今回の会社法の改正で多重代表訴訟制度が導入されたと聞きました。
これはどのような制度なのか教えてください。
(回答)
1 多重代表訴訟ってどういう制度?
多重代表訴訟は,今回の改正会社法で「特定責任追及の訴え」と定義されています。
この制度は,最終親会社(会社が存在しない会社,つまり,グループの最上位の会社と考えると分かりやすいと思います。)の株主が,子会社の取締役に対して責任を追及できるものとなっています。もっとも,最終親会社の全ての株主が訴訟を提起できるわけではありません。
また,全ての子会社の取締役等が訴えの対象となるわけではありません。
訴えを提起できるのは,最終親会社の株主のうち,100分の1以上の議決権を有する者,または発行済株式の100分の1を保有する者です。
公開会社であれば,株式を6カ月以上保有していることも条件となります。
一方,責任追及の対象となる子会社は,簡潔に言うと,責任の原因となった事実が生じた日における株式の価値が最終親会社の総資産の5分の1以上になるところ限られます。これは,重要な子会社の取締役等が対象となることを意味します。
2 今までとどのように異なるの?
これまでも,株主の資格で取締役等の責任を追及する制度として,株主代表訴訟制度がありました。しかし,この制度のもとでは,原則として親会社の株主が子会社の取締役等の責任を追及することはできませんでした。
そのため,親会社の業績に影響を及ぼすような子会社の取締役等の責任については,親会社自身が訴訟を提起しない限り,訴訟で責任を追及することが難しい状況でした。
今回の改正によって,親会社の一定の株主が,重要な子会社の取締役等の責任を追及することができることになりました。
3 思わぬ訴訟提起のリスクが眠っているかも・・・
訴訟提起することができる株主や対象となる取締役等が限定されているとはいえ,従来では提起できなかった訴訟ができるということは,それだけ訴訟を提起されるリスクが上昇したと考えるべきです。
従来であれば訴訟を提起されることはないだろうと考えていたところ,訴訟を提起されて,巨額の賠償金を支払わなくてはならないこととなっては大変です。
このようなリスクに備えるため,子会社の役員構成や役員賠償責任保険の被保険者の範囲について見直しをするべきです。
また,子会社の取引が,最終親会社等にどのよな影響が生じるかについて慎重に検討していく必要があります。
子会社の取締役等が適正な業務をこなしているかをこれまで以上にチェックするために,指揮命令系統を見直すことも有用だと思われます。
4 改正会社法に対応するために
今回,多重代表訴訟について説明しましたが,今回の改正で変わった点はこれだけではありません。
子会社株式譲渡についての規制,会社分割における債権者保護の強化等,様々な点が変わっています。
コンプライアンスの重要性は,既に周知されて久しいと思います。
しかし,いくらコンプライアンスに気を付けていても,法律の改正を知らなかったばかりに法律に抵触していた,あるいは訴訟を提起されたなんてことになると大変です。
改正された法律が施行されて間もない時期は,どのように対応すればいいのか分かりにくいかと思います。
今回の会社法の改正に対して,どのような体制にする必要はあるのか,また,どのようなリスクが存在し,それに対してどのように対処すればいいのか等について悩まれた場合には,弁護士にご相談ください。