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高年齢者人材をいかに活用するか?

(質問)
 定年が70歳になったと聞いたのですが本当でしょうか。それは義務なのでしょうか。詳しく教えてください。

(回答)

1 高年齢者の就業確保措置
 ご存知の方も多いと思いますが、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の改正法により、事業主は、高年齢者に70歳までの就業確保措置を取ることが努力義務とされています。
 努力義務規定は、それに反する行為を違法・無効とする効果を有するものではなく、当事者の任意の履行に期待するルールです。
 そのため、これを遵守せずとも、違法とはされませんが、必要と認める場合、厚生労働大臣が事業主に対して指導・助言等を行うことができると定められています。
 現状、努力義務ではありますが、70歳までの就業確保措置を講じることを検討してはいかがでしょうか。
 そこで、70歳までの就業確保措置を導入する際に、何を考えるべきかをお話しします。

2 有期契約による再雇用を選択する場合
⑴対象者基準の設定
 65歳以上の高年齢者と有期雇用契約を締結して継続雇用する制度を導入する場合には、対象者基準の設定をすべきです。既に、70歳までの高年齢者就業確保措置を導入している企業では対象者基準を設定しているところが多くあります。65歳未満の継続雇用と異なり、70歳までの就業確保措置は努力義務であるため対象者基準の設定は可能であると解されています。ただし、事業主が恣意的に高年齢者を排除しようとするなど法の趣旨や、他の労働関係法令に反する又は公序良俗に反するものは認められないと考えられます。65歳以降に関して対象者基準を設定する場合の就業規則の規定例は厚生労働省の「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)」に掲載されているので参考にしてください。

⑵待遇の設定
 70歳までの継続雇用をする場合、待遇をどのようにするかも検討が必要です。待遇差を設ける場合には、定年前の無期契約労働者と定年後の有期契約労働者と比較し、職務内容などを考慮して、待遇差の相違が不合理と認められないようにしなければならず、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(短時間・有期雇用労働法)8条に違反しないように注意が必要です。定年後再雇用者のモチベーションを維持するためにも、労使協議を経たうえで、定年後の業務内容も工夫しつつ、労働者の納得を得られるような待遇を設定すべきでしょう。
待遇の設定につき、厚生労働省の「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」によれば、「高年齢者の意欲及び能力に応じた就業の確保を図るために、賃金・人事処遇制度の見直しが必要な場合」には「能力、職務等の要素を重視する制度に向けた見直しに努めること」、「勤務形態や退職時期の選択を含めた人事処遇について、個々の高年齢者の意欲及び能力に応じた多様な選択が可能な制度となるよう努めること」、「就業生活の早い段階からの選択が可能となるよう勤務形態等の選択に関する制度の整備を行うこと」などが記載されています。

⑶無期転換申込権への対応
 60歳から65歳まで1年契約の再雇用で、65歳以降も同じく再雇用を行う場合、65歳を超えた段階で労働契約法18条1項による無期転換申込権が発生するため、注意が必要です。有期契約特別措置法に基づく特例の適用を受けることや無期転換申込権が行使されることを見越した第二定年制の導入により対応することが考えられます。

3 創業支援等措置を選択する場合
 就業確保措置として、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入などを選択することもできます。これを「創業支援等措置」といいます。
⑴下請法との関係
 70歳までの就業確保措置として、創業支援等措置を取る場合、雇用によらないため、高年齢者の雇用管理上の規制や労働法規の規制を受けることはありませんが、下請法等の規制を受ける場合がることにも注意が必要です。

⑵労働者性について
創業支援等措置は雇用によらない措置であるため、対象となる高年齢者に労働者性が認めらない働き方としなければなりません。労働者性が肯定された場合、労働法規の適用されるリスクがあります。

4 高年齢者人材をいかに活用するか
 今後、少子化により若手人材が不足する中で、健康で勤労意欲のあるシニア人材の活用が必要となります。企業は、法律が変わったからというよりは、いかに働く意欲のある高年齢者を活かすかという視点で、その職務内容や待遇を設定していくべきではないでしょうか。ポストコロナ禍の時代を勝ち抜くため、人事制度・賃金制度全体の見直しを図るタイミングが来ているのではないかと考えます。
 企業の人事制度・賃金制度の見直しには、同一労働同一賃金、就業規則の不利益変更など法的な検討を要する場面がたくさんあります。お困りの際には、お気軽に弁護士にご相談ください。

迷惑行為動画の投稿問題と企業の対応

(質問)
 某回転ずしチェーン店での迷惑行為動画が世間を賑わせていますが、法的責任と企業の対応について教えてください。

(回答)

1 SNSでの迷惑行為動画の投稿問題
 令和5年1月末頃、某回転ずしチェーン店で、客が卓上のしょうゆボトルの注ぎ口や未使用の湯のみをなめる様子などを撮影した動画がSNS上に投稿される事件が、その直後、2月初め頃にも、別の某回転ずしチェーン店で、客がレーンを流れる寿司を手づかみで直接食べ、卓上の醤油ボトルを口に含んで笑みを浮かべる様子などを撮影した動画がSNS上に投稿される事件がありました。どちらも、単なる悪ふざけでは済まされず、刑事事件になっています。そこで、今回は、迷惑行為の法的責任と企業の対応についてお話しします。 

2 迷惑行為に対する民事責任
店舗で迷惑行為を行い、その様子を撮影して、SNSに投稿する行為には、その行為と因果関係が認められる範囲の損害につき、行為者は、不法行為に基づき損害賠償責任を負う可能性があります。損害の範囲としては、消毒や清掃などの対応に要した費用、減少した売上に相当する金額などが認められると考えられます。ただし,特に,売上の減少が損害と認められるかは、迷惑行為と売上げの減少との因果関係を立証できるのかという問題があります。損害の範囲は、事案によって異なりますが、迷惑行為により売上げが大幅に減少した事案であれば、極めて高額な損害賠償請求となる可能性もあります。

3 親の監督責任を追及できないのか?
 ひと昔前にはバイトテロなんてものもありましたが、若者による迷惑行為が多く問題となっています。そこで、迷惑行為者が、未成年の場合、親に損害賠償請求できないかという問題もあります。
⑴責任能力がない未成年者の場合
未成年は、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとき、賠償責任を負いません。裁判例上、12歳程度までの子どもについては、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていないと判断される傾向です。責任無能力者が責任を負わない場合、その監督義務者は、監督義務を怠らなかったこと、又は、監督義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことを立証しない限り、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法714条)。責任能力がない未成年者の場合、未成年者は責任を負わず、民法714条により、親に対して、損害賠償請求することができます。
⑵責任能力がある未成年者の場合
また、未成年者が責任能力を有する場合でも、監督義務者の監督義務違反と未成年者の不法行為によって生じた結果との間に因果関係があるときは、監督義務者に民法709条に基づく不法行為が成立します。もっとも、この監督義務とは、危険発生の予見可能性がある状況下で権利侵害の結果を回避するために必要とされる行為をなすべき義務であるため、一般論として、子による突発的な迷惑行為には、監督義務の違反は認められにくいと考えられます。
以上のように、民事責任については、損害の範囲はどこまで認められるか、迷惑行為者が若者(特に未成年)の場合、賠償金を回収できるのかという問題なども考慮する必要があります。

4 迷惑行為に対する刑事責任
 刑事責任としては、迷惑行為により、業務を妨害した場合には、威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪が成立します。また、備品を損壊、汚損など物の本来の効用を失わせた場合には、器物損壊罪が成立します。刑事責任については、迷惑行為の内容に応じて、犯罪の成否を検討する必要があります。迷惑行為動画の投稿には、若者の悪ふざけという面はありますが、企業は、こうした行為を許しておくべきではありません。特に、飲食店では、食の安全を脅かす重大な問題です。迷惑行為の抑止のため、被害届の提出や刑事告訴といった強硬な措置を取るべきです。

5 企業防衛には性悪説!!
 なぜ若者が迷惑行為動画を投稿するのか不思議ですが、きっと自分の行為がどんな結果を招くのか想像ができないのでしょう。誰もがSNSで容易に情報発信できる時代だからこそ、見えていなかった事件が顕在化しているだけかもしれません。
何事もそうですが、企業防衛には性悪説的な発想で対策を講じなければならないと私は考えています。悪い顧客の存在を常に想定しながらも、顧客に対する利便性やサービスの質を損なわない範囲で、事前防止策を講じる必要があります。ただし、どこまで対策すべきかは非常に悩ましい問題で、完全に防止する対策を講じることは現実的ではありません。
結局は、問題発生時にどれだけ適切かつ迅速な対応を行い、顧客からの信頼回復ができるかが最も重要となります。不祥事の際に、頓珍漢な記者会見を開いたり、初動対応を誤っている事例もときどき見ます。適切な対応には、事前に法的な検討をすることが不可欠です。お困りの際には、弁護士にご相談ください。

近隣トラブル~竹木の越境問題~について

(質問)
 Xは、自己の有する甲土地上に建物Aを所有しています。その隣には、Yが所有する乙土地があり、Y所有の建物Bがあります。Yは、断熱効果を期待して建物Bの外壁にツタを這わせています。先日、Yの管理不足で、乙土地のツタが越境して、建物Aの雨どいを詰まらせたことが判明しました。Xは、どのような対応をとることができるでしょうか。

(回答)

1 竹木の枝の切除及び根の切り取り 
隣地の竹木が越境して、被害が生じたという近隣トラブルに関する相談がときどきあります。民法では、「土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」(233条第1項)とされ、「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切ることができる」(同条2項)とされます。ツタは樹木の一種であり、「竹木」に当たると考えられます。そのため、Xは、Yに対して、その枝の切除を求めることができます。あくまで竹木の所有者に枝の切除を求めることができるにとどまり、自ら枝を切除できないことに注意が必要です。

2 相隣関係に関する民法改正
これに関連する民法の改正が令和3年になされました。ただし、施行は令和5年4月27日までになされるようです。具体的には、①竹木の所有者に枝を切除するように催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき、②竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき、③急迫の事情があるときには、土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越える場合、その枝を切り取ることができるという規定が新設されます。これにより、改正法の施行後は、上記の要件を満たした場合、自ら越境した竹木の枝を切ることができます。また、隣地の竹木の枝が越境する場合で、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができるという規定も新設されます。これにより、竹木の共有者の権限が明確になります。

3 竹木の占有者・所有者の責任
竹木の管理に問題があるケースで、隣地の所有者が損害を被った場合、被害者は、竹木の占有者又は所有者に対して、損害賠償請求ができます(民法717条2項)。土地工作物責任の規定が「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合に」準用され、①竹木の栽植又は支持に瑕疵があり、②他人に損害が生じ、③①の瑕疵と②の損害との間に因果関係がある場合には、被害者は、原則として、その竹木の占有者に損害賠償を請求することができ、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときには、所有者に請求をすることができます。竹木の占有者や所有者は、竹木を植える際、適切な管理を怠っていた場合、損害賠償責任を負うリスクがあるので、注意が必要です。
 事例のようなケースに限らず、近隣トラブルに関する法律問題は弁護士にご相談ください。

出生時育児休業(産後パパ育休)とは?

(質問)
 育児・介護休業法が改正されると耳にしました。産後パパ育休とはなんでしょうか。

(回答)

1 出生時育児休業の創設と育児休業制度の変更
令和3年6月に改正された育児・介護休業法が令和4年10月1日に施行され,出生時育児休業(産後パパ育休)の創設、育児休業の変更がされます。そこで、今回は、育児・介護休業法の改正についてお話しします。

2 出生時育児休業とは?
出生時育児休業は、育児休業制度とは別に、子の出生後8週間の期間内に4週間以内の休業を取得できる制度です。女性は、産後8週間は産後休業期間であるため、主に男性が使用する制度となります。子の出生後8週間以内に4週間を上限に、分割して2回まで取得できます。ただし、分割する場合、2回分をまとめて初回時に申し出なければなりません。出生時育児休業の取得を希望する労働者は、原則として2週間前に申し出る必要があります。なお、労使協定を締結し、一定の措置を講じる場合、1か月前までとすることができます。

3 育児休業制度の変更
育児休業制度では、従来、原則として分割取得ができませんでしたが、令和4年10月1日施行の改正法により、1歳までの育児休業につき、分割して2回取得することができるようになりました。また、1歳(1歳6か月)以降の育児休業について、期間の途中で配偶者と交代して育児休業を開始できるようにする観点から、育休開始日について、1歳(1歳6か月)時点に加えて、配偶者が1歳(1歳6か月)以降の育児休業を取得している場合には、その配偶者の休業の終了予定日の翌日以前の日を育児休業開始予定日とできるようになります。
出生時育児休業の創設と育児休業の分割取得により、夫婦が育休を交代できる回数が増え、より柔軟に育休を取得することができるようになるのがポイントです。

4 育児休業給付・社会保険料の免除
育児休業(出生時育児休業を含む)の期間、使用者には賃金の支払義務はありません。もっとも、育児休業(出生時育児休業を含む)を取得し、受給資格を満たす場合、育児休業給付を受けることができます。また、一定の要件を満たす場合、事業主の申出により、育児休業期間(出生時休業を含む)における各月の月給・賞与に係る社会保険料が被保険者本人負担分及び事業者負担分ともに免除されます。

5 男性も育児休業を取る時代!
企業は、法改正を負担と思わず、男性の育児休業を推奨するくらいの意識改革をしなければなりません。「夫は仕事、妻は家事」も1つの考えですが、それが絶対ではありません。夫が育児休業を取り、育児に参加することで、妻も仕事を続けることができます。そして、何よりも、夫が育児参加することが円満な夫婦生活(?)、ひいては、従業員の仕事のモチベーションアップに繋がるかもしれません。
育児介護休業法の改正に関するご相談については、弁護士にご相談ください。

霊感商法と契約の取消しについて

(質問)
 Xは、日常生活で悪いことが続いており、不安を抱えていました。そこで、占い師Aに相談をしたところ、「私は霊感がある。あなたには、悪霊がついており、このままでは、あなたは、病気になってしまう。この数珠を買えば、悪霊が去る。」と言われ、50万円で数珠を購入しました。後日、知人に相談したところ、「騙されている。」と言われました。Xは、なんとかお金を取り戻せないでしょうか。

(回答)

1 霊感商法とは?
霊感商法による被害は、最近、ニュースで話題になっています。霊感商法とは、商品に超自然的な霊力があるかのように思いこませて、高い値段で販売する方法をいいます。霊感商法の対策を議論する消費者庁の有識者検討会では、消費者契約法を改正して契約の取消権の要件緩和や取消権の行使期間延長すべきという提言もなされているようです。現行法では、霊感商法により契約をした場合、どのように救済されるでしょうか。

2 消費者契約法による不当勧誘規制
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、①霊感その他合理的に実証することが困難な特別な能力により知見として、②そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生じる旨を示してその不安をあおり、③当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げることにより、④困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取消すことができるとされます(消費者契約法4条3項6号)。
  「霊感」とは、除霊、災いの除去や運勢の改善など超自然的な現象を実現する能力で、霊感以外でも「合理的に実証することが困難な特別な能力」も対象とされ、四柱推命、星座占い、タロットカードなども該当します。「困惑」とは、精神的に自由な判断ができない心理状態をいいます。
  相談事例では、Xは、Aにより、Xに悪霊がついており、そのままでは病気になるという重大な不利益を告げられ(①②の要件該当)、また、数珠を買えば悪霊が去るとして、数珠の売買契約によって、病気という不利益を避けることができることを告げられています(③の要件該当)。こうした勧誘によって、Xが精神的に自由な判断ができず、数珠の売買契約を承諾したのであれば、その承諾の意思表示は取り消すことができます。その場合、契約の取消しの意思表示を行い、売買代金の返還を求めることになります。 

3 取消権の行使期間
上記の取消権は、追認することができる時(消費者が事業者の行為による困惑から脱した時)から1年間行わないとき、または、契約の締結の時から5年を経過したとき、時効によって、消滅するとされます。このように、取消権には、行使期間の制限があるため、注意が必要です。霊感商法によりマインドコントロール下にある場合、それを抜け出すには、相当程度の時間を要し、行使期間を経過してしまう場合も考えられます。こうした事態を考えて、行使期間を延長すべきという提言がなされているようです。

安全運転管理者とは?~アルコールチェック義務化への対応~

(質問)
 道路交通法施行規則が一部改正されると聞きました。どのように改正されるのでしょうか。

(回答)

1 安全運転管理者の業務の拡充
皆さん、道路交通法施行規則の一部改正が令和4年4月1日、同年10月1日に順次施行されることをご存じですか。法改正により、自家用自動車を一定の台数以上使用する事業所においては、事業所の運転者に対する酒気帯びの有無を確認・記録するとともに、アルコール検知器を用いて酒気帯び確認を行うことが義務付けられました。今回は、道路交通法施行規則の改正の内容とその対応について、お話しします。

2 安全運転管理者制度とは?
安全運転管理者制度とは、一定台数以上の自家用自動車を使用する場合に、自動車の安全運転と運行に必要な指導や管理業務を行わせるため、自動車の使用者(事業者など)が、安全運転管理者とそれを補助する副安全運転管理者を選任して、事業所等における安全運転管理の責任の明確化と交通事故防止体制の確立を図ることを目的とした制度です。自動車の使用者は、以下のいずれかに該当する各事業所において、「安全運転管理者」とその業務を補助する「副安全運転管理者」を選任し、選任から15日以内に公安委員会に届出なければなりません。安全運転管理者の選任義務に違反した者は,5万円以下の罰金に処せられます。
 ⑴安全運転管理者を選任する必要がある場合
・自家用自動車を5台以上使用している(大型自動二輪車・普通自動二輪車(50ccを超えるもの)は0.5台として計算する。)。
・乗車定員11人以上の自家用自動車を1台以上使用している。
 ⑵副安全運転管理者を選任する必要がある場合
・自家用自動車を20台以上使用している。

3 アルコール検知器の導入が必要!?
改正前には、酒気帯びの有無の確認方法の具体的な定めがなく、確認内容を記録することは義務付けられていませんでした。改正法では、令和4年4月1日施行の部分で、安全運転管理者の業務として、「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について当該運転者の状態を目視等で確認すること」、「確認の内容を記録し、及びその記録を1年間保存すること」が明確に定められました。そして、同年10月1日施行の部分で、運転者の状態を目視等で確認するほか、「アルコール検知器を用いて確認を行うこと」、「アルコール検知器を常時有効に保持すること」が義務付けられました。事業者は、10月1日までにアルコール検知器を確保する必要があります。また、アルコール検知器を「常時有効に保持」とは、正常に作動し、故障がない状態で保持することを意味しますので、定期的に故障の有無を確認する必要があり、故障に備えて、予備を用意しておく必要もあるかもしれません。

4 事業所を出入りするたびにアルコール検知器によるチェックが必要か?
 最近、「営業のために頻繁に従業員が社用車で出入りするが、その運転の直前直後にその都度酒気帯びの有無を確認しなければならないのか。」という相談がありました。通達では、「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者」における「運転」とは、一連の業務としての運転をいい、酒気帯び確認は、必ずしも個々の運転の直前又は直後にその都度行わなければならないものではなく、運転を含む業務の開始前・出勤時、及び終了後・退勤時に確認することをいうと解されています。通達の解釈によると、頻繁に社用車の出入りがあるとしても、業務の開始時・終了時、あるいは、出勤時・退勤時に酒気帯びの有無の確認を行えばよいということになります。

5 飲酒運転と使用者の責任
従業員が、業務中に飲酒運転で交通事故を起こした場合、基本的に不法行為の要件を満たし、従業員は被害者に対して損害賠償責任を負います。また,業務中の事故であれば,企業も、使用者責任等により損害賠償責任を負うリスクがあります。死亡事故の場合、賠償金が多額になる可能性がありますので、従業員はもとより、会社も各種任意保険への加入が必要です。保険の契約上、飲酒運転の場合に保険金が支払われるかどうかを確認しましょう。 

6 飲酒運転撲滅と企業への社会の期待
令和3年6月28日に千葉県八街市で発生した飲酒運転により児童5人が死傷した事故を受けて、今回の法改正がなされたようです。今後、業務中の酒気帯び運転による事故が発生した場合、事業者が安全運転管理者の選任等の義務を履行していなかった際に、社会から強い非難を浴びる可能性があることは明白です。見方を変えると、飲酒運転撲滅のために企業の協力が期待されています。対象となる事業者は、法改正の意義を理解し、適切な対応が必要です。道路交通法に限らず、法改正への対応については、弁護士にご相談ください。

振込先を間違った!誤振込みの法律問題

(質問)
 ⅩはA名義の普通預金口座に5000万円を振り込むため,Y銀行B支店に振込依頼をしましたが,Ⅹは誤ってZ名義の普通預金口座を受取口座に指定しました。これにより,同口座に5000万円の入金記帳がなされました。Xは、これに気づき,金融機関に連絡しましたが,Zはすでに入金された金銭全額を引き出していました。
 この場合、どのような法律関係になるでしょうか。

(回答)

1 誤振込みの法律問題
振込依頼人が誤った口座を受取口座に指定してしまい、金融機関がこれに従って入金処理をしてしまったような場合を誤振込みといいます。最近では、ある自治体が住民に対して新型コロナウイルス対策関連の給付金を誤って振込んでしまった事件が話題となっていましたが、これも誤振込みの事例の1つです。今回は、誤振込みが発生した場合の法律問題について、お話しします。

2 受取人は誤振込みにより預金債権を取得する!?
振込依頼人の錯誤により誤振込みが生じた場合、受取人と金融機関は、どのような法律関係になるでしょうか。判例では、振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対してその金額相当の普通預金債権を取得すると判断されています(最判平8・4・26民集50巻5号1267頁)。つまり、振込依頼人の錯誤により誤振込みが生じた場合、受取人は金融機関に対して預金債権を取得します。そのため、銀行実務では、振込先の口座を誤って振込依頼をした振込依頼人が、入金処理の完了後に申し出た場合、受取人の承諾を得て振込依頼前の状態に戻す手続き(組戻し)を行います。

3 振込依頼人から受取人に対する不当利得返還請求
誤振込みをした場合、組戻しができれば問題はありません。しかし、受取人が組戻しに応じなかった場合、振込依頼人は、受取人に対して、どのような請求を行うことができるでしょうか。確かに、受取人は振込金額に相当する預金債権を取得しますが、預金債権に相当する金銭的価値は、本来、振込依頼人に帰属すべきものです。そのため、振込依頼者は受取人に対し,誤振込みによって法律上の原因なく利益を受け、他人に損失を及ぼしたとして,不当利得返還請求をすることができます。
  ただし、預金を引き出されて、受取人にめぼしい財産がなくなってしまうと、強制執行が困難となります。そこで、予め、不当利得返還請求権を被保全権利として,預金債権の仮差押えをする必要があります。

4 受取人は刑事責任を負うか?
受取人は誤振込みにより預金債権を取得するとされますが、「振込依頼人が勝手に間違えたんだから、払い戻していいでしょ」とはいきません。受取人が誤振込みと知りながら払戻し等を受けた場合には、刑事責任を負う可能性があります。
誤振込みと知りながら、銀行窓口でその情を秘して預金の払い戻しを受けた場合、詐欺罪(刑法第246条1項),現金をATMから引き出した場合、窃盗罪(刑法第235条)、ATMで他の口座に振り替えた場合には、電子計算機使用詐欺罪(刑法第246条の2)が成立する可能性があります。
振込依頼人も、受取人も、誤振込みに気づいた際には、直ちに、金融機関に知らせて組戻しの手続きを採る対応が適切です。誤振込みに限らず、預金に関する法律問題も弁護士にご相談ください。

遺言書作成後の離婚と遺言の効力

(質問)
 AとXは夫婦であったところ、資産家であったAは、自分の死後に配偶者に対して財産を相続させようと思い、Xに対して全ての財産を「相続させる」旨の遺言書(以下「本件遺言」という。)を作成しました。ところが、AとXの関係性が悪化して、協議離婚をしました。その後、AはYと再婚し、Aが死亡した際、Aの相続人はYのみでした。Aが本件遺言書を失念して、破棄していなかった場合、本件遺言の効力はどのようになるでしょうか。 

(回答)

1 身分行為と遺言の撤回
事例において、本件遺言が有効である場合、Aの遺産が全て遺贈されてしまう可能性が考えられます。遺言は、元来、遺言者の最終意思を尊重して、それに効力を認める制度です。Aは配偶者であることを前提としてⅩのための遺言書を作成したのであれば、離婚後は財産を承継させる意思を有してなかったものと考えられ、本件遺言が有効となってしまうとAの意思に反した結果となってしまいます。そこで、このような場合、遺言を撤回したものとみなされるか否かが問題となります。
 民法では、遺言と遺言後の生前の処分その他の法律行為と抵触する場合、その抵触する部分については撤回したものとみなす(民法第1023条第2項)と定めています。ここでいう「法律行為」には身分行為も含まれると解されます。ただし、身分行為が含まれるとしても、遺言による財産処分行為がその後の生前身分行為と抵触するものとしてその撤回を認めるべきか否かは別に問題となります。
  これに関連する最高裁判決としては、終生の扶養を受けることを前提としたうえ、その所有不動産の大半を養子に遺贈する旨の遺言をした者が、その後養子に対する不信の念を強くしたため、協議離縁をし、法律上も事実上も扶養を受けないことにした場合、その離縁により遺言は撤回されたものであるとしたものがあります(最判昭56・11・13民集35・8・1251)。
  これを参考にすると、本件遺言の作成に婚姻関係が前提としてあったのであれば、その後、協議離婚という身分行為は本件遺言と抵触する行為であり、民法第1023条第2項により本件遺言は取り消したものとみなされる可能性があります。また、本件遺言が推定相続人であることを前提とした遺産分割方法の指定であると解すれば、婚姻関係の解消により推定相続人でなくなったことをもって抵触したと評価できるかもしれません。しかし、実際の裁判では、生前の意図や離婚に至った経緯などを主張立証したうえで、どのような事実認定がなされるか次第となるため、常に抵触すると判断されるかどうかはわからないというのが結論です。
  なお、逆に、前の配偶者に対して財産を遺贈したいと考えている場合でも、効力が争いとなる可能性があるということです。

2 その他遺言の撤回の方法
事例のケースでは手遅れですが、遺言を撤回するのであれば、そのままにせず、然るべき方法を採っておくことが賢明でしょう。遺言を撤回する方法としては、上記の前の遺言と抵触する法律行為をした場合の他後の遺言で撤回の意思表示をする方法、遺言者が遺言書を破棄する方法が考えられます。例えば、新たに遺言書を作成する際に、前の遺言を撤回する旨を明示する方法、自筆証書遺言の場合であれば破り捨ててしまう方法があります。相続に関して意思に反する結果を招くことがないように遺言の管理は適切に行う必要があります。遺言書の作成、相続に関するトラブルは弁護士にお気軽にご相談ください。

公益通報者保護法の改正にいかに向き合うべきか?

(質問)
 公益通報者保護法が改正されたと聞きましたが、どのような法律なのか教えてください。

(回答)

1 公益通報者保護法の改正
公益通報者保護法の改正法が令和4年6月1日に施行されたことはご存じでしょうか。公益通報者保護法とは、事業者の違法行為を内部通報した通報者を事業者による解雇等の不利益取扱いから保護する法律です。改正法では、事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制整備等の義務付け、その実効性確保のために行政措置の導入、通報する要件の緩和等の改正がなされました。そこで、今回は、改正法の内容とこれに対して企業がとるべき姿勢についてお話しします。

2 通報対応体制整備義務の新設
改正法では、事業者に対し、通報体制を整備することを義務付ける規定が新設されました。具体的には、①公益通報を受け、当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及び、その是正に必要な措置をとる業務(公益通報対応業務)に従事する者(公益通報対応義務従事者)を定めること、②公益通報に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとることを義務付けられました(通報対応体制整備義務)。企業は、消費者庁が公表している指針に従って通報対応体制整備等の措置をとる必要があります。ただし、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者(中小事業者)については努力義務です。

3 通報対応体制整備義務のポイント
通報対応体制整備につき、指針によれば、次のような措置をとる必要があります。通報受付窓口の設置、通報があった際の調査の実施、調査の結果、違法行為があった場合、是正措置を講じることが求められます。また、通報者の不利益取扱いを防止する措置や情報の範囲外共有を防止する措置、通報者の探索を防止する措置など公益通報者を保護する体制の整備が必要です。さらに、内部通報対応体制に関する教育、周知や内部規程の策定など内部公益通報体制を実効的に機能させる措置が必要になります。企業は、指針で求められる事項につき、公益通報対応規程を作成するなど公益通報があった場合に備えておかなければなりません。

4 中小事業者の努力義務とは?
通報対応体制整備義務が適切に履行されているかを確認するために、内閣総理大臣は、事業者に対し、報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができます。また、報告徴収に応じない場合や虚偽報告に対しては過料が課されます。そして、労働者の数が300人を超える事業者については、勧告に従わない場合、勧告に従わない旨を公表することができます。中小事業者は努力義務ですが、これに関しては、勧告に従わない場合、公表されるか否かが違うにすぎません。中小事業者も通報対応体制の整備に努めることを求められているということです。もっとも、どの程度の整備すべきかは、企業の規模ごとに検討する必要があるでしょう。例えば、労働者が少数の会社で内部に独立性の高い相談窓口の設置といった措置をとることは現実的ではありません。

5 その他の改正内容
その他に行政機関等への通報を容易にし、通報者をより保護する改正がなされました。以下で簡単に説明します。公益通報者として保護される者に、退職1年以内の退職者や原則として調査是正措置をとることに努めたことなどの一定の要件のもとで役員も追加されました。また、改正前は、対象法律に規定する罪の犯罪行為の事実が通報対象事実でしたが、改正法はこれに過料を理由とされている事実を追加して、通報対象事実の範囲が拡大されました。さらに、2号通報(処分又は勧告等をする権限を有する行政機関への通報)、3号通報(報道機関等への通報)の要件が緩和されました。加えて、改正前は、公益通報により事業者が損害を受けた場合の通報者の損害賠償責任を免除する規定は存在しませんでしたが、改正法では、事業者は公益通報により損害を受けたことを理由として、通報者に対して損害賠償請求をすることができないとしました。

6 企業はチャンスとらえるべし
事業者の不祥事が後を絶たず、コンプライアンスの徹底が求められる世の中で、今回の法改正は、「遅きに失した」という印象です。企業は、「なぜ密告者を守るんだ」などと否定的に捉えてはいけません。「人財」不足の時代に、法令も守れない企業に優秀な「人財」は集まりません。また、内部通報制度の整備には、社内の不正の早期発見、未然防止といった自浄作用の向上、ステークホルダーの企業への信頼感の向上といったメリットがあります。企業は、今回の法改正を自社のコンプライアンス体制を見直すチャンスととらえ、通報がなされないような企業体制の整備に努めるべきです。法令順守は当たり前とし、SDGsを含めた社会の期待に応えるような企業体制を整えましょう。公益通報者保護法の改正に備えた規定の整備、相談窓口の設置の通報対応体制の整備などでお困りの際には弁護士にお気軽にご相談ください。

個人情報保護法改正-何から始めたらいいの?-

(質問)
 改正された個人情報保護法(以下「改正法」といいます。)が施行されたと聞きました。改正法の概要を教えてください。 

(回答)

1 はじめに
2022年4月1日に、改正法が施行されました。今回の改正は事業者の皆様にとって非常に重要なものとなっています。
  今回の改正のポイントは、事業者に対して、個人情報を流出させないための対策の強化を要求するとともに、流出した場合の対応方法を準備するよう要求することにあります。 

2 個人の権利の在り方の見直し
改正法は、個人の権利の在り方について見直していますが、これは言い換えると本人からの求めに応じて事業者が対応すべき事項が増大することを意味しています。
たとえば、改正前個人情報保護法(以下「旧法」といいます。)では、本人が事業者に対して個人保有データの利用停止や消去を請求できるのは、事業者が目的外利用した場合や不正取得した場合に限定されていました。
それに対して改正法では、一部の法違反の場合に加えて、個人の権利又は正当な利益が害される「おそれ」がある場合にも、本人から個人データの利用停止・消去が請求できるようになります。権利利益が侵害される「おそれ」があるだけでよいため、利用停止等を請求することができる範囲は広範なものとなります。具体的には、個人情報取扱事業者が十分な安全管理措置を取っていない場合やダイレクトメールの送付を停止したにもかかわらず、繰り返し送付する場合などがあります。詳細については、個人情報保護委員会がガイドラインを制定しているのでそちらをご確認ください。
また、旧法でも、事業者が第三者に個人情報を提供する場合には、いつ、誰に対して、どのような情報を提供したかについて記録する必要がありましたが、改正法では、本人が事業者に対してそのような記録の開示を請求することができることになりました。
本人からの求めに応じて事業者が対応すべき範囲が拡大されたことに伴い、必然的に事業者がいつでもそれに応じられるよう準備しなければならなくなったため、事業者は個人情報の取扱いに関する内部規定を定めておく必要があります。 

3 事業者の守るべき責務の在り方の見直し
「事業者の守るべき責務の在り方」についての重要な変更点としては、個人情報の漏えいが発生し、個人の権利利益を害するおそれが大きい場合には、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務化されました。プライバシー性の高い個人情報が漏えいした場合や不正アクセスによるデータ漏えい、あるいは財産的被害のおそれがある漏えいの場合には、漏えいの報告を行う必要があるとされています。
  仮に個人情報の漏えいが発生した場合、発生してからどのように対処するべきか検討するのでは遅く、発生した場合に講ずべき措置についてまとめたフローチャートを事前に作成しておかなければなりません。対応の遅れによっては企業イメージが大きく損なわれることになります。 

4 早急に内部規定などの見直しを!!
改正法で見直された点は上記以外にも、外国にある第三者への個人データの提供時の本人への情報提供義務、安全管理のために講じた措置の公表義務、提供元では個人データに該当しないものの提供先において個人データとなることが想定される情報の第三者提供において本人同意があることの確認義務など多岐に渡っており、内容も複雑となっています。そのため、内部規定等を見直すにも時間がかかる可能性があります。
情報管理のミスは会社にとって致命的なミスとなりかねませんので、予め改正法に対応した内部規定を構築しておくことが重要です。また、構築するだけではなく、リスクマネジメントの一環として従業員に対する研修を実施するなど個人情報管理の重要性を周知させることも忘れてはなりません。
改正法に対応した内部規定を整備されていないという方は、お早めに弁護士にご相談されることをお勧めします。