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労働者派遣法の法改正について

(質問)
 労働者派遣法が改正されましたが,法改正の内容を教えてください。

(回答)

1 派遣労働の期間制限が変わる 
 先般,労働者派遣法の改正法案が国会で可決され,平成27年9月30日に施行されました。
 現在,労働者派遣の期間制限については,ソフトウェア開発や通訳など,専門的な知識技術を必要とする26の業種を除いて,上限が原則1年(最長3年)となっています。   
 今回の改正は,業種による区別を廃止し,事業所単位の期間制限と,個人単位の期間制限を新設するものです(ただし,施行日時点で既に締結されている労働派遣契約については,その労働派遣契約が終了するまで,改正前の法律の期間制限が適用されます。)。

2 事業所単位の期間制限 
 事業所単位の期間制限としては,同一の派遣先の事業所に対し,派遣期間は原則3年が限度となります。業種による区別がなくなりますので,現在は期間制限のない専門26業種も含まれることになります。
 そして,派遣先が期間制限を超えて派遣労働者を受け入れようとする場合は,派遣先の過半数の労働組合等から意見を聴く必要があります。この手続きが行われないと,3年を超えて派遣を受け入れることはできませんので,派遣先会社としては,労使間で派遣の受け入れの継続の是非について話し合いをすることが重要になってきます。

3 個人単位の期間制限 
 同一の派遣労働者を,派遣先の事業所における同一の組織単位(課)に対し派遣できる期間は,原則3年が限度となります。
 そのため,派遣先が過半数労働組合等から意見聴取により3年を超えて派遣利用を行う場合であっても,個人単位では3年ごとに課を変更しなければならないことに注意が必要です。

4 労働契約の申込みみなし制度 
 平成24年の改正から施行が猶予されていた,労働契約の申込みみなし制度も本年10月1日から施行されます。これは,派遣先が,違憲派遣を受け入れた場合に,派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされるものです。
 具体的には,①労働者派遣の禁止業務に従事させた場合,②無許可の事業主から労働者派遣を受け入れた場合,③派遣可能期間を超えて労働者派遣を受け入れた場合,④いわゆる偽装請負の場合,その時点で,派遣先が派遣労働者に対して,派遣元の労働条件と同一の労働条件を申し込んだものとみなされます。

トラック、バスおよびタクシーの各自動車運転者の労働時間について

(質問)
 令和4年12月、トラックやバス、タクシー含む。以下同じ。)の労働時間の改正が行われ、令和6年4月1日から同改正が施行されていると聞きました。
 その内容を教えてください。

(回答)

1 改正の経緯 
 トラックやバス、タクシー(以下「トラック等」といいます。)の運転者の長時間・過重労働を防ぐことは、運転者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要です。
 そのため、トラック等の運転者の労働条件の向上を図るため、労働時間等について、「改善基準告示」(「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年2月9日労告7号)」)が公示され、通常の労働者の定めと異なる拘束時間の上限、休息期間、運転時間等について基準が定められていました。
 改善基準告示の改正は、平成9年以降は行われていませんでしたが、令和4年度の脳・心臓疾患による労災請求件数、労災支給決定件数において、道路貨物運送業が全業種において最も多い業種となるなど、トラック等の運転者の長時間・過重労働は近時の大きな社会問題になっていました。
 そのため、一連の働き方改革関連法の制定により、トラックの運転手の1年間の時間外労働の上限が960時間に規制されるとともに、同告示の見直しの検討が進められ、令和4年12月に改正、令和6年4月から改正同告示が適用となりました。

2 各運転者の改善基準告示の内容 
 以下において、拘束時間とは、労働時間に休憩時間を合わせた全体の時間をいいます。トラック等の運転者の場合、運転時間以外にも休憩をしたり、荷物の出荷を待ったり、洗車をしたりと、自由にできない時間があるため、特別に定められています。
連続運転時間とは、10分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間をいいます。
なお、タクシー運転手の労働時間においては、運転時間および連続運転時間の規制はありません。
⑴ トラック運転者の改善基準告示

現 行 法(令和6年4月1日以降)
1年の拘束時間
原則:3300時間以内
※最大:3400時間以内
※(要労使協定)
①284時間を超える月が3か月超連続しないこと
②1か月の時間外・休日労働が100時間未満となるよう努めること
1か月の拘束時間原則:284時間以内
※最大:310時間以内(年6か月まで)
1日の拘束時間13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回までが目安)
※宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、16時間まで延長可(週2回まで)
1日の休息時間継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない
※宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、継続8時間以上(週2回まで)
休息期間のいずれかが9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息期間を与える
運転時間2日平均1日:9時間以内2週平均1週:44時間以内
連続運転時間4時間以内
運転の中断時には原則として休憩を与える(1回概ね連続10分以上、合計30分以上)
10分未満の運転の中断は、3回以上連続しない
※SA:PA等に駐停車できないことにより、やむを得ず4時間を超える場合、4時間30分まで延長可能

⑵ バス運転者の改善基準告示
現 行 法(令和6年4月1日以降)
1か月(1年)、4週平均1週(52週)の拘束時間①②のいずれかを選択
①1か月(1年)の基準
原則1年:3300時間以内
※最大1年:3400時間以内
原則1か月:281時間以内
※最大1か月294時間以内(年6か月まで)
※(要労使協定)
貸切バス等乗務者の場合
281時間超は連続4か月まで
②4週平均1週(52週)の基準
原則52週:3300時間以内
※最大52週:3400時間以内
原則4週平均1週:65時間以内
※最大4週平均1週:68時間以内(52週のうち24週まで)
※(要労使協定)
貸切バス等乗務者の場合
65時間超は連続16週まで
1日の拘束時間13時間以内(上限15時間、14時間超は週3回までが目安)
1日の休息時間継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない
運転時間2日平均1日:9時間以内4週平均1週:40時間以内
※貸切バス等事業者の場合、労使協定により、4週平均1週44時間まで延長可(52週のうち16週まで)
連続運転時間4時間以内(運転の中断は1回連続10分以上、合計30分以上)
高速バス・貸切バスの高速道路の実車運行区間の連続運転時間は、概ね時間までとするよう努める
※緊急通行車両の通行等に伴う軽微な移動の時間を、30分まで連続運転時間から除くことができる

⑶ タクシー運転者の改善基準告示
現 行 法(令和6年4月1日以降)
日勤1か月の拘束時間288時間以内
1日の拘束時間13時間以内(上限15時間、14時間超は週3回までが目安)
1日の休息時間継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない
隔勤1か月の拘束時間262時間以内 ※地域的その他特別な事情がある場合、労使 定により270時間まで延長可(年6か月まで)
1日の拘束時間22時間以内、かつ、2回の隔日勤務を平均し、1回あたり21時間以内
1日の休息時間継続24時間以上与えるよう努めることを基本とし、22時間を下回らない

3 改善基準告示に違反した場合 
  改善基準告示は、法律ではなく厚生労働大臣告示であるため、罰則の規定はありません。
しかし、労働基準監督署の監督指導において改善基準告示違反が認められた場合、その是正について行政指導が行われる可能性があります。
なお、時間外労働の上限規制に違反した場合は当然罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が科されますし、行政指導において、道路運送法や貨物自動車運送事業法の運行に関する規定等に重大な違反の疑いがあるときは、その事案を地方運輸機関へ通報される可能性があります。

4 まとめ 
上に述べたとおり、トラック等の運転者の労働条件の改善を図ることは、運転者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点、道路貨物運送業または旅客自動車運送業の継続性の観点からも非常に重要です。
そのため、改善基準告示は、企業側の重大事故のリスクを可能な限り小さくするのに加え、運転手の確保に必要な労働条件の改善に向けた目標としても、改善基準告示は確実に遵守することが必要といえます。

13日間の連続勤務のリスク

(質問)  
 当社では繁忙期に人手が足りず,ある従業員が13日の連続勤務になってしまいました。
 これは違法でしょうか。

(回答)

1 繁忙期のリスク
 一般的に、企業には、繁忙期等があり、特定の時期に従業員に集中的に勤務してもらう必要が生ずる場合があります。その場合に、休日や時間外労働に関する法令に違反したり、従業員が疲労による集中力の低下に伴う労働災害を起こすなどのリスクが生じてしまいます。
 中小企業としては、繁忙期には、有期雇用のパートタイマーや派遣労働者を雇用して人材面での対応を考えるほか、変形週休制や変形労働時間を利用することを検討することになります。

2 法定休日とは
 労働基準法第35条第1項は、「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」と規定しています。
 ここにいう、「毎週」とは「7日の期間毎に」の意味です。
 したがって、例えば、ある月の1日が日曜日で休日として、次の週の14日の月曜日を休日とすれば違法ではなく、12日間の連続勤務は可能になります。

3 変形週体制とは
 では、13日間の連続勤務を可能にする制度はないのでしょうか。
 同法35条第2項では、「前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない」と規定されています。これは、特定の4週間において4日の休日が与えられていれば良いとの趣旨であり、これを「変形週休制」といいます。この変形週休制を利用するには、就業規則において単位となる4週間(又はそれより短い期間)の起算日を定める必要があります(同法施行規則第12条の2第2項)。
 具体的には、1か月単位の変形労働時間制であれば賃金の計算期間に合わせて起算日を定めることにより、例えば、賃金の計算が20日締めなら毎月21日が起算日になります。

4 変形労働時間とは
 ご質問は、変形週休制についてですが、中小企業の繁忙期対応のための制度として、ここで変形労働時間にも言及しておきます。
 変形労働時間制という制度を採ることにより、週40時間を超える労働時間を定めることも可能となります。
 これは一定の単位期間について、労働基準法上の労働時間の規制を、1週及び1日単位ではなく、単位期間における週当たりの平均労働時間によって考える制度です。
 具体的には、1か月単位の変形労働時間制の場合、1日~24日が1日6時間30分労働(土・日休日)、25日以降が1日9時間労働(日休日)といった方法です。

5 回答
 貴社においては、就業規則で特定の4週間について4日の休日を取るという変形週休制を採っていれば、13日の連続勤務も違法ではありません。
 逆に、就業規則に変形週休制の規定がないと、13日連続勤務は違法になります。

従業員の失踪に対する初動対応

(質問)
当社では、ある従業員が失踪してしまいました。どのように対応すれば良いでしょうか。

(回答)

1 懲戒解雇か、普通解雇か。
 中小企業では、従業員の失踪といったこともときどき起こります。失踪は無断欠勤なので、企業としては、就業規則に基づき、失踪した従業員の解雇を検討することになります。
 ところで、貴社が失踪者を懲戒解雇をするには、懲戒対象者本人に弁明の機会を与える必要があります。貴社が採りうる手段を尽くしても本人と連絡がとれない場合には、実際に本人から言い分を聞かなくても弁明の機会を与えたと評価される可能性がありますが、具体的なケースによっては、懲戒解雇が無効となるリスクを避けるため、懲戒解雇ではなく普通解雇とした方が無難な場合もあります。

2 解雇の意思表示の送達
 貴社の就業規則上、「会社の意思表示は、従業員が届け出た居所に送達されれば、従業員本人に送達されたものとみなす」等といった定めがあれば、この定めに基づいて、本人の届け出た住所に解雇通知書を送付することになります。
 従業員の失踪もリスクの一つなので、かかるリスクへの対応を就業規則に設けることが必要になります。

3 雇予告手当を支給する必要があるか。
 懲戒解雇・普通解雇ともに、解雇する際には、30日前にその予告をするか、30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。
 この場合、解雇予告除外認定を利用できないかが問題となります。
 行政通達では、「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤」する場合には、労働者の責に帰すべき事由に該当するとしていますので、無断欠勤が2週間以上となる場合には、労働基準監督署に解雇予告除外認定を申請することが考えられます。

4 就業規則における当然退職の定め
 以上は、失踪者に対する解雇の手続でしたが、実は従業員の失踪というリスクに対して、より簡易で効果的な対応方法があります。それは、就業規則において、無断欠勤が継続することを当然退職事由(定年到達や死亡のように、特段の意思表示なく退職となる事由)として定めることです。
そうすれば、失踪という事実により当然退職という効果が生じるので中小企業としては解雇という煩雑な法務から解放されるメリットがあります。

5 回答
 貴社の初動対応としては、まず、失踪した従業員の住所地への訪問と近所の人への事情聴取を含めた調査、身元保証人への問い合わせ、借家の場合は大家への問い合わせ、親兄弟等の親族への問い合わせ、警察への捜索願い等を行うことになります。その上で、失踪の事実が確定すれば、次の段階へと進みます。
まず、就業規則に失踪が当然退職事由になるという規定があれば、当該従業員を退職扱いとします。
次に、かかる就業規則の規定がなければ、解雇を検討することになります。

労災事故に遭い,職場復帰が困難な従業員を解雇できる?

(質問)
 当社の従業員が建設現場で作業中,高所から転落してしまうという労災事故が起きました。現在当該従業員は入院中ですが,重大な後遺症が残る見込みで,将来の職場復帰は困難だと思われます。
 当社としては,職場復帰の見込みのない従業員を雇い続ける余裕はないため,当該従業員を解雇したいと考えています。 
 法的に問題はないでしょうか。

(回答)

1 原則として,解雇できない
 労働基準法(以下「労基法」といいます。)19条は,業務上の負傷・疾病で療養のために休業する期間とその後30日間の解雇を禁止しています。
 そのため,ご相談の事案においても,「労災」を理由とする療養のために休業している期間とその後30日間は,原則として当該従業員を解雇できません。

2 例外として,解雇ができる2つの場合
 もっとも,労基法19条は,解雇禁止の例外として2つの場合を規定しています。
 1つ目は,使用者が労基法81条に基づき,当該労災につき当該従業員対して打切補償を支払う場合です。打切補償とは,労災補償を受ける労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合に,使用者が労働者に対して平均賃金1200日分の補償を行うことにより,労基法による保証義務を免れるというものです。
 もっとも,通常,使用者は労災保険に加入しているところ,労災保険には傷病補償年金というものがあります。傷病補償年金は,労災を受けた労働者が療養開始後1年6か月を経過しても,負傷や疾病が治らず,負傷や疾病による障害の程度が労災保険法の傷病等級に該当する場合に,その障害の程度に応じて支給されるものです。そして,労働者が療養開始後3年経過時点で,傷害補償年金を受けている場合や,それ以降に受けることになった場合,使用者は打切補償を行ったものとみなされますので,この場合従業員を解雇することができます。
 2つ目は,天災地変その他のやむを得ない事由のために事業継続が不可能になった場合です。たとえば,震災によって工場,事業場が倒壊したことにより事業継続が不可能になった場合などが考えられます。この場合,労働基準監督署の認定を受ける必要があります。

3 療養の必要がなくなった場合にも解雇ができる
 労基法19条は,あくまで「療養」のための休業期間とその後30日間の解雇を禁止するものですので,治癒や症状固定により療養の必要がなくなった場合には,その後30日経過すれば解雇することができることになります。ちなみに,症状固定とは,治療をしてもこれ以上良くも悪くもならない状態のことをいいます。
 ご相談の事案においても,当該従業員に後遺症が残ってしまった場合,症状固定していると考えられますので,その後後遺症のために労働力を提供できなくなったのであれば,解雇することができます。

4 法令・裁判上の厳格な規制をクリアする
 労災事故を理由とした解雇に限らず,従業員を解雇するには,法令・判例上の厳格な規制をクリアする必要があります。法律の専門家でなければ,このような規制をクリアしているか判断することは困難ですので,ぜひ弁護士にご相談ください。

懲戒処分の公表の可否

(質問)
 当社では、先日、遅刻や無断欠勤を繰り返したことを理由として、従業員Yを戒告の懲戒処分にしました。今回の処分については、今後の同様行為の再発防止のため、社内に公表しようと考えています。
公表は問題がないでしょうか。

(回答)

1 再発防止のための公表
 従業員に対して懲戒処分を行う際、当該従業員に処分を告知するだけでなく、処分したことや処分内容を社内に公表したいという相談を中小企業から受けることがあります。
 中小企業としては、問題行為の再発防止のために、懲戒処分に関して会社全体に公表し、周知したいと考えていることが多いようで、確かに、そのような効果も期待できるところだと思います。

2 従業員の名誉にも配慮が必要
 ただし、企業が懲戒処分を公表するに当たっては、処分された従業員の名誉等にも配慮する必要があります。
 裁判例には、処分の公表が名誉棄損に当たるとして慰謝料の支払いが命じられたものもあります。
 また、仮に処分が有効であっても、公表の方法や内容によっては、名誉棄損にあたる場合があると考えられるので、注意が必要です。

3 懲戒処分の公表の仕方
 それでは、懲戒処分を公表する場合、どのように行えば良いでしょうか。
 この点については、人事院作成の公務員の懲戒処分の公表指針が参考になります。 
 当該指針では、公表する懲戒処分として、①職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分、②職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち、免職又は停職である懲戒処分とする旨定めています。
 また、公表内容を、事案の概要、処分量定、処分年月日、所属等の属性としています。
 公表方法については、口頭での公表や掲示板への掲示、電子メールの配信など、さまざまな方法が考えられます。
 ただ、上記指針では、個人が識別されないように公表することを基本とする旨定めています。

4 回答
 貴社の懲戒処分の公表の目的が再発防止にあるのであれば、処分された従業員の氏名まで公表する必要まではないといえます。事案の概要、処分結果、処分年月日等個人が特定されない情報を掲示板へ掲示するぐらいで良いのではないかと考えます。

限定正社員ってなに?

(質問)
 限定正社員という言葉をたまに聞くのですが,どのようなものですか?

(回答)

1 限定正社員とは 
 限定正社員とは,勤務地や職種,労働時間が限定されている正社員のことを言います。正社員より,一定の労働条件が限定されています。
 この限定正社員は,従来の日本において,正社員が頻繁な転勤や職種転換を命じられ,また長時間の残業に従事しているといった働き方を是正し,ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を実現しやすい雇用形態とすることを目的に,規制改革会議の雇用ワーキング・グループで提案されたものです。
 また,最近では労働契約法の改正により,有期雇用の社員が5年以上連続して勤務すると無期への転換権が認められるようになったことから,無期雇用にするとしても限定正社員として採用することを考えている企業もあるようです。

2 限定正社員と正社員の違い 
 プラスの面では,先ほど述べたように,会社との合意内容により,転勤や職種転換,残業をしなくて良いという点が挙げられます。
 反対に,マイナスの面としては,正社員より労働条件が労働者に有利に限定されていることから,賃金は一般的に正社員より低くされる傾向があります。

3 限定正社員は解雇しやすい 
 また,従事する職種が廃止されたり勤務する支店などが閉鎖された場合には,解雇されやすくなるのではないかと考えられています。
 限定正社員が解雇されやすいのはなぜかというと,まず,従業員を解雇するにあたって,労働契約法16条では,客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが求められ,これに反すると権利の濫用として解雇は無効となります。
 また,解雇には懲戒解雇と整理解雇(リストラ)があり,このうちの整理解雇には法に定められていない要件が判例によって付加されています。
 具体的には,①人員整理の必要性,②解雇回避努力義務の履行,③被解雇者選定の合理性,④手続の妥当性の4つであり,これは整理解雇の4要件と言われています。
 さて,限定正社員の整理解雇についてですが,職種や勤務地が限定されているため,企業の解雇回避努力義務の範囲もそれに応じて限定されることになります。
 そうすると,その他の3要件を満たせば解雇は有効になり,通常の正社員より解雇が認められやすいということになります。

4 我が国の解雇法制度の問題点 
 もっとも,現在の我が国の解雇法制度は,労働者の地位を手厚くしすぎており,解雇に柔軟性が全くないことが問題だと思います。労働者にとっては,生活の糧となる給料をもらうことは大事でしょうが,労働者の中には終身雇用制に安住して勤労意欲がなく,自己の権利のみを主張する者もいることは,私の経験からも言えるところだと思っています。
 よって,根本的に解雇規制を再度整備し直して,ムチとしての解雇制度があることを認識してもらうことで労働者の働く意識を改革し,より良い企業となること,さらには日本の発展も期待したいと考えています。

営業秘密の持ち出しリスク

 

(質問)
 当社には、顧客管理簿(顧客の個人情報、顧客ニーズ、履歴等を含む。)があるのですが、顧客管理簿の漏洩防止策と、それが漏洩してしまった場合の対応について教えてください。

(回答)

1 事前の漏洩防止策が重要
 営業秘密は、外部に漏洩した時点でその財産的価値が失われてしまうという性質を有しているため、事前に漏洩防止策を講じることが重要です。
 そして、営業秘密の漏洩は、外部からの侵奪によるものは稀であり、多くは会社の従業員や退職者が内部情報を持ち出すことにより発生しています。

2 従業員等の労務管理の重要性 
 したがって、営業秘密漏洩防止のためのもっとも重要かつ有効な対策は、自社の従業員等の労務管理にあるといえます。
 具体的には、まず、就業規則や誓約書をもって、秘密保持、資料返還及び競業禁止義務を定め、営業機密管理規程を整備することが考えられます。
 また、営業秘密管理規程を整備するだけでなく、従業員の言動等に注意し、漏洩行為を行う素振りが感じられた場合には、すぐに営業秘密を引き上げるという現実的な対応も必要となります。
 とはいえ、企業の経営者は、「技術は人である」ということを再認識し、優れた技術者であればあるほど、待遇面で厚遇しつつ働きやすい職場環境を整備すべきです。

3 営業秘密が漏洩した場合の対応 
 実際に営業秘密が漏洩した場合は、不正競争防止法による対応が考えられます。 
 例えば、貴社は、競合企業に転職した元従業員が、無断でコピーして持ち出した顧客名簿を用いて顧客を勧誘している場合は、顧客名簿の使用行為の差止め、顧客名簿のコピーの廃棄及び損害賠償を請求することができます。
 ただし、営業秘密の漏洩があったとしても、原告に立証責任があることから、確たる技術情報漏洩の事実と証拠を確定しない限り、不正競争防止法による救済が困難となるリスクがあることにも留意すべきです

アンケート実施の注意点とは?ー個人情報の取扱いは慎重に!

(質問)
 当社では,以前,顧客に対するアンケートを実施し,回答していただいた中から抽選でプレゼントを送付するというキャンペーンを実施しました。この度,当社の子会社が,このアンケートに書かれた住所宛てに,住宅建築のダイレクトメールを送付することを考えているのですが,何か問題はありませんか?

(回答)

1 情報取得手段としてのアンケート 
 アンケートは,サービス向上のための情報や,顧客情報の取得のために有用な手段です。
 そして,顧客情報,特に名前や住所等の個人情報を取得するため,回答した顧客にプレゼントを送付することも,よく行われます。

2 個人情報は本人のもの 
 このように,貴社がアンケートを実施して取得した集計結果については,貴社のノウハウになります。
 しかし,個人情報については,貴社が投資して収集したものであっても,あくまで個人本人のものです。
 したがって,個人情報は,本人の意思に反する取扱いができません。
 このような趣旨で個人情報保護法(以下「法」といいます。)が定められており,個人情報を取り扱うにあたっては,この法を遵守する必要があります。本件で注意すべき主な点は,次のとおりです。

3 利用目的の特定・目的外利用の禁止 
 まず,アンケートに名前や住所等の個人情報を記載してもらうことにより,個人情報を取得する際には,個人情報の利用目的を特定・明示する必要があります(法15条1項,18条1項)。
 そして,特定・明示した利用目的と異なる目的で個人情報を利用することは,本人の同意がない限りできません(法16条1項)。
 したがって,ダイレクトメールを送付するために個人情報を利用するのであれば,アンケート実施の際に,プレゼントの送付目的に加えて,ダイレクトメール送付目的に個人情報を利用する旨を,明示しておかなければなりません。

4 第三者提供の禁止 
 また,個人情報は,本人の同意なく第三者に提供することができません(法23条1項)。
 たとえ子会社であっても,法人が別ですから第三者にあたります。
 したがって,子会社に個人情報を提供するのであれば,この旨もあらかじめ明示し,黙示の同意を得ておく必要があります。
 ただし,個人情報の利用目的達成に必要な範囲で,個人データの取り扱いを業者に委託する場合の委託先は,第三者にあたらない旨定められています(法23条4項1号)。
 したがって,ダイレクトメール送付を業者に委託する際は,その点に関しての同意が不要です。

5 個人情報の取扱いは慎重に 
 近年,個人情報の取扱いに対する社会の目は厳しくなっています。
 注意すべき点は上記の他にもたくさんありますので,事業者の皆様方におかれましても,情報の管理等に関してお悩みがあり,個人情報保護体制の整備をお考えの方は,一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

社用パソコンの私的利用の調査方法

(質問)
 当社は、従業員に会社のパソコンを貸与しています。
 しかし、最近、会社のパソコンを使って業務に関係のない電子メールを送受信している従業員がおり、業務に支障が出ています。
 こうした電子メールの私的利用を調査することはできますか。

(回答)

1 電子メールの私的利用と企業秩序
 従業員が企業のコンピュータ・ネットワークを私的に用いて電子メールの送受信を行ったり、業務に関係のないインターネット検索やSNSを利用することは、職務時間中であれば職務専念義務違反となりますし、企業施設の私的利用という観点では企業の施設管理権の侵害となります。

2 パソコンの私的利用のリスクと私的利用等の制限
 また、パソコンの私的利用については、コンピューターウイルスの感染による機密情報の流出や、私用メールによる誹謗中傷がなされるなど、さまざまなリスクがあり、軽視できません。
 企業は、就業規則等において、インターネットの私的利用を禁止すること、会社がインターネットの私的利用の有無等につき、モニタリングができることなどを内容とする規定を整備することで、このような電子メールの私的利用等を制限することができます。ここでも、また就業規則等の規定の整備が重要となります。

3 電子メール等の私的利用の監視・調査
 次に、会社のパソコンからの私的メールの送受信等のパソコンの利用状況を、企業が監視・調査することはできるのでしょうか。
 この点、就業規則等において、私用メール等の監視・調査について明確に定め、そのことを従業員に周知しておけば、企業は原則として労働者の同意を得ることなく私用メールを監視・調査することができます。
 他方、就業規則等において、上記の点が定められていない場合は、プライバシー侵害の有無について個別的に判断することになります。
 裁判例では、ネットワークの私的利用禁止規定が整備されていなかった事案において、監視・調査の必要性や目的の合理性、手段・態様の妥当性と、労働者が合理的に期待するプライバシー保護の程度と監視・調査により生ずる不利益を総合考慮し、社会通念を逸脱するような監視・調査は労働者のプライバシーを侵害する不法行為となる旨述べているものがあります(東京地方裁判所平成13年12月3日判決)。

4 パソコンのパスワード等の解除
 従業員がパソコンにパスワードをかけている場合は、どうすれば良いのかという相談を受けることがあります。
 会社のパソコンは会社の所有物ですから、パスワードの解除に関して従業員の許可を取る必要はありませんが、貴社は従業員に対し、パソコンのパスワードを解除すると通告した上で監視・調査を行うことが必要です。
 従業員は、そもそも会社に対して社用のパソコンのパスワードを通知するように、ネットワーク利用規程などで定めておくべきです。

5 回答
 ご質問のケースにおいて、就業規則においてパソコンの私的利用の禁止に関する規定があれば、貴社はパソコンの監視、調査を行うことができます。
 仮に、かかる規定がないとすると、従業員のプライバシーに配慮した手段・態様であれば、監視・調査を行うことができるということになります。