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社員旅行での事故

(質問)
 先月の社員旅行で、当社の従業員が温泉で足を滑らせて転び、全治2週間の怪我を負いましたが、これは労働災害になるのでしょうか。
 また、当社は何らかの損害賠償責任を負うのでしょうか。

(回答)

1 注意一秒,怪我一生
 社員旅行を実施している会社は、昔に比べて減ってきているようですが、社員同士の交流を深める手段として、現在も有意義な行事だと思います。
 特に、温泉は、疲労回復にも効果的なので、日頃の疲れをとることもできます。
 もっとも、その旅行で怪我をしてしまっては旅行が台無しになってしまいますし、場合によっては一生に関わる怪我にもなってしまいます。

2 労働災害が発生するとどうなるか。 
 労働災害とは、業務上、又は通勤途上の負傷、疾病などのことです。
 労働災害が発生すると、会社は補償責任を負い、労働基準監督署にその事故を報告する必要があります。
 ご質問のケースは、社員旅行中の事故であり、通勤途上の事故ではないため、業務上発生したことになるかどうかがポイントとなります。

3 社員旅行も仕事なのか。
 業務上発生したかどうかは、業務遂行性と業務起因性という二つの基準によって判断されます。
業務遂行性とは、会社の支配下にあることです。業務起因性とは、その怪我などが業務によって発生したことです。
 通常、社員旅行のような行事は、強制参加になる場合を除いて、会社の支配下のもとで行われるものとは判断されにくいといえます。
 そのため、ご質問の場合も強制参加ではない限り、業務遂行性が認められず、労働災害に当たらないと考えられます。

4 安全配慮義務違反はどうか。 
 仮に、怪我を負った社員が、事故の前に参加社員全員の飲み会に参加させられて、上司などから何度も乾杯をさせられた結果、酔いつぶれてこのような事故を起こした場合には、会社側に安全配慮義務違反や使用者責任が生じる可能性があります。
 ご質問のケースでも、これらの責任が生ずる可能性があります。しかし、社員の不注意が原因であるならば、会社に責任は発生しないと考えられます。

5 回答  
 ご質問のケースでは、従業員の負傷は通常は労働災害にはなりませんし、貴社が安全配慮義務違反を負うリスクも少ないと考えられます。

業務の引継ぎリスクについて

(質問)
 当社の従業員Aは,この度退職しました。
 しかし,Aは業務の引継ぎを十分に行わないで退職したため,職場では大変混乱が生じました。
 そこで,当社はAに対して損害賠償請求をしようと考えていますが,この請求は認められそうでしょうか?
 仮に認められない場合,今後,このようなことを防ぐために当社はどのようにすればいいでしょうか?

(回答)

1 損害賠償請求は認められそう? 
 業務の引継ぎを行うことは,労働契約上の義務に含まれていると考えられています。
 そこで,Aに対して,この義務違反に基づく損害賠償請求,つまり,業務の引継ぎと言う義務(債務)の不履行による損害賠償請求をすることができるかが問題となります。
 債務不履行による損害賠償請求が認められるには,簡単に整理すると,①故意,又は過失によって債務を履行しないこと,②損害が相手に発生したこと,③①と②との間に因果関係が認められることが必要となってきます。
 ご相談のケースでは,職場で大混乱が生じたということですので,御社に損害が生じたことは一応認められそうです。
 しかし,どの程度まで引継ぎのための業務を行えば,十分な引継ぎであるかを説明することは難しい以上,Aの引継ぎが不十分であると認められる可能性は高くないといえます。
 また,仮にAの引継ぎが不十分なものであったと認められたとしても,御社の損害が果たしてそのことのみによって生じたかどうか,つまり,Aの引継ぎ業務と御社の損害との因果関係が認められる可能性も高くないと考えられます。
 結局のところ,Aに対して損害賠償請求をするのは,事実上困難であると言わざるを得ません。

2 懲戒解雇はできる? 
 それならば,御社としては,このような従業員がいたら懲戒解雇をしようとすることで,引継ぎの業務を十分に行わせようと考えるかもしれません。
 しかし,懲戒解雇が認められるには,従業員側に相当悪質な事情があることを要するところ,今回のようなケースでは,いきなり懲戒解雇が認められる可能性は,非常に低いと言わざるを得ません。

3 退職金の減額規定を設ける 
 そこで,就業規則に,業務の引継ぎをしなかった場合には退職金の一部,又は全部を支給しない旨の条項を設けることで,従業員に対して,正常な業務をしない場合には退職金を支給しないという内容の退職金規定を根拠にして,退職する2週間前からほとんど仕事をしなかった従業員に対して退職金を支給しないことも有効と認められます。

4 業務の引継ぎリスクの認識 
 業務の引継ぎが上手くいかないと,取引先からの信用低下や債権管理の失敗等のリスクを招いてしまうことになります。そのため,本件のような問題は,業務を引き継ぐ社員の便宜上の問題にとどまらず,会社全体に多大な影響を及ぼすものと言えます。
 業務の引継ぎを円滑に行うようにするには,上記のような就業規則の規定を設ける等,日頃から対策をするとともに,職場自体がそのようなリスクについての認識を共有することが重要です。

5 日頃からさまざまなリスクを検討する 
 後々の法的トラブルを防止するために,日頃からどのようなことに注意する必要があるのか判断するのは,なかなか難しいことです。もし,そのようなことでお悩みがあるのであれば,弁護士にご相談することを是非お勧めします。

通勤途中のマイカー事故による会社の損害賠償責任

(質問)
 先日、当社の従業員が通勤中に人身事故を起こしてしまい、被害者が死亡してしまいました。
 その従業員はマイカーで通勤していたのですが、この場合、当社にも事故について責任があるとして、被害者の遺族に対し損害賠償をしなければならないでしょうか。
 なお、その従業員は、いわゆる任意保険に加入していませんでした。

(回答)

1 使用者責任と運行供用者責任 
 従業員が交通事故を起こして他人に人的・物的損害を与えた場合、その社員が損害賠償責任を負うことは当然です。
 会社はこの従業員が起こした事故に直接関与したわけではありませんが、法律上、従業員と同様の責任を負う場合があります。
 それは使用者責任と運行車用責任(自動車損害賠償保障法第3条)の要件に該当する場合です。
 使用者責任は、従業員の運転が会社の「事業の執行」といえる場合に、運行供用者責任は、「自己のために自動車を運行の用に供していた」といえる場合に、損害賠償責任を負うというものです。
 典型例としては、会社の自動車を従業員が業務のために運転していて人損事故を起こした場合が挙げられます。

2 マイカー通勤中の事故
 では、社員が運転していたのが会社の車ではなくマイカーで、しかも事故時は勤務中ではなく通勤中の場合は、会社に責任があるのでしょうか。
 一般的に、マイカーは業務のために利用しているとはいえず、また、通勤は会社の支配下にある状態とはいえないので、原則として会社の責任は否定されます。
 ただし、裁判例では、マイカーが日常的に会社業務に利用され、会社もこれを容認、助長している特別事情(例えば、会社がガソリン代、維持費を負担していることや、駐車場を提供している事情等)がある場合に、使用者責任や運行供用者責任が肯定されているケースがあります。
 また、近時の裁判例では、マイカーが日常的に会社業務に利用されていなくても、通勤が業務に密接に関連するものであるとして使用者責任が肯定されたケースもあります。

3 回答 
 従業員のマイカー通勤時における事項についても、貴社がマイカー通勤を容認、助長している事実があれば、貴社が損害賠償責任を負うリスクは高いといえます。
そのようなリスクに備えて、貴社は、従業員に十分な損害保険(任意保険)への加入を義務付けることと、貴社がそれを確認しておくことが必要となります。 

自社の商品を倉庫業者に預けていて,地震によりその商品が滅失した場合,倉庫業者に損害賠償請求できるか

(質問)
 自社の商品を倉庫業者に預かってもらっていましたが,地震によりその商品が滅失し,大きな損害を受けました。
 倉庫業者に何らかの請求ができますか?

(回答)

1 損害賠償の請求は難しい 
 上記相談の件ですが,倉庫営業者には,預かった物を善良な管理者の注意をもって保管しなければならない,という義務があります(商法593条)。
 しかし,地震のような不可抗力の場合には,倉庫営業者の不注意による滅失とは認められないため,損害賠償の請求をすることはできません。倉庫契約約款でも,地震の場合には倉庫業者の免責が規定されているのが通常です。

2 事前のリスク管理にも限界あり 
 事後の損害賠償請求が不可能である以上,企業としては,事前のリスク管理による対応が必要です。
まず考えられるのは,地震保険への加入ですが,保険料が高額になる傾向があるため,個々の企業の規模や体力に応じて,リスクと投資のバランスを考えることになります。
 また,在庫拠点を分散化させるという方法も考えられますが,在庫拠点の集約化はコスト削減の有力な手段であり,全国展開しているような大企業でなければ,この方法も現実的ではありません。

3 いかに再建をはかるかが重要 
 大地震などの緊急事態が発生した場合,事前の対策は技術的にもコスト的にも限界があり,万全なものは不可能です。
 そこで,地震の被害を受けたときに最も重要になるのが,いかに早く再建をはかるかということです。政府も,企業支援のための各種の制度を発表しています。 

4 政府による企業支援策(東北大震災を例に) 
 2011年3月11日には未曾有の大災害,東北大震災が起こりました。このような災害では予想もしなかった損害も発生しました。この大震災の後,政府は優秀な技術を持つ企業が破産する事態を避けるため,東北大震災が原因で企業が債務超過に陥っても,地震発生から2年後の2013年3月10日までは,破産手続の開始決定がなされないことを決定しました。
また,中小企業庁による中小企業支援策も発表されていました。内容としては,災害復旧貸付として,日本政策金融公庫及び商工組合中央金庫が別枠で貸付を行い,貸付金利の引き下げも行われるというものです。
 さらに,市区町村,消防署等から罹災証明を受けた企業に限られますが,信用保証協会による別枠での保証も設けられました。
このような企業支援策は,比較的小規模な災害の場合にはなされない可能性はあります。
 しかし,このような支援策がなされないとも限らないので常にアンテナを張っておくことは必要です。
行政や銀行による救済制度を利用しても経営が軌道に乗らない場合,法的な再生を検討する必要もでてきます。再生への着手は,早ければ早いほどその後の再生の可能性が高くなってきます。
 相談者として経営に不安を感じていたら,一度弁護士に相談されることをお勧めします。

取引先の破産手続開始決定への対応

(質問)
 当社に対し、取引先が破産手続開始の申し立てをしたとの通知が届きました。
 当社の売掛金債権はまだ支払期限が到来していないのですが、買掛金債務と相殺することはできますか。
また、破産手続ではなく民事再生手続の場合はどうですか。

(回答)

1 破産の場合は原則可能
 破産会社に対して債権を有する者(破産債権者)が、破産手続開始の時点で破産会社に対して債務を負担していた場合、債権が期限付きの場合や、債務が期限や条件付きの場合でも、以下に述べる例外を除いて相殺が可能です。
 したがって、ご質問のケースの場合、貴社は、支払期限の到来していない売掛金債権と、買掛金債務を相殺することができます。

2 相殺が禁止される場合
 破産債権者が、破産会社の破産手続を知りながら債務を負担したような場合にまで相殺を認めると、破産債権者間の平等を不当に害することになります。
 そこで破産法は、債務の負担時期及び破産債権者の認識に応じて、相殺を禁止しています。
具体的には、①破産手続開始後に債務を負担した場合、②支払不能を知りながら、専ら相殺に供する目的で破産者の財産の処分を内容とする契約を締結した場合、③支払停止の事実を知りながら債務を負担した場合、④破産手続開始申し立ての事実を知りながら債務を負担した場合などに、相殺が禁止されることになります。
 加えて、債権者は、いつでも相殺可能なのが原則ですが、破産管財人から、相殺をするかどうか催告をされた場合は、催告期間が経過した場合は、相殺できなくなりますから、御注意ください。

3 民事再生の場合は注意が必要
 破産手続の場合は以上のように比較的広く相殺が認められるのに対し、民事再生手続の場合には一定の制限があります。民事再生手続において相殺を行うためには、①再生債権の届出期間満了時までに両債権が相殺適状になっていること、②相殺の意思表示を再生債権の届出期間満了時までにすること、という要件が必要となります。 
 ①の「相殺適状」とは、両債権の支払期限が到来していることを意味します。破産の場合には、債務者が破産手続開始決定を受けたときは、当然期限の利益が喪失するのですが(民法第137条第1号)、民事再生の場合は、このような規定がありません。
 したがって、ご質問のケースの場合、貴社は、売掛金債権の支払期限が再生債権の届出期間の満了前であれば相殺が可能ですが、それより後であれば相殺はできず、買掛金債務の支払いをしなければならないということになります。

4 民事再生において、相殺を行うために 
 取引先が民事再生手続を行った場合に、貴社が相殺を行うためには、再生債権の届出期間満了時までに、債権の支払期限が到来するようにしておく必要があります。そのためには、基本契約書で、取引先の再生手続の申立てを期限の利益の喪失事由として規定しておくことが有効です。

5 回答 
 取引先が破産手続開始決定の場合は、貴社は原則として期限末到来の債権について相殺ができますが、取引先が民事再生手続開始決定の場合は、相殺はできません。

動産売買の先取特権と物上代位について

(質問)
 当社は材木業者(A)です。建設業者(B)から建築資材の注文を受けて納品しましたが、上棟の後にこの建設業者(B)が当社への材木代金を支払わないまま破産手続きを開始してしまいました。
 建設業者(B)は注文主(C)に対し請負代金請求を有しているので、当社(A)が請負代金債権に物上代位権を行使して債権回収を図ることはできないのでしょうか。
 また、建設業者(B)が注文主(C)から工事の一環として重機の設置を依頼され、当社が重機を搬入した場合に、建設業者(B)が破産手続きを開始した場合はどうでしょうか?

 当社(A) → → → 建設業者(B) → → → 注文主(C)
   動産売買代金債権 請負代金債権

(回答)

1 動産売買の先取特権と物上代位 
 民法321条は、「動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。」と規定しています。
 すなわち、動産を売却した売主は、売買代金債権を担保にするために、売却した動産自体に先取特権という担保を有するのです。
 また、同法304条1項本文は、「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債権者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。」と規定しています。
 これがいわゆる物上代位権という権利であり、売主が売却した動産が例えば転売によりお金に変わった場合に、売買代金債権の担保のために、動産が形を変えた価値そのものであるお金を渡すよう請求できる権利です(法律的には「交換価値を把握する」と言います。)。
 なお、この物上代位権は先取特権だけでなく抵当権などの担保権にも認められています。

2 物上代位の可否 
 以上を前提に、御質問のケースを検討しますと、貴社が納入した木材や重機の売買代金債権を担保するのに、建設業者の注文主に対する請負代金債権にかかっていいけるかという問題になります。
 まず、木材の事案については、大審院大正2年7月5日判決があり、請負代金請求に対する物上代位を否定しました。材木に工事が加えられた結果として請負代金債権になったので、請負代金債権は目的物の全部又は一部を直接代表としていないというのがその理由です。
 他方で、重機の事案については、最高裁平成10年12月18日決定において、請負代金債権に物上代位を肯定しました。こちらの判決では、請負代金債権は動産の転売による代金債権と同視できるとされたためです。
 両者の違いは、請負代金債権を転売等による代金債権と同視できるか否かにより生じています。
 すなわち、上記最高裁決定において、「請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容に照らして請負代金債権の全部又は一部を不動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある」と認められる場合には、物上代位権の行使が可能とされています。
 以上より、貴社の物上代位が認められるか否かは、貴社が動産を売却した後の請負工事の状況を勘案し、上記の「特段の事情」が認められるか否か判断されることとなります。

商品が腐っていたことを理由とするクレームへの対応

(質問)
 当社は、顧客Yから「当社の商品が腐っていてそれを食べてから体調が悪くなり、2~3日会社を休んだ。食中毒かもしれない。どう責任を取るのか。」などとクレームをつけられています。 
 当社はどのように対応すれば良いでしょうか。

(回答)

1 クレームリスク
 あくまでも個人的な感覚ですが、中小企業がさまざまな悪質クレームを受けるリスクは増えているのではないかと思われます。
 最近は「モンスタークレーマー」などの言葉も定着し、中小企業が顧客からのクレームの対応に追われることが多くなっています。   
 このようなクレームの中には、企業が責任を負うべき正当なクレームももちろんありますが、単なる言いがかりに過ぎない場合も少なくありません。
 企業としては、まず、事実確認や調査を行い、責任を負うべき内容のクレームかどうかをきちんと見極める必要があります。

2 クレームへの初動対応
 ①クレームが正当か不当かを確かめるために、Yの話をよく聞き、実関係を確かめます。
 5W1Hを意識して、メモを取って、時系列で整理します。
 矛盾や嘘だと思われることがあっても、この段階では反論しない方がいいです。
 相槌を打ったり、確認するため復唱することは有効な方法です。
 主語や目的語、数字の単位が省略されたりすることがあるので、確認すべきです。
 商品に不備があったのであれば、その商品を受け取ります。
 ご質問のケースでは、保健所で食品を調査してもらって、食中毒菌が混入しているかどうかの調査をしてもらうべきです。
②Yの要求を把握します。
  単なる苦情なのか、謝罪を求めているのか、商品の交換なのか、金銭を要求するのか。
 ③今後の方針を伝えます。
 事実関係を調査の上、対応しますということが基本ですが、ケースによっては時間がかかることも伝える必要があります。 
 ④連絡方法の打ち合わせをします。
 Yの氏名、住所、電話番号等を聞いていない場合は、こちらが氏名を名乗った上で尋ねてください。

3 最初の段階で行ってはならないこと 
 原因が判明していないにもかかわらず、自社に責任があるかのように謝罪してしまったり、補償させていただきますとか、前向きに検討させていただきますなどとつい言ってしまうと、Yに金銭がもらえるとの期待を抱かせてしまい、マイナスになります。

4 根拠がないクレームである場合 
 Yに対し、貴社の調査結果(落ち度はないこと)を分かりやすい言葉で誠実かつ丁寧に報告します。
 インターネット等で公開されるおそれがあるため、社内で作成した調査結果書の交付を要求された場合は断るべきです。
 場合によっては、相手方の要求に応じない旨の書面を会社名で作成し、配達証明付き内容証明郵便で送付します。

5 回答 
 貴社は、Yから商品を受け取って調査する必要があります。
 また、Yが体調が悪くなって、2~3日会社を休んだというのであれば、医師の診断書や会社の欠勤証明書の提出を求めることになります。
 その上で、Yの要求を確認して、それを検討することになります。

悪質なクレームへの対応方法

(質問)
当社は、暴力団風のYから「お前の所の店長は対応が悪い。このことをインターネットにアップして商売できんようにするぞ。」と脅されています。
店長やそれ以外の職員に確認したところ、Yが店内で大声で話をしていたので、静かにしてくださいと注意したところ、注文したのと違ったメニューが出てきたなどと言って逆ギレしてしまったとのことです。
Yとの面談において注意すべき点を教えてください。

(回答)

1 交渉担当者について 
クレーマーの中には、いわゆるモンスタークレーマーといわれる人や激情型の人も存在するので、相手の個性を踏まえた対応が必要となります。
Yとの面談は必ず複数で対応し、それぞれの役割分担を決めておきます(交渉担当者、メモを取る係、相手方の言動を観察し対応する係等)。
Yの氏名や住所等を確認して、それを明らかにしない場合は、退席してもらうべきです。

2 部屋で交渉する場合 
 対応者はすぐ退室できるようにするため、相手方は部屋の奥に座らせます。
 暴力のおそれがある場合は、湯呑や灰皿等何も置かないようにします。お茶も出さなくて結構です。

3 録音・録画について
 Yに黙って録音、録画をすることは、悪質なクレーム対応をしているという本件のような状況下では、何ら問題ありません。
 できる限り録音、録画を行い、証拠として残しておくべきです。

4 態度について
 Yが交渉者の態度に対して因縁をつけてくるリスクを踏まえて、誠実かつ毅然とした態度で対応することが必要です。

5 警察との連携
 Yが暴力を振るってきたとか、物を壊すなどして暴れているとか、帰ってくださいと言っても居座るなどの場合は、迷わず110番通報すべきです。
 Yが暴行、傷害等の犯罪を犯すリスクがある場合は、事前に警察に相談に行って、110番通報をした場合は、直ちに駆けつけてもらうか、このようなリスクが極めて高い場合は、警察に店内で待機してもらうように依頼すべきです。

6 弁護士への相談
 クレームの対応について、法的問題が絡むなど貴社だけの対応では困難だと判断したときは、初動対応や対応時の想定問答の点も含め、あらかじめ事前に弁護士に相談しておくべきです。

7 クレームの事後処理
 Yの情報、クレームの内容、事実調査の結果、対処した内容、交渉経緯等、今後に向けての改善策をまとめたクレーム処理調査表を作成します。

受忍限度の判断基準

(質問)
工事に伴う騒音や振動がどの程度まで許されるかは、「受忍限度」の範囲内か否かで判断されると聞きました。
では、「受忍限度」の範囲内か否かは具体的にどのように判断されるのでしょうか。

(回答)

1 受忍限度の判断
 「受忍限度」を超えているか否かの判断については、「侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察して決すベきものである」と判示した判例があります(最高裁判所平成10年7月16日判決)。

2 侵害行為の態様と侵害の程度 
 この点については、工事の具体的な作業内容、騒音や振動の性質、発生頻度や発生時間帯、継続時間、継続期間などにより判断されます。
 裁判例では、被害建物から15メートルの場所で、振動杭打機やクレーンを使用してスチールシートパイルの打込工事をした事案(横浜地方裁判所昭和60年8月14日判決)や、被害建物から6.5メートルの場所でマンション建設に伴うコンクリート打設工事が深夜や午後10時以降に及ぶことが度々あった事案(京都地方裁判所平成5年3月16日判決)などで受忍限度を超えると判断されました。

3 被侵害利益の性質と内容
 この点については、被害が難聴を発症したものや、振動により建物が損壊したり地盤沈下をもたらすような場合は、受忍限度を超えると判断される傾向にあります。
 他方、被害を裏付ける証拠がない場合や、証拠があっても具体性に欠ける場合、また騒音や振動の発生が短期間で一時的なものにとどまる場合は、受忍限度内とされる場合もあります。

4 被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容
 この点については、苦情が申し立てられたにもかかわらず建設業者が真摯に対応しなかった場合や、騒音や振動を容易に防止できる措置があったのにそれを講じなかった場合は、建設業者側に不利に判断されます。
 反対に、工事期間中に代替居住を用意した場合や、騒音や振動に配慮して工法を変更したような場合は、建設業者側に有利に働く事情とされます。

5 回答 
 受忍限度を超えるか否かは上記のようなさまざまなファクターから総合的に判断されます。

工事によって生じる騒音は,法的にどの程度まで許されるの?

(質問)
 先日,当社は住宅地において大型マンション工事に着手しました。
 そうしたところ,付近住民の一人が工事現場までやって来て,現場監督者に対し「工事がうるさい。ただちに工事を中止しろ。」と怒鳴り,数日後には「工事を中止しないなら裁判所に工事の差止め求めるぞ。」と言ってきました。
 このような住民の請求は認められるのでしょうか?
 また,当社の工事によって生じる騒音は,法的にはどの程度まで許されるのでしょうか?

(回答)

1 受忍限度 
 人が生活する社会において建物はどうしても必要なものです。そして,建物を建てる際に,ある程度の騒音や振動が発生することはどうしても避けることができません。そのため騒音や振動が人に不快感を与えるものだとしても,これを生じさせる工事を行ってはならないということになると,およそ会社が成り立たなくなってきます。
 そこで,法は,付近住民が社会生活上受忍すべき範囲として「受忍限度」というものを設定し,この「受忍限度」を超えた場合の騒音や振動についてのみ,付近住民に法的な救済を与えるという立場を取っています(受忍限度論)。

2 受忍限度を超えたことの決定 
 そして,この「受忍限度」を超えているか否かは,①該当工事によって発生した侵害行為の態様,侵害の程度,②被侵害利益の性質と内容,③地域環境,④侵害者との交渉経緯,被害回避措置の有無,などの要素により総合的に判断するとされています(最高裁平成10年7月16日判決参照)。

3 行政法規 
 また,この受忍限度の判断に入る前段階として,一定の行政的な規制もあります。 
 騒音規制法や振動規制法は,住民が集合している地域を規制対象地域と指定し,その指定地域内で特定建設作業(著しい騒音を発生させる建設作業として政令で定めるもの。具体的には,杭打ち機,びょう打ち機,さく岩機の使用やパワーショベルなどによる掘削作業など)をする際には,市町村への事前の届出義務と規制基準を設け,これに従わない場合は行政罰(勧告,改善命令,これらに従わない場合に3万円ないし5万円以下の罰金)を適用するとしています。
 また,このような特定建設作業以外の工事についても,地方公共団体が独自に条例で規制を設けている場合もあります。
そして,これらの行政的な規制に抵触している場合は,受忍限度の検討に入るまでもなく工事は修正を求められることとなります。
 他方で,工事業者としてかかる行政的規制をクリアしていても,なお住民側からクレームが出されることがあります。そして,その場合は上記の受忍限度の判断になります。