当社のある従業員Yは、いつも注意されているにもかかわらず事務作業で何度も同じミスを繰り返したり、業務時間の最中にどこに行っているか分からないことが多々あるなどの問題行動を起こしていました。そのため、上司が、当該従業員に対して、これらのことについて指導したところ、当該従業員はこれはパワハラになりますと言ってきました。
当社に何らかの法的責任が生じるリスクはあるでしょうか。
(回答)
1 パワハラに関する相談は依然として増加している。
ご質問の内容が貴社の言われるとおりであるとすれば、誠に腹立たしい限りで、私もこのような相談を中小企業から受けたことがあります。
都道府県労働局等に設置されている総合労働相談コーナーに寄せられる相談において、パワハラに関する相談件数は、依然として増加しているようです。
都道府県労働局に寄せられたパワハラの相談件数は、平成26年度は62,191件、平成27年度は66,566件、平成28年度は70,917件とのことで、前述のセクハラの相談件数と異なり、増加の一途を辿っています。
2 パワハラに対する企業のスタンス
企業が、職場の秩序を維持するためには、従業員に対して一定の指導等を行うことは必要です。
会社の管理職等がパワハラになることをおそれて指導することを委縮してしまう状態は、健全な職場とはいえませんし、職場の秩序を維持することができません。
しかし、指導がついつい行き過ぎて、パワハラになってしまうリスクがあることに注意する必要があります。
3 パワハラにおける加害者・使用者の責任
労働者には職場秩序遵守義務があり、使用者には職場環境配慮義務があります。
したがって、使用者も労働者もお互いがバランスを取って、快適な職場の中で仕事をしていく必要があり、使用者は業務の改善に向けた一定の指導を行うことは当然ですが、その指導が度を超えてしまうとパワハラ(不法行為)になるリスクがあることに注意する必要があります。
パワハラを行った者は、不法行為に基づく損害賠償責任のほか、名誉毀損罪(刑法第230条第1項、法定刑は3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金)、傷害罪(刑法第204条、法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)等の犯罪に該当する可能性があります。
また、会社は使用者責任又は安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うリスクがあります。
4 回答
ご質問のケースでは、貴社は、Yに対して、いつも注意しているにもかかわらず、事務作業で何度も同じミスを繰り返すとか、業務時間の最中にどこに行っているか分からないことが多々あるなどの事情があるようです。
そこで、貴社とすれば、当該Yに対して指導する必要がありますが、 一般的な指導の程度であれば、およそパワハラには該当しないと考えられます。