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外注して制作したビデオの映像のホームページへのアップ

(質問)
 当社では、外部業者に委託して、会社紹介ビデオを制作しました。このビデオの出来が大変良かったため、このビデオを編集して会社のウェブサイトにアップしたいと考えています。
 当社が対価を支払ったビデオなので問題はないと思うのですが、どうでしょうか。

(回答)

1 映画の著作物における著作権者 
 ご質問の会社紹介ビデオ映像は、著作権法上は映画の著作物に当たります。
 著作権法上、映画の著作者は、映画監督に限らず、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者です。しかし、これらの著作者が全員著作権を持つと結果的に映画の利用に支障を来すという配慮から、その著作者が映画製作者(多くの場合は映画会社)に対して映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、映画の著作権は映画製作者に帰属すると定められています(著作権法第29条第1項)。
 ここで、映画製作者とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」といいます(著作権法2条1項10号)。そして、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」とは、映画の著作物を製作する意思を有し、当該著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって、そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者であると解するのが相当であるとしています。
 それは、資金の投資者は、自らのリスクの下、多大な資金を投資している例が多く、投下資本の回収させる必要がある、多数の著作者全てに著作権行使を認めると、映画の円滑理由が妨げられるなどの理由があるためです。
 しかし、裁判所は、テレビCM原版については、従来の考えとは異なり、CM制作会社ではなく、広告主であるとの判断をしました(第一審:東京地方裁判所平成23年12月14日判決、控訴審:知財高等裁判所平成24年10月25日判決)。
 その理由としては、15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること、多額の制作費のみならず、多額の出演料等も支払っていること、広告映像により期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは専ら広告主において負担しており、広告主において著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いといったことが挙げられています。
 したがって、会社紹介ビデオが完成した時点では、ビデオの著作権はビデオの制作会社に帰属していると考えられるのが原則ですが、制作の経緯によっては、貴社に帰属していると判断される可能性もあります。

2 制作委託の注意点 
 もっとも、ビデオの制作委託契約の中で、ビデオの著作権が貴社に譲渡されることが明記されていれば、著作権の帰属については問題ありません。
 しかし、制作委託契約に権利関係が明記されていない場合も少なくありません。
 貴社が著作権を受けることを明確にするためには、契約書に、「A社が制作会社に対価の全額を支払った時点で、本作品に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)及びその他の知的財産権はA社に譲渡される。」といった規定を設けるべきです。
 著作権法第27条(翻案権)及び第28条(二次的著作物に関する原著作者の権利)について特に記載しておくのは、これらの権利については、著作権譲渡の対象であることを明記していなければ、譲渡されずに著作者に留保されていると推測するという規定があるからです(著作権法第61条)。

3 著作権人格権 
 ご質問のケースでは、ウェブサイトにアップする際にはビデオを編集することも予定されています。この場合、著作権(翻案権)とは別に、著作者人格権という権利も問題になります。
 著作者人格権とは、著作物を創作した著作者が一身専属的に取得し、著作物の経済的権利(狭義の著作権)が第三者に譲渡されても、引き続き著作者が持ち続ける権利です。
 本件のビデオを編集して利用する場合、同一性保持権(著作権法第20条)が問題となる可能性があります。
同一性保持権とは、不本意な改変を受けない権利のことです。著作物が著作者の思想又は感情の現れ、すなわち著作者の人格の現れであることから、保護されている権利です。もっとも、改変については、著作者の承諾があれば行うことができますし、著作権法上「やむを得ないと認められる改変」であれば承諾がなくても行うことができます。
 しかし、映画の場合、純粋に技術的な制約に基づく改変(ビスタサイズの映画フィルムをテレビ放送に合わせてトリミングする行為)は、やむを得ない改変と認められるでしょうが、映像の一部削除、ストーリーの改変は、やむを得ない改変とは認められないと考えます。
 そこで、著作者人格権の侵害を主張されないためには、契約書に「制作会社はA社に対して、本作品に関する著作者人格権を行使せず、また本作品の著作者に行使させない。」というような規定を入れておくと良いでしょう。

4 回答 
 貴社が外部の制作会社にビデオの制作を委託した場合、著作権の権利関係について明確な合意がなければ、貴社がビデオを自由に使えるとは限りません。
 また、ビデオを編集する場合は、ビデオの著作権だけではなく著作者人格権も問題になるので、その点も確認する必要があります。

商品等の表示の規制の具体例とリスク

(質問)
 景品表示法による表示の規制の具体例と、違反した場合のリスクを教えてください。

(回答)

1 景品表示法による表示の規制 
 景品表示法第5条は、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引についての、①優良誤認表示(品質その他の内容について著しく優良と誤認される表示)、②有利誤認表示(価格その他の取引条件について著しく有利と誤認される表示)、③内閣総理大臣が指定するその他の誤認される表示を禁止しています。

2 優良誤認表示の具体例
 優良誤認表示の具体例としては、例えば、マフラーの実際のカシミヤ混用率が約50%にもかかわらず、「カシミヤ100%」と表示する場合が挙げられます。

3 有利誤認表示
 また、有利誤認表示の具体例としては、例えば、実際の市価が600円程度の商品を「1000円の品を500円で提供」「市価の半額」と表示する場合が挙げられます。

4 その他の誤認される表示
 内閣総理大臣が指定するその他の誤認される表示については、現在6種類の表示が指定されています。
 例えば、原産国の不当表示(例えば、ある商品の製造販売業者が、外国で製造された商品本体の原産国の表示部分に自社の社名を記入したシールを貼った場合)などが指定されています。

5 景品表示法に違反した場合  
 景品表示法に違反した場合には、消費者庁から、景品類の提供の禁止や違反行為が再び行われることを防止するために必要な事項を命じられる場合があり(同法第7条第1項)、その措置命令に違反した場合には、命令違反となる行為を直接実行した人間に対しては、刑事罰(法定刑は2年以下の懲役又は300万円以下の罰金、懲役と罰金が併科される場合もあります。)が科されます(同法第36条第1項)。その場合は、法人に対しても、3億円以下の罰金が科されます(同法第38条第1項)。

食品偽装に適用される法律とは

(質問)
 最近,全国のホテルや百貨店で食材の「誤表示」や「偽装表示」が相次いで発覚しているというニュースを見ました。
 当社はこのような偽装表示が生じないよう注意をしていますが,仮にこのような事態が生じてしまった場合について教えてください。

(回答)

1 食品偽装とは 
 食品偽装とは,食品の小売・卸売りや飲食店での商品提供において,生産地,原材料,消費・賞味期限,食用の適否などについて,本来とは異なった表示を行った状態で,流通・市販がなされることをいいます。
 産地や原材料の偽装は以前からありましたが,ここ最近になって,有名ホテルや高級百貨店などで,メニューと異なる食材を提供する「食材偽装表示」が相次いで発覚したことから,再び話題に取り上げられています。

2 食品偽装に適用される法律 
 食品偽装で報道されたものとして,「バナメイエビ」を「芝エビ」と表示したり,「牛脂注入加工肉」を「ビーフステーキ」と表示するものがありました。このような偽装が生じる原因としては,産地や品種によって価格が大きく異なるので,原価を抑えることができるということが挙げられます。
 この食品偽装問題は景品表示法に違反する可能性が高いといえます。
 景品表示法は,実際より著しく優良と消費差を誤認させる行為を「不当表示」として禁止しており,これに違反した場合には消費者庁から行為の差止め等の措置命令が下されます。
 この措置命令に従わないと,事業者の代表者等は2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が,そして当該事業者は3億円以下の罰金が科されます。
 また,民事上の責任として,食品の表示が「不当表示」に該当する場合,契約の効力が否定されて返金義務が生じます。

3 食品表示法の成立・施行 
 このような食品偽装については,景品表示法以外にも様々な法律によって規制されていますが,それらの法律は十分に機能しているとはいえない状況でした。そのために1つの食品偽装問題が報道されたことを皮切りに,数多くの件が次々と発覚しました。
 そのような中,食品の表示に関する新たな法律として,食品表示法が平成25年6月に成立し,2年以内に施行されることになりました。
 食品表示法は,消費者庁のもとで,食品衛生法,JAS法及び健康増進法の食品の表示に関する規定を総合して食品の表示に関する包括的かつ一元的な制度としたものです。
 この食品表示法は食品の表示を規定する際の「基本理念」や「執行体制」などの枠組みについて定めており,この食品表示基準に違反すると,最大で3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処せられることがあります(これらが併科されることもあります。)。
 消費者庁のもとで商品表示法という新しい法律に生まれ変わったことは,食品表示行政の歴史からみても大きな転換点であるといえます。

4 企業の社会的信用 
 もっとも,食品表示法が成立しただけでは食品偽装はなくなりません。
 一度でも食品偽装を行うと,現在も将来も「消費者をだます企業」との烙印を押されかねません。
 したがって,食材や食品についての正確な知識だけでなく,食品の表示に関する法律の趣旨も汲みとって,表示をする必要があります。

5 表示偽装に関するリーガルチェック 
 食品の表示やその他商品,サービスに関する表示について,少しでも気になることがありましたら,弁護士にご相談ください。

追加担保提供条項とは

(質問)
 追加担保提供条項とはどのようなものですか?

(回答)

1 追加担保の必要性 
 金銭消費貸借契約等においては、債権の履行を確保するため、しばしば土地や建物に抵当権が設定されます。
 その際、抵当権を設定した物件が値崩れして、その価値が被担保債権の額に満たなくなることも考えられます。
 この場合、債権者は、抵当権の実行をしても、十分な債権の回収ができなくなってしまいます。
 このような場合に備えて、債権者が債務者に対し、あらかじめ債務者にさらに担保を請求することができるとするのが追加担保提供条項です。

2 追加担保条項の規程例 
 追加担保条項の規程例は次のとおり。
 「抵当物件が、その原因のいかんにかかわらず、滅失・毀損するなど価格下落を生じたとき、若しくはそのおそれがあるときは、債務者及び保証人は、直ちに債権者に対しその旨を通知しなければならない。
 この場合、債権者が請求したときは、債務者は増担保、代担保を設定し、又は保証人を立てなければならない。
ただし、本件消費貸借契約に基づく残債権額が抵当物件の実税処分価格を下回っていることを債務者が立証したときはこの限りではない。」

3 追加担保条項の有効性 
 ただし、この追加担保提供条項には、注意する点が1つあります。
 それは、具体的な物件を特定して追加担保提供義務を負わせるようなものでない限り、実際に「この土地を担保提供せよ」という請求を訴訟でするのは、難しいということです。
 このようなことを申し上げると、読者の皆様には、具体的な担保物件を記載していない上記規定例は、無意味な規定であると思う方もいらっしゃるかもしれません。
 ところが、上記規定例のような規定を設けることにも一定の意味があります。
 なぜなら、仮に債務者が具体的な担保提供をしなかった場合には、「債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき」(民法137条3号)にあたり、期限の利益が喪失され、債務者は一括で残金を弁済しないといけないからです。
 実際に追加担保提供条項を契約書に規定する場合、具体的な担保となる物件について規定しておくことが考えられます。
 しかし、仮にそれが困難な場合でも、規定例のような条項を設けることで、少なくとも期限の利益の喪失を避けるべく、債務者は担保の提供をするための奔走をすることになるのです。

企業共同体(ジョイントベンチャー(JV))のリスク

(質問)
 当社はA社と共に,共同企業体としてマンションの建築工事を行っています。 
 先日,A社の従業員が資材を現場に搬入する際、歩行者に衝突してケガを負わせてしましました。
 このような場合,当社も歩行者に対する責任を負わなければならないのでしょうか?

(回答)

1 JVの法的性格 
 企業共同体(ジョイントベンチャー(JV))とは,複数の企業が1つの事業目的のために結合した団体のことであり、現在では建設工事において最も多く利用されています。
 これは,かかる企業形態においては,技術の強化・融資の増大・工事の早期完成などのメリットが見込めるところ,建設工事においてこのメリットが十分に活かせられるからであると考えられます。
 また,建設工事における共同企業体の主な形式としては,その施工方式から,共同施行方式と分担施行方式に分けられます。
 前者は,出資の割合に応じて資金や人材を投入し,工事自体は渾然一体となって行う方式であり,後者は,各企業が請け負った工事を予め分割しそれぞれが請け負った工事を行う方式です。
 ここで,法律上は,共同企業体は「民法上の組合」とされています(最高裁判例昭和45・11・11)。
 「民法上の組合」とは,「各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって」成立する団体であり(民法667条1項),契約関係のみによって構成員が結合し,法人格はありません。
 以上を前提に,御質問のケースについてお答えします。

2 JVの法的責任 
 まず,当該歩行者に対する事故が共同事業体としての工事から生じたものである限り,共同企業体として責任を負わなければなりません。
 ただし,共同企業体が「民法上の組合」であり,それ自体として法人格を有していない以上,実質的に責任を負うのは共同企業体そのものではなく,共同企業体の構成員である各企業ということになります。
 さらに,共同企業体の各構成員(各企業)が負担する責任については,不真正連帯債務として各構成員(各企業)が全額を負担するとした裁判例があります(鹿児島地裁昭和48・6・28)。
 以上より,A社の従業員が起こした事故でも,債権者(本件の被害者)との関係で貴社が責任を負うことは避けられません。
 そして,対外的に貴社なりA社が債権者へ賠償したのち,対内的に貴社とA社との間で最終的な負担額を決めることとなります。 

3 JVのリスク 
 共同企業体として事業する際には,上記のようなリスクがあることを念頭に,相手先企業を慎重に選ぶ必要があると言えるでしょう。

ロシアンルーレット条項とは

(質問)
 ロシアンルーレット条項とはなんですか?

(回答)

1 合併解消のルール 
 複数の企業が共同で出資して合弁会社を設立することが、ビジネスの世界ではよくあります。
 サントリーが、現地大手との共同生産・販売で、中国ビール事業の立て直しを図るため、中国ビール2位の青島ビールと上海市に合弁会社を設立したことがあります。
 しかし、合弁会社を設立するときに、株主の持ち株比率が同じである場合には注意が必要な点があります。
 例えば、P社とQ社がそれぞれ50%ずつ出資して合弁会社であるR社を設立したとしましょう。
 この場合、P社とQ社が対立してしまうと、いずれも過半数の株式を有していないので、R社の株主総会において何も決定できなくなってしまうのです(このような状態をデットロックといいます。)。
 デットロックになってしまえば、もはや合弁を解消するしかありません。
 そこで、あらかじめ契約で合弁解消のルールを定めておくのがロシアンルーレット条項です。
 ロシアンルーレット条項とは、一方の当事者が株式の単価を決定し、他方の当事者が、相手方の保有する株式の全部を買い取るか自己の保有する株式の全部を売り渡すかのいずれかを選択することができるという条項です。

2 ロシアンルーレット条項の具体例 
 先ほどの例でいえば、仮にR社の株式の時価が1万円の場合、P社が合弁を解消しようと考えロシアンルーレット条項により株式の単価を5000円に設定すれば、Q社がP社の所有する株式を時価よりも安い5000円で買い取るということを選択するでしょう。
 この場合は、P社は安価で自己の所有するR社の株式をすべてQ社に売り渡すことになるため、P社は損をすることになります。
 結局P社は、これらのリスクを考えたうえで、妥当な株式の単価を設定することになります。

3 名前の由来 
 もともと、ロシアンルーレットとは、リボルバー式拳銃に一発だけ実弾を装填し、適当にシリンダーを回転させてから自分の頭に向け引き金を引くという一歩間違えれば高い価格で自分が大損することが、まるでロシアンルーレットのようであることから、ロシアンルーレット条項と名付けられたのです。

チェンジオブコントロール条項

(質問)
 チェンジオブコントロール条項とはどのようなものですか。

(回答)

1 会社の支配権変更のリスク
 チェンジ・オブ・コントロール条項とは資本拘束条項ともいい、ライセンス契約や代理店契約などの重要な契約を結ぶに当たって、買収などで一方の会社の支配権(control)が変わった(change)場合は、相手方の会社が契約を破棄できるとする条項をいいます。
 つまり、実質的な契約の当事者が変更したことをきっかけとして、契約を解除できる条項というわけです。
 このチェンジ・オブ・コントロール条項は、敵対的買収に対する防衛策として用いられます。なぜなら、チェンジ・オブ・コントロール条項があれば、仮に敵対的買収者が買収に成功しても、重要な契約が買収をきっかけとして破棄されてしまうリスクがあるので、買収した意味がなくなるからです。

2 子会社の離反への対応
 このチェンジ・オブ・コントロール条項が活躍する場面は、敵対的買収に対する防衛策に限られません。
 例えば、ある会社が親会社であることを理由として子会社と契約を締結する場合が考えられます。
 このようなときには、契約を締結した後にこの子会社が別の会社と合併したり、別の会社が親会社となったときは、契約を締結した意味がなくなるので、親会社はいかにして契約の拘束力を免れるかが重要になってきます。
 そこで、あらかじめチェンジ・オブ・コントロール条項を締結していれば、このような場合に契約を解除することによって契約の拘束力を免れることができるのです。

3 子会社への金銭貸与のリスク対応 
 また、子会社に金銭を貸し付ける場面での活用が考えられます。
 具体的には、親会社が変わると、子会社への資金援助が事実上期待できなくなり、子会社の返済に不安が生じるような場合に備えて、親会社が変わった場合には、借主である子会社は期限の利益を喪失し、貸金債務を一括して弁済しなければならないという内容の条項を規定するというものです。

4 回答 
 チェンジ・オブ・コントロール条項の例は、次のとおりです。

(例)
「甲は、乙が合併した場合又は乙の株主が50%を超えて変動した場合は、何ら催告をすることなく本契約を解除することができる。」

不可抗力条項

(質問)
 不可抗力条項とはどのようなものですか。

(回答)

1 不可抗力のリスク 
 取引先に契約の目的物を届ける途中に交通事故に巻き込まれるとか、海外から商品を輸入し国内で販売する契約を結んでいたところ海外でテロや暴動が発生するなど、思わぬ事態が発生し、それにより契約が履行できなくなるということは現実に生じ得ます。
 そのような場合、不可抗力条項を定めておけば、リスクを最小限に抑えることが可能です。

2 不可抗力の意味 
 「不可抗力」とは、「取引上普通に要求される程度の注意や予防方法を講じてもなお防止できない損害を発生させる事由であり、戦争、内乱、大災害などをいう」とされています。
 ここで、民法第419条第3項は、金銭を支払う債務においては不可抗力をもって抗弁とできないと規定されており、この条項の反対解釈として、金銭債務以外の債務については、不可抗力をもって責任を免れることができるとされています。
 つまり、契約を履行できなかった場合、相手方から損害賠償請求や契約解除をされる危険がありますが、こちらが契約をできなかったのは不可抗力によるためだったということを立証できれば、相手方からの損害賠償請求や解除等の責任追及を封じることができるのです。

3 不可抗力をめぐるトラブル 
 ただ、ここで争いになるのが、何が不可抗力に当たるのか、契約を履行できなかった原因は不可抗力なのか、ということです。
 不可抗力条項は、このような争いを避け、当該条項に該当する事態が生じたことのみの立証で免責されるという効力をもちます。

4 回答 
 不可抗力条項の例は、次のとおりです。

(例)
 「戦争、テロ行為、暴動、天変地変、法令の改廃・制定、公権力による処分・命令、同盟罷業その他の争議行為、輸送機関の事故、その他の不可抗力により、個別契約の全部または一部の履行の遅滞または不能が生じた場合は、甲または乙は互いにその責任を負わない。」

請負契約の解除が認められる場合とは

(質問)
 2か月前に,Aさんから住宅の設計を依頼され,当社として通常どおり設計作業を進めていました。Aさんは新しく建てる家に強い思い入れがあり,設計図はAさんと当社の担当者が何度も打ち合わせをしています。  
 ところが,Aさんは会社の都合で転勤となったため、当社と契約を解除すると言ってきました。このような解除は認められるのですか?
 また,当社としては,どのように対処したらよいでしょうか?

(回答)

1 請負契約の解除が認められる場合 
 建物の建築は,請負契約等の締結後に,設計を経て工事が完成するまでの相当の期間を要します。そのため,御相談のように,中途で契約を解除するということがあります。
 民法上,契約解除できる場合としては,相手方に債務不履行がある場合及び手付を利用する場合があります。そして,これらの場合でない限り契約解除は原則としてできません。
 なぜなら,契約には拘束力があり,これを破棄するためには一定の事由が必要とされるからです。
 しかしながら,請負契約においては,請負人に生じた損害を賠償することを前提にして,注文者が自由に解除することが認められています(民法641条)。これは、契約締結後の事情の変化により請負契約を存続させる必要がなくなった場合にまで,請負人に仕事を続けさせることは無意味と考えられるからです。
 そして,民法上は「損害を賠償して契約の解除をすることができる」と規定されていますが,損害を賠償しなければ注文主は解除ができないというわけではありません。
 したがって,御相談ケースでは,Aさんは貴社に対して予め賠償金を支払うことなく,とりあえず契約の解除をすることができます。そして,貴社としては,その解除後に,Aさんに対して損害賠償を請求することとなります。

2 損害賠償の内容 
 次に,損害賠償の内容としては,請負人が既に支出した費用,及び仕事が完成していたのであれば得られたであろう利益(逸失利益)を請求することができます。
 他方で、請負人がそれ以上契約を続行しないことにより不要となった費用等は控除されます(損益相殺)。
 そのため,「解除の時まで被控訴人(請負人)がなした仕事に照応する請負代金(報酬)相当額をもってこれを算定することが衡平に合致する」とした判例もあります(名古屋高裁昭和63.9.29)。
 また,請負人が裁判において損害賠償請求をする際には,現に支出した費用を裏づける証拠や,他の類似の仕事内容で得られた利益の実績を示す証拠が必要となります。

3 請負人のリスク対策 
 以上より,請負人である貴社としましては,請負契約は注文主により契約が解除されるリスクが常にあることをまず押さえておく必要があります。そして,その上で、解除された場合に速やかに貴社に生じた損害額を立証できるよう,証拠書類を日頃から確保しておくことが必要と言えます。

企業が応じなければならない有効なクーリング・オフとは?

(質問)
 企業が応じなければならない有効なクーリング・オフとはどのようなものでしょうか?

(回答)

1 行使期間はいつまで? 
 企業は,行使期間内(訪問販売であれば8日以内)にされたクーリング・オフには応じなければなりません。
 今回はこの「行使期間内にされた」の意味を説明したいと思います。
 まず,簡単な事例を紹介します。A社は,平成25年4月1日,訪問販売により,Bに対し,ベッドを20万円で売り,Bから契約書にサインをもらって,それをBに交付しました。ところが,Bは,4月8日にクーリング・オフの通知を発し,4月9日にA社に到達しました。この事例でBのクーリング・オフは「行使期間内にされた」ものといえるでしょうか。
 まず,クーリング・オフの行使期間の8日を数える際,民法の原則と異なって初日が算入されます(特定商取引に関する法律(以下「特商法」といいます。)9条1項)。
 したがって,本事例におけるクーリング・オフの行使期間は4月8日までとなります。

2 効果が発生するのはいつから? 
 次に,クーリング・オフの効果は,これまた民法の原則と異なってクーリング・オフの通知を発した時に生じます。これを発信主義といいます(逆に,効果の発生を通知が到達したときに認める考え方を到達主義といいます)。
 本事例においてBがクーリング・オフの通知を発したのは,その行使期間内である4月8日です。
 したがって,たとえ通知がA社に到達したのが4月9日であっても,A社は,Bのクーリング・オフに応じなければなりません。

3 消費者に不利な特約の効力は? 
 さらに発展ですが,仮にA社が契約書に「クーリング・オフは,当社がクーリング・オフの権利について告知してから8日以内に書面が当社に到達しなければ無効とする。」との特約条項を設けていた場合はどうでしょうか。
 実は,結論は変わりません。なぜなら、クーリング・オフの規定を消費者に不利に変更することはできず(特商法9条8項),A社の設けた特約条項は,発信主義を消費者に不利な到達主義に変更する条項なので無効となるからです。
 以上のような法律上の効果の発生の有無の判断を誤ると大変なことにもなりかねませんので,クーリング・オフ等については弁護士にぜひご相談ください。