投稿者「kobayashi」のアーカイブ

インターネット記事の削除

(質問)
 インターネットを見ていると、当社に関する事実無根の内容を記載して、当社を中傷する記事を見つけました。この記事を書き込んだ人物はわからないのですが、記事の削除を求めることはできるのでしょうか。
 また、この記事を書き込んだ者に対して、損害賠償を請求するため、この記事を書き込んだ人物の住所と氏名を知りたいのですが可能でしょうか。

(回答)

1 プロバイダ責任制限法とは 
 インターネットは、誰もが自由に多数の人と情報の受発信をすることができる画期的なツールですが、その情報発信の簡便性・大量伝達性・匿名性により、甚大な名誉棄損・プライバシー侵害が生じてしまうというリスクが存在しています。
 この問題に対応するために、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下、「プロバイダ責任制限法」といいます。)が制定されています。
 このプロバイダ責任制限法は、一定の要件の下でプロバイダが掲示板への書き込み等を削除しても投稿者に対する損害賠償責任を負わないことと、発信者情報の開示請求ができることなどを定めています。

2 掲載内容の削除
 インターネット上で貴社の権利侵害情報が掲載されているときは、貴社からは情報の発信者がわからない場合でも、貴社は、サイト管理者などのプロバイダに対して、その掲載内容を削除するように求めることができます。
 それを受けたプロバイダは、他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当な理由があるとき、又は、情報発信者に送信防止措置を講ずるに同意するかどうかを照会し、7日間経過しても発信者から同意しない申出がなかった場合は、該当する情報の公開中止や削除などの措置を採ることができます。
 この措置によって発信者に損害が生じてもプロバイダは賠償責任を負いません(同法第3条第2項)。

3 発信者情報の開示請求
 プロバイダ責任法では、プロバイダが発信者の住所・氏名を開示できる要件として、①開示請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであること、②損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他開示を受ける正当な理由があること、という2つの要件を挙げています(同法第4条第1項)。
 どのような場合に上記①及び②の要件を充たすかは、個々の事案によ ることになりますが、開示請求者の社会的評価を低下させる具体的事実が記載されているか否かが1つのポイントになるのではないかと考えられます。

4 回答 
 貴社としては、プロバイダに対して、記載内容の削除を求めることになります。そして、プロバイダが削除に応じてくれなかった場合は、削除を求める仮処分の申立てを検討することになります。
 また、貴社は、プロバイダに対して、貴社の被った権利侵害と損害賠償を提起する必要性を示した上で、侵害情報の発信者の住所、氏名等の開示請求を行うことができます。
 しかし、プロバイダから情報発信者の住所や氏名が任意開示されることはほとんどないので、仮処分や訴訟提起等の法的措置を採ることが必要となります。

風評被害のリスクとプロバイダー責任法について

(質問)
 当社は,住宅の設計・施工・リフォームを主な業務としています。
 先日,インターネット上で当社のことを誹謗中傷するホームページが見付かり,プロバイダーに連絡したところ,数日後にそのホームページは削除されました。
 しかし,そのホームページは数ヶ月にわたってインターネット上にアップされていたらしく,当社は損害賠償を検討しています。
 その前提として,ホームページの開設者が誰であるかを知りたいのですが,それは可能ですか?

(回答)

1 風評被害のリスク 
 住宅の新築やリフォーム工事をどの業者に依頼するかについて,消費者がインターネット上の情報に依存する傾向は大きくなる一方です。
 そのため,ご相談内容のような営業妨害的サイトは,会社の利益を著しく害するものとして,損害賠償請求を検討せざるを得ない場合があります。

2 プロバイダー責任法 
 損害賠償請求をするには,まずそのホームページの開設者が誰であるかを知る必要があるところ,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダー責任法」)の第4条にその関連規定があります。
 同条は,ホームページ開設者の住所・氏名をプロバイダーが開示できる要件として,①開示請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであること,②損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他開示を受ける正当な理由があること,という2つの要件を挙げています。
 このような厳格な要件が定められているのは,簡単に開示を認めてしまうと,ホームページ開設者の表現活動が萎縮してしまい,表現の自由(憲法21条)が侵害される結果となってしまうからです。
 どのような場合に上記①及び②の要件を充たすかは,個々の事案によることになります。

3 ホームページ開設者の住所・氏名の開示が決められる場合 
 東京地裁平成18年1月30日判決は,「本件侵害情報は、原告は違法な二段階営業をしていること,原告が特定商取引法3条違反の契約の勧誘をしていること・・・などの具体的事実を摘示するものであって,原告の社会的評価を低下させるものであることは明らかである」として開示請求を認めました。
 したがって,上記①及び②の要件を充足するかの判断については,開示請求者の社会的評価を低下させる具体的事実がホームページに記載されているか否かが1つのポイントになると考えられます。
 以上の手続より,プロバイダー責任法第4条によりプロバイダーからホームページ開設者が明らかにされれば,その者に対する損害賠償請求が可能となります。

バイトテロ行為の法的責任及び対策について

(質問)
 最近,アルバイトなどの従業員が勤務先で撮影した悪ふざけの写真を,ツイッターやフェイスブックなどのSNSに投稿し,それが炎上するニュースをよく見ます。
 幸い,当社ではこのような問題は生じていませんが,いつ起こるか分からないという不安もあります。何か良い対策はあるでしょうか。

(回答)

1 バイトテロとは 
 従業員がSNS上に悪ふざけの写真を投稿し,それが流出して,雇用している企業に多大な損害を与えることが社会問題となっています。
このような事態は,アルバイトによるテロ行為ということで「バイトテロ」と呼ばれています。
 従業員の幼稚な悪ふざけ自慢がSNSを通じて拡散したことで企業ブランドが大きく傷つき,臨時休業や店舗閉鎖などに追い込まれる店舗も続出しています。
 消費者からの信頼が脅かされるだけでなく,企業の存続にも関わるこのリスクに対し,危機感をもって早急に手を打つことが必要です。

2 バイトテロ行為の法的責任 
 バイトテロとして報道された事例を一部挙げると,以下のようなものがありました。
 ①従業員が店内のアイスクリーム展示用の冷蔵庫の中に入り込み,商品の上に寝そべっている写真を投稿,②レストラン内厨房の中の業務用冷蔵庫の中に従業員が入り,顔を出している写真を投稿,③飲食店の厨房で食材をくわえたり,顔面に貼り付けたりしている写真を投稿,などです。
 このような従業員の行為は,店舗の業務を妨害するものとして,威力業務妨害罪(刑法234条)に該当し,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
 また,民事上の損害賠償責任も発生します。
 販売する商品を廃棄することになれば,当該商品の代金が損害となりますし,店舗が休業や閉店に追い込まれると,営業利益という高額の損害も生じます。
 バイトテロに関する損害賠償訴訟で,まだ確定した裁判はありませんが,今後は1000万円を超える賠償義務が認められることも予想されます。

3 事前の防止策が重要 
 仮に,従業員に対してバイトテロ行為により1000万円を超える損害賠償義務が認められても,当該従業員に資力がなければ回収ができず,絵に描いた餅にすぎません。
 このように事後的な損害賠償で対処するよりも,事前に従業員がバイトテロ行為に及ばないような対策を採ることが非常に重要です。
 バイトテロが発生する原因としては,事態の重大性や情報伝播の迅速性を考えず,安易に不適切な投稿をしたことにあるといえます。
 バイトテロ行為は,上述のような法的責任だけでなく,一度SNS上に投稿してそれが拡散されてしまうと,それが半永久的にネット上に存続することになり,プライバシーが侵害されてしまうというリスクも挙げられます。
 よって,事前の防止策としては,バイトテロ行為によって生じる個人の法的責任,プライバシーが晒されるというSNSの危険性,企業が被る損害について,徹底した従業員教育を行うことが最も重要といえるでしょう。
 その他にも,従業員が1人になる時間帯を生じさせないことや,職場への携帯電話の持ち込み禁止,監視カメラの設置等も対策として考えられます。
バイトテロ対策は,従業員だけの問題ではなく,企業の存続にも関わる重大な問題です。
 バイトテロが発生して企業に大損害が生じてからでは遅いので,事前のリスクマネジメントがますます重要になってきます。

4 業種や規模に応じた適切な防止策 
 バイトテロ対策は企業の業種や規模によっても採るべき対策が異なってくるので,事前の対策が十分であるかご心配の方は,一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

特許権の侵害を主張する際のリスク

(質問)
当社は、半導体装置を製造販売する会社ですが、Y社が製造している半導体が当社の有する特許権を侵害していると考えて、Y社に対し、警告書を送付しました。しかし、Y社は、当社の有する特許権に係る発明は、既に皆に知られている発明に基づいて容易に発明することができるから、当社の特許権は、無効であり、Y社は、当社の特許権を侵害していないと主張してきました。
 しかし、当社の特許権は、有効に登録されていますので、当然当社の主張が認められると思いますが、どうでしょうか。

(回答)

1 特許の登録要件
 特許の登録要件としては、①産業上の利用可能性、②新規性、③進歩性がそれぞれあること必要とされています。新規性とは、元々存在する技術ではなく、新しい発明であることをいい、進歩性とは、元々存在する技術から容易に発明することのできたものをいいます。
 Y社の主張は、貴社の特許権の進歩性を争うものと考えられます。

2 特許権を無効にする手段 
 特許権は、特許庁に特許無効審判を申し立て、無効審決が確定して初めて、初めから存在しなかったものとみなされます(特許法第125条)。 
 したがって、特許無効審決が確定していない以上、特許権はその効力を失うことはありません。

3 特許無効審決が確定していない段階での無効の主張
 従前の判例は、上記⑵を理由として、請求の基礎となっている登録されている特許権が無効であることを理由にしては、差し止め請求や損害賠償請求を排斥することは認めていませんでした。
 しかし、現在は、請求の基礎となっている特許権の無効審決が確定していなくても、当該特許権の無効を主張して、特許権者の請求を退けることができるとされています(特許法第104条の3第1項)。

4 回答 
 貴社の特許権に無効事由がある場合は、Y社に対して、侵害行為を 差し止め請求や損害賠償請求が認められることはありません。
 貴社としては、Y社に対し、特許権の権利行使を行う際には、自らの有する特許権の有効性について再度検討すべきです。
 特許出願時は、自らの技術しか頭にないため、将来の他社からの反論をなかなか想定できません。Y社は、貴社から警告書を受領したら、貴社の権利行使を阻止するため、無効理由をほじくり出すべく、一生懸命になったと推察されます。
 貴社のY社に対する請求が認められるかどうかは、貴社の特許に進歩性が認められるか否かにかかっているといえます。

設計図,建築物の著作権について

(質問)
 当社は住宅の建築設計・施工を主な事業としています。
 そして,当社は,これまでの一般的な住宅とは異なる,独創的なデザインや機能をもつ住宅を積極的に展開しようと考えています。
 当社の事業が成功した場合,当社が設計・施行した住宅を他の会社に勝手に模倣されたくないと考えていますが,法的に当社は保護されるのでしょうか。

(回答)

1 設計図,建築物の著作権 
 貴社の設計や施工が法的に保護されるかは,貴社が作成した設計図(著作権法第10条1項6号),及び貴社が施行した建築物(同法同条項第5号)が著作権によって保護されるか否かによると言えます。
 まず,著作権は,著作物について発生する権利ですので,貴社が設計した設計図や貴社が施行した建築物が著作物として認められなければ,著作権は発生しません。
 ここで,著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法第2条1項)とされています。
 そして,いかなる設計図や建築物が著作物として認められるかは,一義的な基準があるわけではなく,美術性・創造性・独創性・芸術性から総合的に判断されます。
 貴社が著作物に該当すると考えても,他者がこれを否定した場合には,最終的には裁判所で判断されることとなります。

2 著作権の内容 
 次に,著作権は,大きく著作財産権と著作人格権に分かれます。
 著作財産権には様々な権利が含まれますが,建築に関しては他人に複製されない権利が主なものとなります。
 また,著作者人格権は,公表するか否か,氏名を表示するか否かを自由に決める権利,及び勝手に改変されない権利の総称です。

2 著作権の内容 
 次に,著作権は,大きく著作財産権と著作人格権に分かれます。
 著作財産権には様々な権利が含まれますが,建築に関しては他人に複製されない権利が主なものとなります。
 また,著作者人格権は,公表するか否か,氏名を表示するか否かを自由に決める権利,及び勝手に改変されない権利の総称です。

3 著作権侵害の場合の会社対応 
 貴社の設計図や建築物が著作物に該当する場合,第三者が勝手にこれらを複製すると,第三者は貴社の著作権を侵害したことになります。
 この場合,貴社は,まず侵害行為の停止及び予防を請求できます(同法112条)。
 また,第三者の複製行為により貴社が損害を被った場合は,貴社は第三者に損害賠償請求(民法709条)及び名誉回復のための措置(謝罪広告など)を請求できます(著作権法115条)。
 そして,貴社が被った損害を立証することは困難であるため,著作権法では複製行為を行った者が得た利益を損害と推定するとされています(同法114条)。
 なお,著作権侵害には刑事罰も科せられます(同法119条)。
 以上のように,著作物であれば著作権法によって手厚い保護が受けられるため,貴社の作成した設計図や建築物が著作物に該当するか否かが重要なポイントになると言えます。 

プログラムにも著作権はあるの?

(質問)
 当社は,労働者派遣事業を営んでいます。当社の従業員Aが,派遣先であるB社での業務の過程で,顧客管理プログラムを作成しました。これが,今までにない機能を有していてとても便利なものであるため,当社の製品として販売しようと思います。Aの了解も得ているため問題はないと思いますが,どうでしょうか?

(回答)

1 プログラムにも著作権はあるの? 
 著作権法第10条第1項第9号では,「プログラムの著作物」が著作権の対象である「著作物」の一つとされていますが,これは,プログラムであれば全てが「著作物」になるのではなく,ある程度の「創作性」のあるプログラムのみが,「著作物」になることを意味しています。
 「創作性」とは,簡単に言うと,誰が作成しても同じ様なものになるような,ありふれたものではないことです。
 御相談の顧客管理プログラムは,今までにない機能を有しているとのことなので,「創作性」を有していると考えられます。そのため,「著作物」として著作権の対象になると言えそうです。

2 相談者とAとB社の関係はどうなっているの? 
 労働者派遣では,派遣元と派遣先,そして派遣される労働者が登場します。雇用関係は,派遣元と労働者の間にあります。そして,派遣先での労働者は,派遣先の指揮命令のもとで職務に従事しますが,派遣先と雇用関係はないのです。
 そのため,御相談の事案でも,Aは御社とのみ雇用関係があり,AとB社の間には雇用関係がありません。

3 職務著作 
 このプログラムはAが作成したものですし,Aの雇い主は御社である以上,このプログラムの著作権は,一見すると御社かAに帰属していそうですが,実はそうではないのです。
 著作権法上,法人の指揮監督のもとで,業務に従事している人が職務上作成したプログラムの著作権は,法人に帰属することになっています(著作権法第15条第2項)。 
 そして,指揮監督のもとで業務に従事していることと雇用関係にあることとは別のものなのです。つまり,Aは,御社と雇用関係を有してはいますが,派遣先であるB社の指揮監督のもとで本件の顧客管理プログラムを作成している以上,この顧客管理プログラムの著作権はB社に帰属することになる可能性が高いのです。

4 このまま販売するとどうなるか 
 このまま御社が販売すると,B社から損害賠償請求や販売の差止請求を受けることが考えられます。
 販売年数や,販売による利益率にもよりますが,1億円以上の損害賠償が認められたものもあります(東京地裁平成26年3月14日判決)。
 また,刑事罰として,著作権侵害行為者は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金,又はこの両方が科され,行為者の所属する法人にも3億円以下の罰金が科される可能性があります。
 このようなことになると,金銭面,社会的信用の両者について著しくダメージを受けることになってしまいます。

5 著作権が誰に帰属するかにも注意を 
 このようなことにならないように,あらかじめ著作権など知的財産権の帰属について,契約書で明記しておくことが重要になります。
 著作権など知的財産権に関する問題は,どのようなものに知的財産権が生じるかだけではなく,誰に帰属するかも非常に重要になってきます。
 しかし,誰に帰属するかは,雇用関係に必ずしも伴うものではなく,簡単に判断できるものではないため,複雑な問題が生じかねません。
 誰に知的財産権が帰属しているかどうかお悩みのようでしたら,専門家に相談することをお勧めします。

外注して制作したビデオの映像のホームページへのアップ

(質問)
 当社では、外部業者に委託して、会社紹介ビデオを制作しました。このビデオの出来が大変良かったため、このビデオを編集して会社のウェブサイトにアップしたいと考えています。
 当社が対価を支払ったビデオなので問題はないと思うのですが、どうでしょうか。

(回答)

1 映画の著作物における著作権者 
 ご質問の会社紹介ビデオ映像は、著作権法上は映画の著作物に当たります。
 著作権法上、映画の著作者は、映画監督に限らず、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者です。しかし、これらの著作者が全員著作権を持つと結果的に映画の利用に支障を来すという配慮から、その著作者が映画製作者(多くの場合は映画会社)に対して映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、映画の著作権は映画製作者に帰属すると定められています(著作権法第29条第1項)。
 ここで、映画製作者とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」といいます(著作権法2条1項10号)。そして、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」とは、映画の著作物を製作する意思を有し、当該著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって、そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者であると解するのが相当であるとしています。
 それは、資金の投資者は、自らのリスクの下、多大な資金を投資している例が多く、投下資本の回収させる必要がある、多数の著作者全てに著作権行使を認めると、映画の円滑理由が妨げられるなどの理由があるためです。
 しかし、裁判所は、テレビCM原版については、従来の考えとは異なり、CM制作会社ではなく、広告主であるとの判断をしました(第一審:東京地方裁判所平成23年12月14日判決、控訴審:知財高等裁判所平成24年10月25日判決)。
 その理由としては、15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること、多額の制作費のみならず、多額の出演料等も支払っていること、広告映像により期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは専ら広告主において負担しており、広告主において著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いといったことが挙げられています。
 したがって、会社紹介ビデオが完成した時点では、ビデオの著作権はビデオの制作会社に帰属していると考えられるのが原則ですが、制作の経緯によっては、貴社に帰属していると判断される可能性もあります。

2 制作委託の注意点 
 もっとも、ビデオの制作委託契約の中で、ビデオの著作権が貴社に譲渡されることが明記されていれば、著作権の帰属については問題ありません。
 しかし、制作委託契約に権利関係が明記されていない場合も少なくありません。
 貴社が著作権を受けることを明確にするためには、契約書に、「A社が制作会社に対価の全額を支払った時点で、本作品に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)及びその他の知的財産権はA社に譲渡される。」といった規定を設けるべきです。
 著作権法第27条(翻案権)及び第28条(二次的著作物に関する原著作者の権利)について特に記載しておくのは、これらの権利については、著作権譲渡の対象であることを明記していなければ、譲渡されずに著作者に留保されていると推測するという規定があるからです(著作権法第61条)。

3 著作権人格権 
 ご質問のケースでは、ウェブサイトにアップする際にはビデオを編集することも予定されています。この場合、著作権(翻案権)とは別に、著作者人格権という権利も問題になります。
 著作者人格権とは、著作物を創作した著作者が一身専属的に取得し、著作物の経済的権利(狭義の著作権)が第三者に譲渡されても、引き続き著作者が持ち続ける権利です。
 本件のビデオを編集して利用する場合、同一性保持権(著作権法第20条)が問題となる可能性があります。
同一性保持権とは、不本意な改変を受けない権利のことです。著作物が著作者の思想又は感情の現れ、すなわち著作者の人格の現れであることから、保護されている権利です。もっとも、改変については、著作者の承諾があれば行うことができますし、著作権法上「やむを得ないと認められる改変」であれば承諾がなくても行うことができます。
 しかし、映画の場合、純粋に技術的な制約に基づく改変(ビスタサイズの映画フィルムをテレビ放送に合わせてトリミングする行為)は、やむを得ない改変と認められるでしょうが、映像の一部削除、ストーリーの改変は、やむを得ない改変とは認められないと考えます。
 そこで、著作者人格権の侵害を主張されないためには、契約書に「制作会社はA社に対して、本作品に関する著作者人格権を行使せず、また本作品の著作者に行使させない。」というような規定を入れておくと良いでしょう。

4 回答 
 貴社が外部の制作会社にビデオの制作を委託した場合、著作権の権利関係について明確な合意がなければ、貴社がビデオを自由に使えるとは限りません。
 また、ビデオを編集する場合は、ビデオの著作権だけではなく著作者人格権も問題になるので、その点も確認する必要があります。

商品等の表示の規制の具体例とリスク

(質問)
 景品表示法による表示の規制の具体例と、違反した場合のリスクを教えてください。

(回答)

1 景品表示法による表示の規制 
 景品表示法第5条は、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引についての、①優良誤認表示(品質その他の内容について著しく優良と誤認される表示)、②有利誤認表示(価格その他の取引条件について著しく有利と誤認される表示)、③内閣総理大臣が指定するその他の誤認される表示を禁止しています。

2 優良誤認表示の具体例
 優良誤認表示の具体例としては、例えば、マフラーの実際のカシミヤ混用率が約50%にもかかわらず、「カシミヤ100%」と表示する場合が挙げられます。

3 有利誤認表示
 また、有利誤認表示の具体例としては、例えば、実際の市価が600円程度の商品を「1000円の品を500円で提供」「市価の半額」と表示する場合が挙げられます。

4 その他の誤認される表示
 内閣総理大臣が指定するその他の誤認される表示については、現在6種類の表示が指定されています。
 例えば、原産国の不当表示(例えば、ある商品の製造販売業者が、外国で製造された商品本体の原産国の表示部分に自社の社名を記入したシールを貼った場合)などが指定されています。

5 景品表示法に違反した場合  
 景品表示法に違反した場合には、消費者庁から、景品類の提供の禁止や違反行為が再び行われることを防止するために必要な事項を命じられる場合があり(同法第7条第1項)、その措置命令に違反した場合には、命令違反となる行為を直接実行した人間に対しては、刑事罰(法定刑は2年以下の懲役又は300万円以下の罰金、懲役と罰金が併科される場合もあります。)が科されます(同法第36条第1項)。その場合は、法人に対しても、3億円以下の罰金が科されます(同法第38条第1項)。

食品偽装に適用される法律とは

(質問)
 最近,全国のホテルや百貨店で食材の「誤表示」や「偽装表示」が相次いで発覚しているというニュースを見ました。
 当社はこのような偽装表示が生じないよう注意をしていますが,仮にこのような事態が生じてしまった場合について教えてください。

(回答)

1 食品偽装とは 
 食品偽装とは,食品の小売・卸売りや飲食店での商品提供において,生産地,原材料,消費・賞味期限,食用の適否などについて,本来とは異なった表示を行った状態で,流通・市販がなされることをいいます。
 産地や原材料の偽装は以前からありましたが,ここ最近になって,有名ホテルや高級百貨店などで,メニューと異なる食材を提供する「食材偽装表示」が相次いで発覚したことから,再び話題に取り上げられています。

2 食品偽装に適用される法律 
 食品偽装で報道されたものとして,「バナメイエビ」を「芝エビ」と表示したり,「牛脂注入加工肉」を「ビーフステーキ」と表示するものがありました。このような偽装が生じる原因としては,産地や品種によって価格が大きく異なるので,原価を抑えることができるということが挙げられます。
 この食品偽装問題は景品表示法に違反する可能性が高いといえます。
 景品表示法は,実際より著しく優良と消費差を誤認させる行為を「不当表示」として禁止しており,これに違反した場合には消費者庁から行為の差止め等の措置命令が下されます。
 この措置命令に従わないと,事業者の代表者等は2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が,そして当該事業者は3億円以下の罰金が科されます。
 また,民事上の責任として,食品の表示が「不当表示」に該当する場合,契約の効力が否定されて返金義務が生じます。

3 食品表示法の成立・施行 
 このような食品偽装については,景品表示法以外にも様々な法律によって規制されていますが,それらの法律は十分に機能しているとはいえない状況でした。そのために1つの食品偽装問題が報道されたことを皮切りに,数多くの件が次々と発覚しました。
 そのような中,食品の表示に関する新たな法律として,食品表示法が平成25年6月に成立し,2年以内に施行されることになりました。
 食品表示法は,消費者庁のもとで,食品衛生法,JAS法及び健康増進法の食品の表示に関する規定を総合して食品の表示に関する包括的かつ一元的な制度としたものです。
 この食品表示法は食品の表示を規定する際の「基本理念」や「執行体制」などの枠組みについて定めており,この食品表示基準に違反すると,最大で3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処せられることがあります(これらが併科されることもあります。)。
 消費者庁のもとで商品表示法という新しい法律に生まれ変わったことは,食品表示行政の歴史からみても大きな転換点であるといえます。

4 企業の社会的信用 
 もっとも,食品表示法が成立しただけでは食品偽装はなくなりません。
 一度でも食品偽装を行うと,現在も将来も「消費者をだます企業」との烙印を押されかねません。
 したがって,食材や食品についての正確な知識だけでなく,食品の表示に関する法律の趣旨も汲みとって,表示をする必要があります。

5 表示偽装に関するリーガルチェック 
 食品の表示やその他商品,サービスに関する表示について,少しでも気になることがありましたら,弁護士にご相談ください。

追加担保提供条項とは

(質問)
 追加担保提供条項とはどのようなものですか?

(回答)

1 追加担保の必要性 
 金銭消費貸借契約等においては、債権の履行を確保するため、しばしば土地や建物に抵当権が設定されます。
 その際、抵当権を設定した物件が値崩れして、その価値が被担保債権の額に満たなくなることも考えられます。
 この場合、債権者は、抵当権の実行をしても、十分な債権の回収ができなくなってしまいます。
 このような場合に備えて、債権者が債務者に対し、あらかじめ債務者にさらに担保を請求することができるとするのが追加担保提供条項です。

2 追加担保条項の規程例 
 追加担保条項の規程例は次のとおり。
 「抵当物件が、その原因のいかんにかかわらず、滅失・毀損するなど価格下落を生じたとき、若しくはそのおそれがあるときは、債務者及び保証人は、直ちに債権者に対しその旨を通知しなければならない。
 この場合、債権者が請求したときは、債務者は増担保、代担保を設定し、又は保証人を立てなければならない。
ただし、本件消費貸借契約に基づく残債権額が抵当物件の実税処分価格を下回っていることを債務者が立証したときはこの限りではない。」

3 追加担保条項の有効性 
 ただし、この追加担保提供条項には、注意する点が1つあります。
 それは、具体的な物件を特定して追加担保提供義務を負わせるようなものでない限り、実際に「この土地を担保提供せよ」という請求を訴訟でするのは、難しいということです。
 このようなことを申し上げると、読者の皆様には、具体的な担保物件を記載していない上記規定例は、無意味な規定であると思う方もいらっしゃるかもしれません。
 ところが、上記規定例のような規定を設けることにも一定の意味があります。
 なぜなら、仮に債務者が具体的な担保提供をしなかった場合には、「債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき」(民法137条3号)にあたり、期限の利益が喪失され、債務者は一括で残金を弁済しないといけないからです。
 実際に追加担保提供条項を契約書に規定する場合、具体的な担保となる物件について規定しておくことが考えられます。
 しかし、仮にそれが困難な場合でも、規定例のような条項を設けることで、少なくとも期限の利益の喪失を避けるべく、債務者は担保の提供をするための奔走をすることになるのです。