当社には何人か営業所長がいますが、その内の営業所長Yは、「自分は営業所長だが、自分に残業代が支払われていないのは納得できない。過去の分も含めて適正な残業代や深夜労働手当を支払ってもらいたい」と訴えてきました。
この請求は正当ですか。
(回答)
1 管理監督者とは
労働基準法では、原則として1日8時間、週40時間以上は労働させてはならないことが規定されています(同法第32条)。そして、これを超える部分については、使用者は残業代を支払う必要があります。
この例外が「管理監督者」に該当する場合です(同法第41条第2号)。管理監督者については、「名ばかり管理監督者」と言われるように、企業にとって有利な制度をついつい濫用してしまうリスクがあることを認識すべきです。
特に、中小企業においては、営業を広範囲に展開するため、営業拠点を設け、営業所長といった肩書を付けることがよく行われ、その営業所長に使命感と責任を持たせるため、一定額の営業所長手当だけ支払うという運用がなされることがあります。
ご質問のケースでは、営業所長Yが管理監督者に該当するかが問題となります。
2 管理監督者の判断基準
この「管理監督者」に該当するか否かの判断基準は、①事業主の経営に関する決定に参画し労務管理に関する指揮監督権限を認められているか、②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有しているか、③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)の処遇を与えられているかという点です。
裁判例では銀行の支店長代理について、通常の就業時間に拘束され出退勤の自由がなく、銀行の機密事項に関することもなく、経営者と一体となって銀行経営を左右する仕事に携わってもいないとして、管理監督者に該当しないと判断されたものがあります。
この裁判例を例にとってもお分かりのように、実務において「管理監督者」の判断基準は非常に厳しいものになっています。なお、出退勤の自由の点については特に重視されるポイントですので御留意ください。
3 年次有給休暇と深夜労働手当は
管理監督者に該当することにより適用除外になるのは、労働時間、休憩、休日の規定だけであり、年次有給休暇(同法第39条)、深夜業(同法第37条第4項)などは適用除外になりません。
したがって、会社は、Yが管理監督者に該当したとしても、深夜労働手当を支払わなければなりません。
4 回答
貴社の場合、Yが経営に関する決定に参画して、出退勤が自由であり、営業所長手当がある程度高額であるなどといった条件が満たされていない限り、名ばかり営業所長ということになってしまい、Yの請求が認められるリスクは高いといえます。
貴社が訴訟で敗訴するリスクと、そのことが他の営業所長に飛び火するリスクを避けるため、Yとの間で他には口外しないことを条件に一定額を支払って和解すべきです。
また、今後、貴社は、管理監督者とは認められない営業所長に対しては、時間外手当等を支払うように制度と運用を改めるべきです。