令和4年12月、トラックやバス、タクシー含む。以下同じ。)の労働時間の改正が行われ、令和6年4月1日から同改正が施行されていると聞きました。
その内容を教えてください。
(回答)
1 改正の経緯
トラックやバス、タクシー(以下「トラック等」といいます。)の運転者の長時間・過重労働を防ぐことは、運転者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要です。
そのため、トラック等の運転者の労働条件の向上を図るため、労働時間等について、「改善基準告示」(「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年2月9日労告7号)」)が公示され、通常の労働者の定めと異なる拘束時間の上限、休息期間、運転時間等について基準が定められていました。
改善基準告示の改正は、平成9年以降は行われていませんでしたが、令和4年度の脳・心臓疾患による労災請求件数、労災支給決定件数において、道路貨物運送業が全業種において最も多い業種となるなど、トラック等の運転者の長時間・過重労働は近時の大きな社会問題になっていました。
そのため、一連の働き方改革関連法の制定により、トラックの運転手の1年間の時間外労働の上限が960時間に規制されるとともに、同告示の見直しの検討が進められ、令和4年12月に改正、令和6年4月から改正同告示が適用となりました。
2 各運転者の改善基準告示の内容
以下において、拘束時間とは、労働時間に休憩時間を合わせた全体の時間をいいます。トラック等の運転者の場合、運転時間以外にも休憩をしたり、荷物の出荷を待ったり、洗車をしたりと、自由にできない時間があるため、特別に定められています。
連続運転時間とは、10分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間をいいます。
なお、タクシー運転手の労働時間においては、運転時間および連続運転時間の規制はありません。
⑴ トラック運転者の改善基準告示
現 行 法(令和6年4月1日以降) | ||
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1年の拘束時間 | 原則:3300時間以内 ※最大:3400時間以内 | ※(要労使協定) ①284時間を超える月が3か月超連続しないこと ②1か月の時間外・休日労働が100時間未満となるよう努めること |
1か月の拘束時間 | 原則:284時間以内 ※最大:310時間以内(年6か月まで) |
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1日の拘束時間 | 13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回までが目安) ※宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、16時間まで延長可(週2回まで) |
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1日の休息時間 | 継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない ※宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、継続8時間以上(週2回まで) 休息期間のいずれかが9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息期間を与える |
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運転時間 | 2日平均1日:9時間以内 | 2週平均1週:44時間以内 |
連続運転時間 | 4時間以内 運転の中断時には原則として休憩を与える(1回概ね連続10分以上、合計30分以上) 10分未満の運転の中断は、3回以上連続しない ※SA:PA等に駐停車できないことにより、やむを得ず4時間を超える場合、4時間30分まで延長可能 |
⑵ バス運転者の改善基準告示
現 行 法(令和6年4月1日以降) | ||
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1か月(1年)、4週平均1週(52週)の拘束時間 | ①②のいずれかを選択 | |
①1か月(1年)の基準 原則1年:3300時間以内 ※最大1年:3400時間以内 原則1か月:281時間以内 ※最大1か月294時間以内(年6か月まで) | ※(要労使協定) 貸切バス等乗務者の場合 281時間超は連続4か月まで |
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②4週平均1週(52週)の基準 原則52週:3300時間以内 ※最大52週:3400時間以内 原則4週平均1週:65時間以内 ※最大4週平均1週:68時間以内(52週のうち24週まで) | ※(要労使協定) 貸切バス等乗務者の場合 65時間超は連続16週まで |
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1日の拘束時間 | 13時間以内(上限15時間、14時間超は週3回までが目安) | |
1日の休息時間 | 継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない | |
運転時間 | 2日平均1日:9時間以内 | 4週平均1週:40時間以内 |
※貸切バス等事業者の場合、労使協定により、4週平均1週44時間まで延長可(52週のうち16週まで) | ||
連続運転時間 | 4時間以内(運転の中断は1回連続10分以上、合計30分以上) 高速バス・貸切バスの高速道路の実車運行区間の連続運転時間は、概ね時間までとするよう努める |
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※緊急通行車両の通行等に伴う軽微な移動の時間を、30分まで連続運転時間から除くことができる |
⑶ タクシー運転者の改善基準告示
現 行 法(令和6年4月1日以降) | ||
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日勤 | 1か月の拘束時間 | 288時間以内 |
1日の拘束時間 | 13時間以内(上限15時間、14時間超は週3回までが目安) | |
1日の休息時間 | 継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない | |
隔勤 | 1か月の拘束時間 | 262時間以内 ※地域的その他特別な事情がある場合、労使 定により270時間まで延長可(年6か月まで) |
1日の拘束時間 | 22時間以内、かつ、2回の隔日勤務を平均し、1回あたり21時間以内 | |
1日の休息時間 | 継続24時間以上与えるよう努めることを基本とし、22時間を下回らない |
3 改善基準告示に違反した場合
改善基準告示は、法律ではなく厚生労働大臣告示であるため、罰則の規定はありません。
しかし、労働基準監督署の監督指導において改善基準告示違反が認められた場合、その是正について行政指導が行われる可能性があります。
なお、時間外労働の上限規制に違反した場合は当然罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が科されますし、行政指導において、道路運送法や貨物自動車運送事業法の運行に関する規定等に重大な違反の疑いがあるときは、その事案を地方運輸機関へ通報される可能性があります。
4 まとめ
上に述べたとおり、トラック等の運転者の労働条件の改善を図ることは、運転者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点、道路貨物運送業または旅客自動車運送業の継続性の観点からも非常に重要です。
そのため、改善基準告示は、企業側の重大事故のリスクを可能な限り小さくするのに加え、運転手の確保に必要な労働条件の改善に向けた目標としても、改善基準告示は確実に遵守することが必要といえます。