当社では、高年齢者雇用確保措置として、定年後再雇用を導入しています。
当社の定年後再雇用では、1年ごとに更新する有期雇用契約にしており、勤務形態は、嘱託社員です。
業務内容、業務内容及び配置の変更の範囲は、定年前と変わりありませんが、賃金は正社員の場合に比べて概ね3割減っています。
このような運用で何かリスクはないでしょうか。
(回答)
1 定年後再雇用の労働条件
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づいて、さまざまな高年齢者雇用確保措置が採られていると思われますが、中小企業においては、定年後再雇用の方法を導入している企業が多いものと考えられます。
そして、定年後再雇用においては、一般的に定年前よりも賃金が低減するケースが多いのではないかと思います。
2 労働契約法第20条のリスク
労働契約法第20条は、簡単に言うと、有期雇用労働者と無期雇用労働者との間で、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理な労働条件の相違を禁止するルールです。しかし、この規程は、あくまでも不合理な労働条件の相違を禁止するルールであって、有期雇用労働者と無期雇用労働者の同一労働同一賃金を規定するものではありません。
企業にとっては定年後再雇用の従業員の給料低減が労働契約法第20条違反となるリスクがあることは認識する必要があります。
3 裁判例
この点に関して、定年後に有期雇用契約の嘱託社員として再雇用する場合において、業務内容及び配置の変更範囲が定年前と定年後で変わらない場合には、特段の事情がない限り、賃金を正社員と異なる条件にすることは不合理であり、変更後の賃金の定めは、労働契約法第20条に違反すると判断した裁判例があります(東京地方裁判所平成28年5月13日判決)。
これに対し、控訴審判決は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは社会一般に広く行われていること、②年収ベースで賃金の差は2割程度であること、③企業の収支が大幅な赤字であったこと、④各種手当について工夫をしていたこと、⑤労働組合との団体交渉を行って、一定の労働条件の改善を行っていたことから、不合理な差異とはいえないと判示しています(東京高等裁判所平成28年11月2日判決)。
簡単に言えば、地裁判決は、定年前と定年後の職務の内容等が同じであれば、特段の事情がない限り違法とするのに対し、高裁判決は、職務の内容等とその他の事情を総合的に考慮して違法かどうかを判断しており、判断の手法に相違点があると思われます。
4 回答
貴社において、定年後再雇用の職員が定年前のときと、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲が全く同じであれば、その他の事情にもよりますが、労働契約法第20条に違反すると判断されて、定年前の賃金との差額を請求されるリスクがあります。
貴社がかかるリスクを避けるためには、定年後に再雇用する従業員の職務内容等が定年前のものと異なるようにすることを工夫することなどが考えられます。
他には、定年後の人材確保や従業員のモチベーションアップも考慮して、定年後再雇用ではなく、65歳定年制を採用するとか、定年後も含めた賃金制度を再設計することも考えられます。