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亡くなった入居者の家賃が未払いだった場合どうする?

(質問)
 私はアパートを経営しております。先日、入居者の老人が亡くなりました。
 家賃は数か月未払いとなっていますが、この方は預金の他、宝石類などの財産を残しています。
 未払い家賃を老人の預金から引き出したり、宝石を売却して返済してもらうことはできるのでしょうか?

(回答)

1 相続人の調査 
 たとえ家賃債権を持っていたとしても、勝手に預金から引き出したり、物を売却して債権回収をすることはできません。
 被相続人の債務は、預金等とともに相続人に承継されていますから、まず相続人を探して請求することになります。
 もっとも、相続人の調査は必ずしも容易ではありませんし、単に被相続人の債権者にすぎない場合は、調査の方法も限られます。

2 相続人が不在の場合 
 相談のような事例で、老人の相続人が見つからない場合、どのように処理されることになるでしょうか。
 この点、相続人不在の場合、利害関係人又は検察官が家庭裁判所に申し立てることによって、相続財産管理人を選任してもらうことができます。
 相談の事例では、相談者は被相続人に対する債権者ですから、利害関係人に当たります。

3 相続財産管理人の手続 
 相続財産管理人選任の申立てをすると、家庭裁判所は、相続財産管理人の選任を官報に公告し(通常、弁護士が選任されます)、2ヶ月以内に相続人が現れなかったときは、清算手続に入ります。
 相続財産管理人は、少なくとも2か月以上の期間を決めて、亡くなった人の債権者や受遺者に請求の申出をするよう官報に公告し、また既にわかっている債権者や受遺者に対して通知をします。
 その後、被相続人の遺産の中から債権者に支払いをします。遺産の中に不動産や宝石等の動産があるときは、相続財産管理人がこれらを競売して現金化した上で、債権者に支払うことになります。
 ここで、債権者が複数いて、すべての債権額が遺産の価額を上回るときは、債権額に按分して支払われることになります。 

4 相続人不在の確定と特別縁故者 
 上記の2度の公告をしても相続人の存在が明らかにならないときは、家庭裁判所は、6か月以上の期間を定めて最後の相続人捜索の公告をします。
 それでも相続人が現れないときは、相続人不存在が確定し、相続人や債権者、受遺者はもはやその権利を主張することができなくなります。
 また、相続人の不存在確定した場合、3か月以内に、亡くなった人と生計を同じくしていた者、亡くなった人の療養看護に努めた者その他の特別縁故者は、家庭裁判所に、遺産の全部もしくは一部を分与することを請求することができます。
 そして、分与がなされず、または一部の分与のみがなされたときは、残った遺産は国庫に帰属することになります。

5 相続人がいないケースの増加 
 近年、家族関係の希薄化もあり、独居老人などで、一定の遺産があるにもかかわらず、相続人が見つからないために処理に困るケースがあります。
 まずは弁護士にご相談ください。

相続放棄における熟慮期間の起算点の例外とは

(質問)
 私の父は半年ほど前に亡くなりましたが、父は年金と私からの仕送りで暮らしていたため、遺産は何もありませんでした。
 そのため、特別な手続はせずにいたのですが、先週、金融業者から連絡があり、父が知人の借金の保証人になっていたことを聞かされました。  
 私はどうすればよいのでしょうか?

(回答)

1 相続放棄の起算点 
 相続は包括承継ですので、積極財産だけではなく、消極財産も承継します。
 そのため、相続人が被相続人の債務の承継を避けるためには、相続放棄をする必要があります。
 そして、民法は、相続放棄が認められる期間(熟慮期間)について、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月」と定めています。
 したがって、①被相続人の死亡と、②自分が法律上相続人であることの2つの事実を認識した時から熟慮期間が起算されることになります。

2 債務の存在の認識 
 相談事例の場合、被相続人の死亡と自分が相続人であることを認識してから3か月以上経っていますので、もはや相続放棄は認められる余地がないようにも思えます。
 しかしながら、この点について判例は、相続人が上記①・②の事実を知った場合でも、「3カ月以内に相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況から見て当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるとき」には、熟慮期間の起算点の例外を認めています。
 そして、この場合、「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべき時」から熟慮期間を起算すべきとしています。
 今回の場合、被相続人が年金や仕送りで生活していたということや、相続人が被相続人と離れて暮らしていたなどの事情等から、相続財産、特に債務の存在をうかがい知ることができなかったということを考えると、相続債務を知った時から3か月間は相続放棄が認められる可能性があります。

3 相続分皆無証明書とは 
 相続放棄は要式行為であり、家庭裁判所への申述が必要です。
 手続自体は簡単なものですが、実際には、それほど頻繁に相続放棄の手続がなされているわけではありません。
 その代わりに、遺産分割協議などの際に、「相続人甲は、今回の相続に関して相続分はありません。」というような書面(相続分皆無証明書)を作成する場合があります。
 しかしながら、これは、相続財産について、自分の取り分を主張しないことを意味するに過ぎず、債務の承継を避けることができるものではありません。
 相続債権者からの請求に対して、相続分皆無証明書を根拠に履行を拒むことはできませんので、注意する必要があります。

遺産である賃貸マンションから生じた賃料債権は誰のもの?

(質問)
 Aは,賃貸マンション事業を営んでおり,年間600万円(10万円/月×12ヶ月×5室)の賃料収入がありました。
 そうであるところ,Aが死亡し,妻B及び子Cが相続人となりました。
 そして,遺産分割協議の結果,賃貸マンションはBが相続することになりましたが,遺産分割協議が成立したのはA死亡の1年後であったため,すでに600万円の賃料が発生しています。
このような場合,この600万円の賃料はだれが取得することになるのでしょうか?

(回答)

1 遺産分割協議の効果 
 この問題について,遺産分割協議の効果は法律上A死亡時まで遡るため(民法909条),賃貸マンションをA死亡時に遡って取得したBが,600万円の賃料も全て取得することになると思われるかもしれません。

2 賃料は遺産に属さない? 
 しかし,平成17年9月8日の最高裁判決により,この問題は次のように扱われます。
 すなわち,遺産である賃貸マンションから生じた賃料債権は遺産に属さず,相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するのです。
 この質問でいうと,600万円の賃料は,法定相続分に従って,B及びCがそれぞれ300万円ずつ取得することになります。
 なお,遺産分割協議成立後に発生する賃料は,賃貸マンションを相続したBが取得します。

3 賃借人の注意事項 
 ここで視点を変えて賃貸マンションの賃借人の一人であるEの側から見ますと,Eは,A死亡後遺産分割協議が成立するまでは,原則として,月10万円の賃料をB及びCにそれぞれ5万円ずつ支払わなければなりません。
 しかし,これでは煩雑なので,Eは,例えば供託したり,B一人に支払えば済むようにしたいと思うでしょう。しかし,まず供託について,債権者がB及びCと確定している以上,債権者不確知を理由に供託をすることはできません。
 次にB一人に支払えば済むようにするには,B及びCの了解をとる必要があります。仮にB及びCの了解をとらなかった場合には,法律上有効な弁済になりませんので注意が必要です。

4 相続問題は意外なことも 
 このように,相続においては,法律知識を押さえておかなければ思わぬ落とし穴に陥る危険が高いですので,弁護士にご相談されることをお勧めします。

生命保険金は相続財産に含まれない?

(質問)
 先日、父が亡くなりました。母は父より先に亡くなっていますが、父は数年前に再婚していたため、相続人は私と父の後妻の二人です。
 遺産は、自宅の土地建物と預金等を合わせて1000万円ほどですが、父は、後妻を受取人として2000万円の生命保険に入っていました。
 私は後妻が受け取った2000万円も含めて遺産分割をすべきだと考えていますが、そのようなことは可能でしょうか?

(回答)

1 生命保険金は遺産ではない 
 特定の相続人が保険金の受取人に指定されている場合、当該生命保険金請求権は相続財産にならないと解されています。生命保険金請求は、保険契約の効力の発生と同時に、受取人として指定された相続人の固有財産となると考えられるからです。
 そのため、本件でも、2000万円の生命保険金を含めて遺産分割するという相談者の要求は、法的には認められません。

2 特別受益にあたるか 
 さて、生命保険金が相続財産に含まれないとしても、これを受け取った相続人の特別受益として、持戻しの対象になると考えられないでしょうか。
 特別受益の持戻しとは、相続分の前渡しと評価できる生前贈与等について、計算上、相続財産に加算して相続分を算定する制度です。
 保険金請求権は受取人の固有財産である以上、相続分の前渡しとはいえないはずですが、その一方で、被相続人が生前に保険料を支払っていたおかげで保険金を受け取ることができるのですから、これを特別受益と考えないと、他の相続人との間で不公平にも思えます。
 この点、判例は、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、特別受益に準じて、持戻しの対象となると解しています。
 したがって、生命保険金は原則として特別受益にはならないものの、「特段の事情」がある場合には、持戻しの対象となる、ということになります。

3 持戻しの対象となる「特段の事情」 
 判例は、特段の事情について、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべき」としています。
 結局は総合判断であり、ケースバイケースということになりますが、本件の場合、被相続人が多額の保険料を払っていた場合には、相続財産の総額の二倍もの生命保険金が支払われていますので、特段の事情があると判断される可能性は十分にあります。

寄与分が認められる要件とは

(質問)
 父の死により相続が発生しましたが、私は、他の兄弟に比べ父の仕事を手伝ったり、同居して介護をしたりと献身的に尽くしてきました。
 兄弟で平等に遺産を分けるのは納得いきませんので、寄与分を主張したいと思ってます。
 どのような場合に認められますか?

(回答)

1 寄与分とは 
 まず、「寄与分」(民法第904条の2)とは、被相続分との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える行為で、かつ、それにより被相続人の財産を維持又は増加させたことをいいます。これが認められた場合、法定相続分よりも多くの遺産を取得することになります。民法では、寄与分が認められる要件として以下の3つを挙げています。

 (1)共同相続人による寄与行為
 (2)寄与行為が特別の寄与であること
 (3)寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加との間に因果関係があること

2 寄与の態様 
 また、 寄与の態様(具体的な行動)としては、次のことが考えられます。
 
  ・長男として父の事業を手伝ってきた
  ・被相続人の事業に資金提供をした
  ・被相続人の娘が仕事をやめて入院中の付き添いをしてくれたなどが該当します。
 さらに、寄与分が認められる為には「特別の寄与」であるかどうかが重要になり、
  ・報酬が発生しない「無償性」
  ・1年以上の長期間に渡って従事してきた「継続性」(概ね3年〜4年)
  ・片手間で行ってはいないという「専従性」
  ・被相続人との身分関係(妻、子、兄弟など)
 これらの要件を満たしていることが寄与分獲得に重要なポイントです。

3 寄与分が認められた裁判例 
 これまでの裁判例を分析すると、寄与分が問題となる事例は、家業従事、金銭支出、療養看護、扶養、財産管理等にまとめることができます。
 例えば,療養看護型として,被相続人について常時見守り介護が必要になった後,相続人が3度の食事や排便への対応にも気をつけるような状態になっていたことを認定し,特別な寄与があったことを認め,3年間分合計876万円(8000円×365×3)の寄与分を認めた裁判例があります(大阪家庭裁判所平成19年2月8日審判)。

4 金銭支出型 
 他方、金銭支出型として次の場合はどうでしょうか。相続人が実質的な一人会社を経営する会社に被相続人が取締役として就任し、会社から報酬を支払っていましたが、実際上は就労の事実はほとんどありませんでした。
 この場合、被相続人に対する報酬の支払が寄与分として認められるでしょうか。
 実質的には贈与とも考えられるため,寄与分と認定してもよさそうに思われます。  
 しかし,一般には寄与分の主張は難しいとされています。といいますのも,報酬の支払いはあくまで会社からの支払いであり個人からの贈与とは同視できないこと,被相続人としては会社に不動産を使用させていたり,実質的には会社経営に何らかの助力となっていたりする場合があること等があることから,被相続人の財産が増加したと認定することが困難な場合が多いからです。

5 寄与分の主張に対するリスク回避 
 いずれにせよ、被相続人との関係の密度の差が相続人間で生じることはやむを得ないところであり、心情的な不満が寄与分の主張としてなされる場合も多いと思われます。
 それらの紛争を防ぐためには、遺言を作成することが有効ですが、その内容も寄与分に適切に配慮したものとなっている必要があります。
 まずは弁護士にご相談されることをおすすめします。

どのような場合が特別受益に該当するか

(質問)
 遺産分割を行うに際し、兄弟から「あなたは父親からかなりの資金援助を受けていたから遺産分割では私が多くもらえるはずだ」などと言われました。
 このような主張は通るのでしょうか?

(回答)

1 特別受益になるか 
 まず、「特別受益」(民法第903条)とは、相続人が被相続人から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与を受けた場合をいいます。
 代表例は子が独立する際に新居のための土地を贈与する場合です。この場合、登記に贈与を行ったことが記載され明確になりますので、特別受益が存在するとの立証も容易になります。もっとも、多くの場合で問題になるのは現金をいくらもらった等の争いです。
 こちらについては客観的な証拠がないことが多く、立証が困難であることから、調停等でも特別受益であることが認められないことが多いといえるでしょう。
 なお、立証さえできれば何十年前の行為であっても「特別受益」に当たりますがこの点を認識されていないことも多いため盲点になりがちです。

2 教育費用の場合は 
 では、大学の授業料等の教育費用はどうでしょうか。
 高校以上の教育費用はすべて生計の資本としての贈与にあたるとする考えもあります(依頼者はむしろこのような考え方をされる方が多いと思います。)が、最近では、被相続人の資産や社会的な地位を考慮して扶養の範囲内といえる場合は特別受益に当たらないとされることが一般的とされています。
  これに関連して興味深い裁判例があります。相続人である子らは、それぞれ高等教育を受けていたものの進学先が異なったため支援額に差が生じました。そこで、相続人の一人が、高額の教育費を援助してもらったことは特別受益になると主張したものの、裁判所は、上記の場合でも、「通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般的」として、そのような差が生じたとしても、特別受益には該当しないと判断しました(大阪高裁決定平成19年12月6日)。
もっとも、扶養の範囲を超える場合や相続人間において援助額の差が著しい場合は特別受益に該当する可能性もありますので、その点は御注意ください。

3 持ち戻し免除の意思表示 
 なお、特別受益に該当する場合でも被相続人が持ち戻し免除の意思表示を行っていた場合、被相続人の意思が優先し、特別受益であることの主張ができなくなります。
 したがって、遺言作成にあたって特別受益が存在することが強く疑われる場合等では、遺留分に留意しつつ、持ち戻し免除の方法も検討すべきでしょう。
 後々トラブルにならないためにもまずは弁護士にご相談ください。

賃借権は相続されるか

(質問)
 夫が亡くなりました。賃貸の家に住んでいたのですが,夫名義で借りていました。
 今の家を出ていかなければならないのでしょうか?

(回答)

1 賃借権の相続 
 相続される財産というと,現金や預金といったイメージがありますが,他にも例えば,賃借権も相続できます(賃借権:賃貸借契約に基づき,賃借人が契約の目的物を使用・収益する権利)。
 したがって,夫が死亡した場合でも,妻や子どもは同じ家に住み続けることができます。
 ただし,内縁の妻の場合は,相続権がありませんので,賃貸人から明け渡しを求められる可能性があります。

2 生命保険金の相続 
 例えば,交通事故で亡くなったような場合は,遺族が加害者に対して損害賠償請求できますが,亡くなった方の慰謝料請求権を相続したとして,慰謝料の支払いも請求することもできます。
 では,このような場合に支払われる生命保険金は,相続できるでしょうか。
 実は,生命保険金は,相続財産に含まれないと考えられています。保険会社が受取人に支払うものですので,亡くなった方の財産が相続されているわけではないからです。
 同じように,会社から支払われる死亡退職金や遺族年金も相続財産に含まれないと考えられています。
 他には,仏壇やお墓なども相続財産には含まれません。

3 借金の相続 
 では財産ではなく,借金などの負の遺産はどうでしょう。
 借金は,相続されます。借金の場合は,死亡と同時に相続分に応じて分割されます。  
 例えば,夫が1000万円の借金を残して死亡し,妻と子ども1人がいる場合,妻と子どもはそれぞれ500万円ずつの借金を相続することになり,弁済を求められる可能性があります。
 同様に借金の連帯保証債務も相続されるのですが,責任の範囲が不明確な身元保証などの場合は,相続されされないと考えられています。
 相続される財産より借金の方が多い場合は,3か月以内であれば,相続を放棄できます。

4 早めな対応が必要 
 上記のように3か月という短い期間が決められている場合もありますので,不安な場合は,早めに弁護士にご相談されることをお勧めします。

内縁関係の夫婦の相続はどうなる?

(質問)
 内縁の妻は,内縁の夫が死亡した場合,その財産を相続することができますか?

(回答)

1 内縁関係とは 
 内縁関係とは「事実上の夫婦関係であるが,婚姻成立要件を欠くため,法律上の夫婦と認められない男女の関係」をいいます。類義語で事実婚という言葉もあります。 

2 内縁の妻の相続権 
 まず,内縁の妻ですが,法律上相続権は認められていません。
 では,内縁の妻は内縁関係を解消した場合は財産分与を受けることができるのでしょうか。
 2人で築いた共有財産がある場合には,内縁の解消により財産分与の対象になります。基本的には法律上の夫婦が離婚した場合に準じて考えることになっています。 
 当事者で話し合いがつかない場合には,内縁関係での財産分与請求の調停又は審判を申し立てることができます。
 しかし,法律において,離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し,前者の場合には,財産分与の方法を用意し,後者の場合には相続により財産を承継させることで処理するものとしており,内縁の妻は夫の財産を相続することは原則としてできません。

3 内縁の夫が亡くなり,内縁の妻が相続できる場合 
 内縁の妻は,内縁の夫が亡くなった場合,必ずしも財産を取得できないわけではありません。
 2つの場合に分けて考えてみましょう。まず,①戸籍上の妻と子供がいる場合,次に,②戸籍上の妻も含め,その他誰も相続人がいない場合です。
 ①の場合は,前述のとおり,内縁の夫の財産を相続することはできません。
 ただし,内縁の妻は,労災保険法や厚生年金法では,戸籍上の妻と同等の保護を受けることができます。
 しかし,財産形成に貢献した内縁の妻が全く相続する権利を主張できないのは不合理であるため,不動産の取得費用を拠出したとか,生計を助けて貯蓄をして家を買ったというような,特別な事情がある場合,その実質を見て所有権を確定する,つまり共有を認めるという考え方が認められています。
 次に②ですが,相続人がいないことになるので,原則として,夫の財産は国に帰属することになります。しかし,例外的に,内縁の妻は,「特別縁故者」として,家庭裁判所で財産分与を受けることができます。
 特別縁故者とは,亡くなった人と特別の縁故があったということを理由に,相続人がいないことが確定した際,相続財産の分与請求をすることによって家庭裁判所から相続財産の分与ができる者のことをいいます。
 例えば,亡くなった人と生計を同じくしていた者,亡くなった人の療養看護に努めていた者,その他亡くなった人と特別な縁故があった者です。
 なので,亡くなった人と生計を同じくしていたと言えれば,内縁の妻も特別縁故者と認められると思います。

4 内縁の妻が確実に財産を相続するには 
 戸籍上の妻といった相続人がいる場合,内縁の妻が財産を確実に相続するには,遺言で内縁の妻に遺贈するという遺言を残してもらうことです。
 ただし,法定相続人の遺留分を侵害すると遺留分減殺請求を受けることがあります。

斜線が引かれた遺言書は無効?

(質問)
 遺言書が見つかりましたが斜線が引かれていました。
 この遺言書の効力はないのでしょうか?

(回答)

1 裁判例 
 平成27年11月20日,赤ペンで斜線が引かれた自筆証書遺言の効力に関して,最高裁判所の判断が出されました。
 この事案は,文字の上に,左上から右下にかけて赤ボールペンで大きく斜線が引かれていた自筆証書遺言の効力が争われていたものです。
 当該遺言書は財産の大半を長男に相続させるという内容であったため,相続の対象から外れた長女が「父が書き損じた年賀状にも同じように斜線が引かれている」,「遺言書は無効」と主張し提訴していたものです。
 1審・2審では,斜線を引いたのは被相続人である父親であると認定したものの,「文字が読める程度の消し方では遺言を撤回したとはいえない」として,遺言書は有効であるとしていたため,最高裁判所の判断が注目されていました。

2 遺言の撤回とは 
 まず,民法1022条では,「遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と規定されています。
 そして,民法1024条では,「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは,その破棄した部分について,遺言を撤回したものとみなす。」と規定されています。
 赤い斜線がこの「破棄」に該当するかが問題となります。
 黒く塗りつぶしたりして文面を読めないような状態であれば,「破棄」にあたると考えられていましたが,本件の斜線のように文面が読める状態で消した場合まで「破棄」にあたるかが学説上争われていたのです。
 このように学説上争われていた理由は,民法968条2項とのバランスにあります。すなわち,民法968条2項は「自筆証書中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。」として,「加除その他の変更」については,「付記」「署名」「印」という厳格な手続きを要求していることとの均衡の問題があるのです。
 今回の最高裁判決は,「一般的な意味に照らして,遺言の効力を失わせる意思の表れ」として,遺言書の無効を認めたので,本件問題点は解決をみたといってよいと考えられます。

3 相続を争族にしないためには? 
 このように今回は最高裁判所の判決で遺言書が無効とされましたが,そもそも,斜線は誰が引いたのかという前提問題において被相続人が引いたと認定されない可能性もあります。
 そのため,自筆証書遺言を撤回する場合には,物理的に破り捨てるか,撤回する旨を記載して日付・署名・押印をする必要があります。
 自筆証書遺言は,手軽に費用をかけずに作成できる点がメリットではありますが,遺言書の文言を巡って争いになったり,撤回の有無で問題となったりする可能性があります。   
 費用はかかりますが,公正証書遺言を作成しておけば後の紛争を予防できる可能性が高くなりますので,公正証書遺言の作成をお勧めします。
 遺言作成に関して,分からないことがある場合には弁護士にご相談下さい。

遺言書を隠匿したらどうなる?

(質問)
 父が亡くなり、遺言書が見つかりました。しかし、あまりにも私に有利な内容の遺言であったことから、兄や弟と揉めるのも嫌なので、遺言書を隠してしまいました。
 遺産分割は兄弟全員で協議して行ったのですが、後になって、遺言書があったことを知った兄が、私が遺言書を隠匿していたのだから相続欠格者であると言い出しました。
 私はどうすればよいでしょうか。

(回答)

1 相続人資格を失う場合 
 遺言がある場合でも、それと異なる遺産分割を禁止するものでない限り、相続人が協議によって分割することは自由です。
 今回の相談では、遺言書があるにも関わらず、一部の相続人がそれを隠したまま遺産分割をしようとしたことが問題となります。
 この点、民法では、一定の相続欠格事由がある場合には、相続人としての資格を認めないものとしており、被相続人らの生命を侵害する行為や、詐欺・脅迫によって遺言を作成させたり、これを妨害するなどの行為が定められています。
 また、被相続人の遺言書を偽造・変造、破棄、隠匿する行為も欠格事由と定められています。
 今回のケースでは、相談者は、遺言書を隠匿したといえますので、少なくとも形式的には、相続欠格事由に該当することになります。

2 相続欠格事由の二重の故意 
 ところで、相続欠格の要件として、民法の定める相続欠格事由に該当する行為のほかに、このような行為によって不当な利益を得ようとする動機ないし目的(いわゆる二重の故意)を要するか否かという議論があります。
 この点、判例は、自己に有利な遺言書を破棄又は隠匿した相続人について、相続に関して不当な利益を得ることを目的とするものでなかったときは、相続欠格者にはあたらないものと判断しています。
 これは、遺言書の破棄・隠匿を相続欠格事由とする趣旨は、遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して民事上の制裁を科すことにあるところ、遺言書の破棄・隠匿が不当な利益を得る目的でなかったときにまで相続人資格を失わせるという厳しい制裁を科すことは、相続欠格事由の趣旨に沿わないという理由です。
 そうすると、今回のケースでは、自己の不当な利益を得る目的で遺言書を隠匿したわけではありませんので、相続欠格者にはあたらないということになりそうです。

3 遺言書の偽造・変造の場合 
 押印がないため無効であった自筆証書遺言に相続人が押印して有効な外形を作出した事案でも、相続欠格が否定されたものがあります。
 形式的には遺言書の偽造・変造にあたるものの、相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現するためにその法形式を整える趣旨で押印行為をしたにすぎず、遺言に関し著しく不当な干渉行為をしたとはいえないことが理由です。
 以上のように、判例実務では、形式的な欠格事由だけでなく、不当な利益を得ようとする目的(二重の故意)が必要であると解されています。条文には書かれていない要件ですので、注意する必要があります。