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盗まれた自分の自転車を持ち帰ったら犯罪?ー自力救済とはー

(質問)
 私の自転車が盗まれて探していたらたまたま駅で発見しました。
 乗って帰っても問題ないですか?
 

(回答)
 

1 勝手に持ち帰れば窃盗罪?
 盗まれた自分の自転車をたまたま発見したとしても、勝手に乗って帰ってはいけません。なぜなら、自転車の所有権は自分にありますが、一時的に他の誰かに占有されている(事実上、支配下に置かれている)状態にあるからです。他人が占有しているものは他人の財物とみなされるため、勝手に持ち帰れば窃盗罪になります。

 刑法第242条(他人の占有等に係る自己の財物)
 自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。

 

2 自力救済とは
 しかし、悪いのは自転車を盗んだ人ですし、盗まれた物を取り返すだけで犯罪になるのは納得いかないと考える人もいるかもしれません。しかし、侵害された所有権を守るためには、法的な手続きを踏まないといけないのです。自分で実力を行使して権利回復する行為は「自力救済」と言われ、原則的に禁止されています。
 禁止されている理由として、私力による権利の実現を認めてしまうと、権力・財力・腕力といった「力」のある者が正義ということになってしまい、場合によっては暴力的な権利行使がなされる可能性があり、社会秩序が混乱する恐れがあるからです。
 自力救済を行ってしまったら、民事上の不法行為責任を負うか、窃盗罪などの刑事責任を負う可能性もあります。
 

3 損害賠償責任を負った裁判例
 大阪高等裁判所昭和62年10月22日判決
 公団住宅から約定に反して無断転居し、賃料の不払いがあった賃借人の部屋に公団職員が立入り、残置物を搬出廃棄し、賃借人が損害賠償請求をした事件。
 処分された残置物のうちには、代替性がなく、特別の主観的価値を有する記念アルバムの無断廃棄が含まれ、かつ、自己のかつての居住場所であり、現に家財道具等を保管しその占有を保持しえいた建物を無断で開け放たれ、よつて、一種のプライバシーを侵される結果となったとみられることから、相応の精神上の苦痛を覚え、また人格ないし名誉毀損が損なわれたと解されるとして、2万円~5万円の慰謝料及び1~2万円の弁護士費用相当額の損害を肯定した。

 この事例では、慰謝料及び弁護士費用のみが許容された場合なので許容額は比較的低額にとどまっていますが、賃貸人が処分した残置物に高額な動産が含まれており、賃借人がその存在を立証したような場合には、当該動産の価値相当額の損害賠償責任が肯定される可能性があります。自力救済はなかなか認められにくいので注意が必要です。
 

4 自力救済が認められる場合
 なかなか認められにくい自力救済ですが、侵害が切迫していて、かつ、後で権利を実現することが困難となる事情ややむを得ない事情がある場合には、例外的に自力救済が許される場合があります。
 横浜地裁昭和63年2月4日判決
 マンションの目の前に自動車が3ヶ月間停めっぱなしの状態にあり、ある住人が再三にわたり督促したものの名義人は意図的に車を移動させなかった。故意に置きっぱなしにしてあると判断し、しびれを切らした住人が車を処分したところ、その所有者が損害賠償請求の訴えをおこした。裁判所は「やむを得ない特別の事情」があるとして損害賠償請求を認めなかった。
 

5 盗まれた自転車を発見した場合の対応
 警察に通報して現場に来てもらった方がいいですね。警察の立ち合いのもと持ち帰りが許される可能性や、盗品として届け出ることで後日返却が受けられる可能性があります。ちなみに、ちょっとコンビニで買い物をしている隙に自転車を盗まれて、いままさに犯人が立ち去ろうとしている現場を目撃し、その場で自転車を取り返す行為は正当防衛なのでOKですが、盗難から数日後、盗んだ自転車に乗った犯人を見かけても、勝手に取り押さえれば自力救済として違法になるので気をつけないといけません。

インフルエンザの法務リスク対策ー流行を未然に防ぐための法的手段とは?ー

(質問)
 当社の従業員から、妻及び2人の子どもがインフルエンザに罹患してしまったと聞きました。今のところ、この従業員自身は、高熱は出ていないようですが、倦怠感があるようです。当社でのインフルエンザの流行を防止するために、当社は、法的にどのようなことができるでしょうか?

(回答)
 

1 集団感染を防止する!
 インフルエンザは、高熱を伴う、関節痛を伴う等の症状がある恐ろしい病気ですが、感染力が高いということも恐ろしいところです。使用者は、職場の従業員に対して安全配慮義務を負っている以上、インフルエンザの流行について漫然と放置するのではなく、何らかの対策を検討する必要があります。
 

2 従業員に自宅で待機してもらうことはできる?
 ご相談では、当該従業員自身がインフルエンザに罹患しているかどうかは分かりません。しかし、インフルエンザは、感染力が高い以上、インフルエンザに罹患した同居の家族から感染してしまうリスクが十分に考えられます。
 また、当該従業員自身、倦怠感があるとのことですので、既に罹患している可能性も否定できないところです。そのため、職場での集団感染を防止するために、まずは、当該従業員に対して、自宅での待機を促すことが考えられます。自宅待機を促した結果、当該従業員自身が同意した場合には、自宅で待機してもらうことになります。
 

3 自宅待機を命ずることはできる?
 自宅待機について、任意に促す方法ではなく、業務命令として行うことは、仮に就業規則に明示の根拠規程がない場合にも、一般的な労務指揮権の一環として可能であると考えられます。もっとも、このような命令を行う場合には、従業員の様子、従業員の被る不利益の大きさなどの事情を考慮する必要があります。
 ご相談では、従業員と同居している親族全員がインフルエンザに罹患しており、当該従業員自身も観戦するリスクは十分に考えられます。
 また、当該従業員自身、倦怠感があるとのことですので、既に観戦している可能性も否定できません。ほかに、当該従業員を一定期間自宅待機させることについて、当該従業員にとって大きな不利益となる事情も見受けられません。そのため、職場での集団感染を防ぐために、一定期間、自宅待機命令を行うことも可能であると考えられます。
 

4 自宅待機の期間の賃金はどうすればいい?
 従業員が自宅待機している期間は、当該従業員において労務を提供していることにはなりません。そのため、賃金を支給する必要があるかではなく、労働基準法第26条の休業手当を支払う必要があるかを考える必要があります。
 ご相談における従業員の休業は、確かに、従業員の家族がインフルエンザに罹患したという、会社外の原因によるものであり、かつ、このことについて使用者が最大限の注意をしたとしても避けることができたものであるとはいい難いものです。
 そのため、このような休業は、一見すると不可抗力に基づくものであると考えられそうです。
 しかし、当該従業員自身は、インフルエンザに罹患しているかどうか分からない以上、形式的には、就業可能な従業員を会社の自主的判断で休業させていることになります。
 そのため、当該従業員に対しては、休業手当を支給するほうが無難であると考えられます。
 

5 職場の従業員の安全を確保する!
 使用者は、従業員に対する安全配慮義務を負っていますので、インフルエンザの感染予防に限らず、従業員の健康を守る措置をとることも必要になります。安全配慮義務に関してどのような措置をとっていくべきかお悩みの方は、弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。

スマホの転売は違法?

(質問)
最近,私の知人が,副業として,スマートフォンを大量に転売してお金を稼いでいるようです。詳細はよくわからないのですが,私としては,知人が違法なことをしているのではないかと心配です。
 スマートフォンを個人で転売することは,法律上問題ないのでしょうか?

(回答)

1 通話可能な携帯電話の転売は違法
 携帯音声通信事業者(携帯電話会社)と契約済みの,通話可能な携帯電話については,基本的には,転売することは認められていません。携帯電話が犯罪等の不正な目的で利用されることを防止するために,携帯電話不正利用防止法によって,譲渡・譲受けが規制されているからです。
 具体的には,自分が契約している携帯電話を他人に譲り渡すためには,親族等に譲渡する場合を除き,事前に携帯電話会社に承諾を得る必要があります。これに違反して,通話可能な携帯電話を業として有償で譲渡すると,刑事罰が科せられます。
 また,他人から,その人が契約者でないことを知りながら通話可能な携帯を譲り受けた場合にも罰則があります。

2 白ロム端末の転売は適法?
 携帯電話会社と契約をしておらず,SIMカードが挿入されていない端末を,一般に,白ロム端末といいます。
 白ロム端末は,通話が不可能な空の端末であり,通信機能を持たない他の電子製品と同様に考えることができます。携帯電話不正利用防止法でも,譲渡・譲受け行為は規制されていません。
 そのため,白ロム端末を中古市場で仕入れて販売するような転売行為は,それ自体,違法ではありません。

3 古物営業法に注意 
 白ロム端末の譲渡・譲受け行為が違法でないとしても,転売行為が古物営業に該当する場合には,古物営業の規制を受けることになります。
 古物営業を行う場合には,都道府県公安委員会の許可を得る必要があり,無許可で古物営業を行った場合には罰則があります。
 「営業」該当性は個別に判断されますが,営利目的をもって反復継続して古物取引を行う場合には,古物営業と認められます。
 また,たとえ1回目の行為であっても,行為の客観的な態様(大量に端末を仕入れている等)から,反復継続して行う意思が認められれば,古物営業に該当すると考えられます。

4 転売目的の契約は詐欺になる? 
 近時,「スマホを契約する簡単なアルバイト」,「端末の購入代金はこちらが負担するから心配しなくてよい」などと勧誘して,転売用の携帯電話を購入する契約を締結させる悪質な転売業者がいるようです。
 これは,転売目的を隠して(自己利用目的・代金支払い意思があるかのように装って),携帯電話会社から端末を騙し取る行為であり,典型的な詐欺行為です。
 学生や外国人留学生などがターゲットにされやすいのですが,携帯電話の契約をするだけでバイト代がもらえるという甘い言葉につられて,詐欺に加担させられることにならないよう,注意が必要です。

相続税対策と養子縁組の有効性

(質問)
節税対策のために養子縁組をすることは問題ありますか?

(回答)
 

1 養子縁組の有効性が争われた裁判
 平成29年1月31日に,養子縁組の有効性が争われた事案で注目すべき最高裁判決が出ました。
 訴訟で争われたのは,ある男性と孫との間の養子縁組の有効性です。
 男性には配偶者がおらず,長男,長女,次女の3人の子供がいました。しかし,亡くなる前年に孫(長男の息子)を養子にしていたため,法定相続人は孫を含めた4人になりました。
 養子縁組をして相続人を増やすことで,相続税の基礎控除額が増えたり,生命保険の非課税枠が増えるなどの節税効果があります。男性が孫を養子にしたのも,税理士からのアドバイスを受けたものだったようです。
 これに対して,娘2人が,男性と孫との養子縁組は節税目的であるため無効であるとして提訴しました。 
 

2 最高裁の判断
 民法は,当事者間に縁組をする意思がないときには,養子縁組は無効とする旨規定しています。そのため,訴訟では,節税目的の養子縁組に縁組意思があるといえるのか否かが問題となりました。
 この点について,最高裁は,「節税の動機と縁組をする意思とは併存し得る」として,「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合」であっても,そのことから直ちに縁組意思がないということはできないと判断しました。そのうえで,今回の事案では縁組意思がないことをうかがわせる事情はないとして,養子縁組の有効性を認めています。
 

3 節税目的の養子縁組にお墨付き? 
 今回の最高裁判決に対しては,裁判所が,従来から相続税対策の定石であった養子縁組による節税手法を追認したものと評価する記事も見受けられます。
 しかしながら,判決の読み方には注意が必要です。
 まず,今回の最高裁判所は,節税の動機と縁組意思が併存し得るとしており,節税目的の縁組が絶対に有効であると判断したわけではありません。
 そして,より重要なのは,あくまでも民法上の養子縁組の有効性に関する判断であり,「税法上,相続税を減らすための養子縁組を認めた」ものではないことです。
 民法と税法の解釈は,必ずしも一致するわけではありません。
 その証拠に,相続税法には,「相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合」に,相続税の計算上,養子の数の算入を否認できるという規定があります。実際には節税目的の養子縁組が否認されることは殆どありませんが,それは,「不当」という点の立証が難しいという事実上の理由にすぎません。相続税法は,専ら相続税を減少させる目的での養子縁組を認めているわけではないのです。
 今回の最高裁判決は,民法の解釈上重要な意義を有するものですが,相続税対策という文脈では誤解を招くおそれもありますので,注意が必要です。

預貯金は遺産分割の対象に含まれる?

(質問)
先日父が亡くなりました。父の預貯金を相続人間で分けようと思いますが,預貯金は遺産分割の対象に含まれますか?

(回答)
 

1 相続人全員が合意しないと預貯金を引き出せなくなる?
 先般,被相続人が金融機関に対して保有していた預貯金は,遺産分割の対象となるとする重要な判例変更がありました。
 言うまでもなく,遺産分割とは,相続人間において,被相続人の財産(遺産)を分けることです。
 一般の方からすると,被相続人の預貯金も,不動産などといった遺産と同様に,相続人間で話し合って分けるものと思われている方が多いと思います。
 しかし,従前の判例では,預貯金について,被相続人の死亡により法定相続分に従って,相続人が当然に取得するとされており(=遺産分割の対象とならない),各相続人が法定相続分に応じて,金融機関に対し,被相続人の預貯金を払い戻しすることができました(ただし,実務上は,金融機関は相続人全員の同意がなければ払戻しに応じないという対応をとることが多く,その場合,実際に払戻しを受けるには金融機関に訴訟提起する必要がありました)。
 ところが,最高裁平成28年12月19日判決は,従前の判例を変更して,被相続人の預貯金は,遺産分割の対象となると判示しています。すなわち,預貯金についても,不動産などと同じように,話し合いによってどの相続人が取得するかを話し合い,合意に達しなければ,預貯金を分けることができないということになります。この最高裁判決は,預貯金には単なる金銭債権と異なる側面がある(現金に近い)ことを念頭に,上記の判示をしていると考えられるため,他の金銭債権(たとえば,賃金債権)の場合には,従前どおり,相続開始により当然に法定相続分に応じて,各相続人が取得することになると思われます。
 

2 最高裁判例による影響
 今回の最高裁判例により,金融機関に訴訟提起しても,預貯金の払戻しを受けることができず,相続人全員の同意が得られない限り,金融機関から預貯金を払戻しすることができなくなります。そのため,相続人が多額の相続税を納付する必要がある場合でも,相続人のうち1人でも預貯金の払戻しに同意しない人がいると,その資金を確保できない事態が生じる可能性があるので,生前から対策を取っておく必要があります。 
 

3 実務の動向に要注意! 
 最近でいえば,節税目的の養子縁組を有効とした最高裁平成29年1月31日判決など,近年新しい判例が出ています。
 有効な相続対策には,新しい判例を踏まえる必要がありますので,ぜひ一度,弁護士にご相談ください。

リスクマネジメントとは?

(質問)
リスクマネジメントとは何ですか?

(回答)

1 リスクマネジメントとは 
 リスクマネジメントとは,簡単に言えば,①自己の会社内に存在する様々なリスクを洗い出し,②そのリスクの発生を事前に予防する,③リスクが発生した場合の対策を練ることにより,会社の損失を抑えようとするものです。
 今回は,リスクマネジメントの考え方のうち,リスクの事前予防(②)について,説明したいと思います。

2 不正発生のメカニズム 
 一般的に,⑴動機,⑵機会,⑶正当化という3つの要素が存在する場合に,組織内において不正が発生するリスクが高まると言われています。この3要素を「不正のトライアングル」といいます。
 ⑴動機・・・組織内の他者と共有されない個人的なものであることが多く,かつ経済的な性格を帯びていることが多いです。
 ⑵機会・・・不正に対して不十分な内部統制,脆弱な経営監視,組織内の地位・権威といったものにより,不正の「機会」を与えてしまいます。
 ⑶正当化・・・不正を行う人自身が,自身の不正行為を積極的に是認しようとすることで良心の呵責を乗り越えようとするものです。
 典型的な例としては,多額の借金を抱えている(⑴不正の動機がある)経理担当者が,1人でその経理事務を担当しており上司の監督が不十分である場合(⑵不正の機会がある)に,その経理担当者が「盗るわけではなく一時的に借りるだけだ」などという⑶正当化をすると,横領という不正行為が発生することになります。

3 リスクを事前に予防するには? 
 事前にリスクを予防するには,基本的に,不正のトライアングルにいう3つの要素のうち1つでも排除する対策を取ることが肝要です。
 このうち,⑴動機,⑶正当化については,組織風土の緩みなど組織の問題という側面と個人の問題という側面があるため,会社だけではどうしようもない場合もあります。他方,⑵機会については,基本的に会社に問題の所在がありますので,会社としては,対策を取りやすく,⑵機会を排除する対策を取ることが最も効率的です。
上記の例でいえば,経理担当者を複数にする,上司のチェックが及ぶ体制を作る,監視カメラを設置するなどが考えられます。
 また,リスクは,社内の不正に限られません。労務管理,ハラスメント,クレーム等において様々なリスクが考えられます。この機会に一度,自社のリスクについて検討されてはいかがでしょうか。

録画したドラマをインターネット上にアップロードしても問題ないの?

(質問)
 録画したドラマをインターネット上で流れているのをよく見るのですが,問題ないのですか?

(回答)

1 著作物とは
 著作権の対象は,著作物です。
 著作物とは,法律によれば,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものと定義されています。このように定義をしてもわかりにくいかと思いますので,ここでクイズを出しましょう。
 次の内,著作物と認められるものは何でしょうか。
 ①子供の描いた絵
 ②キャッチフレーズ
 ③新聞の死亡記事
 いかがでしょうか? ①から③の内,一般的に著作物と認められるものは,実は,①だけです。
 子供の絵も著作物といえるの?と意外に思われる方もいらっしゃるかと思いますが,実は,子供の絵も立派な著作物なんです。著作物とは,最初に述べましたように,思想や感情を創作的に表現したものです。思想や感情というのは,つまり人間の精神活動の所産であることいい,創作的というのは,著作者自身個性の表出と認められるものであれば足りるとされています。子供の絵というのは,子供の精神活動の所産ですし,子供の個性が表れていますから,立派に著作物といえるんです。
 これに対し,②のキャッチフレーズは,ケースバイケースなのですが,一般的に保護の対象にはなりにくいとされています。キャッチフレーズは,短い言葉で表現されていて,法律で保護されるほどの創作性が認められないことが多いからです。
 また,③については,単なる事実の伝達に過ぎないため,思想又は感情の表現とはいえませんし,創作的ともいえませんから,著作物には当たりません。
 ちなみに,著作権は,登録等の特別な手続なしに発生しますので,この点もご注意下さい。

2著作権とは
 では,著作権とは何でしょうか。実は,著作権は,権利の束と言われており,様々な権利の集まりなんです。大きく言えば,著作物の排他的利用を決めることができる権利なのですが,その中には,複製権,上映権,上演権,展示権等・・・様々な権利が含まれています。なので,冒頭の著作権とはどのような権利かという質問に一言で答えるのは,実は,法律家でも難しいんです。
 著作権を詳しく説明することは困難なので,まずは,著作権のうち,もっとも一般的な複製権について考えてみましょう。
 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により,有形的に再製することをいいます。著作権者は,他人に無断で著作物を複製されない権利を持っているということです。
 では,自宅で,大好きなドラマを録画することは,著作権法違反にならないのでしょうか。
 ドラマには,当然著作権が及んでいますよね。では,これを録画し,複製する行為は,著作権法違反になるとも思えます。
 しかし,著作権法で,「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」,つまり私的な使用については,複製することが許されているのです。そのため,自宅でドラマを録画しても,著作権法違反にはならないのですね。
 では,録画したドラマを,インターネット上にアップロードしたとすれば,どうでしょうか。インターネット上にアップロードすると,不特定多数人がアクセスしますよね。そうなると,もはや私的な使用とはいえなくなるので,著作権法違反となります。
 違法にインターネット上にアップロードされたドラマ等を,そうと知りながら私的使用目的でダウンロード(複製)する行為は,どうでしょうか。実は,このような行為も著作権法違反となり,しかも刑事罰(2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金)まで設けられているんです。
 最近は,インターネット上に著作権法違反と思われる画像等が多くアップロードされていますので,十分気をつけて下さい。

負けた人のおごり~これって,違法?

(質問)
 賭博が違法なのは知っていますが,例えばじゃんけんで負けた人が食事をおごるといったゲーム等も違法になるのでしょうか。

(回答)

1 賭博罪とは
 最近は,賭博が世間を騒がせていますね。某球団の野球選手が,プロ野球の試合の勝敗に対して金銭を賭けていたとして,無期失格等の処分となり,選手生命がおおいに脅かされています。また,某バドミントン選手も,違法な裏カジノで賭博をしていたとして,無期限の競技会出場停止等の処分が下されました。
 野球賭博や裏カジノなどは,我々にはなじみのない世界ですが,例えば,じゃんけんで負けた人が食事をおごるといったゲーム等は,一般的かもしれません。このようなゲームも,違法になるのでしょうか。今日は,賭博について,考えてみましょう。
 刑法第185条に賭博罪の規定があります。そこには,「賭博をした者は,50万円以下の罰金又は過料に処する。」とあります。賭博とは,偶然の事情に関して財物を賭け,勝敗を争うことをいいます。例えば,野球賭博でいえば,報道された事実が真実なら,プロ野球の試合の勝ち負けという偶然の事情に対し金銭を賭けていたことになるので,刑法第185条の賭博罪に該当する可能性が高いといえます。

2 賭博罪に該当する場合・しない場合とは
 これからすると,じゃんけんに負けた人が食事をおごるというゲームも,じゃんけんの勝敗という偶然の事情に食事を賭けているわけですから,賭博罪が成立するのではないかという疑問が生じます。
 実は,刑法第185条には続きがあって,「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは,この限りでない。」とされています。「一時の享楽に供する物」とは,価値の僅少性や消費の即時性等を考慮して決定されます。そして,一般的に食事は「一時の享楽に供する物」に当たるとされています。ですので,じゃんけんに負けた人が食事をおごったとしても,刑法上の賭博罪には該当しない可能性が高いのです。
 一般的に遭遇しがちな出来事で気をつけて頂きたいのが,会社のゴルフコンペなどのイベントにおいて,高額な会費を集めて賞金や高額賞品を出すという場合です。これは,当事者がコンペの結果という偶然の事情に対して財物を賭けているとして賭博罪に問われかねませんので,注意が必要です。
 また,昔からありがちなのが,賭け麻雀です。平成25年の話ですが,警察官が交番で賭け麻雀をしていたとして,罰金10万円の略式命令が出されています。皆が陥りやすい罠といえるかもしれません。賭け麻雀が違法であるのは当然のこととして,賭け麻雀で勝った人が掛け金の請求権を有し,負けた人がその支払義務を負う,ということになるのでしょうか。いいえ,そうはなりません。賭け麻雀は違法な行為ですので,公序良俗に違反するとして,契約は無効になります(民法90条)。

身元保証人の責任について

(質問)
 今般、就職活動をしていた甥から、就職に際して身元保証人になってくれないかと頼まれました。私としては力になってあげたいと考えています。
 もっとも、身元保証書には、甥が会社に損害を与えた場合には理由の如何を問わず一切の責任を負うと書かれており、不安もあります。
 法律的には、身元保証人はどのような責任を負うのでしょうか。

(回答)

1 身元保証法とは 
 今回の身元保証は、被用者が使用者に損害を与えた場合に、身元保証人がその損害を賠償する責任を負うことを約するもので、一種の契約です。
 通常、横領行為などの被用者の不正行為や、事故・病気などで使用者に損害を与えた場合が想定されます。
 これについては、「身元保証ニ関スル法律」(身元保証法)という古い法律があり、身元保証人が過大な責任を負わされることがないよう、その責任を制限しています。 

2 身元保証の期間
 身元保証法は、身元保証契約の存続期間を定めなかった場合、契約期間は、契約成立の時から3年間(商工業見習者の場合は5年間)とすると規定しています。
 これは、被用者が働いているかぎり身元保証が続くことになると、あまりに長期間になる可能性があるためです。
 また、契約期間を定める場合でも、5年を超えることができないとされています。契約の更新を定めることもできますが、その期間は更新の時から最長5年間とされています。
 身元保証法は強行規定ですから、たとえば、契約期間を10年間と定めても、5年を超える期間については無効となります。

3 身元保証契約の解除
 使用者は、①被用者が業務に不適任であったり、不誠実な事由があったため、身元保証人の責任が生じるおそれがあるとき、②被用者の仕事の内容や任地の変更のため、身元保証人の責任が重くなったり、従前のような監督が難しくなるときは、そのことを身元保証人に通知しなければならないこととなっています。
 そして、身元保証人は、このような通知を受けた場合(又は自らそのことを知った場合)には、身元保証人は、身元保証契約を解除することができます。
 一度身元保証人を引き受けたとしても、その後の状況の変化によっては、責任を免れることができるということです。

4 身元保証人の責任 
 身元保証人は、常に全損害を填補する責任を負うわけではありません。
 裁判所は、身元保証人の責任の有無や賠償額を決めるに際には、使用者の監督上の過失の有無、身元保証人が身元保証をした事情や身元保証をする上で用いた注意の程度、被用者の仕事の内容、身上の変化など一切の事情を斟酌することとなっています。
 今回のケースのように、「理由の如何を問わず、一切の責任を負う」との契約は、上記に反する限りで無効となるでしょう。
 最近でも、就職の際に身元保証人を立てることは珍しくありません。その内容については特別法に規律があるのですが、一般の方にはあまり知られていないので、不安があればぜひ弁護士にご相談ください。

 

相続財産とは

(質問)
相続財産についてわかりやすく教えてください。

(回答)

1 相続財産って,何?
 相続財産とは,被相続人(亡くなられた方)が,亡くなられたときに有していた一切の財産をいいます。この定義は,意外に重要ですので,よく覚えておいて下さい。
 なお,当然ながら,相続財産には,プラスの財産もマイナスの財産も含みます。その内訳を調査した上で,相続についてしなければならないことが変わってきますので,相続財産の調査は非常に重要です。

2 相続財産が借金だらけだった場合 
 さて,仮に,相続財産として,マイナスの財産の方が多かった場合に相続をすると,相続人はいきなり借金を背負うことになります。これを避けるには,相続放棄をすることが有用です。
 相続放棄とは,その言葉のとおり,相続を放棄することで,相続放棄をすると,相続人は,被相続人の権利も義務も一切引き継ぐことはありません。
 ここで注意が必要なのは,相続放棄は,自分が相続人となったことを知った時から3ヶ月以内にする必要があるという点です。3ヶ月など,あっという間に過ぎます。身近な人が亡くなった後に,すぐに相続について調査等しなければならないというのは大変なことですが,相続人にはこれからの人生がありますから,この点はしっかりと行動すべきです。
 あと1つ注意をしなければならないのは,相続人が,一定の行為をすると,単純承認,つまりプラスの財産もマイナスの財産も相続することを承認したとみなされるということです。この「一定の行為」とは,例えば,相続財産の一部を使ってしまった場合があげられます。相続財産の全てを調査する前に安易に相続財産に手を出し,その後に多額の借金が見つかったから相続放棄をする…等ということはできないのです。どうぞ,お気をつけ下さい。

3 多額の相続財産があった場合 
 今までの話とは逆に,親が沢山の相続財産を残してくれている場合もあります。非常にありがたい話ですね。しかし,ただ喜んでばかりはいられません。この場合は,相続税という問題が発生してくるからです。
相続税とは,個人が被相続人から相続などによって財産を取得した場合に,その取得した財産に課される税金のことをいいます。
 相続税には,基礎控除がありますので,それを上回る遺産がある場合にのみ,税金を支払わなければならないということになります。基礎控除額は,3000万円+600万円×法定相続人数となります。基礎控除額は,平成26年までは5000万円+1000万円×法定相続人数だったのですが,これが平成27年1月1日以降,先ほど述べた額に減額されました。そのため,相続税を払わなければならない人が一気に増えたわけです。
 そして,相続税は,相続があったことを知った日から,10ヶ月以内に確定申告をし,その申告期限までに納税をしなければならないと定められています。相続税を支払わなければならないのに,何もせず10ヶ月という期間を経過してしまうと,無申告加算税や延滞税を課される危険があります。
 また,10ヶ月の期限内に申告することで,小規模宅地特例や配偶者特例といった相続税の負担を軽減する特例の適用を受けられるというメリットもございます。小規模宅地特例とは,相続又は遺贈により取得した財産のうち,相続開始の直前において,被相続人等の事業や居住の用に供されていた宅地等につき,一定の要件で相続税の課税価格に算入すべき価格を減額することを認めてくれる特例です。例えば,被相続人等の居住の用に供されていた宅地等であれば,330㎡で80%の減額を認めてくれます。この場合,土地の価格が1億円であったとしても,2000万円で相続税の計算ができるわけです。また,配偶者特例とは,被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が,1億6000万円か,配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
 これらは,相続税の算定にとって重要な制度ですので,10ヶ月以内の相続税の納付は重要になってきます。

4 相続税対策とは 
 さて,相続税対策としては,その額を如何に減らすかという対策と,相続税納付の金銭を用意するという対策が考えられます。
 相続税対策としては,生前のうちにできる対策として,例えば,教育資金の贈与が考えられます。国は,教育資金を贈与した場合,贈与税を非課税にするという制度を設けました。通常は,金銭を贈与すると,例えば1500万円以下だと,45%という高率の税金がかかります。
 しかし,平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に,30歳未満の方が,教育資金に充てるために,金融機関等との一定の契約に基づき,受贈者の直系尊属から,①信託受益権を付与された場合,②書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預け入れをした場合,③書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合には,その価格の1500万円までの金額に相当する部分については,贈与税の課税価格に算入されないという制度が設けられました。
 教育資金には,例えば、入学資金の検定料,入学金や授業料,学用品の購入費,更には,学習塾やスポーツ,ピアノといった文化芸術に関する活動の対価等が含まれます。相続税のことを考え,有効なお金の使い方をしたいものですね。
 もう1つの相続税対策としては,相続税納付の金銭を用意するという点があります。相続財産が多くとも,その大半が不動産等容易に金銭に換価できないものであった場合,相続税の納付が難しくなることがあります。
 このようなときに有用なのが,生命保険です。ここで,冒頭の相続財産の定義を思い出して下さい。相続財産とは,被相続人が,亡くなられたときに有していた一切の財産をいいます。つまり,被相続人が亡くなって初めて保険料がおりるという生命保険は,相続財産を構成しないのです。そのため,生命保険金は,原則として受取人が自由に用いることができます。そして,生命保険金は,相続税の対象ではありますが,500万円×法定相続人の人数につき,非課税となりますので,これを有効活用すると良いでしょう。
 相続対策は,生きている内から始まります。相続は,感情の対立で容易に「争族」となってしまいますので,「争族」にならないための対策は非常に重要で,相続は誰しもが経験するものであるということを肝に銘じ,早めに対策をして下さい。