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スマホの転売は違法?

(質問)
最近,私の知人が,副業として,スマートフォンを大量に転売してお金を稼いでいるようです。詳細はよくわからないのですが,私としては,知人が違法なことをしているのではないかと心配です。
 スマートフォンを個人で転売することは,法律上問題ないのでしょうか?

(回答)

1 通話可能な携帯電話の転売は違法
 携帯音声通信事業者(携帯電話会社)と契約済みの,通話可能な携帯電話については,基本的には,転売することは認められていません。携帯電話が犯罪等の不正な目的で利用されることを防止するために,携帯電話不正利用防止法によって,譲渡・譲受けが規制されているからです。
 具体的には,自分が契約している携帯電話を他人に譲り渡すためには,親族等に譲渡する場合を除き,事前に携帯電話会社に承諾を得る必要があります。これに違反して,通話可能な携帯電話を業として有償で譲渡すると,刑事罰が科せられます。
 また,他人から,その人が契約者でないことを知りながら通話可能な携帯を譲り受けた場合にも罰則があります。

2 白ロム端末の転売は適法?
 携帯電話会社と契約をしておらず,SIMカードが挿入されていない端末を,一般に,白ロム端末といいます。
 白ロム端末は,通話が不可能な空の端末であり,通信機能を持たない他の電子製品と同様に考えることができます。携帯電話不正利用防止法でも,譲渡・譲受け行為は規制されていません。
 そのため,白ロム端末を中古市場で仕入れて販売するような転売行為は,それ自体,違法ではありません。

3 古物営業法に注意 
 白ロム端末の譲渡・譲受け行為が違法でないとしても,転売行為が古物営業に該当する場合には,古物営業の規制を受けることになります。
 古物営業を行う場合には,都道府県公安委員会の許可を得る必要があり,無許可で古物営業を行った場合には罰則があります。
 「営業」該当性は個別に判断されますが,営利目的をもって反復継続して古物取引を行う場合には,古物営業と認められます。
 また,たとえ1回目の行為であっても,行為の客観的な態様(大量に端末を仕入れている等)から,反復継続して行う意思が認められれば,古物営業に該当すると考えられます。

4 転売目的の契約は詐欺になる? 
 近時,「スマホを契約する簡単なアルバイト」,「端末の購入代金はこちらが負担するから心配しなくてよい」などと勧誘して,転売用の携帯電話を購入する契約を締結させる悪質な転売業者がいるようです。
 これは,転売目的を隠して(自己利用目的・代金支払い意思があるかのように装って),携帯電話会社から端末を騙し取る行為であり,典型的な詐欺行為です。
 学生や外国人留学生などがターゲットにされやすいのですが,携帯電話の契約をするだけでバイト代がもらえるという甘い言葉につられて,詐欺に加担させられることにならないよう,注意が必要です。

相続税対策と養子縁組の有効性

(質問)
節税対策のために養子縁組をすることは問題ありますか?

(回答)
 

1 養子縁組の有効性が争われた裁判
 平成29年1月31日に,養子縁組の有効性が争われた事案で注目すべき最高裁判決が出ました。
 訴訟で争われたのは,ある男性と孫との間の養子縁組の有効性です。
 男性には配偶者がおらず,長男,長女,次女の3人の子供がいました。しかし,亡くなる前年に孫(長男の息子)を養子にしていたため,法定相続人は孫を含めた4人になりました。
 養子縁組をして相続人を増やすことで,相続税の基礎控除額が増えたり,生命保険の非課税枠が増えるなどの節税効果があります。男性が孫を養子にしたのも,税理士からのアドバイスを受けたものだったようです。
 これに対して,娘2人が,男性と孫との養子縁組は節税目的であるため無効であるとして提訴しました。 
 

2 最高裁の判断
 民法は,当事者間に縁組をする意思がないときには,養子縁組は無効とする旨規定しています。そのため,訴訟では,節税目的の養子縁組に縁組意思があるといえるのか否かが問題となりました。
 この点について,最高裁は,「節税の動機と縁組をする意思とは併存し得る」として,「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合」であっても,そのことから直ちに縁組意思がないということはできないと判断しました。そのうえで,今回の事案では縁組意思がないことをうかがわせる事情はないとして,養子縁組の有効性を認めています。
 

3 節税目的の養子縁組にお墨付き? 
 今回の最高裁判決に対しては,裁判所が,従来から相続税対策の定石であった養子縁組による節税手法を追認したものと評価する記事も見受けられます。
 しかしながら,判決の読み方には注意が必要です。
 まず,今回の最高裁判所は,節税の動機と縁組意思が併存し得るとしており,節税目的の縁組が絶対に有効であると判断したわけではありません。
 そして,より重要なのは,あくまでも民法上の養子縁組の有効性に関する判断であり,「税法上,相続税を減らすための養子縁組を認めた」ものではないことです。
 民法と税法の解釈は,必ずしも一致するわけではありません。
 その証拠に,相続税法には,「相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合」に,相続税の計算上,養子の数の算入を否認できるという規定があります。実際には節税目的の養子縁組が否認されることは殆どありませんが,それは,「不当」という点の立証が難しいという事実上の理由にすぎません。相続税法は,専ら相続税を減少させる目的での養子縁組を認めているわけではないのです。
 今回の最高裁判決は,民法の解釈上重要な意義を有するものですが,相続税対策という文脈では誤解を招くおそれもありますので,注意が必要です。

預貯金は遺産分割の対象に含まれる?

(質問)
先日父が亡くなりました。父の預貯金を相続人間で分けようと思いますが,預貯金は遺産分割の対象に含まれますか?

(回答)
 

1 相続人全員が合意しないと預貯金を引き出せなくなる?
 先般,被相続人が金融機関に対して保有していた預貯金は,遺産分割の対象となるとする重要な判例変更がありました。
 言うまでもなく,遺産分割とは,相続人間において,被相続人の財産(遺産)を分けることです。
 一般の方からすると,被相続人の預貯金も,不動産などといった遺産と同様に,相続人間で話し合って分けるものと思われている方が多いと思います。
 しかし,従前の判例では,預貯金について,被相続人の死亡により法定相続分に従って,相続人が当然に取得するとされており(=遺産分割の対象とならない),各相続人が法定相続分に応じて,金融機関に対し,被相続人の預貯金を払い戻しすることができました(ただし,実務上は,金融機関は相続人全員の同意がなければ払戻しに応じないという対応をとることが多く,その場合,実際に払戻しを受けるには金融機関に訴訟提起する必要がありました)。
 ところが,最高裁平成28年12月19日判決は,従前の判例を変更して,被相続人の預貯金は,遺産分割の対象となると判示しています。すなわち,預貯金についても,不動産などと同じように,話し合いによってどの相続人が取得するかを話し合い,合意に達しなければ,預貯金を分けることができないということになります。この最高裁判決は,預貯金には単なる金銭債権と異なる側面がある(現金に近い)ことを念頭に,上記の判示をしていると考えられるため,他の金銭債権(たとえば,賃金債権)の場合には,従前どおり,相続開始により当然に法定相続分に応じて,各相続人が取得することになると思われます。
 

2 最高裁判例による影響
 今回の最高裁判例により,金融機関に訴訟提起しても,預貯金の払戻しを受けることができず,相続人全員の同意が得られない限り,金融機関から預貯金を払戻しすることができなくなります。そのため,相続人が多額の相続税を納付する必要がある場合でも,相続人のうち1人でも預貯金の払戻しに同意しない人がいると,その資金を確保できない事態が生じる可能性があるので,生前から対策を取っておく必要があります。 
 

3 実務の動向に要注意! 
 最近でいえば,節税目的の養子縁組を有効とした最高裁平成29年1月31日判決など,近年新しい判例が出ています。
 有効な相続対策には,新しい判例を踏まえる必要がありますので,ぜひ一度,弁護士にご相談ください。

リスクマネジメントとは?

(質問)
リスクマネジメントとは何ですか?

(回答)

1 リスクマネジメントとは 
 リスクマネジメントとは,簡単に言えば,①自己の会社内に存在する様々なリスクを洗い出し,②そのリスクの発生を事前に予防する,③リスクが発生した場合の対策を練ることにより,会社の損失を抑えようとするものです。
 今回は,リスクマネジメントの考え方のうち,リスクの事前予防(②)について,説明したいと思います。

2 不正発生のメカニズム 
 一般的に,⑴動機,⑵機会,⑶正当化という3つの要素が存在する場合に,組織内において不正が発生するリスクが高まると言われています。この3要素を「不正のトライアングル」といいます。
 ⑴動機・・・組織内の他者と共有されない個人的なものであることが多く,かつ経済的な性格を帯びていることが多いです。
 ⑵機会・・・不正に対して不十分な内部統制,脆弱な経営監視,組織内の地位・権威といったものにより,不正の「機会」を与えてしまいます。
 ⑶正当化・・・不正を行う人自身が,自身の不正行為を積極的に是認しようとすることで良心の呵責を乗り越えようとするものです。
 典型的な例としては,多額の借金を抱えている(⑴不正の動機がある)経理担当者が,1人でその経理事務を担当しており上司の監督が不十分である場合(⑵不正の機会がある)に,その経理担当者が「盗るわけではなく一時的に借りるだけだ」などという⑶正当化をすると,横領という不正行為が発生することになります。

3 リスクを事前に予防するには? 
 事前にリスクを予防するには,基本的に,不正のトライアングルにいう3つの要素のうち1つでも排除する対策を取ることが肝要です。
 このうち,⑴動機,⑶正当化については,組織風土の緩みなど組織の問題という側面と個人の問題という側面があるため,会社だけではどうしようもない場合もあります。他方,⑵機会については,基本的に会社に問題の所在がありますので,会社としては,対策を取りやすく,⑵機会を排除する対策を取ることが最も効率的です。
上記の例でいえば,経理担当者を複数にする,上司のチェックが及ぶ体制を作る,監視カメラを設置するなどが考えられます。
 また,リスクは,社内の不正に限られません。労務管理,ハラスメント,クレーム等において様々なリスクが考えられます。この機会に一度,自社のリスクについて検討されてはいかがでしょうか。

録画したドラマをインターネット上にアップロードしても問題ないの?

(質問)
 録画したドラマをインターネット上で流れているのをよく見るのですが,問題ないのですか?

(回答)

1 著作物とは
 著作権の対象は,著作物です。
 著作物とは,法律によれば,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものと定義されています。このように定義をしてもわかりにくいかと思いますので,ここでクイズを出しましょう。
 次の内,著作物と認められるものは何でしょうか。
 ①子供の描いた絵
 ②キャッチフレーズ
 ③新聞の死亡記事
 いかがでしょうか? ①から③の内,一般的に著作物と認められるものは,実は,①だけです。
 子供の絵も著作物といえるの?と意外に思われる方もいらっしゃるかと思いますが,実は,子供の絵も立派な著作物なんです。著作物とは,最初に述べましたように,思想や感情を創作的に表現したものです。思想や感情というのは,つまり人間の精神活動の所産であることいい,創作的というのは,著作者自身個性の表出と認められるものであれば足りるとされています。子供の絵というのは,子供の精神活動の所産ですし,子供の個性が表れていますから,立派に著作物といえるんです。
 これに対し,②のキャッチフレーズは,ケースバイケースなのですが,一般的に保護の対象にはなりにくいとされています。キャッチフレーズは,短い言葉で表現されていて,法律で保護されるほどの創作性が認められないことが多いからです。
 また,③については,単なる事実の伝達に過ぎないため,思想又は感情の表現とはいえませんし,創作的ともいえませんから,著作物には当たりません。
 ちなみに,著作権は,登録等の特別な手続なしに発生しますので,この点もご注意下さい。

2著作権とは
 では,著作権とは何でしょうか。実は,著作権は,権利の束と言われており,様々な権利の集まりなんです。大きく言えば,著作物の排他的利用を決めることができる権利なのですが,その中には,複製権,上映権,上演権,展示権等・・・様々な権利が含まれています。なので,冒頭の著作権とはどのような権利かという質問に一言で答えるのは,実は,法律家でも難しいんです。
 著作権を詳しく説明することは困難なので,まずは,著作権のうち,もっとも一般的な複製権について考えてみましょう。
 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により,有形的に再製することをいいます。著作権者は,他人に無断で著作物を複製されない権利を持っているということです。
 では,自宅で,大好きなドラマを録画することは,著作権法違反にならないのでしょうか。
 ドラマには,当然著作権が及んでいますよね。では,これを録画し,複製する行為は,著作権法違反になるとも思えます。
 しかし,著作権法で,「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」,つまり私的な使用については,複製することが許されているのです。そのため,自宅でドラマを録画しても,著作権法違反にはならないのですね。
 では,録画したドラマを,インターネット上にアップロードしたとすれば,どうでしょうか。インターネット上にアップロードすると,不特定多数人がアクセスしますよね。そうなると,もはや私的な使用とはいえなくなるので,著作権法違反となります。
 違法にインターネット上にアップロードされたドラマ等を,そうと知りながら私的使用目的でダウンロード(複製)する行為は,どうでしょうか。実は,このような行為も著作権法違反となり,しかも刑事罰(2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金)まで設けられているんです。
 最近は,インターネット上に著作権法違反と思われる画像等が多くアップロードされていますので,十分気をつけて下さい。

負けた人のおごり~これって,違法?

(質問)
 賭博が違法なのは知っていますが,例えばじゃんけんで負けた人が食事をおごるといったゲーム等も違法になるのでしょうか。

(回答)

1 賭博罪とは
 最近は,賭博が世間を騒がせていますね。某球団の野球選手が,プロ野球の試合の勝敗に対して金銭を賭けていたとして,無期失格等の処分となり,選手生命がおおいに脅かされています。また,某バドミントン選手も,違法な裏カジノで賭博をしていたとして,無期限の競技会出場停止等の処分が下されました。
 野球賭博や裏カジノなどは,我々にはなじみのない世界ですが,例えば,じゃんけんで負けた人が食事をおごるといったゲーム等は,一般的かもしれません。このようなゲームも,違法になるのでしょうか。今日は,賭博について,考えてみましょう。
 刑法第185条に賭博罪の規定があります。そこには,「賭博をした者は,50万円以下の罰金又は過料に処する。」とあります。賭博とは,偶然の事情に関して財物を賭け,勝敗を争うことをいいます。例えば,野球賭博でいえば,報道された事実が真実なら,プロ野球の試合の勝ち負けという偶然の事情に対し金銭を賭けていたことになるので,刑法第185条の賭博罪に該当する可能性が高いといえます。

2 賭博罪に該当する場合・しない場合とは
 これからすると,じゃんけんに負けた人が食事をおごるというゲームも,じゃんけんの勝敗という偶然の事情に食事を賭けているわけですから,賭博罪が成立するのではないかという疑問が生じます。
 実は,刑法第185条には続きがあって,「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは,この限りでない。」とされています。「一時の享楽に供する物」とは,価値の僅少性や消費の即時性等を考慮して決定されます。そして,一般的に食事は「一時の享楽に供する物」に当たるとされています。ですので,じゃんけんに負けた人が食事をおごったとしても,刑法上の賭博罪には該当しない可能性が高いのです。
 一般的に遭遇しがちな出来事で気をつけて頂きたいのが,会社のゴルフコンペなどのイベントにおいて,高額な会費を集めて賞金や高額賞品を出すという場合です。これは,当事者がコンペの結果という偶然の事情に対して財物を賭けているとして賭博罪に問われかねませんので,注意が必要です。
 また,昔からありがちなのが,賭け麻雀です。平成25年の話ですが,警察官が交番で賭け麻雀をしていたとして,罰金10万円の略式命令が出されています。皆が陥りやすい罠といえるかもしれません。賭け麻雀が違法であるのは当然のこととして,賭け麻雀で勝った人が掛け金の請求権を有し,負けた人がその支払義務を負う,ということになるのでしょうか。いいえ,そうはなりません。賭け麻雀は違法な行為ですので,公序良俗に違反するとして,契約は無効になります(民法90条)。

身元保証人の責任について

(質問)
 今般、就職活動をしていた甥から、就職に際して身元保証人になってくれないかと頼まれました。私としては力になってあげたいと考えています。
 もっとも、身元保証書には、甥が会社に損害を与えた場合には理由の如何を問わず一切の責任を負うと書かれており、不安もあります。
 法律的には、身元保証人はどのような責任を負うのでしょうか。

(回答)

1 身元保証法とは 
 今回の身元保証は、被用者が使用者に損害を与えた場合に、身元保証人がその損害を賠償する責任を負うことを約するもので、一種の契約です。
 通常、横領行為などの被用者の不正行為や、事故・病気などで使用者に損害を与えた場合が想定されます。
 これについては、「身元保証ニ関スル法律」(身元保証法)という古い法律があり、身元保証人が過大な責任を負わされることがないよう、その責任を制限しています。 

2 身元保証の期間
 身元保証法は、身元保証契約の存続期間を定めなかった場合、契約期間は、契約成立の時から3年間(商工業見習者の場合は5年間)とすると規定しています。
 これは、被用者が働いているかぎり身元保証が続くことになると、あまりに長期間になる可能性があるためです。
 また、契約期間を定める場合でも、5年を超えることができないとされています。契約の更新を定めることもできますが、その期間は更新の時から最長5年間とされています。
 身元保証法は強行規定ですから、たとえば、契約期間を10年間と定めても、5年を超える期間については無効となります。

3 身元保証契約の解除
 使用者は、①被用者が業務に不適任であったり、不誠実な事由があったため、身元保証人の責任が生じるおそれがあるとき、②被用者の仕事の内容や任地の変更のため、身元保証人の責任が重くなったり、従前のような監督が難しくなるときは、そのことを身元保証人に通知しなければならないこととなっています。
 そして、身元保証人は、このような通知を受けた場合(又は自らそのことを知った場合)には、身元保証人は、身元保証契約を解除することができます。
 一度身元保証人を引き受けたとしても、その後の状況の変化によっては、責任を免れることができるということです。

4 身元保証人の責任 
 身元保証人は、常に全損害を填補する責任を負うわけではありません。
 裁判所は、身元保証人の責任の有無や賠償額を決めるに際には、使用者の監督上の過失の有無、身元保証人が身元保証をした事情や身元保証をする上で用いた注意の程度、被用者の仕事の内容、身上の変化など一切の事情を斟酌することとなっています。
 今回のケースのように、「理由の如何を問わず、一切の責任を負う」との契約は、上記に反する限りで無効となるでしょう。
 最近でも、就職の際に身元保証人を立てることは珍しくありません。その内容については特別法に規律があるのですが、一般の方にはあまり知られていないので、不安があればぜひ弁護士にご相談ください。

 

相続財産とは

(質問)
相続財産についてわかりやすく教えてください。

(回答)

1 相続財産って,何?
 相続財産とは,被相続人(亡くなられた方)が,亡くなられたときに有していた一切の財産をいいます。この定義は,意外に重要ですので,よく覚えておいて下さい。
 なお,当然ながら,相続財産には,プラスの財産もマイナスの財産も含みます。その内訳を調査した上で,相続についてしなければならないことが変わってきますので,相続財産の調査は非常に重要です。

2 相続財産が借金だらけだった場合 
 さて,仮に,相続財産として,マイナスの財産の方が多かった場合に相続をすると,相続人はいきなり借金を背負うことになります。これを避けるには,相続放棄をすることが有用です。
 相続放棄とは,その言葉のとおり,相続を放棄することで,相続放棄をすると,相続人は,被相続人の権利も義務も一切引き継ぐことはありません。
 ここで注意が必要なのは,相続放棄は,自分が相続人となったことを知った時から3ヶ月以内にする必要があるという点です。3ヶ月など,あっという間に過ぎます。身近な人が亡くなった後に,すぐに相続について調査等しなければならないというのは大変なことですが,相続人にはこれからの人生がありますから,この点はしっかりと行動すべきです。
 あと1つ注意をしなければならないのは,相続人が,一定の行為をすると,単純承認,つまりプラスの財産もマイナスの財産も相続することを承認したとみなされるということです。この「一定の行為」とは,例えば,相続財産の一部を使ってしまった場合があげられます。相続財産の全てを調査する前に安易に相続財産に手を出し,その後に多額の借金が見つかったから相続放棄をする…等ということはできないのです。どうぞ,お気をつけ下さい。

3 多額の相続財産があった場合 
 今までの話とは逆に,親が沢山の相続財産を残してくれている場合もあります。非常にありがたい話ですね。しかし,ただ喜んでばかりはいられません。この場合は,相続税という問題が発生してくるからです。
相続税とは,個人が被相続人から相続などによって財産を取得した場合に,その取得した財産に課される税金のことをいいます。
 相続税には,基礎控除がありますので,それを上回る遺産がある場合にのみ,税金を支払わなければならないということになります。基礎控除額は,3000万円+600万円×法定相続人数となります。基礎控除額は,平成26年までは5000万円+1000万円×法定相続人数だったのですが,これが平成27年1月1日以降,先ほど述べた額に減額されました。そのため,相続税を払わなければならない人が一気に増えたわけです。
 そして,相続税は,相続があったことを知った日から,10ヶ月以内に確定申告をし,その申告期限までに納税をしなければならないと定められています。相続税を支払わなければならないのに,何もせず10ヶ月という期間を経過してしまうと,無申告加算税や延滞税を課される危険があります。
 また,10ヶ月の期限内に申告することで,小規模宅地特例や配偶者特例といった相続税の負担を軽減する特例の適用を受けられるというメリットもございます。小規模宅地特例とは,相続又は遺贈により取得した財産のうち,相続開始の直前において,被相続人等の事業や居住の用に供されていた宅地等につき,一定の要件で相続税の課税価格に算入すべき価格を減額することを認めてくれる特例です。例えば,被相続人等の居住の用に供されていた宅地等であれば,330㎡で80%の減額を認めてくれます。この場合,土地の価格が1億円であったとしても,2000万円で相続税の計算ができるわけです。また,配偶者特例とは,被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が,1億6000万円か,配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
 これらは,相続税の算定にとって重要な制度ですので,10ヶ月以内の相続税の納付は重要になってきます。

4 相続税対策とは 
 さて,相続税対策としては,その額を如何に減らすかという対策と,相続税納付の金銭を用意するという対策が考えられます。
 相続税対策としては,生前のうちにできる対策として,例えば,教育資金の贈与が考えられます。国は,教育資金を贈与した場合,贈与税を非課税にするという制度を設けました。通常は,金銭を贈与すると,例えば1500万円以下だと,45%という高率の税金がかかります。
 しかし,平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に,30歳未満の方が,教育資金に充てるために,金融機関等との一定の契約に基づき,受贈者の直系尊属から,①信託受益権を付与された場合,②書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預け入れをした場合,③書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合には,その価格の1500万円までの金額に相当する部分については,贈与税の課税価格に算入されないという制度が設けられました。
 教育資金には,例えば、入学資金の検定料,入学金や授業料,学用品の購入費,更には,学習塾やスポーツ,ピアノといった文化芸術に関する活動の対価等が含まれます。相続税のことを考え,有効なお金の使い方をしたいものですね。
 もう1つの相続税対策としては,相続税納付の金銭を用意するという点があります。相続財産が多くとも,その大半が不動産等容易に金銭に換価できないものであった場合,相続税の納付が難しくなることがあります。
 このようなときに有用なのが,生命保険です。ここで,冒頭の相続財産の定義を思い出して下さい。相続財産とは,被相続人が,亡くなられたときに有していた一切の財産をいいます。つまり,被相続人が亡くなって初めて保険料がおりるという生命保険は,相続財産を構成しないのです。そのため,生命保険金は,原則として受取人が自由に用いることができます。そして,生命保険金は,相続税の対象ではありますが,500万円×法定相続人の人数につき,非課税となりますので,これを有効活用すると良いでしょう。
 相続対策は,生きている内から始まります。相続は,感情の対立で容易に「争族」となってしまいますので,「争族」にならないための対策は非常に重要で,相続は誰しもが経験するものであるということを肝に銘じ,早めに対策をして下さい。

リハビリ勤務とは?

(質問)
 当社では、メンタルの不調のため3か月ほど休職している従業員がいます。
 症状に改善がみられるとのことで、復職に向けた協議をはじめたのですが、最初は、短時間での簡単な作業から慣らしていくということなどを検討しています。
 ただ、当社の就業規則ではこのような取扱いの定めはありません。
 給与の支払いはどうしたらいいでしょうか。

(回答)

1リハビリ勤務とは 
 心身の故障で休職していた従業員が復職するに際して、いきなり元の業務を行わせるのではなく、短時間の勤務や軽い作業から慣らしていく制度を設ける会社が増えています。
 このような形態を、リハビリ勤務等と呼ぶことがあります。
 労働基準法等にはリハビリ勤務の定めはなく、会社としてはこのような制度を導入する法的義務はありませんが、制度を設ける場合には就業規則に具体的な定めを置くことが望ましいといえます。
 もっとも、就業規則に定めがなくても、当該従業員との個別の合意によって、リハビリ勤務をすることは可能です。

2 リハビリ勤務の法的位置付け
 リハビリ勤務といっても、法律的な位置付けは一様ではありません。
 大きく分けると、①休職期間を継続させつつ、休職者が出社して一定の期間、簡単な作業等を行うものと、②復職として取り扱いつつ、最初は軽易な業務から段階的に従前の業務に戻していくものがあります。
 ①は復職に向けたリハビリをしたり、復職が可能かどうかを判断するための期間ですが、②は復職を認めることが前提となっています。
 今回のケースでどちらの取扱いをするのかは、従業員の回復の程度や、リハビリ勤務として行わせる作業(業務)の内容などを踏まえて検討する必要があります。

3 リハビリ勤務を導入する際の注意点 
 上記①の取扱いは、休職者が、休職期間中、自主的に出勤してリハビリすることを会社が認めるものです。そのため、従業員がした作業は労務の提供とはいえませんし、休職期間中ですから、就業規則に別段の定めがない限り、給与は発生しないのが原則です。
 また、リハビリ期間中に一定の作業を行っても、それは会社の業務とはいえませんから、作業中に災害が発生した場合でも労災保険は使えません。
 就業規則に定めがない場合には、これらの点を説明して当該従業員の承諾を得る必要があるでしょう。

4 制度を導入する場合の注意点 
 なお、形式的に上記①の取扱いを採用しても、実際にリハビリのための軽易な作業にとどまらず、使用者の指揮命令のもと、会社の業務を行わせているということになれば、給与の支払い義務が生じます。また、そもそも、会社は復職を認めていると判断されるおそれもあります。
 加えて、実際に危険を伴う作業に従事させる場合には、たとえそれが労務の提供とは認められないものであるとしても、会社として安全配慮義務を免れることはできないことにも注意が必要です。
 リハビリ勤務等の制度は,休職中の従業員のスムーズな復職には有用な制度です。ただし、制度を導入するにあたっては、その法的な位置付けとルールを明確にしておく必要があります。

職場内での不倫―プライベートの問題では済まされない?―

(質問)
 当社の男性部長が,部下の女性従業員と長期間に渡って不倫をしていることを職場で公言していました。さらに,当該男性部長は,職場で当該女性従業員と肉体関係をもったようです。このような状況が続いているため,職場の士気が低下してきています。
 この男性部長の行為は,あまりにも目に余ります。ので,当社としては,どのようにすべきでしょうか。男性部長に対して,不倫をやめるように業務命令を行う,または懲戒処分をしたいと考えています。このようなことが可能でしょうか。

(回答)

1 不倫によって生じる法的責任
 当然のことですが,不倫は,配偶者を裏切る行為であり,社会的にも道徳的にも非難される行為です。不倫をした者に道義的責任が生じるのは当然ですが,場合によっては,配偶者または不倫相手の配偶者に対して損害賠償責任を負うことにもなります。

2 不倫をやめるように業務命令を行うことはできる?
 不倫は,社会的にも道義的にも非難される行為です。しかし,不倫は,職場内とはいえプライベートの事柄であるといえます。そのため,注意を促す程度であればともかく,業務命令で不倫をやめさせることはできないこととなります。

3 不倫について懲戒処分をすることはできる?
 懲戒処分は,会社が企業秩序や職場規律を維持するために,これを乱した従業員に対して行う制裁になります。 そのため,従業員の不倫についても,それがプライベートの範疇の問題にとどまり,企業秩序や職場規律に影響しない限りは,懲戒処分の対象とすることが難しい可能性があります。
 もっとも,不倫というプライベートに関するものであっても,不倫それが企業秩序や職場規律を乱している場合や,企業の社会的評価を毀損している場合には,懲戒処分の対象となり得ます。その際には,両者の地位,職務内容,交際の態様,業態等に照らして,企業秩序や職場規律を乱したかどうかを判断することになります。例えば,業務時間内に不倫相手とデートに出かけた場合,自らの不倫が原因で,相手の配偶者が職場に現れて修羅場になったような場合には,企業秩序や職場規律を乱したとして,懲戒処分の対象になり得ると考えられます。
 御相談では,男性部長が部下の女性従業員と不倫をしていることを公言しいており,他の従業員の士気に影響することが強く予想されること,及び職場内で肉体関係をもったとのことであり,このこと自体が職場秩序を乱していると考えられることから,単なるプライベートの問題にとどまらず,企業秩序や職場規律を乱していると考えられます。そのため,懲戒処分を有効に行うことができると考えられます。
 なお,懲戒処分を行う際には,当該処分が懲戒の対象となる行為に照らして相当なものかを考える必要があります。

4 不倫をしている従業員がいたらどのようにすればいい?
 前述のように,職場内での不倫は,企業秩序や職場規律を乱しているといえない限り,懲戒処分の対象とすることが難しい場合がありますことになります。もっとも,そのような場合でも職場の士気が低下する可能性がないとはいえません。そこで,職場内での不倫が,懲戒処分の対象とまでならない程度の場合には,不倫をしている従業員を人事異動させて,両者を離すことを検討すべきです。
 ただし,人事異動の理由が,もっぱら職場内での不倫をやめさせるためのものであり,業務上の必要性が高くない場合には,当該人事異動は無効であるなどと主張されるリスクがありますので,慎重に行う必要があります。

5 ルールを守る職場づくりを!
 不倫に関してのみならず,社会には様々なルールがあります。ルールをしっかりと守ることは基本的なことですが,とても重要なことです。
 不倫に限らず,不祥事を防ぐためにはどのようにしていくべきかお悩みの方は,弁護士などの専門家に御相談することをお勧めします。