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寄与分が認められる要件とは

(質問)
 父の死により相続が発生しましたが、私は、他の兄弟に比べ父の仕事を手伝ったり、同居して介護をしたりと献身的に尽くしてきました。
 兄弟で平等に遺産を分けるのは納得いきませんので、寄与分を主張したいと思ってます。
 どのような場合に認められますか?

(回答)

1 寄与分とは 
 まず、「寄与分」(民法第904条の2)とは、被相続分との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える行為で、かつ、それにより被相続人の財産を維持又は増加させたことをいいます。これが認められた場合、法定相続分よりも多くの遺産を取得することになります。民法では、寄与分が認められる要件として以下の3つを挙げています。

 (1)共同相続人による寄与行為
 (2)寄与行為が特別の寄与であること
 (3)寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加との間に因果関係があること

2 寄与の態様 
 また、 寄与の態様(具体的な行動)としては、次のことが考えられます。
 
  ・長男として父の事業を手伝ってきた
  ・被相続人の事業に資金提供をした
  ・被相続人の娘が仕事をやめて入院中の付き添いをしてくれたなどが該当します。
 さらに、寄与分が認められる為には「特別の寄与」であるかどうかが重要になり、
  ・報酬が発生しない「無償性」
  ・1年以上の長期間に渡って従事してきた「継続性」(概ね3年〜4年)
  ・片手間で行ってはいないという「専従性」
  ・被相続人との身分関係(妻、子、兄弟など)
 これらの要件を満たしていることが寄与分獲得に重要なポイントです。

3 寄与分が認められた裁判例 
 これまでの裁判例を分析すると、寄与分が問題となる事例は、家業従事、金銭支出、療養看護、扶養、財産管理等にまとめることができます。
 例えば,療養看護型として,被相続人について常時見守り介護が必要になった後,相続人が3度の食事や排便への対応にも気をつけるような状態になっていたことを認定し,特別な寄与があったことを認め,3年間分合計876万円(8000円×365×3)の寄与分を認めた裁判例があります(大阪家庭裁判所平成19年2月8日審判)。

4 金銭支出型 
 他方、金銭支出型として次の場合はどうでしょうか。相続人が実質的な一人会社を経営する会社に被相続人が取締役として就任し、会社から報酬を支払っていましたが、実際上は就労の事実はほとんどありませんでした。
 この場合、被相続人に対する報酬の支払が寄与分として認められるでしょうか。
 実質的には贈与とも考えられるため,寄与分と認定してもよさそうに思われます。  
 しかし,一般には寄与分の主張は難しいとされています。といいますのも,報酬の支払いはあくまで会社からの支払いであり個人からの贈与とは同視できないこと,被相続人としては会社に不動産を使用させていたり,実質的には会社経営に何らかの助力となっていたりする場合があること等があることから,被相続人の財産が増加したと認定することが困難な場合が多いからです。

5 寄与分の主張に対するリスク回避 
 いずれにせよ、被相続人との関係の密度の差が相続人間で生じることはやむを得ないところであり、心情的な不満が寄与分の主張としてなされる場合も多いと思われます。
 それらの紛争を防ぐためには、遺言を作成することが有効ですが、その内容も寄与分に適切に配慮したものとなっている必要があります。
 まずは弁護士にご相談されることをおすすめします。

どのような場合が特別受益に該当するか

(質問)
 遺産分割を行うに際し、兄弟から「あなたは父親からかなりの資金援助を受けていたから遺産分割では私が多くもらえるはずだ」などと言われました。
 このような主張は通るのでしょうか?

(回答)

1 特別受益になるか 
 まず、「特別受益」(民法第903条)とは、相続人が被相続人から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与を受けた場合をいいます。
 代表例は子が独立する際に新居のための土地を贈与する場合です。この場合、登記に贈与を行ったことが記載され明確になりますので、特別受益が存在するとの立証も容易になります。もっとも、多くの場合で問題になるのは現金をいくらもらった等の争いです。
 こちらについては客観的な証拠がないことが多く、立証が困難であることから、調停等でも特別受益であることが認められないことが多いといえるでしょう。
 なお、立証さえできれば何十年前の行為であっても「特別受益」に当たりますがこの点を認識されていないことも多いため盲点になりがちです。

2 教育費用の場合は 
 では、大学の授業料等の教育費用はどうでしょうか。
 高校以上の教育費用はすべて生計の資本としての贈与にあたるとする考えもあります(依頼者はむしろこのような考え方をされる方が多いと思います。)が、最近では、被相続人の資産や社会的な地位を考慮して扶養の範囲内といえる場合は特別受益に当たらないとされることが一般的とされています。
  これに関連して興味深い裁判例があります。相続人である子らは、それぞれ高等教育を受けていたものの進学先が異なったため支援額に差が生じました。そこで、相続人の一人が、高額の教育費を援助してもらったことは特別受益になると主張したものの、裁判所は、上記の場合でも、「通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般的」として、そのような差が生じたとしても、特別受益には該当しないと判断しました(大阪高裁決定平成19年12月6日)。
もっとも、扶養の範囲を超える場合や相続人間において援助額の差が著しい場合は特別受益に該当する可能性もありますので、その点は御注意ください。

3 持ち戻し免除の意思表示 
 なお、特別受益に該当する場合でも被相続人が持ち戻し免除の意思表示を行っていた場合、被相続人の意思が優先し、特別受益であることの主張ができなくなります。
 したがって、遺言作成にあたって特別受益が存在することが強く疑われる場合等では、遺留分に留意しつつ、持ち戻し免除の方法も検討すべきでしょう。
 後々トラブルにならないためにもまずは弁護士にご相談ください。

賃借権は相続されるか

(質問)
 夫が亡くなりました。賃貸の家に住んでいたのですが,夫名義で借りていました。
 今の家を出ていかなければならないのでしょうか?

(回答)

1 賃借権の相続 
 相続される財産というと,現金や預金といったイメージがありますが,他にも例えば,賃借権も相続できます(賃借権:賃貸借契約に基づき,賃借人が契約の目的物を使用・収益する権利)。
 したがって,夫が死亡した場合でも,妻や子どもは同じ家に住み続けることができます。
 ただし,内縁の妻の場合は,相続権がありませんので,賃貸人から明け渡しを求められる可能性があります。

2 生命保険金の相続 
 例えば,交通事故で亡くなったような場合は,遺族が加害者に対して損害賠償請求できますが,亡くなった方の慰謝料請求権を相続したとして,慰謝料の支払いも請求することもできます。
 では,このような場合に支払われる生命保険金は,相続できるでしょうか。
 実は,生命保険金は,相続財産に含まれないと考えられています。保険会社が受取人に支払うものですので,亡くなった方の財産が相続されているわけではないからです。
 同じように,会社から支払われる死亡退職金や遺族年金も相続財産に含まれないと考えられています。
 他には,仏壇やお墓なども相続財産には含まれません。

3 借金の相続 
 では財産ではなく,借金などの負の遺産はどうでしょう。
 借金は,相続されます。借金の場合は,死亡と同時に相続分に応じて分割されます。  
 例えば,夫が1000万円の借金を残して死亡し,妻と子ども1人がいる場合,妻と子どもはそれぞれ500万円ずつの借金を相続することになり,弁済を求められる可能性があります。
 同様に借金の連帯保証債務も相続されるのですが,責任の範囲が不明確な身元保証などの場合は,相続されされないと考えられています。
 相続される財産より借金の方が多い場合は,3か月以内であれば,相続を放棄できます。

4 早めな対応が必要 
 上記のように3か月という短い期間が決められている場合もありますので,不安な場合は,早めに弁護士にご相談されることをお勧めします。

内縁関係の夫婦の相続はどうなる?

(質問)
 内縁の妻は,内縁の夫が死亡した場合,その財産を相続することができますか?

(回答)

1 内縁関係とは 
 内縁関係とは「事実上の夫婦関係であるが,婚姻成立要件を欠くため,法律上の夫婦と認められない男女の関係」をいいます。類義語で事実婚という言葉もあります。 

2 内縁の妻の相続権 
 まず,内縁の妻ですが,法律上相続権は認められていません。
 では,内縁の妻は内縁関係を解消した場合は財産分与を受けることができるのでしょうか。
 2人で築いた共有財産がある場合には,内縁の解消により財産分与の対象になります。基本的には法律上の夫婦が離婚した場合に準じて考えることになっています。 
 当事者で話し合いがつかない場合には,内縁関係での財産分与請求の調停又は審判を申し立てることができます。
 しかし,法律において,離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し,前者の場合には,財産分与の方法を用意し,後者の場合には相続により財産を承継させることで処理するものとしており,内縁の妻は夫の財産を相続することは原則としてできません。

3 内縁の夫が亡くなり,内縁の妻が相続できる場合 
 内縁の妻は,内縁の夫が亡くなった場合,必ずしも財産を取得できないわけではありません。
 2つの場合に分けて考えてみましょう。まず,①戸籍上の妻と子供がいる場合,次に,②戸籍上の妻も含め,その他誰も相続人がいない場合です。
 ①の場合は,前述のとおり,内縁の夫の財産を相続することはできません。
 ただし,内縁の妻は,労災保険法や厚生年金法では,戸籍上の妻と同等の保護を受けることができます。
 しかし,財産形成に貢献した内縁の妻が全く相続する権利を主張できないのは不合理であるため,不動産の取得費用を拠出したとか,生計を助けて貯蓄をして家を買ったというような,特別な事情がある場合,その実質を見て所有権を確定する,つまり共有を認めるという考え方が認められています。
 次に②ですが,相続人がいないことになるので,原則として,夫の財産は国に帰属することになります。しかし,例外的に,内縁の妻は,「特別縁故者」として,家庭裁判所で財産分与を受けることができます。
 特別縁故者とは,亡くなった人と特別の縁故があったということを理由に,相続人がいないことが確定した際,相続財産の分与請求をすることによって家庭裁判所から相続財産の分与ができる者のことをいいます。
 例えば,亡くなった人と生計を同じくしていた者,亡くなった人の療養看護に努めていた者,その他亡くなった人と特別な縁故があった者です。
 なので,亡くなった人と生計を同じくしていたと言えれば,内縁の妻も特別縁故者と認められると思います。

4 内縁の妻が確実に財産を相続するには 
 戸籍上の妻といった相続人がいる場合,内縁の妻が財産を確実に相続するには,遺言で内縁の妻に遺贈するという遺言を残してもらうことです。
 ただし,法定相続人の遺留分を侵害すると遺留分減殺請求を受けることがあります。

斜線が引かれた遺言書は無効?

(質問)
 遺言書が見つかりましたが斜線が引かれていました。
 この遺言書の効力はないのでしょうか?

(回答)

1 裁判例 
 平成27年11月20日,赤ペンで斜線が引かれた自筆証書遺言の効力に関して,最高裁判所の判断が出されました。
 この事案は,文字の上に,左上から右下にかけて赤ボールペンで大きく斜線が引かれていた自筆証書遺言の効力が争われていたものです。
 当該遺言書は財産の大半を長男に相続させるという内容であったため,相続の対象から外れた長女が「父が書き損じた年賀状にも同じように斜線が引かれている」,「遺言書は無効」と主張し提訴していたものです。
 1審・2審では,斜線を引いたのは被相続人である父親であると認定したものの,「文字が読める程度の消し方では遺言を撤回したとはいえない」として,遺言書は有効であるとしていたため,最高裁判所の判断が注目されていました。

2 遺言の撤回とは 
 まず,民法1022条では,「遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と規定されています。
 そして,民法1024条では,「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは,その破棄した部分について,遺言を撤回したものとみなす。」と規定されています。
 赤い斜線がこの「破棄」に該当するかが問題となります。
 黒く塗りつぶしたりして文面を読めないような状態であれば,「破棄」にあたると考えられていましたが,本件の斜線のように文面が読める状態で消した場合まで「破棄」にあたるかが学説上争われていたのです。
 このように学説上争われていた理由は,民法968条2項とのバランスにあります。すなわち,民法968条2項は「自筆証書中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。」として,「加除その他の変更」については,「付記」「署名」「印」という厳格な手続きを要求していることとの均衡の問題があるのです。
 今回の最高裁判決は,「一般的な意味に照らして,遺言の効力を失わせる意思の表れ」として,遺言書の無効を認めたので,本件問題点は解決をみたといってよいと考えられます。

3 相続を争族にしないためには? 
 このように今回は最高裁判所の判決で遺言書が無効とされましたが,そもそも,斜線は誰が引いたのかという前提問題において被相続人が引いたと認定されない可能性もあります。
 そのため,自筆証書遺言を撤回する場合には,物理的に破り捨てるか,撤回する旨を記載して日付・署名・押印をする必要があります。
 自筆証書遺言は,手軽に費用をかけずに作成できる点がメリットではありますが,遺言書の文言を巡って争いになったり,撤回の有無で問題となったりする可能性があります。   
 費用はかかりますが,公正証書遺言を作成しておけば後の紛争を予防できる可能性が高くなりますので,公正証書遺言の作成をお勧めします。
 遺言作成に関して,分からないことがある場合には弁護士にご相談下さい。

遺言書を隠匿したらどうなる?

(質問)
 父が亡くなり、遺言書が見つかりました。しかし、あまりにも私に有利な内容の遺言であったことから、兄や弟と揉めるのも嫌なので、遺言書を隠してしまいました。
 遺産分割は兄弟全員で協議して行ったのですが、後になって、遺言書があったことを知った兄が、私が遺言書を隠匿していたのだから相続欠格者であると言い出しました。
 私はどうすればよいでしょうか。

(回答)

1 相続人資格を失う場合 
 遺言がある場合でも、それと異なる遺産分割を禁止するものでない限り、相続人が協議によって分割することは自由です。
 今回の相談では、遺言書があるにも関わらず、一部の相続人がそれを隠したまま遺産分割をしようとしたことが問題となります。
 この点、民法では、一定の相続欠格事由がある場合には、相続人としての資格を認めないものとしており、被相続人らの生命を侵害する行為や、詐欺・脅迫によって遺言を作成させたり、これを妨害するなどの行為が定められています。
 また、被相続人の遺言書を偽造・変造、破棄、隠匿する行為も欠格事由と定められています。
 今回のケースでは、相談者は、遺言書を隠匿したといえますので、少なくとも形式的には、相続欠格事由に該当することになります。

2 相続欠格事由の二重の故意 
 ところで、相続欠格の要件として、民法の定める相続欠格事由に該当する行為のほかに、このような行為によって不当な利益を得ようとする動機ないし目的(いわゆる二重の故意)を要するか否かという議論があります。
 この点、判例は、自己に有利な遺言書を破棄又は隠匿した相続人について、相続に関して不当な利益を得ることを目的とするものでなかったときは、相続欠格者にはあたらないものと判断しています。
 これは、遺言書の破棄・隠匿を相続欠格事由とする趣旨は、遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して民事上の制裁を科すことにあるところ、遺言書の破棄・隠匿が不当な利益を得る目的でなかったときにまで相続人資格を失わせるという厳しい制裁を科すことは、相続欠格事由の趣旨に沿わないという理由です。
 そうすると、今回のケースでは、自己の不当な利益を得る目的で遺言書を隠匿したわけではありませんので、相続欠格者にはあたらないということになりそうです。

3 遺言書の偽造・変造の場合 
 押印がないため無効であった自筆証書遺言に相続人が押印して有効な外形を作出した事案でも、相続欠格が否定されたものがあります。
 形式的には遺言書の偽造・変造にあたるものの、相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現するためにその法形式を整える趣旨で押印行為をしたにすぎず、遺言に関し著しく不当な干渉行為をしたとはいえないことが理由です。
 以上のように、判例実務では、形式的な欠格事由だけでなく、不当な利益を得ようとする目的(二重の故意)が必要であると解されています。条文には書かれていない要件ですので、注意する必要があります。

親子は法律上縁を切ることができるか?

(質問)
 私の娘は,中学校に入学した頃から悪い友人と交際するようになり,頻繁に家出をしたり警察に補導されたりするようになりました。成人した後も仕事をせず,どこに住んでいるのかわかりませんが,暴力団関係者の男と同棲しているようです。
 また,色々なところからお金を借りているようで,一度は500万円の借金を私が肩代わりしたこともあります。
 将来,このような娘に先祖伝来の土地を相続させるわけにもいきませんし,娘とは親子の縁を切りたいと思っています。
 法律上縁を切ることはできるでしょうか?

(回答)

1 法律上,「勘当」という制度はない 
 日常では,親子の縁を切るという意味で,「勘当する」という言葉が使われることがあります。
 しかし,法律上は,このような制度を定めた法律はありません。
 養子縁組に基づく親子関係であれば,離縁することで解消することができますが,実親子については,法律上の親子関係を解消する方法はないのです。

2 親子関係の修復 
 今回の相談内容のようなケースでは事実上難しいかもしれませんが,親子関係の悪化に何か原因がある場合,冷静に話し合うことで親子関係が修復できる場合もあります。   
 そのための一つの方法として,家庭裁判所に対して,親子関係調整の調停を申し立てることが考えられます。
 調停委員や裁判官などの第三者に言い分を聞いてもらうことで,互いの誤解やわだかまりが解け,意外にすんなりと和解ができる場合もあるのです。

3 排除とは 
 今回のケースで,どうしても娘に遺産をやりたくないと考える場合,どうすればよいでしょうか。
 まず,「娘には遺産を相続させない」旨の遺言書を作成する方法が考えられます。 
 これは最も簡便な方法ですが,この場合,遺留分まで奪うことはできないので,遺留分減殺請求がなされると一定の遺産は娘のものになってしまします。
 そこで,「相続人の廃除」という方法があります。これは,将来相続人となる者が,被相続人を虐待・侮辱したり,著しい非行がある場合に,相続権を失わせる制度で,廃除された推定相続人には遺留分も認められません。
 もっとも,相続人の廃除をするためには家庭裁判所の一審が必要となります。今回のケースでは,「著しい非行」にあたると判断される可能性は十分ありますが,被相続人の意思だけで相続人の廃除が認められるものではない点に注意が必要です。

4 親子関係は厄介なことも 
 親子関係というのは,通常,強い絆で結ばれている分,一度悪化すると厄介なものです。  
 法律の専門家に事案に応じた適切な法的アドバイスを受けることをお勧めします。

遺言書と遺留分はどちらが優先される?

(質問)
 母の遺言書には私には一切相続させない旨の記載がありました。
 遺留分という言葉は知っているのですが,遺言書と遺留分はどちらが優先されるのですか?

(回答)

1 遺留分 
 遺留分とは,一定の相続人が法律上最低限取得することを保証されている相続財産の一定の割合をいいます。
 被相続人は自分の財産を遺言で自由に処分できるのが原則です。しかし他方で,相続人は被相続人の相続財産を取得できるという期待を抱くのももっともな部分があるので,遺留分という制度が民法上規定されています。
 遺言の内容よりも遺留分が優先されます。

2 遺留分減殺請求 
 遺留分は民法で保証されているものですが、だからといって自動的に相続人の元にやってくるわけではありません。
 遺留分を受け取るには、「遺留分減殺(げんさい)請求」をする必要があります。
 しかも、この遺留分減殺請求は「相続開始または減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った日から1年以内」に請求しないと、権利を失くしてしまいます。
 遺留分を侵害されていることを知らなかった場合は、相続開始から10年以内であれば請求できますが、10年を経過すると請求ができなくなります。

3 遺留分減殺請求は弁護士にご相談を 
 上記に述べたとおり、遺留分減殺請求は請求期限もありますので、お早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

遺言の方式とは?

(質問)
 遺言の方式とは具体的にどのようなものですか?

(回答)

1 遺言の作成形式 
 遺言の作成形式については、民法で厳格に規定されており、これらの規定に違反して作成された遺言は、原則として無効になります。
 この規制の趣旨は、遺言者の生前の意思を正確に反映させるためですが、無効となった際の影響が大きいため、作成形式について正確に理解しておく必要があります。

2 特別方式 
 遺言の方式には普通方式と特別方式があります。
 特別方式は、死亡直前の緊急時遺言を除き、伝染病による隔離や船舶遭難等一般的ではない事態を想定していますので、関与することも稀だと考えられます。

3 普通方式 
 他方、普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
 公証人が関与する公正証書遺言には相応の費用が必要となるというデメリットもあることから自筆証書遺言の利用も多く、平成23年度の司法統計によれば、裁判所で検認した自筆証書遺言の数は年間1万5676件であり、しかも年々増加する傾向にあります。そこで、今回は特に自筆証書遺言に注目して御説明します。

4 自筆証書遺言の自署とは 
 自筆証書遺言では、遺言者が本文、日付及び氏名を自書し、押印することが必要となります(民法968条第1項)。
 ここで、自書要件について興味深い判例を御紹介しましょう。
 それは、遺言書を複写式のカーボン紙を用いて作成した場合において、自書したと言えるかが問題となった事案ですが、裁判所は、カーボン複写も辞書の方法として許されないわけではないと判断しました(最高裁平成5年10月19日判決)。 
 もっとも、偽造することが容易であることや後の筆跡鑑定で真正な筆跡か否かの判断が困難であるなどの理由から、カーボン複写方式は辞書にあたらないとしてこの判例を批判する見解も多く存在します。
 したがって、判例上、カーボン複写方式が認められていますが、実務上は慎重を期して、自筆の遺言書を作成しておくことをお勧めします。

5 書き損じの遺言の効力 
 では、うっかり書き損じた場合はどう対処すべきでしょうか。民法上、加除・訂正についても厳格な方式が要求されており、注意が必要です。通常の取引文書等に見られるような、二重線の上訂正印を押印するという方法では足りないのです。
 具体的には、変更の場所を指示・変更した旨を付記・変更についての署名を行う・変更場所への押印の4点を全て満たす必要があります。
 これらの要件を満たさない場合、加除・訂正部分のみが無効となるとの見解が一般的ですが、遺言自体を無効とすべきとの考え方もあります。
 このように、遺言方法については数々の制約が存在することから、作成の際には慎重すぎると言われる方がいいのかもしれません。

認知症の母は遺言書作成できない?

(質問)
 認知症の母がいるのですが,母が遺言書を作成することはできないのでしょうか。

(回答)

1 遺言が有効に成立するための条件 
 高齢化社会の進行や遺言の有効性が認知されてきたことに伴い、遺言、特に公正証書遺言の数は年々増加する傾向にあります。そこで、今回から数回にわたり、遺言書作成上の留意点を御説明いたします。
 まず、遺言が有効に成立するためには、遺言者に遺言能力があること、遺言の内容が法的に認められていること、法廷の遺言方式に則っていることが必要となります。

2 遺言能力 
 遺言能力が認められるためには、遺言時に15歳以上で意思能力があればよいとされています(民法961条・963条)。
 そして、一般の法律行為と異なり、未成年者や成年被後見人等制限行為能力者の法律行為を制限する規定の適用はありません(同法962条)。
 制限行為能力者であっても遺言が有効とされているのは、遺言者の意思の尊重という観点や遺言が遺言者の死後に効力を生じるものであり、制限行為能力者制度をそのまま適用する必要がないことなどの理由からです。
 遺言能力の有無を巡って問題となる事例の多くは、高齢者の意思能力を巡るものとなります。例えば、認知症の症状が見受けられる高齢者が遺言者となって遺言書を作成した場合などが典型例として想定されます。
 遺言能力の有無の判断基準としては、一般的に、遺言時における遺言者の精神状態、遺言内容、遺言に至る経緯(遺言の動機、受遺者や相続人との関係も含む。)等といった事情を総合的に考慮することとなりますので、このような事情について個別に検討する必要があります。
 ここで、通常、遺言能力が疑わしい遺言者の場合には、医師の診断を参考にすると考えられます。しかし、先に述べたように、遺言能力の判断には遺言者の精神状態以外の要素も考慮されますし、遺言能力の有無は最終的には法的な判断となりますので、医師の判断が絶対的であるというわけではありません。

3 遺言能力の判断の困難さ 
 このように、遺言能力の判断は遺言者本人の状況以外にも様々な事情の総合判断にならざるを得ないため、判断が難しい場面にも多く遭遇すると思いますが、遺言の有効性に関わる非常に重要な要件であることから、遺言書作成の際には、医師の診断を受けさせることはもちろん、後で遺言が無効となる事態を避けるために、それ以外の判断要素についても特に慎重に検討した上で、遺言書作成を行う必要があります。