当社では、外部業者に委託して、会社紹介ビデオを制作しました。このビデオの出来が大変良かったため、このビデオを編集して会社のウェブサイトにアップしたいと考えています。
当社が対価を支払ったビデオなので問題はないと思うのですが、どうでしょうか。
(回答)
1 映画の著作物における著作権者
ご質問の会社紹介ビデオ映像は、著作権法上は映画の著作物に当たります。
著作権法上、映画の著作者は、映画監督に限らず、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者です。しかし、これらの著作者が全員著作権を持つと結果的に映画の利用に支障を来すという配慮から、その著作者が映画製作者(多くの場合は映画会社)に対して映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、映画の著作権は映画製作者に帰属すると定められています(著作権法第29条第1項)。
ここで、映画製作者とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」といいます(著作権法2条1項10号)。そして、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」とは、映画の著作物を製作する意思を有し、当該著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって、そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者であると解するのが相当であるとしています。
それは、資金の投資者は、自らのリスクの下、多大な資金を投資している例が多く、投下資本の回収させる必要がある、多数の著作者全てに著作権行使を認めると、映画の円滑理由が妨げられるなどの理由があるためです。
しかし、裁判所は、テレビCM原版については、従来の考えとは異なり、CM制作会社ではなく、広告主であるとの判断をしました(第一審:東京地方裁判所平成23年12月14日判決、控訴審:知財高等裁判所平成24年10月25日判決)。
その理由としては、15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること、多額の制作費のみならず、多額の出演料等も支払っていること、広告映像により期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは専ら広告主において負担しており、広告主において著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いといったことが挙げられています。
したがって、会社紹介ビデオが完成した時点では、ビデオの著作権はビデオの制作会社に帰属していると考えられるのが原則ですが、制作の経緯によっては、貴社に帰属していると判断される可能性もあります。
2 制作委託の注意点
もっとも、ビデオの制作委託契約の中で、ビデオの著作権が貴社に譲渡されることが明記されていれば、著作権の帰属については問題ありません。
しかし、制作委託契約に権利関係が明記されていない場合も少なくありません。
貴社が著作権を受けることを明確にするためには、契約書に、「A社が制作会社に対価の全額を支払った時点で、本作品に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)及びその他の知的財産権はA社に譲渡される。」といった規定を設けるべきです。
著作権法第27条(翻案権)及び第28条(二次的著作物に関する原著作者の権利)について特に記載しておくのは、これらの権利については、著作権譲渡の対象であることを明記していなければ、譲渡されずに著作者に留保されていると推測するという規定があるからです(著作権法第61条)。
3 著作権人格権
ご質問のケースでは、ウェブサイトにアップする際にはビデオを編集することも予定されています。この場合、著作権(翻案権)とは別に、著作者人格権という権利も問題になります。
著作者人格権とは、著作物を創作した著作者が一身専属的に取得し、著作物の経済的権利(狭義の著作権)が第三者に譲渡されても、引き続き著作者が持ち続ける権利です。
本件のビデオを編集して利用する場合、同一性保持権(著作権法第20条)が問題となる可能性があります。
同一性保持権とは、不本意な改変を受けない権利のことです。著作物が著作者の思想又は感情の現れ、すなわち著作者の人格の現れであることから、保護されている権利です。もっとも、改変については、著作者の承諾があれば行うことができますし、著作権法上「やむを得ないと認められる改変」であれば承諾がなくても行うことができます。
しかし、映画の場合、純粋に技術的な制約に基づく改変(ビスタサイズの映画フィルムをテレビ放送に合わせてトリミングする行為)は、やむを得ない改変と認められるでしょうが、映像の一部削除、ストーリーの改変は、やむを得ない改変とは認められないと考えます。
そこで、著作者人格権の侵害を主張されないためには、契約書に「制作会社はA社に対して、本作品に関する著作者人格権を行使せず、また本作品の著作者に行使させない。」というような規定を入れておくと良いでしょう。
4 回答
貴社が外部の制作会社にビデオの制作を委託した場合、著作権の権利関係について明確な合意がなければ、貴社がビデオを自由に使えるとは限りません。
また、ビデオを編集する場合は、ビデオの著作権だけではなく著作者人格権も問題になるので、その点も確認する必要があります。