投稿者「kobayashi」のアーカイブ

万引き犯人の写真公開

(質問)
 当店はコンビニエンスストアですが、万引きが多くて困っています。
 監視カメラに録画された映像があるのですが、犯人の顔写真を公開しても問題ないでしょうか。

(回答)

1 犯人の顔の公開 
 以前、おもちゃを万引きされた被害店舗が、その犯人の顔写真を公開しようとして、話題になりました。店側は、防犯カメラに写っていた万引きしたとする人物の画像を顔の部分が分からないように加工してホームページなどに掲載していましたが、「おもちゃを返さないと顔の画像を公開する」と警告していたので、この対応に賛否が分かれていました。
 販売している商品を盗られた店側の気持ちも理解できる点はありますが、盗んだものを返さないと顔写真を公開するというのは一種の脅しのような気もします。
 この店側の対応には、いくつかの法的問題が含まれています。

2 自力救済の禁止とは
 まず、万引き犯の顔写真を公開することを告げて盗られた物を取り返そうとする行為は、「自力救済の禁止」に該当する可能性があります。
 「自力救済の禁止」とは、権利を有する者が、その権利を侵害された場合に、法律の手続によらずに自力で権利を回復することをしてはいけないということをいいます。
 このケースでいうと、万引きされた商品の所有者である店が、犯人に対して、「顔写真を公開されたくなければ返しなさい」というように、自力でその商品を取り返すということをしてはいけないということです。

3 自力救済が禁止されている理由
 自救行為を認めると、権力・財力・腕力といった「力」のある者が正義ということになってしまいます。日本は法治国家であって、法律によって社会が成り立っているのですから、このような社会秩序を乱す行為は認めるわけにはいきません。いくら自分の所有する物が盗られたからといっても、「力」によって解決するのではなく、法律の手続に基づいて返還を求めなければならないということです。
 これが、自力救済が禁止されている理由です。

4 自力救済の問題点
 権利について、所有権という用語はよく聞かれると思いますが、これと似た概念の「占有権」があります。占有権とは、物に対する事実上の支配という状態そのものに法的保護を与えるというものです。
 例えば、他人から一時的に自転車を借りる約束をした場合に、その借りている自転車を事実上支配できるというものです。占有権は、どのように入手されたものでも(盗んだものであっても)ひとたび占有が開始されると権利として発生します。
 その占有権のある物を自力で奪い返すと、占有権侵害となって窃盗罪(刑法第235条、法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が成立したり、不法行為に基づく損害賠償請求がなされるリスクがあります。
 また、万引き犯の顔写真を公開してしまうと、その社会的評価が低下したとして、名誉棄損罪(刑法第230条第1項、法定刑は3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金)が成立したり、不法行為に基づく損害賠償のリスクも考えられます。

5 回答 
 貴社が万引き犯人の顔写真を公開すると、名誉毀損罪の成立のほか、万引き犯人から不法行為に基づく損害賠償請求を請求されるとともに、会社のレピュテーション低下のリスクがあります。
 貴社は、警察署に、被害者氏名不詳のまま、窃盗罪で告訴を行うべきです。

会社の製品に異物が混入してしまった場合,どんな罪に問われるの?

(質問)
 当社は食品製造会社です。
 時々,食品に異物が混入していたとニュースで話題になりますが,もし当社でも異物が食品に混入してしまった場合,法的にはどのような問題になるのでしょうか?

(回答)

1 食品衛生法違反とは 
 食品に異物が混入していた場合,食品衛生法違反になる可能性が考えられます。
 食品衛生法6条4号では,「不潔,異物の混入又は添加その他の事由により,人の健康を損なうおそれがあるもの」の販売等を禁止しています。

2 どんな罪に問われるのか 
 食品衛生法違反又はその疑いのある食品等について,回収命令又は食品等事業者による自主回収が行われ,厚生労働省食品安全部及び都道府県等食品衛生主管部(局)が公表を行った事例を掲載することになっています。 
 また,罰則として,3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられる可能性もあります。
 ちなみに余談ですが,食品衛生法62条では,乳児用のおもちゃについても,食品と同様に規制の対象としています。
 食品衛生法は口に入れられる可能性のあるものを対象として規制する法律ですから,乳幼児のおもちゃもそのような観点から安全性を確保しようとしているのです。

3 事後的な対応が大事 
 食品に異物混入が発覚した場合についてですが,私は混入した事実よりも,事後的な対応が非常に大事になると考えています。
 食品は,人の手によるか,または機械によって作られます。人が関わると細心の注意を払っても何らかのミスは生じますし,機械もいずれは必ず壊れるもので,壊れるタイミングによっては破片等が発見されず混入してしまいます。
 つまり,食品の異物混入を全くゼロにすることは現実的に難しいんです。
 もちろん,異物混入を限りなくゼロにする方策を採ることは必要ですが,それに加えて,世間では異物混入があった際の事後的な対応に注目しています。
 リスクマネジメントの観点から,事後的な対応でどうすればブランドイメージの低下をできる限り抑えることができるか,さらにはその逆境を乗り越えてジャンプアップすることができるかというところまで考えて,十分に対応を検討する必要があるといえます。
 その際のポイントは,①問題発覚から公表までの時間,②異物混入に対しての原因究明への取り組み方,③具体的な再発防止策,④責任があるのであれば誠心誠意の謝罪が大事であると思います。

マイナンバー制度の注意点とは

(質問)
 平成27年10月から「マイナンバー」が通知されましたが、どのような点に注意すればいいでしょうか?

(回答)

1 マイナンバー制度がついにスタート! 
 平成27年10月から、国民の一人ひとりにマイナンバーが割り当てられ、平成28年1月から、社会保障・税・災害対策の行政手続きでマイナンバーの利用が始まりました。
 マイナンバーとは、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(通称「マイナンバー法」)に基づいて、住民票を有する全ての人に付される番号のことです。
 この制度が実施される目的は、①公正・公平な社会の実現、②行政の効率化、③国民の利便性の向上です。

2 どんな場面で従業員のマイナンバーを使うのか 
 これにともない、会社でも従業員のマイナンバーを取り扱うことになります。それは、①源泉徴収票などを行政機関に提出するとき、②健康保険、厚生年金保険、雇用保険などを行政機関に提出するときがあげられます。このような用途のために、会社は、従業員からマイナンバーの通知を受ける必要があります。

3 従業員のマイナンバーを取り扱う場合の注意点 
 従業員からマイナンバーの通知を受ける際には、①利用目的の明示、②本人確認を遵守する必要があります。
 例えば、「給料の支払等に係る源泉徴収票の作成事務」「健康保険、厚生年金保険届出、申請、請求の事務」など利用目的については、複数の目的をまとめて明示することが可能です。個々の提出先を明示する必要はありません。利用目的を後から追加する場合には、改めて従業員に追加分を通知する必要があります。
 本人確認については、①マイナンバーが間違えていないかの確認、②マイナンバーを提供する者が実在する本人かの確認をする必要があります。
 その方法として、①個人番号カード(マイナンバーの通知後、市町村に申請して交付されるカード。マイナンバーなどが記載されている)の提示 ②住民票や運転免許証の写しをまとめて提示を依頼し、本人確認を行うことができます。

4 重い罰則に要注意 
 マイナンバー法は、個人に関する情報についての法律ということで、個人情報保護法と似ています。
 しかし、マイナンバー法は、個人情報保護法よりも重い罰則があります。例えば、マイナンバーを利用する事務に従事する者、または従事していた者が正当な理由なく、個人の秘密に属する事項が記録されたファイルを提供した場合には、4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその併科となります(マイナンバー法第67条)。
 さらに、従業員が上記行為をした場合には、雇用者である会社も同様に罰せられる可能性があります。
 このようなことから、マイナンバーの管理にあたっては、管理体制をしっかりと整備しておく必要があります。

5 マイナンバー制度の実施に備える 
 今後は、マイナンバーを用いた手続が必要になることから、これまでになかった新たなリスクが発生することが想定されます。リスクの把握と対策の構築は、制度の実施以前から行う必要があります。

高速道路で運転手が車外に出て事故に遭った場合の過失相殺とは

(質問)
 以前,高速道路で車外に出たところで後続車に轢かれ死亡したニュースがあったと思いますが,このような場合でも運転手が責任を問われるのですか?

(回答)

1 高速道路で車外に出た 
 質問の事故は,ある芸能人の方が自ら自動車を運転をしていて中央分離帯に衝突し,車外に出たところで後続車に轢かれたみたいですね。
 警察庁のデータによれば,交通事故で死亡した件数は減少傾向にあるものの,うち高速道路での死亡事故は平成22年から3年連続で増加しています。
 件数でいうと,22年は167件,23年は190件,24年は196件の死亡事故が高速道路で起きています。

2 刑事上の責任 
 交通事故を起こしてけがを負わせたら,以前は業務上過失傷害という罪に問われていましたが,交通事故の刑が被害者の感情からするとあまりにも軽かったので,現在は自動車運転過失致死傷罪という犯罪が平成19年に施行されています。
 従前の業務上過失致死傷罪では,5年以下の懲役もしくは禁錮,または100万円以下の罰金であったのに対し,新しく規定された自動車運転過失致死傷罪では,7年以下の懲役もしくは禁錮,または100万円以下の罰金と,刑期の上限が2年延びました。
 今回の場合だと,高速道路は文字通り自動車が高速で通行しているのですから,突然人が出てきてそれを避けることは難しいでしょう。
 よって,交通事故を起こした運転手は自動車運転過失致死罪に問われるでしょうが,少なくとも一般道での事故より,加害者の過失がないという方向に働きます。
 そうすると,刑罰についても執行猶予が付く可能性が高いのではないかと思います。

3 民事上の責任 
 民事上でも,人を轢いてしまったら不法行為に基づく損害賠償請求は避けられません。  
 死亡事故の場合は,数千万単位になることもよくあります。
 もっとも,被害者の方にも過失がある場合には,過失相殺によって減額されることになります。
 過失割合を判断するにあたって,実務で弁護士や裁判官がよく使う損害賠償額算定基準(通称赤い本)というものがあります。
 これによると,高速道路で運転手が車外に出て事故に遭った場合,被害者のほうにも50パーセントの過失があるとされています。過失割合はこれで確定というわけではなく,個々の事情に応じて加算要素や減産要素を検討して決めることになります。
 今回の事故では,芸能人が中央分離帯に衝突するという事故を起こしたことがきっかけとなっているようですから,芸能人の過失割合は50パーセントを超えることも考えられるでしょう。
 また,高速道路上で車外に出てきたというのではなく,自動車に乗らずに歩行者が高速道路へ侵入した場合には,そのこと自体で歩行者に重大な過失があるということで,80パーセントの過失相殺が認められることになっています。

4 注意一秒,怪我一生 
 高速道路ではもちろんですが,一般道でも,何が起こるかわからないので,自動車運転手と歩行者は双方とも細心の注意を払わないといけませんね。
 事故に遭った,あるいは事故を起こしてからでは遅いので,本当に事前の十分な注意が必要だと思います。
 もし事故を起こしてしまったらすぐに弁護士にご相談ください。

自転車事故のリスクとは

(質問)
 自転車に乗っていて,事故を起こすと,どのようなリスクがあるのですか?

(回答)

1 自転車のこんな乗り方はダメ 
 自転車も自動車と同じ車両です。
 自転車では,次の行為が処罰の対象となります。

 (1) 二人以上の並進
    2万円以下の罰金又は科料
 (2) 傘差し運転
    5万円以下の罰金
 (3) 飲酒運転
    5年以下の懲役又は100万円以下の罰金…忘年会,新年会シーズンは特にお気を付け下さい。
 (4) 夜間の無灯火
    5万円以下の罰金…大学生は特に無灯火が多いのが気になります。電気,付けてください!
 (5) 信号無視
    3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金
 (6) 携帯電話の使用
    5万円以下の罰金

2 平成25年1月24日(名古屋地裁判決) 
 これは,自転車側の過失が認められ65%の過失相殺がなされた事例です。
 自転車がふらつきながら進行し自動車と衝突し,自転車側の高校生が後遺障害等級併合6級に該当する傷害を負った事例では,裁判所は以下の趣旨の判断をしています。
 「原告は,手に携帯電話機を持って自転車を運転していた事実は認められないが,自転車がふらついても直ちに停止しなかった事実からは,原告が自転車の運転に対する集中力を欠き,又は,サドルの高さの適正な調整を怠るなど,原告の落ち度が小さいということはできない」
 このような判旨からは,携帯電話をもちながらフラフラと自転車に乗っていたことが認定されれば,65%よりも大きい過失相殺が認められる余地があるとも考えられます。

3 法令を遵守した自転車運転を 
 スマホが普及し,スマホの「ながら運転」をよく見かけるようになりましたが,このような裁判例が存在することを念頭に,法令を遵守した自転車運転を心がけるよう注意してください。

会社に自宅待機を命じられた場合,その間の給料はどうなる?

(質問)
 解雇とまでも言われないまでも,会社から,「仕事が減ったので自宅待機をしてほしい。」と言われた場合,その間の給料は仕事をしていない以上,もらえないのでしょうか?

(回答)

1 労働基準法 
 労働基準法では,会社の都合によって労働者が働けなかった場合の賃金に関する規定もあります。
 具体的には,休業手当というもので,休業の理由が会社にある場合は通常の給料に対して60%以上の平均賃金を支払わなければならないとしています。

2 もし休業手当を支払ってもらえなかったら 
 まず,会社に口頭で支払を求めるべきです。これに応じないときには,内容証明郵便により文書で支払を求めたり,支払督促や民事調停といった法的手段も考えられます。

3 休業手当に関して他の注意点 
 経営者の中には,いかなる場合でも休業手当として平均賃金の6割を支払えばいいと誤解している人も多いのですが,必ずしもそうではありません。
 昨今の世界的な景気の悪化など,外部の経済環境の悪化によって,経営者が自主休業を自ら回避することが不可能である場合とは違って,専ら,自主休業の原因が経営者の放漫経営などにある場合には,民法上,会社の「責めに帰すべき事由」があるとして,従業員の方は,休業期間中の給与全額を請求できる場合があります。
 また,休業手当の請求権は,2年間行使しないと時効により消滅しますので,早めに会社に請求してください。
  自宅待機を命じられているのに十分な給料の支払がないような場合には,すぐに労働基準監督者や弁護士に相談してください。

整理解雇が認められる要件とは

(質問)
 働いている会社から,突然,「不景気で仕事が減ったから解雇する。」と言われました。
 応じなければならないのでしょうか? 

(回答)

1 労働契約法 
 平成19年に成立した労働契約法という法律において,「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定されています。
 つまり,会社側の都合で従業員を好き勝手に解雇することはできないということで。

2 整理解雇 
 そして,今回の質問のケースは,経営上の理由による人員削減として行われる解雇ですので,整理解雇といいます。
 整理解雇についても,経営状況が悪化したからといって,会社は自由にできるものではありません。
 そして,整理解雇については,これまでの裁判例の蓄積もあり,一定の要件を満たして初めて認められます。

3 整理解雇が認められる4つの要件 
 1つ目は,会社が経営危機に陥っていて,人員整理の必要があることです。
 2つ目は,希望退職者の募集や配置転換・出向など,解雇を回避するために相当な努力をしたにもかかわらず,解雇をする必要性があることです。
 3つ目は,整理基準と人選の合理性です。解雇される者の選定基準が客観的かつ合理的であり,その具体的適用も公平でなければなりません。
 最後に,解雇手続が妥当であることです。すなわち,解雇対象の労働者や労働組合に対して,整理解雇の必要性やその内容,つまり,時期・規模・方法について十分な説明をし,誠意を持って協議しなければなりません。
 なので,本当に要件を満たしているのか会社に確認したり,ご自身でこの4要件に当てはまるかどうか確認する必要があります。

4 他に注意すること 
 仮に,解雇の4要件が満たされ,整理解雇が有効であったとしても,30日前の解雇予告または30日分以上の解雇予告手当が必要となります。
 つまり,解雇される場合であっても,きちんと手当が支給されるかどうか会社に確認する必要があります。
 ただし,2か月以内の労働契約の場合や使用期間中で働き始めてから14日以内の労働者については,会社は,解雇予告をしたり,解雇予告手当を支払ったりする義務を負いません。

履歴書にウソを書くとどうなる?

(質問)
 履歴書にウソを書くとどのようなペナルティーがありますか?

(回答)

1 解雇されるリスク 
 就活はまず「履歴書」からスタートします。
 しかし,「資格」や「免許」に書くものが無いという学生は珍しくないと思います。 
 提出先の企業に入社したいという想いが強いほど,就活に有利になりそうな「資格や免許を取得したことにしたい!」と思いウソを書きたくなる衝動に駆られることは理解できます。
 では,「履歴書にウソ」を書いた場合にはどのような法的問題があるのでしょうか。
 履歴書のウソは,裁判では「経歴詐称を理由とする懲戒解雇は有効か」という点で争われます。つまりは,履歴書のウソが明らかになったときに,それを理由に解雇されても文句は言えないのかという問題です。
 裁判例としては,JAVA言語のプログラミング能力がほとんどなかったにもかかわらず,経歴書にはJAVA言語のプログラミング能力があるかのような記載をした事例において,「重要な経歴を偽り採用された」として,就業規則に基づく懲戒解雇は有効であるとされたものがあります(東京地裁平成16年12月17日判決)。
 たしかに,専門的技能が求められる職場では,「実は,できませんでした」では会社は雇用した意味がないのです。この裁判例は市民感覚と一致します。

2 学歴を低く偽ると 
 では,逆に学歴を低く偽る場合はどうでしょうか。学歴を低く偽ったとしても会社に弊害はないだろうとの感覚が一般的な感覚でしょう。
 しかし,次のような判例があるので注意が必要です。
 大学を除籍中退していたにも関わらず履歴書に「高卒」と記載し,中卒または高卒対象の職種に応募し採用されていた事例で,これを理由の一つとする懲戒解雇は有効であるとされたものがあります(炭研精工事件最判平成3.9.19)。
 この事件の高裁判決は,最終学歴は労働力評価に関わるだけではなく,会社の企業秩序の維持にも関係する事項であることが明らかであり,(入社希望者は)これについて真実を申告すべき義務を有している旨判示しています。
 この高裁判決は,学歴のウソ自体が「会社の企業秩序を乱す」という見解に立っていることが分かります。

3 やはりウソはダメ 
 法はいったん採用した社員を解雇するには非常に厳しい規制をしてはいますが,経歴を詐称して入社した場合には詐称した方が悪いという態度をとっているように思えます。
 学生の皆さんは履歴書に限らず,ウソはまずいと認識すべきです。
 ばれるとまずいウソほどよくばれてしまいます。
 また,就活の時に困ることのないよう「資格」を取ることも一つの方法ですね。

コネ入社は違法ではないの?

(質問)
 コネ入社をよく周りで聞くのですが,これは違法ではないのですか?

(回答)

1 コネ入社とは 
 そろそろ就職戦線が始まっているころと思います。最近景気の回復の兆しがややみられるといわれているものの,大学生にとってはまだまだ就職活動の状況は堅調であるとは言い難いようです。
 そのような中,親御さんや大学の就職担当者としては,縁故採用(いわゆるコネ入社)であっても,何とかして学生の就職先を見つけたいと考えることもあるかもしれません。
 しかし,本来就職先は,学生が自分の力で就職試験を勝ち抜いて獲得するものとも思えます。そこで,縁故採用についてどのような法的問題があるかを考えてみたいと思います。

2 公務員の場合 
 地方公務員法や国家公務員法では,職員の任用は,法律の定めるところにより,受験成績,勤務成績その他の能力の実証に基いて行わなければならないと規定されています。このため,国や地方自治体が縁故採用をすることは,地方公務員法及び国家公務員法違反になります。
 公務員試験の受験要領を見ると議員等のいわゆる口利きにより採用されたことが発覚した場合には,採用を取り消す旨が記載されていることもあります。
 最近では,議員が口利き行為をした際に,その記録を取られて公表されたということもあったようです。

3 民間企業の場合 
 しかし,民間企業についてこのような規定は存在しません。民間企業が性別による差別(男女雇用機会均等法)など,法律が禁じている採用差別に該当しない限り,各企業は,自らの裁量で従業員として採用する者を決めることができます。
 最高裁判所の判例においても,三菱樹脂事件という有名な事件の判決においてこのような考えを採用していることがうかがえます。
 これは,個人だけでなく民間企業においても,憲法上の権利である営業の自由が保障されること等に基づくものです。つまり,どのような人物を採用するかに関しては,企業側の裁量が比較的幅広く認められています。(その反面として,いったん採用した職員を解雇するのは法は非常に厳しい規制をしています。)
 実際のところも,民間企業が取引先とのつながりを強めるために,縁故採用をするということは企業の戦略としてありうるものであり,直ちに違法というのは困難なケースが多いと考えます。このことからも明らかなように,民間企業が縁故採用をしたり,大学関係者が民間企業に縁故採用をお願いしたとしてもそのこと自体で法的な問題が生じる可能性は少ないと言えます。

4 企業や大学からみた場合の注意 
 ただし,あまりに縁故採用の者ばかりの企業だと,企業の活力がそがれてしまうようなケースもあると思います。
 また,厚生労働省は,企業に対して,採用の際には,「応募者の適性・能力のみを基準として採用選考を行うのが基本」と呼びかけているようです。
 いずれにせよ,学生の立場としては,学生時代に様々なことを通じて人間的にも能力的にも自分を磨き,縁故採用を用いなくても就職戦線を勝ち抜くことができるようになるということが重要であると思います。
 他方,大学においても,学生に対して,企業の魅力や将来性はもとより,企業がどのような人材を必要としているか等を積極的に学生に発信していき,学生に積極的に自分を磨いていこうと考えてもらえるような努力をしていく必要があると考えます。

交通犯罪と懲戒処分について

(質問)
 交通犯罪ではどのような懲戒処分が下されるか教えてください。
 特に,教員により厳しい懲戒処分が下される場合はあるのでしょうか?

(回答)

1 交通事故と懲戒処分 
 大変残念なことに、岡山県では、本年1月以降、県内の教員が窃盗未遂容疑、自動車運転処罰法違反容疑、県青少年健全育成条例違反容疑で逮捕されるという不祥事が相次いで発生しています。そして、教員等の不祥事は、往々にしてマスコミに取り上げられ、世間から厳しい目で見られる傾向にあります。
 犯罪というと大変遠い存在のように感じられるかもしれませんが、交通事故に限っていえば、誰もが犯しがちな犯罪であって、身近な存在です。
 反則金さえ支払えばそれで終わると考えておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、刑事上の責任としてはそれで終わるとしても、本号のテーマにあるように、懲戒処分の対象となる可能性は大いにあります。
 一例として、平成25年度に公立学校教職員で交通事故を理由として懲戒処分を受けた人は、なんと284人もいるのです(文部科学省HP)。
 今回は、軽く考えてしまいがちな交通犯罪と懲戒処分について検討したいと思います。

2 懲戒処分とは 
 懲戒処分とは、一般的に従業員の企業秩序違反行為に対する制裁罰をいいます。
 懲戒処分には、けん責・戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇などの種類があります。
 また、懲戒事由としては、経歴詐称、職務懈怠、業務命令違反、業務妨害、職場規律違反、従業員という地位・身分による規律の違反といったものがあります。
 懲戒処分は、予め就業規則に懲戒事由と手段が明確に定められていなければ、これをなすことはできません。
 したがって、どのような理由で、どのような懲戒処分がなされるかは、会社によって異なることとなります。

3 交通犯罪と懲戒処分 
 例えば、民間の会社では、勤務時間外の交通事故は、1で述べた懲戒事由の内、従業員という地位・身分による規律の違反という懲戒事由に該当する可能性があります。 
 そこで、就業規則で「不名誉な行為をして会社の名誉を傷つけたとき」等と定められていたとすると、従業員が交通事故を犯したという事実自体が会社の名誉を傷つけたとして、会社から懲戒処分を言い渡される事例が見受けられます。
 ただし、判例も、従業員の職場外の職務遂行に関係のない行為については、企業秩序に直接関連するもの及び企業の社会的評価を毀損するおそれのあるものが規制の対象になるとしており、職場外の行為を理由に常に懲戒処分をすることができるとはしていません。

4 職業による特性 
 とはいえ、例えば、大学等であれば、教職員という人を教える立場にある人物による犯罪であること、教職員の交通犯罪が大学の評判に大きく関わり、学生、保護者、志願者等の信頼を損ないかねないこと、交通事故に対する世間の目が厳しくなっていること等を考え合わせると、懲戒処分、場合によっては懲戒解雇が適法とされることは十分にあり得ます。
 県立高校の管理職(生徒を直接教育指導する立場ではない)にあった人物が夏祭りの打ち合わせの際に飲酒をした上で自動車を運転して帰宅中、検問を受けて酒気帯び運転が発覚し、罰金刑を受けたという事案(よって、交通事故を起こしたわけではない)において、免職処分を適法とした裁判例もあります。