫が浮気をしていることがわかり,そのことを責めると,夫は不倫相手のところへ行くと言って家を出てしまいました。夫は,不倫相手と結婚するつもりだから私とは離婚する,離婚届にサインしないなら裁判をしてでも別れる,と言っています。
 私は離婚するつもりはないのですが,夫から裁判を起こされると離婚が認められるのでしょうか。

(回答)

1 踏んだり蹴ったり判決 
 今回は,不貞をした配偶者からの離婚請求で,いわゆる,「有責配偶者からの離婚請求」といわれる問題ですが,これについては,昭和27年に有名な最高裁判決があります。
 夫Xが妻Y以外の女性と性的関係を持ち,その後,Xは家を出て不倫相手の女性と暮らし,2年の別居の後,Xから離婚訴訟が提起されたという事案です。
 これに対して,裁判所は,「婚姻関係を継続し難いのはXが妻たるYを差し置いて他に情婦を有するからである。――結局Xが勝手に情婦を持ち,その為最早Yとは同棲出来ないから,これを追い出すということに帰着するのであって,もしかかる請求が是認されるならば,Yは全く俗にいう踏んだり蹴ったりである。法はかくの如き不徳義勝手気侭を許すものではない」と判示して,離婚請求を認めませんでした。
 これは,婚姻関係が破綻していると客観的に評価できるような場合に離婚請求を認めるという「破綻主義」を前提として,破綻について有責な者からの離婚請求を認めないという立場であり,「消極的破綻主義」と呼ばれています。

2 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合は? 
 昭和27年の判例は,有責配偶者からの離婚請求であるという一事をもって請求を認めないというものですが,現在もその考え方が厳格に貫かれているわけではありません。
 消極的破綻主義の考え方について判示したもう一つの有名な判例として,昭和62年の判決があります。
 この判決では,有責配偶者からされた離婚請求であっても,①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間の及び,②その間に未成熟の子が存在しない場合には,③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り,離婚が認められる場合があると判示されています。
 これは,どのような場合でも有責配偶者からの離婚請求を認めないとすると,既に破綻した形骸的な婚姻関係が残り続けるだけで,現実の夫婦関係と法律上の夫婦関係とがかけ離れたものとなってしまうという問題もあるためだと考えられます。

3 やはり結論はケースバイケース 
 今回のケースでは,未成熟子はいませんが,別居期間はわずか1か月であり,やはり,有責配偶者である夫からの離婚請求は認めらないでしょう。
 とはいえ,昭和62年判例のとおり,一定の場合には有責配偶者からの離婚請求も認められることがありますので,事案毎に具体的な事実に即して検討する必要があります。

再婚禁止期間違憲判決とは?

(質問)
 再婚禁止期間違憲判決とはどのようなものですか?

(回答)

1 再婚禁止時間の意味 
 民法733条第1項では「女は,前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ,再婚をすることができない。」旨規定されています。つまり,この規定は,女性については「前婚の解消又は取消し」から180日を経過しなければ次の結婚ができないとするものです。
 そもそも,なぜ女性にのみ再婚禁止期間が定められているのでしょうか。民法772条は,その1項で「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。」と規定しています。そして,2項では「婚姻成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。」と規定しています。
 大雑把にいえば,①妻が結婚中に妊娠した場合には,夫の子と推定される,②離婚した日から300日以内に生まれた子は,離婚した夫の子と推定される,③再婚した日から200日を経過した後に生まれた子は,再婚した夫の子と推定されるという規定です。
 では,ここで頭の体操。
 「女性が離婚した直後に再婚。再婚後200日を経過後に子どもが生まれた」というような事案では,上記の②と③の両方に該当します。
 これが意味するところは,生まれた子は,離婚した夫と再婚した夫の子どもであると推定されてしまうということです。
 つまり,上記②と③の両方に該当する場合には,推定が重複することになるのです。  
 このような推定の重複を防ぐために,再婚禁止期間(733条第1項に基づき六箇月)が設けられたのです。

2 6か月の期間は本当に必要? 
 再び,頭の体操。
 女性が離婚した当日に再婚した場合を考えてみましょう。離婚した夫の子と推定されるのは300日,再婚した夫の子どもと推定されるのは,再婚した日から200日経過後。ここで,推定の重なる期間が生じるのは何日でしょうか?
 答えは,100日です。

3 最高裁判所の判断 
 民法が定められた明治時代は,重複が生じる100日間に再婚禁止期間を限定しないことは,父子関係をめぐる紛争を未然に防止すると考えられており,当時はその考えは合理的なものとされていました。 
 しかし,医療技術等が発達した現代社会においては,このような考え方は不合理なのです。
 平成27年12月16日付の最判においては,多数意見は,父性の推定が重複することを回避するための期間である100日間は合理性,相当性が認められるとしても,それを超えて再婚を禁止することは正当化できない旨を判示しています。

4 最高裁判所の少数意見 
 多数意見以外に,「DNA検査技術の進歩により生物学上の父子関係を科学的かつ客観的に明らかにすることができるようになった段階においては,血統の混乱防止という立法目的を達成するための手段として,再婚禁止期間を設ける必要性は完全に失われている」とした裁判官も存在します。

5 今後の流れ 
 この判決を受け,国会が当該規定を改正するようです。
 しかし,判決に従い100日を超える部分に限定して改正するのか,個別の裁判官の意見も踏まえて全面的に再婚禁止期間を撤廃するのかでは異なります。
 このような改正の動きについても,今後注目に値すると思います。

認知症高齢者が起こした鉄道事故裁判の意義について

(質問)
 認知症高齢者が起こした鉄道事故裁判について,認知症の高齢者が起こした事故の賠償責任を,介護してきた家族が負うべきかについて,最高裁が否定するという判断を示したと聞きましたが,この裁判の意義を教えてください。

(回答)

1 事案の内容 
 2007年、認知症の91歳男性が徘徊中に列車にはねられて死亡しました。JR東海は列車の遅延などを理由に、男性の妻と長男に対して、約720万円の損害賠償を求めた裁判。
 一方、妻らは、駅係員の監視が不十分であったとし、JR東海に安全確保義務違反があったと主張しました。
 妻自身も93歳とご高齢で要介護1の認定を受けており、長男やその妻、妹など親族総出で男性の介護を行っていたとのことです。
 しかも死亡した男性が外出したのは、家族が目を離したほんの数分でした。

2 一審,二審,最高裁で判決がバラバラだった 
 一審…男性の妻と長男に対して全額の支払いを命じました。
 二審…妻にのみ半額(約360万円)の賠償責任を認めました。
 最高裁…一審、二審の判決が覆り、家族側が逆転勝訴しました。

3 判決が変わった理由 
 一審は「妻には709条,長男には714条の類推の責任がある」というものでした。つまり,妻は夫が線路内に迷い込むことを予想することが可能であったし,長男は事実上の監督義務者であったため,両名に責任があるとしました。
 次に,二審は「妻は監督義務者にあたるから714条の責任があるが,長男には責任はない」としました。
 そして最高裁では「妻も長男も714条の監督義務者にはあたらない。あたらなくても事実上,責任無能力者の監督を行っており,監督義務を引き受けたと考えられる事情があるなら714条が類推適用されるが,今回の場合,妻や長男には類推適用はされない」と判断しました。

4 責任能力 
 714条の1の前二条とは,民法第712条,第713条の責任能力のことを指します。
 そもそも712条,713条では,「未成年者で自分の行動の善悪の判断がつかない者」や,「認知症など,病気により自分の行動の善悪の判断がつかない者」による違法行為は,責任を問わないとしています。
 つまり,民法の扶助義務は家族相互に適用されるものであり,第三者に対する賠償責任を意味したものではないとし,家族に監督義務は生じないとの判断を最終的に下したわけです。

5 JR東海の安全確保義務違反 
 駅係員の監視の不十分さや男性が線路に下りたとされるホームのフェンス扉が施錠されていなかったことを主張していたのですが,二審で男性の行動が証拠上明らかではなかったこと,フェンス扉は施錠されていなかったとはいえ閉じられていたことから,JRに安全確保義務違反があったまでは認められないとしました。
 しかし,二審で妻への請求が半額になっていることから,事実上の過失相殺のような扱いをされていますね。

6 今後身近に起こりうる介護に関する問題 
 認知症の方は2012年に高齢者の7人に1人の割合だったのが,2025年には5人に1人になると言われています。
 本人の希望や金銭問題で簡単に施設に入ることも難しいかもしれません。
 そうなるとご家族が介護をせざるを得ないですが,今回の事件でも言われていたように一瞬のすきなく監視することは難しいですね。
 現在は個人ができる対策として民間の「個人賠償責任保険」がありますが,一定の条件でしかカバーできないので,今後は国が関わる公的な救済制度を考えるべきだと思います。

お店の予約をドタキャンしたら損害賠償請求される?

(質問)
 最近は,旅行会社やホテルの約款のように「5日前から前日までのキャンセルは,料理代金の50%をキャンセル料としていただきます。」とHPなどで明示されているお店も増えてきました。
 では,このような記載がない場合,ドタキャンをしても一切キャンセル料は発生しないのでしょうか。

(回答)

1 契約の成立 
 法律的には,お店との契約はお店に予約の電話を入れお店が「○日に○名,予算○円で承りました。」と言った時に,契約は成立しています。
 不思議に思う方もおられるかもしれませんが,このように口頭の合意であっても,契約の成立となります。
 契約が成立すれば,お店は,その日の料理提供に向けて仕入れやバイト増員などの準備を始めます。大人数の予約の場合には,店を貸切にし,他の予約を断っていることもあります。
 このようにお店は準備を始めますが,店を貸切にして他の予約を断っていたような場合にドタキャンがされると,食材費,人件費,他の客から得られたであろう売上の分が得られないという損害が発生する可能性があります。
 このような損害が実際に発生した場合で裁判が提起された場合,全額が損害賠償額として認められるかは難しい問題ではありますが,一定額が損害として認められる可能性は十分にあるので,注意が必要です。
 弁護士費用をかけてまでお店がドタキャンしたお客を訴えることは実際にはあまり多くはないとは思いますが,店に多大な迷惑をかけるという事実を認識し,皆さんには飲み会参加の可否について検討していただきたいと思います。

2 お酒に関するお話(余談) 
 今日は,紙面の余白がありますので,一つお酒に関連するお話をしようと思います。
 皆様は,「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」という法律があることを御存知でしょうか。
 この法律の第4条第1項は,「酩酊者が,公共の場所又は乗物において,公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは,拘留又は科料に処する。」と規定されています。
 いずれにせよ,お酒は自分のペースを守って飲まなければならないことを認識させる法律です。

3 些細なことと思われることでも大きなリスクあり 
 今日のドタキャンに関連して,お店から損害賠償請求を受けたり,「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」に基づき逮捕されたというようなことが起これば人生の一大事ですので,弁護士にすぐにご相談ください。

増加するネットトラブルー古物営業法とはー

(質問)
 インターネットを通じて盗品が出回るトラブルが多発していると聞きますが,何か法的な規制はされているのですか?

(回答)

1 増加するネットトラブル 
 最近はネットオークションが手軽に利用できるようになり,以前と比べて,盗品を比較的容易に売却できるようになりました。価値は高いものの流通ルートが限られていて,これまでであればなかなか処分できなかった仏像や骨董品などの品物も盗まれるケースが増えています。

2 古物営業法とは 
 ネットオークションも古物競りあっせん業として,古物営業法の対象となっています。
 まず,古物商許可が摘要される「古物」とは,古物営業法第2条で次のとおり定義されています。
 「一度使用された物品(中略)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。 」
 つまり一度でも使用されたか,使用されていなくても売買や譲渡が行われたもの(一般的には「新古品」などと言います)がこの許可の対象物です。古物をメンテナンスして新しく見せかけても同じです。

3 古物商許可が必要な場合 
 ではネットオークションで古物商許可が必要な場合はどのような場合かというと,古物を買い取って売る,古物を買い取って使える部品等を売る,古物を別の物と交換する,古物を買い取ってレンタルする,国内で買った古物を国外に輸出して売る等これらをネット上で行うには古物商許可が必要です。
 一方,自分の物を売る(自分で使っていた物,使うために買ったが未使用の物のこと。最初から転売目的で購入した物は含まれません。),無償でもらった物を売る,自分が海外で買ってきたものを売る(他の輸入業者が輸入したものを国内で買って売る場合は含まれません。)場合は古物商許可は必要ありません。
 簡単に言うと,オークションは「たまたま手元にあったのを売ります」ってスタンスだとOKなんです。大量に出品している人は,そういう言い訳ができません。

4 盗品を巡るトラブルに巻き込まれたら 
 そうは言っても膨大な商品の数に対して,十分に監視機能が働いていないのが現状です。
 では,実際に盗品を巡るトラブルに巻き込まれた場合,どう対処したらいいのでしょうか。
 例えば,ネットオークションで落札した商品が盗品であった場合,盗品であることを知って売買をすることは,盗品等関与罪(10年以下の懲役及び50万円以下の罰金)という犯罪になりますが,盗品とは知らないで入手したのであれば犯罪にはなりません。
 そして,たとえ盗品であっても,それを知らないで過失もなく入手したのであれば,「即時取得」と言って,購入した動産の所有権を取得することになります。

5 即時取得とは 
 即時取得とは,動産取引の安全を図るために認められたもので,①売買など有効な取引があること,②取引の対象が動産であること,③全主がその動産を処分する権限もなく,占有していること,④取得者が,平穏・公然・善意・無過失で動産の占有を始めたことを要件に,売買であれば,所有権の取得を認めるものです。
 例えば,AさんがBさんに時計を預けていたところ,BさんがCさんに対して自分の時計だと言って,売ってしまったような場合に,「即時取得」の要件を満たせば,Cさんはその時計の所有権を取得できます。
 ちなみに,動産といっても,登記・登録を必要とする物については,「即時取得」の対象にはなりません。
 買った商品が盗難であるときは,特別に,盗難に遭ったときから2年間に限って,本来の所有者は現在持っている人に対して,当該品物を返すように求めることができます。
 ただし,現在持っている人が,その品物を,競売・公の市場または同種の物を販売する商人から,盗品だとは知らないで買い受けた場合,買ったときの代金を弁償しなければ,元の持ち主はその品物を返してもらうことはできないと規定しています。
 付け加えると,お金をもらわずに自発的に品物を元の所有者に対して,先に渡してしまったとしても,渡した後に,元の所有者に対して代金の弁償を求めることができるということになっています。

6 自分の物が盗まれてネットで売りに出されていた場合 
 まず,ネットオークションを管理している業者に連絡を取った上で,警察に通報すべきです。ただ,品物は出品者の手元にあり,しかも,画面上の電子情報は改竄が容易なこともあって,ネットオークションに出品されている商品が盗品であると断定するのは難しいのが現状です。

7 迅速な対応が大切 
 その他,質屋,古物商が盗品を取得したときは,たとえ盗品であることを知らなかったとしても,元の所有者は,盗難から一年間,無償で返還請求できます。
 いずれにしても,窃盗のような刑事事件でも,盗まれた物の返還や代金の弁償といった民事上の問題でも,早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

卒業論文の引用に注意ー著作権法とはー

(質問)
 卒業論文を書くに当たって、インターネットや他人の論文を全く引用しないことは無理だと思うのですが、どこまで引用していいのでしょうか?

(回答)

1 著作権法に規定がある 
 論文等の引用は,著作権法に規定があります。この著作権法の要件を満たせば,論文等の引用をすることは何ら問題となりません。
 引用の要件は著作権法32条1項に定められています(「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」)。
 これを要件ごとに分かりやすく分けると,①公表された著作物であること,②引用であること,③公正な慣行に合致すること,④引用の目的上正当な範囲内で行われていることの4つです。
 この4つの要件を順番に検討していけばいいのですが,その前に対象物が「著作物」に該当するかについても確認しないといけません。
 そもそも,著作物に該当しなければ,それを引用しても全く問題にならないからです。

2 著作権に該当するかの判断 
 これは著作権法2条1項で定義がありまして,著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定されています。
 この定義を聞いても分かりづらいと思いますから,部分ごとに分けたうえで,具体例を挙げて説明しましょう。
 まず「思想又は感情」という部分ですが,これは人間の考えや気持ちといった広い範囲を含むものですが,反対に単なる事実の伝達や,時事の報道はこれに該当しません。
 例えば,レストランのメニューで料理の代金という事実を伝達することや,5月の平均気温が何度であったとの時事の報道等は,「思想又は感情」に該当しないので著作物には当たりません。
 次に,「創作性」という要件があります。創作性とは,作成者の独創性までは要求されていませんが,その作成者の何らかの個性が表現されたものであることが必要とされています。自分の言葉で書いた論文や,オリジナルの構図の写真等は,作成者の個性が表現されているので創作性があります。
 そして,このように作成された物が,「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」であり,かつ外部に「表現」されることによって,著作物としての保護を受けることになります。

3 引用の4つの要件 
 さきほどまでは著作物の説明をしましたが,この著作物が公表されたものであることが1つ目の要件です。
 公表はその名のとおり,世間に発表することです。  
 引用の要件の2つ目は,引用部分が分かるようにするということです。このためには,引用部分にかぎかっこをつけたり,ポイントを変えたりしたうえで,注で引用した著作物を明示する方法等があります。
 そして③の公正な慣行に合致することと,④の引用の目的上正当な範囲内で行われていることですが,これは抽象的な文言なので具体例を挙げにくいところですが,引用にあたっては,その文言通り,引用の「慣行」を踏まえるとともに,一般常識に照らして「正当」と思われる範囲内で利用すれば要件に合致するものと思います。
 最後の2つの要件は引用の慣行や,一般常識が判断のベースになります。
 自分の判断に自信が持てないときは,専門の弁護士に相談することをお勧めします。

インターネット上に個人情報が流出した場合の法的対応

(質問)
 インターネット掲示板に自分の個人情報や名誉を毀損する書き込みがなされた場合の対応として,サイトの管理者や経由プロバイダに対して書き込みの削除や発信者情報の開示の請求の手続きについて教えてください。

(回答)

1 書き込みの削除の手続きについて 
 書き込みの削除請求を受けたプロバイダは,①当該情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があると判断したとき,②当該侵害情報の発信者に対し削除に同意するかを照会し,7日以内に削除に同意しない旨の申出がなかったときに書き込みの削除をすることになります。
 もし任意での削除に答えてもらえない場合には,裁判によることになります。
 これについては本案訴訟によることも考えられますが,迅速な被害救済の方法としては,侵害情報の削除の仮処分を申し立てることになります。

2 IPアドレスとタイムスタンプの開示請求 
 掲示板への書き込みの場合は,まず,管理者からIPアドレスとタイムスタンプ(送信時刻)の開示を求めることになります。
 これについても,任意での開示に応じてもらえない場合の方法として,発信者情報開示の仮処分の申立てが有効です。

3 発信者の氏名等の開示請求 
 次に,開示を受けたIPアドレス,タイムスタンプを基に,プロバイダに対して発信者の氏名・住所等の開示を請求することになります。
 開示請求を受けたプロバイダは,発信者に対して,氏名等の情報を開示することについて意見を聴くことになりますが,通常,任意での情報開示には応じてもらえないので,裁判によるしかありません。
 また,発信者の氏名等の情報については開示の仮処分は認められていませんので,本案訴訟が必要となります。

4 ログ保存(削除禁止)の仮処分 
 しかしながら,プロバイダにはアクセスログ(通信記録)の保存期間が法律で定められておらず,通常3~6カ月しかログは保存されていません。
 そうすると,本案訴訟で発信者情報開示の勝訴判決を得ても,ログが消去されていれば事実上開示は不可能となってしまいます。
 そこで,本案訴訟の提起の前に,ログ保存(削除禁止)の仮処分を申し立てておくことも必要になります。

5 レピュテーションリスク増大の可能性 
 インターネット掲示板への誹謗中傷の書き込みを題材としましたが,インターネット上に公開された情報の削除や発信者の特定は,個人に対する名誉毀損やプライバシー侵害だけでなく,会社や事業者に関する信用毀損のケースでも同様に問題になります。
今後も,この種の相談は増加していくと考えられます。

土地建物の賃貸借契約を締結する際の注意事項とは

(質問)
 土地建物の賃貸借契約を締結する際の注意事項等を教えてください。

(回答)

1 借地借家法の適用のある賃貸借契約 
 土地建物の賃貸借契約を締結する際、借地借家法の適用があるか否かは、契約期間や法定更新の有無、解約に「正当な理由」が必要となるか否か等、貸主借主双方にとって重大な影響を及ぼすことから、慎重に判断する必要があります。 
 それでは、借地借家法の適用のある賃貸借契約とそれ以外の賃貸借契約の区別はどのようにされるのでしょうか。
 この区別については建物の場合と土地の場合で異なり、建物の場合は「建物賃貸借」といえるか、土地の場合は「建物所有目的」の土地賃貸借といえるかがポイントとなります(借地借家法第1条)。

2 建物の場合 
 「建物賃貸借」では、区分所有の対象となるマンション等のように建物の一部であっても独立性が明確である場合は問題がありません。
 しかし、木造家屋一棟の数室を間借りする場合や建物の一画を賃借して営業活動を行うような場合、それが「建物賃貸借」といえるか否かは一義的に明確に判断できるものではありません。
 一般的には「障壁その他によって他の部分と区画され、独占的排他的支配が可能な構造・規模を有する」(最高裁昭和46年6月2日判決)場合は「建物」にあたるとされていますが、具体的には契約締結の趣旨や出店形態、賃貸人の管理監督の有無・程度等の事情を総合的に考慮した上で構造上利用上の独立性の有無を判断することになるでしょう。
 裁判例では、デパートでの出店契約について、売り場として区割りされているにすぎないこと、デパート側指示監督で売場の変更等は余儀なくされること等から店舗を支配的に使用してるとは言えないとして借地借家法の適用はないと判断しています。

3 土地の場合 
 他方、土地の賃貸借の場合は、「建物所有目的」といえるか否かがポイントとなります。
 なぜ「建物所有目的」に限られるのかというと、建物所有を目的として土地を賃借した場合、投下資本の回収には長時間を要することから、建物所有目的を有している賃借人は特に保護の必要性が高いと考えられているからです。
 そして、建物所有目的か否かは、主に当事者がどのような目的を有して契約を締結していたのかが基準となりますが、土地に工作物が存在していれば、工作物の物理的形状も当事者の意思を推認する事情として用いられることになります。
 裁判例では、バッティング練習場として使用することを目的としてなされた土地賃貸借について、仮設建物として管理人事務所を建築していたとしても、それだけでは「建物所有目的」とは言えないと判断したものがあります。

4 賃貸借契約書といえども慎重に 
 このように、賃貸借契約締結の際には「建物賃貸借」及び「建物所有目的」の有無について十分に現状を確認の上、検討して、その上で賃貸借契約書の作成を行うとともに、当事者にその効果を説明しておく必要があることに注意する必要があります。

自己所有の土地に放置された他人の自動車を勝手に撤去してもいいの?

(質問)
 私は、自宅の近くに土地を所有しており、これまで何年も空き地にしていましたが、この度、息子夫婦の家を建てることになりました。
 ところが、その空き地に、1年ほど前から誰のものか分からない自動車が勝手に停められています。
 自動車を撤去したいのですが、私はどうすればよいのでしょうか?

(回答)

1 自力救済の禁止 
 たとえ自己所有の土地上に放置された他人の自動車であっても、原則として、これを勝手に移動させたり、廃棄したりすることはできません。
 禁止された自力救済にあたりますし、後に所有者から損害賠償請求などをされるリスクもあります。
 自動車の持ち主に任意に撤去してもらえない場合は、訴訟をして判決を得た上で、強制執行の手続をとる必要があります。

2 どのような請求をするのか 
 相談のような事例で訴訟を提起する場合、どのような請求になるでしょうか。
 これについては、基本的には、「土地所有権に基づく土地の明渡請求」ということになります。すなわち、自動車の放置(=土地の占有)によって、土地所有権が侵害されているので、占有を解いて土地を明け渡せ、という請求です。

3 明渡請求を誰にするか 
 さて、所有権に基づく明渡請求をするにあたっては、不法占有をしている人、すなわち自動車の所有者を調べる必要があります。
 調査の結果、自動車の所有者が、信販会社等になっている場合があります。ローンで購入された自動車で、債務が完済されていないような場合です。
 この場合、明渡しの請求は、誰にすればよいでしょうか。
 この点について、平成21年に最高判例があります。判決は、「留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨げているとしても、特段の事情がない限り当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはできない」として、残債務全額の弁済期が経過したときは、留保所有権者が責任を負うとしています。
 これは、信販会社等は、債務の弁済期が経過するまでは、所有権があるといっても自動車を使用する権原はないものの、弁済期が経過すれば留保所有権に基づいて自動車を処分等することができるためです。
 したがって、ローン未完済の自動車については、弁済期経過前であれば自動車の使用者に明渡しを請求することになりますが、弁済期経過後であれば留保所有権者である信販会社等にも請求することができます。

4 損害賠償請求交渉 
 なお、弁済期が経過した後も、信販会社等が不法占有の事実を知らなければ不法行為責任を負いませんから、信販会社等に通知して不法占有の事実を告知する必要があります。