7年前の非違行為を理由とする懲戒処分

(質問)
 当社は、従業員Yの7年前の横領を理由として、Yに対して懲戒処分をすることはできますか。
 また、もし、今回懲戒処分をした後に、Yが懲戒処分の不当性を訴えてきたような場合、処分後に判明したYの非違行為を懲戒理由に追加することは可能でしょうか。

(回答)

1 懲戒処分の時的限界
中小企業においては、横領などといった重大な非違行為があったにもかかわらず、そのときは、お目こぼしをして不問に付すといったことがあり得ます。
しかし、その後、当該従業員に反省の態度が見られないとか、業務命令に従わないといった理由で、過去の事実に基づき懲戒処分を行いたいと考えることはあり得る話です。
ご質問のケースでは、まず、懲戒処分の時的限界が問題となります。
 使用者が労働者の懲戒事由を明白に認識していたにもかかわらず、長期間放置していたような場合には、後日になされる懲戒処分は客観的な合理的理由・社会通念上の相当性を欠くと判断されるリスクがあります。

2 チャンスを逃すと駄目
このことに限らず、いったんは不問に付したことを後で蒸し返して問題にするのは、経営法務の観点からは、過去の出来事を他目的に利用するという理由で認められないリスクがあります。
 経営法務も経営の一環である以上は、経営と同様、一瞬のチャンスを逃すと駄目という点で共通だと考えます。

3 処分理由の追加
次に、処分理由の追加については、業務命令拒否と無断欠勤を理由に懲戒解雇した労働者との間で争われた解雇無効確認訴訟で、処分後に判明した経歴詐称の追加は許されないとされたものがあります(東京高等裁判所平成13年9月12日判決)。
したがって、会社とすれば、処分後の処分理由の追加ができないことを前提に、非違行為を十分に調査、検討した上で、非違行為をまとめて懲戒処分を検討することが必要となります。

4 回答
 貴社は、Yの7年前の非違行為について、その当時に処分内容を決定することが可能で、また、現時点で企業秩序維持の観点から7年前の非違行為につき、懲戒処分を行う必要性がないという状況であれば、7年前の非違行為を理由に懲戒処分を行うことは客観的な合理的理由、社会通念上の相当性を欠くとされるリスクが高いことになります。
また、懲戒処分が仮に訴訟等で争われた場合に、懲戒処分後に判明した非違事由を追加して主張することもできないと考えられます。