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動産売買の先取特権と物上代位について

(質問)
 当社は材木業者(A)です。建設業者(B)から建築資材の注文を受けて納品しましたが、上棟の後にこの建設業者(B)が当社への材木代金を支払わないまま破産手続きを開始してしまいました。
 建設業者(B)は注文主(C)に対し請負代金請求を有しているので、当社(A)が請負代金債権に物上代位権を行使して債権回収を図ることはできないのでしょうか。
 また、建設業者(B)が注文主(C)から工事の一環として重機の設置を依頼され、当社が重機を搬入した場合に、建設業者(B)が破産手続きを開始した場合はどうでしょうか?

 当社(A) → → → 建設業者(B) → → → 注文主(C)
   動産売買代金債権 請負代金債権

(回答)

1 動産売買の先取特権と物上代位 
 民法321条は、「動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。」と規定しています。
 すなわち、動産を売却した売主は、売買代金債権を担保にするために、売却した動産自体に先取特権という担保を有するのです。
 また、同法304条1項本文は、「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債権者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。」と規定しています。
 これがいわゆる物上代位権という権利であり、売主が売却した動産が例えば転売によりお金に変わった場合に、売買代金債権の担保のために、動産が形を変えた価値そのものであるお金を渡すよう請求できる権利です(法律的には「交換価値を把握する」と言います。)。
 なお、この物上代位権は先取特権だけでなく抵当権などの担保権にも認められています。

2 物上代位の可否 
 以上を前提に、御質問のケースを検討しますと、貴社が納入した木材や重機の売買代金債権を担保するのに、建設業者の注文主に対する請負代金債権にかかっていいけるかという問題になります。
 まず、木材の事案については、大審院大正2年7月5日判決があり、請負代金請求に対する物上代位を否定しました。材木に工事が加えられた結果として請負代金債権になったので、請負代金債権は目的物の全部又は一部を直接代表としていないというのがその理由です。
 他方で、重機の事案については、最高裁平成10年12月18日決定において、請負代金債権に物上代位を肯定しました。こちらの判決では、請負代金債権は動産の転売による代金債権と同視できるとされたためです。
 両者の違いは、請負代金債権を転売等による代金債権と同視できるか否かにより生じています。
 すなわち、上記最高裁決定において、「請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容に照らして請負代金債権の全部又は一部を不動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある」と認められる場合には、物上代位権の行使が可能とされています。
 以上より、貴社の物上代位が認められるか否かは、貴社が動産を売却した後の請負工事の状況を勘案し、上記の「特段の事情」が認められるか否か判断されることとなります。

商品が腐っていたことを理由とするクレームへの対応

(質問)
 当社は、顧客Yから「当社の商品が腐っていてそれを食べてから体調が悪くなり、2~3日会社を休んだ。食中毒かもしれない。どう責任を取るのか。」などとクレームをつけられています。 
 当社はどのように対応すれば良いでしょうか。

(回答)

1 クレームリスク
 あくまでも個人的な感覚ですが、中小企業がさまざまな悪質クレームを受けるリスクは増えているのではないかと思われます。
 最近は「モンスタークレーマー」などの言葉も定着し、中小企業が顧客からのクレームの対応に追われることが多くなっています。   
 このようなクレームの中には、企業が責任を負うべき正当なクレームももちろんありますが、単なる言いがかりに過ぎない場合も少なくありません。
 企業としては、まず、事実確認や調査を行い、責任を負うべき内容のクレームかどうかをきちんと見極める必要があります。

2 クレームへの初動対応
 ①クレームが正当か不当かを確かめるために、Yの話をよく聞き、実関係を確かめます。
 5W1Hを意識して、メモを取って、時系列で整理します。
 矛盾や嘘だと思われることがあっても、この段階では反論しない方がいいです。
 相槌を打ったり、確認するため復唱することは有効な方法です。
 主語や目的語、数字の単位が省略されたりすることがあるので、確認すべきです。
 商品に不備があったのであれば、その商品を受け取ります。
 ご質問のケースでは、保健所で食品を調査してもらって、食中毒菌が混入しているかどうかの調査をしてもらうべきです。
②Yの要求を把握します。
  単なる苦情なのか、謝罪を求めているのか、商品の交換なのか、金銭を要求するのか。
 ③今後の方針を伝えます。
 事実関係を調査の上、対応しますということが基本ですが、ケースによっては時間がかかることも伝える必要があります。 
 ④連絡方法の打ち合わせをします。
 Yの氏名、住所、電話番号等を聞いていない場合は、こちらが氏名を名乗った上で尋ねてください。

3 最初の段階で行ってはならないこと 
 原因が判明していないにもかかわらず、自社に責任があるかのように謝罪してしまったり、補償させていただきますとか、前向きに検討させていただきますなどとつい言ってしまうと、Yに金銭がもらえるとの期待を抱かせてしまい、マイナスになります。

4 根拠がないクレームである場合 
 Yに対し、貴社の調査結果(落ち度はないこと)を分かりやすい言葉で誠実かつ丁寧に報告します。
 インターネット等で公開されるおそれがあるため、社内で作成した調査結果書の交付を要求された場合は断るべきです。
 場合によっては、相手方の要求に応じない旨の書面を会社名で作成し、配達証明付き内容証明郵便で送付します。

5 回答 
 貴社は、Yから商品を受け取って調査する必要があります。
 また、Yが体調が悪くなって、2~3日会社を休んだというのであれば、医師の診断書や会社の欠勤証明書の提出を求めることになります。
 その上で、Yの要求を確認して、それを検討することになります。

悪質なクレームへの対応方法

(質問)
当社は、暴力団風のYから「お前の所の店長は対応が悪い。このことをインターネットにアップして商売できんようにするぞ。」と脅されています。
店長やそれ以外の職員に確認したところ、Yが店内で大声で話をしていたので、静かにしてくださいと注意したところ、注文したのと違ったメニューが出てきたなどと言って逆ギレしてしまったとのことです。
Yとの面談において注意すべき点を教えてください。

(回答)

1 交渉担当者について 
クレーマーの中には、いわゆるモンスタークレーマーといわれる人や激情型の人も存在するので、相手の個性を踏まえた対応が必要となります。
Yとの面談は必ず複数で対応し、それぞれの役割分担を決めておきます(交渉担当者、メモを取る係、相手方の言動を観察し対応する係等)。
Yの氏名や住所等を確認して、それを明らかにしない場合は、退席してもらうべきです。

2 部屋で交渉する場合 
 対応者はすぐ退室できるようにするため、相手方は部屋の奥に座らせます。
 暴力のおそれがある場合は、湯呑や灰皿等何も置かないようにします。お茶も出さなくて結構です。

3 録音・録画について
 Yに黙って録音、録画をすることは、悪質なクレーム対応をしているという本件のような状況下では、何ら問題ありません。
 できる限り録音、録画を行い、証拠として残しておくべきです。

4 態度について
 Yが交渉者の態度に対して因縁をつけてくるリスクを踏まえて、誠実かつ毅然とした態度で対応することが必要です。

5 警察との連携
 Yが暴力を振るってきたとか、物を壊すなどして暴れているとか、帰ってくださいと言っても居座るなどの場合は、迷わず110番通報すべきです。
 Yが暴行、傷害等の犯罪を犯すリスクがある場合は、事前に警察に相談に行って、110番通報をした場合は、直ちに駆けつけてもらうか、このようなリスクが極めて高い場合は、警察に店内で待機してもらうように依頼すべきです。

6 弁護士への相談
 クレームの対応について、法的問題が絡むなど貴社だけの対応では困難だと判断したときは、初動対応や対応時の想定問答の点も含め、あらかじめ事前に弁護士に相談しておくべきです。

7 クレームの事後処理
 Yの情報、クレームの内容、事実調査の結果、対処した内容、交渉経緯等、今後に向けての改善策をまとめたクレーム処理調査表を作成します。

受忍限度の判断基準

(質問)
工事に伴う騒音や振動がどの程度まで許されるかは、「受忍限度」の範囲内か否かで判断されると聞きました。
では、「受忍限度」の範囲内か否かは具体的にどのように判断されるのでしょうか。

(回答)

1 受忍限度の判断
 「受忍限度」を超えているか否かの判断については、「侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察して決すベきものである」と判示した判例があります(最高裁判所平成10年7月16日判決)。

2 侵害行為の態様と侵害の程度 
 この点については、工事の具体的な作業内容、騒音や振動の性質、発生頻度や発生時間帯、継続時間、継続期間などにより判断されます。
 裁判例では、被害建物から15メートルの場所で、振動杭打機やクレーンを使用してスチールシートパイルの打込工事をした事案(横浜地方裁判所昭和60年8月14日判決)や、被害建物から6.5メートルの場所でマンション建設に伴うコンクリート打設工事が深夜や午後10時以降に及ぶことが度々あった事案(京都地方裁判所平成5年3月16日判決)などで受忍限度を超えると判断されました。

3 被侵害利益の性質と内容
 この点については、被害が難聴を発症したものや、振動により建物が損壊したり地盤沈下をもたらすような場合は、受忍限度を超えると判断される傾向にあります。
 他方、被害を裏付ける証拠がない場合や、証拠があっても具体性に欠ける場合、また騒音や振動の発生が短期間で一時的なものにとどまる場合は、受忍限度内とされる場合もあります。

4 被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容
 この点については、苦情が申し立てられたにもかかわらず建設業者が真摯に対応しなかった場合や、騒音や振動を容易に防止できる措置があったのにそれを講じなかった場合は、建設業者側に不利に判断されます。
 反対に、工事期間中に代替居住を用意した場合や、騒音や振動に配慮して工法を変更したような場合は、建設業者側に有利に働く事情とされます。

5 回答 
 受忍限度を超えるか否かは上記のようなさまざまなファクターから総合的に判断されます。

工事によって生じる騒音は,法的にどの程度まで許されるの?

(質問)
 先日,当社は住宅地において大型マンション工事に着手しました。
 そうしたところ,付近住民の一人が工事現場までやって来て,現場監督者に対し「工事がうるさい。ただちに工事を中止しろ。」と怒鳴り,数日後には「工事を中止しないなら裁判所に工事の差止め求めるぞ。」と言ってきました。
 このような住民の請求は認められるのでしょうか?
 また,当社の工事によって生じる騒音は,法的にはどの程度まで許されるのでしょうか?

(回答)

1 受忍限度 
 人が生活する社会において建物はどうしても必要なものです。そして,建物を建てる際に,ある程度の騒音や振動が発生することはどうしても避けることができません。そのため騒音や振動が人に不快感を与えるものだとしても,これを生じさせる工事を行ってはならないということになると,およそ会社が成り立たなくなってきます。
 そこで,法は,付近住民が社会生活上受忍すべき範囲として「受忍限度」というものを設定し,この「受忍限度」を超えた場合の騒音や振動についてのみ,付近住民に法的な救済を与えるという立場を取っています(受忍限度論)。

2 受忍限度を超えたことの決定 
 そして,この「受忍限度」を超えているか否かは,①該当工事によって発生した侵害行為の態様,侵害の程度,②被侵害利益の性質と内容,③地域環境,④侵害者との交渉経緯,被害回避措置の有無,などの要素により総合的に判断するとされています(最高裁平成10年7月16日判決参照)。

3 行政法規 
 また,この受忍限度の判断に入る前段階として,一定の行政的な規制もあります。 
 騒音規制法や振動規制法は,住民が集合している地域を規制対象地域と指定し,その指定地域内で特定建設作業(著しい騒音を発生させる建設作業として政令で定めるもの。具体的には,杭打ち機,びょう打ち機,さく岩機の使用やパワーショベルなどによる掘削作業など)をする際には,市町村への事前の届出義務と規制基準を設け,これに従わない場合は行政罰(勧告,改善命令,これらに従わない場合に3万円ないし5万円以下の罰金)を適用するとしています。
 また,このような特定建設作業以外の工事についても,地方公共団体が独自に条例で規制を設けている場合もあります。
そして,これらの行政的な規制に抵触している場合は,受忍限度の検討に入るまでもなく工事は修正を求められることとなります。
 他方で,工事業者としてかかる行政的規制をクリアしていても,なお住民側からクレームが出されることがあります。そして,その場合は上記の受忍限度の判断になります。

万引き犯人の写真公開

(質問)
 当店はコンビニエンスストアですが、万引きが多くて困っています。
 監視カメラに録画された映像があるのですが、犯人の顔写真を公開しても問題ないでしょうか。

(回答)

1 犯人の顔の公開 
 以前、おもちゃを万引きされた被害店舗が、その犯人の顔写真を公開しようとして、話題になりました。店側は、防犯カメラに写っていた万引きしたとする人物の画像を顔の部分が分からないように加工してホームページなどに掲載していましたが、「おもちゃを返さないと顔の画像を公開する」と警告していたので、この対応に賛否が分かれていました。
 販売している商品を盗られた店側の気持ちも理解できる点はありますが、盗んだものを返さないと顔写真を公開するというのは一種の脅しのような気もします。
 この店側の対応には、いくつかの法的問題が含まれています。

2 自力救済の禁止とは
 まず、万引き犯の顔写真を公開することを告げて盗られた物を取り返そうとする行為は、「自力救済の禁止」に該当する可能性があります。
 「自力救済の禁止」とは、権利を有する者が、その権利を侵害された場合に、法律の手続によらずに自力で権利を回復することをしてはいけないということをいいます。
 このケースでいうと、万引きされた商品の所有者である店が、犯人に対して、「顔写真を公開されたくなければ返しなさい」というように、自力でその商品を取り返すということをしてはいけないということです。

3 自力救済が禁止されている理由
 自救行為を認めると、権力・財力・腕力といった「力」のある者が正義ということになってしまいます。日本は法治国家であって、法律によって社会が成り立っているのですから、このような社会秩序を乱す行為は認めるわけにはいきません。いくら自分の所有する物が盗られたからといっても、「力」によって解決するのではなく、法律の手続に基づいて返還を求めなければならないということです。
 これが、自力救済が禁止されている理由です。

4 自力救済の問題点
 権利について、所有権という用語はよく聞かれると思いますが、これと似た概念の「占有権」があります。占有権とは、物に対する事実上の支配という状態そのものに法的保護を与えるというものです。
 例えば、他人から一時的に自転車を借りる約束をした場合に、その借りている自転車を事実上支配できるというものです。占有権は、どのように入手されたものでも(盗んだものであっても)ひとたび占有が開始されると権利として発生します。
 その占有権のある物を自力で奪い返すと、占有権侵害となって窃盗罪(刑法第235条、法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が成立したり、不法行為に基づく損害賠償請求がなされるリスクがあります。
 また、万引き犯の顔写真を公開してしまうと、その社会的評価が低下したとして、名誉棄損罪(刑法第230条第1項、法定刑は3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金)が成立したり、不法行為に基づく損害賠償のリスクも考えられます。

5 回答 
 貴社が万引き犯人の顔写真を公開すると、名誉毀損罪の成立のほか、万引き犯人から不法行為に基づく損害賠償請求を請求されるとともに、会社のレピュテーション低下のリスクがあります。
 貴社は、警察署に、被害者氏名不詳のまま、窃盗罪で告訴を行うべきです。

会社の製品に異物が混入してしまった場合,どんな罪に問われるの?

(質問)
 当社は食品製造会社です。
 時々,食品に異物が混入していたとニュースで話題になりますが,もし当社でも異物が食品に混入してしまった場合,法的にはどのような問題になるのでしょうか?

(回答)

1 食品衛生法違反とは 
 食品に異物が混入していた場合,食品衛生法違反になる可能性が考えられます。
 食品衛生法6条4号では,「不潔,異物の混入又は添加その他の事由により,人の健康を損なうおそれがあるもの」の販売等を禁止しています。

2 どんな罪に問われるのか 
 食品衛生法違反又はその疑いのある食品等について,回収命令又は食品等事業者による自主回収が行われ,厚生労働省食品安全部及び都道府県等食品衛生主管部(局)が公表を行った事例を掲載することになっています。 
 また,罰則として,3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられる可能性もあります。
 ちなみに余談ですが,食品衛生法62条では,乳児用のおもちゃについても,食品と同様に規制の対象としています。
 食品衛生法は口に入れられる可能性のあるものを対象として規制する法律ですから,乳幼児のおもちゃもそのような観点から安全性を確保しようとしているのです。

3 事後的な対応が大事 
 食品に異物混入が発覚した場合についてですが,私は混入した事実よりも,事後的な対応が非常に大事になると考えています。
 食品は,人の手によるか,または機械によって作られます。人が関わると細心の注意を払っても何らかのミスは生じますし,機械もいずれは必ず壊れるもので,壊れるタイミングによっては破片等が発見されず混入してしまいます。
 つまり,食品の異物混入を全くゼロにすることは現実的に難しいんです。
 もちろん,異物混入を限りなくゼロにする方策を採ることは必要ですが,それに加えて,世間では異物混入があった際の事後的な対応に注目しています。
 リスクマネジメントの観点から,事後的な対応でどうすればブランドイメージの低下をできる限り抑えることができるか,さらにはその逆境を乗り越えてジャンプアップすることができるかというところまで考えて,十分に対応を検討する必要があるといえます。
 その際のポイントは,①問題発覚から公表までの時間,②異物混入に対しての原因究明への取り組み方,③具体的な再発防止策,④責任があるのであれば誠心誠意の謝罪が大事であると思います。

マイナンバー制度の注意点とは

(質問)
 平成27年10月から「マイナンバー」が通知されましたが、どのような点に注意すればいいでしょうか?

(回答)

1 マイナンバー制度がついにスタート! 
 平成27年10月から、国民の一人ひとりにマイナンバーが割り当てられ、平成28年1月から、社会保障・税・災害対策の行政手続きでマイナンバーの利用が始まりました。
 マイナンバーとは、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(通称「マイナンバー法」)に基づいて、住民票を有する全ての人に付される番号のことです。
 この制度が実施される目的は、①公正・公平な社会の実現、②行政の効率化、③国民の利便性の向上です。

2 どんな場面で従業員のマイナンバーを使うのか 
 これにともない、会社でも従業員のマイナンバーを取り扱うことになります。それは、①源泉徴収票などを行政機関に提出するとき、②健康保険、厚生年金保険、雇用保険などを行政機関に提出するときがあげられます。このような用途のために、会社は、従業員からマイナンバーの通知を受ける必要があります。

3 従業員のマイナンバーを取り扱う場合の注意点 
 従業員からマイナンバーの通知を受ける際には、①利用目的の明示、②本人確認を遵守する必要があります。
 例えば、「給料の支払等に係る源泉徴収票の作成事務」「健康保険、厚生年金保険届出、申請、請求の事務」など利用目的については、複数の目的をまとめて明示することが可能です。個々の提出先を明示する必要はありません。利用目的を後から追加する場合には、改めて従業員に追加分を通知する必要があります。
 本人確認については、①マイナンバーが間違えていないかの確認、②マイナンバーを提供する者が実在する本人かの確認をする必要があります。
 その方法として、①個人番号カード(マイナンバーの通知後、市町村に申請して交付されるカード。マイナンバーなどが記載されている)の提示 ②住民票や運転免許証の写しをまとめて提示を依頼し、本人確認を行うことができます。

4 重い罰則に要注意 
 マイナンバー法は、個人に関する情報についての法律ということで、個人情報保護法と似ています。
 しかし、マイナンバー法は、個人情報保護法よりも重い罰則があります。例えば、マイナンバーを利用する事務に従事する者、または従事していた者が正当な理由なく、個人の秘密に属する事項が記録されたファイルを提供した場合には、4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその併科となります(マイナンバー法第67条)。
 さらに、従業員が上記行為をした場合には、雇用者である会社も同様に罰せられる可能性があります。
 このようなことから、マイナンバーの管理にあたっては、管理体制をしっかりと整備しておく必要があります。

5 マイナンバー制度の実施に備える 
 今後は、マイナンバーを用いた手続が必要になることから、これまでになかった新たなリスクが発生することが想定されます。リスクの把握と対策の構築は、制度の実施以前から行う必要があります。

高速道路で運転手が車外に出て事故に遭った場合の過失相殺とは

(質問)
 以前,高速道路で車外に出たところで後続車に轢かれ死亡したニュースがあったと思いますが,このような場合でも運転手が責任を問われるのですか?

(回答)

1 高速道路で車外に出た 
 質問の事故は,ある芸能人の方が自ら自動車を運転をしていて中央分離帯に衝突し,車外に出たところで後続車に轢かれたみたいですね。
 警察庁のデータによれば,交通事故で死亡した件数は減少傾向にあるものの,うち高速道路での死亡事故は平成22年から3年連続で増加しています。
 件数でいうと,22年は167件,23年は190件,24年は196件の死亡事故が高速道路で起きています。

2 刑事上の責任 
 交通事故を起こしてけがを負わせたら,以前は業務上過失傷害という罪に問われていましたが,交通事故の刑が被害者の感情からするとあまりにも軽かったので,現在は自動車運転過失致死傷罪という犯罪が平成19年に施行されています。
 従前の業務上過失致死傷罪では,5年以下の懲役もしくは禁錮,または100万円以下の罰金であったのに対し,新しく規定された自動車運転過失致死傷罪では,7年以下の懲役もしくは禁錮,または100万円以下の罰金と,刑期の上限が2年延びました。
 今回の場合だと,高速道路は文字通り自動車が高速で通行しているのですから,突然人が出てきてそれを避けることは難しいでしょう。
 よって,交通事故を起こした運転手は自動車運転過失致死罪に問われるでしょうが,少なくとも一般道での事故より,加害者の過失がないという方向に働きます。
 そうすると,刑罰についても執行猶予が付く可能性が高いのではないかと思います。

3 民事上の責任 
 民事上でも,人を轢いてしまったら不法行為に基づく損害賠償請求は避けられません。  
 死亡事故の場合は,数千万単位になることもよくあります。
 もっとも,被害者の方にも過失がある場合には,過失相殺によって減額されることになります。
 過失割合を判断するにあたって,実務で弁護士や裁判官がよく使う損害賠償額算定基準(通称赤い本)というものがあります。
 これによると,高速道路で運転手が車外に出て事故に遭った場合,被害者のほうにも50パーセントの過失があるとされています。過失割合はこれで確定というわけではなく,個々の事情に応じて加算要素や減産要素を検討して決めることになります。
 今回の事故では,芸能人が中央分離帯に衝突するという事故を起こしたことがきっかけとなっているようですから,芸能人の過失割合は50パーセントを超えることも考えられるでしょう。
 また,高速道路上で車外に出てきたというのではなく,自動車に乗らずに歩行者が高速道路へ侵入した場合には,そのこと自体で歩行者に重大な過失があるということで,80パーセントの過失相殺が認められることになっています。

4 注意一秒,怪我一生 
 高速道路ではもちろんですが,一般道でも,何が起こるかわからないので,自動車運転手と歩行者は双方とも細心の注意を払わないといけませんね。
 事故に遭った,あるいは事故を起こしてからでは遅いので,本当に事前の十分な注意が必要だと思います。
 もし事故を起こしてしまったらすぐに弁護士にご相談ください。

自転車事故のリスクとは

(質問)
 自転車に乗っていて,事故を起こすと,どのようなリスクがあるのですか?

(回答)

1 自転車のこんな乗り方はダメ 
 自転車も自動車と同じ車両です。
 自転車では,次の行為が処罰の対象となります。

 (1) 二人以上の並進
    2万円以下の罰金又は科料
 (2) 傘差し運転
    5万円以下の罰金
 (3) 飲酒運転
    5年以下の懲役又は100万円以下の罰金…忘年会,新年会シーズンは特にお気を付け下さい。
 (4) 夜間の無灯火
    5万円以下の罰金…大学生は特に無灯火が多いのが気になります。電気,付けてください!
 (5) 信号無視
    3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金
 (6) 携帯電話の使用
    5万円以下の罰金

2 平成25年1月24日(名古屋地裁判決) 
 これは,自転車側の過失が認められ65%の過失相殺がなされた事例です。
 自転車がふらつきながら進行し自動車と衝突し,自転車側の高校生が後遺障害等級併合6級に該当する傷害を負った事例では,裁判所は以下の趣旨の判断をしています。
 「原告は,手に携帯電話機を持って自転車を運転していた事実は認められないが,自転車がふらついても直ちに停止しなかった事実からは,原告が自転車の運転に対する集中力を欠き,又は,サドルの高さの適正な調整を怠るなど,原告の落ち度が小さいということはできない」
 このような判旨からは,携帯電話をもちながらフラフラと自転車に乗っていたことが認定されれば,65%よりも大きい過失相殺が認められる余地があるとも考えられます。

3 法令を遵守した自転車運転を 
 スマホが普及し,スマホの「ながら運転」をよく見かけるようになりましたが,このような裁判例が存在することを念頭に,法令を遵守した自転車運転を心がけるよう注意してください。