当社の従業員であるAとBは、同じ職場で働いていますが、普段から仲が悪く、顔を合わせるたびに口論となっていました。
そうしたところ、先日、勤務時間内に職場で、業務の配分を巡って、AとBが殴り合いをしてしまい、その結果、Bは全治1週間の怪我を負いました。
当社にも法的責任が生じるのでしょうか。
(回答)
1 安全配慮義務違反
ご質問のケースの場合、貴社には、安全配慮義務違反と使用者責任の有無が問題となってきます。
安全配慮義務違反とは、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として、当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務をいいます。
会社の安全配慮義務違反の有無が問題となった訴訟で、普段から顔を合わせれば暴力沙汰になっていたとか又はそうなりそうであったという状況が存在したのであれば、会社において喧嘩の発生は予見可能であり、したがって、両者の接触を避けるような人員配置を行うなどの義務があると判断された裁判例があります(神戸地方裁判所姫路支部平成23年3月11日判決)。
この裁判例を前提としますと、ご質問のケースでは、普段からAとBは、顔を合わせるたびに口論となっていたのですから、貴社は、本件の喧嘩の発生を予見できたとして、両者の接触を避けるようにする人員配置を行う義務があり、その義務に違反したと判断される可能性があります。
2 使用者責任
使用者責任とは、被用者の不法行為が会社の事業の執行を契機として生じて、それが事業の執行と密接な関連を有する場合に生ずる責任です。
ご質問のケースでは、業務の配分を巡って殴り合いが発生しているので、使用者責任を問われる可能性があります。
3 職場環境の重要性
今後、同じ事件が起きないようにするには、普段から職場の状況を管理することです。従業員の労務管理体制に不備はないか、部や課ごとの相互のコミュニケーションがとれているかなどを普段からチェックすることが大切です。
また、軽い喧嘩が起きた場合には、今後のトラブル防止のために、口頭の注意をしたり懲戒処分を示唆するなどして、社内の綱紀粛正を図るべきです。
職場の環境を整えるということは、従業員の士気にも影響するだけではなく、安全配慮義務違反リスクの軽減の上でも重要なことです。
4 回答
本来的には、加害者のAがBに対して損害賠償責任を負うことになりますが、Aに資力がないというリスクがあります。
その場合は、貴社には、安全配慮義務違反、又は使用者責任が認められるので、怪我を負ったBの治療費や慰謝料を支払う必要が生じると考えられます。