当社はこの度、事業の拡大に向けて、同業のY株式会社を株式譲渡の方法で取得することとしました。
当社は、このようなM&Aを行うに当たって、どのようなことに注意すれば良いでしょうか。
(回答)
1 中小企業もM&A
M&Aとは、mergers and acquisitions(合併と買収)の略です。
M&Aというと主に大企業が行うものという認識は、もはや過去の話です。現在、企業の更なる拡大や、ノウハウなど知的資産の手っ取り早い取得、あるいは、親族に後継者がいない場合に事業を第三者に承継させるための手段として、M&Aは中小企業において、重要な経営戦略として認識されています。
M&Aのスキームとしては、株式譲渡や事業譲渡などがありますが、手続が比較的容易な株式譲渡によるM&Aが多いようです。
もっとも、比較的手続が容易とはいえ、さまざまな問題を考慮しなければならないのは、他のスキームと同様です。
2 株式の100%を譲渡できるか。
まず、貴社がY社の株式を100%保有できないと、少数株主対策で煩雑であるばかりか、将来貴社がY社をM&Aで売却しようとするときに支障になります。
3 株式の売買代金は合理的か。
株式の売買価格が賃借対照表の資産から負債を控除した純資産額であったとすれば、資産の評価が時価を反映しているかどうかが問題になります。
というのは、売掛金や在庫商品が水増しされていたり、機械設備等が適切に減価償却されていないリスクがあるからです。
したがって、貴社は、自らが依頼した公認会計士にY社の財務デューデリジェンスを行ってもらう必要があります。逆に、Y社の方からすれば、賃借対照表に表われない資産(いわゆる知的財産)があれば、その評価の上積みを交渉することになります。
貴社は、不動産等の目に見える資産だけではなく、Y社の人材の価値、従業員の管理体制にも注意する必要があります。
4 簿外債務はないか。
Y社において、従業員に残業代が支払われていなかったり、賃貸借契約の解約の際に原状回復義務があるなど、貸借対照表に表われていない簿外債務のリスクがあることに注意する必要があります。
5 M&Aにおける経営法務リスク
M&A仲介業者によりM&Aが実行された場合には、いわゆる成果主義のため、細かい点が十分に詰められないまま、M&Aが実行されてしまうリスクがあります。
M&Aが締結された場合は、後で話が違うとか、もっと説明してほしかったと言っても、契約上はM&A仲介業者に損害賠償を請求しにくいことに留意する必要があります。