当社の従業員が建設現場で作業中,高所から転落してしまうという労災事故が起きました。現在当該従業員は入院中ですが,重大な後遺症が残る見込みで,将来の職場復帰は困難だと思われます。
当社としては,職場復帰の見込みのない従業員を雇い続ける余裕はないため,当該従業員を解雇したいと考えています。
法的に問題はないでしょうか。
(回答)
1 原則として,解雇できない
労働基準法(以下「労基法」といいます。)19条は,業務上の負傷・疾病で療養のために休業する期間とその後30日間の解雇を禁止しています。
そのため,ご相談の事案においても,「労災」を理由とする療養のために休業している期間とその後30日間は,原則として当該従業員を解雇できません。
2 例外として,解雇ができる2つの場合
もっとも,労基法19条は,解雇禁止の例外として2つの場合を規定しています。
1つ目は,使用者が労基法81条に基づき,当該労災につき当該従業員対して打切補償を支払う場合です。打切補償とは,労災補償を受ける労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合に,使用者が労働者に対して平均賃金1200日分の補償を行うことにより,労基法による保証義務を免れるというものです。
もっとも,通常,使用者は労災保険に加入しているところ,労災保険には傷病補償年金というものがあります。傷病補償年金は,労災を受けた労働者が療養開始後1年6か月を経過しても,負傷や疾病が治らず,負傷や疾病による障害の程度が労災保険法の傷病等級に該当する場合に,その障害の程度に応じて支給されるものです。そして,労働者が療養開始後3年経過時点で,傷害補償年金を受けている場合や,それ以降に受けることになった場合,使用者は打切補償を行ったものとみなされますので,この場合従業員を解雇することができます。
2つ目は,天災地変その他のやむを得ない事由のために事業継続が不可能になった場合です。たとえば,震災によって工場,事業場が倒壊したことにより事業継続が不可能になった場合などが考えられます。この場合,労働基準監督署の認定を受ける必要があります。
3 療養の必要がなくなった場合にも解雇ができる
労基法19条は,あくまで「療養」のための休業期間とその後30日間の解雇を禁止するものですので,治癒や症状固定により療養の必要がなくなった場合には,その後30日経過すれば解雇することができることになります。ちなみに,症状固定とは,治療をしてもこれ以上良くも悪くもならない状態のことをいいます。
ご相談の事案においても,当該従業員に後遺症が残ってしまった場合,症状固定していると考えられますので,その後後遺症のために労働力を提供できなくなったのであれば,解雇することができます。
4 法令・裁判上の厳格な規制をクリアする
労災事故を理由とした解雇に限らず,従業員を解雇するには,法令・判例上の厳格な規制をクリアする必要があります。法律の専門家でなければ,このような規制をクリアしているか判断することは困難ですので,ぜひ弁護士にご相談ください。