当社は,労働者派遣事業を営んでいます。当社の従業員Aが,派遣先であるB社での業務の過程で,顧客管理プログラムを作成しました。これが,今までにない機能を有していてとても便利なものであるため,当社の製品として販売しようと思います。Aの了解も得ているため問題はないと思いますが,どうでしょうか?
(回答)
1 プログラムにも著作権はあるの?
著作権法第10条第1項第9号では,「プログラムの著作物」が著作権の対象である「著作物」の一つとされていますが,これは,プログラムであれば全てが「著作物」になるのではなく,ある程度の「創作性」のあるプログラムのみが,「著作物」になることを意味しています。
「創作性」とは,簡単に言うと,誰が作成しても同じ様なものになるような,ありふれたものではないことです。
御相談の顧客管理プログラムは,今までにない機能を有しているとのことなので,「創作性」を有していると考えられます。そのため,「著作物」として著作権の対象になると言えそうです。
2 相談者とAとB社の関係はどうなっているの?
労働者派遣では,派遣元と派遣先,そして派遣される労働者が登場します。雇用関係は,派遣元と労働者の間にあります。そして,派遣先での労働者は,派遣先の指揮命令のもとで職務に従事しますが,派遣先と雇用関係はないのです。
そのため,御相談の事案でも,Aは御社とのみ雇用関係があり,AとB社の間には雇用関係がありません。
3 職務著作
このプログラムはAが作成したものですし,Aの雇い主は御社である以上,このプログラムの著作権は,一見すると御社かAに帰属していそうですが,実はそうではないのです。
著作権法上,法人の指揮監督のもとで,業務に従事している人が職務上作成したプログラムの著作権は,法人に帰属することになっています(著作権法第15条第2項)。
そして,指揮監督のもとで業務に従事していることと雇用関係にあることとは別のものなのです。つまり,Aは,御社と雇用関係を有してはいますが,派遣先であるB社の指揮監督のもとで本件の顧客管理プログラムを作成している以上,この顧客管理プログラムの著作権はB社に帰属することになる可能性が高いのです。
4 このまま販売するとどうなるか
このまま御社が販売すると,B社から損害賠償請求や販売の差止請求を受けることが考えられます。
販売年数や,販売による利益率にもよりますが,1億円以上の損害賠償が認められたものもあります(東京地裁平成26年3月14日判決)。
また,刑事罰として,著作権侵害行為者は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金,又はこの両方が科され,行為者の所属する法人にも3億円以下の罰金が科される可能性があります。
このようなことになると,金銭面,社会的信用の両者について著しくダメージを受けることになってしまいます。
5 著作権が誰に帰属するかにも注意を
このようなことにならないように,あらかじめ著作権など知的財産権の帰属について,契約書で明記しておくことが重要になります。
著作権など知的財産権に関する問題は,どのようなものに知的財産権が生じるかだけではなく,誰に帰属するかも非常に重要になってきます。
しかし,誰に帰属するかは,雇用関係に必ずしも伴うものではなく,簡単に判断できるものではないため,複雑な問題が生じかねません。
誰に知的財産権が帰属しているかどうかお悩みのようでしたら,専門家に相談することをお勧めします。