当社の男性部長が,部下の女性従業員と長期間に渡って不倫をしていることを職場で公言していました。さらに,当該男性部長は,職場で当該女性従業員と肉体関係をもったようです。このような状況が続いているため,職場の士気が低下してきています。
この男性部長の行為は,あまりにも目に余ります。ので,当社としては,どのようにすべきでしょうか。男性部長に対して,不倫をやめるように業務命令を行う,または懲戒処分をしたいと考えています。このようなことが可能でしょうか。
(回答)
1 不倫によって生じる法的責任
当然のことですが,不倫は,配偶者を裏切る行為であり,社会的にも道徳的にも非難される行為です。不倫をした者に道義的責任が生じるのは当然ですが,場合によっては,配偶者または不倫相手の配偶者に対して損害賠償責任を負うことにもなります。
2 不倫をやめるように業務命令を行うことはできる?
不倫は,社会的にも道義的にも非難される行為です。しかし,不倫は,職場内とはいえプライベートの事柄であるといえます。そのため,注意を促す程度であればともかく,業務命令で不倫をやめさせることはできないこととなります。
3 不倫について懲戒処分をすることはできる?
懲戒処分は,会社が企業秩序や職場規律を維持するために,これを乱した従業員に対して行う制裁になります。 そのため,従業員の不倫についても,それがプライベートの範疇の問題にとどまり,企業秩序や職場規律に影響しない限りは,懲戒処分の対象とすることが難しい可能性があります。
もっとも,不倫というプライベートに関するものであっても,不倫それが企業秩序や職場規律を乱している場合や,企業の社会的評価を毀損している場合には,懲戒処分の対象となり得ます。その際には,両者の地位,職務内容,交際の態様,業態等に照らして,企業秩序や職場規律を乱したかどうかを判断することになります。例えば,業務時間内に不倫相手とデートに出かけた場合,自らの不倫が原因で,相手の配偶者が職場に現れて修羅場になったような場合には,企業秩序や職場規律を乱したとして,懲戒処分の対象になり得ると考えられます。
御相談では,男性部長が部下の女性従業員と不倫をしていることを公言しいており,他の従業員の士気に影響することが強く予想されること,及び職場内で肉体関係をもったとのことであり,このこと自体が職場秩序を乱していると考えられることから,単なるプライベートの問題にとどまらず,企業秩序や職場規律を乱していると考えられます。そのため,懲戒処分を有効に行うことができると考えられます。
なお,懲戒処分を行う際には,当該処分が懲戒の対象となる行為に照らして相当なものかを考える必要があります。
4 不倫をしている従業員がいたらどのようにすればいい?
前述のように,職場内での不倫は,企業秩序や職場規律を乱しているといえない限り,懲戒処分の対象とすることが難しい場合がありますことになります。もっとも,そのような場合でも職場の士気が低下する可能性がないとはいえません。そこで,職場内での不倫が,懲戒処分の対象とまでならない程度の場合には,不倫をしている従業員を人事異動させて,両者を離すことを検討すべきです。
ただし,人事異動の理由が,もっぱら職場内での不倫をやめさせるためのものであり,業務上の必要性が高くない場合には,当該人事異動は無効であるなどと主張されるリスクがありますので,慎重に行う必要があります。
5 ルールを守る職場づくりを!
不倫に関してのみならず,社会には様々なルールがあります。ルールをしっかりと守ることは基本的なことですが,とても重要なことです。
不倫に限らず,不祥事を防ぐためにはどのようにしていくべきかお悩みの方は,弁護士などの専門家に御相談することをお勧めします。