投稿者「kobayashi」のアーカイブ

7年前の非違行為を理由とする懲戒処分

(質問)
 当社は、従業員Yの7年前の横領を理由として、Yに対して懲戒処分をすることはできますか。
 また、もし、今回懲戒処分をした後に、Yが懲戒処分の不当性を訴えてきたような場合、処分後に判明したYの非違行為を懲戒理由に追加することは可能でしょうか。

(回答)

1 懲戒処分の時的限界
中小企業においては、横領などといった重大な非違行為があったにもかかわらず、そのときは、お目こぼしをして不問に付すといったことがあり得ます。
しかし、その後、当該従業員に反省の態度が見られないとか、業務命令に従わないといった理由で、過去の事実に基づき懲戒処分を行いたいと考えることはあり得る話です。
ご質問のケースでは、まず、懲戒処分の時的限界が問題となります。
 使用者が労働者の懲戒事由を明白に認識していたにもかかわらず、長期間放置していたような場合には、後日になされる懲戒処分は客観的な合理的理由・社会通念上の相当性を欠くと判断されるリスクがあります。

2 チャンスを逃すと駄目
このことに限らず、いったんは不問に付したことを後で蒸し返して問題にするのは、経営法務の観点からは、過去の出来事を他目的に利用するという理由で認められないリスクがあります。
 経営法務も経営の一環である以上は、経営と同様、一瞬のチャンスを逃すと駄目という点で共通だと考えます。

3 処分理由の追加
次に、処分理由の追加については、業務命令拒否と無断欠勤を理由に懲戒解雇した労働者との間で争われた解雇無効確認訴訟で、処分後に判明した経歴詐称の追加は許されないとされたものがあります(東京高等裁判所平成13年9月12日判決)。
したがって、会社とすれば、処分後の処分理由の追加ができないことを前提に、非違行為を十分に調査、検討した上で、非違行為をまとめて懲戒処分を検討することが必要となります。

4 回答
 貴社は、Yの7年前の非違行為について、その当時に処分内容を決定することが可能で、また、現時点で企業秩序維持の観点から7年前の非違行為につき、懲戒処分を行う必要性がないという状況であれば、7年前の非違行為を理由に懲戒処分を行うことは客観的な合理的理由、社会通念上の相当性を欠くとされるリスクが高いことになります。
また、懲戒処分が仮に訴訟等で争われた場合に、懲戒処分後に判明した非違事由を追加して主張することもできないと考えられます。

試用期間後の本採用拒否と試用期間延長のリスク

(質問)
当社は、3か月の試用期間中のYに対して、試用期間終了の1週間前に「期待していたより仕事ができない」ことを理由として本採用拒否を告げました。
 このような本採用拒否は、違法にはならないでしょうか。
 また、もう少しYの適正をみようとして、試用期間の延長はできるのでしょうか。

(回答)

1 試用期間の法的性質
 多くの企業では、従業員の入社後に、数か月の試用期間を置き、従業員としての適格性を評価して、本採用とするか否かを判断する制度を設けています。
 試用期間の法的性質について、判例は、通常の試用期間は解約権留保付労働契約であるとしています(最高裁判所昭和48年12月12日判決)。
 このように、試用期間は、企業からすると、単に試しに使用しているという意味ではないことに注意する必要があります。

2 本採用拒否が認められる場合
 上記判例によれば、試用期間中も期間の定めのない労働契約が成立しているため、本採用拒否は、留保された解約権行使の適法性の問題となります。
 そして、判例は、留保解約権の行使が適法とされるためには、通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められてしかるべきとはしてはいますが、基本的に、解雇権行使は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とするとされています(労働契約法第16条参照)。
この社会通念上相当として是認されうる場合と客観的に合理的な理由の判断においては、労務の提供が行われていない内定取消の場合より厳格に判断される傾向にあります。実際には、本採用前の暴力事件への関与の発覚や、欠勤・遅刻などの勤務不良の程度が平均的な労働者を上回り改善の可能性がないなどの理由が必要とされています。
 したがって、企業からすると、本採用拒否を行うのは、解雇と同様、その結果が予測しにくいというリスクがあります。

3 試用期間を延長するには就業規則の規定が必要
 従業員の立場から見れば、試用期間は働きぶり等によっては本採用を拒否されかねないという不安定な期間です。したがって、試用期間の延長は、就業規則等において、延長があり得る旨と、延長の理由及び延長期間等が定められていてはじめて、行うことができます。
 試用期間の延長を行うためには、例えば、「従業員としての適格性を判断するため必要と認めるときは、会社は、3か月を限度として試用期間を延長することができる。」などというような規定を就業規則に盛り込むことが必要です。
 このように就業規則は、仕方がないから作成するといった類のものではなく、企業が自らを守るための大変重要なツールです。

4 回答
 貴社は、Yが、「期待していたより仕事ができない」とのことですが、勤務成績不良・労働能力不足については、平均より低いだけでなく著しく不良であることを客観的に明らかにできない限り、会社内での教育・研修の不備の問題とされかねない点に注意が必要です。
 したがって、貴社のYに対する本採用拒否は、認められないリスクが高いといわざるを得ません。
貴社は、Yと十分協議の上、自主退職に持っていくか、Yを本採用にした上で、OJT等により職業能力を向上させていくという選択になります。

従業員が休日に逮捕された場合の懲戒解雇の可否

(質問)
当社の従業員Yは、休日にスマホでの女性のスカート内の撮影をした容  疑で迷惑防止条例違反で逮捕されて、新聞に載ってしまいました。
そして、当社の従業員が盗撮といった書き込みがSNSでなされるよう  になってしまいました。
当社は、Yを懲戒解雇できるのでしょうか。   

(回答)

1 従業員の犯罪が即懲戒解雇ではない。
 中小企業が注意する点は、就業規則の懲戒事由に「犯罪行為を犯したとき」というような規定を設けている場合でも、従業員が犯罪で逮捕されたからといって、必ずしも直ちにこれに該当するとして懲戒処分ができるわけではないということです。
 懲戒処分は、企業秩序を維持するために認められていますが、従業員の私生活上の言動は本来企業秩序とは無関係であるため、本来は懲戒処分の対象とはならないからです。
 もっとも、現実には、従業員の私生活上の非行であっても、会社の社会的評価が低下するということはよくあることです。そのため、裁判例においては、私生活上の行為についても、会社の社会的評価を低下させるおそれがあると客観的に認められる場合には、懲戒処分ができるとされています。

2 従業員の勤務時間外の犯罪による会社のリスク
 従業員の勤務時間外の犯罪は、会社の業務とは無関係な出来事ですが、会社は無関係という訳にはいきません。
 というのは、ご質問にあるように、SNSを通じての会社の信用低下が考えられるからです。
 また、会社にとっては、人員が欠けることによる業務の遅延、取引先に対するサービスの低下もリスクとなります。
 なお、インターネット上に半永久的に従業員の犯罪に関する情報が残存する可能性があり、影響が長期に及ぶ可能性もあります。例えば、大学生等が就職活動中に企業情報を得ようとした際に、意図せず過去のその会社の従業員の犯罪の事例も閲覧されるリスクがあります。

3 回答
 貴社は、Yの迷惑防止条例違反という犯罪が6月以下の懲役という比較的軽微な犯罪ではあるものの、極めて破廉恥な行為であること、社名がSNSでオープンになって会社の信用を著しく毀損されたことを理由に、Yに対する懲戒解雇の可否を検討することになります。
 ただし、懲戒解雇はリスクがあるので、普通解雇、さらには退職を促す方が無難かもしれません。

交通事故と法律について

(質問)
交通事故と法律について教えてください。

(回答)

1 交通事故は誰にでもリスクがある! 
 交通事故は,大変残念ながら,身近なリスクと言わざるを得ません。県内の交通事故発生件数ですが,平成28年9月26日現在で,人身事故が6,635件,内死者数が54人となっています。いつ,誰が交通事故の加害者,或いは被害者になってもおかしくはありません。そこで,今日は,不幸にも交通事故の加害者,或いは被害者となってしまった場合に備え,交通事故と法律について,考えてみたいと思います。

2 交通事故が起きてしまった場合に,当事者がとるべき措置 
 まず,交通事故が起こってしまった場合,当事者(加害者,被害者)は,次の措置をとらなければなりません。
 ①直ちに,車両等の運転を停止する。
 ②負傷者を救護する。
 ③危険防止措置(例:後続車を誘導,事故発生を知らせる等)をとる。
 ④交通事故の状況等を警察へ通報(報告)する。
 仮に,①~③の措置をとらなかった場合,人身事故の場合は,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金,被害者の死傷がドライバーの運転が原因の場合は,10年以下の懲役又は100万円以下の罰金という,非常に重い刑に処せられる可能性があります。また,物損事故の場合は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
 また,④の措置をとらなかった場合は,3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
 交通事故に遭遇すると,焦りからか,何もせずにその場を離れてしまうという例が後を絶ちませんが,まずは冷静になり,負傷者の救護や警察への通報をするよう,心がけましょう。
 なお,警察への報告は,道交法上の義務というだけにとどまらず,別の意味でも非常に重要です。それは,警察に交通事故の報告をしないと,「交通事故証明書」が入手できなくなるからです。交通事故証明書とは,交通事故があった事実を公的に証明する文書で,自動車安全運転センターで入手できるものです。交通事故証明書は,保険会社へ保険金を請求する場合に必要となる文書ですので,大変重要な文書といえます。
 警察への通報は,道交法上の義務とはいえ,実際には,軽い接触事故や物損だけの事故等ではなされないことも多々あるようです。しかし,事故直後には予期できなかった損害が後から発生することもありますので,保険金の請求という面からも,交通事故に遭った場合は,まずは警察への通報を行うということを忘れないでください。

3 事故現場でやっておくとよいこと 
 交通事故の被害者となった場合を想定し,交通事故現場で行っておくとよいことを整理したいと思います。
 交通事故の被害者となった場合,加害者へ損害賠償を請求することができます。この場合,損害賠償を請求する側で,どのような損害が発生したかを主張立証しなければなりません。警察が到着すれば,実況見分調書等を作成してくれますが,それまでの間でも,事故の状況の写真撮影をしたり,事故の目撃者がいれば,警察が到着するまで待つよう依頼したり,加害者との会話を録音する等の証拠収集を行っておくとよいでしょう。事故が発生した後,危険防止措置として,現場を片付けることもあるでしょうから,事故直後の車両や現場の様子を,写真撮影しておくことは後から役に立つ可能性があります。
 また,事故と利害関係のない第三者の証言は信頼度が高いため,目撃者がいる場合には,警察到着まで待つよう依頼すべきですし,それが無理なら連絡先を尋ねる等すべきでしょう。
 更に,加害者の言い分は,時の経過と共に変遷することもあるため,事故直後の言い分を録音できるのであれば,録音すると役に立つときもあります。最近は,スマホ等で簡単に写真撮影等ができますから,警察が来るまでの間でも,できる限りのことはしておきましょう。
 逆に,事故直後にしてはいけないことも覚えておいてください。それは,示談書の作成です。簡単な事故の場合,早めに処理を終わらせたいとの思いから,その場で示談をしてしまう方もいらっしゃるようです。ただ,事故直後は,互いの過失割合や,損害額,また,事故が身体に影響を及ぼしていないか等が正確に分からない状況ですので,そのような状況で示談書を作成することは危険です。示談書を作成すると,後から示談書と異なる内容の主張をすることは困難となります。性急な判断をすることがないよう,気をつけましょう。

 今回は,交通事故発生直後に気をつけるべき諸点についてお話をしました。次回以降は,損害賠償請求に関する諸点につき,お話ししようと思います。

 

労働者派遣法の法改正について

(質問)
 労働者派遣法が改正されましたが,法改正の内容を教えてください。

(回答)

1 派遣労働の期間制限が変わる 
 先般,労働者派遣法の改正法案が国会で可決され,平成27年9月30日に施行されました。
 現在,労働者派遣の期間制限については,ソフトウェア開発や通訳など,専門的な知識技術を必要とする26の業種を除いて,上限が原則1年(最長3年)となっています。   
 今回の改正は,業種による区別を廃止し,事業所単位の期間制限と,個人単位の期間制限を新設するものです(ただし,施行日時点で既に締結されている労働派遣契約については,その労働派遣契約が終了するまで,改正前の法律の期間制限が適用されます。)。

2 事業所単位の期間制限 
 事業所単位の期間制限としては,同一の派遣先の事業所に対し,派遣期間は原則3年が限度となります。業種による区別がなくなりますので,現在は期間制限のない専門26業種も含まれることになります。
 そして,派遣先が期間制限を超えて派遣労働者を受け入れようとする場合は,派遣先の過半数の労働組合等から意見を聴く必要があります。この手続きが行われないと,3年を超えて派遣を受け入れることはできませんので,派遣先会社としては,労使間で派遣の受け入れの継続の是非について話し合いをすることが重要になってきます。

3 個人単位の期間制限 
 同一の派遣労働者を,派遣先の事業所における同一の組織単位(課)に対し派遣できる期間は,原則3年が限度となります。
 そのため,派遣先が過半数労働組合等から意見聴取により3年を超えて派遣利用を行う場合であっても,個人単位では3年ごとに課を変更しなければならないことに注意が必要です。

4 労働契約の申込みみなし制度 
 平成24年の改正から施行が猶予されていた,労働契約の申込みみなし制度も本年10月1日から施行されます。これは,派遣先が,違憲派遣を受け入れた場合に,派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされるものです。
 具体的には,①労働者派遣の禁止業務に従事させた場合,②無許可の事業主から労働者派遣を受け入れた場合,③派遣可能期間を超えて労働者派遣を受け入れた場合,④いわゆる偽装請負の場合,その時点で,派遣先が派遣労働者に対して,派遣元の労働条件と同一の労働条件を申し込んだものとみなされます。

トラック、バスおよびタクシーの各自動車運転者の労働時間について

(質問)
 令和4年12月、トラックやバス、タクシー含む。以下同じ。)の労働時間の改正が行われ、令和6年4月1日から同改正が施行されていると聞きました。
 その内容を教えてください。

(回答)

1 改正の経緯 
 トラックやバス、タクシー(以下「トラック等」といいます。)の運転者の長時間・過重労働を防ぐことは、運転者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要です。
 そのため、トラック等の運転者の労働条件の向上を図るため、労働時間等について、「改善基準告示」(「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年2月9日労告7号)」)が公示され、通常の労働者の定めと異なる拘束時間の上限、休息期間、運転時間等について基準が定められていました。
 改善基準告示の改正は、平成9年以降は行われていませんでしたが、令和4年度の脳・心臓疾患による労災請求件数、労災支給決定件数において、道路貨物運送業が全業種において最も多い業種となるなど、トラック等の運転者の長時間・過重労働は近時の大きな社会問題になっていました。
 そのため、一連の働き方改革関連法の制定により、トラックの運転手の1年間の時間外労働の上限が960時間に規制されるとともに、同告示の見直しの検討が進められ、令和4年12月に改正、令和6年4月から改正同告示が適用となりました。

2 各運転者の改善基準告示の内容 
 以下において、拘束時間とは、労働時間に休憩時間を合わせた全体の時間をいいます。トラック等の運転者の場合、運転時間以外にも休憩をしたり、荷物の出荷を待ったり、洗車をしたりと、自由にできない時間があるため、特別に定められています。
連続運転時間とは、10分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間をいいます。
なお、タクシー運転手の労働時間においては、運転時間および連続運転時間の規制はありません。
⑴ トラック運転者の改善基準告示

現 行 法(令和6年4月1日以降)
1年の拘束時間
原則:3300時間以内
※最大:3400時間以内
※(要労使協定)
①284時間を超える月が3か月超連続しないこと
②1か月の時間外・休日労働が100時間未満となるよう努めること
1か月の拘束時間原則:284時間以内
※最大:310時間以内(年6か月まで)
1日の拘束時間13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回までが目安)
※宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、16時間まで延長可(週2回まで)
1日の休息時間継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない
※宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、継続8時間以上(週2回まで)
休息期間のいずれかが9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息期間を与える
運転時間2日平均1日:9時間以内2週平均1週:44時間以内
連続運転時間4時間以内
運転の中断時には原則として休憩を与える(1回概ね連続10分以上、合計30分以上)
10分未満の運転の中断は、3回以上連続しない
※SA:PA等に駐停車できないことにより、やむを得ず4時間を超える場合、4時間30分まで延長可能

⑵ バス運転者の改善基準告示
現 行 法(令和6年4月1日以降)
1か月(1年)、4週平均1週(52週)の拘束時間①②のいずれかを選択
①1か月(1年)の基準
原則1年:3300時間以内
※最大1年:3400時間以内
原則1か月:281時間以内
※最大1か月294時間以内(年6か月まで)
※(要労使協定)
貸切バス等乗務者の場合
281時間超は連続4か月まで
②4週平均1週(52週)の基準
原則52週:3300時間以内
※最大52週:3400時間以内
原則4週平均1週:65時間以内
※最大4週平均1週:68時間以内(52週のうち24週まで)
※(要労使協定)
貸切バス等乗務者の場合
65時間超は連続16週まで
1日の拘束時間13時間以内(上限15時間、14時間超は週3回までが目安)
1日の休息時間継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない
運転時間2日平均1日:9時間以内4週平均1週:40時間以内
※貸切バス等事業者の場合、労使協定により、4週平均1週44時間まで延長可(52週のうち16週まで)
連続運転時間4時間以内(運転の中断は1回連続10分以上、合計30分以上)
高速バス・貸切バスの高速道路の実車運行区間の連続運転時間は、概ね時間までとするよう努める
※緊急通行車両の通行等に伴う軽微な移動の時間を、30分まで連続運転時間から除くことができる

⑶ タクシー運転者の改善基準告示
現 行 法(令和6年4月1日以降)
日勤1か月の拘束時間288時間以内
1日の拘束時間13時間以内(上限15時間、14時間超は週3回までが目安)
1日の休息時間継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない
隔勤1か月の拘束時間262時間以内 ※地域的その他特別な事情がある場合、労使 定により270時間まで延長可(年6か月まで)
1日の拘束時間22時間以内、かつ、2回の隔日勤務を平均し、1回あたり21時間以内
1日の休息時間継続24時間以上与えるよう努めることを基本とし、22時間を下回らない

3 改善基準告示に違反した場合 
  改善基準告示は、法律ではなく厚生労働大臣告示であるため、罰則の規定はありません。
しかし、労働基準監督署の監督指導において改善基準告示違反が認められた場合、その是正について行政指導が行われる可能性があります。
なお、時間外労働の上限規制に違反した場合は当然罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が科されますし、行政指導において、道路運送法や貨物自動車運送事業法の運行に関する規定等に重大な違反の疑いがあるときは、その事案を地方運輸機関へ通報される可能性があります。

4 まとめ 
上に述べたとおり、トラック等の運転者の労働条件の改善を図ることは、運転者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点、道路貨物運送業または旅客自動車運送業の継続性の観点からも非常に重要です。
そのため、改善基準告示は、企業側の重大事故のリスクを可能な限り小さくするのに加え、運転手の確保に必要な労働条件の改善に向けた目標としても、改善基準告示は確実に遵守することが必要といえます。

13日間の連続勤務のリスク

(質問)  
 当社では繁忙期に人手が足りず,ある従業員が13日の連続勤務になってしまいました。
 これは違法でしょうか。

(回答)

1 繁忙期のリスク
 一般的に、企業には、繁忙期等があり、特定の時期に従業員に集中的に勤務してもらう必要が生ずる場合があります。その場合に、休日や時間外労働に関する法令に違反したり、従業員が疲労による集中力の低下に伴う労働災害を起こすなどのリスクが生じてしまいます。
 中小企業としては、繁忙期には、有期雇用のパートタイマーや派遣労働者を雇用して人材面での対応を考えるほか、変形週休制や変形労働時間を利用することを検討することになります。

2 法定休日とは
 労働基準法第35条第1項は、「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」と規定しています。
 ここにいう、「毎週」とは「7日の期間毎に」の意味です。
 したがって、例えば、ある月の1日が日曜日で休日として、次の週の14日の月曜日を休日とすれば違法ではなく、12日間の連続勤務は可能になります。

3 変形週体制とは
 では、13日間の連続勤務を可能にする制度はないのでしょうか。
 同法35条第2項では、「前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない」と規定されています。これは、特定の4週間において4日の休日が与えられていれば良いとの趣旨であり、これを「変形週休制」といいます。この変形週休制を利用するには、就業規則において単位となる4週間(又はそれより短い期間)の起算日を定める必要があります(同法施行規則第12条の2第2項)。
 具体的には、1か月単位の変形労働時間制であれば賃金の計算期間に合わせて起算日を定めることにより、例えば、賃金の計算が20日締めなら毎月21日が起算日になります。

4 変形労働時間とは
 ご質問は、変形週休制についてですが、中小企業の繁忙期対応のための制度として、ここで変形労働時間にも言及しておきます。
 変形労働時間制という制度を採ることにより、週40時間を超える労働時間を定めることも可能となります。
 これは一定の単位期間について、労働基準法上の労働時間の規制を、1週及び1日単位ではなく、単位期間における週当たりの平均労働時間によって考える制度です。
 具体的には、1か月単位の変形労働時間制の場合、1日~24日が1日6時間30分労働(土・日休日)、25日以降が1日9時間労働(日休日)といった方法です。

5 回答
 貴社においては、就業規則で特定の4週間について4日の休日を取るという変形週休制を採っていれば、13日の連続勤務も違法ではありません。
 逆に、就業規則に変形週休制の規定がないと、13日連続勤務は違法になります。

従業員の失踪に対する初動対応

(質問)
当社では、ある従業員が失踪してしまいました。どのように対応すれば良いでしょうか。

(回答)

1 懲戒解雇か、普通解雇か。
 中小企業では、従業員の失踪といったこともときどき起こります。失踪は無断欠勤なので、企業としては、就業規則に基づき、失踪した従業員の解雇を検討することになります。
 ところで、貴社が失踪者を懲戒解雇をするには、懲戒対象者本人に弁明の機会を与える必要があります。貴社が採りうる手段を尽くしても本人と連絡がとれない場合には、実際に本人から言い分を聞かなくても弁明の機会を与えたと評価される可能性がありますが、具体的なケースによっては、懲戒解雇が無効となるリスクを避けるため、懲戒解雇ではなく普通解雇とした方が無難な場合もあります。

2 解雇の意思表示の送達
 貴社の就業規則上、「会社の意思表示は、従業員が届け出た居所に送達されれば、従業員本人に送達されたものとみなす」等といった定めがあれば、この定めに基づいて、本人の届け出た住所に解雇通知書を送付することになります。
 従業員の失踪もリスクの一つなので、かかるリスクへの対応を就業規則に設けることが必要になります。

3 雇予告手当を支給する必要があるか。
 懲戒解雇・普通解雇ともに、解雇する際には、30日前にその予告をするか、30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。
 この場合、解雇予告除外認定を利用できないかが問題となります。
 行政通達では、「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤」する場合には、労働者の責に帰すべき事由に該当するとしていますので、無断欠勤が2週間以上となる場合には、労働基準監督署に解雇予告除外認定を申請することが考えられます。

4 就業規則における当然退職の定め
 以上は、失踪者に対する解雇の手続でしたが、実は従業員の失踪というリスクに対して、より簡易で効果的な対応方法があります。それは、就業規則において、無断欠勤が継続することを当然退職事由(定年到達や死亡のように、特段の意思表示なく退職となる事由)として定めることです。
そうすれば、失踪という事実により当然退職という効果が生じるので中小企業としては解雇という煩雑な法務から解放されるメリットがあります。

5 回答
 貴社の初動対応としては、まず、失踪した従業員の住所地への訪問と近所の人への事情聴取を含めた調査、身元保証人への問い合わせ、借家の場合は大家への問い合わせ、親兄弟等の親族への問い合わせ、警察への捜索願い等を行うことになります。その上で、失踪の事実が確定すれば、次の段階へと進みます。
まず、就業規則に失踪が当然退職事由になるという規定があれば、当該従業員を退職扱いとします。
次に、かかる就業規則の規定がなければ、解雇を検討することになります。

労災事故に遭い,職場復帰が困難な従業員を解雇できる?

(質問)
 当社の従業員が建設現場で作業中,高所から転落してしまうという労災事故が起きました。現在当該従業員は入院中ですが,重大な後遺症が残る見込みで,将来の職場復帰は困難だと思われます。
 当社としては,職場復帰の見込みのない従業員を雇い続ける余裕はないため,当該従業員を解雇したいと考えています。 
 法的に問題はないでしょうか。

(回答)

1 原則として,解雇できない
 労働基準法(以下「労基法」といいます。)19条は,業務上の負傷・疾病で療養のために休業する期間とその後30日間の解雇を禁止しています。
 そのため,ご相談の事案においても,「労災」を理由とする療養のために休業している期間とその後30日間は,原則として当該従業員を解雇できません。

2 例外として,解雇ができる2つの場合
 もっとも,労基法19条は,解雇禁止の例外として2つの場合を規定しています。
 1つ目は,使用者が労基法81条に基づき,当該労災につき当該従業員対して打切補償を支払う場合です。打切補償とは,労災補償を受ける労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合に,使用者が労働者に対して平均賃金1200日分の補償を行うことにより,労基法による保証義務を免れるというものです。
 もっとも,通常,使用者は労災保険に加入しているところ,労災保険には傷病補償年金というものがあります。傷病補償年金は,労災を受けた労働者が療養開始後1年6か月を経過しても,負傷や疾病が治らず,負傷や疾病による障害の程度が労災保険法の傷病等級に該当する場合に,その障害の程度に応じて支給されるものです。そして,労働者が療養開始後3年経過時点で,傷害補償年金を受けている場合や,それ以降に受けることになった場合,使用者は打切補償を行ったものとみなされますので,この場合従業員を解雇することができます。
 2つ目は,天災地変その他のやむを得ない事由のために事業継続が不可能になった場合です。たとえば,震災によって工場,事業場が倒壊したことにより事業継続が不可能になった場合などが考えられます。この場合,労働基準監督署の認定を受ける必要があります。

3 療養の必要がなくなった場合にも解雇ができる
 労基法19条は,あくまで「療養」のための休業期間とその後30日間の解雇を禁止するものですので,治癒や症状固定により療養の必要がなくなった場合には,その後30日経過すれば解雇することができることになります。ちなみに,症状固定とは,治療をしてもこれ以上良くも悪くもならない状態のことをいいます。
 ご相談の事案においても,当該従業員に後遺症が残ってしまった場合,症状固定していると考えられますので,その後後遺症のために労働力を提供できなくなったのであれば,解雇することができます。

4 法令・裁判上の厳格な規制をクリアする
 労災事故を理由とした解雇に限らず,従業員を解雇するには,法令・判例上の厳格な規制をクリアする必要があります。法律の専門家でなければ,このような規制をクリアしているか判断することは困難ですので,ぜひ弁護士にご相談ください。

懲戒処分の公表の可否

(質問)
 当社では、先日、遅刻や無断欠勤を繰り返したことを理由として、従業員Yを戒告の懲戒処分にしました。今回の処分については、今後の同様行為の再発防止のため、社内に公表しようと考えています。
公表は問題がないでしょうか。

(回答)

1 再発防止のための公表
 従業員に対して懲戒処分を行う際、当該従業員に処分を告知するだけでなく、処分したことや処分内容を社内に公表したいという相談を中小企業から受けることがあります。
 中小企業としては、問題行為の再発防止のために、懲戒処分に関して会社全体に公表し、周知したいと考えていることが多いようで、確かに、そのような効果も期待できるところだと思います。

2 従業員の名誉にも配慮が必要
 ただし、企業が懲戒処分を公表するに当たっては、処分された従業員の名誉等にも配慮する必要があります。
 裁判例には、処分の公表が名誉棄損に当たるとして慰謝料の支払いが命じられたものもあります。
 また、仮に処分が有効であっても、公表の方法や内容によっては、名誉棄損にあたる場合があると考えられるので、注意が必要です。

3 懲戒処分の公表の仕方
 それでは、懲戒処分を公表する場合、どのように行えば良いでしょうか。
 この点については、人事院作成の公務員の懲戒処分の公表指針が参考になります。 
 当該指針では、公表する懲戒処分として、①職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分、②職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち、免職又は停職である懲戒処分とする旨定めています。
 また、公表内容を、事案の概要、処分量定、処分年月日、所属等の属性としています。
 公表方法については、口頭での公表や掲示板への掲示、電子メールの配信など、さまざまな方法が考えられます。
 ただ、上記指針では、個人が識別されないように公表することを基本とする旨定めています。

4 回答
 貴社の懲戒処分の公表の目的が再発防止にあるのであれば、処分された従業員の氏名まで公表する必要まではないといえます。事案の概要、処分結果、処分年月日等個人が特定されない情報を掲示板へ掲示するぐらいで良いのではないかと考えます。