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継続的契約と解除の制限について

(質問)
 当社は製造業を営んでおりますが、この度、材料の仕入れ先の一部を変更しようかと考えています。ただ、これまで取引している会社とは、前の社長の代から30年以上にわたって取引を続けていることもあり、契約終了について簡単に納得してもらえそうにありません。
 このような場合、法律上、契約を一方的に終わらせることはできるのでしょうか。補償金などを支払う必要はあるのでしょうか。

(回答)

1 継続的契約の法理 
 契約の解除や違約金については、契約の条項がどのようになっているのか、まず契約書を確認する必要があります。
 もっとも、契約で解除条項や契約期間が定められていても、長期間にわたって継続することを予定した契約については、解除や更新の拒絶が制限されることがあります。
 これは、学説や裁判例で認められているもので、継続的契約の法理などと呼ばれることがあります。
 具体的には、信頼関係が破壊されたと客観的に認められる等の「やむを得ない場合」でないと契約の解除・更新拒絶ができないとする考え方や、原則として契約条項にしたがった解除・更新拒絶ができるが、例外的に信義則に反すると認められる場合は制限されるとする考え方があります。
 また、契約の終了には一定の予告期間(又はそれに代わる損失補償)を必要とするという考え方もあります。
 法律に明文の規定はなく、学説や裁判例も分かれているため、実務的に統一的な基準がないのが実情です。
 

2 どのような場合に解除が制限されるか
 継続的契約といってもその内容は様々ですので、解除が制限されるか否かについては、当該契約の内容や保護の必要性に応じて個別的に判断されることになります。
 契約期間が長期であるというだけで制限されるわけではなく、一方当事者が契約の継続を前提として多額の設備投資をしたり、当該契約に依存している等の諸般の事情から、契約の一方的な解除を認めることが信義則に反するといえるかがポイントとなってきます。
 本件でも、単純な売買契約を長期間繰り返してきたというだけでは、解除が制限されることにはならないと考えられます。
 

3 解除の際の補償金
 継続的契約の解除が制限される場合でも、未来永劫その契約を続けなければならないということにはなりません。結局、裁判等で争われた場合には、契約終了までの一定の予告期間を置くか、それに相当する損害賠償が必要という判断になるでしょう。
 裁判例をみると、予告期間は、長い場合でも1年間程度ものが多い印象です。
 下級審の裁判例ですが、海外のワインメーカーとの間で18年間にわたって当該メーカーのワインを独占的に輸入・販売することを内容とする販売代理店契約を締結していた事例では、1年間の予告期期間をおくべきと判断されています。
  
 今回のような継続的契約の解除の問題は、個別具体的な検討が必要であり、一般論では語れない部分があります。もっとも、ありふれた問題でありながら、法律に明文がない論点ですので、相談を受けた際などには注意が必要です。
  

騒音被害と受忍限度について

(質問)
 先日,騒音を注意しようとした男性に自動車を衝突させるなどして殺害しようとしたとして,ある女性が逮捕されたというニュースを聞きました。
 騒音被害と受忍限度について教えてください。

(回答)

1 増加する騒音問題
 騒音が原因で,殺人未遂容疑という,非常に重大な罪名での逮捕者が出たことに大変驚きました。
 近隣トラブルにおいて,騒音はよくある原因です。最近では,保育園の騒音も近隣トラブルの原因となっているようで,逮捕者もでているようです。ある男性が,園児を迎えに来た保護者に手斧を見せ,地面に数回振り下ろすなどして脅迫したとして,暴力行為処罰法違反の疑いで逮捕されているのです。
 働く女性を支援すべく保育園の設置は急務ではありますが,近隣住民の反対などを受けて保育所開設を断念した事案もあるようで,保育園と騒音は,非常に興味深い議題です。
 そこで,今回は,どのような場合に,そもそも騒音が違法となるのかについて考えた上で,保育園の騒音をめぐってなされた訴訟につき,裁判所がどのように判断をしたのか,ご紹介したいと思います。

2 受忍限度論
 まず,ある人が騒音を出したからといって,直ちに違法となるわけではありません。日常生活において,一定の騒音というものはつきものであり,騒音の全てを違法と言ってしまっては,日常生活を送れなくなります。
 そこで,「受忍限度」を超えた騒音のみが,他人の権利を侵害したとして違法と評価されます。この受忍限度を超えているか否かの判断は,侵害行為の態様,侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等の比較検討,地域環境,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,被害防止措置の有無とその内容,効果等の諸般の事情を総合的に考慮して決定されます。

3 受忍限度の基準の具体例
 先の基準を少し敷衍いたしますと,次のようになります。
 まず,侵害行為の態様は,騒音を発生させている行為の具体的な内容,騒音の性質,発生の頻度や発生時間帯,継続時間、継続期間等が考慮されます。
 また,被侵害利益の性質と内容は,例えば,被害者が難聴を発症する等の被害者に身体的変調が発生すると,受忍限度を超えたと認められやすくなる傾向にあります。他方,被害を裏付ける証拠がない場合や,証拠があっても具体性に欠ける場合には,受忍限度内とされることがあります。
 更に,地域環境としては,元々の周辺環境のいわゆる騒音レベルが高い場合は,受忍限度の判断は,被害者側に厳しいものとなるとされています。
 また,加害者が被害者から苦情を申し立てられたにもかかわらず,加害者が真摯に対応しなかった場合や,騒音や振動を容易に防止できる措置があったのにそれを講じなかった場合は,加害者に不利に判断される傾向にあります。

4 騒音トラブル訴訟の具体例-保育園の騒音
 では,具体例として,保育園の騒音をめぐって訴訟になった事例を見てみましょう。

 【事案】
  訴訟を起こした男性は,その男性宅の南側敷地から約10メートル離れた距離に保育園北側敷地があるという位置関係でした。  男性は,本件保育園が開設される前に勤めを終えており,1日を自宅で過ごすことが多かったようです。
  他方,本件保育園は,定員数が概ね120名であり,開園日が月曜から土曜まで,保育時間は,通常保育が午前8時から午後5 時半まで,特例保育や延長保育を併せると,午前7時から午後7時までとなっていました。本件保育園は,近隣住民との間で,複 数回にわたり協議を重ね,近隣住民の意見を踏まえて,防音壁を設置する等の工事をしていたようです。
  男性は騒音の測定を行ったのですが,その結果は,園児が園庭で遊んでいるとき等の騒音が,市の騒音基準を上回るというもの でした。なお,市の騒音基準は,私人間の騒音トラブルに直接適用するための基準ではなかったのですが,裁判例では参考になる と言われています。

 【判断】
  このような事例につき,裁判所は,次のように判断をしました。
  確かに,男性宅の騒音レベルは,「騒音基準を上回るものである。また,被告は,日曜及び祝日を除くほぼ毎日,特例保育及び 延長保育時間帯を除いた午前8時から午後5時半までの通常保育の時間内で園児を園庭で遊戯させていることからすると,昼間の 時間帯において…騒音が原告の生活空間に流れ込むこととなり,一日の大半を原告宅で過ごすことの多い原告にとってみれば,その 影響は決して小さくないものといい得る。」
  ただ,「受忍限度を超えるか否かの判断においては,当該騒音が被侵害者に対して及ぼす影響の程度を検討すべきであって,そ の及ぼす影響の程度は,騒音源である敷地の境界線で測定された騒音レベルに加え,騒音源と被侵害者の居宅との距離,騒音の減 衰量等をも踏まえて検討するのが相当である。」とし,右諸点を考慮した結果,「直ちに,本件保育園からの騒音レベルが受忍限 度を超えているということはできない」としました。
  その上で,「本件保育園から発生する騒音は,主に園児が園庭で遊戯する約3時間であって,通常保育の時間(午前8時から午 後5時半まで)において断続的に発生するものではなく,原告において環境基準が前提とする昼間の時間帯の屋内騒音レベル45d Bを下回る騒音レベルを維持することを必要とする特別の事情があるとは認められない上,被告は,本件保育園の設置に際し,本 件保育園の近隣住民に対する説明会を1年ほどかけて行い,その間,本件保育園から生じる騒音の問題に係る原告を含めた近隣住 民からの質問・要望等に対して検討を重ね,既設の保育園で測定した騒音結果から本件保育園の騒音の推定値を算出した上で,遮 音性能を有する本件防音壁…を設置し,一部の近隣住民に対して被告の負担において二重サッシに取り換えることを提案・合意する などして騒音対策を講じるよう努めてきたこと,最終的に原告とは折り合いがつかなかったものの,被告側から原告宅敷地境界線 における防音対策による問題解決の提案がされたこと」を認定し,男性の請求を棄却しました。

4 まとめ
  今回は,保育園の勝訴となっていますが,その騒音レベルや保育園の対応次第では,違法となった可能性も否めません。
  通常の生活においては,騒音は,お互い様という面もありますので,互いによく話し合い,注意をして,良好な関係を築きたい ものです。

自宅待機と労働時間について

(質問)
 当社では、緊急の顧客対応などに備えて、従業員に対して対体制で休日の自宅待機を命じております。そして、呼出しにより出動があった場合にのみ賃金を支払うこととしております。
 しかしながら、この度、社内で、待機を命じている以上は出動がなかった場合でも賃金を支払う必要があるのではないかという議論が生じました。
 法律的には、自宅待機に対して賃金を支払う必要があるのでしょうか。

(回答)

1 自宅待機は労働時間ではない
 待機時間に対して賃金を支払う必要があるのか否かは、待機をしている時間が法的にみて労働時間といえるか否かという問題です。
 ここで、労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間をいうと解されています。そうすると、会社の指揮命令権に基づいて自宅待機を命じられている以上、待機時間は労働時間に該当するようにも思えます。
 しかしながら、急な呼出しに備えた待機時間といっても、自宅待機の場合には、実際に呼び出されない限り、基本的にどのような過ごし方をするかは労働者の自由です。
 そのため、基本的には自宅待機の時間は労働時間には当たらないと解されています。
 確かに、呼出しがある場合に出勤できる場所にいなければならないことや、外出する際は連絡用の携帯電話を持つ必要があること等の一定の制限はありますが、そのことのみでは、使用者の指揮命令が及んでいるとまでは評価されないのです。

2 待機時間が労働時間に該当する場合
 自宅待機の場合は基本的には労働時間には当たりませんが、緊急の場合の待機時間がすべて労働時間に該当しないというわけではありません。
 場所的拘束や行動の制限の程度、業務と待機時間との関連性等の事情を総合的に判断して、使用者の指揮命令が及んでいるといえれば、労働時間に該当することになります。
 裁判例では、24時間勤務でビルの警備・設備運転保全業務を行う会社における労働者の仮眠時間について、労働時間性が認められたものがあります。この事案では、事業所内での待機である上、警報が鳴った場合は設備の補修等の作業を要することから、実作業に従事していない時間も含め全体として従業員が使用者の指揮命令下に置かれていたと判断されています。

3 待機手当について
 自宅待機の時間が労働時間に当たらない以上、今回のケースでも賃金を支払う必要はありません。
 もっとも、従業員の休日の過ごし方について一定の制約を課すことになるため、自宅待機命令の実効性を担保する趣旨で、一定の手当を支給することは有益です。
 待機手当の額について決まりはありませんが、2,000円~3,000円程度が一つの目安でしょう。
 宿・日直の許可基準として、手当の額が1日の平均賃金の3分の1を下らないこととする行政通達があることから、1日の平均賃金の3分の1を上限にして待機手当の額を設定するもの一つの方法かと考えます。
 

改正個人情報保護法のポイント

(質問)
 個人情報保護法が改正されたそうですが、ポイントを教えてください。

(回答)

1 個人情報保護法とは
 個人情報保護法は、個人情報の適正な取扱い等を目的として制定されており、平成29年5月30日から改正法が施行されています。
 まず、個人情報とは、法律上、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により、特定の個人を識別することができるもの及び個人識別符号(その情報だけで特定の個人を識別できる文字、番号、記号、符号等であって、例えば、DNAや指紋、マイナンバー等があります。)をいいます。
 この個人情報の適正な取扱いをすべき者が、「個人情報取扱事業者」です。
 この個人情報取扱事業者については、旧法下では、いわゆる5,000人要件という例外が設けられていました。即ち、データベース化された個人情報を5,000人分以下しか扱っていない者は、個人情報取扱事業者の定義から外されていたのです。しかし、この度の法律改正により、この5,000人要件が撤廃されましたので、保有する個人情報の数に限らず、個人情報データベースを事業の用に供している者はすべて個人情報取扱事業者として、個人情報保護法上の義務を負うこととなりました。

2 個人情報の取得・利用
 まず、個人情報取扱事業者は、個人情報を取得する際は、その利用目的を特定し、その目的の範囲内で利用しなければなりません。また、その利用目的は、あらかじめ公表するか、又は事後的に利用目的を本人に通知しなければなりません。
 ところで、個人情報保護法の改正により、「要配慮個人情報」という概念が設けられました。要配慮個人情報とは、不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに配慮を要する情報として、法律、政令、規則に定められた情報をいい、例えば、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴等をいいます。この要配慮個人情報については、その取得に際して、利用目的の特定、通知又は公表をすることに加え、あらかじめ本人の同意を得ることが必要とされました。

3 個人情報の保管
 次に、個人情報取扱事業者は、取得した個人情報が漏洩等しないように必要かつ適切な措置を講じなければなりません。ただ、この安全措置は、小規模な事業者にとっては大きな負担となることがあります。そこで、従業員の数が100人以下の中小規模事業者については、特例的な対応方法が呈示されています。

4 個人情報の提供
 個人情報取扱事業者が、個人データ(個人情報データベース等を構成する個人情報)を第三者に提供をする場合には、あらかじめ本人の同意を得ることが原則として必要です。そして、個人情報取扱事業者が、個人データを第三者に提供した場合、逆に第三者から個人データの提供を受けた場合は、一定事項を記録することが必要です。これは、名簿業者等が介在し、違法に入手された個人データが社会に流通しているという実態を受け、個人データの適正な第三者提供を行うためです。

5 開示請求等への対応
 最後に、本人が、個人情報取扱事業者に対して、保有個人データ(個人情報取扱事業者が開示や内容の訂正、追加又は削除などを行う権限を有する個人データのうち、6か月を超えて継続利用するもの)の開示を請求した場合は、個人情報取扱事業者は、それに対応する義務が生じます。

家族信託を用いた社長の判断能力低下への対策

(質問)

(回答)

1 信託とは
 信託とは、委託者が信託契約によってその信頼できる人(受託者)に対して、金銭や土地などの財産を移転し、受託者は委託者が設定した信託目的に従って受益者のためにその財産(信託財産)の管理・処分などをする制度です。

2 信託の手続き
 株式を保有している社長に十分な判断能力があるうちに、後継者と信託契約を結び、自社株式を後継者に信託します。
 株式を託された後継者は受託者になり、株式の議決権は受託者が行使できます。
 そうすると、社長が認知症になって判断能力が無くなっても、受託者である後継者が株式の議決権を行使できるため、会社経営に支障を来たしません。
 また、信託契約を組んだときに、社長を受益者にして委託者と受益者を同一人物にしておけば、贈与税はかかりません。
 そして、将来、社長が亡くなったときは、信託を終了して残余財産である株式を後継者が取得する旨を定めておけば、遺言書の代わりにもなります(いわゆる遺言代用信託)。
 なお、経営者が亡くなっても信託を終了させないことにより、相続による議決権の分散化を防止するための活用方法もあります。

3 回答
 自社株式の家族信託は、経営者の認知症対策や相続による議決権の分散化防止などに活用できるといえます。

訴訟の提起で懲戒に?ー弁護士の仕事って何?ー

(質問)
 以前新聞で、とある訴訟を提起した弁護士が提訴が問題だったという理由で懲戒審査にかけられたという記事を見ましたが、こういったことはたまにあるのですか?

(回答)
 

1 事件の概要
 アダルトビデオ出演を拒否した20代の女性に所属事務所が約2400万円の損害賠償を求めた訴訟をめぐり、日本弁護士連合会(日弁連)が、所属事務所の代理人を務めた60代の男性弁護士について「提訴は問題だった」として、「懲戒審査相当」の決定をした。
 懲戒請求を行ったのは、男性弁護士や女性と面識がない男性。所属先の弁護士会では提訴は正当とされたが、その後男性は日弁連に異議を申し立て、日弁連が所属先の弁護士会での決定を取り消し、懲戒審査となった。
 

2 弁護士の仕事とは
 弁護士の立場から言わせてもらうと,もし懲戒処分が下ったら非常に憤りを感じます。弁護士っていうのはあくまで依頼者の代理人なんです。国民が持つ「裁判を受ける権利」を代理し,裁判所に判断を求めるのが弁護士の仕事なんです。
 もし提訴や訴訟内容を理由に懲戒されるリスクを弁護士が負うようになり,依頼者に善悪を求めるようになったら悪人は弁護士を雇えないということになりますよね。これでは憲法違反になってしまいます。
 たまに,「弁護士は,有罪だなと思っている依頼者でも無罪を主張するんですか?」という質問をされることがあります。
 全ての弁護士がそうという訳ではないと思いますが,私は,有罪だなという場合,後々辻褄が合わなくなってもいけませんので,私自身納得できない旨を伝えて,問題点についての説明を求めます。その説明も納得がいかないときは,さらにその旨を告げて,且つ裁判所を説得するのは難しいことを説明します。それでも依頼者が無実を主張する場合は,私は辞任しますね。
 

3 弁護士はなぜ犯罪を犯した悪人の弁護をするのか
 悪人かどうかはともかくとして,たまにそのような問いかけを受けます。
 まず,弁護しているその人が本当に犯人かは裁判を通じて初めて決まることです。犯人扱いされた人が実は無実だったという冤罪事件はたまにあります。なので,本当は犯人ではない事実を裁判で明らかにするために,弁護士による弁護活動が必要になります。
 もっとも,そうした冤罪事件はかなり例外で,多くの場合は間違いなく犯人でしょう。  
 しかし,そのときでも,その人が罪を犯すにはそれなりの事情があり,そうした事情や,十分反省していることなどを裁判で明らかにし,過重な処罰を受けないようにすることも大事です。凶悪犯罪を犯したとして社会全体から厳しい非難を受けている人にこそ,唯一の味方ともいうべき弁護士の弁護が必要なのです。
 

4 今回の懲戒問題の今後について
 「弁護士職務基本規程」では一定の制限が設けられています。
 
 弁護士職務基本規程(2005年4月1日施行)
 (不当な事件の受任)
 第三十一条
 弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件を受任してはならない。

 今後,提訴自体が懲戒対象になっていくのか,それはどういった基準なのか,とても興味深いです。

相続開始後に生じた賃料債権の帰属について

(質問)
 私の父は、知り合いの事業者に不動産を賃貸しており、賃料収入がありました。父が死亡し、私と弟が相続人となったため、遺産分割協議を経て、不動産は弟が相続することになりました。
 しかし、遺産分割協議がまとまるまでに1年ほどかかってしまったため、その間の賃料が発生しています。この賃料も当然に弟が取得することになるのでしょうか。

(回答)
 

1 相続開始後の賃料債権の帰属
 民法909条は、「遺産分割は、相続開始時にさかのぼってその効力を生ずる」と規定しています。
 そうすると、今回の事例では、被相続人の死亡時に弟が賃貸不動産を取得したことになりますので、その後に生じた賃料もすべて弟が取得すべきとも思えます。
 しかしながら、この点については、最高裁判例があり、遺産である賃貸不動産から生じた賃料債権は遺産に属さず、相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するとしています。
 遺産分割が実際に成立するまでは、遺産は、法定相続分の割合で各相続人の遺産共有状態となっていますので、その期間に発生した賃料債権は、相続分の割合に応じて各相続人がそれぞれ単独で取得するということですね。
 今回の事例ですと、相続開始から遺産分割までに発生した賃料は、法定相続分に従って、相談者と弟がそれぞれ2分の1ずつ取得することになります。
 

2 借主側の問題
 さて、賃料債権の法的な帰属の問題は上記のとおりですが、これを、賃貸不動産の借主の立場からみるとどうでしょう。
 この点、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権は、各相続人が相続分に応じて単独で取得することになる以上、借主としては、原則として、各相続人に相続分の割合ずつ賃料を支払わなければなりません。
 もっとも、これでは煩雑なので、借主としては、相続人の誰か1人に支払いたいと思うでしょう。実際に、相続人の1人が賃料を受け取って管理し、これを含めて分割協議をするのが通常です。
 しかしながら、上記のとおり、相続開始後に生じた賃料債権は、法的には遺産ではありませんので、他の相続人から、相続分に応じて自分に賃料を支払うよう請求された場合、借主としてはこれを拒むことができません。
 相続人の1人に賃料を支払えば済むようにするには、他の相続人にも了解を得る必要があります。各相続人の了解を得なかった場合には、法律上有効な弁済にはならないのです。
 なお、債権者(相続人)が誰かわからなければ供託するという方法も考えられますが、相続人が判明していれば、債権者不確知を理由に供託することはできません。
 実際には、相続開始後に生じた賃料を含めて遺産分割協議をすることが多く、借主が各相続人に分割して賃料を支払わなければならない事態も通常は生じません。ただし、これは法律的な原則論とは異なることに注意が必要です。

副業が見つかったらクビになる?

(質問)
 私の同僚は,業務時間外に他でアルバイトをしているようです。私も,今の給料で生活ができないわけではありませんが,小遣いを稼ぐために副業をしようかと考えています。
 しかし,先日,上司から,当社では副業を禁止しているので,違反した者は懲戒処分もあり得るというような話がありました。
 実際に副業が見つかった場合には懲戒処分の対象となるのでしょうか。

(回答)
 

1 副業は原則自由
 公務員は法律で副業が禁止されていますが,民間企業には従業員の副業を禁止する法律の規定はありません。
 就業規則に副業禁止を定めている会社は多くありますが,そのような定めがない場合には,原則として副業は制限されません。
 また,就業規則に副業を禁止する定めを設けたとしても,常にその有効性が認められるわけではありません。契約で定められた就業時間外をどのように過ごすかについては,本来,各従業員の自由だからです。
 

2 副業禁止が認められる場合
 副業の禁止が有効であると認められるためには,就業時間外の私的な行動を制限する合理性が認められる必要があります。
 このような合理性が認められるのは,従業員の副業により,会社の社会的な信用や社内秩序を害されるおそれがある場合,秘密漏えいのおそれがある場合,当該従業員の労務提供に支障が生じるおそれがある場合等です。
 そのため,就業規則で副業禁止を定めていたとしても,実際に副業禁止違反を理由として懲戒処分をするためには,上記のような合理性が認められるのかを具体的に検討する必要があるでしょう。
 

3 副業に関する裁判例
 裁判例には,貨物運送会社に勤務する長距離トラック運転手が勤務時間外にアルバイトをすることを会社が認めなかったという事例で,副業終了後会社での勤務開始までが6時間を切る場合は副業を認めないことには,合理性があると判断したものがあります。
 このケースでは,疲労や値不足での交通事故を起こせば,会社のみならず第三者に多大な迷惑を掛けるので,トラック運転手にとっては休息の確保が非常に重要であるというわけです。
 その一方で,同裁判例は,休日のアルバイトを禁止することについて,その休日が法定休日であるということのみを理由として禁止することはできず,労務提供に生じる支障を具体的に検討しなければならないと判断しています。
 近時,働き方の多様化が進み,本業とは別に副業をするサラリーマンも増えているようです。その一方で,会社からすれば,従業員には副業をせずに自社の仕事に専念してもらいたいと考えるのは当然のことです。
 副業禁止違反を理由とする懲戒処分の有効性が問題となるケースでは,制限の合理性を具体的に検討する必要があります。

インターネットリテラシーー情報の発信者はどうやって探し出すのかー

(質問)
 インターネットでの書き込みの削除請求をしたいのですが、請求をする相手が誰か分かりません。
 どうやって特定したらいいのでしょうか?

(回答)
 

1 Who is 検索
 削除請求は、実際に問題となる書き込み等をした者のみならず、サイトの運営者や管理者に対しても行うことができます。
 ただ、ウェブサイトによっては、サイトの運営者や管理者等の情報が明記されていなかったり、明記されているとしてもわかりにくく、容易に探すことができない場合があります。このようなときに有用なのは、「Who is 検索」です。
 「Who is 検索」とは、IPアドレスやドメイン名の登録者等に関する情報を誰でも参照できるサービスのことです。「Who is 検索」のサイトには、以下のようなものがあります。

 ・aguse(アグス)
 ・株式会社日本レジストリサービスが運用する検索サイト
 ・一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が運用する検索サイト

 サイト運営者等が分からない場合は、上記サイト等を用い、検索をされることをお勧めします。
 

2 発信者の特定
 問題となる投稿等を発信した者に対して、損害賠償請求等をしようと考えると、発信者を特定する必要があります。
 この発信者の特定は、いわゆるプロバイダ責任制限法に基づき、開示の請求をすることになります。
 この請求は2段階の手順を踏まなければなりません。これは、インターネット上の通信を行うに当たって、多くは、発信者がプロバイダと契約をし、かかるプロバイダを経由してインターネットに接続し、その上でサイト運営者等のサーバと通信を行うことでウェブサイトや掲示板等にアクセスしているからです。
 そのため、サイト運営者等が把握している発信者情報は、当該投稿等がどのプロバイダを経由して行われたのかという情報にすぎず、プロバイダの先のどの契約者から通信が行われたかということまでは把握していません。
 そこで、まず、サイト運営者等に対する請求を行い、次に経由プロバイダに請求を行うという2段階の手続きを踏まなければならないのです。
 具体的には、1段階として、サイト運営者等に対し、問題となる投稿をした際に用いられたIPアドレス及びポート番号や投稿した時刻の開示を求めます。
 第2段階として、当該IPアドレスを割り当てられている経由プロバイダに対して、問題となる投稿がなされた時刻に、当該IPアドレス及びポート番号を使用していた当該経由プロバイダの利用者である契約書の氏名や住所等の情報の開示を求めることになります。
 以上の各段階の請求ですが、共に、裁判外の請求(ガイドラインに則った請求)と、裁判上の請求の両方を行えます。相手が、裁判外の請求に応じてくれればそれでよいのですが、応じてくれなければ、法的手段をとらざるを得ません。インターネットに投稿等を行った発信者の氏名や住所等は、「通信の秘密」の保護の対象となります。
 そのため、この情報を、正当な理由亡く、第三者に漏洩することは、法律で禁じられており、刑事罰を科される可能性がございます。そのため、開示請求を受けた者は、その開示にどうしても慎重になる可能性があるのです。
 

3 労力はかかるけど諦めては駄目
 以上のように、インターネット上で問題となる投稿がなされた場合に、問題となる投稿等を行った者に対して損害賠償等を請求するには、その請求をする相手を特定するのに、非常に労力がかかります。
 とはいえ、インターネット上の投稿等は、全世界に配信され、かつ半永久的にその内容が残ることになります。つまり、その投稿等の被害者が受けるその被害は、甚大なものとなります。単に、労力がかかるというだけで諦めきれるものではないでしょう。
 何か被害をお受けになった場合は、弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。 

職場内の犯罪ー悪気がなくても犯罪に?

(質問)
 職場で携帯電話を充電していたら上司に注意をされてしまいました。
 法律上何か問題があるんですか?

(回答)
 

1 社員の不正とは
 社員の不正とは、会社の金銭を着服する、自社の製品や商品を盗む・横流しする、企業秘密を外部に売り渡すなどがあります。刑法上、業務上横領罪(刑法253条)や事案によっては窃盗罪(同法235条)、背任罪(同法247条)等を構成する悪質な行為となります。そのほかにも、従業員の職務専念義務や誠実義務、職場規律遵守義務等に違反するともいえます。
 この場合、戒告、減給、出勤停止、解雇等の懲戒処分になる可能性があります。
 

2 会社で何気なく起こる犯罪行為 
 上記の例は明らかに犯罪ですが、会社で何気なく起こる犯罪行為もあります。例えば、会社のプロジェクトで経費が余ったから、仕事と関係なく皆でお酒を飲みに行き、後日、領収書を「接待」と称して会社に提出して会社から受け取った飲食代金をちゃっかり自分の財布にしまったら、会社からお金を騙し取っているので、詐欺罪になります。また、ボールペンやハサミなど会社の備品を家に持って帰った場合、会社に所有権のある動産を盗ってしまったということになるので、窃盗罪ですね。
 また、会社で他人のメール内容が気になっていけないとはわかっていても盗み見てしまった場合、場合によっては不正アクセス禁止法にあたり、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されることになります。許可なく他人のIDとパスワードを使って、インターネットからフェイスブックやメールシステムなどにアクセスすることは犯罪です。これは職場内だけでなく、夫婦でも恋人同士でも罪になりますので、「浮気をしているかどうかのチェック」という言い訳は通用しません。
 ご質問の回答ですが、会社のオフィスで、個人で利用している携帯電話やノートパソコンを無断で充電し、それを会社が禁止していれば、電気の「窃盗」として犯罪行為とみなされるので注意が必要です。
 普段何気なくしていることが実は犯罪行為にあたることもあります。お困りの際は弁護士にご相談ください。