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限定正社員ってなに?

(質問)
 限定正社員という言葉をたまに聞くのですが,どのようなものですか?

(回答)

1 限定正社員とは 
 限定正社員とは,勤務地や職種,労働時間が限定されている正社員のことを言います。正社員より,一定の労働条件が限定されています。
 この限定正社員は,従来の日本において,正社員が頻繁な転勤や職種転換を命じられ,また長時間の残業に従事しているといった働き方を是正し,ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を実現しやすい雇用形態とすることを目的に,規制改革会議の雇用ワーキング・グループで提案されたものです。
 また,最近では労働契約法の改正により,有期雇用の社員が5年以上連続して勤務すると無期への転換権が認められるようになったことから,無期雇用にするとしても限定正社員として採用することを考えている企業もあるようです。

2 限定正社員と正社員の違い 
 プラスの面では,先ほど述べたように,会社との合意内容により,転勤や職種転換,残業をしなくて良いという点が挙げられます。
 反対に,マイナスの面としては,正社員より労働条件が労働者に有利に限定されていることから,賃金は一般的に正社員より低くされる傾向があります。

3 限定正社員は解雇しやすい 
 また,従事する職種が廃止されたり勤務する支店などが閉鎖された場合には,解雇されやすくなるのではないかと考えられています。
 限定正社員が解雇されやすいのはなぜかというと,まず,従業員を解雇するにあたって,労働契約法16条では,客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが求められ,これに反すると権利の濫用として解雇は無効となります。
 また,解雇には懲戒解雇と整理解雇(リストラ)があり,このうちの整理解雇には法に定められていない要件が判例によって付加されています。
 具体的には,①人員整理の必要性,②解雇回避努力義務の履行,③被解雇者選定の合理性,④手続の妥当性の4つであり,これは整理解雇の4要件と言われています。
 さて,限定正社員の整理解雇についてですが,職種や勤務地が限定されているため,企業の解雇回避努力義務の範囲もそれに応じて限定されることになります。
 そうすると,その他の3要件を満たせば解雇は有効になり,通常の正社員より解雇が認められやすいということになります。

4 我が国の解雇法制度の問題点 
 もっとも,現在の我が国の解雇法制度は,労働者の地位を手厚くしすぎており,解雇に柔軟性が全くないことが問題だと思います。労働者にとっては,生活の糧となる給料をもらうことは大事でしょうが,労働者の中には終身雇用制に安住して勤労意欲がなく,自己の権利のみを主張する者もいることは,私の経験からも言えるところだと思っています。
 よって,根本的に解雇規制を再度整備し直して,ムチとしての解雇制度があることを認識してもらうことで労働者の働く意識を改革し,より良い企業となること,さらには日本の発展も期待したいと考えています。

営業秘密の持ち出しリスク

 

(質問)
 当社には、顧客管理簿(顧客の個人情報、顧客ニーズ、履歴等を含む。)があるのですが、顧客管理簿の漏洩防止策と、それが漏洩してしまった場合の対応について教えてください。

(回答)

1 事前の漏洩防止策が重要
 営業秘密は、外部に漏洩した時点でその財産的価値が失われてしまうという性質を有しているため、事前に漏洩防止策を講じることが重要です。
 そして、営業秘密の漏洩は、外部からの侵奪によるものは稀であり、多くは会社の従業員や退職者が内部情報を持ち出すことにより発生しています。

2 従業員等の労務管理の重要性 
 したがって、営業秘密漏洩防止のためのもっとも重要かつ有効な対策は、自社の従業員等の労務管理にあるといえます。
 具体的には、まず、就業規則や誓約書をもって、秘密保持、資料返還及び競業禁止義務を定め、営業機密管理規程を整備することが考えられます。
 また、営業秘密管理規程を整備するだけでなく、従業員の言動等に注意し、漏洩行為を行う素振りが感じられた場合には、すぐに営業秘密を引き上げるという現実的な対応も必要となります。
 とはいえ、企業の経営者は、「技術は人である」ということを再認識し、優れた技術者であればあるほど、待遇面で厚遇しつつ働きやすい職場環境を整備すべきです。

3 営業秘密が漏洩した場合の対応 
 実際に営業秘密が漏洩した場合は、不正競争防止法による対応が考えられます。 
 例えば、貴社は、競合企業に転職した元従業員が、無断でコピーして持ち出した顧客名簿を用いて顧客を勧誘している場合は、顧客名簿の使用行為の差止め、顧客名簿のコピーの廃棄及び損害賠償を請求することができます。
 ただし、営業秘密の漏洩があったとしても、原告に立証責任があることから、確たる技術情報漏洩の事実と証拠を確定しない限り、不正競争防止法による救済が困難となるリスクがあることにも留意すべきです

アンケート実施の注意点とは?ー個人情報の取扱いは慎重に!

(質問)
 当社では,以前,顧客に対するアンケートを実施し,回答していただいた中から抽選でプレゼントを送付するというキャンペーンを実施しました。この度,当社の子会社が,このアンケートに書かれた住所宛てに,住宅建築のダイレクトメールを送付することを考えているのですが,何か問題はありませんか?

(回答)

1 情報取得手段としてのアンケート 
 アンケートは,サービス向上のための情報や,顧客情報の取得のために有用な手段です。
 そして,顧客情報,特に名前や住所等の個人情報を取得するため,回答した顧客にプレゼントを送付することも,よく行われます。

2 個人情報は本人のもの 
 このように,貴社がアンケートを実施して取得した集計結果については,貴社のノウハウになります。
 しかし,個人情報については,貴社が投資して収集したものであっても,あくまで個人本人のものです。
 したがって,個人情報は,本人の意思に反する取扱いができません。
 このような趣旨で個人情報保護法(以下「法」といいます。)が定められており,個人情報を取り扱うにあたっては,この法を遵守する必要があります。本件で注意すべき主な点は,次のとおりです。

3 利用目的の特定・目的外利用の禁止 
 まず,アンケートに名前や住所等の個人情報を記載してもらうことにより,個人情報を取得する際には,個人情報の利用目的を特定・明示する必要があります(法15条1項,18条1項)。
 そして,特定・明示した利用目的と異なる目的で個人情報を利用することは,本人の同意がない限りできません(法16条1項)。
 したがって,ダイレクトメールを送付するために個人情報を利用するのであれば,アンケート実施の際に,プレゼントの送付目的に加えて,ダイレクトメール送付目的に個人情報を利用する旨を,明示しておかなければなりません。

4 第三者提供の禁止 
 また,個人情報は,本人の同意なく第三者に提供することができません(法23条1項)。
 たとえ子会社であっても,法人が別ですから第三者にあたります。
 したがって,子会社に個人情報を提供するのであれば,この旨もあらかじめ明示し,黙示の同意を得ておく必要があります。
 ただし,個人情報の利用目的達成に必要な範囲で,個人データの取り扱いを業者に委託する場合の委託先は,第三者にあたらない旨定められています(法23条4項1号)。
 したがって,ダイレクトメール送付を業者に委託する際は,その点に関しての同意が不要です。

5 個人情報の取扱いは慎重に 
 近年,個人情報の取扱いに対する社会の目は厳しくなっています。
 注意すべき点は上記の他にもたくさんありますので,事業者の皆様方におかれましても,情報の管理等に関してお悩みがあり,個人情報保護体制の整備をお考えの方は,一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

社用パソコンの私的利用の調査方法

(質問)
 当社は、従業員に会社のパソコンを貸与しています。
 しかし、最近、会社のパソコンを使って業務に関係のない電子メールを送受信している従業員がおり、業務に支障が出ています。
 こうした電子メールの私的利用を調査することはできますか。

(回答)

1 電子メールの私的利用と企業秩序
 従業員が企業のコンピュータ・ネットワークを私的に用いて電子メールの送受信を行ったり、業務に関係のないインターネット検索やSNSを利用することは、職務時間中であれば職務専念義務違反となりますし、企業施設の私的利用という観点では企業の施設管理権の侵害となります。

2 パソコンの私的利用のリスクと私的利用等の制限
 また、パソコンの私的利用については、コンピューターウイルスの感染による機密情報の流出や、私用メールによる誹謗中傷がなされるなど、さまざまなリスクがあり、軽視できません。
 企業は、就業規則等において、インターネットの私的利用を禁止すること、会社がインターネットの私的利用の有無等につき、モニタリングができることなどを内容とする規定を整備することで、このような電子メールの私的利用等を制限することができます。ここでも、また就業規則等の規定の整備が重要となります。

3 電子メール等の私的利用の監視・調査
 次に、会社のパソコンからの私的メールの送受信等のパソコンの利用状況を、企業が監視・調査することはできるのでしょうか。
 この点、就業規則等において、私用メール等の監視・調査について明確に定め、そのことを従業員に周知しておけば、企業は原則として労働者の同意を得ることなく私用メールを監視・調査することができます。
 他方、就業規則等において、上記の点が定められていない場合は、プライバシー侵害の有無について個別的に判断することになります。
 裁判例では、ネットワークの私的利用禁止規定が整備されていなかった事案において、監視・調査の必要性や目的の合理性、手段・態様の妥当性と、労働者が合理的に期待するプライバシー保護の程度と監視・調査により生ずる不利益を総合考慮し、社会通念を逸脱するような監視・調査は労働者のプライバシーを侵害する不法行為となる旨述べているものがあります(東京地方裁判所平成13年12月3日判決)。

4 パソコンのパスワード等の解除
 従業員がパソコンにパスワードをかけている場合は、どうすれば良いのかという相談を受けることがあります。
 会社のパソコンは会社の所有物ですから、パスワードの解除に関して従業員の許可を取る必要はありませんが、貴社は従業員に対し、パソコンのパスワードを解除すると通告した上で監視・調査を行うことが必要です。
 従業員は、そもそも会社に対して社用のパソコンのパスワードを通知するように、ネットワーク利用規程などで定めておくべきです。

5 回答
 ご質問のケースにおいて、就業規則においてパソコンの私的利用の禁止に関する規定があれば、貴社はパソコンの監視、調査を行うことができます。
 仮に、かかる規定がないとすると、従業員のプライバシーに配慮した手段・態様であれば、監視・調査を行うことができるということになります。

インターネット記事の削除

(質問)
 インターネットを見ていると、当社に関する事実無根の内容を記載して、当社を中傷する記事を見つけました。この記事を書き込んだ人物はわからないのですが、記事の削除を求めることはできるのでしょうか。
 また、この記事を書き込んだ者に対して、損害賠償を請求するため、この記事を書き込んだ人物の住所と氏名を知りたいのですが可能でしょうか。

(回答)

1 プロバイダ責任制限法とは 
 インターネットは、誰もが自由に多数の人と情報の受発信をすることができる画期的なツールですが、その情報発信の簡便性・大量伝達性・匿名性により、甚大な名誉棄損・プライバシー侵害が生じてしまうというリスクが存在しています。
 この問題に対応するために、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下、「プロバイダ責任制限法」といいます。)が制定されています。
 このプロバイダ責任制限法は、一定の要件の下でプロバイダが掲示板への書き込み等を削除しても投稿者に対する損害賠償責任を負わないことと、発信者情報の開示請求ができることなどを定めています。

2 掲載内容の削除
 インターネット上で貴社の権利侵害情報が掲載されているときは、貴社からは情報の発信者がわからない場合でも、貴社は、サイト管理者などのプロバイダに対して、その掲載内容を削除するように求めることができます。
 それを受けたプロバイダは、他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当な理由があるとき、又は、情報発信者に送信防止措置を講ずるに同意するかどうかを照会し、7日間経過しても発信者から同意しない申出がなかった場合は、該当する情報の公開中止や削除などの措置を採ることができます。
 この措置によって発信者に損害が生じてもプロバイダは賠償責任を負いません(同法第3条第2項)。

3 発信者情報の開示請求
 プロバイダ責任法では、プロバイダが発信者の住所・氏名を開示できる要件として、①開示請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであること、②損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他開示を受ける正当な理由があること、という2つの要件を挙げています(同法第4条第1項)。
 どのような場合に上記①及び②の要件を充たすかは、個々の事案によ ることになりますが、開示請求者の社会的評価を低下させる具体的事実が記載されているか否かが1つのポイントになるのではないかと考えられます。

4 回答 
 貴社としては、プロバイダに対して、記載内容の削除を求めることになります。そして、プロバイダが削除に応じてくれなかった場合は、削除を求める仮処分の申立てを検討することになります。
 また、貴社は、プロバイダに対して、貴社の被った権利侵害と損害賠償を提起する必要性を示した上で、侵害情報の発信者の住所、氏名等の開示請求を行うことができます。
 しかし、プロバイダから情報発信者の住所や氏名が任意開示されることはほとんどないので、仮処分や訴訟提起等の法的措置を採ることが必要となります。

風評被害のリスクとプロバイダー責任法について

(質問)
 当社は,住宅の設計・施工・リフォームを主な業務としています。
 先日,インターネット上で当社のことを誹謗中傷するホームページが見付かり,プロバイダーに連絡したところ,数日後にそのホームページは削除されました。
 しかし,そのホームページは数ヶ月にわたってインターネット上にアップされていたらしく,当社は損害賠償を検討しています。
 その前提として,ホームページの開設者が誰であるかを知りたいのですが,それは可能ですか?

(回答)

1 風評被害のリスク 
 住宅の新築やリフォーム工事をどの業者に依頼するかについて,消費者がインターネット上の情報に依存する傾向は大きくなる一方です。
 そのため,ご相談内容のような営業妨害的サイトは,会社の利益を著しく害するものとして,損害賠償請求を検討せざるを得ない場合があります。

2 プロバイダー責任法 
 損害賠償請求をするには,まずそのホームページの開設者が誰であるかを知る必要があるところ,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダー責任法」)の第4条にその関連規定があります。
 同条は,ホームページ開設者の住所・氏名をプロバイダーが開示できる要件として,①開示請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであること,②損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他開示を受ける正当な理由があること,という2つの要件を挙げています。
 このような厳格な要件が定められているのは,簡単に開示を認めてしまうと,ホームページ開設者の表現活動が萎縮してしまい,表現の自由(憲法21条)が侵害される結果となってしまうからです。
 どのような場合に上記①及び②の要件を充たすかは,個々の事案によることになります。

3 ホームページ開設者の住所・氏名の開示が決められる場合 
 東京地裁平成18年1月30日判決は,「本件侵害情報は、原告は違法な二段階営業をしていること,原告が特定商取引法3条違反の契約の勧誘をしていること・・・などの具体的事実を摘示するものであって,原告の社会的評価を低下させるものであることは明らかである」として開示請求を認めました。
 したがって,上記①及び②の要件を充足するかの判断については,開示請求者の社会的評価を低下させる具体的事実がホームページに記載されているか否かが1つのポイントになると考えられます。
 以上の手続より,プロバイダー責任法第4条によりプロバイダーからホームページ開設者が明らかにされれば,その者に対する損害賠償請求が可能となります。

バイトテロ行為の法的責任及び対策について

(質問)
 最近,アルバイトなどの従業員が勤務先で撮影した悪ふざけの写真を,ツイッターやフェイスブックなどのSNSに投稿し,それが炎上するニュースをよく見ます。
 幸い,当社ではこのような問題は生じていませんが,いつ起こるか分からないという不安もあります。何か良い対策はあるでしょうか。

(回答)

1 バイトテロとは 
 従業員がSNS上に悪ふざけの写真を投稿し,それが流出して,雇用している企業に多大な損害を与えることが社会問題となっています。
このような事態は,アルバイトによるテロ行為ということで「バイトテロ」と呼ばれています。
 従業員の幼稚な悪ふざけ自慢がSNSを通じて拡散したことで企業ブランドが大きく傷つき,臨時休業や店舗閉鎖などに追い込まれる店舗も続出しています。
 消費者からの信頼が脅かされるだけでなく,企業の存続にも関わるこのリスクに対し,危機感をもって早急に手を打つことが必要です。

2 バイトテロ行為の法的責任 
 バイトテロとして報道された事例を一部挙げると,以下のようなものがありました。
 ①従業員が店内のアイスクリーム展示用の冷蔵庫の中に入り込み,商品の上に寝そべっている写真を投稿,②レストラン内厨房の中の業務用冷蔵庫の中に従業員が入り,顔を出している写真を投稿,③飲食店の厨房で食材をくわえたり,顔面に貼り付けたりしている写真を投稿,などです。
 このような従業員の行為は,店舗の業務を妨害するものとして,威力業務妨害罪(刑法234条)に該当し,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
 また,民事上の損害賠償責任も発生します。
 販売する商品を廃棄することになれば,当該商品の代金が損害となりますし,店舗が休業や閉店に追い込まれると,営業利益という高額の損害も生じます。
 バイトテロに関する損害賠償訴訟で,まだ確定した裁判はありませんが,今後は1000万円を超える賠償義務が認められることも予想されます。

3 事前の防止策が重要 
 仮に,従業員に対してバイトテロ行為により1000万円を超える損害賠償義務が認められても,当該従業員に資力がなければ回収ができず,絵に描いた餅にすぎません。
 このように事後的な損害賠償で対処するよりも,事前に従業員がバイトテロ行為に及ばないような対策を採ることが非常に重要です。
 バイトテロが発生する原因としては,事態の重大性や情報伝播の迅速性を考えず,安易に不適切な投稿をしたことにあるといえます。
 バイトテロ行為は,上述のような法的責任だけでなく,一度SNS上に投稿してそれが拡散されてしまうと,それが半永久的にネット上に存続することになり,プライバシーが侵害されてしまうというリスクも挙げられます。
 よって,事前の防止策としては,バイトテロ行為によって生じる個人の法的責任,プライバシーが晒されるというSNSの危険性,企業が被る損害について,徹底した従業員教育を行うことが最も重要といえるでしょう。
 その他にも,従業員が1人になる時間帯を生じさせないことや,職場への携帯電話の持ち込み禁止,監視カメラの設置等も対策として考えられます。
バイトテロ対策は,従業員だけの問題ではなく,企業の存続にも関わる重大な問題です。
 バイトテロが発生して企業に大損害が生じてからでは遅いので,事前のリスクマネジメントがますます重要になってきます。

4 業種や規模に応じた適切な防止策 
 バイトテロ対策は企業の業種や規模によっても採るべき対策が異なってくるので,事前の対策が十分であるかご心配の方は,一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

特許権の侵害を主張する際のリスク

(質問)
当社は、半導体装置を製造販売する会社ですが、Y社が製造している半導体が当社の有する特許権を侵害していると考えて、Y社に対し、警告書を送付しました。しかし、Y社は、当社の有する特許権に係る発明は、既に皆に知られている発明に基づいて容易に発明することができるから、当社の特許権は、無効であり、Y社は、当社の特許権を侵害していないと主張してきました。
 しかし、当社の特許権は、有効に登録されていますので、当然当社の主張が認められると思いますが、どうでしょうか。

(回答)

1 特許の登録要件
 特許の登録要件としては、①産業上の利用可能性、②新規性、③進歩性がそれぞれあること必要とされています。新規性とは、元々存在する技術ではなく、新しい発明であることをいい、進歩性とは、元々存在する技術から容易に発明することのできたものをいいます。
 Y社の主張は、貴社の特許権の進歩性を争うものと考えられます。

2 特許権を無効にする手段 
 特許権は、特許庁に特許無効審判を申し立て、無効審決が確定して初めて、初めから存在しなかったものとみなされます(特許法第125条)。 
 したがって、特許無効審決が確定していない以上、特許権はその効力を失うことはありません。

3 特許無効審決が確定していない段階での無効の主張
 従前の判例は、上記⑵を理由として、請求の基礎となっている登録されている特許権が無効であることを理由にしては、差し止め請求や損害賠償請求を排斥することは認めていませんでした。
 しかし、現在は、請求の基礎となっている特許権の無効審決が確定していなくても、当該特許権の無効を主張して、特許権者の請求を退けることができるとされています(特許法第104条の3第1項)。

4 回答 
 貴社の特許権に無効事由がある場合は、Y社に対して、侵害行為を 差し止め請求や損害賠償請求が認められることはありません。
 貴社としては、Y社に対し、特許権の権利行使を行う際には、自らの有する特許権の有効性について再度検討すべきです。
 特許出願時は、自らの技術しか頭にないため、将来の他社からの反論をなかなか想定できません。Y社は、貴社から警告書を受領したら、貴社の権利行使を阻止するため、無効理由をほじくり出すべく、一生懸命になったと推察されます。
 貴社のY社に対する請求が認められるかどうかは、貴社の特許に進歩性が認められるか否かにかかっているといえます。

設計図,建築物の著作権について

(質問)
 当社は住宅の建築設計・施工を主な事業としています。
 そして,当社は,これまでの一般的な住宅とは異なる,独創的なデザインや機能をもつ住宅を積極的に展開しようと考えています。
 当社の事業が成功した場合,当社が設計・施行した住宅を他の会社に勝手に模倣されたくないと考えていますが,法的に当社は保護されるのでしょうか。

(回答)

1 設計図,建築物の著作権 
 貴社の設計や施工が法的に保護されるかは,貴社が作成した設計図(著作権法第10条1項6号),及び貴社が施行した建築物(同法同条項第5号)が著作権によって保護されるか否かによると言えます。
 まず,著作権は,著作物について発生する権利ですので,貴社が設計した設計図や貴社が施行した建築物が著作物として認められなければ,著作権は発生しません。
 ここで,著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法第2条1項)とされています。
 そして,いかなる設計図や建築物が著作物として認められるかは,一義的な基準があるわけではなく,美術性・創造性・独創性・芸術性から総合的に判断されます。
 貴社が著作物に該当すると考えても,他者がこれを否定した場合には,最終的には裁判所で判断されることとなります。

2 著作権の内容 
 次に,著作権は,大きく著作財産権と著作人格権に分かれます。
 著作財産権には様々な権利が含まれますが,建築に関しては他人に複製されない権利が主なものとなります。
 また,著作者人格権は,公表するか否か,氏名を表示するか否かを自由に決める権利,及び勝手に改変されない権利の総称です。

2 著作権の内容 
 次に,著作権は,大きく著作財産権と著作人格権に分かれます。
 著作財産権には様々な権利が含まれますが,建築に関しては他人に複製されない権利が主なものとなります。
 また,著作者人格権は,公表するか否か,氏名を表示するか否かを自由に決める権利,及び勝手に改変されない権利の総称です。

3 著作権侵害の場合の会社対応 
 貴社の設計図や建築物が著作物に該当する場合,第三者が勝手にこれらを複製すると,第三者は貴社の著作権を侵害したことになります。
 この場合,貴社は,まず侵害行為の停止及び予防を請求できます(同法112条)。
 また,第三者の複製行為により貴社が損害を被った場合は,貴社は第三者に損害賠償請求(民法709条)及び名誉回復のための措置(謝罪広告など)を請求できます(著作権法115条)。
 そして,貴社が被った損害を立証することは困難であるため,著作権法では複製行為を行った者が得た利益を損害と推定するとされています(同法114条)。
 なお,著作権侵害には刑事罰も科せられます(同法119条)。
 以上のように,著作物であれば著作権法によって手厚い保護が受けられるため,貴社の作成した設計図や建築物が著作物に該当するか否かが重要なポイントになると言えます。 

プログラムにも著作権はあるの?

(質問)
 当社は,労働者派遣事業を営んでいます。当社の従業員Aが,派遣先であるB社での業務の過程で,顧客管理プログラムを作成しました。これが,今までにない機能を有していてとても便利なものであるため,当社の製品として販売しようと思います。Aの了解も得ているため問題はないと思いますが,どうでしょうか?

(回答)

1 プログラムにも著作権はあるの? 
 著作権法第10条第1項第9号では,「プログラムの著作物」が著作権の対象である「著作物」の一つとされていますが,これは,プログラムであれば全てが「著作物」になるのではなく,ある程度の「創作性」のあるプログラムのみが,「著作物」になることを意味しています。
 「創作性」とは,簡単に言うと,誰が作成しても同じ様なものになるような,ありふれたものではないことです。
 御相談の顧客管理プログラムは,今までにない機能を有しているとのことなので,「創作性」を有していると考えられます。そのため,「著作物」として著作権の対象になると言えそうです。

2 相談者とAとB社の関係はどうなっているの? 
 労働者派遣では,派遣元と派遣先,そして派遣される労働者が登場します。雇用関係は,派遣元と労働者の間にあります。そして,派遣先での労働者は,派遣先の指揮命令のもとで職務に従事しますが,派遣先と雇用関係はないのです。
 そのため,御相談の事案でも,Aは御社とのみ雇用関係があり,AとB社の間には雇用関係がありません。

3 職務著作 
 このプログラムはAが作成したものですし,Aの雇い主は御社である以上,このプログラムの著作権は,一見すると御社かAに帰属していそうですが,実はそうではないのです。
 著作権法上,法人の指揮監督のもとで,業務に従事している人が職務上作成したプログラムの著作権は,法人に帰属することになっています(著作権法第15条第2項)。 
 そして,指揮監督のもとで業務に従事していることと雇用関係にあることとは別のものなのです。つまり,Aは,御社と雇用関係を有してはいますが,派遣先であるB社の指揮監督のもとで本件の顧客管理プログラムを作成している以上,この顧客管理プログラムの著作権はB社に帰属することになる可能性が高いのです。

4 このまま販売するとどうなるか 
 このまま御社が販売すると,B社から損害賠償請求や販売の差止請求を受けることが考えられます。
 販売年数や,販売による利益率にもよりますが,1億円以上の損害賠償が認められたものもあります(東京地裁平成26年3月14日判決)。
 また,刑事罰として,著作権侵害行為者は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金,又はこの両方が科され,行為者の所属する法人にも3億円以下の罰金が科される可能性があります。
 このようなことになると,金銭面,社会的信用の両者について著しくダメージを受けることになってしまいます。

5 著作権が誰に帰属するかにも注意を 
 このようなことにならないように,あらかじめ著作権など知的財産権の帰属について,契約書で明記しておくことが重要になります。
 著作権など知的財産権に関する問題は,どのようなものに知的財産権が生じるかだけではなく,誰に帰属するかも非常に重要になってきます。
 しかし,誰に帰属するかは,雇用関係に必ずしも伴うものではなく,簡単に判断できるものではないため,複雑な問題が生じかねません。
 誰に知的財産権が帰属しているかどうかお悩みのようでしたら,専門家に相談することをお勧めします。