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免許取消処分の従業員を解雇の可否

(質問)
 当社の従業員は、勤務時間外に飲酒運転をして、第一種運転免許の取消処分を受けました。この従業員は営業職で、自動車を運転できなければ営業の業務ができません。 
 当社は、この従業員を解雇することはできるでしょうか。

(回答)

1 飲酒運転の厳罰化
 中小企業では、大企業と同様、営業に力を入れている会社が多いように思われます。卸売・販売業では、従業員の大半が営業職員である会社も珍しくありません。そこで、従業員が免許取消処分により、自動車での営業ができなくなると、会社にとっては、その従業員は不要ということになります。

2 ポイントは「格別高度の専門性」 
 職種を営業職に限定して採用した従業員が、免許取消処分によってもはや業務ができなくなった場合は、この従業員は、契約上の業務の履行ができないと言わざるをえません。
 しかし、タクシー運転手の職務に必要な普通自動車二種運転免許を喪失したとしてなされた普通解雇が争われた訴訟において、採用した職種が一定の資格を求めるようなものであっても、格別高度の専門性を有しないものであれば、解雇できないと判断した裁判所があります(東京地方裁判所平成20年9月30日判決)。そして、「格別高度の専門性」がある資格としてこの裁判例で例示されているのは、税理士、弁護士、医師等です。すると、普通自動車第一種免許は「格別高度の専門性」がある資格とまでは言えないでしょうから、ご質問のケースでは、貴社は免許取消処分を受けた従業員を解雇できないことになります。

3 就業規則に記載があった場合はどうか。
 会社において、たとえ、就業規則の懲戒解雇の事由として、「酒酔い運転又は酒気帯び運転をしたとき」と記載されていたとしても、プライベートでの飲酒運転で、会社の信用低下等の実害が生じていない場合には、やはり懲戒解雇は認められないと考えられます。

4 回答
 貴社の営業職従業員が自動車の運転を必要不可欠とするとしても、自動車の運転免許は格別高度の資格とはいえないので、解雇することは相当のリスクがあります。
 貴社としては、当該従業員に対し、自動車に乗らなくても営業ができる他の会社への転職を勧めることも検討すべきです。

懲戒処分にあたる事由

(質問)
 当社では、従業員が就業規則に反する行動を行ったため、懲戒処分を考えているのですが、具体的にどのような場合が懲戒処分に当たるのでしょうか。

(回答)

1 適切な懲戒処分を行わないリスク
 中小企業においても従業員が非違行為、すなわち、企業の規律、秩序に違反する行為を行うことは多々あります。
 中小企業は、従業員が非違行為を行った場合に、人間関係の悪化を恐れて、なあなあで済ませていることも多いと思われます。
 しかし、このやり方は、他の従業員もこれくらいのことをやっても許されると思ってしまい、職場の規律がなくなってしまうことや、非違行為を行った当該従業員がまた同じか、より重大な非違行為を行った場合に、解雇といった重大な懲戒処分を行いにくくなるという重大なリスクにつながります。

2 懲戒処分の根拠
 まず、懲戒処分を行うときは、就業規則の根拠の規定が必要となります。就業規則の懲戒事由の規定については、なるべく懲戒事由を具体的かつ網羅的に記載するとともに、労働者がいくら非違行為を行っても、それが懲戒事由に該当しない限り、懲戒処分を行うことはできないため、就業規則の懲戒事由として「その他前各号に準じる行為をした場合」といった一般条項を定めておくことが重要です。
 懲戒処分については、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権を濫用したものとして、当該懲戒を無効とする旨が労働契約法第15条に規定されています。
また、解雇についても同様の規定があります(同法第16条)。

3 懲戒処分の合理性 
 これは、従業員の非違行為が就業規則に規定された懲戒事由に該当することです。このとき、単に形式的に懲戒事由に該当するだけでは足りず、実質的に企業の規律、秩序に違反することが要求されます。

4 懲戒処分の合理性・相当性
 実務上よく問題となるのが、懲戒処分の合理性・相当性です。
 これは、当該非違行為等との関係で懲戒処分が重要でないことと、本人に弁明の機会を与えるなど適正な手続を採っていることが要求されます。
 中小企業の経営者の中には、「従業員がこんな問題行動をしたのだから、クビは当たり前だ」と考える方もいらっしゃいますが、懲戒処分の合理性・相当性については、裁判例においては厳しく判断されています。
 懲戒解雇においては、使用者側と労働者側の利害が著しく対立し、労働者側から解雇無効確認の訴訟や、労働契約上の地位保全の仮処分申立てなどを提起されるほか、行き場のなくなった労働者が労働組合に駆け込むといったリスクも考えられます。

5 懲戒解雇が認められる場合と裁判所の姿勢
 従業員の一回限りの非違行為で懲戒解雇が認められるのは、相当重大な非違行為(会社財産の着服など)に限られ、その程度に至らない行為については、始末書の提出、減給処分、出勤停止処分などの段階を踏んだ上で、ようやく懲戒解雇を検討できることになります。
 あくまでも私見ですが、裁判所の懲戒解雇の相当性の認定は使用者側に厳しい感じがします。従業員がある程度の非違行為を行っても、使用者側が指導教育を怠ったことが非であるかのような論理の判決もあります。 
 中小企業に限らず、企業は労働関係で訴訟等を提起されることは、判決の予測不可能性のリスクから、それ自体が失敗であることを認識すべきです。

6 回答
 どのような事由が懲戒事由に当たるかということですが、実務上よく問題になるものとして、例えば、横領等の犯罪行為、重大な経歴詐称、業務命令違反、職場規律違反等多岐にわたります。

有期契約職員との契約更新における注意事項について

(質問)
 当社では契約期間の定めがなくフルタイムで働く正規職員のほかに、一定の契約期間の定めがある契約職員やパートタイマーも雇用しています。
 契約職員等との契約の更新については、どのようなことに注意すればよいでしょうか。

(回答)

1 多様な雇用形態
 中小企業でも、1年とか2年といった契約期間の定めがある従業員を数多く雇用しています。御存じのとおり、このような有期契約従業員は、雇止め(契約更新拒絶)が認められる限り、契約期間の満了によって労働契約が終了しますので、中小企業にとっては必要に応じて労働力を調整することができる大変好都合な制度といえます。

2 無期雇用転換のリスク
 平成25年4月1日から施行された改正労働契約法第18条第1項では、このような有期契約従業員との契約を更新するに当たって、注意すべきルールが設けられました。
 それは、平成25年4月1日以降、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた場合、労働者の申込みにより、有期労働契約から無期労働契約に転換することができるというものです。
 企業にとっては、この5年ルールは重大なリスクと言わざるを得ず、それ故、慎重な準備と対応が必要になります。
 というのは、有期契約従業員が無期契約従業員となってしまうと、中小企業が事業の縮小等により当該従業員を辞めさせたいと考えた場合、正規従業員に対すると同様に厳格な解雇規制が適用されることになりますので、辞めさせることは大変困難になります。
 ただし、貴社がいったん雇止めをするなどして、契約が継続していない期間(空白期間)が6か月(直前の契約期間が1年未満ならその2分の1の期間)以上ある場合には、通算5年のカウントは一度リセットされ、それ以前の契約期間は通算されません(同法第18条第2項)。
 もっとも、一度有期契約従業員を雇止めした上で、6か後に再雇用するということは、あまり現実的な方法ではないように思われます。

3 5年ルールの言葉に惑わされてはいけない。
 もし、貴社が平成25年4月1日以降、契約期間を2年としてそれを更新していれば、3回目の更新中に通算5年を超えてしまうことになります。この場合は、2年の契約期間の更新を2回行った後、3回目の更新をすれば、無期労働契約に転換されてしまうリスクが生じます。

4 無期雇用転換後の労働条件
 有期労働契約が無期労働契約に転換された後の労働時間、賃金やその   他の労働条件については、別に合意がされていない限り、従前の有期労働契約における労働条件と同じになります。つまり、無期労働契約に転換されても、自動的に他の正規従業員と同じ労働条件になるわけではありません。
 しかし、貴社の就業規則において、有期労働契約から無期労働契約に転換になった従業員と無期雇用の正規従業員との間の賃金等の労働条件を就業規則で区別していないと、有期労働契約が無期労働契約に転換になった場合には、正規従業員と同一の労働条件になるというリスクが生じます。したがって、かかるリスクを踏まえた就業規則の整備は重要です。具体的には、有期雇用契約から無期雇用契約に転換になった従業員については、正規従業員と異なった就業規則を準備しておくことが必要です。
 このように、法律改正を踏まえた経営法務のリスクがある場合に、それに対応する規程の整備を行うことが経営法務リスクマネジメントの基本となります。

5 回答
 貴社が、有期契約従業員との契約更新で注意すべき点は、有期雇用が更新されて5年以上になった場合に、当該従業員に無期労働契約転換請求権が認められるということです。
 かかる有期雇用の従業員が貴社の今後の経営にとって必要な人材であればともかく、必ずしもそうでない場合には、5年ルールを踏まえて更新拒否をすることを検討すべきです。
また、有期労働契約が期間の定めのない労働契約と社会通念上同視できる場合や、当該従業員に有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる場合は、雇止めにいわゆる解雇権濫用法理が適用されることにも注意すべきです(同法第19条)。
とは言え、昨今のいわゆる人手不足の状況にかんがみると、有期契約従業員を無期の正規従業員にして、当該職員のスキルアップにより生産性の向上を図ることも経営的には必要なのかもしれません。

雨の日を休日にすることの可能性

(質問)
 当社の業務は,屋外での作業が多く,雨の日には仕事ができません。そこで,雨の日を休日とする扱いをしたいのですが,どのような点に注意すべきでしょうか。

(回答)

1 休日と休業の違いは
 屋外の業務で雨天時に仕事ができない場合には、仕事を休みにしたいという中小企業もあると思います。この場合、休業手当の支払は必要なのか、休日を雨の日に振り替えることができないか、できるとして必要な手続は何か等という点が、問題となります。   
 ここではまず、休日と休業の違いを押さえておく必要があります。
 休日とは、労働者が労働契約において労働義務を負わない日のことをいいます。一方、休業とは、労働者が労働契約において労働義務を負う時間につき、労働することができなくなることをいいます。つまり、休みの日が、もともと労働者が労働義務を負う日であるか否かで異なります。

2 休業手当の支払い義務があるか。
 休業については、それが使用者の責めに帰すべき事由による場合には労働者に対し、休業手当(平均賃金の6割以上)を支払わなければなりません(労働基準法第26条)。
 天候は自然現象であり、雨天は「使用者の責めに帰すべき事由」かどうかは難しい問題があります。これは、休業手当の支払義務を定める上記規定は、労働者の最低生活を補償する趣旨で規定されていますから、「使用者の責めに帰すべき事由」が広く解されているためです。
 したがって、雨によって仕事ができなくなったため、当日急遽休みにするという場合には、もともと労働日であった以上、企業は休業手当を支払わなければならないリスクがあります。

3 休日を振替えるには
 そこで、中小企業とすれば、休業手当の支払いを回避するため、雨の日に休日を振り替えるという方法が考えられます。休日にしてしまえばその日はもともと労働義務を負わない日になり、休業とはなりませんので、休業手当の支払いの必要がなくなります。
 ただ、注意しなければならないのは、原則として休日は、午前0時か   ら午後12時までの24時間与えなければならない点です。したがって、
 前日中に休日の振替をしなければなりません。
 また、労働契約上の休日を変更するわけですから、労働協約や就業規則で、雨の日には休日を振り替えることができる旨を規定しておくことが必要となります。

4 回答 
 貴社が、雨の日を休日にしたいというのであれば、就業規則に休日の振替の規定を設けた上で、休日の振替を行うこととなります。
 しかし、従業員からすれば、例えば、度々前日に休日の振替を行われると家族との休日の予定に支障が出ることもあるので、休日の振替は必要でやむを得ない場合に行うのが望ましいと考えます。

従業員の求めに応じて事業主都合退職にすることによるリスク

(質問)
 当社の従業員が自己都合退職を申し出てきましたが、雇用保険の資格喪失条項として「事業主都合による退職」にしてほしいと言ってきました。
 この従業員の言うとおりに、会社都合退職とすることに何か問題はありませんか。

(回答)

1 従業員が事業主都合退職を望む理由
 中小企業においては、上場企業とは異なり、退職に関するルールがやや曖昧なところもあるので、このように、従業員が事業主都合退職という形式での退職を求めてくることがあります。
 これは、従業員からすると、退職理由が自己都合よりも事業主都合である方が雇用保険の3か月の待機期間がないなど有利な扱いがなされるためです。

2 安易に応じるのはリスクが大きい。
 この場合、中小企業としては、従業員が退職すること自体に変わりはないので、あまり退職理由には注意を払わず、安易にこのような申し出を受け入れてしまうことも多いかもしれません。
 しかし、自己都合退職を事業主都合退職としてしまうと、後日退職した従業員から、会社都合による退職だから解雇と実質的に同じだとして「会社から解雇されたが、解雇は無効だ」と主張されるリスクがあります。

3 会社と従業員の「くい違い」のリスク 
 中小企業経営者の中には、退職した従業員がそのような不義理なことをするはずはないと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、経営法務においては、往々にしてそういうことがあります。というのは、従業員が必ずしも嘘つきという意味ではありませんが、会社が考えていることと従業員が考えていることは、双方の言葉のニュアンスや事実認識の相違から来る「くい違い」が生じ得るからです。 

4 回答
 貴社においては、後で解雇の有効性が争われるリスクを考えて、安易に自己都合退職を事業主都合退職とすることは慎むという対応が考えられます。
 しかし、そのようにすると、例えば、会社としては、退職してもらいたいと考えている従業員が退職の決意を翻すなどのリスクが生じます。
そこで、貴社は、会社都合退職という形式には応じるものの、退職する従業員から、「事業主都合により退職することにつき、その効力を争わない」旨の合意書を取って、後日の紛争のリスクをなくすという対応が望ましいと考えます。 

休職期間満了により退職とすることのリスク

(質問)
 当社では、従業員がうつ病により休職し、その後復帰を申し出てきましたが、休職前の業務には耐えられないと考えています。
 その場合、当社は、復帰不可能としてその従業員を休職期間満了により退職とすることができるでしょうか。

(回答)

1 休職とは
 中小企業においても、従業員がうつ病を患うなどとして一定期間休職することが増えています。
 休職制度は、これを定めた場合には、就業規則に明記しなければなりません(労働基準法第89条第10号)。
 業務外の傷病を理由とする休職(傷病休職)の場合には、長期欠勤が一定期間に及んだときに休職となり、休職期間中に治癒し就労可能となれば復職しますが、休職期間中に治癒しなければ労働契約を終了させることとなります。

2 従前の業務が提供できない場合は 
 問題は、従業員が復職時に従前の業務を提供できるほどには回復していない場合に、休職期間満了として当然に退職にできるかどうかです。
 この点に関し、労働契約締結の時点で職種や業務内容を特定していない場合には、たとえ従前の業務が提供できないとしても、労働者の能力・経験・地位、企業の規模、業種、労働者の配置、異動の実情及び難易等に照らして、労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつその業務の提供を申し出ているならば、債務の本旨に従った履行の提供があるといえるとして労働者の賃金請求を認めた判例があります(最高裁判所平成10年4月9日判決)。

3 休暇期間満了時の企業の対応 
 確かに、労働契約締結の時点で職種や業務内容を特定していないと、このような結論になるのかもしれません。中小企業とすれば、限られた人員で最大の業績を上げるためには、採用時に職種はともかく、業務内容を特定するのはなかなか難しいかもしれません。
 したがって、復職時に従業員が一定の業務について業務の提供を申し入れている状況下では、休職期間の満了をもって退職という処理は大きなリスクがあります。

4 出勤と欠勤を繰り返す場合 
 当該従業員が出勤と欠勤を繰り返すなど、欠勤が継続したといえるのかが問題になる場合もあります。
 この場合、就業規則において、出勤と欠勤を繰り返す場合であっても欠勤期間を通算する旨の定め(「欠勤通算条項」等と呼ばれます。)があれば、かかる定めに基づいて休職命令を発令することになります。
 就業規則は、会社のさまざまなリスクに対応するためのいわば魔法の杖です。

5 回答 
 休職を命じていた従業員の復職可能性の判断に当たっては、休職前の業務への復帰は不可能であっても、当該従業員が他の業務へ従事することは可能か、業務軽減措置を採って休職前の業務に従事させることができないかなどを総合的に検討の上、判断する必要があります。
 ご質問のケースの場合、休職前の仕事は耐えられないだろうという理由のみで、退職扱いにするのは避けるべきです。

7年前の非違行為を理由とする懲戒処分

(質問)
 当社は、従業員Yの7年前の横領を理由として、Yに対して懲戒処分をすることはできますか。
 また、もし、今回懲戒処分をした後に、Yが懲戒処分の不当性を訴えてきたような場合、処分後に判明したYの非違行為を懲戒理由に追加することは可能でしょうか。

(回答)

1 懲戒処分の時的限界
中小企業においては、横領などといった重大な非違行為があったにもかかわらず、そのときは、お目こぼしをして不問に付すといったことがあり得ます。
しかし、その後、当該従業員に反省の態度が見られないとか、業務命令に従わないといった理由で、過去の事実に基づき懲戒処分を行いたいと考えることはあり得る話です。
ご質問のケースでは、まず、懲戒処分の時的限界が問題となります。
 使用者が労働者の懲戒事由を明白に認識していたにもかかわらず、長期間放置していたような場合には、後日になされる懲戒処分は客観的な合理的理由・社会通念上の相当性を欠くと判断されるリスクがあります。

2 チャンスを逃すと駄目
このことに限らず、いったんは不問に付したことを後で蒸し返して問題にするのは、経営法務の観点からは、過去の出来事を他目的に利用するという理由で認められないリスクがあります。
 経営法務も経営の一環である以上は、経営と同様、一瞬のチャンスを逃すと駄目という点で共通だと考えます。

3 処分理由の追加
次に、処分理由の追加については、業務命令拒否と無断欠勤を理由に懲戒解雇した労働者との間で争われた解雇無効確認訴訟で、処分後に判明した経歴詐称の追加は許されないとされたものがあります(東京高等裁判所平成13年9月12日判決)。
したがって、会社とすれば、処分後の処分理由の追加ができないことを前提に、非違行為を十分に調査、検討した上で、非違行為をまとめて懲戒処分を検討することが必要となります。

4 回答
 貴社は、Yの7年前の非違行為について、その当時に処分内容を決定することが可能で、また、現時点で企業秩序維持の観点から7年前の非違行為につき、懲戒処分を行う必要性がないという状況であれば、7年前の非違行為を理由に懲戒処分を行うことは客観的な合理的理由、社会通念上の相当性を欠くとされるリスクが高いことになります。
また、懲戒処分が仮に訴訟等で争われた場合に、懲戒処分後に判明した非違事由を追加して主張することもできないと考えられます。

試用期間後の本採用拒否と試用期間延長のリスク

(質問)
当社は、3か月の試用期間中のYに対して、試用期間終了の1週間前に「期待していたより仕事ができない」ことを理由として本採用拒否を告げました。
 このような本採用拒否は、違法にはならないでしょうか。
 また、もう少しYの適正をみようとして、試用期間の延長はできるのでしょうか。

(回答)

1 試用期間の法的性質
 多くの企業では、従業員の入社後に、数か月の試用期間を置き、従業員としての適格性を評価して、本採用とするか否かを判断する制度を設けています。
 試用期間の法的性質について、判例は、通常の試用期間は解約権留保付労働契約であるとしています(最高裁判所昭和48年12月12日判決)。
 このように、試用期間は、企業からすると、単に試しに使用しているという意味ではないことに注意する必要があります。

2 本採用拒否が認められる場合
 上記判例によれば、試用期間中も期間の定めのない労働契約が成立しているため、本採用拒否は、留保された解約権行使の適法性の問題となります。
 そして、判例は、留保解約権の行使が適法とされるためには、通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められてしかるべきとはしてはいますが、基本的に、解雇権行使は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とするとされています(労働契約法第16条参照)。
この社会通念上相当として是認されうる場合と客観的に合理的な理由の判断においては、労務の提供が行われていない内定取消の場合より厳格に判断される傾向にあります。実際には、本採用前の暴力事件への関与の発覚や、欠勤・遅刻などの勤務不良の程度が平均的な労働者を上回り改善の可能性がないなどの理由が必要とされています。
 したがって、企業からすると、本採用拒否を行うのは、解雇と同様、その結果が予測しにくいというリスクがあります。

3 試用期間を延長するには就業規則の規定が必要
 従業員の立場から見れば、試用期間は働きぶり等によっては本採用を拒否されかねないという不安定な期間です。したがって、試用期間の延長は、就業規則等において、延長があり得る旨と、延長の理由及び延長期間等が定められていてはじめて、行うことができます。
 試用期間の延長を行うためには、例えば、「従業員としての適格性を判断するため必要と認めるときは、会社は、3か月を限度として試用期間を延長することができる。」などというような規定を就業規則に盛り込むことが必要です。
 このように就業規則は、仕方がないから作成するといった類のものではなく、企業が自らを守るための大変重要なツールです。

4 回答
 貴社は、Yが、「期待していたより仕事ができない」とのことですが、勤務成績不良・労働能力不足については、平均より低いだけでなく著しく不良であることを客観的に明らかにできない限り、会社内での教育・研修の不備の問題とされかねない点に注意が必要です。
 したがって、貴社のYに対する本採用拒否は、認められないリスクが高いといわざるを得ません。
貴社は、Yと十分協議の上、自主退職に持っていくか、Yを本採用にした上で、OJT等により職業能力を向上させていくという選択になります。

従業員が休日に逮捕された場合の懲戒解雇の可否

(質問)
当社の従業員Yは、休日にスマホでの女性のスカート内の撮影をした容  疑で迷惑防止条例違反で逮捕されて、新聞に載ってしまいました。
そして、当社の従業員が盗撮といった書き込みがSNSでなされるよう  になってしまいました。
当社は、Yを懲戒解雇できるのでしょうか。   

(回答)

1 従業員の犯罪が即懲戒解雇ではない。
 中小企業が注意する点は、就業規則の懲戒事由に「犯罪行為を犯したとき」というような規定を設けている場合でも、従業員が犯罪で逮捕されたからといって、必ずしも直ちにこれに該当するとして懲戒処分ができるわけではないということです。
 懲戒処分は、企業秩序を維持するために認められていますが、従業員の私生活上の言動は本来企業秩序とは無関係であるため、本来は懲戒処分の対象とはならないからです。
 もっとも、現実には、従業員の私生活上の非行であっても、会社の社会的評価が低下するということはよくあることです。そのため、裁判例においては、私生活上の行為についても、会社の社会的評価を低下させるおそれがあると客観的に認められる場合には、懲戒処分ができるとされています。

2 従業員の勤務時間外の犯罪による会社のリスク
 従業員の勤務時間外の犯罪は、会社の業務とは無関係な出来事ですが、会社は無関係という訳にはいきません。
 というのは、ご質問にあるように、SNSを通じての会社の信用低下が考えられるからです。
 また、会社にとっては、人員が欠けることによる業務の遅延、取引先に対するサービスの低下もリスクとなります。
 なお、インターネット上に半永久的に従業員の犯罪に関する情報が残存する可能性があり、影響が長期に及ぶ可能性もあります。例えば、大学生等が就職活動中に企業情報を得ようとした際に、意図せず過去のその会社の従業員の犯罪の事例も閲覧されるリスクがあります。

3 回答
 貴社は、Yの迷惑防止条例違反という犯罪が6月以下の懲役という比較的軽微な犯罪ではあるものの、極めて破廉恥な行為であること、社名がSNSでオープンになって会社の信用を著しく毀損されたことを理由に、Yに対する懲戒解雇の可否を検討することになります。
 ただし、懲戒解雇はリスクがあるので、普通解雇、さらには退職を促す方が無難かもしれません。

交通事故と法律について

(質問)
交通事故と法律について教えてください。

(回答)

1 交通事故は誰にでもリスクがある! 
 交通事故は,大変残念ながら,身近なリスクと言わざるを得ません。県内の交通事故発生件数ですが,平成28年9月26日現在で,人身事故が6,635件,内死者数が54人となっています。いつ,誰が交通事故の加害者,或いは被害者になってもおかしくはありません。そこで,今日は,不幸にも交通事故の加害者,或いは被害者となってしまった場合に備え,交通事故と法律について,考えてみたいと思います。

2 交通事故が起きてしまった場合に,当事者がとるべき措置 
 まず,交通事故が起こってしまった場合,当事者(加害者,被害者)は,次の措置をとらなければなりません。
 ①直ちに,車両等の運転を停止する。
 ②負傷者を救護する。
 ③危険防止措置(例:後続車を誘導,事故発生を知らせる等)をとる。
 ④交通事故の状況等を警察へ通報(報告)する。
 仮に,①~③の措置をとらなかった場合,人身事故の場合は,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金,被害者の死傷がドライバーの運転が原因の場合は,10年以下の懲役又は100万円以下の罰金という,非常に重い刑に処せられる可能性があります。また,物損事故の場合は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
 また,④の措置をとらなかった場合は,3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
 交通事故に遭遇すると,焦りからか,何もせずにその場を離れてしまうという例が後を絶ちませんが,まずは冷静になり,負傷者の救護や警察への通報をするよう,心がけましょう。
 なお,警察への報告は,道交法上の義務というだけにとどまらず,別の意味でも非常に重要です。それは,警察に交通事故の報告をしないと,「交通事故証明書」が入手できなくなるからです。交通事故証明書とは,交通事故があった事実を公的に証明する文書で,自動車安全運転センターで入手できるものです。交通事故証明書は,保険会社へ保険金を請求する場合に必要となる文書ですので,大変重要な文書といえます。
 警察への通報は,道交法上の義務とはいえ,実際には,軽い接触事故や物損だけの事故等ではなされないことも多々あるようです。しかし,事故直後には予期できなかった損害が後から発生することもありますので,保険金の請求という面からも,交通事故に遭った場合は,まずは警察への通報を行うということを忘れないでください。

3 事故現場でやっておくとよいこと 
 交通事故の被害者となった場合を想定し,交通事故現場で行っておくとよいことを整理したいと思います。
 交通事故の被害者となった場合,加害者へ損害賠償を請求することができます。この場合,損害賠償を請求する側で,どのような損害が発生したかを主張立証しなければなりません。警察が到着すれば,実況見分調書等を作成してくれますが,それまでの間でも,事故の状況の写真撮影をしたり,事故の目撃者がいれば,警察が到着するまで待つよう依頼したり,加害者との会話を録音する等の証拠収集を行っておくとよいでしょう。事故が発生した後,危険防止措置として,現場を片付けることもあるでしょうから,事故直後の車両や現場の様子を,写真撮影しておくことは後から役に立つ可能性があります。
 また,事故と利害関係のない第三者の証言は信頼度が高いため,目撃者がいる場合には,警察到着まで待つよう依頼すべきですし,それが無理なら連絡先を尋ねる等すべきでしょう。
 更に,加害者の言い分は,時の経過と共に変遷することもあるため,事故直後の言い分を録音できるのであれば,録音すると役に立つときもあります。最近は,スマホ等で簡単に写真撮影等ができますから,警察が来るまでの間でも,できる限りのことはしておきましょう。
 逆に,事故直後にしてはいけないことも覚えておいてください。それは,示談書の作成です。簡単な事故の場合,早めに処理を終わらせたいとの思いから,その場で示談をしてしまう方もいらっしゃるようです。ただ,事故直後は,互いの過失割合や,損害額,また,事故が身体に影響を及ぼしていないか等が正確に分からない状況ですので,そのような状況で示談書を作成することは危険です。示談書を作成すると,後から示談書と異なる内容の主張をすることは困難となります。性急な判断をすることがないよう,気をつけましょう。

 今回は,交通事故発生直後に気をつけるべき諸点についてお話をしました。次回以降は,損害賠償請求に関する諸点につき,お話ししようと思います。