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企業共同体(ジョイントベンチャー(JV))のリスク

(質問)
 当社はA社と共に,共同企業体としてマンションの建築工事を行っています。 
 先日,A社の従業員が資材を現場に搬入する際、歩行者に衝突してケガを負わせてしましました。
 このような場合,当社も歩行者に対する責任を負わなければならないのでしょうか?

(回答)

1 JVの法的性格 
 企業共同体(ジョイントベンチャー(JV))とは,複数の企業が1つの事業目的のために結合した団体のことであり、現在では建設工事において最も多く利用されています。
 これは,かかる企業形態においては,技術の強化・融資の増大・工事の早期完成などのメリットが見込めるところ,建設工事においてこのメリットが十分に活かせられるからであると考えられます。
 また,建設工事における共同企業体の主な形式としては,その施工方式から,共同施行方式と分担施行方式に分けられます。
 前者は,出資の割合に応じて資金や人材を投入し,工事自体は渾然一体となって行う方式であり,後者は,各企業が請け負った工事を予め分割しそれぞれが請け負った工事を行う方式です。
 ここで,法律上は,共同企業体は「民法上の組合」とされています(最高裁判例昭和45・11・11)。
 「民法上の組合」とは,「各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって」成立する団体であり(民法667条1項),契約関係のみによって構成員が結合し,法人格はありません。
 以上を前提に,御質問のケースについてお答えします。

2 JVの法的責任 
 まず,当該歩行者に対する事故が共同事業体としての工事から生じたものである限り,共同企業体として責任を負わなければなりません。
 ただし,共同企業体が「民法上の組合」であり,それ自体として法人格を有していない以上,実質的に責任を負うのは共同企業体そのものではなく,共同企業体の構成員である各企業ということになります。
 さらに,共同企業体の各構成員(各企業)が負担する責任については,不真正連帯債務として各構成員(各企業)が全額を負担するとした裁判例があります(鹿児島地裁昭和48・6・28)。
 以上より,A社の従業員が起こした事故でも,債権者(本件の被害者)との関係で貴社が責任を負うことは避けられません。
 そして,対外的に貴社なりA社が債権者へ賠償したのち,対内的に貴社とA社との間で最終的な負担額を決めることとなります。 

3 JVのリスク 
 共同企業体として事業する際には,上記のようなリスクがあることを念頭に,相手先企業を慎重に選ぶ必要があると言えるでしょう。

ロシアンルーレット条項とは

(質問)
 ロシアンルーレット条項とはなんですか?

(回答)

1 合併解消のルール 
 複数の企業が共同で出資して合弁会社を設立することが、ビジネスの世界ではよくあります。
 サントリーが、現地大手との共同生産・販売で、中国ビール事業の立て直しを図るため、中国ビール2位の青島ビールと上海市に合弁会社を設立したことがあります。
 しかし、合弁会社を設立するときに、株主の持ち株比率が同じである場合には注意が必要な点があります。
 例えば、P社とQ社がそれぞれ50%ずつ出資して合弁会社であるR社を設立したとしましょう。
 この場合、P社とQ社が対立してしまうと、いずれも過半数の株式を有していないので、R社の株主総会において何も決定できなくなってしまうのです(このような状態をデットロックといいます。)。
 デットロックになってしまえば、もはや合弁を解消するしかありません。
 そこで、あらかじめ契約で合弁解消のルールを定めておくのがロシアンルーレット条項です。
 ロシアンルーレット条項とは、一方の当事者が株式の単価を決定し、他方の当事者が、相手方の保有する株式の全部を買い取るか自己の保有する株式の全部を売り渡すかのいずれかを選択することができるという条項です。

2 ロシアンルーレット条項の具体例 
 先ほどの例でいえば、仮にR社の株式の時価が1万円の場合、P社が合弁を解消しようと考えロシアンルーレット条項により株式の単価を5000円に設定すれば、Q社がP社の所有する株式を時価よりも安い5000円で買い取るということを選択するでしょう。
 この場合は、P社は安価で自己の所有するR社の株式をすべてQ社に売り渡すことになるため、P社は損をすることになります。
 結局P社は、これらのリスクを考えたうえで、妥当な株式の単価を設定することになります。

3 名前の由来 
 もともと、ロシアンルーレットとは、リボルバー式拳銃に一発だけ実弾を装填し、適当にシリンダーを回転させてから自分の頭に向け引き金を引くという一歩間違えれば高い価格で自分が大損することが、まるでロシアンルーレットのようであることから、ロシアンルーレット条項と名付けられたのです。

チェンジオブコントロール条項

(質問)
 チェンジオブコントロール条項とはどのようなものですか。

(回答)

1 会社の支配権変更のリスク
 チェンジ・オブ・コントロール条項とは資本拘束条項ともいい、ライセンス契約や代理店契約などの重要な契約を結ぶに当たって、買収などで一方の会社の支配権(control)が変わった(change)場合は、相手方の会社が契約を破棄できるとする条項をいいます。
 つまり、実質的な契約の当事者が変更したことをきっかけとして、契約を解除できる条項というわけです。
 このチェンジ・オブ・コントロール条項は、敵対的買収に対する防衛策として用いられます。なぜなら、チェンジ・オブ・コントロール条項があれば、仮に敵対的買収者が買収に成功しても、重要な契約が買収をきっかけとして破棄されてしまうリスクがあるので、買収した意味がなくなるからです。

2 子会社の離反への対応
 このチェンジ・オブ・コントロール条項が活躍する場面は、敵対的買収に対する防衛策に限られません。
 例えば、ある会社が親会社であることを理由として子会社と契約を締結する場合が考えられます。
 このようなときには、契約を締結した後にこの子会社が別の会社と合併したり、別の会社が親会社となったときは、契約を締結した意味がなくなるので、親会社はいかにして契約の拘束力を免れるかが重要になってきます。
 そこで、あらかじめチェンジ・オブ・コントロール条項を締結していれば、このような場合に契約を解除することによって契約の拘束力を免れることができるのです。

3 子会社への金銭貸与のリスク対応 
 また、子会社に金銭を貸し付ける場面での活用が考えられます。
 具体的には、親会社が変わると、子会社への資金援助が事実上期待できなくなり、子会社の返済に不安が生じるような場合に備えて、親会社が変わった場合には、借主である子会社は期限の利益を喪失し、貸金債務を一括して弁済しなければならないという内容の条項を規定するというものです。

4 回答 
 チェンジ・オブ・コントロール条項の例は、次のとおりです。

(例)
「甲は、乙が合併した場合又は乙の株主が50%を超えて変動した場合は、何ら催告をすることなく本契約を解除することができる。」

不可抗力条項

(質問)
 不可抗力条項とはどのようなものですか。

(回答)

1 不可抗力のリスク 
 取引先に契約の目的物を届ける途中に交通事故に巻き込まれるとか、海外から商品を輸入し国内で販売する契約を結んでいたところ海外でテロや暴動が発生するなど、思わぬ事態が発生し、それにより契約が履行できなくなるということは現実に生じ得ます。
 そのような場合、不可抗力条項を定めておけば、リスクを最小限に抑えることが可能です。

2 不可抗力の意味 
 「不可抗力」とは、「取引上普通に要求される程度の注意や予防方法を講じてもなお防止できない損害を発生させる事由であり、戦争、内乱、大災害などをいう」とされています。
 ここで、民法第419条第3項は、金銭を支払う債務においては不可抗力をもって抗弁とできないと規定されており、この条項の反対解釈として、金銭債務以外の債務については、不可抗力をもって責任を免れることができるとされています。
 つまり、契約を履行できなかった場合、相手方から損害賠償請求や契約解除をされる危険がありますが、こちらが契約をできなかったのは不可抗力によるためだったということを立証できれば、相手方からの損害賠償請求や解除等の責任追及を封じることができるのです。

3 不可抗力をめぐるトラブル 
 ただ、ここで争いになるのが、何が不可抗力に当たるのか、契約を履行できなかった原因は不可抗力なのか、ということです。
 不可抗力条項は、このような争いを避け、当該条項に該当する事態が生じたことのみの立証で免責されるという効力をもちます。

4 回答 
 不可抗力条項の例は、次のとおりです。

(例)
 「戦争、テロ行為、暴動、天変地変、法令の改廃・制定、公権力による処分・命令、同盟罷業その他の争議行為、輸送機関の事故、その他の不可抗力により、個別契約の全部または一部の履行の遅滞または不能が生じた場合は、甲または乙は互いにその責任を負わない。」

請負契約の解除が認められる場合とは

(質問)
 2か月前に,Aさんから住宅の設計を依頼され,当社として通常どおり設計作業を進めていました。Aさんは新しく建てる家に強い思い入れがあり,設計図はAさんと当社の担当者が何度も打ち合わせをしています。  
 ところが,Aさんは会社の都合で転勤となったため、当社と契約を解除すると言ってきました。このような解除は認められるのですか?
 また,当社としては,どのように対処したらよいでしょうか?

(回答)

1 請負契約の解除が認められる場合 
 建物の建築は,請負契約等の締結後に,設計を経て工事が完成するまでの相当の期間を要します。そのため,御相談のように,中途で契約を解除するということがあります。
 民法上,契約解除できる場合としては,相手方に債務不履行がある場合及び手付を利用する場合があります。そして,これらの場合でない限り契約解除は原則としてできません。
 なぜなら,契約には拘束力があり,これを破棄するためには一定の事由が必要とされるからです。
 しかしながら,請負契約においては,請負人に生じた損害を賠償することを前提にして,注文者が自由に解除することが認められています(民法641条)。これは、契約締結後の事情の変化により請負契約を存続させる必要がなくなった場合にまで,請負人に仕事を続けさせることは無意味と考えられるからです。
 そして,民法上は「損害を賠償して契約の解除をすることができる」と規定されていますが,損害を賠償しなければ注文主は解除ができないというわけではありません。
 したがって,御相談ケースでは,Aさんは貴社に対して予め賠償金を支払うことなく,とりあえず契約の解除をすることができます。そして,貴社としては,その解除後に,Aさんに対して損害賠償を請求することとなります。

2 損害賠償の内容 
 次に,損害賠償の内容としては,請負人が既に支出した費用,及び仕事が完成していたのであれば得られたであろう利益(逸失利益)を請求することができます。
 他方で、請負人がそれ以上契約を続行しないことにより不要となった費用等は控除されます(損益相殺)。
 そのため,「解除の時まで被控訴人(請負人)がなした仕事に照応する請負代金(報酬)相当額をもってこれを算定することが衡平に合致する」とした判例もあります(名古屋高裁昭和63.9.29)。
 また,請負人が裁判において損害賠償請求をする際には,現に支出した費用を裏づける証拠や,他の類似の仕事内容で得られた利益の実績を示す証拠が必要となります。

3 請負人のリスク対策 
 以上より,請負人である貴社としましては,請負契約は注文主により契約が解除されるリスクが常にあることをまず押さえておく必要があります。そして,その上で、解除された場合に速やかに貴社に生じた損害額を立証できるよう,証拠書類を日頃から確保しておくことが必要と言えます。

企業が応じなければならない有効なクーリング・オフとは?

(質問)
 企業が応じなければならない有効なクーリング・オフとはどのようなものでしょうか?

(回答)

1 行使期間はいつまで? 
 企業は,行使期間内(訪問販売であれば8日以内)にされたクーリング・オフには応じなければなりません。
 今回はこの「行使期間内にされた」の意味を説明したいと思います。
 まず,簡単な事例を紹介します。A社は,平成25年4月1日,訪問販売により,Bに対し,ベッドを20万円で売り,Bから契約書にサインをもらって,それをBに交付しました。ところが,Bは,4月8日にクーリング・オフの通知を発し,4月9日にA社に到達しました。この事例でBのクーリング・オフは「行使期間内にされた」ものといえるでしょうか。
 まず,クーリング・オフの行使期間の8日を数える際,民法の原則と異なって初日が算入されます(特定商取引に関する法律(以下「特商法」といいます。)9条1項)。
 したがって,本事例におけるクーリング・オフの行使期間は4月8日までとなります。

2 効果が発生するのはいつから? 
 次に,クーリング・オフの効果は,これまた民法の原則と異なってクーリング・オフの通知を発した時に生じます。これを発信主義といいます(逆に,効果の発生を通知が到達したときに認める考え方を到達主義といいます)。
 本事例においてBがクーリング・オフの通知を発したのは,その行使期間内である4月8日です。
 したがって,たとえ通知がA社に到達したのが4月9日であっても,A社は,Bのクーリング・オフに応じなければなりません。

3 消費者に不利な特約の効力は? 
 さらに発展ですが,仮にA社が契約書に「クーリング・オフは,当社がクーリング・オフの権利について告知してから8日以内に書面が当社に到達しなければ無効とする。」との特約条項を設けていた場合はどうでしょうか。
 実は,結論は変わりません。なぜなら、クーリング・オフの規定を消費者に不利に変更することはできず(特商法9条8項),A社の設けた特約条項は,発信主義を消費者に不利な到達主義に変更する条項なので無効となるからです。
 以上のような法律上の効果の発生の有無の判断を誤ると大変なことにもなりかねませんので,クーリング・オフ等については弁護士にぜひご相談ください。

商品の瑕疵を理由とする代金の減額請求への対応

(質問)
 当社は資本金2,000万円の株式会社です。
 先日、資本金500万円のY社に物品製造の発注を行いました。Y社は、契約書に定められた品質・数量の製品を納入しましたが、当社の営業部長が当社の業績を上げようとして、Y社に対し、支払代金を減額する旨の通知を行っていたことが判明しました。
 当社にはどのようなリスクがあるのでしょうか。

(回答)

1 下請法とは
 いわゆる上場企業が下請けいじめをするだけではなく、中小企業も下請けいじめを行ってしまうリスクがあります。
 下請法(下請代金支払遅延防止法)とは、下請代金の支払い遅延を防止することによって、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめることを目的とする法律です。
 これは独占禁止法上の優越的地位の濫用規制を補うものとして定められたものです。
 すなわち、同法では、規制対象に当てはまる取引の発注者(親事業者)を資本金区分により「優越的地位」にあるものと画一的に取り扱うことにより、下請取引に係る親事業者の不当な行為を、より迅速かつ効果的に規制することを狙いとしています。

2 対象となる下請取引
 下請法の対象となる取引の内容として、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」(プログラム、映画等)、「役務提供委託」(運送、ビルメンテナンス等があり、建設工事委託を除く。)があります(同法第2条第1項ないし第4項)。
 これら4種類の取引のうち、例えば、製造委託、修理委託、政令で定   める情報成果物(プログラム)作成および役務(具体的には、運送、物品の倉庫における保管、情報処理)提供委託については、①委託する側(親事業者)の資本金が3億円超で下請事業者の資本金が3億円以下の場合、②親事業者の資本金が1,000万円超3億円未満で下請業者の資本金が1,000万円以下の場合が下請法の規制対象となります(同法第2条第7項、第8項)。
 また、プログラム以外の情報成果物作成委託及び運送、物品の倉庫における保管、情報処理以外の役務提供委託については、①親事業者の資本金が5,000万円超で下請事業者の資本金が5,000万円以下の場合、②親事業者の資本金が1,000万円超5,000万円以下で下請事業者の資本金が1,000万円以下の場合が下請法の規制対象となります(同法第2条第7項、第8項)。
 このように、委託事業の内容と資本金の区分で画一的に親事業者と下請事業者が分けられています。 

3 親事業者の義務と禁止行為 
 親事業者に課される義務として、①下請代金の支払期日を定める義務(給付を受領した日から60日の期間内)(同法第2条の2)、②注文書の交付義務(同法第3条)、③遅延利息支払義務(同法第4条の2)、④書類作成・保存義務(同法第5条)があります。
 また、親事業者の禁止行為として、①不当な受領拒否、②支払遅延、③代金の不当な減額、④受領後の不当な返品、⑤著しく低い代金の設定(買いたたき)、⑥物の強制購入・役務の利用強制、⑦親事業者の違反事実を公取委又は中小企業庁に知らせたことを理由に取引を停止又は不利益な取り扱いをすること(報復措置)等が挙げられています(同法第4条第1項、第2項)。
 親事業者が義務に違反した場合は50万円以下の罰金が(同法第10条)、禁止行為を行ったときは勧告措置が(同法第7条)、それぞれ採られます。

4 回答 
 貴社は、Y社に対し、物品の製造委託を行っており、それぞれの資本金に鑑みると、下請法の親事業者に当たります。
 したがって、Y社の責めに帰すべき事情がない状況下での代金減額の 要求は下請法違反のリスクがあります。
 その結果、勧告相当事案となり、公正取引委員会から貴社の企業名が公表されるとなれば、貴社のレピュテーション低下の大きなリスクとなります。
 加えて、50万円以下の罰金のリスクもあります。   
 過度な利益売上主義は大きなリスクにつながることに注意する必要があります。

連帯債務と連帯保証の差異

(質問)
 当社は、Y社とY社の代表取締役Zを連帯債務者として、100万円を貸し付けています。
 当社は、Y社からの支払いが滞ったため、Zに支払いを請求してきましたが、Zは10年以上何の連絡も受けていないので、消滅時効を採用すると言っています。
 そのような主張は通るのでしょうか。
 また、ZがY社の連帯保証人であれば、違いがあるのでしょうか。

(回答)

1 連帯債務と連帯保証
 Zが連帯債務者であっても連帯保証人であっても、Y社の支払いが滞ったときは、貴社は100万円のうち残額があれば、それをすべて返還するよう請求ができます。
 連帯保証は、主たる債務の履行を担保することを目的とするため、主債務者と連帯保証人は主従の関係にあると言われています。
 これと異なり、連帯債務者の間に主従の関係はないと言われております。この違いが具体的に表れるのが、ご質問のケースです。

2 時効中断事由としての債務の承認 
 貴社の貸付は商行為になり(会社法第5条)、商法第522条の5年の消滅時効が適用になります。
 しかし、一定の事由があれば時効の完成が妨げられます。この時効の完成を妨げる事由を時効中断事由といいます。
 そして、時効中断事由の一つに「承認」(民法第147条第3号)があり、「承認」とは、債務者が債権者に対して債務を負っていると認めることをいいます。
 例えば、債務者が債務者に対し同債務を弁済することが「承認」に当たります。
 そして、ある連帯債務についての債務の承認による時効中断の効果は、他の連帯債務には及びませんが(同法第440条)、これと異なり、債務保証については、主たる債務の債務の承認による中断の効果は、連帯保証人にも及び(同法第457条第1項)、連帯保証人の時効を中断させます。これが、連帯債務と連帯保証の違いが現れる一つの場面です。
 なお、債権者による連帯債務者に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても時効中断の効果が及ぶとされています(同法第434条)。 
 一方、連帯保証人に対する履行の請求は、主たる債務に対する関係でも、時効中断の効果が及ぶとされているため(同法第458条、第434条)、履行の請求の効果に関しては、連帯債務と連帯保証は変わりません。

3 連帯債務のケース
 ご質問のケースは、Y社が現在から遡ること10年以内に、100万円の貸付金債務について一部でも弁済していれば、Y社の負う債務の時効は中断します。
 しかし、Zは連帯債務者ですので、Y社の債務の承認による時効中断の効果はZに対しては及びません。したがって、Zの債務は10年の経過によって時効が完成しており、Zの債務は時効により消滅します。
 つまり、Zの消滅時効の主張が認められるということになります。

4 連帯保証のケース 
 他方、Zが連帯保証人である場合には、主債務者Y社が現在から遡ること10年以内に、100万円の貸付債務について一部でも弁済していれば、Y社の債務の承認による時効中断の効果がZにも及ぶため、Zの連帯保証債務の消滅時効を中断させます。
 したがって、Zの連帯保証債務の時効は未だ完成していないので、Zの消滅時効の主張は通らないということになります。

5 回答 
 Zが連帯債務者であれば、Zは消滅時効の採用ができますが、Zが連帯保証人であれば消滅時効の採用はできません。

自動車の修理業者における留置権について

(質問)
 当社は自動車の修理業者を行っています。
 しかし,修理を行ったのに,修理の依頼者が,修理代金を支払ってくれなかったり,逆に半年経っても自動車を引き取りに来なかったりという事態が起こってしまうことがあります。
 この場合,どのような措置がとれるのでしょうか?

(回答)

1 留置権とは 
 修理業者が自動車を預かって修理した場合,修理業者が修理の依頼者に対し修理代金債権を取得すると同時に,留置権という法廷担保物件を取得します。
 留置権とは,他人の占有物がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまで,その物を留置して債権者の弁済を間接的に強制する担保物件をいい,修理業者という措置をとることができます。
 したがって,修理の依頼者が,修理代金を支払わない場合には,自動車を留置して間接的に修理代金の支払いを強制することができるのです。

2 留置権者の権利 
 また,留置権者は,留置物について競売を申し立てることもできます。
 したがって,修理の依頼者が修理代金を支払わない場合や自動車を引き取りに来ない場合,修理業者裁判所に対し,預かった自動車の競売を申し立てることができます。  
 そして,競売による換価金が修理業者に交付された場合,修理業者は,修理代金債権と換価金返還債務とを相殺することにより,修理代金債権を回収することができます。
 もっとも,競売を申し立てるには,自動車について留置権を有することを証明する必要があります。

3 競売申立て手続 
 以上,預かり車を巡るトラブルを簡単に説明しましたが,トラブル解決のためには競売申立てなど法的専門知識が必要ですので,一度弁護士に御相談されることをお勧めします。

瑕疵担保責任に関する規定について

(質問)
 瑕疵担保責任という言葉をよく聞くのですが、法律上、それに関する規定はどうなっているのでしょうか?

(回答)

1 買主の通知義務 
 まず、民法の場合、買主は瑕疵を発見した場合に責任追及をすればよく、責任追及の前提として必要な行為は要求されていません。
 しかし、商人間の場合、買主は土地の引き渡しを受けた後、遅滞なく瑕疵の有無を確認し、瑕疵があった場合、売主に対して通知する必要があります。この通知を怠ると瑕疵担保責任を追及できなくなるのです(商法526条1項)。
 これは売主に対し瑕疵ある商品の対処等を検討させるとともに、買主の投機的な行動(解除の是非を商品相場の動向を見て決める等)を防止するために設けられています。

2 瑕疵が発見できない場合 
 では、引渡直後に瑕疵を発見できない場合はどうでしょうか。
 この場合、買主が土地引渡後6か月以内に瑕疵を発見した場合であれば、責任を追及することが可能です(同条2項)。
 買主保護を図るとともに、期間制限を設けることで売主がいつまでも不安定な立場に置かれることを防止しているのです。
 このように、買主としては、売主が瑕疵の存在を知っていた場合(同条3項)を除き、売主に対して瑕疵担保責任を追及できない場合がありますので、民法との違いに十分注意する必要があります。

3 債務不履行責任が認められたケース 
 もっとも、商人間売買の事案で、6ヶ月経過後に買主が土壌汚染を発見した事案について説明・報告すべき信義則上の付随義務があるとして、債務不履行責任に基づき土壌浄化費用等の一部の支払を命じた判決(東京地裁判決平成18年9月5日)も存在しますので、売主としても期間が経過すれば常に責任を負わなくなるとまでは言い切れません。

4 宅建業法の特例 
 次に商法以外の規定も見てみましょう。
 売主が宅地建物取引業者(以下「宅建業者」と言います。)、買主が個人の場合において、「引き渡しの日から2年以内に限り瑕疵担保責任を負う。」との特約があった場合、これは有効でしょうか。
 民法上は、瑕疵発見から1年以内との制限があります(民法566条3項)が、宅地権物取引業法40条では、宅建業者が自ら売主となる場合、瑕疵担保責任の期間について、民法より買主に不利な条件を無効としています。
 しかし、同時に、責任期間を引渡しから2年に限定する事は例外的に許されています。