建設業者の注文者の意図の尊重の必要性について

(質問)
 当社が担当していたマンション建設工事について,注文者からマンションの支柱を300㎜×300㎜の鉄骨で設計して欲しいという依頼がありました。しかし,構造計算を行ったところ,250㎜×250㎜でも法律上の安全性が確保できることが分かり,結局この鉄骨で建築工事を終えました。
 しかし,注文者は支柱に瑕疵があるとして,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求を提起してきました。構造計算上安全であるにもかかわらず,当社は責任を負担しなければならないのでしょうか?

(回答)

1 民法第634条の「瑕疵」とは 
 民法第634条は,請負契約の目的物に「瑕疵」がある場合には,注文者が請負人に対して瑕疵の修補や損害賠償を請求することができると定めています。そこで,御相談のケースは注文者の意図には反するものの構造計算上は安全性が認められる支柱について,同条の「瑕疵」に該当するか否かが問題となります。
 同条の「瑕疵」とは,一般に,「完成された仕事が契約で定めた内容どおりでなく使用価値もしくは交換価値を減少させる欠点があること」,または「当事者が予め定めた性質を欠くなどの不完全な点を有すること」とされています。そして,建物の建築工事における瑕疵の判断は,まず契約書に添付されている仕様書によって判断され,それにより判断できない場合は,建物の種類,契約締結時の事情,請負代金,法令上の制限,当事者の意図などから判断されます。
 そして,本件のケースにつきましては,類似の事案における第1審と第2審の裁判所は,構造計算上の安全性を重視し,支柱の太さについてそれが注文者との約定に違反していても安全性に問題はないとし,「瑕疵」の存在を否定しました。

2 注文者の意図や契約の内容を重視した最高裁 
 しかしながら,最高裁は「支柱について特に太い鉄骨を使用することが特に約定され,これが契約の重要な内容になっていたものというべきである。」「建物請負業者が,注文主に無断で,上記約定に反し,支柱工事について約定の鉄骨を使用しなかったという事情の下においては,使用された鉄骨が,構造計算上,居住用建物としての安全性に問題のないものであったとしても,当該支柱の工事には瑕疵がある。」と判示しました(最高裁平成15年10月10日判決)。すなわち,最高裁判決は,構造計算上の安全性よりは,「注文者の意図」や「契約の内容」を重視したものです。

3 建設業者の注文者の意図の尊重の必要性 
 この判決により,構造計算上安全性が認められても,「特に約定され,これが契約の重要な内容になっていた」場合には,瑕疵担保責任を問われる場合があることが明確になりました。
 したがって,この判決以後は,工事において注文者としては一般的な安全性よりも注文者の意図を尊重することが求められると言えます。