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訴訟の提起で懲戒に?ー弁護士の仕事って何?ー

(質問)
 以前新聞で、とある訴訟を提起した弁護士が提訴が問題だったという理由で懲戒審査にかけられたという記事を見ましたが、こういったことはたまにあるのですか?

(回答)
 

1 事件の概要
 アダルトビデオ出演を拒否した20代の女性に所属事務所が約2400万円の損害賠償を求めた訴訟をめぐり、日本弁護士連合会(日弁連)が、所属事務所の代理人を務めた60代の男性弁護士について「提訴は問題だった」として、「懲戒審査相当」の決定をした。
 懲戒請求を行ったのは、男性弁護士や女性と面識がない男性。所属先の弁護士会では提訴は正当とされたが、その後男性は日弁連に異議を申し立て、日弁連が所属先の弁護士会での決定を取り消し、懲戒審査となった。
 

2 弁護士の仕事とは
 弁護士の立場から言わせてもらうと,もし懲戒処分が下ったら非常に憤りを感じます。弁護士っていうのはあくまで依頼者の代理人なんです。国民が持つ「裁判を受ける権利」を代理し,裁判所に判断を求めるのが弁護士の仕事なんです。
 もし提訴や訴訟内容を理由に懲戒されるリスクを弁護士が負うようになり,依頼者に善悪を求めるようになったら悪人は弁護士を雇えないということになりますよね。これでは憲法違反になってしまいます。
 たまに,「弁護士は,有罪だなと思っている依頼者でも無罪を主張するんですか?」という質問をされることがあります。
 全ての弁護士がそうという訳ではないと思いますが,私は,有罪だなという場合,後々辻褄が合わなくなってもいけませんので,私自身納得できない旨を伝えて,問題点についての説明を求めます。その説明も納得がいかないときは,さらにその旨を告げて,且つ裁判所を説得するのは難しいことを説明します。それでも依頼者が無実を主張する場合は,私は辞任しますね。
 

3 弁護士はなぜ犯罪を犯した悪人の弁護をするのか
 悪人かどうかはともかくとして,たまにそのような問いかけを受けます。
 まず,弁護しているその人が本当に犯人かは裁判を通じて初めて決まることです。犯人扱いされた人が実は無実だったという冤罪事件はたまにあります。なので,本当は犯人ではない事実を裁判で明らかにするために,弁護士による弁護活動が必要になります。
 もっとも,そうした冤罪事件はかなり例外で,多くの場合は間違いなく犯人でしょう。  
 しかし,そのときでも,その人が罪を犯すにはそれなりの事情があり,そうした事情や,十分反省していることなどを裁判で明らかにし,過重な処罰を受けないようにすることも大事です。凶悪犯罪を犯したとして社会全体から厳しい非難を受けている人にこそ,唯一の味方ともいうべき弁護士の弁護が必要なのです。
 

4 今回の懲戒問題の今後について
 「弁護士職務基本規程」では一定の制限が設けられています。
 
 弁護士職務基本規程(2005年4月1日施行)
 (不当な事件の受任)
 第三十一条
 弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件を受任してはならない。

 今後,提訴自体が懲戒対象になっていくのか,それはどういった基準なのか,とても興味深いです。

相続開始後に生じた賃料債権の帰属について

(質問)
 私の父は、知り合いの事業者に不動産を賃貸しており、賃料収入がありました。父が死亡し、私と弟が相続人となったため、遺産分割協議を経て、不動産は弟が相続することになりました。
 しかし、遺産分割協議がまとまるまでに1年ほどかかってしまったため、その間の賃料が発生しています。この賃料も当然に弟が取得することになるのでしょうか。

(回答)
 

1 相続開始後の賃料債権の帰属
 民法909条は、「遺産分割は、相続開始時にさかのぼってその効力を生ずる」と規定しています。
 そうすると、今回の事例では、被相続人の死亡時に弟が賃貸不動産を取得したことになりますので、その後に生じた賃料もすべて弟が取得すべきとも思えます。
 しかしながら、この点については、最高裁判例があり、遺産である賃貸不動産から生じた賃料債権は遺産に属さず、相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するとしています。
 遺産分割が実際に成立するまでは、遺産は、法定相続分の割合で各相続人の遺産共有状態となっていますので、その期間に発生した賃料債権は、相続分の割合に応じて各相続人がそれぞれ単独で取得するということですね。
 今回の事例ですと、相続開始から遺産分割までに発生した賃料は、法定相続分に従って、相談者と弟がそれぞれ2分の1ずつ取得することになります。
 

2 借主側の問題
 さて、賃料債権の法的な帰属の問題は上記のとおりですが、これを、賃貸不動産の借主の立場からみるとどうでしょう。
 この点、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権は、各相続人が相続分に応じて単独で取得することになる以上、借主としては、原則として、各相続人に相続分の割合ずつ賃料を支払わなければなりません。
 もっとも、これでは煩雑なので、借主としては、相続人の誰か1人に支払いたいと思うでしょう。実際に、相続人の1人が賃料を受け取って管理し、これを含めて分割協議をするのが通常です。
 しかしながら、上記のとおり、相続開始後に生じた賃料債権は、法的には遺産ではありませんので、他の相続人から、相続分に応じて自分に賃料を支払うよう請求された場合、借主としてはこれを拒むことができません。
 相続人の1人に賃料を支払えば済むようにするには、他の相続人にも了解を得る必要があります。各相続人の了解を得なかった場合には、法律上有効な弁済にはならないのです。
 なお、債権者(相続人)が誰かわからなければ供託するという方法も考えられますが、相続人が判明していれば、債権者不確知を理由に供託することはできません。
 実際には、相続開始後に生じた賃料を含めて遺産分割協議をすることが多く、借主が各相続人に分割して賃料を支払わなければならない事態も通常は生じません。ただし、これは法律的な原則論とは異なることに注意が必要です。

副業が見つかったらクビになる?

(質問)
 私の同僚は,業務時間外に他でアルバイトをしているようです。私も,今の給料で生活ができないわけではありませんが,小遣いを稼ぐために副業をしようかと考えています。
 しかし,先日,上司から,当社では副業を禁止しているので,違反した者は懲戒処分もあり得るというような話がありました。
 実際に副業が見つかった場合には懲戒処分の対象となるのでしょうか。

(回答)
 

1 副業は原則自由
 公務員は法律で副業が禁止されていますが,民間企業には従業員の副業を禁止する法律の規定はありません。
 就業規則に副業禁止を定めている会社は多くありますが,そのような定めがない場合には,原則として副業は制限されません。
 また,就業規則に副業を禁止する定めを設けたとしても,常にその有効性が認められるわけではありません。契約で定められた就業時間外をどのように過ごすかについては,本来,各従業員の自由だからです。
 

2 副業禁止が認められる場合
 副業の禁止が有効であると認められるためには,就業時間外の私的な行動を制限する合理性が認められる必要があります。
 このような合理性が認められるのは,従業員の副業により,会社の社会的な信用や社内秩序を害されるおそれがある場合,秘密漏えいのおそれがある場合,当該従業員の労務提供に支障が生じるおそれがある場合等です。
 そのため,就業規則で副業禁止を定めていたとしても,実際に副業禁止違反を理由として懲戒処分をするためには,上記のような合理性が認められるのかを具体的に検討する必要があるでしょう。
 

3 副業に関する裁判例
 裁判例には,貨物運送会社に勤務する長距離トラック運転手が勤務時間外にアルバイトをすることを会社が認めなかったという事例で,副業終了後会社での勤務開始までが6時間を切る場合は副業を認めないことには,合理性があると判断したものがあります。
 このケースでは,疲労や値不足での交通事故を起こせば,会社のみならず第三者に多大な迷惑を掛けるので,トラック運転手にとっては休息の確保が非常に重要であるというわけです。
 その一方で,同裁判例は,休日のアルバイトを禁止することについて,その休日が法定休日であるということのみを理由として禁止することはできず,労務提供に生じる支障を具体的に検討しなければならないと判断しています。
 近時,働き方の多様化が進み,本業とは別に副業をするサラリーマンも増えているようです。その一方で,会社からすれば,従業員には副業をせずに自社の仕事に専念してもらいたいと考えるのは当然のことです。
 副業禁止違反を理由とする懲戒処分の有効性が問題となるケースでは,制限の合理性を具体的に検討する必要があります。

インターネットリテラシーー情報の発信者はどうやって探し出すのかー

(質問)
 インターネットでの書き込みの削除請求をしたいのですが、請求をする相手が誰か分かりません。
 どうやって特定したらいいのでしょうか?

(回答)
 

1 Who is 検索
 削除請求は、実際に問題となる書き込み等をした者のみならず、サイトの運営者や管理者に対しても行うことができます。
 ただ、ウェブサイトによっては、サイトの運営者や管理者等の情報が明記されていなかったり、明記されているとしてもわかりにくく、容易に探すことができない場合があります。このようなときに有用なのは、「Who is 検索」です。
 「Who is 検索」とは、IPアドレスやドメイン名の登録者等に関する情報を誰でも参照できるサービスのことです。「Who is 検索」のサイトには、以下のようなものがあります。

 ・aguse(アグス)
 ・株式会社日本レジストリサービスが運用する検索サイト
 ・一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が運用する検索サイト

 サイト運営者等が分からない場合は、上記サイト等を用い、検索をされることをお勧めします。
 

2 発信者の特定
 問題となる投稿等を発信した者に対して、損害賠償請求等をしようと考えると、発信者を特定する必要があります。
 この発信者の特定は、いわゆるプロバイダ責任制限法に基づき、開示の請求をすることになります。
 この請求は2段階の手順を踏まなければなりません。これは、インターネット上の通信を行うに当たって、多くは、発信者がプロバイダと契約をし、かかるプロバイダを経由してインターネットに接続し、その上でサイト運営者等のサーバと通信を行うことでウェブサイトや掲示板等にアクセスしているからです。
 そのため、サイト運営者等が把握している発信者情報は、当該投稿等がどのプロバイダを経由して行われたのかという情報にすぎず、プロバイダの先のどの契約者から通信が行われたかということまでは把握していません。
 そこで、まず、サイト運営者等に対する請求を行い、次に経由プロバイダに請求を行うという2段階の手続きを踏まなければならないのです。
 具体的には、1段階として、サイト運営者等に対し、問題となる投稿をした際に用いられたIPアドレス及びポート番号や投稿した時刻の開示を求めます。
 第2段階として、当該IPアドレスを割り当てられている経由プロバイダに対して、問題となる投稿がなされた時刻に、当該IPアドレス及びポート番号を使用していた当該経由プロバイダの利用者である契約書の氏名や住所等の情報の開示を求めることになります。
 以上の各段階の請求ですが、共に、裁判外の請求(ガイドラインに則った請求)と、裁判上の請求の両方を行えます。相手が、裁判外の請求に応じてくれればそれでよいのですが、応じてくれなければ、法的手段をとらざるを得ません。インターネットに投稿等を行った発信者の氏名や住所等は、「通信の秘密」の保護の対象となります。
 そのため、この情報を、正当な理由亡く、第三者に漏洩することは、法律で禁じられており、刑事罰を科される可能性がございます。そのため、開示請求を受けた者は、その開示にどうしても慎重になる可能性があるのです。
 

3 労力はかかるけど諦めては駄目
 以上のように、インターネット上で問題となる投稿がなされた場合に、問題となる投稿等を行った者に対して損害賠償等を請求するには、その請求をする相手を特定するのに、非常に労力がかかります。
 とはいえ、インターネット上の投稿等は、全世界に配信され、かつ半永久的にその内容が残ることになります。つまり、その投稿等の被害者が受けるその被害は、甚大なものとなります。単に、労力がかかるというだけで諦めきれるものではないでしょう。
 何か被害をお受けになった場合は、弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。 

職場内の犯罪ー悪気がなくても犯罪に?

(質問)
 職場で携帯電話を充電していたら上司に注意をされてしまいました。
 法律上何か問題があるんですか?

(回答)
 

1 社員の不正とは
 社員の不正とは、会社の金銭を着服する、自社の製品や商品を盗む・横流しする、企業秘密を外部に売り渡すなどがあります。刑法上、業務上横領罪(刑法253条)や事案によっては窃盗罪(同法235条)、背任罪(同法247条)等を構成する悪質な行為となります。そのほかにも、従業員の職務専念義務や誠実義務、職場規律遵守義務等に違反するともいえます。
 この場合、戒告、減給、出勤停止、解雇等の懲戒処分になる可能性があります。
 

2 会社で何気なく起こる犯罪行為 
 上記の例は明らかに犯罪ですが、会社で何気なく起こる犯罪行為もあります。例えば、会社のプロジェクトで経費が余ったから、仕事と関係なく皆でお酒を飲みに行き、後日、領収書を「接待」と称して会社に提出して会社から受け取った飲食代金をちゃっかり自分の財布にしまったら、会社からお金を騙し取っているので、詐欺罪になります。また、ボールペンやハサミなど会社の備品を家に持って帰った場合、会社に所有権のある動産を盗ってしまったということになるので、窃盗罪ですね。
 また、会社で他人のメール内容が気になっていけないとはわかっていても盗み見てしまった場合、場合によっては不正アクセス禁止法にあたり、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されることになります。許可なく他人のIDとパスワードを使って、インターネットからフェイスブックやメールシステムなどにアクセスすることは犯罪です。これは職場内だけでなく、夫婦でも恋人同士でも罪になりますので、「浮気をしているかどうかのチェック」という言い訳は通用しません。
 ご質問の回答ですが、会社のオフィスで、個人で利用している携帯電話やノートパソコンを無断で充電し、それを会社が禁止していれば、電気の「窃盗」として犯罪行為とみなされるので注意が必要です。
 普段何気なくしていることが実は犯罪行為にあたることもあります。お困りの際は弁護士にご相談ください。

盗まれた自分の自転車を持ち帰ったら犯罪?ー自力救済とはー

(質問)
 私の自転車が盗まれて探していたらたまたま駅で発見しました。
 乗って帰っても問題ないですか?
 

(回答)
 

1 勝手に持ち帰れば窃盗罪?
 盗まれた自分の自転車をたまたま発見したとしても、勝手に乗って帰ってはいけません。なぜなら、自転車の所有権は自分にありますが、一時的に他の誰かに占有されている(事実上、支配下に置かれている)状態にあるからです。他人が占有しているものは他人の財物とみなされるため、勝手に持ち帰れば窃盗罪になります。

 刑法第242条(他人の占有等に係る自己の財物)
 自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。

 

2 自力救済とは
 しかし、悪いのは自転車を盗んだ人ですし、盗まれた物を取り返すだけで犯罪になるのは納得いかないと考える人もいるかもしれません。しかし、侵害された所有権を守るためには、法的な手続きを踏まないといけないのです。自分で実力を行使して権利回復する行為は「自力救済」と言われ、原則的に禁止されています。
 禁止されている理由として、私力による権利の実現を認めてしまうと、権力・財力・腕力といった「力」のある者が正義ということになってしまい、場合によっては暴力的な権利行使がなされる可能性があり、社会秩序が混乱する恐れがあるからです。
 自力救済を行ってしまったら、民事上の不法行為責任を負うか、窃盗罪などの刑事責任を負う可能性もあります。
 

3 損害賠償責任を負った裁判例
 大阪高等裁判所昭和62年10月22日判決
 公団住宅から約定に反して無断転居し、賃料の不払いがあった賃借人の部屋に公団職員が立入り、残置物を搬出廃棄し、賃借人が損害賠償請求をした事件。
 処分された残置物のうちには、代替性がなく、特別の主観的価値を有する記念アルバムの無断廃棄が含まれ、かつ、自己のかつての居住場所であり、現に家財道具等を保管しその占有を保持しえいた建物を無断で開け放たれ、よつて、一種のプライバシーを侵される結果となったとみられることから、相応の精神上の苦痛を覚え、また人格ないし名誉毀損が損なわれたと解されるとして、2万円~5万円の慰謝料及び1~2万円の弁護士費用相当額の損害を肯定した。

 この事例では、慰謝料及び弁護士費用のみが許容された場合なので許容額は比較的低額にとどまっていますが、賃貸人が処分した残置物に高額な動産が含まれており、賃借人がその存在を立証したような場合には、当該動産の価値相当額の損害賠償責任が肯定される可能性があります。自力救済はなかなか認められにくいので注意が必要です。
 

4 自力救済が認められる場合
 なかなか認められにくい自力救済ですが、侵害が切迫していて、かつ、後で権利を実現することが困難となる事情ややむを得ない事情がある場合には、例外的に自力救済が許される場合があります。
 横浜地裁昭和63年2月4日判決
 マンションの目の前に自動車が3ヶ月間停めっぱなしの状態にあり、ある住人が再三にわたり督促したものの名義人は意図的に車を移動させなかった。故意に置きっぱなしにしてあると判断し、しびれを切らした住人が車を処分したところ、その所有者が損害賠償請求の訴えをおこした。裁判所は「やむを得ない特別の事情」があるとして損害賠償請求を認めなかった。
 

5 盗まれた自転車を発見した場合の対応
 警察に通報して現場に来てもらった方がいいですね。警察の立ち合いのもと持ち帰りが許される可能性や、盗品として届け出ることで後日返却が受けられる可能性があります。ちなみに、ちょっとコンビニで買い物をしている隙に自転車を盗まれて、いままさに犯人が立ち去ろうとしている現場を目撃し、その場で自転車を取り返す行為は正当防衛なのでOKですが、盗難から数日後、盗んだ自転車に乗った犯人を見かけても、勝手に取り押さえれば自力救済として違法になるので気をつけないといけません。

インフルエンザの法務リスク対策ー流行を未然に防ぐための法的手段とは?ー

(質問)
 当社の従業員から、妻及び2人の子どもがインフルエンザに罹患してしまったと聞きました。今のところ、この従業員自身は、高熱は出ていないようですが、倦怠感があるようです。当社でのインフルエンザの流行を防止するために、当社は、法的にどのようなことができるでしょうか?

(回答)
 

1 集団感染を防止する!
 インフルエンザは、高熱を伴う、関節痛を伴う等の症状がある恐ろしい病気ですが、感染力が高いということも恐ろしいところです。使用者は、職場の従業員に対して安全配慮義務を負っている以上、インフルエンザの流行について漫然と放置するのではなく、何らかの対策を検討する必要があります。
 

2 従業員に自宅で待機してもらうことはできる?
 ご相談では、当該従業員自身がインフルエンザに罹患しているかどうかは分かりません。しかし、インフルエンザは、感染力が高い以上、インフルエンザに罹患した同居の家族から感染してしまうリスクが十分に考えられます。
 また、当該従業員自身、倦怠感があるとのことですので、既に罹患している可能性も否定できないところです。そのため、職場での集団感染を防止するために、まずは、当該従業員に対して、自宅での待機を促すことが考えられます。自宅待機を促した結果、当該従業員自身が同意した場合には、自宅で待機してもらうことになります。
 

3 自宅待機を命ずることはできる?
 自宅待機について、任意に促す方法ではなく、業務命令として行うことは、仮に就業規則に明示の根拠規程がない場合にも、一般的な労務指揮権の一環として可能であると考えられます。もっとも、このような命令を行う場合には、従業員の様子、従業員の被る不利益の大きさなどの事情を考慮する必要があります。
 ご相談では、従業員と同居している親族全員がインフルエンザに罹患しており、当該従業員自身も観戦するリスクは十分に考えられます。
 また、当該従業員自身、倦怠感があるとのことですので、既に観戦している可能性も否定できません。ほかに、当該従業員を一定期間自宅待機させることについて、当該従業員にとって大きな不利益となる事情も見受けられません。そのため、職場での集団感染を防ぐために、一定期間、自宅待機命令を行うことも可能であると考えられます。
 

4 自宅待機の期間の賃金はどうすればいい?
 従業員が自宅待機している期間は、当該従業員において労務を提供していることにはなりません。そのため、賃金を支給する必要があるかではなく、労働基準法第26条の休業手当を支払う必要があるかを考える必要があります。
 ご相談における従業員の休業は、確かに、従業員の家族がインフルエンザに罹患したという、会社外の原因によるものであり、かつ、このことについて使用者が最大限の注意をしたとしても避けることができたものであるとはいい難いものです。
 そのため、このような休業は、一見すると不可抗力に基づくものであると考えられそうです。
 しかし、当該従業員自身は、インフルエンザに罹患しているかどうか分からない以上、形式的には、就業可能な従業員を会社の自主的判断で休業させていることになります。
 そのため、当該従業員に対しては、休業手当を支給するほうが無難であると考えられます。
 

5 職場の従業員の安全を確保する!
 使用者は、従業員に対する安全配慮義務を負っていますので、インフルエンザの感染予防に限らず、従業員の健康を守る措置をとることも必要になります。安全配慮義務に関してどのような措置をとっていくべきかお悩みの方は、弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。

スマホの転売は違法?

(質問)
最近,私の知人が,副業として,スマートフォンを大量に転売してお金を稼いでいるようです。詳細はよくわからないのですが,私としては,知人が違法なことをしているのではないかと心配です。
 スマートフォンを個人で転売することは,法律上問題ないのでしょうか?

(回答)

1 通話可能な携帯電話の転売は違法
 携帯音声通信事業者(携帯電話会社)と契約済みの,通話可能な携帯電話については,基本的には,転売することは認められていません。携帯電話が犯罪等の不正な目的で利用されることを防止するために,携帯電話不正利用防止法によって,譲渡・譲受けが規制されているからです。
 具体的には,自分が契約している携帯電話を他人に譲り渡すためには,親族等に譲渡する場合を除き,事前に携帯電話会社に承諾を得る必要があります。これに違反して,通話可能な携帯電話を業として有償で譲渡すると,刑事罰が科せられます。
 また,他人から,その人が契約者でないことを知りながら通話可能な携帯を譲り受けた場合にも罰則があります。

2 白ロム端末の転売は適法?
 携帯電話会社と契約をしておらず,SIMカードが挿入されていない端末を,一般に,白ロム端末といいます。
 白ロム端末は,通話が不可能な空の端末であり,通信機能を持たない他の電子製品と同様に考えることができます。携帯電話不正利用防止法でも,譲渡・譲受け行為は規制されていません。
 そのため,白ロム端末を中古市場で仕入れて販売するような転売行為は,それ自体,違法ではありません。

3 古物営業法に注意 
 白ロム端末の譲渡・譲受け行為が違法でないとしても,転売行為が古物営業に該当する場合には,古物営業の規制を受けることになります。
 古物営業を行う場合には,都道府県公安委員会の許可を得る必要があり,無許可で古物営業を行った場合には罰則があります。
 「営業」該当性は個別に判断されますが,営利目的をもって反復継続して古物取引を行う場合には,古物営業と認められます。
 また,たとえ1回目の行為であっても,行為の客観的な態様(大量に端末を仕入れている等)から,反復継続して行う意思が認められれば,古物営業に該当すると考えられます。

4 転売目的の契約は詐欺になる? 
 近時,「スマホを契約する簡単なアルバイト」,「端末の購入代金はこちらが負担するから心配しなくてよい」などと勧誘して,転売用の携帯電話を購入する契約を締結させる悪質な転売業者がいるようです。
 これは,転売目的を隠して(自己利用目的・代金支払い意思があるかのように装って),携帯電話会社から端末を騙し取る行為であり,典型的な詐欺行為です。
 学生や外国人留学生などがターゲットにされやすいのですが,携帯電話の契約をするだけでバイト代がもらえるという甘い言葉につられて,詐欺に加担させられることにならないよう,注意が必要です。

相続税対策と養子縁組の有効性

(質問)
節税対策のために養子縁組をすることは問題ありますか?

(回答)
 

1 養子縁組の有効性が争われた裁判
 平成29年1月31日に,養子縁組の有効性が争われた事案で注目すべき最高裁判決が出ました。
 訴訟で争われたのは,ある男性と孫との間の養子縁組の有効性です。
 男性には配偶者がおらず,長男,長女,次女の3人の子供がいました。しかし,亡くなる前年に孫(長男の息子)を養子にしていたため,法定相続人は孫を含めた4人になりました。
 養子縁組をして相続人を増やすことで,相続税の基礎控除額が増えたり,生命保険の非課税枠が増えるなどの節税効果があります。男性が孫を養子にしたのも,税理士からのアドバイスを受けたものだったようです。
 これに対して,娘2人が,男性と孫との養子縁組は節税目的であるため無効であるとして提訴しました。 
 

2 最高裁の判断
 民法は,当事者間に縁組をする意思がないときには,養子縁組は無効とする旨規定しています。そのため,訴訟では,節税目的の養子縁組に縁組意思があるといえるのか否かが問題となりました。
 この点について,最高裁は,「節税の動機と縁組をする意思とは併存し得る」として,「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合」であっても,そのことから直ちに縁組意思がないということはできないと判断しました。そのうえで,今回の事案では縁組意思がないことをうかがわせる事情はないとして,養子縁組の有効性を認めています。
 

3 節税目的の養子縁組にお墨付き? 
 今回の最高裁判決に対しては,裁判所が,従来から相続税対策の定石であった養子縁組による節税手法を追認したものと評価する記事も見受けられます。
 しかしながら,判決の読み方には注意が必要です。
 まず,今回の最高裁判所は,節税の動機と縁組意思が併存し得るとしており,節税目的の縁組が絶対に有効であると判断したわけではありません。
 そして,より重要なのは,あくまでも民法上の養子縁組の有効性に関する判断であり,「税法上,相続税を減らすための養子縁組を認めた」ものではないことです。
 民法と税法の解釈は,必ずしも一致するわけではありません。
 その証拠に,相続税法には,「相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合」に,相続税の計算上,養子の数の算入を否認できるという規定があります。実際には節税目的の養子縁組が否認されることは殆どありませんが,それは,「不当」という点の立証が難しいという事実上の理由にすぎません。相続税法は,専ら相続税を減少させる目的での養子縁組を認めているわけではないのです。
 今回の最高裁判決は,民法の解釈上重要な意義を有するものですが,相続税対策という文脈では誤解を招くおそれもありますので,注意が必要です。

預貯金は遺産分割の対象に含まれる?

(質問)
先日父が亡くなりました。父の預貯金を相続人間で分けようと思いますが,預貯金は遺産分割の対象に含まれますか?

(回答)
 

1 相続人全員が合意しないと預貯金を引き出せなくなる?
 先般,被相続人が金融機関に対して保有していた預貯金は,遺産分割の対象となるとする重要な判例変更がありました。
 言うまでもなく,遺産分割とは,相続人間において,被相続人の財産(遺産)を分けることです。
 一般の方からすると,被相続人の預貯金も,不動産などといった遺産と同様に,相続人間で話し合って分けるものと思われている方が多いと思います。
 しかし,従前の判例では,預貯金について,被相続人の死亡により法定相続分に従って,相続人が当然に取得するとされており(=遺産分割の対象とならない),各相続人が法定相続分に応じて,金融機関に対し,被相続人の預貯金を払い戻しすることができました(ただし,実務上は,金融機関は相続人全員の同意がなければ払戻しに応じないという対応をとることが多く,その場合,実際に払戻しを受けるには金融機関に訴訟提起する必要がありました)。
 ところが,最高裁平成28年12月19日判決は,従前の判例を変更して,被相続人の預貯金は,遺産分割の対象となると判示しています。すなわち,預貯金についても,不動産などと同じように,話し合いによってどの相続人が取得するかを話し合い,合意に達しなければ,預貯金を分けることができないということになります。この最高裁判決は,預貯金には単なる金銭債権と異なる側面がある(現金に近い)ことを念頭に,上記の判示をしていると考えられるため,他の金銭債権(たとえば,賃金債権)の場合には,従前どおり,相続開始により当然に法定相続分に応じて,各相続人が取得することになると思われます。
 

2 最高裁判例による影響
 今回の最高裁判例により,金融機関に訴訟提起しても,預貯金の払戻しを受けることができず,相続人全員の同意が得られない限り,金融機関から預貯金を払戻しすることができなくなります。そのため,相続人が多額の相続税を納付する必要がある場合でも,相続人のうち1人でも預貯金の払戻しに同意しない人がいると,その資金を確保できない事態が生じる可能性があるので,生前から対策を取っておく必要があります。 
 

3 実務の動向に要注意! 
 最近でいえば,節税目的の養子縁組を有効とした最高裁平成29年1月31日判決など,近年新しい判例が出ています。
 有効な相続対策には,新しい判例を踏まえる必要がありますので,ぜひ一度,弁護士にご相談ください。