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不倫は犯罪?

(質問)
近頃芸能人の不倫騒動がニュースを賑わせていますが、不倫は法的にどう評価されるのですか。

(回答)

1 不貞行為に関する法制度-刑法-
 まず,表題の疑問,即ち,不倫は犯罪かという問いに対する回答は,「いいえ」となります。
 なお,不倫,即ち配偶者以外の者と性的関係を持つことを,法律上は「不貞」と表現します。
 確かに,日本も,かつては不貞行為が犯罪とされていました。明治時代から戦前にかけて,刑法では,妻の不倫が処罰の対象とされていました(姦通罪)。その量刑は,2年以下の懲役でした。
 ただ,戦後,男女平等の観点から,姦通罪の規定が見直されることとなりました。その際,姦通罪を妻のみならず夫にも適用されるものとして残すか,姦通罪自体を廃止するかで議論がなされたものの,結局,昭和22年の刑法改正により,姦通罪は廃止されることとなり,現在に至っています。
 従って,不貞行為は,現在では,犯罪ではありません。

2 不貞行為に関する法制度-民法-
 まず,不貞行為は,法律上,離婚事由とされています(770条1項1号)。
 また,不貞行為は,原則として,民法上の不法行為(709条)に該当するな行為(違法行為)であるとされています。そのため,不貞行為をすれば,原則として,損害賠償(慰謝料)を支払わなければなりません。
 なお,不貞行為は,1人では行えませんから,損害賠償を支払う義務を負うのは,不貞行為を行った配偶者とその相手の双方となります。
 以下,便宜上,不貞行為をされた配偶者をA,不貞行為を行った配偶者をB,Bの相手をXとして説明させて頂きます。

3 不貞行為と損害賠償(慰謝料)
 では,BとXは,どのような場合でも,Aに対して損害賠償を支払わなければならないのでしょうか。
 不貞行為に基づく損害賠償請求が認められるには,いくつかの要件を満たさなければなりません。即ち,B及びXが,故意又は過失によって不貞行為を行い,AB間の婚姻関係を破綻させ,Aに損害を与えた場合でなければ,損害賠償請求は認められません。

4 故意又は過失
 故意又は過失の対象は,(争いはあるものの)不貞行為時においてBに配偶者がいることであるとされています。
 そのため,Xは,Bが既婚者であることを過失なく知らなければ,損害賠償を支払う義務を負うことはありません。

5 加害行為=婚姻関係の破綻
 不法行為が成立するのは,「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」場合です。そして,不貞行為は,判例上,婚姻共同生活の維持という権利又は法律上保護される利益を侵害する行為として,不法行為に該当するとされています。そのため,BとXが不貞行為をしたとしても,その当時,既にAB間の婚姻関係が破綻していれば,Aには法律上保護されるべき権利又は利益がないとして,B及びXのAに対する不法行為は成立しません。
 そのため,裁判では,不貞行為時に,AB間の婚姻関係が破綻していたか否かにつき,よく争われます。
 婚姻関係の破綻が認められやすい典型的な事例は,AとBが別居している場合です。他方,AとBの夫婦関係が円満を欠いていたにとどまる場合につき,婚姻関係が破綻していたかどうかの判断は分かれるところです。夫婦が寝室を別にし,肉体関係がなかった場合や,一方が借金を抱え,また暴力をふるっていた場合でも,婚姻関係の破綻はないと判断した裁判例もあります。

株式の売渡請求とは

(質問)
当社には、現在、高齢の株主がおり、近い将来相続が発生すると見込まれます。
しかし、相続人となる人は当社や他の株主とは疎遠であるため、当社としては、その人が経営に絡んでくることは避けたいところです。
何かよい方法はないでしょうか。

(回答)

1 相続人に対する売渡請求
 多くの会社は定款で株式に譲渡制限を設けています。株式の譲渡には会社の承認(原則として、取締役会設置会社では取締役会、取締役会非設置会社では株主総会の承認)を得なければならないため、会社にとって望ましくない者が株主になることを防止することができます。
 しかしながら、株式の譲渡制限は、売買や贈与などの特定承継の場合には有効ですが、相続等の一般承継の場合には意味がありません。一般承継は譲渡ではありませんので、会社がそれを承認するかしないかということは問題とならないからです。
このような場合には、定款に定めることで、会社から相続等によって株式を一般承継した者に株式の売渡請求をすることができます。
売渡請求を受けた一般承継人は、売渡自体を拒絶することはできません。

2 売渡請求の手続
 株式の売渡請求は、あらかじめ定款に規定を設けておかないとすることができません。
また、相続等による株式の一般承継を知った時から1年以内にしなければなりません。
そして、実際に売渡請求をする際には、その都度、株主総会で、①売渡請求をする株式の数、②相続により取得した株式を保有している株主の氏名・名称を決定する必要があります。この決議は特別決議ですので、総会に出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
 株式の買取価格については、原則として会社と相続人の協議よりますが、協議が調わない場合には裁判所に申立てをして価格を決めてもらうことになります。

3 相続クーデターのおそれも
 売渡請求の制度は、相続等によって他の株主にとって好ましくない者が株主となることを防止する制度ですが、場合によっては事業承継の妨げになるおそれもあります。
 会社法上、売渡請求についての株主総会決議には、相続によって承継することになる株式はもちろん、相続人となる者がもともと持っていた株式についても、議決権を行使できないからです。
 そのため、例えば、オーナー株主は自分の子供を後継者として考えていたのに、いざ相続が発生したときに、後継者の株主は売渡請求について議決権を行使できず、オーナー家以外の少数株主だけで売渡請求の決議がなされてオーナー家株主が追い出されてしまうことも考えられます。
 このような事態は相続クーデターなどと言われますが、オーナー家以外の少数株主がいるような会社では、売渡請求を導入する際には対策も含めて慎重に検討する必要があります。

再婚と養育費の変更

(質問)
 私は、数年前に離婚しており、子供の親権は元妻にあります。毎月養育費を支払っているのですが、元妻は最近再婚したと聞きました。再婚相手には安定した収入があるようですが、私はこのまま養育費を支払う必要があるのでしょうか。

(回答)

1 養育費の変更方法
 離婚の際に養育費の金額を決めても、収入等の生活状況の変化によって金額が不相当になった場合には、養育費の増額又は減額を請求することができます。具体的には、家庭裁判所に養育費の増減額を求めて調停を申し立て、これが不調となった場合は審判の手続によることになります。

2 権利者が再婚した場合と養育費
 今回のケースのように、権利者である元妻が再婚した場合には、養育費の支払義務をめぐってよくトラブルが生じます。
この点、元妻が再婚しても、再婚相手が子供と養子縁組をしていない場合には、養育費の減額事由には該当しないと考えられています。法的には、再婚相手には子供の扶養義務がないからです。
 もっとも、再婚相手は元妻との間で扶養関係が生じますので、再婚相手の収入が大きい場合、これによって元妻の実質的な収入が増えることになります。そうすると、子供の養育費についても、実質的に収入が増えた元妻の負担割を多くすべきとも考えられます。再婚相手が子供と養子縁組をしていない場合は、再婚相手の収入は考慮しないのが通常の運用ですが、上記のような観点から養育費の減額が認められる可能性もあります。

3 再婚相手が子供と養子縁組をした場合
 再婚相手が子供と養子縁組をした場合には、子供に対して扶養義務が生じます。
 この場合でも、実父である元夫の子供に対する扶養義務がなくなるわけではありませんが、第一次的な扶養義務を負うのは、子供を現に養育している元妻と再婚相手ということになります。
 そのため、養父である再婚相手の扶養が不十分な場合に、実父である元夫が養育費を負担することになります。再婚相手に十分な収入がある場合には、養育費の減額が認められる可能性が高いといえるでしょう。

4 義務者が再婚した場合
 それでは、養育費を支払っていた元夫の方が再婚した場合はどのように考えられるでしょうか。
この場合、再婚によって、元夫と再婚相手との間には扶養関係が生じます。そうすると、再婚相手の収入が少ない場合には元夫の経済的負担が増えることになりますので、そのことが養育費の減額の事由になる可能性があります。
 また、再婚相手との間に子供ができた場合には、さらに扶養対象者が増えることになります。この場合、元夫の収入等の他の要素にもよりますが、養育費の減額が認められることが多いと考えられます。

株主優待のリスク

(質問)
 当社では、ある取締役が特定の株主を優待する商品の供与を行ってきたことが判明しました。
 どのようなリスクがあるのでしょうか。

(回答)

1 株主優待リスク
 中小企業においても、オーナー一族以外の者が株式を保有することは多く見られます。この場合に、取締役が日頃の感謝の気持ちや株主総会を有利に運びたいなどの理由のため、特定の株主に対して一定の優遇を行って、利益供与になってしまうリスクは十分生じます。
 また、中小企業が株主と取引を行うときも、不当に代金を値下げなどしてしまうと、利益供与のリスクは生じてしまいます。

2 株主の権利行使に関する利益供与の禁止
 会社法では、会社は誰に対してであっても、株主の権利の行使に際し、財産上の利益を供与してはならず、これに違反した場合は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処すると規定されています(同法第120条第1項、第970条)。
 この点に関しては、会社が株主総会における有効な権利行使を条件として、株主1人に対してQUOカード1枚500円分を交付したケースについて、裁判所は、①株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的で供与される場合であること、②供与の額が社会通念上許容される範囲であること、③株主全体に供与される総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないときは、例外として許されるとされています(東京地方裁判所平成19年12月6日判決)。

3 株主の権利行使に関してとは
 会社法が禁止しているのは、株主優待全般ではなく、株主の権利行使に関しての利益供与です。
 しかし、同法第120条第2項で、特定の株主への利益供与は株主の権利行使に関してと推定されてしまうので、会社としては、株主の権利行使とは無関係という反証に成功しなければ違法になるリスクを負うことになります。

4 回答
 取締役の利益供与が認められてしまうと、その取締役が利益供与罪や特別背任罪等により処罰されるおそれがあるほか、仮にこれらの行為があると、企業の社会的信用を低下させ、さらには株主代表訴訟を提起されるリスクもあります。
 したがって、中小企業においても、役職員に対し、利益供与も含めたコンプライアンスに関する研修を行い、過去の事例を通じて、どのような行為が刑事罰の対象となる行為であるのか、あるいは社会的に許されないのかを周知徹底させることが必要です。

取締役の監視義務違反リスク

(質問)
 当社では、社長がワンマン経営をしていて、会社資産を社長個人の利益のために費消しています。
 この先、社長が取引先から責任を追及されることになれば、社長に一切口出しできない平取締役でも何らかの責任を負うことになるのでしょうか。

(回答)

1 取締役の監視義務
 取締役会は、業務執行を決定すること、代表取締役の選任・解職の職務を行うこと、個々の取締役の執行を監督することという3つの機能を果たすことが求められています。
 こうした取締役会の機能を果たすため取締役会の構成員である個々の取締役は、他の取締役の業務執行を監視する義務を負うものとされています。

2 平取締役の監視義務の範囲
 この点に関しては、株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて代表取締役の業務執行一般について監視する職責を有するとされています(最高裁判所昭和48年5月22日判決)。
 しかし、昭和48年最高裁判所判決以降の裁判例をみると、必ずしも取締役が監視義務を怠ったとして、第三者に対する責任(会社法第429条第1項)をストレートに認めているわけではありません。取締役会に上程されていない事項について、現実に不正行為が発見された場合や、不当な業務執行の内容を知り又は容易に知りうべきであるのにこれを看過したなどの事情がある場合に、取締役の監視義務違反による責任を認めている裁判例もあります。

3 取締役の職務執行のリスク
 取締役としての監視義務を果たすためには、事実を調査すること、及び不正があれば是正措置を講ずることが必要です。 
 取締役として会社の経営に関与していながら、他の取締役の違法又は不当な業務執行を知り、あるいは知り得べきであったにもかかわらず、何ら適切な対応をとることなく見過ごしたことにより、会社や第三者に損害を生じた場合には、平取締役といえども監視義務違反による損害賠償責任を追及されるリスクがあること自体は認識しておく必要があります。

4 回答
 判例は、取締役の一般的監視義務を認めていますが、取締役会に上程されていない事項についての監視義務の範囲を限定する裁判例も見られます。 
 しかし、取締役会の不開催や会社業務に関与していないことが免責の理由となるのであれば、取締役会が機能しない会社であったり、職務に怠慢な取締役であればあるほど責任を問われることがないという結果になってしまい、取締役に監視義務を負わせた法の趣旨が骨抜きになってしまいます。
 このため、会社経営に何らかの形であっても関与している取締役であれば、監視義務を怠ったことにより会社又は第三者に生じた損害について、任務懈怠の責任を問われるリスクがあること自体には注意すべきです。

業績悪化を理由とする賞与の引下げや不支給の可能性

(質問)
 当社は、就業規則において賞与制度を定め、従業員に対して毎年2回賞与を支給してきました。しかし、近ごろは業績が悪化しており、今般、次回の賞与の支給額を引き下げるか、不支給とすることを検討していますが、可能でしょうか。

(回答)

1 賞与支給の根拠
 賞与支払いの根拠は、個別の労働契約に求められ、労働契約、就業規 則又は労働協約で賞与についてどのように定められているかによって、賞与がいつ、いくら支払われるかが決まることになります。

2 賞与請求権の有無
 賞与について、労働協約、就業規則又は労働契約の規定により、支給時期及び支給等額が決まっている場合は、労働者は使用者に対し、賞与請求権を有することになります。
 また、長年、一定の支給時期及び支給額に基づいて賞与が支払われてきて、賞与支給の労使慣行が確立していると考えられる場合も労働者が賞与支給権を有すると考えられます。

3 賞与の引下げ・不支給の可否
 例えば、貴社の就業規則で、「賞与は毎年6月1日及び12月1日に月額基本給の2か月分を支給する。」と規定されていれば、労働者は支給時期が到来すれば就業規則の定めに基づき賞与請求権を取得することになります。
 したがって、貴社が支給額を引き下げるか又は支給しないと考えた場合、労働者の同意を得るか、就業規則の不利益変更をする必要があることになります。
 また、就業規則で、「賞与は、会社の業績等を考慮して毎年2回支給する。」と規定されていれば、労働者には賞与請求権が発生せず、貴社は、従前の支給額から減額して支給しても差し支えないことになります。
 さらに、就業規則で、「賞与は、会社の業績等を考慮して支給することがある。」と規定されていれば、貴社は不支給とすることも可能となります。

4 回答
 以上のように、貴社が、業績悪化を理由に、賞与の支給額を減額したり、不支給としたりすることができるかどうかは、賞与支給の根拠となっている労働契約、就業規則又は労働協約で賞与に関してどのように定められているかによって結論が変わることになります。
 したがって、貴社としては、この点を意識して、賞与制度を定める必要があるといえます。

懲戒解雇をした従業員に対して退職金支払義務はあるか。

(質問)
 当社には、従業員が懲戒解雇になった場合には、退職金を支払わないという退職金規程があります。
 従業員Yは業務上横領を行ったので、当社は懲戒解雇を行いましたが、退職金支払はないと考えてよろしいですか。

(回答)

1 懲戒解雇イコール退職金不支給で良いか。
 中小企業の経営者からすると、従業員が業務上横領といった大それた犯罪を犯した以上、退職金など支払えるはずはないと言いたいところです。
 しかし、退職金には、功労報償的性格と賃金の後払い的性格があるとされており、懲戒解雇の事由があったとしても、退職金の全額を不支給とすることができるのは、Yがそれまでの長年にわたる勤続の功を抹消してしまう程の著しく信義に反する行為があった場合に限られると考えられています。
 したがって、仮に懲戒解雇が有効であってもなお、退職金不支給の適法性が問題となります。

2 退職金不支給の適法性
 長年にわたる勤労の功を抹消してしまう程の不信行為に当たるかどうかは、懲戒事由の内容、背信性の程度、会社が被った損害の内容、程度、在職中の勤務状況、退職金の賃金の後払い的性質の強さ等を総合的に考慮して判断されることになります。

3 退職金に関するリスク管理
 企業は、ご質問のように従業員が横領等の非違行為を行うリスクに備えて、退職金の全額又は一部を不支給とする退職金規程を整備すべきです。
 また、ご質問に関連して言えば、従業員の退職後に横領の事実が発覚するようなリスクに備えて、退職金支払い期限を不正行為などの発見のための調査期間を置いて退職後数か月に設定しておくことや、退職金支払い後に懲戒解雇理由などが発覚した場合に備えた支払い済みの退職金の返還規定を置くことが必要になってきます。
 このように、就業規則には、中小企業がさまざまなリスクに備えてそれをヘッジするために必要なことを規定していないと、中小企業の希望や目的がかなえられないことがあることに留意すべきです。

4 回答
 貴社は、就業規則に懲戒解雇事由があった場合に退職金を支給しないという規定を設けていれば、Yに対し退職金の全額又は一部を支給とすることができると考えられます。

建物建設業者の地盤沈下に対する責任

(質問)
 当社はある不動産業者と建物建設請負契約を締結し、契約どおりに建物を完成させました。その建物は、その不動産業者が建売住宅として土地とともに顧客に販売しました。
 ところが、顧客が住み始めてしばらくして、土地が沈下し始めるというトラブルが発生しました。その顧客は当社に責任があるとして、土地の補強工事を要求してきています。
 当社は不動産業者に言われたとおりに建物を建てただけで、土地の造成や工事は別の造成業者が行っています。また、当社は当該土地が傾斜地に造成されたものということしか知りませんでした。
 それでも当社は責任を負わなければならないのでしょうか。

(回答)

1 土地の沈下による建物建設業者の責任
 ご質問のケースにおいては、建売住宅を顧客に売った不動産業者、及び土地の造成工事を行った造成業者が、顧客に対して法的責任を負うことは明らかです。
 問題は、それに加えて、土地上に建物を建てたにすぎない貴社までもが責任を負うか否かということになります。
 類似のケースにおいて、貴社と同様の立場にある建築業者の責任を認めたものがあります(京都地方裁判所平成12年10月16日判決)。
 この裁判例においては、建物を建てようとする土地が「傾斜地を切り開いて造成された盛土地盤」であり、建築業者は「性質上(土地の)支持力の弱さが容易に予見でき」たことが重視されています。
 したがって、貴社の責任を図る上では、貴社が建物を建てるに際し、当該土地の性質をどのように認識していたかが重要なポイントとなり、貴社が当該土地は傾斜地を造成した土地であるなどと認識していた場合には、たとえ貴社が土地の造成に関与していなくても責任を問われる可能性が高いと言えます。
 なお、上記裁判例においては、地盤を補修するための工事費、顧客の一時移転費用、弁護士費用の賠償として1,000万円以上の賠償請求が認められました。
 以上より、地盤に問題がありそうな土地に建物を建てる際は、たとえ建物建築のみを請け負っているとしても、建物建設工事に入る前に土地についての慎重な調査が必要です。

2 当然尽くすべき基本的な注意義務とは
 建物建築業者のみならず、何か契約関係に入ろうとする場合、企業は、当然尽くすべき注意すべき注意義務違反が後で問題にされるリスクがあることに、注意する必要があります。
 契約関係は、単に契約書に記載されていることを文言どおりに履行しただけでは足りず、信義則とか予見可能性といったことが要求されることがあり、それ故、企業といえども、経営法務リスクマネジメントの観点から、社会から期待されることを誠実に行っていく必要があると考えます。
 ご質問のケースでは、貴社は、土地が傾斜地に造成されたものということを知っていた以上、土地の沈下が容易に予見できたとして損害賠償責任を追及されるリスクがあります。
 

反社会的勢力による不当要求への対応

(質問)
 当社の商品に欠陥があったとして、とあるお客様が軽い怪我を負ってしまいました。運が悪いことに、そのお客様は反社会的勢力の一員であり、それ以後頻繁に当社へ来られ、「誠意を見せろ。1000万円払え。」等脅迫めいた事を言われています。
 当社はどのように対処したら良いのでしょうか。

(回答)

1 反社会的勢力による不当要求
 反社会的勢力による不当要求については、①接近型と②攻撃型に分類されます。①接近型とは、反社会的勢力が、機関紙の購読要求、寄付金や賛助金の要求、下請け契約の要求を行うなど、「一方的なお願い」あるいは「勧誘」という形で近づいてくる場合をいいます。これに対し、②攻撃型とは、反社会的勢力が、企業のミスや役員のスキャンダルを攻撃材料として公開質問状を出したり、街宣車による街宣活動をしたりして金銭を要求する場合や、商品の欠陥や従業員の対応の悪さを材料としてクレームをつけ、金銭を要求する場合をいいます。

2 事実関係の整理、証拠の収集
 ご質問のケースでは、貴社は、現時点での情報に基づき、事実関係や証拠の整理を行う必要があります。
 ①相手方に関する情報(氏名、住所、取引の有無、反社会的勢力の属性)
 ②要求内容に関する情報(具体的な要求があるのか、害悪の告知があるのかなど)
 ③要求経緯に関する情報(貴社に非があることから発生しているものかなど)
 相手方とのやり取りに際しては、記録化が重要で、録音・録画も一つの方法ですが、面前で具体的な言動についてメモをとることは重要です。

3 警察等への連絡
 相手方が反社会的勢力である場合や、生命・身体・財産等に何らかの危険性がある場合には、直ちに警察に相談をし、場合によっては警備要請を行います。

4 謝絶の意思を表明する。
 不当要求行為に対しては、毅然として謝絶の意思を表明することが重要です。仮に、従前の経緯において当方側に何らかの非があるという場合、非がある部分について謝罪すべきだと考えるとしても、その先にどういう要求が続くのかが見えないところがあります。
 謝罪する部分は明確にして謝罪し、それ以外は具体的な場面ごとに毅然と対応していくべきです。対応に際しては、弁護士に依頼し、弁護士名での内容証明郵便による通知を送ることも検討すべきです。

5 仮処分手続の利用
 ケースによっては、街宣活動禁止の仮処分、架電禁止の仮処分、面談要求禁止の仮処分、立入禁止の仮処分を検討する必要があります。

6 まとめ
 執拗な電話や文書の送付、支店への頻繁又は長時間の来店、街宣車で街宣行為を行うこと等の不当要求には、要求内容の整理を行った上で毅然として対応すべきですが、事前に警察に相談するほか、仮処分手続等を検討することになります。

顧客への説明不足による損害賠償リスク

(質問)
 当社は住宅会社ですが、隣家との距離が近く、日照時間の説明について説明が十分でなかったとして、顧客から契約の解除と損害賠償を要求されています。
 担当者は口頭できちんと説明したと言っていますが、当社としてはどのように対応すればいいでしょうか。

(回答)

1 説明義務違反の裁判例
 宅建業者であるA社及びB社が、土地の売買契約において、当該土地のみでは接道義務を満たしておらず将来的に建て替えが不可能であったことを買主に何ら説明していなかったことをもって説明義務違反を認定して、約1,700万円の損害賠償を認めたものがあります(千葉地方裁判所平成23年2月17日判決)。
 また、宅地建物取引業者が専有部分内に設置された防火扉の操作方法等について買主に対して説明を行っていなかったという説明義務違反により、当該業者に約900万円の損害賠償を認めたものもあります(東京高裁平成18年8月30日判決)。
 このように、企業は、説明義務違反をもって多額の損害賠償が認められるリスクがあることに注意する必要があります。

2 対応策
 契約締結段階において、どのような事実について説明すべきかを検討し、必要十分な説明を行った後、説明を行った旨の書面に相手方に署名・押印してもらうことが必要です。
 企業の従業員は、顧客に対する説明はもとより、クレーム対応等も含め、さまざまな面で交渉を行うものと考えられます。
 そこで、後々、言った、言わないのトラブルになりそうなケースについては、書面を交付するとか、メールでやり取りをするとか、ケースによっては、録音しておくといった交渉の記録化が必要になります。
 ちなみに、録音は相手に無断で行っても差し支えありませんし、民事裁判でそのような録音の反訳文を証拠として提出することもあります。
 貴社は、担当者が顧客に日照時間について説明したかどうかという点について争われること自体が大きなリスクとなってしまいます。 
 仮に、顧客の言い分が認められて、訴訟において解除等が認められてしまうと大きな財産的損害と信用の低下につながるからです。
 貴社とすると、顧客に対して、重要な点を説明するときは、文書にして手交するなどのリスクヘッジを行うべきです。