当社では、従業員が就業規則に反する行動を行ったため、懲戒処分を考えているのですが、具体的にどのような場合が懲戒処分に当たるのでしょうか。
(回答)
1 適切な懲戒処分を行わないリスク
中小企業においても従業員が非違行為、すなわち、企業の規律、秩序に違反する行為を行うことは多々あります。
中小企業は、従業員が非違行為を行った場合に、人間関係の悪化を恐れて、なあなあで済ませていることも多いと思われます。
しかし、このやり方は、他の従業員もこれくらいのことをやっても許されると思ってしまい、職場の規律がなくなってしまうことや、非違行為を行った当該従業員がまた同じか、より重大な非違行為を行った場合に、解雇といった重大な懲戒処分を行いにくくなるという重大なリスクにつながります。
2 懲戒処分の根拠
まず、懲戒処分を行うときは、就業規則の根拠の規定が必要となります。就業規則の懲戒事由の規定については、なるべく懲戒事由を具体的かつ網羅的に記載するとともに、労働者がいくら非違行為を行っても、それが懲戒事由に該当しない限り、懲戒処分を行うことはできないため、就業規則の懲戒事由として「その他前各号に準じる行為をした場合」といった一般条項を定めておくことが重要です。
懲戒処分については、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権を濫用したものとして、当該懲戒を無効とする旨が労働契約法第15条に規定されています。
また、解雇についても同様の規定があります(同法第16条)。
3 懲戒処分の合理性
これは、従業員の非違行為が就業規則に規定された懲戒事由に該当することです。このとき、単に形式的に懲戒事由に該当するだけでは足りず、実質的に企業の規律、秩序に違反することが要求されます。
4 懲戒処分の合理性・相当性
実務上よく問題となるのが、懲戒処分の合理性・相当性です。
これは、当該非違行為等との関係で懲戒処分が重要でないことと、本人に弁明の機会を与えるなど適正な手続を採っていることが要求されます。
中小企業の経営者の中には、「従業員がこんな問題行動をしたのだから、クビは当たり前だ」と考える方もいらっしゃいますが、懲戒処分の合理性・相当性については、裁判例においては厳しく判断されています。
懲戒解雇においては、使用者側と労働者側の利害が著しく対立し、労働者側から解雇無効確認の訴訟や、労働契約上の地位保全の仮処分申立てなどを提起されるほか、行き場のなくなった労働者が労働組合に駆け込むといったリスクも考えられます。
5 懲戒解雇が認められる場合と裁判所の姿勢
従業員の一回限りの非違行為で懲戒解雇が認められるのは、相当重大な非違行為(会社財産の着服など)に限られ、その程度に至らない行為については、始末書の提出、減給処分、出勤停止処分などの段階を踏んだ上で、ようやく懲戒解雇を検討できることになります。
あくまでも私見ですが、裁判所の懲戒解雇の相当性の認定は使用者側に厳しい感じがします。従業員がある程度の非違行為を行っても、使用者側が指導教育を怠ったことが非であるかのような論理の判決もあります。
中小企業に限らず、企業は労働関係で訴訟等を提起されることは、判決の予測不可能性のリスクから、それ自体が失敗であることを認識すべきです。
6 回答
どのような事由が懲戒事由に当たるかということですが、実務上よく問題になるものとして、例えば、横領等の犯罪行為、重大な経歴詐称、業務命令違反、職場規律違反等多岐にわたります。