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相続人等に対する株式の売渡請求リスク

(質問)
 当社には相続人等に対する株式の売渡請求の制度があります。そして、当社の株主は、代表取締役Aとその弟で取締役のBがそれぞれ60%と40%保有しています。
 この度、代表取締役Aが亡くなってしまいました。今後、BがAの相続人に対して売渡請求を行うと、Bに会社を乗っ取られてしまうのでしょうか。
 当社としては、何か良い方法はないでしょうか。

(回答)

1 相続人等に対する株式の売渡請求
 中小企業では株式が分散していることがよくあるところ、株式管理の煩雑を回避したり、円滑な事業承継を図ったりするために、相続人等に対する株式の売渡請求の制度を定款に設けるように勧めることがあります。
 相続人等に対する株式の売渡請求は、次の要件を満たした場合に行うことができます(会社法第174条ないし同法第176条)。
 ①相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者がいること。   
 ②その者に対して、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求できる旨の定めが定款にあること。
 ③株主総会の特別決議で、売渡の請求の決定に関する事項を決議すること。
 ただし、売渡請求は、当該会社が相続等があったことを知った日から1年を経過したときは、請求することができなくなります。

2 会社乗っ取りのリスク
 しかし、この制度には、落とし穴があることに注意が必要です。
 例えば、ご質問のケースのように、AとBの兄弟で株式を保有しており、Aが会社を経営しているケースで、先にAの方が死亡してしまった場合、BがAの相続人に対して、株式の売渡請求を行使することで、Aが保有していた株式がすべて会社に買い取られてしまって、Bに会社を乗っ取られてしまうリスクがあります。

3 まとめ
 ご質問にあるように、Bが将来Aに相続人に対して株式の売渡請求を行うリスクがある場合は、相続人等に対する株式の売渡請求を定款に定めず、必要があれば、株主の相続開始後にこの制度を定款に設ける定款変更を行うことが考えられます。
 また、Bの保有株式を議決権制限株式としておくことや、Aの株式をあらかじめAの相続人が支配する関係法人に一部譲渡し、相続発生後もBが特別決議をできないようにしておくことなどのリスクヘッジも考えられます。

名義株のリスク

(質問)
 当社では、代表取締役が資金を拠出し、名義上は親族Yに株を持たせています。
 当社は、これまでYに配当をしてきましたが、将来、何か問題になるでしょうか。

(回答)

1 名義株とは
 名義株とは、他人名義を借用して株式の引受けや払込みがなされた株式をいいます。
 そもそも会社としては、株主名簿上の株主を株主として取り扱えば足ります。
 しかし、名義株については、将来、代表取締役とYが株式の帰属について争ったり、貴社がM&Aで株式を売買しようとする際に、Yが協力しないなどのリスクがあります。

2 真実の株主とは
 判例では、「他人の承諾を得てその名義を用い株式を引受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるものと解するのが相当である。」として、実質上の引受人が株主であるとされています(最高裁判所昭和42年11月17日判決)。

3 実質上の株主の認定基準
 上記判例によると、実質上の株主の認定に当たっては、以下の事情を総合的に考慮して判断することになります。
 ①株式取得資金の拠出者
 ②名義貸与者と名義借用者との関係その間の合意の内容
 ③株式取得の目的
 ④取得後の利益配当金や新株等の帰属状況
 ⑤名義貸与者及び名義借用者と会社との関係
 ⑥名義借の理由の合理性
 ⑦株主総会における議決権の行使状況等

4 まとめ
 代表取締役が払込金を拠出したとしても、それだけでは代表取締役が株主であると認定されるとは限りません。
 貴社はYに配当をしてきたということですが、会社設立後から長年Yに利益の配当をしてきたという事実は、名義人である親族が実質上の株主であると認定される方向に働くリスクがあります。
 名義株は、将来的に、株式の帰属でトラブルになるリスクがあるので、貴社としては、早期に真実の株主を確定させておくべきです。

競業取引・利益相反取引

(質問)
 競業取引・利益相反取引の注意点を教えてください。

(回答)

1 取締役会の承認と取締役会への報告
 取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき(競業取引)や、取締役が自己又は第三者のために会社と取引をするなど会社と利益が相反する取引をしようとするとき(利益相反取引)には、取締役は取締役会に対し、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません。
 さらに、競業取引又は利益相反取引を行った取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません。

2 競業取引とは
 会社の事業の部類に属する取引(競業)とは、会社が実際に行っている取引と目的物(商品・役務の種類)及び市場(地域・流通段階等)が競合する取引のことです。
 取締役が競業会社の代表取締役等に就任していなくても、その株式を多数保有し事実上の主宰者として経営を支配した場合には、第三者(競業会社)の名において自己の計算で取引した等と認められる場合があります(東京地方裁判所昭和56年3月26日判決、大阪高等裁判所平成2年7月18日判決)。

3 利益相反取引とは
 ①取締役が当事者として、又は他人の代理人・代表者として、会社と取引をしようとする場合(直接取引)と、②会社が取締役の債務を保証する等、取締役以外の者との間で会社・取締役間の利害が相反する取引をしようとする場合(間接取引)があります。
 取締役の利益相反取引の承認は、個々の取引についてなされるのが原則ですが、関連会社間の取引のように反復継続して同種の取引がなされる場合については、取引の種類・数量・金額・期間等を特定して、包括的に承認を与えても良いとされています。

4 取締役会に報告すべき重要な事実とは
 重要な事実とは、承認の可否の判断に必要な事実であり、単発の取引であれば、目的物・数量・価格・履行期間等をいいます。また、競業会社の代表取締役に就任する等のため包括的な承認等を得る場合であれば、当該会社の事業の種類・規模・取引範囲等を開示すべきことになります。   
 後者の場合、取締役会への事後の報告もある程度まとめて行う必要があります。

5 利益相反行為を行った取締役の責任
 このような利益相反に関する規定に違反した取締役は、任務懈怠として損害賠償責任を負うことがあります。特に、取締役会決議を経ずに競業取引を行った場合、当該取引によって取締役又は第三者が得た利益の額は、会社に生じた損害の額と推定されるので、取締役は実際に得た利益よりも多額の損害賠償責任を負うリスクがあります。

書面決議による取締役会決議

(質問)
 当社では、取締役会決議をしようにも一部の取締役が遠隔地にいて集まれないと考え、その取締役の書面決議により、取締役会での決議を行いたいと考えていますが、このようなことは可能でしょうか。 

(回答)

1 みなし取締役会決議
 取締役は原則として取締役会に出席して決議を行わなければなりませんが、会社法上、一定の範囲でこの例外が認められています。
 すなわち、取締役が決議事項として提案をした事項について、当該提案につき取締役の全員(当該事項について議決に加わることができない取締役は除く。)が書面又は電磁的記録(いわゆるeメール等)により同意の意思表示をした場合で、監査役が異議を述べなかったときは、当該提案事項を可決とみなし(会社法第370条)、取締役会決議を省略することができます。ただし、みなし取締役会決議を行う場合は、定款にその旨の定めが必要です。

2 電話会議・テレビ会議による取締役会への出席は可能
 取締役が電話会議・テレビ会議で取締役会に出席したといえるためには、出席取締役全員と通話ができる電話会議・テレビ会議の方法によらなければなりません。取締役が遠隔地にいて一堂に会せない場合は、電話会議・テレビ会議で取締役会を行うという方法も可能です。

3 回答
 みなし取締役会決議は、取締役全員が書面決議等をすることにより取締役会を省略できるというもので、一部の取締役だけ書面で決議に参加することはできません。
 会社法上、いわゆる持ち回り決議は認められていないことに注意しなくてはいけません。
 貴社は、遠隔地にいて多忙な取締役については、電話会議・テレビ会議により取締役会に参加してもらえば良いと考えます。

特殊株主対応

(質問)
 当社では、いわゆる特殊株主が株主総会に出席するかもしれません。
 どのような対応をすれば良いでしょうか。

(回答)

1 特殊株主とは
 特殊株主とは、株主としての権利行使に名を借りて、株主総会を平穏に進行させることや会社の不祥事を公表しないことの見返りに、会社に対して利益供与を要求するような株主(総会屋など)のことをいいます。
 特殊株主への対応については、警察、各都道府県の暴力追放運動推進センター(暴追センター)などに相談することも可能です。
 また、必要であれば、警察や警備会社に対し、総会当日の警備を要請します。

2 想定問題の作成
 株主総会当日の進行については、質問の機会を一時に集中させ、対応にメリハリをつけるため、一括上程・審議方式による議事運営を検討することが考えられます。
 そして、当該特殊株主の要求内容や自社・他社での過去の活動状況に基づき、想定問題を作成します。

3 リハーサル
 株主総会当日は、議事の主導権を特殊株主に渡さないようにして、特殊株主が議事の妨害に及んだときは、退場命令まで想定しておくことが必要となります。
 このため、リハーサルでは議事の進行をあえて妨げたり、質疑応答の際にあえて不適切な質問を繰り返したりするなどして、状況によっては議長が退場命令までスムーズに進めるよう、しっかりと練習をして慣れておくことが大事です。

4 株主の質問に対する拒絶
 会社法上、質問事項が、①株主総会の目的である事項に関しない場合、②その説明をすることにより株主共同の利益を著しく害する場合、③説明することにより株式会社その他の者の権利を侵害することになる場合、④実質的に反復した質問である場合、⑤その他説明をしないことにつき正当な理由がある場合には、説明を拒絶しうるものとされています(会社法第314条但書、会社法施行規則第71条)。

5 回答
 特殊株主対応については、株主総会対応を行っている弁護士に相談し、シナリオや想定問答のチェックはもちろんのこと、リハーサルや株主総会本番への立会いを依頼すると良いでしょう。

株式の相続に対する会社の対応

(質問)
 当社では、60%の株式を保有する株主Yが死亡し、相続が発生しました。
 当社はどのように対応すれば良いでしょうか。

(回答)

1 相続人による権利行使がなされないリスク
 中小企業では、いわゆるオーナーが過半数の株式を保有しているケースもよく見られるところです。
 このような状況で、株主がすでに死亡した以上、その相続人による権利行使がなされないと、株主総会の定足数をクリアできなくなるなどのリスクが生じる場合もあります。

2 遺産分割協議が未了の場合の議決権行使
 Yの相続人間で遺産分割協議が未了であるなどの理由で相続人が名義書換請求を行わない場合は、株式は法定相続分に従って相続人が共有する状態になります。
 共有にかかる株式については、相続人間で権利行使者を1名決め、会社に通知しなければ、原則として権利行使できません(会社法第106条本文)。そこで、貴社とすれば、相続人が複数いる場合は、相続人と早急に協議を行い、権利行使者を定めて、会社に通知してもらう必要があります。

3 相続人間の協議がまとまらない場合のリスク
 相続人間の協議がまとまらず、権利行使者の決定ができない(権利行使者の通知がない)場合でも、会社が同意すれば例外的に権利行使できるものとされています(同法第106条但書)。
 しかし、会社の判断で相続人のうち一部の者のみによる権利行使を認めることは、相続人間で株主権の行使につき対立があるような場合には、トラブルになるリスクもあるので、なるべく相続人全員に共同で議決権行使してもらうことが適切です。

4 回答
 貴社は、Yの相続人間で遺産分割の合意がなされず、協議により権利行使を決定してもらえないリスクがあります。その場合は、株主総会の定足数を満たさなくなることにもなりかねません。
 そこで、貴社とすれば、定款で相続人に対する株式の売渡請求(同法第174条)を規定して、会社が株式を取得できる途を開いておくか、会社の経営法務リスクマネジメントの一環として、事前に、Yに貴社の株式を誰に相続させるかの遺言を作成するよう準備しておく必要があります。

下請け従業員の労働災害

(質問)
 当社は建設業を行っており、A社を下請としていたところ、A社の従業員Yが労働災害で死亡しました。
 当社は、Yの遺族に対して、損害賠償責任を負うのでしょうか。

(回答)

1 実質的な使用関係とは
 建設業では、元請、下請、孫請といった重層的な請負契約関係が見られます。
 元請企業と下請企業労働者の間には、本来は契約関係がありませんが、その間に、「実質的な使用関係」、「直接的又は間接的指揮監督関係」が認められる場合には、元請企業の下請労働者に対する安全配慮義務が認められます。

2 実質的な使用関係等が認定されるファクター
 具体的には、次のとおりです。
 ア 現場事務所の設置、係員、係員の常駐ないし派遣
 イ 作業工程の把握、行程に関する事前打合せ、届出、承認、事後報告
 ウ 作業方法の監督、仕様書による点検、調査、是正
 エ 作業時間、ミーティング、服装、作業人員等の規制
 オ 現場巡視、安全会議、現場協議会の開催、参加
 カ 作業場所の管理、機械・設備・器具・ヘルメット・材料等の貸与・提供
 キ 管理者等の表示
 ク 事故等の場合の処置、届出
 ケ 専属的下請関係か否か
 コ 元請企業・工場の組織的な一部に組み込まれているか、構内下請か等が検討されることになります。

3 回答
 貴社が現場事務所を設置して、従業員を工事現場に派遣するなどしていたり、貴社がYに対して、作業方法、作業工程について指示をするなど、Yに対して事実上の指揮・監督を行っているなどの事情があれば、貴社のYに対する安全配慮義務違反が認められるリスクは高いといえます。
 貴社は、A社との間で労災があった場合の責任負担割合の事前合意をするか、労働災害総合保険等の労災上積保険の加入を検討すべきです。

懲戒処分を行う手続の注意事項

(質問)
 当社では、従業員が遅刻、早退を繰り返すので、減給か出勤停止の懲戒処分を行いたいと考えています。
どのような手続で懲戒処分を行えば良いでしょうか。

(回答)

1 懲戒処分の種類
 懲戒処分としては、戒告、譴責、減給、出勤停止、降職・降格、諭旨解雇、懲戒解雇があります。
減給については、労働基準法第91条が就業規則の減給の制裁を定める場合は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1か月分の賃金の総額の10%を超えてはいけないとされています。
一方、出勤停止はその期間についての法律上の規制はありません。しかし、長期間にわたる出勤停止は、懲戒事由とのバランスにおいて客観的合理性・社会的相当性を欠くと判断されるリスクがある点に注意する必要があります。

2 非違行為発生時の対応
 従業員が非違行為を行った場合、企業は、次のような段階的対応を行っていくことになります。

 ア 事実関係の調査と証拠化
   後で裁判等で懲戒処分の合理性・相当性を争われるリスクがあるので、当該従業員や関係者の当該従業  員の非違行為に関する事実の書面化や、場合によっては会話の録音等が必要になります。
   
 イ 本人の弁明
   不利益な処分を課す以上、本人の弁明を聴くことは、誤った処分を防ぐためにも大変重要です。

 ウ 段階的な処分
   懲戒処分は段階的であることが要求されます。重大な非違行為でない限り、懲戒解雇を行うことはでき  ず、イエローカードが必要ということです。
   企業は、証拠により認定された非違事実を踏まえて、本人に弁明の機会を与えつつ、段階的にきちんと  懲戒処分を行って、本人に反省の機会を与えるとともに、教育する必要があります。

3 回答
 貴社は、従業員の非違行為の事実の確認、非違行為の就業規則の懲戒事由の該当性の確認、当該従業員の弁明、過去の懲戒処分の量定との比較等を踏まえて、必要に応じて懲戒委員会(ケースに応じて弁護士等の第三者も加えても良い。)で審議して、合理的かつ相当な懲戒処分を検討すべきです。

取締役の第三者責任リスク

(質問)
 当社は、製造業を行っていますが、業績が低迷し、債務超過となってしまいました。
 ただ、先月から展開している新製品が好調ですので、取引先に材料を発注し、事業を継続して挽回したいのですが、債務超過のまま事業を継続した場合、社長個人の責任が取引先から追及されることはないのでしょうか。

(回答)

1 取締役の第三者責任
 会社法では、取締役や監査役などの役員が、会社に対する義務に違反することをわかっていながら、もしくは、多少注意を払えば義務に違反することが容易にわかったにもかかわらず、義務に違反し、それにより第三者に損害を被らせたときは、その役員等は、連帯して、第三者に対し、損害の賠償をしなければならないとされています(会社法第429条第1項、第430条)。
 ご質問のケースの場合、債務超過の会社について、事業を継続することが、会社に対する義務違反となり、それにより取引先に損害を被らせた場合には、取締役等は、取引先が被った損害の賠償をする責任が生じるリスクがあります。

2 債務超過状態での事業継続
 債務超過会社の取締役が事業を継続した場合に、善管注意義務となるか判断した裁判例として、高知地方裁判所平成26年9月10日判決があります。同裁判例によると、①当該企業の業種業態、②損益や資金繰りの状況、③赤字解消や債務の弁済の見込みなどを総合的に考慮判断し、事業の継続又は整理によるメリットとデメリットを慎重に比較検討し、企業経営者としての専門的、予測的、政策的な総合判断を行うことが要求され、このような判断が善管注意義務に違反するかは、その判断の過程(情報の収集、その分析・検討)と内容に著しく不合理な点があるかどうかという観点から、審査されるべきであるとされています。
 ご質問のケースでは、社長の善管注意義務違反が認められるかどうかは、新商品等からの利益がどの程度見込めるか、それらにより赤字を解消し、仕入れ先への代金支払いが可能となるかどうか、事業を継続することにより、かえって赤字幅を拡大させ、ひいては株主や会社債権者等が不利益を被る可能性の方が高いかなどを比較考慮して判断されることになります。

3 回答
 貴社の事業を継続するとの社長の判断が著しく不合理でなければ、仮に、経営環境の急変などにより、取引先へ代金の支払いができなくなろうとも、社長個人の責任が追及されるリスクは少ないといえます。

代表取締役の会社資産の売却

(質問)
 代表取締役Yは、ギャンブルで負けた借金の穴埋めをするため、必要がないのに会社の資産を売却して、その売却金を私的に流用しようとしていることが判明しました。
 しかし、当社は、会社資産が売却されてしまうと、事業に重大な支障が出てしまうので、Yのかかる行為を防止したいと考えています。
 Yの弟で、当社の専務である私は、どのような措置が採れるのでしょうか。

(回答)

1 専務の採り得る法的手段
 まず、専務はYの職務の執行に関し、Yが会社の目的の範囲外の行為その他法令又は定款に違反する行為をするおそれがあり、当該行為により会社に回復することができない損害が発生することを理由に、Yの会社資産の売却の差止請求の仮処分を検討することになります。
 しかし、Yは相当金策に苦慮していて、将来的には、どうしても会社資産を売却してしまいそうなので、当該資産の売却を差止めただけでは目的を達成できない可能性があります。
 そこで、専務としては、取締役会で、Yを代表取締役から解任するよう取締役会に提案することになりますが、これは他の取締役が反対すると難しいと考えられます。

2 会社訴訟とは
 企業法務においては、会社訴訟は重要です。会社訴訟には株主総会決議取消しの訴え、株主代表訴訟、取締役に対する責任追及、新株発行差止請求のほか、本件のような取締役解任の訴え等のさまざまな類型が存在します。
 会社訴訟においては、本件のように会社の重要資産が売却されてしまうと、後でそのダメージが回復できないことが多いので、紛争の天王山は時間のかかる訴訟ではなく、仮処分の審尋と決定になることが多いです。

3 取締役としての使命感
専務としては、Yの違法行為を傍観して、会社をみすみす倒産させてしまったのでは従業員やステークホルダーに申し訳が立ちません。また、Yの違法行為を放置していると、自らが会社に対して損害賠償責任を負ったり、他の株主から株主代表訴訟を提起されるリスクも生じます。
 親族間においては、話し合いを最優先にすべきですが、中小企業といえども、ケースによっては毅然とした法的対応も必要となります。 

4 回答
 ご質問のケースでは、専務は、法的手段として、Yが職務の執行に関し不正行為又は法令・定款に違反する重大な事実があるとして、Yの職務執行停止の仮処分、職務代行者選任の仮処分とYの取締役解任の訴訟を申し立てをすることが考えられます。